結論
OBARA GROUP は、自動車のボディを接合する抵抗溶接機器と、シリコンウェーハを磨く研磨装置の二本柱で稼ぐ会社だ。2024 年末には電力会社向けの配電部品も買い足した。筆者の結論は、10 年後の本質価値が今の時価総額をわずかに上回る「適正」である。割安と言い切るには、利益の波が大きすぎる。
稼ぎの源は、自動車メーカーの工場づくりと、ウェーハメーカーの設備投資だ。どちらも景気に左右される。ただ、溶接ガンの電極のような消耗品が毎年出ていくので、売上の底は意外に浅い。2026 年 9 月期は売上が 16% ほど伸び、営業利益は 115 億円を見込む。
財務は堅い。自己資本比率は 7 割を超え、有利子負債は小さい。社長と資産管理会社が約 3 割、会社自身の自己株が約 3 割を握り、市場に出回る株は少ない。会社は自己株買いを続け、利益のほぼ全部を株主に返してきた。この姿勢は評価できる。
10 年の中立では、売上が 1,000 億円近くまで伸び、営業利益は 150 億円台に乗る。一方、電気自動車の車体づくりが変われば溶接点は減る。ウェーハ研磨には中国の国産化という脅威がある。筆者は強気に寄せすぎず、慎重な側の確率をやや厚く置いた。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「悪くないが、安くもない」。ニッチ首位の事業を二つ持ち、借金は小さく、利益の大半を株主に返す。オーナー経営者が経営も株主構成も握っているので、資本を雑に使う心配は小さい。これは大きな長所だ。
一方、10 年後も今より強いと言い切れるかというと、そこが難しい。溶接は電気自動車の車体づくりで需要の形が変わる。研磨は半導体の設備投資の波が大きく、中国の国産化も進む。予測が当たりにくい事業は、確信を下げるのが筋だ。
株主のものになる利益、つまり事業を保つための投資を引いた後の利益は、純利益の 8 割ほどとみる。工場と研究への投資は大きくないが、運転資金が重い。受注から回収までに時間がかかり、手元の現金の相当部分が売掛金と在庫に変わっている。
安全域は厚くない。今の値段で買うと、中立の筋書きでも年 8% ほどで、資本コストにわずかに届かない。悲観側の筋書きが 3 割を超えることも考えると、割安とは呼べない。値段が下がれば、持ちたい会社だ。
何で稼ぐ会社か
OBARA GROUP の稼ぎ頭は、自動車のボディを組み立てる抵抗溶接機器だ。薄い鋼板を重ね、数百キロの力で挟み、大電流を流して溶かし固める。この作業をするのが溶接ガンである。車種ごとに立体の形が違うので、ガンも電源も制御装置も一品ずつ設計する。自動車メーカーが新しいラインを作る時や、モデルチェンジで設備を替える時に売れる。電極のような消耗品は、ラインが動く限り毎年売れる。2025 年 9 月期の売上は 340 億円、全体の 55% を占める。
二つ目の柱は、完全子会社のスピードファムが作る平面研磨装置だ。シリコンウェーハや水晶・酸化物の基板に、ナノ単位の平らな面をつくる。砥粒を液に混ぜて磨く遊離砥粒方式の両面研磨が得意で、研磨剤や研磨パッドなどの消耗品も一緒に売る。洗浄装置も扱う。売上は 229 億円、全体の 37% だ。半導体の設備投資に左右される。
三つ目は電気機器関連だ。2024 年 12 月に、電力会社向けの配電部品をつくるエナジーコンポーネンツHD(旧 NSSK-QQ)を約 72 億円で買った。電線やケーブルをつなぎ、絶縁し、固定する部品を売る。2025 年 9 月期は 9 か月分の売上 47 億円が入った。
売上を顧客の所在地で分けると、日本が 44%、アジア・太平洋が 43%、米州が 10% だ。海外の売上比率は約 7 割に達する。受注残は 2025 年 9 月末で 390 億円ほどあり、売上の半年分を超える。生産拠点は世界の 17 の国と地域に広がる。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、顧客の工場に入り込んだ小さなニッチ首位が二つあることだ。自動車ボディ向けの抵抗溶接機器は、日経がシェア首位と紹介する。車体ラインは車種ごとの専用設計で、ガン一つの不具合がライン全体を止める。顧客は実績のある会社から替えにくい。切り替えの手間と、半世紀の設計の蓄積が堀、つまり他社がまねしにくい強みになっている。
研磨装置も同じ構図だ。ウェーハの面精度は半導体の歩留まりを左右するので、顧客は装置と消耗品をセットで長く使う。ただ、この事業は売上が設備投資の波を受けやすい。2025 年 9 月期は売上が前年を下回った。堀は溶接ほど深くない。
利益率は高くない。営業利益率は 16% 前後で、過去 10 年は 15〜20% の間を動いた。2009 年 9 月期には 30 億円の最終赤字も出している。景気の谷では利益が大きく削れる体質だと、筆者は見る。
経営の資本の使い方は評価できる。自己資本比率の下限と ROE の目標を掲げ、余った資金は自己株買いで返してきた。買収は 2017 年のプレテック、2024 年のエナジーコンポーネンツHDと、本業から近い所に絞る。弱みは、顧客が自動車とウェーハの二つに偏り、どちらも設備を買う側の都合で発注が波打つことだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
自動車業界は、車体ラインへの投資が車種更新の周期で動く。世界の生産台数は伸びが止まり、国内は人口減で細る。それでも電動化に対応するライン更新、米国での現地生産の拡大、インドや東南アジアの新工場が、設備の注文を支えている。2026 年 9 月期は日本とアジアの売上が 2〜3 割伸びた。一方、米州は軟調だ。関税への対応で投資が前倒しされた面があり、筆者はこの勢いが続くとは見ない。
構造の変化は二つある。一つは、電気自動車の車体づくりだ。大きな部品をひとかたまりで鋳造する工法が広がれば、溶接する点は減る。もう一つは、高張力鋼やアルミなど素材の多様化だ。これは溶接の難しさを上げ、高機能なガンの出番を増やす。差し引きは読みにくい。中国の自動車メーカーが自国の溶接設備を使う動きも、長い目では脅威になる。競合は国内の電元社などで、海外にも溶接機器の専業がいる。
ウェーハ研磨は、半導体の景気に連動する。ここ数年は、在庫調整のあとで先端のデバイスから回復が始まった。AI 向けの需要は、ウェーハの面積と加工の難度を押し上げる。ただ、研磨装置を買うのはウェーハメーカーで、設備投資の時期が重なって動く。競合は岡本工作機械製作所など国内の砥粒加工機メーカーや海外勢で、中国でも国産の装置が育っている。
配電部品は、電力会社の更新投資が主役だ。電線や電柱まわりの設備は古くなり、再生可能エネルギーやデータセンターへの対応で、配電網を厚くする動きも続く。数量は安定的に伸びるが、価格は電力会社の調達姿勢に縛られる。
資本政策と M&A
資本政策は株主に厚い。2025 年 9 月期は 112 万株の自己株を取った。2026 年 2〜3 月にも 84 万株を約 50 億円で取っている。会社は配当と機動的な自己株買いを組み合わせる方針で、自己資本比率 70% 以上、ROE 8〜10% を長期の目安に置く。自己株は発行済みの約 31% に達した。
株主の構成には特徴がある。社長の小原康嗣氏が約 12%、資産管理会社の馬込興産が約 18% を持つ。2026 年 8 月には、社長が一部の株を馬込興産に移すと発表した。創業家の支配は続く。市場で売買される株は少なく、会社が自己株を取るほど、さらに少なくなる。
買収は小粒だ。2017 年にウェーハ向け洗浄機器のプレテックを、2024 年に配電部品のエナジーコンポーネンツHDを買った。後者ののれんは約 37 億円あり、償却が利益を押し下げている。電力という景気に強い事業を足した判断は筋が通る。ただ、次の大型買収で価値を壊さないかは、見ておく必要がある。TOB の確率は、kabufu の試算で 10 年以内に 19% ほどとされる。
10年の還元は、配当と機動的な自社株買いの方針の範囲で、中立は純利益の合計の約8割に置いた。2025年9月期の100%超は繰り返さない前提である。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
受注と利益は勢いを増している。2026 年 9 月期は上半期だけで売上が 28%、営業利益が 47% 伸びた。受注残は 390 億円あり、足元の売上を数か月分支える。自動車メーカーは電動化と現地生産で、世界中のラインを更新している。新しい車種ごとに、専用の溶接ガンが必要になる。
研磨装置は、半導体の回復の入り口に立つ。AI 向けの先端デバイスが増えれば、ウェーハの面積も、仕上げの難度も上がる。遊離砥粒の両面研磨は、損傷の少なさで選ばれてきた。炭化ケイ素など新しい素材の基板にも出番が広がる。この事業の営業利益率は 2 割まで来ており、さらに上がる余地がある。
電気機器の買収は、これから実を結ぶ。のれんの償却が終われば、事業の稼ぐ力はそのまま利益に出る。配電設備の更新は長く続く。
資本政策も追い風だ。自己株は 3 割に達し、会社は買い続ける。利益の大半を株主に返せば、1 株の価値は着実に増す。借金が小さいので、景気が悪くなっても配当は守られる。中立でも今の値段を上回り、強気の筋書きでは倍以上になる。
慎重な見方
今の勢いは、景気の山に近い。米国の関税対応で自動車の設備投資が前倒しされ、その分は先で減る。実際、米州の売上はすでに前年を割っている。溶接機器の営業利益率は 15% 台で、2026 年はむしろ下がる予想だ。
電気自動車の車体づくりは、溶接の仕事を減らす恐れがある。大きな部品を一体で鋳造すれば、重ねて溶接する点そのものが減る。中国の自動車メーカーは自国の設備を優先する。10 年で見れば、溶接の数量は横ばいか減少が現実的だ。
研磨装置の売上は、2025 年 9 月期に前年を下回った。半導体の設備投資は波が大きく、ウェーハメーカーは需要が戻っても装置を買い控える。中国でも研磨装置の国産化が進み、価格も下がる。この事業の営業利益率 2 割は、波の頂点とみるべきだ。
会社は ROE の目標を 8〜10% に置く。利益が伸びても、投資は増やさず自己株買いに回す。自己株を厚く積むほど、市場に出回る株は減り、売買は細る。創業家の持ち分が高いので、少数株主の声は届きにくい。過去には最終赤字の年もある。景気の谷で利益が半分になる会社に、成長を織り込んだ値段は払えない。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分で説得力が高いのは、財務の堅さと還元の厚さだ。慎重な言い分で重いのは、設備投資の波と、電気自動車による溶接の構造変化だ。どちらも事実に支えられているので、中立の確率はほぼ並べ、わずかに慎重な側を厚くした。
10 年後の中立は、売上が今の 1.6 倍ほど、営業利益は 1.6 倍ほどになる。それでも、ここから先の倍率は大きく上がらない。自己株買いと配当で受け取る分を足すと、本質価値は今の時価総額を 1 割弱上回る。割安ではなく、適正の範囲に収まる。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/09 期)
確率で加重した株価時価総額 12,022 円1,733 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 4,763 円687 億円)。 今の値に割り戻すと 9,327 円1,344 億円、今との差 +39.8%、 期待の年率 +9.7%(資本コスト 7.2%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 22,588 円3,256 億円 | 6,105 円880 億円 | +330.2% | +15.7% | 2,582 円372 億円 |
| やや楽観 | 23% | 18,091 円2,608 億円 | 5,599 円807 億円 | +255.2% | +13.5% | 5,449 円785 億円 |
| 中立 | 31% | 14,066 円2,028 億円 | 4,981 円718 億円 | +185.6% | +11.1% | 5,905 円851 億円 |
| やや悲観 | 24% | 5,003 円721 億円 | 4,253 円613 億円 | +38.8% | +3.3% | 2,221 円320 億円 |
| 悲観 | 13% | 2,055 円296 億円 | 2,775 円400 億円 | −27.6% | −3.2% | 628 円91 億円 |
| 加重平均 | 100% | 12,022 円1,733 億円 | 4,763 円687 億円 | +151.7% | +9.7% | 16,785 円2,419 億円 |
今の株価時価総額 6,670 円961 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 9% 自動車の設備更新とウェーハの先端需要が重なり、溶接も研磨も伸びる 利益 162 億円 · PER 19.8 倍 · 株価時価総額 22,588 円3,256 億円
自動車メーカーは電動化と現地生産で世界中のラインを更新し、溶接機器は数量が 2 割増え、営業利益率は 18% に上がる。高張力鋼とアルミを混ぜる車体で、高機能のガンが標準になる。
研磨は、AI 向けの先端半導体でウェーハの面積と難度が上がり、数量が 5 割増える。炭化ケイ素や酸化物基板といった新しい素材にも装置を広げ、営業利益率は 22% に届く。
配電部品は、電力会社の更新投資が続き、のれんの償却も終わって利益が育つ。売上は 1,190 億円、営業利益は 230 億円ほどになる。自己株買いは続き、自己株の比率は 4 割を超える。ROE は 16% に達する。
- 溶接機器関連(自動車ボディ向け抵抗溶接ほか):数量 15.7(車体溶接設備の納入量(ガン・電源・制御装置を一式で数えた千セット、消耗品を換算した推定))× 価格 364(1 セットあたり平均売上(万円・名目、消耗品込み))→ 売上 572 億円・営業利益 103 億円。溶接:15.696 千セット × 364.14 万円(数量 1.20 倍・価格 1.40 倍)、営業利益率 18.0%
- 平面研磨装置関連(シリコンウェーハ向けほか):数量 178(研磨・洗浄装置の販売台数に消耗副資材を換算した台数(台換算、推定))× 価格 2.80(1 台あたり平均売上(億円・名目、消耗副資材込み))→ 売上 497 億円・営業利益 109 億円。研磨:177.607 台換算 × 2.8 億円(数量 1.55 倍・価格 1.40 倍)、営業利益率 22.0%
- 電気機器関連(電力会社向け配電部品):数量 10.8(配電部品の納入量(万セット・推定、2025 年 9 月期は 9 か月分))× 価格 11(1 セットあたり平均売上(万円・名目))→ 売上 120 億円・営業利益 19 億円。電気機器:10.797 万セット × 11.071 万円(数量 1.80 倍・価格 1.40 倍)、営業利益率 16.0%
倍率:事業の純利益 161 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.3% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 19.83 倍、時価総額 3,256 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:二つのニッチが同時に好循環に入り、買収も当たる必要があるので 1 割を切る。実現すれば利益は 2 倍を超えるが、設備投資の波が重なる偶然は多くない。
やや楽観 23% 主力二つが堅調に伸び、買収した配電部品も育つ 利益 135 億円 · PER 19.0 倍 · 株価時価総額 18,091 円2,608 億円
主力二つが、足元の勢いを少し落としながら伸びる。溶接は数量が 1 割強増え、営業利益率は 17% を保つ。電気自動車の車体づくりの変化は、高機能ガンの需要で相殺される。
研磨は、半導体の設備投資が 10 年でならせば年 3.5% の数量で伸び、営業利益率は 20% 前後で落ち着く。両面研磨の消耗品が積み上がり、波を小さくする。
配電部品は、電力会社の更新投資に支えられて着実に伸び、のれんの償却が終われば利益率は 14% まで上がる。買収は小粒の補強にとどまる。
売上は 1,080 億円、営業利益は 190 億円ほど。会社は配当と自己株買いで利益の 8 割を返し続け、ROE は 14% 台になる。
- 溶接機器関連(自動車ボディ向け抵抗溶接ほか):数量 14.7(車体溶接設備の納入量(ガン・電源・制御装置を一式で数えた千セット、消耗品を換算した推定))× 価格 356(1 セットあたり平均売上(万円・名目、消耗品込み))→ 売上 522 億円・営業利益 88 億円。溶接:14.65 千セット × 356.337 万円(数量 1.12 倍・価格 1.37 倍)、営業利益率 16.8%
- 平面研磨装置関連(シリコンウェーハ向けほか):数量 163(研磨・洗浄装置の販売台数に消耗副資材を換算した台数(台換算、推定))× 価格 2.74(1 台あたり平均売上(億円・名目、消耗副資材込み))→ 売上 446 億円・営業利益 89 億円。研磨:162.711 台換算 × 2.74 億円(数量 1.42 倍・価格 1.37 倍)、営業利益率 20.0%
- 電気機器関連(電力会社向け配電部品):数量 10.0(配電部品の納入量(万セット・推定、2025 年 9 月期は 9 か月分))× 価格 11(1 セットあたり平均売上(万円・名目))→ 売上 108 億円・営業利益 15 億円。電気機器:9.998 万セット × 10.834 万円(数量 1.67 倍・価格 1.37 倍)、営業利益率 14.0%
倍率:事業の純利益 134 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.1% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 18.99 倍、時価総額 2,608 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:足元の勢いが、波をならしながら 10 年続く筋書き。受注残と自己株買いの実績が支えるが、利益率 17% の持続には自動車と半導体の両方の好調が要る。
中立 31% 溶接は横ばい圏、研磨は緩やかに伸び、利益率は 15% 台に落ち着く 利益 111 億円 · PER 17.9 倍 · 株価時価総額 14,066 円2,028 億円
溶接は、数量が 10 年で 5% ほど増える程度にとどまる。電動化のライン更新と米国・インド・東南アジアの新設が、一体鋳造による溶接点の減少と引き換えになる。値段は物価並みに上がり、営業利益率は 15.5% になる。
研磨は、半導体のウェーハが年 2.5〜3% で増え、数量は 3 割増える。営業利益率は今の 20% 近い水準から 18% へ戻る。電気機器は、のれんの償却が終わり、営業利益率が 12% まで上がる。
売上は 980 億円、営業利益は 150 億円ほど。配当と自己株買いで利益の 8 割を返し、ROE は 12% 前後になる。買収は小粒で、価値を壊しも足しもしない。
- 溶接機器関連(自動車ボディ向け抵抗溶接ほか):数量 13.7(車体溶接設備の納入量(ガン・電源・制御装置を一式で数えた千セット、消耗品を換算した推定))× 価格 349(1 セットあたり平均売上(万円・名目、消耗品込み))→ 売上 479 億円・営業利益 74 億円。溶接:13.734 千セット × 348.534 万円(数量 1.05 倍・価格 1.34 倍)、営業利益率 15.5%
- 平面研磨装置関連(シリコンウェーハ向けほか):数量 149(研磨・洗浄装置の販売台数に消耗副資材を換算した台数(台換算、推定))× 価格 2.68(1 台あたり平均売上(億円・名目、消耗副資材込み))→ 売上 399 億円・営業利益 72 億円。研磨:148.96 台換算 × 2.68 億円(数量 1.30 倍・価格 1.34 倍)、営業利益率 18.0%
- 電気機器関連(電力会社向け配電部品):数量 9.2(配電部品の納入量(万セット・推定、2025 年 9 月期は 9 か月分))× 価格 11(1 セットあたり平均売上(万円・名目))→ 売上 97 億円・営業利益 12 億円。電気機器:9.198 万セット × 10.597 万円(数量 1.53 倍・価格 1.34 倍)、営業利益率 12.0%
倍率:事業の純利益 110 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.8% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 17.86 倍、時価総額 2,028 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:二つの設備投資の波が上下しながら、10 年でならせば緩やかに伸びる中心の姿。強気の言い分の勢いと、慎重な言い分の構造変化の落としどころなので、最も厚く置いた。
やや悲観 24% 自動車の車体づくりの変化と研磨の価格競争で、利益率が 13% に下がる 利益 76 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 5,003 円721 億円
電気自動車の車体づくりが一体鋳造へ進み、溶接ガンの数量は 1 割弱減る。ライン投資は車種更新の谷で止まり、値段は自動車メーカーに押されて物価に届かない。営業利益率は 13% に下がる。
研磨は、ウェーハメーカーが設備を買い控え、中国の国産装置との競争で価格が伸びない。営業利益率は 14% 台になる。電気機器は電力会社の調達が値段を縛り、営業利益率は 9% にとどまる。
売上は 820 億円、営業利益は 100 億円ほど。会社は配当を守り、自己株買いを絞る。ROE は 9% 台に下がり、優良企業という評価は一段後退する。
- 溶接機器関連(自動車ボディ向け抵抗溶接ほか):数量 12.0(車体溶接設備の納入量(ガン・電源・制御装置を一式で数えた千セット、消耗品を換算した推定))× 価格 338(1 セットあたり平均売上(万円・名目、消耗品込み))→ 売上 407 億円・営業利益 53 億円。溶接:12.034 千セット × 338.13 万円(数量 0.92 倍・価格 1.30 倍)、営業利益率 13.0%
- 平面研磨装置関連(シリコンウェーハ向けほか):数量 126(研磨・洗浄装置の販売台数に消耗副資材を換算した台数(台換算、推定))× 価格 2.60(1 台あたり平均売上(億円・名目、消耗副資材込み))→ 売上 328 億円・営業利益 48 億円。研磨:126.044 台換算 × 2.6 億円(数量 1.10 倍・価格 1.30 倍)、営業利益率 14.5%
- 電気機器関連(電力会社向け配電部品):数量 8.0(配電部品の納入量(万セット・推定、2025 年 9 月期は 9 か月分))× 価格 10(1 セットあたり平均売上(万円・名目))→ 売上 82 億円・営業利益 7 億円。電気機器:7.998 万セット × 10.28 万円(数量 1.33 倍・価格 1.30 倍)、営業利益率 9.0%
倍率:ROE 9.3%(事業の純利益÷自己資本。余った現金を除く)は k 7.25% を上回るが薄い。RONIC=k+1/2×(ROE−k)=8.8%、g 4% の正当化 PER は 12.8 倍。この筋書きは構造変化で数量と値段が削られ、利益の質が落ちているので、上限を 7 割に引き上げず、その 70% の 9.0 倍に置いた。余った現金は今の 0.75 倍に戻り方 1.0 を掛けて足した。
確率:電気自動車の車体づくりと中国の国産化が、設備の数量と値段をじわじわ削る筋書き。設備を買う側に値段を決められる事業で、構造変化は事実に支えられるため、中立に近い厚みにした。
悲観 13% 溶接の需要が構造的に細り、研磨も中国勢に押されて普通の機械メーカーになる 利益 30 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 2,055 円296 億円
溶接は、大型部品の一体鋳造と中国の自動車メーカーの内製化で、数量が 3 割減る。残った注文も値引きを迫られ、営業利益率は 8% に落ちる。
研磨は、中国の国産装置がシリコンウェーハの汎用品を取り、顧客の設備投資も細る。値段は 1 割しか上がらず、営業利益率は 8% になる。電気機器は買収したのれんを減損し、赤字すれすれまで追い込まれる。
売上は 540 億円、営業利益は 38 億円ほどに縮む。純現金があるので財務は傷まないが、成長の物語は終わり、配当を守るだけの会社になる。のれんの減損で自己資本は 40 億円ほど減る。
- 溶接機器関連(自動車ボディ向け抵抗溶接ほか):数量 9.2(車体溶接設備の納入量(ガン・電源・制御装置を一式で数えた千セット、消耗品を換算した推定))× 価格 299(1 セットあたり平均売上(万円・名目、消耗品込み))→ 売上 274 億円・営業利益 22 億円。溶接:9.156 千セット × 299.115 万円(数量 0.70 倍・価格 1.15 倍)、営業利益率 8.0%
- 平面研磨装置関連(シリコンウェーハ向けほか):数量 91.7(研磨・洗浄装置の販売台数に消耗副資材を換算した台数(台換算、推定))× 価格 2.20(1 台あたり平均売上(億円・名目、消耗副資材込み))→ 売上 202 億円・営業利益 16 億円。研磨:91.668 台換算 × 2.2 億円(数量 0.80 倍・価格 1.10 倍)、営業利益率 8.0%
- 電気機器関連(電力会社向け配電部品):数量 6.8(配電部品の納入量(万セット・推定、2025 年 9 月期は 9 か月分))× 価格 9.09(1 セットあたり平均売上(万円・名目))→ 売上 62 億円・営業利益 3 億円。電気機器:6.798 万セット × 9.094 万円(数量 1.13 倍・価格 1.15 倍)、営業利益率 4.0%
倍率:ROE 4.1% は k 7.25% を大きく下回り、事業の稼ぐ力は低い。この場合の PER は 1÷k=12.1 倍が天井で、構造的な負けの筋書きでは天井に届かない。稼ぐ力(事業の純利益÷k)を超えず、純現金と売れる資産の税後も下回らない 9.0 倍に置いた。余った現金は今の半分に戻り方 1.0 を掛けて足した。
確率:溶接の需要が一体鋳造で細り、研磨でも中国勢が価格を壊す、複合の構造的な負け。純現金で財務は傷まず、顧客が二つに偏る分の悪い目も残るので 1 割強とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
溶接機器関連(自動車ボディ向け抵抗溶接ほか)
自動車のボディを組み立てる抵抗溶接のガン・電源・制御装置・電極などの消耗品。アーク溶接機器(造船・建設向け)も含む。
| 数量車体溶接設備の納入量(ガン・電源・制御装置を一式で数えた千セット、消耗品を換算した推定) | 価格1 セットあたり平均売上(万円・名目、消耗品込み) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 13.1 | 260 | 340 | 54 |
| 10 年後 中立 | 13.7 | 349 | 479 | 74 |
取り方:2025 年 9 月期の溶接機器の売上 340.2 億円・営業利益 54.4 億円(営業利益率 16.0%)。開示に台数は無い。ガンと制御装置の一式に消耗品を加えた平均売上を約 260 万円とみて、納入量を約 1.3 万セット(13.08 千セット)と推定した。数量は実質、物価の分は価格に入れる。
平面研磨装置関連(シリコンウェーハ向けほか)
完全子会社スピードファムの遊離砥粒式両面研磨装置、洗浄装置、スラリー・研磨パッドなどの消耗副資材。
| 数量研磨・洗浄装置の販売台数に消耗副資材を換算した台数(台換算、推定) | 価格1 台あたり平均売上(億円・名目、消耗副資材込み) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 115 | 2.00 | 229 | 42 |
| 10 年後 中立 | 149 | 2.68 | 399 | 72 |
取り方:2025 年 9 月期の平面研磨装置の売上 229.2 億円・営業利益 42.1 億円(営業利益率 18.4%)。開示に台数は無い。装置と消耗品を合わせた 1 台あたりの売上を約 2 億円とみて、約 115 台換算と推定した。数量は実質、物価の分は価格に入れる。
電気機器関連(電力会社向け配電部品)
電力会社向けの配電部品。日本エナジーコンポーネンツ(電線・ケーブルの接続・絶縁・固定機材)、ラインテック(スパイラル部品)、台湾の Helical Line Tech。
| 数量配電部品の納入量(万セット・推定、2025 年 9 月期は 9 か月分) | 価格1 セットあたり平均売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 6.0 | 7.91 | 47 | 4 |
| 10 年後 中立 | 9.2 | 11 | 97 | 12 |
取り方:2024 年 12 月 31 日をみなし取得日に連結したため、2025 年 9 月期は 9 か月分で売上 47.5 億円・営業利益 3.6 億円(のれん償却後。営業利益率 7.5%)。平均売上を約 7.9 万円とみて、9 か月で約 6 万セットと推定した。10 年後の数量には、9 か月が 12 か月になる分(1.33 倍)を含む。
リスクと懸念
電気自動車の車体づくりの変化
大きな部品を一体で鋳造する工法が広がると、車体で溶接する点が減る。主力の溶接機器は、数量が長い目で細る恐れがある。高張力鋼やアルミの普及が相殺するかは、まだ見通せない。
自動車の設備投資の波
車体ラインへの投資は車種更新の周期で動き、米国の関税対応で前倒しされた分は先で減る。米州の売上はすでに前年を割っている。溶接機器の営業利益率は 15〜16% 台で、景気の山では高めに出ている。
ウェーハ設備投資の波と中国の国産化
研磨装置の売上は半導体の設備投資に連動する。2025 年 9 月期は前年を下回った。中国で国産の研磨装置が育てば、汎用のシリコンウェーハ向けは価格が崩れる。営業利益率 2 割は波の頂点に近い。
顧客の偏りと価格交渉
売上は自動車メーカーとウェーハメーカーという少数の大口に偏る。設備を買う側が値段を押す力は強く、物価の分を価格に乗せきれない年が出る。ラインの新設が止まれば受注も急に細る。
電気機器の買収とのれん
エナジーコンポーネンツHD の買収は約 72 億円で、のれんは約 37 億円ある。電力会社の調達方針が変わるか、事業が計画を割れば、減損で自己資本が減る。次の大型買収で価値を壊すリスクもある。
自己株の積み上げと売買の細り
自己株は発行済みの約 31% に達し、創業家と社長側も約 3 割を持つ。市場で売買される株は細り、需給で値段が振れやすい。少数株主の声は届きにくく、資本の使い方は経営の判断に左右される。
為替と海外の景気
海外の売上比率は約 7 割で、中国・アジア向けが大きい。前提は 1 ドル 150 円だが、円高が進めば円換算の売上が目減りする。中国の景気とアジアの設備投資が崩れれば、受注にも響く。
今後の分かれ目
- 米州の受注と売上が、関税の影響を超えて回復したら
- 溶接機器の数量の前提を上げ、強気寄りの筋書きに重みを移す。現地生産の拡大が実需だったと判断できる。
- 自動車メーカーの新型の電気自動車で、一体鋳造の採用が広がったら
- 溶接の数量を下方に直し、やや悲観と悲観の筋書きに重みを移す。高機能ガンの需要で相殺されるかを同時に見る。
- 研磨装置の受注が、半導体設備投資の回復で急に積み上がったら
- 営業利益率 20% が波の頂点か、水準の切り上がりかを見分ける。受注が 2 四半期続けば、研磨の数量の前提を上げる。
- 中国の研磨装置メーカーが、日本や台湾のウェーハメーカーに納入し始めたら
- 研磨の価格の前提を下げ、構造的な負けの確率を引き上げる。
- 電気機器の営業利益が、のれん償却を除いて伸び悩んだら
- 買収の成果が出ていないと判断し、減損の可能性を筋書きに織り込む。
- 会社が大型の買収や、自己株買いの停止を発表したら
- 資本の使い方が変わったとみて、還元の前提と戻り方を見直す。買収の相手と価格で、価値への影響を判断する。
見ておくもの
- 受注残の推移(2025 年 9 月末は約 390 億円)と、溶接・研磨・電気の別の受注高
- 溶接機器の営業利益率(15〜16% 台を保てるか)と、米州の売上
- 研磨装置の営業利益率(20% が続くか、10% 台に戻るか)と、中国の国産装置の動き
- 電気機器の営業利益(のれん償却前の稼ぐ力)
- 自己株の取得の額と、自己資本比率(70% の下限)、配当の水準
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の値段や過去の評価に寄せず、事業の稼ぎから式で置いた。k は基本 7.5% に、循環 +0.5%・寿命 +0.25% を加えた 8.25%。中立・楽観は、g 4% と RONIC(k を超える分の半分が残る)から出した正当化 PER の 85〜95% に置いた。余った現金 60 億円は事業の利益と分け、戻り方 1.0 を掛けて足した。やや悲観・悲観は構造的な負けから置き、7 割に引き上げていない。2026 年 9 月期の予想(営業利益 115 億円)は景気の山に近いとみて、10 年の起点には使わず、数量 × 価格で積み直した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.35→19.83 倍・やや楽観 PER 13.93→18.99 倍・中立 PER 12.38→17.86 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75% を足し、k は 7.25%。同じ領域のダイヘン(+0.5%)より循環と顧客の偏りで少し高く、安川電機(+1.2%)より堅い財務で低い。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.25%。