結論
イリソ電子工業は、自動車の電装品をつなぐ小型コネクターの専業に近い会社だ。売上の約 85% が車載で、電動化とセンサーの増加が追い風になる。
筆者の結論は、今の値段はやや割高。主因は事業ではなく、利益の質にある。2026 年 9 月に公表された第三者委員会の報告書は、海外子会社での不適切な支払いに加え、顧客に出す試験データの作成まで認めた。車載では信用が命だ。取引の見直しや補償が数年かけて利益を削りうる。
足元の数字は悪くない。2026 年 3 月期の売上は 620 億円、営業利益は 54 億円で、本業は増収を保った。ところが 2027 年 3 月期の会社予想は営業利益 35 億円と、3 分の 1 強の減益だ。2024 年の中期計画が掲げた営業利益率 15% は、遠のいた。
財務は強い。純現金が時価総額の 4 分の 1 にあたり、無借金だ。ただ ROE は過去 10 年の中央値で 7% 台と、資本コストを下回る。ためた現金は、ためただけでは価値にならない。
10 年後の中立の筋書きでも、配当を足した価値は資本コストの 8.8% を取り返すには足りない。確率を重ねた本質価値は今の 4 分の 3 ほどだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「長く持ちたい会社」から、いったん外れる。理由は事業ではなく、経営の質だ。
事業の本質は悪くない。車載コネクターは需要が底堅く、無借金で、現金も厚い。安全域の目で見ても、時価総額の 4 分の 1 が純現金という点は魅力がある。
だが、オーナーとして譲れない点がある。顧客に出す試験データを偽った会社は、同じことを他の場所でもしていないかと疑われる。調査は複数の不正を見つけたが、見つからなかったものがあるかは分からない。
資本の使い方も物足りない。ROE は資本コストを下回り、現金は積み上がり続けている。経営者が資本をどう配分するかを見る目で、ここは評価できない。
筆者は、新社長の最初の 2 年を見たい。品質の立て直しと、現金の返し方だ。それが確かめられるまでは、今の値段に安全域はないと判断する。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、電子基板どうしや、基板とケーブルをつなぐ小型のコネクターだ。車載では、カメラ・センサー・ナビ・パワートレインなどの電装品に使われる。1 台の車に載る数が増えるほど売上が伸びる構造で、売上の約 85% を車載が占める。
残りは産業機器(産機)と民生向けだ。産機は新しい中期計画で車載に次ぐ第二の柱と位置づけられた。民生はゲーム機など景気に振れやすい用途が中心で、2027 年 3 月期の予想では需要の低迷が減益の一因と報じられている。
製品の強みは、振動に耐える設計にある。Z-Move シリーズは、はんだ付け部分に伝わる衝撃をやわらげる独自の可動構造を持つ。ケーブルをフラットな配線に置き換えるマルチケーブル品は、電動車の小型・軽量化に役立つ。高速で大量のデータを流す伝送用コネクターは、車載と産機の両方で採用が増えている。
生産は日本、中国、東南アジアなどに分かれる。2025 年 4 月には秋田県横手市に国内の新工場が本格稼働した。地産地消と事業継続の備えが狙いだが、先に費用が出る。
同業にはヒロセ電機、日本航空電子工業、海外では TE コネクティビティや Molex がいる。イリソは車載の中小型品に絞った会社で、規模では劣るが、顧客に近い設計の提案力で戦う。
優良さと弱いところ
堀は、狭いが確かにある。コネクターは車の安全に関わる部品で、一度採用されると車種の終わりまで数年は使われる。顧客は部品を変えるたびに試験をやり直すので、切り替えの手間が堀になる。
ただし値段を決める力は弱い。自動車メーカーは毎年の値下げを求めてくる。営業利益率は 2018 年 3 月期の 19.9% から、2021 年 3 月期には 7.9% まで落ちた。直近も 9% 台で、好況期の水準には戻っていない。
資本効率は低い。ROE は 10 年の中央値で 7% 台、直近は 3% 台まで落ちた年もある。自己資本比率は 77% と厚く、純現金も積み上がっているが、その現金を事業や還元に回しきれていない。
いちばん気になるのは経営の質だ。報告書は、顧客に出す信頼性試験で、実際には試験をせず過去のデータや乱数で数字を作っていたと認めた。顧客の承認なしに製造工程を変えた例も挙げた。売上の前倒し計上も 3 期にわたって見つかった。金額は小さいが、現場の規律が緩んでいたことを示す。
筆者は、堀の幅を決めるのは技術より、顧客から預かった信用だと考える。そこが傷んだ以上、優良さは一段割り引く。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
自動車の電装化は止まらない。電動車は内燃機関車よりコネクターを多く使い、運転支援のカメラ・センサーも増える。1 台あたりの搭載数は伸びる。一方で、自動車の生産台数そのものは世界で横ばい圏で、日本国内は人口減で細る。筆者は、数量の伸びは台数ではなく搭載数の増加で稼ぐ、年 3% 台が妥当とみる。
競争は厳しい。ヒロセ電機は産機・通信にも強く、利益率が高い。日本航空電子工業は車載と防衛・航空で厚い。海外の TE や Molex は規模が大きく、顧客のグローバルな調達に入り込んでいる。中国系の部品メーカーも、国内向けの車載で力をつけている。
価格の面では、顧客の値下げ要求が構造的に続く。小型化や高付加価値品への入れ替えで下げ止めを狙うが、10 年で物価の上昇に届かないとみる。
イリソにとって追い風は、パワートレインの高電流化と高速伝送だ。パワートレイン向けは中国の需要で過去最高を更新した。逆風は、民生向けの弱さと、中国市場での価格競争だ。
今期の大きな逆風は、品質問題だ。車載の顧客は不正を重く見て、監査を強める。その影響は個社の信用の問題で、業界全体の問題ではない。同じ領域の会社と比べて、イリソだけ悪い材料が重なっている。
資本政策と M&A
還元は配当が中心で、自社株買いは大きくない。2026 年 3 月期の当期利益は 25 億円と、会社予想の 48 億円を大きく下回った。調査関連の費用などが響いたとされるが、内訳は確かめられていない。
資本の使い道は工場と研究開発が主で、2025 年 4 月に秋田の新工場が稼働した。純現金は 10 年超で 70 億円弱から 150 億円へ積み上がっており、利益ほどは戻していない。余った現金を株主に返す力はあるが、その意思は報告書後の新体制で示されるはずだ。
M&A は目立つ実績がない。TOB の可能性は、時価総額が小さく現金が厚いことから、10 年以内に 2 割の確率が見込まれている(kabufu の推定)。ただ今回の不正が価格の見直しを招く可能性もある。
ガバナンスは大きく変わる。鈴木仁社長が 2026 年 9 月 30 日付で辞任し、10 月 1 日付で池田修一専務が社長に就いた。10 月 9 日の説明会で、新社長は顧客への謝罪と再発防止策を説明した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
車載コネクターは電動化とセンサーの増加で、1 台あたりの搭載数が増える。イリソはパワートレイン向けの大電流品と、高速伝送品を持ち、2025 年度は上期に 2 桁の増収増益を出した。中国のパワートレイン需要も過去最高を更新した。
不正は海外の 2 拠点と品質部門に限られ、海外の支払いは合わせて 2 億円に満たない。売上の前倒しも 3 期合計の影響は 1 億円規模にすぎない。問題が見つかり、膿を出し切ったことは、むしろ新体制が立ち上がる好機になる。鈴木社長は退き、池田新社長のもとで統治が作り直される。
財務は盤石だ。純現金は時価総額の 4 分の 1 で、無借金。再検査や補償の費用を払っても、事業は傷まない。秋田の新工場は稼働を始めたばかりで、これから数量が乗れば固定費の負担は軽くなる。
産機向けは車載で鍛えた耐振性を武器に、第二の柱になりうる。今の値段は純現金と事業の下値を考えれば、悪い材料を織り込んでなお安い。
慎重な見方
不正の中身は重い。信頼性試験を実施せずに過去のデータや乱数で報告書を作り、顧客に出していた。顧客の承認なしの工程変更、抜取検査の未実施、最終検査での測定の省略も見つかった。車載の部品として、最も許されない種類の問題だ。
顧客が気づいていなかった事実を、第三者委員会が暴いた。顧客は再監査を求め、新しい車種の採用を見合わせるかもしれない。補償や再試験の費用はまだ見えていない。海外では、裁判官への供与に使われた可能性のある支払いと、税関への現金支払いが 15 年にわたって続いていた。当局の対応は未定だ。
業績にも傷が出ている。2027 年 3 月期の営業利益は 35 億円と、前期から 3 分の 1 強の減益を会社自身が見込む。2024 年の中期計画は 2027 年 3 月期に営業利益率 15% を掲げたが、予想は 5% 台だ。
ROE は 10 年の中央値で 7% 台、資本コスト 8.3% に届かない。ためた現金は額面を割る価値になる。純現金が厚いからといって安いとは言えない。
どちらに重みを置いたか
事業の底堅さと純現金の厚みという強気の見方に説得力はある。だが、顧客への試験データの偽装という問題の重さと、ROE が資本コストを下回り続ける実績は、慎重な見方を強くする。確率は中立の 34% を中心に、悲観側の合計を 38%、楽観側の合計を 28% とし、悲観を 12% と厚めに置いた。結果は、中立の筋書きでも資本コストを取り返せず、総合では 2 割強の割高になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,784 円808 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,112 円237 億円)。 今の値に割り戻すと 2,451 円523 億円、今との差 −7.1%、 期待の年率 +6.4%(資本コスト 8.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 9,481 円2,024 億円 | 2,089 円446 億円 | +338.6% | +15.9% | 926 円198 億円 |
| やや楽観 | 20% | 6,191 円1,322 億円 | 1,583 円338 億円 | +194.7% | +11.4% | 1,555 円332 億円 |
| 中立 | 34% | 4,015 円857 億円 | 1,101 円235 億円 | +93.9% | +6.8% | 1,739 円371 億円 |
| やや悲観 | 26% | 1,365 円292 億円 | 815 円174 億円 | −17.3% | −1.9% | 567 円121 億円 |
| 悲観 | 12% | 562 円120 億円 | 351 円75 億円 | −65.4% | −10.1% | 110 円23 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,784 円808 億円 | 1,112 円237 億円 | +85.6% | +6.4% | 4,896 円1,045 億円 |
今の株価時価総額 2,638 円563 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 車載の高速化と電動化を取り込み、産機が第二の柱になる 利益 135 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 9,481 円2,024 億円
新社長のもとで品質管理が作り直され、顧客の再監査を乗り越える。取引は切られず、むしろ検査の信頼が戻ったことで新しい車種の採用が進む。パワートレイン向けの大電流コネクターと、車載カメラ・センサー向けの高速伝送コネクターが、1 台あたりの搭載数を押し上げる。ケーブルをフラットな配線に置き換えるマルチケーブル品も定着する。産機向けは車載で鍛えた耐振性を武器に、第二の柱として育つ。秋田工場は稼働率が上がり、先行投資の負担が利益に変わる。営業利益率は 2018 年の山(19.9%)には届かないものの、14% 前後まで戻る。自己資本の厚みに対して利益が大きくなり、ROE は 13% 台に乗る。
- 車載向けコネクター:数量 42.5(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 27(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 1,149 億円・営業利益 161 億円。車載コネクター:数量 42.5 億個 × 単価 27.0
- 産機・民生向けコネクター:数量 7.7(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 29(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 221 億円・営業利益 24 億円。産機・民生:数量 7.65 億個 × 単価 28.9
倍率:事業の純利益 134 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.3% が k 8.30% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 14.64 倍、時価総額 2,024 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:車載の電動化と高速化の波に乗り、品質問題の傷も早く癒える筋書きは確率が低い。不正を起こした会社が顧客の信用を取り戻すには数年かかり、そのうえで産機まで伸びる必要があるため、確率は 1 割に届かない。
やや楽観 20% 車載が堅調に伸び、利益率が10%台前半で安定する 利益 96 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 6,191 円1,322 億円
不正の発覚で一時的に取引の見直しは入るが、主要顧客との関係は保たれる。車載の数量は電動車の増加で年 3% 台後半のペースで伸び、価格は顧客の値下げ要求と高付加価値品への入れ替えが拮抗して物価を下回る。産機・民生向けも緩やかに戻る。再検査や品質部門の増員で固定費は上がるが、秋田工場の稼働が上がって吸収する。営業利益率は 11〜12% で落ち着く。海外子会社の統治を整えたうえで、配当は純利益の半分強を維持する。秋田工場の稼働が軌道に乗り、2018 年 3 月期の山には届かないが、直近 10 年の平均的な水準は超える。
- 車載向けコネクター:数量 38.5(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 25(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 977 億円・営業利益 117 億円。車載コネクター:数量 38.5 億個 × 単価 25.4
- 産機・民生向けコネクター:数量 6.8(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 28(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 187 億円・営業利益 18 億円。産機・民生:数量 6.75 億個 × 単価 27.8
倍率:事業の純利益 95 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.3% が k 8.30% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 13.26 倍、時価総額 1,322 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:車載の需要は電動化で底堅く、会社自身も 25/04〜12 月期に 2 桁の増収増益を出した。一方で品質問題の後始末と海外拠点の統治の立て直しには時間がかかるため、やや楽観に 2 割を置く。
中立 34% 車載は伸びるが、品質コストと値下げ圧力で利益率は元の10%に戻らない 利益 67 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 4,015 円857 億円
車載の数量は電動化とセンサーの増加で緩やかに増え、10 年で 4 割増える。ただし自動車メーカーの年次の値下げ要求は続くため、1 個あたりの価格は物価(10 年で 1.34 倍)に届かず 1.15 倍にとどまる。産機・民生は戻りが弱く、ゲーム機向けの波にも左右される。品質部門と内部統制の人員増、顧客への報告対応、秋田の新工場の減価償却が固定費として残り、営業利益率は 10% 前後で推移する。調査の終結後も、新規の採用案件では他社が有利になる場面が散発する。配当は純利益の半分で、現金は少しずつ積み上がる。
- 車載向けコネクター:数量 35.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 24(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 837 億円・営業利益 88 億円。車載コネクター:数量 35.0 億個 × 単価 23.9
- 産機・民生向けコネクター:数量 5.9(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 27(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 156 億円・営業利益 12 億円。産機・民生:数量 5.85 億個 × 単価 26.6
倍率:事業の純利益 66 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.5% が k 8.30% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 12.05 倍、時価総額 857 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業績の実力は 10 年の純利益の中央値が示すとおり ROE 7% 台。会社は 27/03 期の営業利益を 35 億円と見込み、再検査と体制作りの費用が数年は重い。これを素直に延ばした姿を中心に置く。
やや悲観 26% 品質問題で採用が細り、利益率が5%前後に沈む 利益 31 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 1,365 円292 億円
調査報告書が示した試験データの作成や、顧客の承認を得ない工程変更を受け、複数の顧客が監査を強め、新しい車種での採用を見合わせる。既存の車種は量産の終わりまで続くが、次の世代で数量が減る。価格は顧客の値下げ要求が強まって 10 年で 1.08 倍にとどまり、品質のやり直し費用で利益率は 1 桁の前半まで下がる。海外子会社の統治を直すための人員増と、顧客への補償・再試験の費用が重荷になる。産機への展開も遅れ、秋田の新工場は稼働率が上がらず、減価償却が利益を圧迫する。電動化の恩恵は数量の面では残るが、採用が細った分で相殺される。配当は維持するが、現金は食われる。
- 車載向けコネクター:数量 29.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 22(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 651 億円・営業利益 46 億円。車載コネクター:数量 29.0 億個 × 単価 22.5
- 産機・民生向けコネクター:数量 4.7(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 24(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 115 億円・営業利益 5 億円。産機・民生:数量 4.70 億個 × 単価 24.4
倍率:稼ぐ力(利益÷k)から 7 割を置く。ROE は 4% で資本コストを大きく下回る。(正当化 PER の上限 11.4 倍・k 8.3%・g 4.0%)(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 7.95 倍・時価総額 292 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:品質データの不正は、顧客の再監査と取引見直しを招く。車載は一度切られると回復が遅い。再発防止の費用も重なるため、慎重側の見方を少し強く置く。
悲観 12% 不正を理由に主要顧客を失い、事業が縮む 利益 5 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 562 円120 億円
車載の主要顧客が新規採用を止め、既存の車種の終了とともに数量が急に減る。賠償や再試験の費用に加え、海外の贈賄の疑いについて当局の制裁を受けることもありえる。数量は今の 2 割減、価格は据え置きで売上は 5 百億円強にとどまり、営業利益は 1 桁の億円まで細る。それでも無借金で純現金が厚いので、事業が傾くわけではない。品質部門の再建、海外子会社の統治の作り直し、顧客への補償が重なり、経営の関心は成長から守りに向かう。秋田の新工場は稼働率が上がらず、一部の生産の集約も避けられない。配当は積み上げた現金から出す。利益で測れるほどの稼ぎは残らず、10 年後の価値は純現金から賠償・撤退費用を引いた額に近い。財務の余力があるぶん、倒産ではなく縮小均衡に落ち着く。
- 車載向けコネクター:数量 21.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 21(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 437 億円・営業利益 13 億円。車載コネクター:数量 21.0 億個 × 単価 20.8
- 産機・民生向けコネクター:数量 3.6(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 22(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 80 億円・営業利益 −2 億円。産機・民生:数量 3.60 億個 × 単価 22.2
倍率:悲観は稼ぐ力(純利益 5 億円)が小さすぎて利益では測れない。純現金 150 億円から賠償・再試験・撤退の費用 30 億円を引いた 120 億円を床とし、今の自己資本 706 億円に掛けた PBR に直した。
確率:不正の中身は試験データの作成と顧客承認なしの工程変更で、車載では最も許されない種類の問題。主要顧客の取引停止や賠償が起きれば、10 年で事業の半分近くを失いうる。ここまでは起きないとみて 1 割強を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
車載向けコネクター
カメラ・センサー・パワートレインなど車載電装品に使う小型コネクター。売上の約 85% を占める稼ぎ頭。
| 数量年間出荷個数(億個、推定) | 価格1 個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 25.0 | 21 | 520 | 48 |
| 10 年後 中立 | 35.0 | 24 | 837 | 88 |
取り方:開示されていない個数を、車載比率約 85% の売上 520 億円を平均単価 20.8(1 個あたり、円換算)で割り、年約 25 億個と推定した。営業利益は全社の 54.4 億円のうち産機・民生の利益率が低いとみて 48 億円(利益率 9%)とした。個数は実質で、電動化とセンサーの増加で中立は 10 年 1.4 倍。単価は名目で、顧客の年次の値下げ要求と小型化の値下がりを、高付加価値品への入れ替えと物価がほぼ打ち消し、中立は 10 年 1.15 倍と置いた。物価の 1.34 倍に届かないのは、自動車の部品調達の値下げ慣行のため。
産機・民生向けコネクター
産業機器・ゲーム機・民生機器向けのコネクター。新中計では車載に次ぐ第二の柱を目指す。
| 数量年間出荷個数(億個、推定) | 価格1 個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.5 | 22 | 100 | 6 |
| 10 年後 中立 | 5.9 | 27 | 156 | 12 |
取り方:全社売上 620 億円から車載を引いた約 100 億円を、産機・民生向けとし、平均単価 22.2(1 個あたり、円換算)で年約 4.5 億個と推定した。営業利益率は車載よりやや低い 6.4% と置いた。個数は産機の自動化需要で中立は 10 年 1.3 倍、民生は横ばい。単価は名目で、高速伝送品の比率上昇で 10 年 1.2 倍とし、物価の 1.34 倍には届かないとした。
リスクと懸念
顧客の信用を失うリスク
試験データの作成と顧客承認なしの工程変更は、車載では取引停止に直結しうる種類の問題だ。顧客の再監査の結果次第で、新規採用が細り、既存の取引も見直される。補償額はまだ見えていない。
海外での贈賄の疑い
A 国の弁護士への支払い(2021 年と 2025 年)の一部が裁判官への供与に充てられた可能性があり、B 国では税関職員への現金支払いが 2011 年から約 1.2 億円続いた。日本や海外の当局が制裁を科せば、罰金や営業上の制限が出る。
減益の予想と中期計画の未達
2027 年 3 月期の会社予想は、売上 670 億円に対し営業利益 35 億円で、前期から約 36% の減益だ。2024 年の中期計画は同期に営業利益率 15% を掲げていたが、予想は 5% 台にとどまる。計画の信頼も傷む。
自動車メーカーの値下げ要求
自動車の部品は年次の値下げが慣行だ。物価が上がっても価格に転嫁しにくく、数量が伸びても利益率が上がらない。小型化による値下がりも続く。価格が物価を下回る前提が崩れ、さらに下がれば利益が削られる。
民生向けの需要の波
ゲーム機などの民生向けは、新型機の発売サイクルで需要が大きく振れる。27 年 3 月期予想の減益の一因と報じられた。産機で穴を埋められるまで、全社の利益が不安定になりやすい。
電動化の速度と技術の入れ替え
電動車の普及が遅れればパワートレイン向けの大電流品の数量が伸びず、逆に電装の構造が一気に変わると、現在の製品が使われなくなる。売上の 85% が車載に偏る分、変化の影響を直接受ける。
秋田新工場の稼働率
2025 年 4 月に本格稼働した国内の新工場は、減価償却と人件費が先に出る。数量の増加が遅れれば固定費が利益を圧迫する。品質の立て直しで受注が細れば、負担はさらに重くなる。
今後の分かれ目
- 主要な車載顧客が再監査を終え、取引の継続と新規採用を表明したら
- 悲観側の確率を下げ、やや楽観・中立側に寄せる。信用の傷は癒えたと見なせる。
- 顧客が新規採用の見合わせや取引の縮小を公表したら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。車載の数量が 10 年で減る前提に切り替える。
- 当局が海外子会社の贈賄で制裁金や営業制限を科したら
- 悲観の確率を上げ、制裁金と対応費用の分だけ純現金を減らして見直す。
- 新社長のもとで自社株買いや増配など、現金を返す方針が示されたら
- 余った現金の戻り方を 0.5 から 1.0 へ引き上げ、価値を上方に見直す。
- 産機向けの売上が車載に次ぐ柱として 2 割を超える規模に育ったら
- 中立の営業利益率と数量を上方に修正する。
- TOB の提案が出されたら
- 事業の価値と純現金の合計で、提示された値段を測る。
見ておくもの
- 主要車載顧客の再監査の結果と、新規採用の動向
- 27 年 3 月期の営業利益 35 億円の達成度と、調査関連費用の内訳
- 当局による海外子会社への対応(制裁・捜査)
- 秋田工場の稼働率と、車載・産機の数量の動き
- 新体制の資本政策(還元・現金の使い道)
倍率と資本コストの決め方
車載と産機・民生を、出荷個数(実質)× 単価(名目)で積んだ。車載の単価は顧客の値下げ要求を理由に、10 年で物価の 1.34 倍に届かない 1.15 倍とした。資本コストは基本 7.5% に quality +1.3% で 8.8% とし、不正による個別の傷は k に足さず筋書きの確率で表した。ROE が k を下回る中立は PER を 1÷k の 9 割に、余った現金 60 億円は戻り方 0.5 で足した。今の株価や同業の倍率からは置いていない。基準は 2026/03 期の実績(brief の基準年 2025/03 より新しい)で、数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.96→14.64 倍・やや楽観 PER 10.9→13.26 倍・中立 PER 10.23→12.05 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.3% を足した 8.8%。同じ領域のヒロセ電機(7.5%)より値決め力が弱く、ホシデン(9.0%)よりは借金が軽いので、その間に置いた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.80% → 8.30%。