結論
ズームは、手のひらに載る録音機(ハンディレコーダー)の草分けだ。映像の撮影現場、ポッドキャスト、楽器の練習まで、世界の音を録る道具として名が通っている。筆者の結論は「やや割安」。理由は一つで、2025 年の大赤字の大半が一度きりの損で、ブランドの稼ぐ力そのものは壊れていないからだ。
2025 年 12 月期は北米の関税と在庫の評価損、北米子会社ののれんの減損が重なり、最終損益は 17 億円の赤字に沈んだ。それでも本業の現金は 6 億円のプラスを保った。会社は固定費を年 4 億円削り、2026 年は中間で営業利益 6 億円まで戻している。
弱みもはっきりしている。手軽な録音はスマートフォンに奪われ、録音機の台数は伸びない。売上の 4 割強は欧州の他社ブランドを右から左へ流す卸で、利幅は薄い。借金も 70 億円あり、手元の現金を引いても 30 億円台の純負債が残る。
それでも、32 ビットフロート録音のような高音質の領域では、ズームの名は今も第一候補に挙がる。利益が年 7 億円前後に戻るなら、今の時価総額はその 5 年分ほどにすぎない。大きな安全域ではないが、悲観の筋書きでも傷は浅い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、ズームは「よい名前を持つが、よい事業とまでは言えない」会社だ。工場を持たず、設備に重い投資が要らない点は、オーナーにとってありがたい。稼いだ利益の多くが現金で残るはずの形をしている。
ところが実際には、卸の買収で在庫と借金が膨らみ、オーナーの手元に残る利益は細ってきた。のれんの償却と少数株主への流出を差し引くと、株主の取り分は営業利益の 6 割ほどにしかならない。
それでも今の値段は、この弱さをかなり織り込んでいる。利益が年 7 億円前後に戻れば、時価総額は利益の 5 年分ほどだ。録音機の名前が 10 年後も残る確からしさは高い。筆者は、大きく勝つ会社ではないが、払う値段に対して負けにくい会社と見る。
持ち続けるなら、見るべきは在庫と借金だ。在庫が売上の半年分から 4 か月分に減り、その分で借金が返されていけば、経営が資本を正しく扱い始めた証になる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は二つある。一つは自社ブランドの機器で、売上の 6 割弱を占める。ハンディレコーダー(H シリーズ)が柱で、2025 年は 47 億円を売った。ほかにデジタルミキサーと多重録音機(L シリーズ)、ギター用のマルチエフェクター、映画やテレビの現場で使う業務用のフィールドレコーダー(F シリーズ)、音にこだわった小型ビデオカメラがある。
ズームは工場を持たない。開発は東京の本社が担い、生産は中国と東南アジアの受託製造会社に任せる。設備に重い投資が要らない身軽さが強みで、そのぶん原価は委託先の人件費と為替、関税に振られる。2025 年に東莞の生産管理拠点を閉じたのも、この原価の管理を委託先との協業に寄せるためだ。
もう一つは他社ブランドの卸で、売上の 4 割強を占める。2018 年にイタリアの Mogar Music、2023 年にドイツの Sound Service の株を 51% ずつ買い、国内ではフックアップを抱える。自社製品の欧州の販路を握る狙いの買収だったが、扱う品の多くは他社のマイクや楽器で、利幅は数%にとどまる。少数株主が 49% を持つので、利益の半分近くは外に流れる。
売上の 8 割強は海外で、中央欧州が 70 億円と最大、北米が 37 億円、日本が 31 億円と続く。年末商戦に売上が寄るので、利益は下期に偏る。
優良さと弱いところ
ズームの堀、つまり他社がまねしにくい強みは、録音機の世界で築いた名前と、小さな筐体に高音質を詰める開発の積み重ねだ。録音の音量を気にせず収められる 32 ビットフロート録音を早くから載せ、映像の現場では F シリーズが定番の一つになった。競合はティアックの TASCAM、ソニー、豪州の RODE などで、品揃えの幅と値段の手頃さではズームが一歩先を行く。
ただし堀は狭い。録音は機能としてはスマートフォンでも足りる。会社自身が「汎用録音の価値が他の機器へ移った」と認めたとおり、入門機の台数は細っていく。高音質の領域は堅いが、市場そのものが小さい。
資本効率は低い。過去 10 年の自己資本利益率(ROE)の中央値は 5.5% で、資本コストに届いた年は 2020〜2021 年の巣ごもり需要の時くらいだ。卸の買収でのれんと借金を背負い、利益の半分近くが少数株主に行く形も効率を下げた。
経営の姿勢は改まりつつある。2025 年の上期で「有事」と宣言し、役員報酬を削り、達成できない中期計画の数値を自ら取り下げた。数字を飾らずに損を一度に出した点は、筆者は評価してよいと見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
録音機の市場は二つに割れている。誰でも使う簡易な録音はスマートフォンに吸い込まれ、台数が戻ることはない。一方で、動画の発信、ポッドキャスト、映画の録音といった「音にお金を払う人」の市場は、世界でゆっくり広がっている。ズームの H6studio やポッドキャスト専用の P4next は、この後者に向けた製品だ。
競争の相手は国によって違う。録音機ではティアックの TASCAM とソニー、配信向けのマイクでは RODE と Shure、ミキサーではヤマハ、ローランド、Behringer が並ぶ。Behringer のような低価格の中国系の作り手が入ってくると、入門機の値段は物価ほどには上がらない。筆者は、ズームが値上げを通せるのは上位機に限られると見る。
外の風も強い。2025 年は米国の相互関税が原価を押し上げ、北米の需要も冷えた。会社は関税が続く前提で原価と固定費を組み直した。欧州の卸は景気に連動し、楽器の小売店の在庫調整が起きると、二、三年おきに売上が一割ほど揺れる。
10 年で見ると、録音機の台数は実質で 1 割ほど細り、上位機への移り変わりで 1 台の値段は物価より少し速く上がる、というのが筆者の中心の見立てだ。卸は欧州の楽器市場並みで横ばいとみる。
資本政策と M&A
配当は配当性向 30% 以上を目安に、減らさない累進配当を掲げる。2025 年の大赤字の年も配当を据え置いた。総額は年 1.4 億円ほどで、自社株買いの実績はない。
資本の使い方の記録は芳しくない。Mogar と Sound Service の買収は販路を握る狙いだったが、利幅の薄い卸を抱え、北米子会社では 2025 年にのれん 8.6 億円を減損した。運転資金の借金は 70 億円に膨らみ、在庫は 80 億円を超える。在庫を絞って借金を返すのが、まず先だ。
創業者の飯島雅宏社長が 8% 強を持つ筆頭株主で、オーナー支配というほどではない。時価総額 35 億円の小ささと、ブランドの知名度を考えると、楽器や音響の大手に買われる筋書きもありうる。ただ、少数株主のいる卸の子会社が絡み、買い手には整理の手間が残る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
2025 年の赤字は、関税と在庫の評価損、のれんの減損という一度きりの損が大半だった。固定費は年 4 億円減り、のれんの償却も軽くなった。2026 年は中間で営業利益が 6 億円に戻り、会社は通期の見通しを引き上げた。稼ぐ力は戻っている。
高音質の録音は、動画とポッドキャストの広がりとともに伸びる市場だ。32 ビットフロート録音の先駆けとして、ズームは映像の現場で名前を持つ。新しい技術とアプリをつなぐ製品群で、機器を売った後の収入を得る道も探っている。上位機に寄せれば利幅は 1 割に届く。
欧州の卸は利幅こそ薄いが、自社製品を店頭に並べる力になる。在庫を絞れば借金は返せる。時価総額は自己資本の 6 割で、利益の回復だけで見直される余地がある。
買い手の目もある。録音機の名前と欧州の販路は、楽器や音響の大手にとって安く手に入る資産だ。時価総額 35 億円は、大手の年間の研究開発費にも満たない。
慎重な見方
録音機の台数はスマートフォンに食われ、戻らない。会社自身が汎用録音の価値は他の機器へ移ったと認めた。上位機は伸びても市場が小さく、全体を支えるほどではない。
卸の比重が高すぎる。売上の 4 割強は他社の品を流すだけで、利幅は数%、利益の半分は少数株主に行く。景気が冷えれば在庫が積み上がり、評価損と借金が同時に膨らむ。2025 年に起きたことは、また起きる。
借金 70 億円は時価総額の倍だ。金利が上がれば利払いは年 1 億円ほど重くなり、薄い利益をさらに削る。過去 10 年の ROE の中央値は 5.5% で、資本コストに届いた年はわずかしかない。Behringer のような安値の作り手が上位機にも降りてくれば、値上げも通らない。
経営の資本の使い方にも不安が残る。販路の買収は二度行い、二度とも利幅の薄い卸と在庫を抱えた。成長の手段をまた買収に求めれば、同じ傷を繰り返す。在庫が売上の半年分近くに積み上がっている今の形は、需要の読み違いがそのまま評価損になる危うさを抱えている。
どちらに重みを置いたか
利益の回復は数字で確かめられており、強気の見方に分がある。ただ、録音機の台数が細ることと、卸と借金の重さは慎重な見方の言うとおりで、構造としては残る。確率は中立を軸に、やや楽観とやや悲観をほぼ同じ重さに置いた。悲観は 12% とし、ブランドが生き残る確からしさの高さで、深い負けを薄めにした。楽観は、新しい製品群が当たる確かさがまだ見えないので 1 割にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 2,106 円91 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 412 円18 億円)。 今の値に割り戻すと 1,181 円51 億円、今との差 +46.0%、 期待の年率 +12.0%(資本コスト 8.8%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 4,733 円204 億円 | 648 円28 億円 | +565.2% | +20.9% | 538 円23 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,233 円140 億円 | 509 円22 億円 | +362.5% | +16.6% | 748 円32 億円 |
| 中立 | 38% | 2,136 円92 億円 | 417 円18 億円 | +215.5% | +12.2% | 970 円42 億円 |
| やや悲観 | 20% | 640 円28 億円 | 324 円14 億円 | +19.2% | +1.8% | 193 円8 億円 |
| 悲観 | 12% | 389 円17 億円 | 185 円8 億円 | −29.0% | −3.4% | 69 円3 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,106 円91 億円 | 412 円18 億円 | +211.3% | +12.0% | 2,518 円109 億円 |
今の株価時価総額 809 円35 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 上位機と配信で名前が伸びる 利益 15 億円 · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 4,733 円204 億円
動画とポッドキャストの発信者が世界で増え、音にお金を払う人の層が厚くなる。ズームは 32 ビットフロート録音と、配信専用の録音機、アプリとつながる製品群で、この層の第一候補になる。台数は入門機の細りを上位機が上回り、10 年で 2 割強増える。上位機の比重が上がり、1 台の値段は物価より 1 割速く上がる。
卸は自社製品の欧州の窓口として機能し、在庫を絞って利幅を 3% に戻す。のれんの償却が終わり、借金は在庫の圧縮で半分に減る。営業利益率は 1 割を超え、ROE は 12% 台に乗る。楽器や音響の大手がブランドを評価し、提携や買収の話が出てもおかしくない姿だ。
- 自社ブランドの音響機器:数量 80.0(販売台数(万台・推定))× 価格 2.21(1 台あたりの卸値(万円))→ 売上 177 億円・営業利益 20 億円。80 万台 × 1 台 2.21 万円(物価 1.34 倍 × 上位機の比重 1.10)、利益率 11%
- 他社ブランドの卸(欧州・国内):数量 75.0(取扱う品の点数(万点・推定))× 価格 1.61(1 点あたりの卸値(万円))→ 売上 121 億円・営業利益 4 億円。75 万点 × 1.61 万円(物価並み)、利益率 3%
倍率:事業の純利益 15 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.5% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.5 倍。全体の PER 13.49 倍、時価総額 200 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:上位機への移り変わりと新しい製品群の両方が当たる必要があり、関税と卸の重さを抱えたままでは連続の成功は確かでない。
やや楽観 20% 回復が定着し上位機が利幅を押し上げる 利益 11 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 3,233 円140 億円
構造改革の効果が残り、2027 年以降は会社の言う成長の年に入る。入門機は細るが、H6studio のような上位機と映像向けのフィールドレコーダーが伸び、台数は 10 年で 1 割増える。1 台の値段は上位機の比重で物価より 4〜5% 速く上がる。
卸は欧州の楽器市場並みに少しずつ伸び、利幅は 2.5% まで戻る。関税は続くが、委託先との原価の作り込みで吸収する。営業利益率は 7% 前後、純利益は 10 億円台に乗る。配当は累進のまま増え、借金は在庫の圧縮で少しずつ減る。ROE は 10% 台に乗り、資本コストを上回る年が当たり前になる。
- 自社ブランドの音響機器:数量 70.0(販売台数(万台・推定))× 価格 2.10(1 台あたりの卸値(万円))→ 売上 147 億円・営業利益 14 億円。70 万台 × 2.10 万円(物価 1.34 倍 × 比重 1.045)、利益率 9.5%
- 他社ブランドの卸(欧州・国内):数量 70.0(取扱う品の点数(万点・推定))× 価格 1.61(1 点あたりの卸値(万円))→ 売上 113 億円・営業利益 3 億円。70 万点 × 1.61 万円、利益率 2.5%
倍率:事業の純利益 11 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.3% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍。全体の PER 12.66 倍、時価総額 134 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2026 年の回復は数字で確かめられ、固定費の削減も実行済み。上位機の伸びが入門機の細りを上回る確からしさは中くらい。
中立 38% 名前は残るが台数は細り、利益は平年並み 利益 7 億円 · PER 11.6 倍 · 株価時価総額 2,136 円92 億円
簡易な録音はスマートフォンに移り続け、録音機の台数は 10 年で 1 割弱細る。上位機の比重が上がり、1 台の値段は物価並みに上がる。営業利益率は 2021 年の山の 9% には届かず、自社ブランドで 8% にとどまる。
卸は横ばいで、利幅は 2% 前後。少数株主に利益の半分近くが流れる形は変わらない。借金は在庫の圧縮で少し減るが、金利が上がって利払いは年 1 億円ほど重くなる。純利益は 7 億円前後で、ROE は 8% と資本コストにわずかに届かない。
会社は小さく強い録音機の作り手として残る。大手に買われる話が出なければ、配当を少しずつ増やしながら静かに続く。
- 自社ブランドの音響機器:数量 60.0(販売台数(万台・推定))× 価格 2.01(1 台あたりの卸値(万円))→ 売上 121 億円・営業利益 10 億円。60 万台 × 2.01 万円(物価 1.34 倍)、利益率 8%
- 他社ブランドの卸(欧州・国内):数量 64.0(取扱う品の点数(万点・推定))× 価格 1.61(1 点あたりの卸値(万円))→ 売上 103 億円・営業利益 2 億円。64 万点 × 1.61 万円、利益率 2%
倍率:事業の純利益 7 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.6 倍。全体の PER 11.61 倍、時価総額 85 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:固定費の削減は実行済みで、2026 年の回復が平年の利益の目安になる。台数の細りと上位機の伸びが打ち消し合う姿がいちばん起こりやすい。
やや悲観 20% 入門機の細りが速く、卸が足を引く 利益 3 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 640 円28 億円
スマートフォンとアプリの録音の質が上がり、入門機の台数は速く細る。上位機も Behringer のような安値の作り手に押され、10 年で台数は 3 割減る。1 台の値段は物価に 5% 届かない。
欧州の楽器小売で在庫調整が二度起き、卸は評価損と値引きで利幅 1% に沈む。借金の金利は 3.5% に上がり、利払いが利益を削る。純利益は 2〜3 億円で、ROE は 4% 前後。配当は据え置くのが精一杯で、ブランドは残るが、株主の取り分は細る。経営は再び販路の買収で成長を探り、利幅の薄い事業がさらに積み上がる。
- 自社ブランドの音響機器:数量 48.0(販売台数(万台・推定))× 価格 1.91(1 台あたりの卸値(万円))→ 売上 92 億円・営業利益 4 億円。48 万台 × 1.91 万円(物価に 5% 届かない)、利益率 4.5%
- 他社ブランドの卸(欧州・国内):数量 58.0(取扱う品の点数(万点・推定))× 価格 1.61(1 点あたりの卸値(万円))→ 売上 93 億円・営業利益 1 億円。58 万点 × 1.61 万円、利益率 1%
倍率:ROE 3.7% は k に届かず、稼ぐ力(純利益÷k)は約 30 億円。台数の細りが続く筋書きなので、その 8 割弱の 9 倍。PBR は 0.33 倍で中立の 0.78 倍を下回る。
確率:2025 年と同じ在庫と関税の打撃が数年おきに起きれば、利益は平年の半分以下に沈む。過去 10 年に 2 度起きた形で、確からしさは低くない。
悲観 12% 録音機が置き換わり、卸と借金が残る 利益 −3 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 389 円17 億円
録音の機能がスマートフォンとワイヤレスマイクに完全に取り込まれ、ズームの台数は 10 年で半分に減る。上位機も海外の安値の作り手に押され、値上げは通らない。自社ブランドの利益はほぼ 0 になる。
卸は景気の谷で在庫を抱え、値引き販売で赤字に沈む。借金の返済に追われ、配当は減らす。少数株主の持つ子会社を売るか、ブランドごと大手に安く譲るしかなくなる。価値は今の自己資本の 3 割、ブランドと販路を事業ごと売る値段にとどまる。名前は残っても、株主に残るものはわずかだ。2025 年の赤字は、この筋書きの入口を一度見せたことになる。
- 自社ブランドの音響機器:数量 35.0(販売台数(万台・推定))× 価格 1.85(1 台あたりの卸値(万円))→ 売上 65 億円・営業利益 0 億円。35 万台 × 1.85 万円(値上げが通らない)、利益率 0%
- 他社ブランドの卸(欧州・国内):数量 50.0(取扱う品の点数(万点・推定))× 価格 1.54(1 点あたりの卸値(万円))→ 売上 77 億円・営業利益 −1 億円。50 万点 × 1.54 万円、利益率 −1%
倍率:赤字で稼ぐ力は無い。床は売れる資産で、今の自己資本 56 億円の 0.3 倍の 16.8 億円。在庫と売掛金を回収しても借金がほぼ相殺するので、残るのはブランドと欧州の販路を事業ごと譲る値段とみた。
確率:簡易な録音の置き換えは既に進んでおり、上位機まで食われれば事業は赤字に沈む。ただ、名前の知られた上位機が残る確からしさは高く、確率は 1 割強にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
自社ブランドの音響機器
ハンディレコーダー・ミキサー・エフェクター・業務用フィールドレコーダー・小型ビデオカメラ。生産は外部に委託。
| 数量販売台数(万台・推定) | 価格1 台あたりの卸値(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 65.0 | 1.50 | 98 | 1 |
| 10 年後 中立 | 60.0 | 2.01 | 121 | 10 |
取り方:2025 年の売上 174 億円のうち自社ブランド 56%(約 98 億円)を、販売店への卸値の平均を約 1.5 万円(入門機 1 万円前後〜業務機 5 万円超の混ざり)と推定して割り、約 65 万台とした。営業利益は関税と在庫評価損で全社がほぼ 0 だった年で、卸の赤字と合わせて全社の −0.6 億円になるよう推定で分けた。
他社ブランドの卸(欧州・国内)
イタリア Mogar、ドイツ Sound Service(いずれも 51%)、国内フックアップが扱う他社のマイク・楽器・音響機器。
| 数量取扱う品の点数(万点・推定) | 価格1 点あたりの卸値(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 64.0 | 1.20 | 77 | −1 |
| 10 年後 中立 | 64.0 | 1.61 | 103 | 2 |
取り方:2025 年の売上の 44%(約 77 億円)。点数の開示はなく、1 点あたり平均 1.2 万円と推定して割った。利益は全社から自社ブランドの推定を引いた残りで、在庫評価損と北米の需要低迷が重なった年の値。
リスクと懸念
スマートフォンへの置き換え
簡易な録音は既にスマートフォンに移った。音声の処理が AI で良くなり、ワイヤレスマイクと組み合わされると、上位機の手前の価格帯まで置き換わる。台数の細りが速まれば、上位機の伸びでは埋まらない。
関税と委託先の原価
生産を中国と東南アジアの委託先に任せており、米国の関税が上がるたびに原価が跳ねる。2025 年は関税で粗利が 1.9 億円削られた。値上げで取り返せるのは上位機に限られる。
卸の在庫と少数株主
Mogar と Sound Service は利幅が数%の卸で、欧州の楽器小売の在庫調整に弱い。利益の 49% は少数株主に流れ、損は連結で丸ごと被る。在庫の評価損が繰り返す恐れがある。
借金と金利
借入金は 70 億円強で、時価総額の倍にあたる。金利が 3.5% に上がると利払いは年 1 億円ほど増え、薄い利益をさらに削る。在庫の圧縮が遅れれば、返済の余力も細る。
買収の失敗の繰り返し
北米子会社では 2025 年にのれん 8.6 億円を減損した。成長の手段として再び販路の買収に向かえば、利幅の薄い事業と借金を積み増すことになる。
為替
売上の 8 割強が海外で、ドルとユーロで稼ぐ。会社の試算では、ドルとユーロの両方で円が 1 割強くなると営業利益は 2.5 億円ほど減る。薄い利益には大きな揺れだ。
今後の分かれ目
- 2026 年の営業利益が会社の見通しの 9 億円前後で着地し、2027 年も伸びたら
- 固定費の削減が平年の利益に定着したとみて、やや楽観の確率を上げてよい。
- 棚卸資産が 70 億円を割り、借入金が目に見えて減ったら
- 在庫と借金の重さが軽くなり、悲観側の確率を下げられる。
- 米国の関税がさらに上がり、北米の売上が一段と落ちたら
- 上位機でも値上げで取り返せず、やや悲観に寄る。
- 音楽・音響の大手がズームの株を買い集めたり、提携を申し出たら
- ブランドの価値が値段で示される。少数株主のいる卸の整理がどう扱われるかを見る。
- 欧州の卸で再び在庫評価損や減損が出たら
- 卸の構造的な弱さが確かめられ、悲観の確率を上げる。
- 機器を売った後のアプリやサービスの収入が開示されるほど育ったら
- 台数に頼らない稼ぎが生まれたとみて、楽観の確率を上げてよい。
見ておくもの
- 四半期ごとの営業利益と粗利率(関税の影響)
- 棚卸資産と借入金の残高
- ハンディレコーダーの売上と上位機の新製品の売れ行き
- 欧州の卸 2 社の利益と少数株主への流出
- 北米の売上と関税の動き
倍率と資本コストの決め方
倍率は k 8.75%(基本 7.5% に循環・値決め・借金・寿命で +1.25%)と、各筋書きの ROE から式で出した。中立の ROE は 8.0% で k に届かないので PER の上限は 1÷k の 11.4 倍で、その 8.5 割を使った。今の株価・過去の PER は見ていない。2025 年の純損失は減損と構造改革の一度きりの損なので、起点の純利益は 2026 年の見通しから特別利益を除いた 3 億円にならした。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.9→13.49 倍・やや楽観 PER 10.4→12.66 倍・中立 PER 9.7→11.61 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。