結論
帝国通信工業は、車やカメラの操作部に入る小さな電子部品の会社だ。筆者の結論は、今の値段は割高、というものだ。確率を重ねた価値は、時価総額を大きく下回る。
部品は、ダイヤルやボタンをまとめた前面操作ブロック、位置を測るセンサ、可変・固定の抵抗器だ。顧客はカメラ、自動車、アミューズメント機器のメーカーで、利益はアジアの工場が稼ぐ。自己資本比率は82%、現金は92億円と、財務は強い。
問題は稼ぐ力だ。2026年3月期の営業利益は12億円で、前期から3割減った。ROEは4%台、資本コストを大きく下回る。資材高と人件費の上昇を、値上げで返せていない。ためたお金が稼がない会社に、純資産ほどの値は付かない。
会社は2030年度に営業利益22億円を狙い、新本社に50億円を投じ、配当は純資産の5%(DOE)に引き上げる。10年の中立は、営業利益が約22億円、ROEは6%台。強気の見方は、車載センサと新領域が育つ姿だ。慎重な見方は、価格競争でシェアを失う姿である。
バリュー投資の観点から
事業は地味だが分かりやすい。機器の操作部とセンサを作り、顧客の設計に入って納める。
良い点は二つある。財務が強く、自己資本比率が82%ある。経営が、ようやく資本の効率に向き合い、ROE6%以上とDOE5%を掲げた。
気になる点は三つある。第一に、稼ぐ力が資本コストに届かない。ROEは4%台で、10年の中央値も4.5%だ。第二に、国内が赤字で、価格を決める力が弱い。第三に、前の計画を達成できなかった実績がある。
筆者は、この会社を「財務は強いが、資本を使いこなせていない部品メーカー」と見る。持ち続けたいかは、営業利益率が10%に届くか、新本社への投資が稼ぎに結びつくかで決まる。今は、現金の厚さを理由に買う会社ではない。ためたお金が稼がない限り、純資産を払う値打ちはない。
安全域は、今の値段にはない。時価総額は純資産の0.9倍だが、稼ぐ力から見た価値は、それを下回る。
何で稼ぐ会社か
帝国通信工業は、電子部品を作る会社だ。「NOBLE」のブランドで、自動車、カメラ、アミューズメント機器、医療機器、家電のメーカーに納める。本社は川崎市中原区にある。
2026年3月期の売上は173億円。製品は六つに分かれる。前面操作ブロック(機器の前面で、ダイヤルやボタンをまとめた部品)が50億円、センサが44億円、可変抵抗器と機構部品がそれぞれ21億円、固定抵抗器が20億円、その他が10億円だ。別に機械設備の販売などが5億円ある。
稼ぎの中心はアジアだ。所在地別の営業利益は、アジアが10億円、日本は0.6億円の赤字、北米はほぼゼロ。国内の工場は長野の赤穂、飯田、須坂、福井にあり、海外はタイ、中国、ベトナムにある。連結の従業員は1,678人。
用途では、ミラーレス一眼などのAV機器、自動車電装、医療・ヘルスケアが好調だった。不調なのはアミューズメントと産業機器だ。販売額が1割を超える顧客はいない。
費用の中心は材料費と人件費だ。2026年3月期は、資材高が4.9億円、人件費など経費の増加が4.5億円、営業利益を押し下げた。値上げの転嫁と自動化で吸収する計画で、2027年3月期の営業利益は15億円を見込む。過去のピークは17億円だ。
新しい芽もある。車の空調に使う位置センサではシェアが8〜9%あり、2030年度に12%を狙う。高血圧予防のナトカリセンサや漏水センサは開発中で、事業化は2027年度ごろの見込みだ。
優良さと弱いところ
堀は、顧客の設計に入り込んだ納入実績にある。ただ、広い堀ではない。
強みは、一度採用されると数年は使われやすいことだ。空調用の位置センサでは8〜9%のシェアを持つと、会社は説明する。
弱みは値決めの力だ。電子部品の納入先は、毎年の値下げを求める。前の中期計画(2021〜2025年度)は、営業利益の目標17億円に対して実績12億円、ROEは目標5.5%に対して4.5%に終わった。計画を達成できていない。
国内は赤字だ。所在地別では日本が営業赤字で、利益はアジアの工場が稼ぐ。国内の工場と人員の固定費が、収益を重くしている。
資本効率は低い。ROEの10年の中央値は4.5%。自己資本比率82%、現金92億円、政策保有株が純資産の約2割と、資産が厚いぶん、稼ぐ力が薄まる。会社自身も、資本コストを下回ると認めている。
経営は、ようやく動いた。2026年5月の新しい中期計画は、ROE6%以上、DOE5%、自己株式15億円の取得を掲げる。実行の実績は、これからだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
市場は、成熟した部品を、車・カメラ・家電の景気に合わせて売る世界だ。
需要の中心は三つある。自動車は、電動化と運転支援で電子部品の数が増える。会社も、電気自動車と先進運転支援システムの普及で、自動車部品の需要は堅調と見る。カメラは、ミラーレス一眼が好調だ。アミューズメントは減少が続く。
市場の大きさは、公的な統計がなく取れなかった。車載空調の位置センサは、会社の言うシェア8〜9%と売上44億円から逆算すると、500億円前後になる。ほかの対象市場を含めた筆者の粗い推定は、世界で5,000億〜6,000億円で、同社のシェアは3%前後だ。根拠は弱い。
競合は、同じ操作部品や抵抗器を持つ総合部品メーカーと、可変抵抗器専業の東京コスモス電機のような中堅だ。個別の売上やシェアの開示は確認できなかった。
数量の物差しは、出荷個数の推定とした。単価は物価で1.34倍になるところ、顧客の値下げ要求で、中立は1.15倍前後にとどまるとした。
国内の人件費と資材は上がり続ける。為替は150円で10年変わらないので、海外工場のコストは物価ほどは上がらない。
資本政策と M&A
還元は手厚くなる方向だ。配当は2027年3月期に大きく増やす予定で、中期計画は純資産配当率(DOE)5%を目安にする。ほかに、当初3年で15億円の自己株式を取得する。5年の還元は約75億円だ。
資本の使い方が大きく変わる。現金は92億円で、月商の7〜8か月分。これを3.5〜4.5か月分まで減らす。政策保有株は純資産の19.9%(約58億円)から、2027年度までに10%以下へ減らす。
使い道は設備投資で、5年で128億円。新本社・研究開発棟に50億円、赤穂工場関連に36億円、生産設備に32億円だ。足りない分は借入で賄い、自己資本比率は82%から70%前後に下げる。新本社は2028年1月の竣工予定で、資材高と人手不足で工事が遅れていた。
M&Aの実績は乏しい。kabufuの推計では、10年以内の買収の確率は21%だ。大株主の一覧は確認できなかった。川崎市中原区の本社の土地(1.3万㎡)は、簿価と時価を確認できず、価値に入れていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強気の見方は、車載センサと、収益性の立て直しに目を向ける。
2027年3月期の営業利益は15億円の予想で、前期の12億円から3割増える。値上げの転嫁と自動化で、資材高の吸収を図る。中計は2030年度に営業利益22億円(利益率10%)を掲げ、直近のピーク(17億円)を超える。
車の空調用位置センサは、シェア8〜9%から約12%へ上げる計画だ。ドアミラー用、二輪用のセンサ、電気自動車向けの固定抵抗器と、採用先が増える。車載は電子化で部品点数が増える。センサの売上が、44億円から10年で2倍以上になる姿は、荒唐無稽ではない。
財務は強い。現金92億円、借金なし。新本社への投資と、配当(DOE5%)、自社株買い15億円で、資本の使い方が改まる。ROE6%以上は必達と明言している。
新しい領域もある。高血圧予防のナトカリセンサ、漏水センサは、2027年度ごろの事業化を目指す。ここが数十億円に育てば、利益率が一段上がる。
10年後、売上が330億円、営業利益が35億円に届けば、ROEは9%台に乗る。この筋書きの確率を7%とした。
慎重な見方
慎重な見方は、稼ぐ力の弱さと、計画の達成実績を突く。
前の計画(2021〜2025年度)は、営業利益の目標17億円に対し12億円、ROEは目標5.5%に対し4.5%で終わった。2026年3月期の営業利益は、資材高と人件費で5億円減った。今回の目標22億円も、同じ道をたどるおそれがある。
価格の決定権は顧客にある。納入先は毎年の値下げを求める。国内は営業赤字で、利益はアジアの工場に頼る。
資本の使い方にも不安がある。新本社に50億円、5年で設備に128億円を投じる。投資が稼ぎに結びつくとは限らず、償却は増える。借入で賄えば利払いも増える。財務の強い会社が、借入に踏み出す局面だ。
用途の偏りもある。ミラーレスカメラと自動車は好調だが、アミューズメントは減り、産業機器も低調だ。自動車の生産が減る年や、カメラ市場が縮む年が重なれば、売上の伸びは止まる。
ROEが資本コストに届かない会社の価値は、純資産を下回る。時価総額が純資産の0.9倍という今の値段は、その点で高い。
どちらに重みを置いたか
結論は、今の値段は割高、というものだ。確率を重ねた価値は約159億円で、時価総額260億円を4割ほど下回る。
分かれ目は、稼ぐ力が資本コストに届くかだ。中立の10年後は営業利益22億円、ROEは6%台で、なお資本コストを下回る。現金の厚さは安全域にはなるが、価値を押し上げない。ROEが低いままなら、純資産ほどの値は付かない。
強気の言い分は車載センサと新領域で、慎重な見方は価格競争と計画の未達だ。強気の根拠はこれからの話、慎重な根拠は実績に基づくので、確率は慎重側に寄せた。
見るべき点は三つ。営業利益率が10%に近づくか、新本社への投資の中身、そして配当と自社株買いの実行である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,916 円179 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,552 円145 億円)。 今の値に割り戻すと 1,977 円184 億円、今との差 −22.1%、 期待の年率 +3.2%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 3,919 円365 億円 | 1,931 円180 億円 | +130.4% | +8.7% | 409 円38 億円 |
| やや楽観 | 18% | 2,892 円270 億円 | 1,770 円165 億円 | +83.6% | +6.3% | 839 円78 億円 |
| 中立 | 35% | 2,339 円218 億円 | 1,663 円155 億円 | +57.6% | +4.7% | 1,401 円131 億円 |
| やや悲観 | 27% | 812 円76 億円 | 1,395 円130 億円 | −13.1% | −1.4% | 596 円56 億円 |
| 悲観 | 13% | 643 円60 億円 | 1,073 円100 億円 | −32.4% | −3.8% | 223 円21 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,916 円179 億円 | 1,552 円145 億円 | +36.6% | +3.2% | 3,468 円323 億円 |
今の株価時価総額 2,539 円237 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 車載センサと新領域が育ち、営業利益が3倍に近づく 利益 27 億円 · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 3,919 円365 億円
車の空調用位置センサのシェアが12%を超え、ドアミラー用、二輪用、電気自動車向けの固定抵抗器にも採用が広がる。センサの売上は44億円から120億円へ増える。
ナトカリセンサと漏水センサが事業化に成功し、新領域の売上は20億円を超える。前面操作ブロックも、カメラと自動車の高付加価値品で伸びる。
売上は約329億円、営業利益は約35億円で、利益率は11%に近づく。純利益は約27億円、ROEは8.8%。減価償却は今の約8億円から約16億円に増えるが、利益の伸びがそれを上回る。
財務は強いまま保たれ、配当と自社株買いも計画どおり進む。ただ、堀が広がるわけではなく、納入先の値下げ要求は10年続く。
- 前面操作ブロック・機構部品・その他:数量 6,750(年間出荷個数(万個、推定))× 価格 195(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 132 億円・営業利益 13 億円。数量1.35倍、単価1.20倍、利益率9.5%
- センサ:数量 4,200(年間出荷個数(万個、推定))× 価格 287(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 120 億円・営業利益 17 億円。数量2.10倍、単価1.30倍、利益率14.0%
- 抵抗器:数量 8,800(年間出荷個数(万個、推定))× 価格 62(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 55 億円・営業利益 4 億円。数量1.10倍、単価1.20倍、利益率7.0%
- その他事業:数量 3.0(売上の規模(今を1))× 価格 7.37(売上(億円・名目))→ 売上 22 億円・営業利益 2 億円。数量3.00倍、単価1.34倍、利益率10.0%
倍率:事業の純利益 27 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.5 倍。全体の PER 13.53 倍、時価総額 365 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:前の計画を達成できなかった実績があり、新領域の事業化は2027年度ごろの見込みでまだ先だ。車載センサの伸びと新製品がともに当たる姿は、うまくいった場合の上限に近い。7%とした。
やや楽観 18% センサが伸び、中計に近い営業利益に届く 利益 21 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 2,892 円270 億円
センサの売上は10年で約2.2倍の99億円になり、利益の約半分を稼ぐ。前面操作ブロックは、AV機器と自動車の高付加価値品が伸び、アミューズメントの減少を埋める。
値上げの転嫁と自動化で、資材高と人件費の上昇はほぼ吸収できる。営業利益は約28億円、利益率は9.6%。会社が2030年度に掲げる10%に近い。
純利益は約21億円、ROEは7.2%。新本社への投資で償却が増える分、利益率の上がり方は緩やかだ。配当は純資産の5%を保ち、自己株式の取得も進む。
納入先の値下げ要求は続くが、数量の伸びがそれを補う。新領域は小さな芽にとどまり、利益への寄与は限られる。
- 前面操作ブロック・機構部品・その他:数量 6,400(年間出荷個数(万個、推定))× 価格 190(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 122 億円・営業利益 10 億円。数量1.28倍、単価1.17倍、利益率8.5%
- センサ:数量 3,600(年間出荷個数(万個、推定))× 価格 276(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 99 億円・営業利益 13 億円。数量1.80倍、単価1.25倍、利益率13.0%
- 抵抗器:数量 8,400(年間出荷個数(万個、推定))× 価格 61(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 51 億円・営業利益 3 億円。数量1.05倍、単価1.17倍、利益率6.2%
- その他事業:数量 2.0(売上の規模(今を1))× 価格 7.37(売上(億円・名目))→ 売上 15 億円・営業利益 1 億円。数量2.00倍、単価1.34倍、利益率8.0%
倍率:事業の純利益 21 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.2% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 270 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:車載の電子化は追い風で、センサのシェア上昇は会社の明確な目標だ。ただ、前の計画の未達があり、全部は達成できない。計画におおむね沿う姿として、18%とした。
中立 35% 営業利益は2倍近くに増えるが、ROEは6%台にとどまる 利益 17 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 2,339 円218 億円
センサは数量が1.6倍に増えるが、単価は1.2倍にとどまる。前面操作ブロックは数量1.2倍、単価1.15倍と、緩やかに伸びる。抵抗器は数量が横ばいで、単価だけが物価に届かない形で上がる。
売上は約254億円と、今の1.5倍。営業利益は約22億円で、利益率は8.8%。会社の10%には届かない。
減価償却は、今の約8億円から約16億円に増える。新本社と新しい設備の分だけ、新しい値段で積まれる。今ある設備の償却は増えない。更新の投資は建築費の上昇で膨らみ、現金が出ていく。足りない分は借入で賄い、利払いが増える。
純利益は約17億円、ROEは6.1%。配当は純資産の5%を保つため、利益よりも還元が大きい年が続き、現金は減る。
- 前面操作ブロック・機構部品・その他:数量 6,000(年間出荷個数(万個、推定))× 価格 187(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 112 億円・営業利益 9 億円。数量1.20倍、単価1.15倍、利益率8.0%
- センサ:数量 3,200(年間出荷個数(万個、推定))× 価格 269(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 86 億円・営業利益 10 億円。数量1.60倍、単価1.22倍、利益率12.0%
- 抵抗器:数量 8,000(年間出荷個数(万個、推定))× 価格 60(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 48 億円・営業利益 3 億円。数量1.00倍、単価1.15倍、利益率5.5%
- その他事業:数量 1.0(売上の規模(今を1))× 価格 7.37(売上(億円・名目))→ 売上 7 億円・営業利益 0 億円。数量1.00倍、単価1.34倍、利益率6.0%
倍率:事業の純利益 17 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.0% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 218 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:車載の需要は底堅いが、顧客の値下げ要求と資材高は続く。中計の目標に届かず、遅れて近づく姿を中立とした。前の計画の未達実績を踏まえ、35%とした。
やや悲観 27% 価格競争で利益率が上がらず、投資の負担が重くなる 利益 9 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 812 円76 億円
顧客の値下げ要求が強まり、前面操作ブロックの単価はほとんど上がらない。アミューズメントと産業機器の減少が続き、抵抗器の数量は15%減る。センサは伸びるが、シェアの上昇は計画の半分にとどまる。
売上は約198億円と、今より15%増えるだけ。物価の1.34倍には届かない。営業利益は約12億円で、利益率は6%。
新本社と設備の償却が増え、借入の利払いも加わる。純利益は約9億円、ROEは3.3%と、資本コストを大きく下回る。配当は純資産の5%を守ろうとするが、利益を上回る分は現金を取り崩す。
自己資本比率は70%を下回らないが、財務の余裕は目に見えて減る。新領域の事業化は遅れ、成長の物語は描きにくくなる。
- 前面操作ブロック・機構部品・その他:数量 5,250(年間出荷個数(万個、推定))× 価格 176(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 92 億円・営業利益 5 億円。数量1.05倍、単価1.08倍、利益率5.5%
- センサ:数量 2,500(年間出荷個数(万個、推定))× 価格 247(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 62 億円・営業利益 6 億円。数量1.25倍、単価1.12倍、利益率9.0%
- 抵抗器:数量 6,800(年間出荷個数(万個、推定))× 価格 55(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 37 億円・営業利益 1 億円。数量0.85倍、単価1.05倍、利益率3.5%
- その他事業:数量 1.0(売上の規模(今を1))× 価格 6.60(売上(億円・名目))→ 売上 7 億円・営業利益 0 億円。数量1.00倍、単価1.20倍、利益率3.0%
倍率:事業のROEは3.3%で資本コスト7.75%を大きく下回り、上限は1÷k=約11.8倍。利益が伸びず、成長もないので、上限の75%の8.8倍とした。
確率:顧客の値下げ要求と資材高は続く。前の計画の未達という実績もある。新本社への投資は決まっており、稼ぎが追いつかない姿は十分ありうる。27%とした。
悲観 13% 価格競争でシェアを失い、設備の負担だけが残る 利益 1 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 643 円60 億円
カメラ、自動車、アミューズメントのいずれも伸びず、納入先は他社へ切り替える。前面操作ブロックの数量は15%減り、抵抗器は3割減る。センサも価格競争で単価が据え置かれる。
新本社と生産設備への投資は済んでおり、固定費と償却だけが残る。売上は約148億円と、今より15%減り、営業利益は約3億円(利益率2%)に落ちる。借入の利払いが加わり、純利益はほぼゼロになる。
配当は大きく減らされ、自社株買いも止まる。倒れはしないが、稼ぐ力は失われる。残る価値は、現金と売れる資産から借入を返したあとの分だ。
新本社への50億円の投資は回収されず、会社の規模だけが重く残る。資本コストを大きく下回る水準で、長く足踏みする。
- 前面操作ブロック・機構部品・その他:数量 4,250(年間出荷個数(万個、推定))× 価格 163(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 69 億円・営業利益 1 億円。数量0.85倍、単価1.00倍、利益率2.0%
- センサ:数量 2,000(年間出荷個数(万個、推定))× 価格 221(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 44 億円・営業利益 2 億円。数量1.00倍、単価1.00倍、利益率5.0%
- 抵抗器:数量 5,600(年間出荷個数(万個、推定))× 価格 52(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 29 億円・営業利益 0 億円。数量0.70倍、単価1.00倍、利益率-1.0%
- その他事業:数量 0.8(売上の規模(今を1))× 価格 6.60(売上(億円・名目))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。数量0.80倍、単価1.20倍、利益率0.0%
倍率:事業のROEは0.4%で資本コスト7.75%を大きく下回り、稼ぐ力(純利益÷k)は数億円にすぎない。床は、現金と売れる資産から借入を返した残り(floor_assets_oku)で置き、今の自己資本の約2割とした。
確率:納入先の値下げ要求と、中国勢の追い上げが重なる構造的な負けとして、13%とした。この数字を、k の上乗せでも重ねて数えていない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
前面操作ブロック・機構部品・その他
機器の前面でダイヤルやボタンをまとめた部品(前面操作ブロック)、機構部品、その他の電子部品。カメラ、自動車、アミューズメント、医療機器向け。
| 数量年間出荷個数(万個、推定) | 価格1個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5,000 | 163 | 81 | 5 |
| 10 年後 中立 | 6,000 | 187 | 112 | 9 |
取り方:前面操作ブロック49.9億円、機構部品21.1億円、その他電子部品10.4億円の合計81.4億円。出荷個数と単価は開示がなく、売上を平均単価の推定で割った値。利益は電子部品の利益10.5億円を製品別に配分した推定で、利益率6.5%。数量は個数、価格は物価込みの名目(二重がけなし)。
センサ
車の空調やドアミラーの位置を測るセンサが中心。新たに電気化学センサ、漏水センサを開発中。
| 数量年間出荷個数(万個、推定) | 価格1個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,000 | 221 | 44 | 4 |
| 10 年後 中立 | 3,200 | 269 | 86 | 10 |
取り方:センサの売上44.1億円(製品別の開示)。個数と単価は推定。空調用の位置センサのシェア8〜9%は会社の説明で、2030年度に約12%を狙う。利益率10%は配分の推定。
抵抗器
可変抵抗器と固定抵抗器。成熟した部品で、価格競争が強い。
| 数量年間出荷個数(万個、推定) | 価格1個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8,000 | 52 | 42 | 2 |
| 10 年後 中立 | 8,000 | 60 | 48 | 3 |
取り方:可変抵抗器21.1億円と固定抵抗器20.5億円の合計41.6億円。個数と単価は推定。利益率4.5%は配分の推定。
その他事業
機械設備等の販売、環境対応素材。規模は小さい。
| 数量売上の規模(今を1) | 価格売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 5.50 | 6 | 0 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 7.37 | 7 | 0 |
取り方:報告セグメント「その他」の売上約5.5億円(連結売上172.6億円と電子部品167.1億円の差)。利益は小さく、ほぼゼロと置いた。
リスクと懸念
価格競争とコスト高
納入先は毎年の値下げを求める。2026年3月期は、資材高が4.9億円、人件費など経費の増加が4.5億円、営業利益を押し下げた。値上げの転嫁が追いつかなければ、利益率は上がらない。
計画の未達
前の中期計画(2021〜2025年度)は、営業利益が目標17億円に対し12億円、ROEが目標5.5%に対し4.5%に終わった。新しい計画(2030年度に営業利益22億円)も、同じ道をたどるおそれがある。
国内の赤字と海外依存
所在地別の営業利益は、日本が0.6億円の赤字で、アジアが10億円の黒字。利益を稼ぐのは海外の工場だ。為替、関税、地政学の影響を受けやすい。
設備投資と資金
5年で128億円を投じ、新本社・研究開発棟は50億円。工期は資材高と人手不足で遅れていた。償却と利払いが増え、自己資本比率は82%から70%前後に下がる。投資が稼ぎに結びつかなければ、負担だけが残る。
用途の偏り
好調なのはミラーレスカメラと自動車電装だ。アミューズメントは減少が続き、産業機器も低調だ。特定の用途が崩れると、売上が動く。1割を超える顧客はいないが、上位顧客に偏る。
新領域の不確実性
ナトカリセンサは高血圧の予防、漏水センサはサブスク型で、事業化は2027年度ごろの見込みだ。実績のない分野で、売上の規模も見えない。開発費と人員が先行する。
今後の分かれ目
- 営業利益率が2年続けて8%を超えた
- 値上げの転嫁と自動化が効いている合図だ。中立と強気の確率を上げる。
- 車載空調の位置センサのシェアが10%を超えた
- 会社の計画(12%)に沿う合図だ。センサの数量の前提を上げる。
- 営業利益が再び12億円を割った
- 資材高と人件費を転嫁できていない合図だ。慎重な筋書きの確率を上げる。
- 新本社の竣工が2028年1月からさらに遅れた
- 投資の負担が増す合図だ。償却の開始が遅れる一方、投資額が膨らむ。慎重側に寄せる。
- 政策保有株の縮減が10%以下に進み、売却益が出た
- 一時の利益が出るが、配当収入は減る。還元に回るか借入の返済に回るかを確かめる。
- ナトカリセンサ、漏水センサの量産が始まった
- 新領域が育ち始める合図だ。強気の確率を上げる。
見ておくもの
- 営業利益率(目標は2030年度に10%)
- 車載空調の位置センサのシェアとセンサの売上
- 日本とアジアの所在地別営業利益
- 設備投資の進み方と新本社の竣工時期
- DOE5%の配当と自社株買い15億円の実行
- 新領域(ナトカリ、漏水)の事業化
倍率と資本コストの決め方
起点は2026年3月期の実績(売上173億円、営業利益11.6億円)で、時価からは出発していない。会社の2027年3月期予想(営業利益15億円)と、中期計画2030(営業利益22億円)は、前の計画の未達実績を踏まえ、10年の筋書きの出発点としては参考にとどめた。
倍率は式から決めた。資本コストは7.75%(基本7.5%+quality1.0%)。中立のROEは6%台で資本コストに届かず、PERの上限は1÷kの約11.8倍。中立はその82%に置いた。他社や過去の倍率は、判断に使っていない。
出荷個数と単価は開示がなく、売上を製品別に置いた推定値である。製品別の利益と市場規模も推定である(notes/6763.md)。現金の余り(月商の4か月分を超える分)は34億円と読んだが、新本社などの設備投資と還元で10年のうちに使うため、10年後の筋書きには残さなかった。
政策保有株は、配当を利益に残したまま、価値を別に足していない(二重を避けた)。新リース会計基準の影響は小さい(国内外の工場は自社保有が中心)。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にquality1.0%を足した。計画の未達や大型投資の実行など個別の事情は、k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.75%。