結論
JVCケンウッドは、利益の大半を北米の業務用無線で稼ぎ、売上の半分以上を薄利の車載機器が占める、いびつな会社だ。筆者の結論は、事業の稼ぐ力に比べて今の値段は安い、というものである。ただし安さには理由があり、確信は強くない。
稼ぎの源は無線だ。警察や消防が使うデジタル無線で、売上は約800億円。グループ売上の2割ほどだが、事業利益の7割超を生むとされる。北米の公共安全でのシェアは6%台と小さく、首位のモトローラ・ソリューションズとは規模が違う。それでも一式で納める市場なので参入しにくく、シェアが1ポイント動くたびに利益が動く。2026年7月には、携帯回線で無線を使うアプリ会社SLA(ESChat)を買収し、新しい領域に足を踏み入れた。
足を引っ張るのは車載機器だ。国内のカーナビでは首位だが、事業利益率は3%に届かない。完成車メーカー向けは毎年の値引きが前提で、市販品はスマホ連携に押される。この部分が10年かけて痩せるか、持ちこたえるかで、全体の利益の形が変わる。
10年先の中立は、売上4,700億円台、営業利益330億円。経営陣が掲げる2030年度の目標(事業利益率9%)には、10年たっても届かない読みだ。それでも式で測った倍率を掛けると、時価総額は今の2倍を超える。悲観の筋書き(米国の予算と関税で無線が崩れ、車載も縮む)に4割以上の確率を置いて重みをつけても、本質価値は今の時価総額を3割ほど上回る。
出だしは悪い。2026年4〜6月期は事業利益が34%減り、無線は米政府機関の閉鎖で止まった。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社に問うことは3つだ。事業は10年後も続くか。株主のものになる利益を、安く買えているか。経営は資本を殖やす方向に使うか。
答えは、無線は続く。車載は怪しい。無線は北米の公共安全を中心に、10年は需要が続く構造にある。堀は深くないが、切り替えの難しさが利益を守る。車載とESは利益が薄く、関税と景気に左右される。株主のものになる利益の大半は無線が生む。
値段には、安全域がある。事業を式で測ると妥当な倍率は12倍前後で、今の値段はそれを大きく下回る。安さの理由は明白だ。無線が売上の2割しかなく、その利益が米国の政治日程で揺れる。筆者はその不安を確率で織り込み、悲観に15%、やや悲観に27%を置いた。
それでも本質価値が今を上回るのは、中立の筋書きでも利益が年4%ほど伸びるうえ、10年の還元で元手の一部が戻るからだ。伸びは物価の3%を引くと小さい。それで足りるほど、今の値段は低い。
経営が資本を殖やす方向に使うかは、まだ見極め中だ。SLA社への投資は理にかなうが、次の買収が高くつけば安全域は削られる。
何で稼ぐ会社か
事業は3つの分野に分かれる。
モビリティ&テレマティクス(M&T)は売上の55%を占める。市販のカーナビ・ディスプレイオーディオ・ドライブレコーダー(アフターマーケット)と、完成車メーカーに納める車載機器(OEM)の二本立てだ。国内のカーナビ販売では首位で、パイオニアと2社で65%超を握る。しかし利益率は3%に届かず、2026年3月期の事業利益は54億円にとどまる。
セーフティ&セキュリティ(S&S)は売上の27%で、事業利益の約6割を稼ぐ。中心は業務用の無線システムだ。警察・消防・公共事業者向けのデジタル無線機とシステムで、2014年に子会社にした米国のEFジョンソン社などを通じて北米で売る。無線の売上の約8割は北米だ。S&Sの事業利益率は2025年3月期に18%台、2026年3月期は部品不足で13%台に下がった。他の事業より一段高い。
エンタテインメントソリューションズ(ES)は売上の16%。ビクターエンタテインメントの音楽・映像コンテンツと、ヘッドホン・ホームオーディオ・プロジェクターなどのメディア事業だ。コンテンツは安定し、機器は米国の関税で痛んだ。
数字の形は、売上3,569億円・事業利益209億円・営業利益205億円(国際会計基準、2026年3月期)。利益の中身は、無線が半分以上を占め、車載と音楽が残りを分け合う構図になっている。顧客は自治体・警察・消防(無線)、完成車メーカーと一般消費者(車載)、音楽ファン(ES)と散らばるが、利益をつくる顧客は北米の公共機関に偏る。
優良さと弱いところ
堀があるのは無線だけだ。
公共安全の無線は、端末だけでなく基地局やシステムまで一式で納める。自治体は一度入れた規格と保守網を簡単には替えない。この切り替えの難しさが堀で、供給できる会社は数社に絞られると会社も説明する。ただし、堀の内側でのJVCケンウッドは小さな挑戦者だ。北米公共安全のシェアは6.4%で、首位のモトローラは桁が違う。
車載は堀が薄い。国内カーナビは首位でも、完成車メーカー向けは毎年の値下げ要求を飲む立場にある。スマホ連携の標準化は、市販ナビの市場そのものを細らせる。パナソニックが市販ナビから退く(2027年3月までに生産終了)のは、その先行きを映している。
資本効率は、ここ4年は良い。ROEは2023年3月期から11〜16%で推移し、自己資本比率は41%、純有利子負債はほぼゼロだ。ただ過去10年の中央値は6.8%と低く、20年で赤字の期が5回ある。今の高さが定着するかは、検証の途上にある。
経営は、赤字事業を整理する姿勢を見せている。2026年3月期にヘルスケア事業から撤退し、ドイツ子会社を売り、フランスの販売会社も閉じる。一方で、中計の高い目標を達成した実績はまだなく、数字は割り引いて読むべきだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
二つの市場は、まるで別物である。
業務用無線は、会社の説明では2024年に世界のナローバンド(音声の無線)が約106億ドルある。ここに携帯回線と融合した「ハイブリッド」が約17億ドル加わり、2030年にはハイブリッドを含めて約177億ドルへ広がると会社は見る。ただ調査会社の数字は市場の定義で大きく割れ、世界の業務用無線を194億〜410億ドルとするものまである。筆者は会社の数字を土台にしつつ、実質の伸びは年2〜3%と控えめに置く。
競合は、首位のモトローラ・ソリューションズ、L3ハリス、中国のハイテラ、欧州のエアバスなど。上位5社で4割強を握る(Mordor Intelligence)。公共安全は政府の予算で動き、景気より政治の日程で利益が揺れる。2026年に入っても米政府機関の閉鎖で公共安全向けの出荷が落ち込み、4〜6月期のS&Sの事業利益は92%減った。
車載機器は成熟している。国内の市販カーナビは、首位のケンウッドとパイオニアでほぼ決まる市場で、パナソニックの撤退によってシェアが分け直される。ただ市場全体は、スマートフォンのアプリと車載標準のディスプレイに食われて細る。完成車向けは、インド・米州・商用車(ダイムラートラック北米向けのディスプレイオーディオ)で新しい口を取りにいく。
ESは、音楽・映像コンテンツとオーディオ機器の二つ。コンテンツは安定する。機器は米国の関税(2026年3月期の影響は全社で事業利益に約37億円)と中国勢との値下げ競争が重しだ。
資本政策と M&A
還元は厚くなる方向だ。新しい中計で、総還元性向(配当と自社株買いの合計÷純利益)の目安を30〜45%に引き上げた。2026年8月には30億円の自社株買いを決め、10月に枠いっぱいで終えた。配当は2027年3月期も増やす計画で、増配は続いている。
ただし厚くする余地は限られる。会社は2026〜2030年度の5年で2,000億円超のキャッシュインを見込み、同額を投資に回す。うち約900億円が戦略投資で、おおよそ半分がM&A(無線が中心)に向かうと読める。
買う側としての実績は、一定の成果を上げている。2014年のEFジョンソン社の取得が今の北米無線の土台になり、2018年にはイタリアのRadio Activityを取り込み、Tait International社と資本業務提携した。2026年7月に完全子会社にしたSLA社(ESChat)が次の柱になる。価額は非公表で、割高だったかは外から判断できない。
株主は、日本マスタートラスト信託銀行などの信託口が上位に並ぶ。親会社も支配株主もいない。10年以内にTOB(株式公開買い付け)を受ける確率は、kabufuの推計で24%ある。ただ筆者はこの確率を価値に混ぜず、本業の稼ぐ力だけで測った。
点検済み(見落とし点検 2026-10-19):起点の純利益 168 億円(2026/03 実績、会社予想は 150 億円)に特別益は見当たらない。関税・為替ヘッジ損は予想側に入っている。数量は実質の市場×シェアで二重がけなし。株数は自社株買い反映後。無線の北米公共安全への集中は、慎重側の確率 42% に反映した。
点検済み:中立の営業利益率が過去12年の山(6.4%)と中期計画の達成実績(なし)を超えていたため、各事業の利益率を今の水準に置き直した。全社7.0%に残る山超えは、利益率の高いS&Sの売上比重が上がる分だけ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
無線の利益は、まだ伸びる。会社の説明では、北米公共安全のシェアは2023年度の4.4%から2024年度の6.4%へ上がった。2030年度には10%(売上約4億ドル)をねらい、無線全体の売上を800億円から1,200億円へ増やす計画だ。2026年3月期の無線は部品不足で約24億円の利益を取りこぼしたが、これは供給の問題で、需要が消えたわけではない。
さらにSLA社の買収で、携帯回線を使う無線(ハイブリッド)に入った。この領域は約17億ドルと小さいが、5年で全体を約1.6倍に押し上げる起点になる。M&Aの資金は900億円の戦略投資枠にある。
車載も底を打った。国内カーナビは首位で、パナソニックの撤退で市販品のシェアが分け直される。メモリ価格の上昇は価格改定で吸収できる。ESは関税の痛手が薄れ、4〜6月期の事業利益は3倍に戻った。
そして財務は強い。自己資本比率は41%、純有利子負債はほぼゼロ。予想利益で見たPERは9倍前後と、ROE約12%の会社には低すぎる。事業利益率9%・売上4,100億円の中計目標は、無線と車載の価格改定が進めば届く射程にある。
慎重な見方
利益の柱が1本しかない。事業利益の約6割をS&Sが稼ぎ、その大半が北米の公共安全という特定の市場だ。モトローラ・ソリューションズは基地局から端末まで一式を持ち、価格も納入の網も向こうが決める。シェア10%の目標は、大手の客を奪う話で、確証はない。2026年4〜6月期は、米政府機関の閉鎖と部品高で、S&Sの事業利益が92%減った。無線の利益が、予算の遅れ一つで消える。
車載は、何年も同じ構図だ。M&Tの利益率は3%に届かず、完成車メーカーの値引き要求と中国勢の低価格に挟まれる。メモリ価格の上昇も載せきれていない。2026年4〜6月期は、14億円のコスト増のうち価格に反映できたのは10億円だった。国内市販ナビは、スマホ連携の標準化で縮む。
ESも関税で傷んだ。円安も追い風にならず、為替ヘッジで2027年3月期の事業利益は約18億円悪化する。
配当や自社株買いは増えているが、中計の資金の半分は買収に向かう。SLA社の価額は非公表で、割高かどうかは確かめられない。過去10年のROEの中央値は6.8%、20年で赤字の期は5回ある。いま11〜16%の収益力が10年続くと見るのは、楽観に過ぎる。
どちらに重みを置いたか
強気の見方には無線の伸びという具体的な根拠があり、慎重な見方は利益の偏りと米国の政治への依存という構造の弱さを突いている。後者がやや強いと判断し、確率は中立に33%を置いたうえで、楽観側の合計25%に対し慎重側を42%まで寄せた。それでも本質価値が今を上回るのは、今の値段が事業の稼ぐ力を大きく割り引いているからだ。慎重な見方が当たっても、悲観で資本の一部は還元で戻る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,374 円3,326 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 593 円831 億円)。 今の値に割り戻すと 1,534 円2,149 億円、今との差 +61.4%、 期待の年率 +12.1%(資本コスト 7.8%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,668 円7,942 億円 | 947 円1,327 億円 | +596.3% | +21.4% | 529 円741 億円 |
| やや楽観 | 17% | 4,201 円5,886 億円 | 742 円1,040 億円 | +420.3% | +17.9% | 840 円1,177 億円 |
| 中立 | 33% | 2,631 円3,687 億円 | 579 円812 億円 | +237.9% | +12.9% | 1,059 円1,484 億円 |
| やや悲観 | 27% | 1,049 円1,470 億円 | 488 円684 億円 | +61.8% | +4.9% | 415 円581 億円 |
| 悲観 | 15% | 365 円512 億円 | 455 円638 億円 | −13.6% | −1.5% | 123 円173 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,374 円3,326 億円 | 593 円831 億円 | +212.3% | +12.1% | 2,967 円4,157 億円 |
今の株価時価総額 950 円1,331 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 無線が北米で10%に届き、車載も戻る 利益 464 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 5,668 円7,942 億円
北米の公共安全で、無線のシェアが10%に届く。SLA社の広帯域PTTは警察・消防の標準的な道具になり、携帯回線と無線を一つの端末で使う更新需要を取り込む。部品不足は解消し、ハイブリッド領域が市場を押し上げる。S&Sの売上は10年で2.7倍になり、利益率は17%まで上がる。車載は、完成車向けでインド・米州・商用車の受注が積み上がり、市販品は国内首位の地位で粗利を守る。利益率は6%まで戻る。ESはライブ・配信のコンテンツが育ち、機器の赤字は消える。全体の事業利益率は中計の9%を超え、買収も資本の使い方として当たる。
- セーフティ&セキュリティ(S&S):数量 27,300(世界の業務用無線(ナローバンド+ハイブリッド)市場(今の値段で測った実質・億円換算))× 価格 9.4%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 2,561 億円・営業利益 435 億円。無線とハイブリッドが拡大(市場 1.4 倍 × シェア 7.0%)
- モビリティ&テレマティクスサービス(M&T):数量 10,500(対象とする車載情報機器の市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 25.4%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 × 実質の値下がり)→ 売上 2,671 億円・営業利益 160 億円。OEM の新規受注が積み上がる(市場 1.05 倍、価格 1.30 倍)
- エンタテインメントソリューションズ(ES):数量 8,800(音楽・映像コンテンツと民生オーディオ機器の対象市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 9.5%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 × 実質の値下がり)→ 売上 837 億円・営業利益 59 億円。コンテンツが育つ(市場 1.10 倍、価格 1.34 倍)
倍率:事業の純利益 464 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.0 倍。全体の PER 17.05 倍、時価総額 7,911 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:無線のシェア10%・事業利益率9%超の目標がほぼ実現する筋書き。経営陣の目標は2030年度で、10年の長さでは達成しても先に崩れる余地があるため、8%に絞った。
やや楽観 17% 無線は計画の7割ほどで伸びる 利益 352 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 4,201 円5,886 億円
無線は計画の7割ほどの進捗で伸びる。北米公共安全のシェアは8%前後まで上がり、ハイブリッドも一定の売上になる。ただ部品、関税、米国の予算の遅れが毎年のように利益を揺らし、10%には届かない。車載は完成車向けが横ばいを保ち、市販品の価格改定が粗利を支える。ESは関税の痛手が消え、コンテンツが安定する。全体では、中計の9%に近い利益率を10年のどこかで実現するが、その先の伸びは物価並みに落ち着く。SLA社の買収は期待どおりに小さな売上の柱となり、次の買収も無線の周辺に限る。会社の資本の使い方は、可もなく不可もない水準にとどまる。
- セーフティ&セキュリティ(S&S):数量 25,935(世界の業務用無線(ナローバンド+ハイブリッド)市場(今の値段で測った実質・億円換算))× 価格 8.2%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 2,120 億円・営業利益 339 億円。計画の 7 割の進捗(市場 1.33 倍 × シェア 6.1%)
- モビリティ&テレマティクスサービス(M&T):数量 10,000(対象とする車載情報機器の市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 24.5%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 × 実質の値下がり)→ 売上 2,446 億円・営業利益 117 億円。横ばいで耐える(市場 1.0 倍、価格 1.25 倍)
- エンタテインメントソリューションズ(ES):数量 8,400(音楽・映像コンテンツと民生オーディオ機器の対象市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 9.2%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 × 実質の値下がり)→ 売上 775 億円・営業利益 43 億円。関税の痛手が消える(市場 1.05 倍、価格 1.30 倍)
倍率:事業の純利益 352 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.3 倍。全体の PER 16.3 倍、時価総額 5,738 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:無線が計画の7割ほど進み、車載が横ばいで耐える、蓋然性のある好転。
中立 33% 無線は伸びるが、首位の壁は破れない 利益 238 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 2,631 円3,687 億円
無線は伸びるが、モトローラの壁は破れない。北米公共安全のシェアは6%台から8%ほどへ上がり、ハイブリッドで一部の売上を足す。S&Sの売上は10年で2倍近くになるが、競争と関税で利益率は今の13%台のまま上がらない。車載は市販品が緩やかに細り、完成車向けの値引きで価格は物価ほど上がらない。利益率は3.0%で、固定費の削減を値下げが食う。ESは横ばい。全体の売上は年3%ほどの増加にとどまり、物価の伸びと変わらない。事業利益率は5.7%から7.0%へ改善するが(利益率の高いS&Sの比重が上がる分で、各事業の利益率は今とほぼ同じ)、中計の目標(9%)には届かない。構造改革費は次第に減り、純利益は営業利益のおよそ7割で落ち着く。還元は純利益の4割ほどを続け、自己資本はゆっくり積み上がる。
- セーフティ&セキュリティ(S&S):数量 24,960(世界の業務用無線(ナローバンド+ハイブリッド)市場(今の値段で測った実質・億円換算))× 価格 7.2%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 1,806 億円・営業利益 244 億円。無線は伸びるが首位の壁は破れない(市場 1.28 倍 × シェア 5.4%)
- モビリティ&テレマティクスサービス(M&T):数量 9,500(対象とする車載情報機器の市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 23.5%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 × 実質の値下がり)→ 売上 2,231 億円・営業利益 67 億円。市販品が緩やかに細る(市場 0.95 倍、価格 1.20 倍)
- エンタテインメントソリューションズ(ES):数量 8,000(音楽・映像コンテンツと民生オーディオ機器の対象市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 8.9%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 × 実質の値下がり)→ 売上 710 億円・営業利益 30 億円。横ばい(市場 1.0 倍、価格 1.25 倍)
倍率:事業の純利益 238 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.7 倍。全体の PER 14.71 倍、時価総額 3,498 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:無線は伸びるが首位モトローラの壁があり、車載は薄利のまま。もっとも起こりやすい筋書き。
やや悲観 27% 米国の予算と関税で無線の伸びが止まる 利益 136 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 1,049 円1,470 億円
無線の伸びが止まる。米国の公共安全の予算は遅れが続き、部品不足と関税が重なって、シェアは5%に届かない。モトローラとハイテラの間で価格競争が起き、利益率は11%に落ちる。SLA社の買収は小さな売上のまま終わる。車載は、市販ナビがスマホ連携に食われて数量が15%減り、完成車向けの値引きと部品高が利益を削る。利益率は2%。ESも機器が縮む。全体の利益は今の水準を下回り、売上は物価に追いつかない。経営は構造改革を重ねるが、成長に使う資金を細らせ、還元も純利益の半分近くに増やして株価を支えようとする。買収は無線の周辺で小さく続けるにとどまり、会社の姿は今より地味になる。
- セーフティ&セキュリティ(S&S):数量 22,425(世界の業務用無線(ナローバンド+ハイブリッド)市場(今の値段で測った実質・億円換算))× 価格 6.2%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 1,382 億円・営業利益 152 億円。予算の遅れと価格競争(市場 1.15 倍 × シェア 4.6%)
- モビリティ&テレマティクスサービス(M&T):数量 8,500(対象とする車載情報機器の市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 21.9%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 × 実質の値下がり)→ 売上 1,863 億円・営業利益 37 億円。市販ナビが縮み、値引きと部品高(市場 0.85 倍、価格 1.12 倍)
- エンタテインメントソリューションズ(ES):数量 7,360(音楽・映像コンテンツと民生オーディオ機器の対象市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 8.2%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 × 実質の値下がり)→ 売上 601 億円・営業利益 15 億円。機器が縮む(市場 0.92 倍、価格 1.15 倍)
倍率:ROE 6.0% が資本コスト 7.75% を下回る。ためた利益は額面未満の価値なので PER は 1÷k=12.1 倍が上限で、利益が細る筋書きとして ROE÷k の目安(約 0.73 倍)に近い 8.8 倍に置いた。
確率:米国の予算・関税・部品の揺れで無線が計画を下回る筋書き。直近の4〜6月期にS&Sの事業利益が92%減った事実があり、慎重な側に厚く置いた。
悲観 15% 構造的に負ける:無線が奪われ、車載が消える 利益 64 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 365 円512 億円
構造的に負ける。公共安全の無線は、携帯回線を使う方式が主流になり、専用端末の価格が下がる。JVCケンウッドは広帯域の機能で後れを取り、北米のシェアは4%を割る。米国の関税と政府調達の国産優遇も重なる。車載は、完成車メーカーが画面やナビを自社で内製する流れで受注を落とし、市販ナビは市場が消える。数量は3割減り、利益はほぼゼロになる。ESも関税で赤字に近づく。全体の営業利益は100億円を割り、稼ぐ力は今の半分以下に落ちる。それでも無線の保守網は残り、会社は存続する。経営は買収で立て直そうとするが成果は出ず、10年の還元は純利益の半分を超え、自己資本の積み上がりも鈍る。ブランドと販売網は残るが、利益を生む力は薄れていく。
- セーフティ&セキュリティ(S&S):数量 20,475(世界の業務用無線(ナローバンド+ハイブリッド)市場(今の値段で測った実質・億円換算))× 価格 5.1%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 1,043 億円・営業利益 94 億円。専用端末が値下がりし奪われる(市場 1.05 倍 × シェア 3.8%)
- モビリティ&テレマティクスサービス(M&T):数量 7,000(対象とする車載情報機器の市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 20.5%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 × 実質の値下がり)→ 売上 1,438 億円・営業利益 14 億円。OEM を失い市販も縮む(市場 0.70 倍、価格 1.05 倍)
- エンタテインメントソリューションズ(ES):数量 6,400(音楽・映像コンテンツと民生オーディオ機器の対象市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 7.5%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 × 実質の値下がり)→ 売上 477 億円・営業利益 0 億円。関税と競争で収益ゼロ(市場 0.80 倍、価格 1.05 倍)
倍率:ROE 3.3% は資本コストを大きく下回る。稼ぐ力の純利益 64 億円を、上限 12.1 倍の約 3 分の 2 の 8 倍で測った。利益が細り続ける事業なので上限まで置かない。自己資本の厚さや売れる資産は床に使っていない。
確率:利益の柱が北米の公共安全という一つの市場に偏り、車載が細る構造的な負け。悲観が5%以上である理由は、無線が事業利益の約6割を占め、その裏づけが米国政府の予算に左右される点にある。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
セーフティ&セキュリティ(S&S)
警察・消防・公共事業向けの業務用デジタル無線(北米が約 8 割)が中心。ほかに業務用の映像・システム機器。
| 数量世界の業務用無線(ナローバンド+ハイブリッド)市場(今の値段で測った実質・億円換算) | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 19,500 | 4.9% | 947 | 127 |
| 10 年後 中立 | 24,960 | 7.2% | 1,806 | 244 |
取り方:会社説明会(2024 年)の市場数字を土台にした。ナローバンド約 106 億ドル+ハイブリッド約 17 億ドル(2024 年)に、実質の年 3% の伸びを 2 年分足し、1 ドル 150 円で約 19,500 億円と置いた。売上は S&S 全体(無線約 800 億円+業務用システムなど)なので、シェア 4.86% は無線だけのシェアより少し高く出る。物価 3% は価格(シェア × 物価の倍率)に入れた。
モビリティ&テレマティクスサービス(M&T)
市販のカーナビ・ディスプレイオーディオ・ドライブレコーダー(アフターマーケット)と、完成車メーカー向けの車載機器(OEM)。
| 数量対象とする車載情報機器の市場(今の値段で測った実質・億円、推定) | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 × 実質の値下がり | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10,000 | 19.6% | 1,957 | 54 |
| 10 年後 中立 | 9,500 | 23.5% | 2,231 | 67 |
取り方:対象市場は開示がなく推定。国内外の市販カーナビ・ディスプレイオーディオ・ドラレコに、完成車メーカー向けのうち取りにいける部分を足し、約 1 兆円(実質)と置いた。売上 1,957 億円から逆算したシェアは 19.6%。国内の市販ナビは首位だが海外は小さい。完成車向けは年々の値引きがあるので、価格は物価ほど上がらないと見て、中立の 10 年を 1.20 倍とした。
エンタテインメントソリューションズ(ES)
ビクターエンタテインメントの音楽・映像コンテンツと、ヘッドホン・ホームオーディオ・プロジェクターなどのメディア事業。
| 数量音楽・映像コンテンツと民生オーディオ機器の対象市場(今の値段で測った実質・億円、推定) | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 × 実質の値下がり | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8,000 | 7.1% | 568 | 25 |
| 10 年後 中立 | 8,000 | 8.9% | 710 | 30 |
取り方:対象市場は開示がなく推定。音楽・映像コンテンツと、ヘッドホン・ホームオーディオなど民生オーディオ機器のうち取りにいける部分を約 8,000 億円(実質)と置いた。売上 568 億円から逆算したシェアは 7.1%。機器は中国勢との競争で値下がりしやすいため、価格は物価ほど上がらないと見る。
リスクと懸念
米国の公共安全予算と政府の日程
無線の利益は、警察・消防が使う米国の公共安全予算に左右される。2026年に入って米政府機関の閉鎖があり、4〜6月期のS&Sの事業利益は前年から92%減った。予算の遅れが重なれば、利益は年単位でずれる。
モトローラ・ソリューションズとの競争
北米公共安全の首位はモトローラで、基地局から端末まで一式を持つ。JVCケンウッドのシェアは6%台で、10%の目標は大手の顧客を奪う話になる。値引きで応じられると利益率が下がる。
関税と為替
2026年3月期は米国の関税で事業利益が約37億円押し下げられた。2027年3月期は為替ヘッジの損も約18億円出る。生産地の移管や価格改定で薄めているが、関税と為替の揺れは事業の中にある。
車載機器の構造的な縮み
市販のカーナビはスマホ連携と車載標準の画面に食われて細る。完成車向けは毎年の値引きが前提で、中国向けの高級車の販売減も重なった。車載の利益率が3%台から上がらない限り、売上の半分以上を占める事業が全体の足を引っ張る。
M&Aの価格
戦略投資900億円の半分ほどがM&Aに向かう。SLA社の価額は非公表で、割高かどうかは外から確かめにくい。買収が外れると、無線の高い利益率という強みが薄まる。
メモリ価格と部品の調達
メモリ価格の高騰で、2026年4〜6月期のコストは14億円増え、うち価格に反映できたのは10億円だった。残りは利益を削る。無線は部品不足で2026年3月期に約24億円の利益を取りこぼしており、調達は引き続き弱点だ。
構造改革費が毎年出る
2027年3月期も、工場の人員削減などの構造改革費用が営業利益を押し下げる。事業利益234億円に対して営業利益は206億円の計画だ。整理が続く限り、純利益は事業利益より低く出る。
今後の分かれ目
- 北米公共安全でのシェアが2年連続で上がり、無線の売上が1,000億円を超える
- 強気の筋書きに近づく。無線の利益率が15%を保てるかも合わせて確かめる。
- 米国の予算の遅れで、無線の公共安全向け出荷が2期続けて前年を割る
- 公共安全に偏った利益の弱さが現実になり、やや悲観の確率が上がる。
- SLA社(ESChat)の契約者が増え、無線端末とのセット販売が広がる
- ハイブリッド領域の売上が立ち上がり、無線の成長が首位の壁を越える根拠になる。
- 完成車メーカー向けで、インド・米州・商用車の大型の新規受注を2件以上獲得する
- 車載の利益率が3%台から上がる道が開き、全体の利益の下支えになる。
- 大型のM&A(数百億円以上)を高いのれんで実施する
- 買収の巧拙が次の変数になる。資本の使い方への評価を下げ、慎重な側へ確率を寄せる。
- 米国の関税が引き上がる、または中国製造品の扱いが厳しくなる
- 車載とESの利益が削られ、やや悲観に近づく。生産地の移管がどこまで進むかが分かれ目になる。
見ておくもの
- 無線システムの北米公共安全シェア(6.4%からの動き)
- S&Sの事業利益率(2026年3月期は13%台)
- M&Tの事業利益率と完成車メーカー向けの新規受注
- メモリ価格の転嫁(価格改定の進み具合)
- 米国の関税と為替ヘッジの損益
- SLA社(ESChat)の契約者数と売上
- 総還元性向(30〜45%の目安)と自社株買い
- 中計VISION2030の中間年の進捗(事業利益率9%)
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価・PER を見ずに置いた。セグメントごとに市場規模×シェア×価格で積んだ利益に、その時点の ROE・資本コスト 7.75%(基本 7.5% + quality 0.75%)・長期成長 4% から正当化 PER を出し、中立は 1÷k を下限に上限の約 94%(下限と同じ 12.1 倍)を置いた。悲観は ROE が資本コストを下回るので稼ぐ力で置き、過去の PBR の底や自己資本の厚さは根拠にしていない。国際会計基準でリースはすでに BS に載っており、新リース会計基準での形の変化は 10 年後の数字に持ち込まない(今と同じ形でそろえた)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.6→17.05 倍・やや楽観 PER 12.5→16.3 倍・中立 PER 12.1→14.71 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75% を足して k 7.75%。純現金ではなく借金もほぼ無いので extra は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。