結論
アイコムは、アマチュア無線機と業務用無線機を世界に売る大阪の無線機メーカーだ。筆者の結論は、今の値段は事業の稼ぐ力に比べて割高、というものだ。
理由は資本の厚さにある。自己資本比率は9割近く、純現金は時価総額の5割を占める。それなのに ROE は過去10年の中央値で3.5%しかない。資本コストを大きく下回る水準で、ためた現金は事業に回すかぎり額面未満の価値しか生まない。
事業そのものは堅い。売上の約半分を占める業務用無線では、消防・官公庁の入札やIP無線のような積み上げ型の売上が伸びている。2027年3月期は売上375億円、営業利益38億円の計画で、第1四半期の営業利益は前年の約3倍に戻った。ただし売上の3分の2は海外で、米国の関税と需要の波に振られやすい。
10年で見ると、売上は物価の分を含めて年4%ほど伸び、営業利益率は8%台の半ばに落ち着く。それでも ROE は4%台で、資本コストには届かない。現金を株主へ厚く返すか、提携や買収で資本の稼ぎを引き上げれば絵は変わる。だが新しい中期計画も、その答えをまだ出していない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、アイコムは「良い商売だが、資本を持ちすぎた会社」だ。
商売は悪くない。業務用無線は一度入ると長く使われ、アマチュア用は熱心なファンが付く。研究開発に売上の1割以上を使い、財務は無借金に近い。長く持てる事業としての安心感はある。
問題は、オーナーとして見たときの取り分だ。稼いだ利益のうち6割は会社に残るが、その残りが生む収益は年に4%ほどにすぎない。資本コストの8%台には、はるかに届かない。1億円を社内にためるたびに、株主の価値は1億円未満に目減りする計算だ。
安全域はある。純現金が時価総額の5割あり、事業が傾いても大きくは崩れにくい。だがその現金の価値は、会社がどう使うかで決まる。筆者が見たいのは、自社株買いか増配で現金が株主に戻る姿だ。それが見えるまで、本質価値は事業の稼ぐ力と、半分に割り引いた現金で測る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、無線機を設計し、自社グループで作り、世界の代理店と官公庁・企業に売る仕事だ。売上の区分は4つある。
最大の柱は陸上業務用で、売上の約半分を占める。警察・消防・自治体・インフラ企業が使うデジタル無線機とIP無線機、それにシステム販売が中心だ。国内は防災や事業継続の需要を背景に堅調で、米国は予算の凍結や関税で買い控えが出た。
2番手のアマチュア用は売上の4分の1ほど。趣味の無線機だが、数十万円する高級機から入門機まで幅広い。新製品が出る年に伸び、出る前の年は買い控えで落ちる。利益率は全社で最も高いとみる。
海上用は漁船・ヨット向けの無線機で、海上保安庁や各国の沿岸警備隊の案件もある。付属機器その他には、航空用無線機、ネットワーク機器、スマホの同時通話アプリ、保守契約が入る。ここが直近でいちばん伸びた。
地域別では日本が3割強、米州が4分の1、欧州が2割強、アジア・大洋州が2割弱。研究開発費は売上の1割を超え、生産は和歌山の子会社が担う。売上のうち保守・アプリのような積み上げ型は約1割で、これを増やすのが会社の狙いだ。
優良さと弱いところ
アイコムの強みは、売り切りの機械で終わらず、現場の使いやすさで選ばれ続けるブランドにある。弱みは規模と、資本の使い方だ。
ブランドは本物だ。アマチュア用では世界で指名買いされる数少ない日本の無線機メーカーで、海上用の主力機も毎年のように業界の賞を取っている。業務用は免許や認証が参入の壁になり、一度入れた無線機は10年単位で使われる。これが利益の下支えになる。
一方で、競争相手は桁違いに大きい。社長自身が「競合は当社の何十倍もの規模」と語っている。業務用で値段を決める力は弱く、中国勢の安価な機種はアマチュア用の入門機を侵食する。利益率が過去10年で3%から10%近くまで振れたのも、その表れだ。
資本効率は最大の問題だ。ROE は3.6%、自己資本比率は9割近い。研究開発費を売上の1割以上かけ続ける姿勢は評価できるが、稼いだ利益の6割は社内に残り、低い収益で寝ている。経営もこの点は認め、現金の使い道を見直す方針を示した。筆者は、行動で示すまで割り引いて見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
業界は2つの流れに挟まれている。公共安全向け無線の更新需要と、スマホ回線への置き換えだ。
業務用無線の世界市場は、2024年に約106億ドルと見られ、2030年にはスマホ回線と組み合わせたハイブリッド型を含めて約177億ドルへ伸びるという予想がある。伸びの中身は、従来型の無線機よりも、IP無線やアプリを含むシステム側にある。モトローラ・ソリューションズが圧倒的に大きく、JVCケンウッドや中国のハイテラなどが続く。アイコムのシェアは1%強にとどまる。
アイコムの狙いは次の公安通信規格MC-PTTだ。収益化は2028年後半を見込む。米国ではイリジウムと組み、軍の次世代衛星通信向け端末の研究を始めた。実現すれば、民生品中心の会社が防衛通信に入る一歩になる。
アマチュア無線は、愛好家の高齢化で人数が増えにくい。ただし災害時の備えや、SDR方式という新しい作りの機種で、買い替えの波は繰り返し来る。海上用は規制の改定で機器の更新が出ている。
いずれの分野でも、米国の関税と需要の冷え込みが当面の逆風になる。2026年3月期は海外が落ち、国内が支えた。
資本政策と M&A
株主への還元は配当が中心で、自社株買いの実績は確認できなかった。
配当の方針は、1株あたりの年間配当の下限額か連結配当性向40%の、高いほうを下限とする。2027年3月期の配当は増配の予想で、性向はちょうど40%に当たる。つまり利益の6割は社内に残る。純現金が時価総額の5割に達するのに、増やし方は下限どまりだ。
中期計画2030では、公共インフラ向けの新規格、防衛通信、提携とM&Aの加速を掲げた。大阪の本社横には新社屋を建てる。投資は積極的だが、買収の実績はまだ小さく、巧拙は証明されていない。
株主の顔ぶれも見ておきたい。筆頭株主の井上徳造氏が約14%、光通信が約8%、ほかに投資会社とみられる法人が並ぶ。公益財団法人も約7%を持つ。株価が自己資本を下回り続ければ、買収や株主提案が来る環境だ。kabufuの推定では、10年以内にTOB(株式公開買い付け)が来る確率は20%ある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
アイコムは、ようやく成長の入口に立った。業務用無線の世界市場は2030年に約177億ドルへ伸びる見通しで、伸びの中心はIP無線やアプリを含むシステム側だ。アイコムはすでにスマホの同時通話アプリを出し、AIインカムのボイットとも資本提携した。国内の消防・官公庁・教育機関の案件も積み上がっている。
次の公安通信規格MC-PTTは2028年後半に収益化が始まる。イリジウムと組んだ米軍向けの衛星通信端末は、民生品の会社が防衛通信に入る一歩だ。ここで1つでも大型案件を取れば、売上は計画の415〜430億円を超え、営業利益率10%も現実になる。
2027年3月期の第1四半期は営業利益が前年の約3倍に戻り、関税の悪影響が一巡したことを示した。アマチュア用は新製品の発売で買い控えが解ける。しかも純現金が時価総額の5割あり、株価は自己資本の6割程度で、株主還元の強化を求める圧力が強い。現金が戻れば、一株の価値は大きく上がる。
慎重な見方
利益の山はいつも一時的だ。営業利益率は過去10年で3%から10%近くまで振れ、平均すれば7%台にとどまる。ROE の中央値は3.5%で、資本コストの半分にも届かない。計画の10%はこれまで何度も未達に終わってきた。
売上の3分の2は海外で、米国の関税と需要の波に振られる。競争相手は何十倍も大きいモトローラ・ソリューションズやJVCケンウッドで、アマチュア用の入門機には中国勢の安い機種が迫る。MC-PTTも防衛通信も、大手が先にいる分野で、収益化は早くても2028年後半だ。
資本政策も不安材料だ。還元は下限の配当性向40%どまりで、自社株買いはない。新社屋の建設と提携・M&Aで現金が成長に化ける保証はなく、買収で価値を壊す危険もある。ためた現金は、使い方しだいで1億円が1億円の価値を下回る。10年後の ROE は、うまくいっても資本コストに届かないだろう。
足元の回復も、割り引いて見るべきだ。第1四半期の利益が戻ったのは、前年が関税で落ち込んだ反動が大きい。通期の計画を達成しても、営業利益率は過去10年の最高に並ぶ程度にすぎない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。事業は堅いが、10年後でも ROE は4%台にとどまり、資本コストには届かない。強気の見方が頼る新規格や防衛通信は、収益化が遠く、規模の差も大きい。そこで中立を35%の最頻値に置き、確率は慎重な側にやや寄せた。純現金は事業の外にあるお金として分け、戻り方は半分に見積もった。現金が本当に株主へ戻るなら価値は上がるが、その証拠はまだ無い。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,714 円533 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,019 円146 億円)。 今の値に割り戻すと 2,463 円353 億円、今との差 −32.3%、 期待の年率 +2.7%(資本コスト 7.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6,337 円910 億円 | 1,672 円240 億円 | +120.0% | +8.2% | 641 円92 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,010 円719 億円 | 1,394 円200 億円 | +75.9% | +5.8% | 1,281 円184 億円 |
| 中立 | 35% | 4,201 円603 億円 | 1,045 円150 億円 | +44.1% | +3.7% | 1,836 円264 億円 |
| やや悲観 | 25% | 2,110 円303 億円 | 697 円100 億円 | −22.9% | −2.6% | 702 円101 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,731 円249 億円 | 557 円80 億円 | −37.1% | −4.5% | 275 円39 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,714 円533 億円 | 1,019 円146 億円 | +30.0% | +2.7% | 4,734 円679 億円 |
今の株価時価総額 3,640 円522 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 新規格と防衛通信に乗り、公共無線の一角を取る 利益 61 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 6,337 円910 億円
MC-PTT(次世代の公安通信規格)の対応機が2028年後半から出荷され、国内の警察・消防の更新で複数の大型案件を取る。イリジウムと組んだ米軍向け衛星端末は、防衛通信での足がかりとなり、民生品中心の会社が政府調達の常連になる。AIインカムのボイットとの提携は通話アプリの利用者を押し上げ、保守・アプリの積み上げ型が全社売上の2割に近づく。アマチュア用は新製品の周期が重なり、高級機の単価が保たれる。海外は関税の影響が一巡して戻る。売上は約740億円、営業利益率は10%を超える。資本は厚いまま、一部が提携やM&Aに使われ、株主還元も増える。
- 陸上業務用無線:数量 21,465(世界の業務用無線市場(今の値段で測った実質・億円))× 価格 1.7%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 360 億円・営業利益 45 億円。MC-PTT と防衛通信で公共向けが伸びる(市場 1.35 倍、シェア 1.25%)
- アマチュア用無線:数量 1,200(世界のアマチュア無線機市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 11.0%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 132 億円・営業利益 19 億円。新製品で買い替えが続く(市場横ばい、シェア 8.2%)
- 海上用無線:数量 960(世界の海上用無線機市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 5.9%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 57 億円・営業利益 6 億円。規制更新と官公庁案件(市場 1.2 倍、シェア 4.4%)
- 付属機器・その他:数量 6,750(官公庁向け通信・航空無線・アプリ・保守の市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 2.8%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 190 億円・営業利益 26 億円。アプリ・保守・航空が柱に(市場 1.35 倍、シェア 2.1%)
倍率:事業の純利益 58 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)148 億円。全体の PER 13.07 倍、時価総額 910 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:MC-PTT や防衛通信で大型案件を取り、計画の利益率10%を超える筋書き。収益化は2028年後半以降で、規模の差も大きいため8%に抑えた。
やや楽観 20% IP無線とアプリで積み上げ型が伸びる 利益 47 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 5,010 円719 億円
国内の防災・事業継続の需要が続き、IP無線とシステム販売が伸びる。保守・アプリのような積み上げ型の売上が全社の15%ほどになり、利益の振れを抑える。MC-PTT の収益化は遅れるが、計画の売上415〜430億円は2030年3月期にほぼ達成し、その後も年4%台で伸びる。米国は販路の見直しが効いて関税後の需要が戻る。アマチュア用は人数が減るものの、高級機で単価を保つ。営業利益率は9%台の半ばで、会社が目標とする10%には届かない。還元は配当性向40%を少し超える程度で、資本の厚さはほとんど変わらない。
- 陸上業務用無線:数量 19,398(世界の業務用無線市場(今の値段で測った実質・億円))× 価格 1.6%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 307 億円・営業利益 35 億円。IP無線とシステム販売が伸びる(市場 1.22 倍、シェア 1.18%)
- アマチュア用無線:数量 1,170(世界のアマチュア無線機市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 10.6%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 124 億円・営業利益 16 億円。人数は減るが高級機で補う(市場 0.975 倍、シェア 7.9%)
- 海上用無線:数量 840(世界の海上用無線機市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 5.8%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 48 億円・営業利益 5 億円。更新需要が続く(市場 1.05 倍、シェア 4.3%)
- 付属機器・その他:数量 6,300(官公庁向け通信・航空無線・アプリ・保守の市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 2.5%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 156 億円・営業利益 19 億円。ストック型が増える(市場 1.26 倍、シェア 1.85%)
倍率:事業の純利益 44 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.3% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)148 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 719 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:IP無線・アプリ・保守の積み上げ型が伸び、利益率が計画に近づく筋書き。国内の需要は堅く、蓋然性はある。
中立 35% 売上は年4%、利益率は8%台で定着 利益 38 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 4,201 円603 億円
事業は緩やかに広がるが、飛躍はしない。業務用は世界市場の拡大に乗ってシェアを少し上げ、売上は10年で約1.5倍になる。アマチュア用は愛好家が減るため実質では縮み、物価の上昇で名目の売上が伸びるだけだ。付属機器その他の中のアプリと保守が育ち、全社の営業利益率は8%台の半ばで定着する。MC-PTT は小さな収益源になるが、防衛通信は研究どまりとなる。自己資本は、利益の6割が内部に残るため、10年で約1.2倍に増える。現金の戻し方は配当性向40〜45%どまりで、自社株買いは小規模にとどまる。ROE は4%台で、資本コストには届かない。
- 陸上業務用無線:数量 17,967(世界の業務用無線市場(今の値段で測った実質・億円))× 価格 1.5%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 265 億円・営業利益 28 億円。市場は緩やかに拡大(実質 1.13 倍)、シェアは 1.10% に微増
- アマチュア用無線:数量 1,140(世界のアマチュア無線機市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 10.3%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 118 億円・営業利益 15 億円。愛好家の減少で市場は縮み、シェアも小幅に低下
- 海上用無線:数量 880(世界の海上用無線機市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 5.6%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 49 億円・営業利益 4 億円。市場は緩やかに拡大、シェアは横ばい
- 付属機器・その他:数量 5,750(官公庁向け通信・航空無線・アプリ・保守の市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 2.2%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 127 億円・営業利益 14 億円。アプリ・保守・航空・官公庁案件で伸びる(実質 1.15 倍、シェア 1.65%)
倍率:事業の純利益 35 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.0% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)148 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 603 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:市場の緩やかな伸びと、利益率の8%台への定着という最頻の筋書き。過去10年の平均7%台より少し高いのは、積み上げ型の売上が増える分。
やや悲観 25% 価格競争と関税で利益率が6%に戻る 利益 20 億円 · PER 10.7 倍 · 株価時価総額 2,110 円303 億円
米国の関税と価格競争が長引き、海外の売上が伸び悩む。国内は堅調だが、官公庁の予算が頭打ちになり、業務用の利益率は過去の低い年に近づく。アマチュア用は中国勢の入門機に押され、数量が実質で減る。新社屋とM&Aの費用が重くなり、営業利益率は5%台まで下がる。MC-PTT の対応が遅れ、大手に先を越される。それでも財務は強く、配当は下限の水準で維持される。現金の一部は、買収や設備投資で使われて減る。売上は名目で約430億円と、物価分を考えれば実質では縮んでいる。研究開発費は売上の1割を保つため、利益を圧迫する。
- 陸上業務用無線:数量 15,582(世界の業務用無線市場(今の値段で測った実質・億円))× 価格 1.3%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 198 億円・営業利益 14 億円。価格競争と関税で市場が縮み、シェアも落ちる
- アマチュア用無線:数量 1,020(世界のアマチュア無線機市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 9.6%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 98 億円・営業利益 11 億円。中国勢の入門機に押される
- 海上用無線:数量 760(世界の海上用無線機市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 5.2%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 40 億円・営業利益 2 億円。更新需要が一巡する
- 付属機器・その他:数量 5,000(官公庁向け通信・航空無線・アプリ・保守の市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 1.9%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 97 億円・営業利益 8 億円。伸びが止まる
倍率:事業の ROE が2%台で k を大きく下回る。上限 12.1 倍に対し、稼ぐ力の質を見て10.68倍を置いた。現金は帳簿の75%を残し、その半分を足した。
確率:関税と価格競争で利益率が過去の低い年に近づく筋書き。海外が3分の2を占め、競争相手は桁違いに大きいので、慎重な側に厚めに置いた。
悲観 12% 構造的に負ける:スマホ回線と大手に押される 利益 4 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,731 円249 億円
スマホ回線とアプリが現場の通話手段として定着し、専用の無線機は公共の入札でも値下げを迫られる。米国市場では大手が価格で攻め、アイコムは販路を失う。アマチュア用は愛好家の減少と中国勢の安値で、市場そのものが縮む。MC-PTT や防衛通信への挑戦は失敗に終わり、買収の一部は減損する。売上は名目でも300億円強に縮み、営業利益はほぼ消える。それでも純現金と土地建物は残り、配当は有価証券の売却で賄う。価値は事業の稼ぐ力でなく、残った現金と売れる資産が支える。経営は規模の縮小を受け入れ、研究開発を絞って採算を守ろうとするが、ブランドの力は目減りし、かつての利益率には戻れない。
- 陸上業務用無線:数量 13,515(世界の業務用無線市場(今の値段で測った実質・億円))× 価格 1.1%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 145 億円・営業利益 4 億円。スマホ回線の置き換えと大手の値下げで構造的に縮む
- アマチュア用無線:数量 840(世界のアマチュア無線機市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 8.0%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 68 億円・営業利益 5 億円。愛好家の減少と中国勢で市場もシェアも縮む
- 海上用無線:数量 680(世界の海上用無線機市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 4.6%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 31 億円・営業利益 1 億円。競争で値崩れ
- 付属機器・その他:数量 4,500(官公庁向け通信・航空無線・アプリ・保守の市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 1.5%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 69 億円・営業利益 3 億円。新規格・防衛通信に乗れず伸びない
倍率:稼ぐ力は細り、価値は純現金と売れる資産の税後が支える。今の自己資本に床の倍率0.27を掛けた。稼ぐ力と資産の見積もりで置いた。
確率:スマホ回線への置き換えと大手の値下げで、業務用が構造的に縮む筋書き。アマチュア用の需要も細る。5%以上に置いたのは、通信方式の転換が事業の前提を変えうるため。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
陸上業務用無線
警察・消防・自治体・インフラ向けのデジタル無線機、IP無線機、システム販売。売上の約半分。
| 数量世界の業務用無線市場(今の値段で測った実質・億円) | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 15,900 | 1.1% | 170 | 16 |
| 10 年後 中立 | 17,967 | 1.5% | 265 | 28 |
取り方:世界の業務用無線の市場(約106億ドル、2024年)を150円で換算して約1.6兆円とした。売上は商品別の増減と「約半分」の記述から170億円と推定(開示は商品別の構成比のみ)。シェアは約1.1%。数量は実質の市場、物価3%は価格に入れた。営業利益は非開示で推定配分。
アマチュア用無線
趣味の無線機。高級機から入門機まで。新製品が出る年に伸びる。
| 数量世界のアマチュア無線機市場(今の値段で測った実質・億円、推定) | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,200 | 8.0% | 96 | 12 |
| 10 年後 中立 | 1,140 | 10.3% | 118 | 15 |
取り方:世界の市場を約1,200億円と推定(競合の開示が乏しい)。売上は前期比の減少額から96億円と推定し、シェアは約8%。市場は実質で、物価3%は価格に入れた。営業利益は非開示で推定配分。
海上用無線
漁船・ヨット・沿岸警備隊向けの無線機。規制の改定で更新需要が出る。
| 数量世界の海上用無線機市場(今の値段で測った実質・億円、推定) | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 800 | 4.2% | 34 | 3 |
| 10 年後 中立 | 880 | 5.6% | 49 | 4 |
取り方:世界の市場を約800億円と推定。売上は構成比と前期比の増加額から33.5億円と推定し、シェアは約4%。市場は実質で、物価3%は価格に入れた。営業利益は非開示で推定配分。
付属機器・その他
航空用無線機、ネットワーク機器、通話アプリ、保守契約、官公庁・教育機関向け案件。
| 数量官公庁向け通信・航空無線・アプリ・保守の市場(今の値段で測った実質・億円、推定) | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5,000 | 1.4% | 71 | 7 |
| 10 年後 中立 | 5,750 | 2.2% | 127 | 14 |
取り方:対象の市場を約5,000億円と仮置きした(開示なし)。売上は前期比の増加額から71億円と推定し、シェアは約1.4%。ストック型の売上(全社の約10%)の多くがここに入る。市場は実質、物価3%は価格に入れた。営業利益は非開示で推定配分。
リスクと懸念
米国の関税と需要の冷え込み
売上の4分の1は米州で、関税で買い控えと在庫調整が出た。価格転嫁が効かなければ、利益率は過去の低い年に戻りうる。
スマホ回線・アプリによる置き換え
現場の通話がスマホ回線とアプリへ移れば、専用機の値段と数量は下がる。自社のアプリで補えるかが分かれ目だ。
巨大な競合との規模の差
業務用はモトローラ・ソリューションズやJVCケンウッドが先にいる。中国勢の安価な機種も、アマチュア用の入門機とIP無線に入ってくる。
資本の使い道と M&A の巧拙
現金が厚く、中期計画は提携とM&Aを掲げる。割高な買収や統合の失敗が起きれば、せっかくの現金が減る。買収の実績は小さく、巧拙は未知だ。
新規格・防衛通信の収益化の遅れ
MC-PTT の収益化は2028年後半で、MA-DNX 対応端末も研究の段階だ。遅れれば、その間の投資の回収が先に延びる。
大株主の動き
筆頭株主は約14%、光通信は約8%を持つ。株価が自己資本を下回る状態が続けば、株主提案や買収が来て、経営の方針が変わりうる。
愛好家の高齢化
アマチュア用は利益率が高いが、人数は増えにくい。新製品の周期がずれると、年ごとの利益が大きく動く。
今後の分かれ目
- MC-PTT 対応機で国内の警察・消防から大型案件を取る
- 業務用の売上が計画を上回り、楽観側の筋書きに近づく。
- 自社株買いや大幅な増配で、現金が株主へ戻り始める
- 余った現金の戻り方を1.0に近づけて評価でき、価値は上がる。
- 米国の関税が引き上げられ、米州の売上がさらに落ちる
- 利益率が過去の低い年に近づき、慎重側の筋書きに寄る。
- 割高な買収を実行し、のれんが大きく積み上がる
- 現金の価値が損なわれ、悲観側に近づく。統合の成否が次の変数になる。
- 保守・アプリのような積み上げ型の売上が全社の2割に近づく
- 利益の振れが小さくなり、中立の営業利益率を少し上げて見られる。
- 大株主の増加や株主提案、TOB の動きが出る
- 現金の戻りや事業の見直しが早まり、評価が上振れする可能性がある。
見ておくもの
- 営業利益率の推移(計画は10%)と、米州の売上の戻り
- 保守・アプリなど積み上げ型の売上比率(今は約10%)
- MC-PTT 対応機の出荷時期と、MA-DNX 対応端末の投入
- 自社株買い・増配の発表と、キャッシュアロケーションの見直しの中身
- 大株主の持株比率の変化と、M&A・提携の案件
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や PER を見ず、10年後の事業の純利益と、事業の ROE・資本コスト(基本7.5%に quality +0.75%)から導いた上限(ROE が k 以下なので 1÷k)の約8〜9.5割に置いた。余った現金は戻り方を半分と見て別に足した。悲観の床は純現金と売れる資産の税後で置き、過去の PBR の底は使っていない。為替は150円で固定し、会計基準の変更(新リース会計)で営業利益が少し増える点は、今と同じ形に揃えて置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.5→13.07 倍・やや楽観 PER 11→12.9 倍・中立 PER 10.5→12.9 倍・やや悲観 PER 10→10.68 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +0.75%を足して k 7.75%。純現金で借金の負担はなく、extra は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。