結論
浜松ホトニクスは、光を電気に変える部品と、それを使う装置を作る会社だ。看板は光電子増倍管という、微弱な光をとらえる真空管で、世界シェアは9割ほどとされる。医療、素粒子物理、半導体検査と、用途は広い。
筆者の結論は「やや割高」である。いちばんの理由は、値段と稼ぐ力のずれだ。直近の営業利益率は7.6%まで落ち、ROEは4.4%。それなのに今の時価総額は、利益の大きな回復をほぼ織り込んでいる。
事業そのものは悪くない。受光と発光の両方を手がける会社は世界でも少ない。量産品を避け、少量で注文の入る領域に絞ってきたため、大手が入りにくい。半導体の検査向けは生成AIで勢いづき、2026年9月期の営業利益は220億円と、前期の1.4倍を見込む。
それでも、中立の筋書きでは10年後の営業利益率は2割弱、ROEは12%前後にとどまる。強い会社だが、倍率が大きく跳ねる水準ではない。資本コストは基本7.5%に、循環+0.5%・値決め力−0.5%・寿命−0.25%を入れた7.25%で測っている。
気がかりは、買収したレーザ事業の赤字と、販管費の膨らみだ。デンマークのNKT Photonicsを約420億円で買ったが、レーザ事業はまだ赤字から抜けていない。ここで利益が戻るかどうかが、10年後の姿を分ける。
今の値段は、AI向け需要が長く続き、赤字事業も黒字になる筋書きを前提にしている。会社の質は高い。ただ、払う値段に安全域は見当たらない。
バリュー投資の観点から
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、見かけより小さい。研究開発と設備投資に、毎年多くを再投資しているからだ。それでも、その投資で光電子増倍管という代わりのない製品を守ってきた。この点は評価できる。
10年後も存在する事業か、と問えば、答えは「はい」だ。光センサーの需要は、半導体、医療、科学の三つが支える。いずれも減る気配がない。堀は、電子管では強く、光半導体では中くらい、レーザではまだ見えない。会社全体では、強いとまでは言えない。
資本の使い方には、疑問が残る。レーザ事業の買収は、約420億円を投じて、まだ利益に結びついていない。買収の規律については、もう一段の説明がほしい。
そして、値段だ。バリュー投資の観点では、良い会社を適正な値段で買うのが基本である。いまの時価総額は、予想の営業利益の30倍近く、実績の純利益の40倍を超える。利益がAI需要で大きく戻っても、この倍率は保てない。会社の質は高い。しかし、払う値段に安全域がない。わからない部分、つまりレーザの黒字化とAI需要の持続は、確信度を下げて見る。
何で稼ぐ会社か
事業は4つに分かれる。売上の大きい順に、光半導体が795億円、電子管が719億円、画像計測機器が327億円、レーザが223億円である。海外売上が8割近い。
光半導体は、フォトダイオードやMPPCなど、光を電気に変える素子だ。医療用のCTや分析機器、車載、光通信に入る。電子管は光電子増倍管が中心で、微弱な光を大きく増やして測る。素粒子の観測、血液検査、放射線の測定など、高い精度を求める現場で使われる。利益率が高く、同社の稼ぎ頭である。
画像計測機器は、半導体の故障解析装置や科学用カメラだ。最先端の半導体は不良を見つけるのが難しく、同社の光学技術の出番が増えている。レーザは、2024年に買収したNKT Photonicsが加わって売上が倍になった。ただ、利益はまだマイナスだ。
稼ぎ方に特徴がある。研究者や装置メーカーと一緒に、数十台、数百台の単位で部品を作る。値段を決める力が強い。そのぶん、全社の費用は重い。セグメント利益の合計は369億円だが、全社の営業利益は162億円まで下がった。差の207億円は、各事業に配られない全社の費用とみる。
2025年9月期は、販管費が132億円増え、うち101億円はM&A関連と説明されている。売上は4%伸びたのに利益が半分になったのは、需要より費用の増え方が効いたからだ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、電子管と光半導体の深い技術にある。光電子増倍管はほぼ独占で、代わりのきかない用途が多い。受光と発光の両方を作れる点も、顧客の開発に食い込む力になっている。
高い利益率を長く保ってきたのが、その証拠だ。営業利益率は2014年から2019年まで17〜19%で、2022年には27%まで上がった。研究者との近さから、要望を製品に素早く落とし込める。ここは簡単にまねされない。
弱いところも見ておきたい。第一に、堀が効くのは電子管と光半導体の一部で、売上の半分に満たない。レーザは競合の多い市場で、まだ強みを示せていない。第二に、利益の山と谷が大きい。2022年の413億円から2025年は142億円まで落ちた。半導体や医療機器の設備投資の波をまともに受ける。第三に、全社費用が重い。売上が伸びない年は利益を直撃する。
財務は強い。自己資本比率は7割で、純現金がある。借金で首が回らなくなる心配はない。ただし、レーザ事業に資本を割いたことで、資本効率は目に見えて落ちた。ROEは2022年の14.7%から4.4%まで下がっている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
半導体検査と医療機器が、需要を左右する二本柱だ。
半導体の検査では、微細化と3次元化が進み、不良を見つける作業が難しくなった。光で故障の場所を探る装置や、検査用の光センサーの需要が伸びる。生成AI向けの先端半導体の増産も追い風になる。2026年9月期は第2四半期と第3四半期に続けて予想が上がった。半導体製造・検査装置向けの売上は約400億円を見込む。
医療・バイオは、いまは弱い。装置メーカーの投資抑制が響いた。ただ、PET(陽電子断層撮影)やX線CTなどは、高齢化とともに長く伸びる分野だ。ここが戻れば、電子管と光半導体の利益が厚くなる。
競合は、事業ごとに違う。光電子増倍管は競合が限られる。光半導体は、米欧の専業や日本・海外の電子部品メーカーが並ぶ。レーザは、IPGやコヒレントなど規模の大きな専業と戦う。NKTのスーパーコンティニューム光源は一定の地位があるが、全体では後発だ。
光通信は、データセンターの増設で光トランシーバーの需要が増える。同社の光半導体にも波及する可能性がある。ただ、大量生産で価格を下げる競争になりやすい。同社の得意な少量・高付加価値とは性格が違う点には注意が要る。
資本政策と M&A
還元の方針は、配当性向30%を目安に、DOE(自己資本に対する配当の割合)を下限に置く。下限は3.5%と報じられている。2026年9月期は増配を続ける予想である。
2025年11月には、上限200億円・1,500万株(発行済みの5%)の自社株買いを決めた。期間は2026年9月までで、資本効率を上げる意図がはっきりしている。利益が落ちた年に、あえて買いを入れた点は評価できる。
買収では、NKT Photonicsが最大だ。2022年に約295億円で合意したが、デンマーク政府の審査で一度は却下された。再申請を経て、2024年5月に約420億円で完了している。値段が4割ほど上がっており、買い手としてのタイミングは悪かった。NKTは2023年12月期に営業赤字だった。会社はレーザ事業の売上400億円超を目指すが、黒字化のめどは確かめられなかった。
政策保有株は最小限にする方針だ。設備投資は2025年9月期に359億円と、前の期より増えた。純現金は200億円まで減っている。
他社に買われる可能性は、kabufuの推定で10年に15%ほどだ。規模が大きく、研究者との関係が資産であるため、実際に起きるかは読みにくい。
2025 年 11 月決議の自社株買い 200 億円は実行済みとして株数と自己資本の起点に反映したため、10 年の還元からは除いた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体の検査向けが、10年続く成長の柱になる。先端半導体は構造が複雑になり、不良を光で見つける装置と、その部品の需要は伸び続ける。生成AIの増産がこの追い風を太くしている。2026年9月期の予想が2回も上がったのは、その表れだ。電子管の光電子増倍管は、ほぼ独占のまま、医療と素粒子物理で使われ続ける。
営業利益率は、2022年に27%まで上がった。いまは費用が先行して7.6%に落ちたが、費用の増え方が落ち着き、売上が戻れば、2割を超える水準に戻る力がある。会社も営業利益率20%以上を目標に掲げてきた。
NKT Photonicsのレーザ事業も、半導体の製造や量子技術の光源として需要がある。赤字が止まり、利益が出るようになれば、全社の利益率をさらに押し上げる。量産ではなく少量・高付加価値という同社の型は、AIの波でも崩れない。
自己資本比率が7割、純現金があり、DOE3.5%を下限に株主還元も続ける。10年後には、営業利益が今の5倍を超え、ROEも15%を超える姿を描ける。それなら、今の値段にも一定の説明がつく。
慎重な見方
いまの値段は、利益の回復を何年も先取りしている。営業利益率7.6%、ROE4.4%の会社に、純利益の40倍を超える倍率がついている。2026年9月期の予想でも、営業利益は220億円で、2022年のピーク570億円の4割にすぎない。
回復の中身にも疑問がある。上方修正の主役は半導体の検査向けだが、これは設備投資の波が大きい分野だ。AIの投資が一巡すれば、波は反対に振れる。医療・バイオは弱いままで、戻る時期が読めない。
費用の重さも気になる。販管費は1年で132億円増えた。研究開発や人件費は、一度増やすと戻しにくい。売上が伸びない年は、利益をそのまま削る。
レーザ事業は、買収した当初から赤字が続く。IPGやコヒレントなど規模の大きな専業と戦う市場で、後発の同社が利益を出せる保証はない。約420億円の買収は、高い買い物になった可能性がある。
光電子増倍管は独占だが、市場そのものが小さい。会社の成長を支えるには足りず、伸びる分野ほど競合が多い。堀の強い部分と、成長する部分が重なっていない。この矛盾が、倍率を押し下げる。
どちらに重みを置いたか
事業の質では強気の見方が上回る。電子管と半導体検査向けの技術は本物で、利益率は元の水準に戻る力がある。ただ、値段の面では慎重な見方が勝つ。中立でも10年後のROEは12%ほどで、倍率は15倍前後が限度だ。
確率は中立に4割近くを置き、やや楽観を2割台半ばまで厚くした。堀と財務の強さを認めたためだ。一方で、赤字のレーザ事業と費用の膨らみを重く見て、やや悲観を2割に置いた。悲観は1割とした。悲観が厚いのは、電子管の置き換えとレーザの失敗が長引く場合を見ているからだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/09 期)
確率で加重した株価時価総額 3,490 円1.01 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 661 円1,906 億円)。 今の値に割り戻すと 2,246 円6,472 億円、今との差 +7.6%、 期待の年率 +7.1%(資本コスト 7.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 7,278 円2.10 兆円 | 1,129 円3,253 億円 | +302.9% | +15.0% | 841 円2,423 億円 |
| やや楽観 | 24% | 5,330 円1.54 兆円 | 897 円2,584 億円 | +198.4% | +11.6% | 1,494 円4,307 億円 |
| 中立 | 36% | 3,536 円1.02 兆円 | 688 円1,984 億円 | +102.5% | +7.3% | 1,521 円4,383 億円 |
| やや悲観 | 20% | 982 円2,829 億円 | 341 円982 億円 | −36.6% | −4.5% | 264 円762 億円 |
| 悲観 | 10% | 138 円398 億円 | 173 円500 億円 | −85.1% | −17.3% | 31 円90 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,490 円1.01 兆円 | 661 円1,906 億円 | +99.0% | +7.1% | 4,152 円1.20 兆円 |
今の株価時価総額 2,087 円6,013 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 検査・医療・レーザの三本柱がそろう 利益 976 億円 · PER 21.5 倍 · 株価時価総額 7,278 円2.10 兆円
半導体検査の需要が10年を通じて伸び、光センサーと故障解析装置が全社の柱に育つ。電子管は光電子増倍管の独占を守り、医療と科学の需要が着実に増える。レーザ事業はNKTの技術を軸に、量子技術や半導体の製造向けで採用が進み、売上は400億円を大きく超えて黒字になる。研究開発への投資が成果につながり、営業利益率は2割台半ばで安定する。ROEは17%前後まで戻り、株主還元も厚くなる理想的な10年である。10年の間に、半導体の微細化と生成AIの計算需要が続き、検査向けの光センサーは、いまの2倍近い規模に育つ。医療向けも、高齢化と新しい診断装置で安定して伸びる。研究開発の成果が製品の値段に表れ、値上げの力も保たれる。
- 光半導体:数量 72.0(高性能光検出器・光半導体素子の対象市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 30(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 2,171 億円・営業利益 803 億円。対象市場 72 億ドル(実質)× シェア 15.0%、営業利益率 37%
- 電子管:数量 9.2(光電子増倍管ほか電子管の対象市場(億ドル・実質))× 価格 145(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,331 億円・営業利益 506 億円。対象市場 9.2 億ドル(実質)× シェア 72.0%、営業利益率 38%
- 画像計測機器:数量 44.0(半導体故障解析・科学計測カメラなどの対象市場(億ドル・実質))× 価格 20(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 884 億円・営業利益 301 億円。対象市場 44 億ドル(実質)× シェア 10.0%、営業利益率 34%
- レーザ:数量 100(科学・産業用の特殊レーザの対象市場(億ドル・実質))× 価格 8.04(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 804 億円・営業利益 145 億円。対象市場 100 億ドル(実質)× シェア 4.0%、営業利益率 18%
倍率:事業の純利益 976 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.7% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 14.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.5 倍。全体の PER 21.49 倍、時価総額 20,974 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体検査、医療、レーザの三つが同時にうまくいく必要があり、連続成功の確度は高くない。
やや楽観 24% 営業利益率20%の目標を10年かけて達成 利益 753 億円 · PER 20.4 倍 · 株価時価総額 5,330 円1.54 兆円
半導体と医療の両方が緩やかに伸び、光半導体と電子管で利益率が戻る。レーザ事業は黒字になるが、競合の多さから利益率は1割台半ばにとどまる。研究開発費は物価で増えるが、売上の伸びがそれを上回る。営業利益率は2割強で落ち着き、ROEは15%前後になる。世界の半導体の需要は10年で見れば伸びる方向にあり、同社の光技術の出番は広がる。ただし、競合が追い上げ、独占的な利益率までは戻らない。電子管は安定した利益を出し続け、光半導体と画像計測機器が成長を担う。会社の自己資本は着実に積み上がり、配当も増える。投資家は同社を、優良な部品メーカーとして評価し直す。
- 光半導体:数量 65.0(高性能光検出器・光半導体素子の対象市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 29(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,894 億円・営業利益 644 億円。対象市場 65 億ドル(実質)× シェア 14.5%、営業利益率 34%
- 電子管:数量 8.6(光電子増倍管ほか電子管の対象市場(億ドル・実質))× 価格 141(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,210 億円・営業利益 430 億円。対象市場 8.6 億ドル(実質)× シェア 70.0%、営業利益率 36%
- 画像計測機器:数量 40.0(半導体故障解析・科学計測カメラなどの対象市場(億ドル・実質))× 価格 19(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 764 億円・営業利益 237 億円。対象市場 40 億ドル(実質)× シェア 9.5%、営業利益率 31%
- レーザ:数量 90.0(科学・産業用の特殊レーザの対象市場(億ドル・実質))× 価格 7.44(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 669 億円・営業利益 100 億円。対象市場 90 億ドル(実質)× シェア 3.7%、営業利益率 15%
倍率:事業の純利益 753 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.8% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 12.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.4 倍。全体の PER 20.4 倍、時価総額 15,361 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社が目標に掲げてきた営業利益率20%以上を、10年かけて達成するという筋書き。実現の確度は中程度。
中立 36% 中立:優良だが普通の倍率に収まる 利益 553 億円 · PER 18.4 倍 · 株価時価総額 3,536 円1.02 兆円
事業は崩れないが、特別に伸びもしない10年になる。半導体向けは緩やかに伸び、医療は高齢化とともに安定する。電子管の利益率は戻るが、市場が小さく成長への貢献は限られる。レーザは赤字を脱するが、利益率は1割ほどにとどまる。営業利益率は2割弱で、過去の平均に近い。ROEは12%前後に落ち着く。配当と自社株買いを続けながら、自己資本は緩やかに積み上がる。優良だが、利益に見合った普通の倍率がつく姿である。研究開発の費用は物価とともに増えるが、売上の伸びがそれを吸収する。10年後も、光センサーの需要は半導体、医療、科学の三つが支える。会社の姿は大きくは変わらず、地味に積み上がっていく。
- 光半導体:数量 58.0(高性能光検出器・光半導体素子の対象市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 28(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,632 億円・営業利益 506 億円。対象市場 58 億ドル(実質)× シェア 14.0%、営業利益率 31%
- 電子管:数量 8.0(光電子増倍管ほか電子管の対象市場(億ドル・実質))× 価格 133(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,061 億円・営業利益 350 億円。対象市場 8.0 億ドル(実質)× シェア 66.0%、営業利益率 33%
- 画像計測機器:数量 36.0(半導体故障解析・科学計測カメラなどの対象市場(億ドル・実質))× 価格 18(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 651 億円・営業利益 182 億円。対象市場 36 億ドル(実質)× シェア 9.0%、営業利益率 28%
- レーザ:数量 78.0(科学・産業用の特殊レーザの対象市場(億ドル・実質))× 価格 6.83(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 533 億円・営業利益 64 億円。対象市場 78 億ドル(実質)× シェア 3.4%、営業利益率 12%
倍率:事業の純利益 553 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.3% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.4 倍。全体の PER 18.43 倍、時価総額 10,192 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の需要の見通しと、過去の利益率の平均、堀の強さを合わせた中心の筋書き。
やや悲観 20% 競合の追い上げで強みが薄れる 利益 215 億円 · PBR 0.9 倍 · 株価時価総額 982 円2,829 億円
半導体検査の需要は伸びるが、競合の追い上げで光半導体の利益率が落ちる。中国メーカーの台頭も圧力になる。医療向けは成熟し、電子管の売上は伸びない。レーザ事業は黒字に届かず、のれんの減損が出る。費用の重さが残り、営業利益率は1割を切る。ROEは5%台で、資本コストを下回り続ける。配当は維持するが、成長期待が後退し、倍率は低くなる。10年後には、同社の光半導体は、価格競争の激しい分野に押し出される。電子管の安定した利益はあるが、会社全体の伸びを支えるには足りない。自社株買いは小さくなり、株主還元の厚みも減る。
- 光半導体:数量 50.0(高性能光検出器・光半導体素子の対象市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 25(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,256 億円・営業利益 276 億円。対象市場 50 億ドル(実質)× シェア 12.5%、営業利益率 22%
- 電子管:数量 7.0(光電子増倍管ほか電子管の対象市場(億ドル・実質))× 価格 121(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 844 億円・営業利益 203 億円。対象市場 7.0 億ドル(実質)× シェア 60.0%、営業利益率 24%
- 画像計測機器:数量 31.0(半導体故障解析・科学計測カメラなどの対象市場(億ドル・実質))× 価格 16(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 498 億円・営業利益 100 億円。対象市場 31 億ドル(実質)× シェア 8.0%、営業利益率 20%
- レーザ:数量 68.0(科学・産業用の特殊レーザの対象市場(億ドル・実質))× 価格 6.03(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 410 億円・営業利益 12 億円。対象市場 68 億ドル(実質)× シェア 3.0%、営業利益率 3%
倍率:ROE5.4%でkを大きく下回る。今の自己資本3215億円の0.88倍(稼ぐ力:純利益215÷k7%=約2970億円の9割弱)に置いた。現金・設備が床になるが、成長期待が後退した筋書き。
確率:競合の追い上げと費用の重さで、会社の強みが薄れていく筋書き。中立に次いで厚く置く。
悲観 10% 電子管の置き換えとレーザの失敗が重なる 利益 31 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 138 円398 億円
光センサーの用途が、新しい技術に置き換わる。光電子増倍管の一部は半導体型のセンサーに代わり、電子管の売上は大きく落ちる。半導体検査では海外の競合に押され、シェアを失う。レーザ事業はのれんを大きく減損し、撤退も視野に入る。営業利益はほぼゼロで、研究開発費の負担に耐えにくい。自己資本比率は高いため倒産はしないが、優良企業としての評価は外れる。研究開発費は固定的で、売上が落ちると削りにくい。会社は費用の見直しを迫られ、人員と研究の体制を縮める。優れた技術者の流出が起き、技術の優位がさらに揺らぐ。配当は手元の現金や有価証券の売却で払い続け、還元の合計は利益を上回る。10年で見ると、元の優良企業とはいえない姿になる。
- 光半導体:数量 40.0(高性能光検出器・光半導体素子の対象市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 22(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 884 億円・営業利益 141 億円。対象市場 40 億ドル(実質)× シェア 11.0%、営業利益率 16%
- 電子管:数量 5.5(光電子増倍管ほか電子管の対象市場(億ドル・実質))× 価格 101(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 553 億円・営業利益 94 億円。対象市場 5.5 億ドル(実質)× シェア 50.0%、営業利益率 17%
- 画像計測機器:数量 25.0(半導体故障解析・科学計測カメラなどの対象市場(億ドル・実質))× 価格 14(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 352 億円・営業利益 46 億円。対象市場 25 億ドル(実質)× シェア 7.0%、営業利益率 13%
- レーザ:数量 55.0(科学・産業用の特殊レーザの対象市場(億ドル・実質))× 価格 5.03(実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 276 億円・営業利益 −6 億円。対象市場 55 億ドル(実質)× シェア 2.5%、営業利益率 -2%
倍率:構造的に負け、営業利益はほぼゼロで純利益は31億円。レーザののれん減損を織り込み自己資本は2000億円まで減る。売れる資産の根拠を積めないので、稼ぐ力(純利益31÷k7%=約430億円)から出した。倒産の懸念はない。
確率:構造的に負けるケース。電子管の代替が進み、レーザの失敗が重なる。低頻度だが、費用が重い体質では起きたときの傷が深い。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
光半導体
フォトダイオードやMPPCなど、光を電気に変える素子。医療・分析機器、車載、光通信、半導体検査に入る。
| 数量高性能光検出器・光半導体素子の対象市場(億ドル・今の値段で測った実質) | 価格実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 40.0 | 20 | 795 | 126 |
| 10 年後 中立 | 58.0 | 28 | 1,632 | 506 |
取り方:対象市場は開示がなく、筆者の推定。高性能の光検出器・光半導体のうち、同社が戦える領域を約 40 億ドルと置いた。売上 795 億円はシェア 13.3% × 150 円で逆算。物価の 3% は価格の側に入れた。
電子管
光電子増倍管、イメージ機器、光源。素粒子観測・医療・分析・放射線測定に使う。
| 数量光電子増倍管ほか電子管の対象市場(億ドル・実質) | 価格実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 7.0 | 103 | 719 | 190 |
| 10 年後 中立 | 8.0 | 133 | 1,061 | 350 |
取り方:光電子増倍管の世界シェアは約 9 割とされる。ほかの電子管を含む対象市場を約 7 億ドルと推定し、売上 719 億円からシェア 68% を逆算した。市場は小さく伸びも緩い。
画像計測機器
半導体の故障解析装置、科学用カメラ、画像処理装置。
| 数量半導体故障解析・科学計測カメラなどの対象市場(億ドル・実質) | 価格実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 25.0 | 13 | 327 | 97 |
| 10 年後 中立 | 36.0 | 18 | 651 | 182 |
取り方:半導体の故障解析装置と科学用計測のニッチを約 25 億ドルと推定。売上 327 億円からシェア 8.7% を逆算。半導体向けが伸び、2026 年 9 月期の故障解析装置は 113 億円を見込むとされる。
レーザ
NKT Photonics を中心としたファイバーレーザ、スーパーコンティニューム光源、半導体レーザ。
| 数量科学・産業用の特殊レーザの対象市場(億ドル・実質) | 価格実質の対象市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 60.0 | 3.72 | 223 | −44 |
| 10 年後 中立 | 78.0 | 6.83 | 533 | 64 |
取り方:NKT 加入で売上が倍になったレーザを、科学・産業用の特殊レーザ約 60 億ドルの市場と置き、売上 223 億円からシェア 2.5% を逆算。区分利益は 44 億円の赤字。
リスクと懸念
レーザ事業の赤字が長引く
NKT Photonicsを約420億円で買収したが、レーザ事業の区分利益は2025年9月期に44億円の赤字だった。黒字化の時期は確かめられていない。競合の多い市場で採算がとれなければ、のれんの減損につながる。
半導体・医療の設備投資の波
半導体製造・検査装置や医療機器の需要は、設備投資の循環に左右される。2023年から2025年にかけて、営業利益は567億円から162億円まで落ちた。AI向けの投資が一巡すれば、現在の好調も反転しうる。
全社費用の重さ
販管費は2025年9月期に132億円増え、うちM&A関連が101億円とされる。研究開発も含め、固定的な費用が増えており、売上が伸びない年は利益を直撃する。研究開発への投資は技術の源だが、売上の裏づけがないと利益を削る。一度増やした人件費は戻しにくい。
光電子増倍管の市場の小ささ
世界シェアは9割でも、市場そのものが大きくない。独占の利益は、会社全体の成長を支えるほどの規模にはならない。半導体型のセンサーに置き換わる分野もありうる。利益の質は高いが、全社を支えるほどの量ではない。成長は別の事業に頼ることになる。
買収の規律
NKTの買収は、デンマーク政府の審査で一度却下され、再申請の末に約420億円で完了した。当初の約295億円から値段が上がった。次の大型買収が出るなら、資本配分の規律が問われる。買収の効果が見えないまま時間がたつと、資本配分への信頼が揺らぐ。
競合の追い上げ
光半導体では米欧と日本の専業・電子部品メーカー、レーザではIPGやコヒレントなど規模の大きな専業が相手だ。中国メーカーの台頭も、価格を押し下げる要因になる。新しい用途に出ていくほど、先行する競合との差は小さくなり、利益率にも響く。
今後の分かれ目
- 半導体検査向けの売上が会社予想を上回り続け、営業利益率が20%を超えたら
- やや楽観・楽観の確率を上げてよい。10年の営業利益率の前提を見直す。
- 医療・バイオ向けの売上が戻らず、電子管の利益が伸び悩んだら
- 中立からやや悲観に重みを移す。電子管の利益率の前提を下げる。
- レーザ事業が黒字化し、売上400億円を超えたら
- 買収の回収が見えるので、レーザの利益率の前提を上げる。全社の倍率の見方も上がる。
- NKTののれんに減損が出たら
- 資本配分への確信度を下げ、やや悲観の確率を厚くする。
- AI向けの設備投資が一巡し、半導体装置メーカーの受注が落ちたら
- 3年の筋書きでやや悲観・悲観の確率を上げる。半導体向けの前提を下げる。
- 販管費の増加が止まり、営業利益率が2割に近づいたら
- 中立の利益率に近づくので、確率を中立・やや楽観側へ寄せる。
見ておくもの
- 半導体製造・検査装置向けと故障解析装置の売上・受注
- 医療・バイオ向け(電子管・光半導体)の売上の戻り
- レーザ事業の区分利益と黒字化の時期
- 販管費の増加率と営業利益率(20%目標との距離)
- 自社株買いの進み具合とDOEの水準
- 新しい中期経営計画の数値目標
倍率と資本コストの決め方
資本コストは基本7.5%に、循環+0.5%・値決め力−0.5%・寿命−0.25%を入れた7.25%とした(強い堀の会社なので下げは−0.5%まで)。倍率は利益ベースの正当化PERの上限に、堀の強さに応じた8.5〜9割を掛けて置いた。今の株価や今のPER(40倍超)には寄せていない。中立のPERは約15倍で、1÷kを下回らせない形にした。悲観は稼ぐ力と自己資本から出した。純現金は200億円(時価総額比3%)にとどまり、余った現金は分けていない。工場・研究所は自社保有が中心とみて、リースの固定の約束は小さいとみた(未確認)。新リース会計基準で形が変わっても、この分析は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえている。対象市場の大きさは開示がなく、筆者の推定。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 18.93→21.49 倍・やや楽観 PER 16.89→20.4 倍・中立 PER 15.12→18.43 倍・やや悲観 PBR 0.85→0.88 倍・悲観 PER 12.4→12.84 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。