結論
日本マイクロニクスは、半導体の検査に使う「プローブカード」を作る会社だ。ウエハー上のチップに針を当てて、動くかどうかを確かめる部品である。売上の98%がこれで、DRAM向けは世界首位とされる。
筆者の結論は「割高」だ。理由はひとつで、利益の山を前提にした値段になっているからだ。2026年12月期の営業利益は300億円規模に跳ね、会社は営業利益率30%を見込む。これは2025年の165億円の2倍近い。だが、この会社は2009年と2012年に営業赤字を出した。DRAMの投資が止まれば、利益は一気に縮む体質は変わらない。
追い風は本物だ。AI向けのHBMはDRAMを積み重ねるので、検査の回数も接点の数も増える。同社は青森工場に新棟を建て、韓国にも新工場を建てて受け止めにいく。ただ、顧客のメモリ各社が設備を絞る年は必ず来る。
10年後の中立は今の時価総額の6割強にとどまり、楽観でも1.8倍ほどだ。今のPERは43倍で、事業が山の高さのまま続く前提に近い。強い会社ではあるが、買える値段かは別の問題だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資家なら、まず「10年後も、この事業は今より強いか」を問う。メモリ向けプローブカードは、HBMのおかげで当面の需要は確かだ。だが、DRAMの設備投資は数年おきに止まる。2009年、2012年、2016年、2019年と、利益が薄くなった年は何度もある。10年後を言い切れる事業ではない。
次に、株主が自由に使える利益、つまりオーナー利益を考える。稼いだ分は、新工場と研究費にほとんど戻る。2026年は設備投資だけで、利益の合計を上回りそうだ。自己資本利益率(ROE)が20%を超えても、その多くは新しい設備に消える。
堀は世界首位の技術と、顧客との共同開発にある。ただ、FormFactorとTechnoprobeは資金も規模も大きい。堀は普通の幅と見る。
最後に安全域だ。今のPERは43倍で、これは山の利益が長く続く前提だ。10年後の中立の筋書きでも、時価総額は今の6割強にとどまる。事業は好きでも、この値段なら安全域はない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心はプローブカードだ。半導体はウエハーの上に大量のチップが並んだ状態で作られる。出荷前に、各チップの端子へ細い針を当てて電気を流し、良品かどうかを選ぶ。その針を並べた基板がプローブカードだ。チップの設計が変わるたびに作り直す消耗品で、顧客の新製品ごとに注文が入る。
中でも強いのはDRAMだ。メモリ向けは世界首位とされ、売上の95%がメモリ向けである。全市場(ロジックを含む)では、FormFactorとTechnoprobeに次ぐ世界3位で、シェアは13%(会社推計・2024年)だ。HBMは薄いDRAMを何層も積むため、積む前と積んだ後で検査が増える。DRAM向けの針の数が多い会社ほど、この波を取り込める。
工場は青森と、韓国の子会社MEKが中心になる。2026年は設備投資に210億円、研究開発に89億円を投じる計画だ。さらに2027年から2028年にかけて、青森の新棟に241億円を追加する。ロジック向けでは、垂直型のプローブカードの開発を最優先に据えている。車載・産業向けのMEMS型も育てる。検査機器など残りの事業は売上の2%強にすぎない。
優良さと弱いところ
世界首位のDRAM向けプローブカードは、顧客との共同開発で育つ。メモリメーカーが新しいチップを作るたびに、同社の針と基板をその設計に合わせて作り込む。一度量産ラインに入ると、認定をやり直す手間があるので、顧客は簡単には乗り換えない。これが堀、つまり他社がまねしにくい強みだ。
しかし、堀は思うほど深くない。FormFactorは売上7.85億ドルの米国の最大手で、HBMでも伸びている。Technoprobeはイタリアの2位で、売上の4割近くがAI関連だ。台湾・韓国・中国の新興勢も、国内向けから力をつけてくる。
財務は堅い。自己資本比率は67%、実質は借金のない会社だ。ただ、その厚みは2026年からの大きな設備投資で減っていく。利益の振れも大きい。営業利益率は2025年に23.6%、2023年に13.9%、2016年は6.2%だ。
筆者がいちばん気にしているのは、事業が1つの製品、1つの需要に寄っている点だ。顧客も、DRAMを作る少数のメモリメーカーに限られる。1社が投資を止めただけで、受注が目に見えて減る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
メモリ向けプローブカードの市場は、調査会社の推計で2024年に約8億ドルだった。同社は2025年に約10.5億ドルまで増えたと見ている。成長の中心はHBMだ。HBMは薄いDRAMを重ねるので、検査する数が増え、1枚あたりの検査も長くなる。会社が引く資料では、市場は2023年から2026年に年18%で伸び、その先も年9%ほどの成長を見込む。
競争は三つ巴だ。FormFactorとTechnoprobeは先端ロジックとAI向けに強く、同社はメモリの量で勝つ。国内には日本電子材料などの同業もいる。中国は、DRAMの国産化を進めており、検査部品も国内から調達する動きが強まる。2026年の上方修正は、HBMと中国のDRAMメーカーの設備投資が拡大したことが背景にある。
循環のどこにいるか。2026年は山の入り口から中腹だ。会社が示す売上は1,000億円を超え、利益は2025年の2倍近い。ただ、市場自体の伸びは会社の増収に比べて緩やかになる。2026年の市場成長は1%程度という説明もあり、売上の伸びの多くはシェアの上昇と生産能力の拡大によるものだ。DRAMの設備投資は数年おきに止まってきた。メモリの価格が下がると、顧客はまず設備を絞る。
資本政策と M&A
資本の使い方は、いま攻めの局面だ。2026年は設備投資210億円と研究開発89億円を計画し、さらに2027〜28年に241億円を追加する。上期は追加の借り入れをせず、フリーキャッシュフローも黒字を保った。純現金は2024年の213億円から2025年は106億円へ減っており、今後は取り崩しが続く見込みだ。
配当は2026年12月期に前期のほぼ2倍を予想している。ただ、方針としての配当性向は示されていない。自社株買いの実績も、筆者は確認できなかった。
買収は目立たない。自社の技術と工場で成長する会社で、買う側としての大型買収の記録はない。買われる側の可能性は、kabufuの推計で10年以内に16%ほどだ。支配株主がおらず、大株主は信託銀行が並ぶ。
筆者は、この会社の資本の使い方を、まず設備投資に見る。顧客の需要が裏づけにある間は、投資は回収できる。ただ、増やした能力が需要の谷に重なると、償却が重くのしかかる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
HBMは始まったばかりだ。AIサーバーが増えるほど、積層するDRAMの数も、検査の数も増える。同社はDRAM向けで世界首位であり、HBMの次の世代でもその位置にいる。会社は2023〜26年の売上の伸びを年39%と見込み、市場の年18%を大きく上回る。シェアを取りながら市場も伸びる、最も良い形だ。
青森の新棟と韓国の新工場は、需要が見えているから前倒しで進められた。2026年の営業利益は300億円規模、利益率は30%に届く。ロジック向けの垂直型プローブカードが当たれば、売上の裾野は広がり、DRAM一本足も薄まる。メモリ以外の車載・産業向けも広がる。技術の蓄積は、競合の追随を許さない差になる。
中国のDRAMメーカーの増設も追い風だ。配当も2026年に前期のほぼ2倍へ増える。投資は回収でき、株主にも返せる。今は世界のメモリ投資が加速する、最初のうちにすぎない。10年というスパンで見れば、同社の利益はまだ序盤にある。
慎重な見方
今の株価は、利益が山の高さのまま続く前提に近い。PERは43倍で、事業の1つ、需要の1つに賭けた値段だ。この会社は2009年と2012年に営業赤字を出し、2016年も2019年も利益が細った。DRAMの設備投資が止まる年は、必ず来る。
2026年から2028年の設備投資は450億円を超える。需要が続けば回収できるが、止まれば償却だけが残る。会社が示した2026年の市場成長は1%程度で、売上の増加の多くは自社の能力増強に頼る。市場が追いつかなければ、増やした能力は余る。
FormFactorは売上7.85億ドル、Technoprobeは628百万ユーロと、同社より大きい。HBMの検査でも差を詰めてくる。中国はDRAMの国産化を進め、検査部品も自前に寄せたい。顧客のメモリ各社は、値下げ圧力を強められる立場にある。会社が示す利益率30%は、需要が最も強い年の数字にすぎない。10年後に今の首位と利益率が残る保証はない。
どちらに重みを置いたか
事業の追い風は強気の言い分に分がある。ただ、値段と一本足の弱さについては、慎重な見方が明確に上回る。10年後の中立は今の時価総額の6割強にとどまり、楽観でも今の1.8倍ほどだ。確率は中立を最も重く置き、悲観側(やや悲観と悲観)は4割弱とした。DRAM一本足で赤字を3回経験した弱さは、すでに資本コストに入れたので、確率では重ねていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 11,403 円4,421 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,576 円999 億円)。 今の値に割り戻すと 6,756 円2,619 億円、今との差 −42.3%、 期待の年率 +1.8%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 29,917 円1.16 兆円 | 5,045 円1,956 億円 | +198.6% | +11.6% | 3,496 円1,356 億円 |
| やや楽観 | 21% | 19,529 円7,572 億円 | 3,817 円1,480 億円 | +99.4% | +7.1% | 4,903 円1,901 億円 |
| 中立 | 32% | 11,419 円4,427 億円 | 2,907 円1,127 億円 | +22.3% | +2.0% | 4,584 円1,777 億円 |
| やや悲観 | 23% | 2,694 円1,044 億円 | 1,331 円516 億円 | −65.6% | −10.1% | 926 円359 億円 |
| 悲観 | 14% | 258 円100 億円 | 237 円92 億円 | −95.8% | −27.1% | 69 円27 億円 |
| 加重平均 | 100% | 11,403 円4,421 億円 | 2,576 円999 億円 | +19.4% | +1.8% | 13,978 円5,419 億円 |
今の株価時価総額 11,710 円4,540 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:メモリ検査の標準部品として定着 利益 700 億円 · PER 16.6 倍 · 株価時価総額 29,917 円1.16 兆円
10年後もHBMを含むDRAMの需要が伸び続け、メモリ検査の市場は実質で3倍を超える。同社は顧客との共同開発と量産の実績で世界1位を守り、シェアを4割台後半に保つ。プローブカードは顧客の新製品ごとに作り直す消耗品であり、切り替えには認定が要るため、一度採用された会社は代わりにくい。営業利益率は32%の高さを維持する。ロジック向けの垂直型プローブカードも育ち、メモリ以外の売上が一定の厚みを持つ。FormFactorやTechnoprobeとは棲み分けが続く。同社にとって最も理想的な10年だ。この筋書きでは、2025年に165億円だった営業利益は10年で6倍に育つ。顧客が新しい世代のメモリを出すたびに、同社の売上が積み上がる構造が続く。
- プローブカード(メモリ向け中心):数量 32.6(世界のメモリ向けプローブカード市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 96(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 3,145 億円・営業利益 1,006 億円。実質の市場 32.6 億ドル × シェア 48.0%、営業利益率 32%
- 検査機器・その他:数量 34.0(年間の出荷台数(台、推定))× 価格 1.14(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 39 億円・営業利益 4 億円。34台 × 1台 1.14 億円
倍率:事業の純利益 700 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 22.9% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.6 倍。全体の PER 16.57 倍、時価総額 11,599 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:世界1位の技術と顧客との共同開発が10年先まで効き続け、市場も大きく伸びる必要がある。条件が多いので低めに置く。
やや楽観 21% やや楽観:HBM世代交代の波に乗り続ける 利益 478 億円 · PER 15.8 倍 · 株価時価総額 19,529 円7,572 億円
HBMが世代を重ねるたびに接点の数が増え、検査の難度が上がる。市場は実質で2.5倍に達し、同社は4割台半ばのシェアを守る。営業利益率は29%と、平時より高い水準を保つ。ロジック向けの新製品も一部で採用され、売上の裾野が少し広がる。中国のDRAMメーカー向けも、自国調達の圧力を受けながら一定の量を維持する。青森と韓国の工場は生産能力を使い切り、追加の投資も回収できる。配当は利益の成長に合わせて増え、株主還元も厚くなる。生産能力の増強は2027年から2028年の投資で足り、その後は設備投資が売上の1割ほどに落ち着く。
- プローブカード(メモリ向け中心):数量 26.2(世界のメモリ向けプローブカード市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 90(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 2,370 億円・営業利益 687 億円。実質の市場 26.2 億ドル × シェア 45.0%、営業利益率 29%
- 検査機器・その他:数量 30.0(年間の出荷台数(台、推定))× 価格 1.14(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 34 億円・営業利益 3 億円。30台 × 1台 1.14 億円
倍率:事業の純利益 478 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.4% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.8 倍。全体の PER 15.84 倍、時価総額 7,572 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:HBMが世代を重ねて検査の難度が上がり続ける筋書き。起こりうるが、競合も黙っていないので2割強にとどめた。
中立 32% 中立:首位は保つが、利益率は平時に戻る 利益 286 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 11,419 円4,427 億円
メモリ検査の市場は実質で2倍に伸びるが、競争も強まる。同社は世界1位を守るものの、シェアは4割強に下がる。FormFactorとTechnoprobeがHBM向けの製品を強化し、中国のメーカーも国内の需要を取り込む。営業利益率は24%と、2026年の絶頂期より低い平時の水準だ。顧客からの値下げ圧力は強いが、技術の差で最悪は避ける。設備投資は売上の1割程度で一定し、配当は利益の半分近くに高まる。優良ではあるが、超成長企業ではなくなる。2026年から2027年の特需で稼いだ現金は、新工場の償却と研究費に消え、株主に残る利益は想像ほど増えない。
- プローブカード(メモリ向け中心):数量 21.0(世界のメモリ向けプローブカード市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 82(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,731 億円・営業利益 415 億円。実質の市場 21.0 億ドル × シェア 41.0%、営業利益率 24%
- 検査機器・その他:数量 26.0(年間の出荷台数(台、推定))× 価格 1.14(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 30 億円・営業利益 2 億円。26台 × 1台 1.14 億円
倍率:事業の純利益 286 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.9% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍。全体の PER 15.48 倍、時価総額 4,427 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:市場は伸び、首位も保つが、価格競争で利益率は平時の水準へ戻る。
やや悲観 23% やや悲観:競合に押され、世界1位の座を失う 利益 120 億円 · PER 7.9 倍 · 株価時価総額 2,694 円1,044 億円
シェアは3割強まで下がり、世界1位の座をFormFactorなどに明け渡す。中国のDRAM国産化が進み、同社が最も頼ってきた顧客の一部が現地の部品に切り替える。市場は実質で1.5倍になるが、成長の果実は競合に流れる。営業利益率は17%まで下がり、増設した工場の償却が重い。研究費も競争のために減らせない。株主還元は利益の落ち込みに合わせて細る。資本効率は資本コストを下回り、倍率は低いままとなる。顧客が2社目、3社目の調達先を育てる動きが、価格を下げる圧力として長く効く。同社は研究費を削れず、ロジック向けの新製品も先行する大手に追いつけない。青森と韓国の工場は動き続けるが、増やした能力に見合う受注が戻らない年が続く。
- プローブカード(メモリ向け中心):数量 15.8(世界のメモリ向けプローブカード市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 66(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,048 億円・営業利益 178 億円。実質の市場 15.8 億ドル × シェア 33.0%、営業利益率 17%
- 検査機器・その他:数量 20.0(年間の出荷台数(台、推定))× 価格 1.14(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 23 億円・営業利益 1 億円。20台 × 1台 1.14 億円
倍率:ROE 9.3%(事業の純利益÷自己資本)。k 8.5%。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC=k+残る割合 1/2×(ROE−k)=9.2%、長期の成長率 g 4.0% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=11.3 倍。競合の追い上げと顧客の値下げ圧力で営業利益率が17%まで下がる局面なので、上限の 7.0 割の 7.9 倍に置いた。
確率:Technoprobe・FormFactorや中国勢の追い上げで、シェアと利益率が削られる筋書き。DRAM一本足の弱さは資本コストの循環と寿命に入れたので、確率では重ねず23%にとどめた。
悲観 14% 悲観:構造的に負け、普通の部品屋になる 利益 7 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 258 円100 億円
中国のDRAM国産化と、Technoprobe・FormFactorの追い上げが同時に起き、シェアは2割強まで落ちる。メモリ検査の市場は伸びても、価格競争で利益はほとんど残らない。営業利益率は4%に下がる。増設した青森と韓国の工場は稼働率が上がらず、減損の恐れも出る。研究費の負担も重い。もう優良な部品屋ではなく、競合の後追いで利益の薄い会社になる。2009年と2012年の赤字の記憶が戻り、DRAM一本足の弱さがそのまま出る。利益が出ない年が続けば、配当も減らさざるをえない。倍率も、成長株から景気に左右される部品屋のものに変わる。純現金と設備の清算価値が株価の床を作る。
- プローブカード(メモリ向け中心):数量 11.6(世界のメモリ向けプローブカード市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 44(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 513 億円・営業利益 21 億円。実質の市場 11.6 億ドル × シェア 22.0%、営業利益率 4%
- 検査機器・その他:数量 16.0(年間の出荷台数(台、推定))× 価格 1.14(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 18 億円・営業利益 −1 億円。16台 × 1台 1.14 億円
倍率:構造的に負けた後の純利益は7億円とほぼゼロで、稼ぐ力(純利益÷k)は80億円ほどにしかならない。売れる資産の床は純現金106億円から減るとみた100億円で、これを時価総額とし、今の自己資本660億円に対する倍率に直すと0.15倍になる。工場の清算価値は根拠を積めないので入れていない。
確率:中国のDRAM国産化と競合の追い上げが重なり、もう優良とは言えなくなる筋書き。一本足の事業は資本コストに入れたので、確率は14%にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
プローブカード(メモリ向け中心)
半導体ウエハーの検査で、チップの端子に針を当てて動作を確かめる部品。DRAM・HBM向けが中心で、ロジック・車載向けにも広げている。
| 数量世界のメモリ向けプローブカード市場(億ドル・今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 10.5 | 65 | 685 | 168 |
| 10 年後 中立 | 21.0 | 82 | 1,731 | 415 |
取り方:2025年の同社のプローブカード売上685億円(150円換算で約4.6億ドル)と、調査会社Yoleの2024年のメモリ向け市場約8億ドル(Technoprobe資料)に、同社とFormFactorの増収を足して、2025年の市場を約10.5億ドルと推定した。そこから同社のシェアは約43.5%。同社自身は全市場(ロジック含む)でシェア13%、世界3位としている(会社推計・2024)。市場は実質(今の値段のまま)で置き、物価3%は価格(シェア×150円×物価の倍率)に入れた。HBMで1個あたりの検査時間と接点数が増えるため、実質の市場は伸びる。営業利益は全社165億円から、検査機器のほぼ収支ゼロと本社費を除いた形。
検査機器・その他
液晶・半導体の検査機器など、プローブカード以外の小さな事業。売上の2%強。
| 数量年間の出荷台数(台、推定) | 価格1台あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 20.0 | 0.85 | 17 | 1 |
| 10 年後 中立 | 26.0 | 1.14 | 30 | 2 |
取り方:全社売上702億円からプローブカード685億円を引いた残りの17億円を、検査機器の台数と単価で置いた推定。開示がないので、台数は目安。物価の分は単価に入る。
リスクと懸念
DRAM一本足の循環
売上の98%がプローブカードで、95%がメモリ向けだ。DRAMの設備投資が止まれば、受注は急に細る。2009年・2011年・2012年の営業赤字がそれを示す。分散が効かないのが最大の弱点で、利益の山と谷の差が他社より大きい。
大型設備投資の回収
2026年は設備投資210億円、2027〜28年はさらに241億円を青森の新棟に使う。需要が続けば回収できる。需要が止まれば、新工場の償却と固定費が利益を削る。純現金は2025年に106億円まで減っており、余力は厚くない。借り入れが増えれば、利払いも重くなる。
競合の追い上げ
FormFactorは売上7.85億ドル、Technoprobeは628百万ユーロで、いずれも同社より大きい。HBMとAI向けで力を入れており、同社の首位を脅かす。価格を下げて顧客を奪われれば、利益率は目に見えて下がる。先端ロジックの稼ぎを元手に、DRAMへ攻め込む余力もある。
中国のDRAM国産化
中国のメモリメーカーは設備投資を広げているが、検査部品も国内調達に寄せたい。足元は中国向けが同社の追い風になっているものの、輸出規制と国産化の両方で、売上が急に失われる可能性がある。足元の好調が、そのまま先の売上の失速につながりかねない。
顧客の交渉力
顧客はDRAMを作る少数のメモリメーカーだ。プローブカードは顧客の設計に合わせた消耗品で、顧客は複数の調達先を育てて値下げを求められる。共同開発の関係が深くても、価格の主導権は買い手にある。顧客の値下げ要求に応じるほど、利益率は削られる。
倍率の縮み
今のPERは43倍、PBRは7.9倍と高い。業績が山の高さを保っても、倍率が普通の水準に戻るだけで株価は大きく下がる。2014年・2024年の山でもPBRは8倍から11倍を付けたあと、6割ほど縮んだ。
今後の分かれ目
- HBMの次の世代で、DRAMの積層数や接点の数がさらに増えたら
- 検査の難度と単価が上がり、楽観・やや楽観の確率を上げてよい。シェア開示と受注の質で確かめる。
- DRAMメーカーが設備投資の削減や先送りを発表したら
- 受注の急減を意味する。やや悲観・悲観に確率を移し、新工場の稼働率と償却の負担を見直す。
- FormFactorかTechnoprobeがDRAM・HBM向けで大きな受注を取ったら
- シェアの前提を下げ、中立の利益率も見直す。首位の座が揺らぐ最初の兆しになりうる。
- 中国のDRAMメーカー向けの出荷が規制で止まったら
- 足元の追い風が消える。売上の何割が中国向けかを確かめ、数量を下げる。
- ロジック向けの垂直型プローブカードが大手顧客に採用されたら
- DRAM一本足の弱さが和らぐ。メモリ以外の売上の厚みに応じて、悲観の確率を下げてよい。
- 会社が大型の買収や、他社との資本提携を発表したら
- 買う値段と事業の相性を個別に確かめる。同社は自前の成長が中心で、買収の実績が乏しい。
見ておくもの
- 四半期の受注高と受注残、メモリ向けとロジック向けの内訳
- DRAMメーカー各社の設備投資計画と、HBMの供給の動き
- FormFactor・Technoprobeの決算とHBM向けの動き
- 青森新棟の立ち上がり時期と設備投資の総額
- 配当方針(配当性向)や自社株買いの有無
倍率と資本コストの決め方
市場の大きさは実質で置き、物価3%は価格(シェア×150円×物価の倍率)に入れた。倍率は今のPER43倍を見ず、資本コスト8.5%(基本7.5%に、循環+1.0%・値決め力+0.25%・寿命+0.25%)・長期の成長率4%・事業のROEから、利益ベースの正当化PERで決めた。純現金が時価総額の2%と小さいため、現金を分けずに全社の純利益で測った。悲観は稼ぐ力と純現金106億円の床から出し、市場の底値の倍率には寄せていない。結果は10年後の中立で今の65%、楽観でも今の1.8倍にとどまる。これは今の値段が利益の山を長く続く前提にしているためで、計算に従った。リース会計の変更(2028年3月以降)は同社にほとんど影響しない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.49→16.57 倍・やや楽観 PER 12.2→15.84 倍・中立 PER 11.94→15.48 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。