結論
コーセルは、産業機器・半導体製造装置向けのスイッチング電源を作る富山の会社だ。時価総額の半分近くが純現金で、財務は鉄壁に近い。ただ筆者の結論は「割高」である。理由は、稼ぐ力が資本コストに届かないことだ。
2026年5月期は売上高250億円、営業赤字7億円。顧客の在庫調整が長引いた。受注は戻り、今期は営業黒字に戻る計画だ。ところが会社自身の中期計画が、3年後の ROE 5.2%、営業利益率 8.5% を目標にしている。資本コストを下回る目標だ。
電源は標準品が多く、台湾や中国の勢力と値段で競る。値決めの力は強くない。単価は物価ほど上げられないと見た。台数は戻っても、利益率は 10% 強にとどまる。
余った現金は帳簿の値で足した。それでも 10 年後の中立の時価総額は今とほぼ同じだ。配当を足しても年率 4% ほどで、資本コスト 8.25% に届かない。確率を掛けた本質価値は今を 3 割ほど下回る。楽観の筋書きでようやく今の倍になる。筆頭株主は台湾の Lite-On で、持株は約 2 割ある。提携の深まりや買収提案は、下振れを和らげる材料だが、計算には入れていない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、安全域は財務にはあるが、事業にはない。
純現金 270 億円は、時価総額の半分近い。これだけで株主は守られているように見える。しかし、現金は事業が稼いだお金であり、事業の稼ぐ力が資本コストを超えなければ、価値は積み上がらない。この会社の ROE は、過去 10 年の中央値で 5% だ。ためた利益は、額面より低い価値でしか評価されない。
堀は、品質への信頼にある。ただ、標準品では値段の競争になる。値上げの力は強くない。固定費が重く、利益が山と谷で大きく振れる。オーナーとして長く持ちたい事業とは言いにくい。
資本の使い方にも不安が残る。Powerbox の買収が 8 年で売却に終わった。新しい中期計画も再び買収を掲げている。
余った現金は帳簿の値で数え、事業は利益で測った。それでも払う値段に安全域は乏しい。確かな安全域が生まれるのは、値段が今の半分以下になる時だと筆者は考える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、機械の中に入る小さな電源だ。コーセルは交流を直流に変えるユニット型電源を、半導体製造装置、産業用ロボット、医療機器、通信機器、車載の周辺設備に納める。単一の事業で、2026年5月期の売上高は250億円、うち海外は64億円だった。
顧客は装置メーカーなど法人で、品質の信頼が買われる。電源が止まれば装置全体が止まる。だから価格だけで選ばれる商品ではない。それでも標準品の領域では、台湾の同業が低価格で攻める。
自社の工場は富山の拠点が中心だ。固定費が重く、売上が落ちると利益は一気に赤字へ沈む。2024年5月期は売上414億円・営業利益69億円だった。その2年後に営業赤字へ落ちた。落差の大きさがこの事業の特徴だ。
2018年に買収したスウェーデンの電源会社 Powerbox International は、2026年8月に売却する契約を結んだ。この件で 36 億円の特別損失が出た。海外で電源を伸ばす足場にしたかった買収は、8 年で手放す結果になった。
なお、売上の大半は国内向けで、受注は装置メーカーの生産計画に左右される。製品は標準品と、顧客ごとの特注品に分かれ、特注品は設計に組み込まれるため価格が比較的安定する。新製品の開発は、小型化と省エネ、そして高電圧・大電流への対応が中心だ。
優良さと弱いところ
堀は、信頼と国産という安心にある。ただ、広い堀とは言えない。
良い点はまず財務だ。自己資本比率は 86%、純現金は約 270 億円ある。借金で行き詰まる心配はほぼない。装置メーカーが採用すると、電源は設計に組み込まれる。簡単には入れ替わらない。
悪い点は三つある。一つ目は値決めの力だ。標準品は台湾勢と同じ土俵で戦う。二つ目は固定費だ。売上が 2 割落ちると営業赤字になることを、この 2 年が示した。三つ目は資本の使い方だ。ROE は過去 10 年の中央値が 5% で、資本コストを大きく下回ってきた。純現金は 10 年かけて積み上がり、その間、自己資本利益率は上がらなかった。
経営は配当を厚くすることで還元の姿勢を示している。ただ、ためた現金を事業の稼ぎに変える力は、まだ確かめられていない。買収の実績も Powerbox で苦い結果になった。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
電源の市場は、機械の台数に連動する。半導体製造装置、産業ロボット、工作機械、医療機器、車載の設備投資が増えれば、電源の需要も伸びる。2023年ごろの部品不足の時期に、顧客が電源を先に積み増した。その反動で、2025年から顧客の在庫調整が長引いた。
今は底を打った。受注は前年に比べて大きく増え、四半期ごとの売上も戻っている。AI 関連の設備や、半導体製造装置向けが先頭を走る。
競合は海外勢が多い。台湾の Mean Well は標準品で低価格の代表格で、TDK-Lambda、Delta、XP Power などが高付加価値の領域で競う。中国勢も標準品に入ってきた。コーセルが台湾の Lite-On と共同ブランドを立ち上げたのは、中価格帯で価格競争に対抗する狙いだ。
この領域は数量が実質で急に伸びる市場ではない。機械の台数と共に緩やかに伸び、物価の分は価格に乗る。ただ、競争のため価格は物価ほど上げにくい。筆者は、標準品の価格上昇が物価を下回ると見る。
中国の景気は、半導体装置と産業機器の両方に響く。国内の電源会社は、中国向けの輸出が戻るかどうかで、売上の戻りの速さが変わる。
資本政策と M&A
資本政策は、会社の評価を分ける点だ。
配当は自己資本に対して 3.5% を下限とする累進方針で、今期は利益を超える配当を続ける。株主優待も新設した。還元の姿勢は明確だ。一方、自社株買いは確認できなかった。
買収では、2018年の Powerbox 取得が 8 年で売却に終わった。今回の中期計画(2027年5月期〜2029年5月期)は、再び M&A で新しい事業に入ることを掲げる。純現金が厚いだけに、使い方次第で価値を壊す危険がある。
筆頭株主は台湾の Lite-On Technology で、約 2 割を持つ。共同ブランドで組んでおり、提携が深まる、あるいは買収提案が出る可能性もある。kabufu の推計では、10 年内の買収・TOB の確率は 18% だ。ただし、時期も価格も不確かで、本質価値の計算には入れていない。
10年の還元は、自己資本の3.5%を下限とする累進配当の方針の範囲に置いた。自社株買いは確認できず、入れていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
受注は前年に比べて 4 割以上増え、在庫調整は終わった。今期は営業黒字に戻る計画で、第 1 四半期の売上は前年同期の 5 割増に達した。底は抜けたと見てよい。半導体製造装置と AI 関連の設備は、10 年単位で伸びる市場だ。高信頼の電源は、止まると機械全体が止まるので、価格だけでは選ばれない。
コーセルには、純現金 270 億円がある。借金の心配がなく、固定費が重くても、赤字に耐えられる。台湾の Lite-On との共同ブランドは、中価格帯に入る足場になる。海外売上を 3 年後に 139 億円へ倍増する計画も、販路の厚みを示す。
営業利益率は、2024年5月期に 16.7% を記録した。需要が戻り、工場の稼働率が上がれば、固定費が薄まって利益率は大きく戻る。10 年のあいだに、半導体装置の台数は倍近くに増える。電源はその分だけ売れる。筆頭株主が Lite-On であることから、提携や買収で価値が表に出る可能性もある。
慎重な見方
資本コストを超える稼ぎが、この会社には見えない。過去 10 年の ROE の中央値は 5% だ。中期計画も、3 年後の ROE を 5.2% としている。会社自身が、資本コストを下回る水準を目標にしている。
2024年5月期の高収益は、部品不足で顧客が電源を先に積み増した結果だった。その反動で、2 年続けて営業赤字になった。山の利益を基準にしてはいけない。
電源の標準品は、台湾の Mean Well や中国勢と値段で競う。コーセルの値決めの力は強くない。共同ブランドで中価格帯に入っても、自社ブランドと食い合う危険がある。
さらに、買収の実績は Powerbox で苦い結果に終わった。新しい中期計画は再び M&A を掲げる。純現金は事業の稼ぎでなく、使い方次第で目減りする。配当は利益を超える水準で、現金を取り崩して払っている。
現金を帳簿の値で足してもなお、10 年後の中立の時価総額は今と同じ程度で、年率の収益は資本コストに届かない。筆頭株主の提携は、プラスにもマイナスにもなる。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、需要の回復と財務の厚みを根拠にする。どちらも本当だ。ただ、価値を決めるのは、需要の回復よりも、利益率が資本コストを超えるかどうかだ。会社の中計の目標自体が資本コストを下回っており、慎重な見方の方が説得力を持つ。確率は中立と、やや悲観に厚く置いた。楽観は 8% にとどめた。単一の事業で、固定費が重い会社の小さな上振れ余地を、厚く見る理由は乏しい。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/05 期)
確率で加重した株価時価総額 1,555 円640 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 515 円212 億円)。 今の値に割り戻すと 1,051 円432 億円、今との差 −19.4%、 期待の年率 +4.7%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 3,104 円1,277 億円 | 705 円290 億円 | +192.3% | +11.3% | 305 円125 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,383 円980 億円 | 608 円250 億円 | +129.5% | +8.7% | 598 円246 億円 |
| 中立 | 34% | 1,685 円693 億円 | 535 円220 億円 | +70.4% | +5.5% | 755 円310 億円 |
| やや悲観 | 26% | 834 円343 億円 | 486 円200 億円 | +1.3% | +0.1% | 343 円141 億円 |
| 悲観 | 12% | 338 円139 億円 | 243 円100 億円 | −55.4% | −7.8% | 70 円29 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,555 円640 億円 | 515 円212 億円 | +58.9% | +4.7% | 2,070 円852 億円 |
今の株価時価総額 1,303 円536 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% AI・半導体装置向けが太り、海外も開く 利益 71 億円 · PER 15.6 倍 · 株価時価総額 3,104 円1,277 億円
半導体製造装置と AI 関連の設備で、高信頼の電源の需要が 10 年にわたって伸びる。国内の在庫調整は終わり、台数は今の 8 割増に届く。台湾 Lite-On との共同ブランドが海外の販路を開き、海外売上が全体の 4 割を超える。再生可能エネルギーなど新しい用途の電源も加わる。値上げは物価並みに通り、工場の稼働率が上がって固定費が薄まる。営業利益率は過去の良い時期だった 15% 前後を取り戻す。買収は小粒で成功し、資本の使い方も落ち着く。この筋書きでは、筆頭株主の Lite-On との関係も良い方向に働く。共同ブランドの販路が広がり、双方の得意な領域が重なりにくい形で収まる。純現金は買収に使わず、配当と事業の投資で回る。
- スイッチング電源:数量 1,500(電源の年間出荷台数(万台、推定))× 価格 4,020(1 台あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 603 億円・営業利益 90 億円。台数 1500 万台、単価は今の 1.33 倍、営業利益率 15.0%
倍率:事業の純利益 68 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.4% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)220 億円。全体の PER 15.56 倍、時価総額 1,277 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体装置・データセンター向けの電源が 10 年続けて伸び、海外販売の拡大も成功するという、重なりの多い筋書き。小さな単一事業の会社なので確率は厚くしない。
やや楽観 20% 在庫調整が終わり、普通に成長する 利益 55 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 2,383 円980 億円
顧客の在庫調整が終わり、半導体装置・産業機器・車載の需要が元の水準を越えて伸びる。台数は今の 6 割増。海外販売は共同ブランドで伸びるが、台湾・中国勢との値下げ競争で単価は物価ほど上がらない。営業利益率は 13% まで戻る。純現金は厚いまま、配当は下限を守って続く。この筋書きでは、中計の目標(ROE 5.2%)を上回る水準に届く。ただし、台湾・中国勢の価格圧力は残り、利益率は過去の最良期には戻らない。海外売上は計画の 139 億円に近づくが、国内の成熟が重しになる。電源の特注品は設計に組み込まれて入れ替わりにくく、値段が崩れにくい。固定費が薄まる効果で、利益は台数の伸び以上に増える。
- スイッチング電源:数量 1,300(電源の年間出荷台数(万台、推定))× 価格 3,950(1 台あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 514 億円・営業利益 67 億円。台数 1300 万台、単価は今の 1.31 倍、営業利益率 13.0%
倍率:事業の純利益 52 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.9% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)220 億円。全体の PER 14.64 倍、時価総額 980 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注が戻っている今の流れと、会社の中計(営業利益率 8.5% 目標)よりは強い利益率が戻る想定。過去 10 年の営業利益率の中央値より少し高い。
中立 34% 需要は戻るが、利益率は 10% 強にとどまる 利益 39 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 1,685 円693 億円
需要は半導体装置・産業機器を中心に戻り、台数は今の 3 割増にとどまる。伸びが緩いのは、国内の顧客基盤が成熟していることと、台湾・中国勢が低価格の領域を押さえているためだ。単価は物価をやや下回って上がる。営業利益率は 10% 強。純現金の利息と配当収入が営業外の利益を支え、純利益は営業利益の 9 割近くになる。配当は自己資本に対する下限を守り、現金は少しずつ減る。大きな買収はせず、静かな 10 年になる。過去 10 年の営業利益率の中央値に近い水準で、会社の目標(8.5%)を少し上回る。海外売上は計画の 139 億円までは届かず、伸びは緩やかだ。筆頭株主の Lite-On との関係は現状維持で、提携の深まりも買収提案も織り込まない。
- スイッチング電源:数量 1,100(電源の年間出荷台数(万台、推定))× 価格 3,900(1 台あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 429 億円・営業利益 45 億円。台数 1100 万台、単価は今の 1.29 倍、営業利益率 10.5%
倍率:事業の純利益 36 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)220 億円。全体の PER 13.17 倍、時価総額 693 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注の回復は確かだが、値決めが弱い汎用の電源で固定費も重い。中計自身が営業利益率 8.5% を目標にしており、そこから少し上を中立にした。
やや悲観 26% 低価格品に押され、利益率が一桁にとどまる 利益 24 億円 · PER 8.2 倍 · 株価時価総額 834 円343 億円
需要は回復するものの、台数は今の 1 割台の増加にとどまる。台湾 Mean Well や中国勢が標準品の価格を押し下げ、共同ブランドで取りにいく中価格帯も利幅が薄い。単価は物価の上昇に届かない。営業利益率は 6〜7% で、新しい事業を買った分の償却や立ち上げ費用も重い。ROE は資本コストを下回り、余った現金は買収の試行や運転資金で目減りする。海外売上の計画は未達で、中計の 139 億円には届かない。筆頭株主との共同ブランドも、期待ほどの売上にはならない。配当は自己資本の下限の方針で払い続けるが、利益より多く、現金が少しずつ減っていく。
- スイッチング電源:数量 950(電源の年間出荷台数(万台、推定))× 価格 3,700(1 台あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 352 億円・営業利益 23 億円。台数 950 万台、単価は今の 1.23 倍、営業利益率 6.5%
倍率:事業の ROE が k 8.25% に届かず、正当化 PER の上限は 1÷k の 11.8 倍。その 7 割を置いた。余った現金は書かない額(今の 0.75 倍)で帳簿の値に足した。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 8.2 倍・時価総額 343 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:中計の目標(ROE 5.2%)に近い筋書き。国内の需要が戻っても台湾勢の価格攻勢と固定費で利益が薄い状態が続く。
悲観 12% 価格競争に負け、小さな電源屋として残る 利益 4 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 338 円139 億円
標準品の電源は価格で決まる市場になり、Mean Well や中国勢に国内の顧客も奪われる。共同ブランドは自社ブランドとぶつかり、筆頭株主の Lite-On に有利な形で販路が回る。台数は今より減り、単価は物価の半分ほどしか上がらない。営業利益は赤字に沈み、工場を持つ固定費が重くのしかかる。買収に使ったお金も回収できず、純現金は目減りする。配当は大きく削られ、会社は売られるか提携先に取り込まれる道を探ることになる。海外売上は伸びず、台数も落ちる。筆頭株主の Lite-On が持株を増やす、あるいは事業提携が深まって会社が事実上その傘下に入る展開もありうる。その場合でも、株主に戻るのは残った現金の半分ほどと見た。利益が細る間も、配当は積み上げた純現金から払い、資産の売却は要らない。
- スイッチング電源:数量 750(電源の年間出荷台数(万台、推定))× 価格 3,300(1 台あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 248 億円・営業利益 −5 億円。台数 750 万台、単価は今の 1.09 倍、営業利益率 -2.0%
倍率:悲観の純利益は ROE 1% 未満で k を下回る。ためた利益は額面未満なので、稼ぐ力(純利益÷k、PER は 1÷k=11.8 倍が上限)の 100% を置き、余った現金は今の 0.5 倍を帳簿の値に足した。
確率:半導体装置向けの需要が戻らず、台湾・中国勢に標準品を奪われる構造的な負け筋。単一事業・小規模・固定費が重い点で、赤字が続きやすい。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
スイッチング電源
産業機器・半導体製造装置・医療・車載向けの電源ユニット(AC-DC・DC-DC)。単一の事業。
| 数量電源の年間出荷台数(万台、推定) | 価格1 台あたりの平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/05 | 830 | 3,017 | 250 | −7 |
| 10 年後 中立 | 1,100 | 3,900 | 429 | 45 |
取り方:年間の出荷台数は開示がない。売上 250 億円を、標準品と高付加価値品の平均単価(3 千円台)で割り、約 830 万台と推定した。数量は実質の台数で、機械の台数に連動する。単価は名目で、物価 3% と高付加価値品への構成の変化で上がるが、台湾・中国勢との価格競争で、中立の 10 年は物価の 1.34 倍に届かない 1.30 倍と置いた。2026 年 5 月期は営業赤字 7 億円(利益率 -2.8%)で、在庫調整と固定費の重さが原因。FY27 の会社計画は売上 289 億円・営業利益 13 億円。
リスクと懸念
固定費の重さと景気の山谷
富山を中心とした自社工場の固定費が重く、売上が落ちると利益は一気に赤字へ沈む。2024年5月期の営業利益 69 億円から、2 年で営業赤字へ落ちた。需要が戻っても、再び在庫調整が起きる危険は消えない。
台湾・中国勢との価格競争
標準品の電源は、台湾の Mean Well などが低価格で攻める市場だ。中国勢も標準品に入り始めた。値段が下がり続けると、コーセルの利益率は 10% を割り込む。共同ブランドの中価格帯も、競争が厳しい。
買収による資本の毀損
2018年に買ったスウェーデンの Powerbox は、2026年に売却が決まり、36 億円の特別損失が出た。新しい中期計画も M&A での新規事業参入を掲げる。純現金が厚いだけに、使い方を誤れば価値が大きく失われる。
配当が利益を上回る
今期の配当は利益を大きく超える見通しで、配当性向は 150% を超える。純現金から取り崩して払っている。下限の方針を守れば、現金は減り続ける。逆に減配すれば、株主の期待を裏切る。
筆頭株主との関係
台湾の Lite-On Technology が約 2 割を持つ筆頭株主で、同時に共同ブランドの相手でもある。提携が深まれば成長に追い風だが、同業の株主が販路を握り、コーセルの取り分が薄くなる危険もある。
新しい中期計画の達成
海外売上を 64 億円から 139 億円以上へ 2 倍強にする計画だ。これまで海外で苦戦してきた事業が、3 年で倍増できるかは不確かだ。達成できなければ、営業利益率 8.5% の目標も崩れる。
今後の分かれ目
- 受注の増加が売上と利益の増加に結びつき、営業利益率が 3 年以内に 12% を超えたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げ、中立の利益率の置き方を見直す。
- 海外売上が中計どおり 139 億円に届いたら
- 中立の台数の伸びを上方に直し、やや悲観の確率を下げる。
- 台湾・中国勢が標準品の値段をさらに下げ、営業利益率が再び 5% を割ったら
- やや悲観と悲観の確率を上げる。
- Lite-On が持株を増やす、または買収提案を出したら
- 提案の価格を本質価値と比べて見直す。計算では今は買収を見込んでいない。
- 大型の M&A を発表し、純現金の大半を使うことになったら
- 余った現金の戻り方を 0.5 に下げ、買収の中身を精査する。
- 自社株買いや配当の方針を大きく変え、現金を厚く戻すと決めたら
- 余った現金を帳簿の値で足す見方を補強し、価値の評価を引き上げる。
見ておくもの
- 受注高と売上高の前年比(在庫調整の終わりの確認)
- 営業利益率が 8.5% 目標を超えて 10% に近づくか
- 海外売上高(FY29 の 139 億円目標との比較)
- Lite-On の持株比率と共同ブランドの売上
- M&A の発表と純現金の推移
倍率と資本コストの決め方
台数×単価で 10 年の売上を積み、営業利益率は構造(固定費の重さ・台湾勢との競争)から置いた。倍率は k 8.25% と事業の ROE から正当化 PER を出し、中立は 85%、やや悲観は 1÷k の 7 割にした。今の株価や PER には寄せていない。純現金は事業に要る分(運転資金 約 2 か月分)を引いた 220 億円を余った現金として帳簿の値で足した。単一の電源の会社なので、売上のうち海外の比率は別の欄に分けていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.3→15.56 倍・やや楽観 PER 11.8→14.64 倍・中立 PER 10.7→13.17 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足して 8.5%。同じ領域のヒロセ電機(7.5%)より高く、ホシデン(9.0%)より低い。財務の強さでは k を下げず、事業の揺れと値決めの弱さで足した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.25%。