結論
アルプスアルパインは、スイッチやセンサ、触覚部品を作る電子部品の老舗と、車載の音響・表示機器を担うアルパインが一緒になった会社だ。売上は約1兆円。ただし営業利益率は4%にとどまる。
筆者の結論は「適正」だ。資本コスト8.25%で測ると、値段は回復をほぼ織り込んでいる。2027年3月期の会社予想は営業利益485億円。2028年3月期は625億円まで戻る予想だが、そこまで届いても資本コスト(8.75%)を大きく超える利益率にはならない。
流れは悪くない。車載は不採算品を絞り、2026年3月期に営業利益が56億円から142億円へ増えた。ただし今期は出だしでつまずいた。4〜6月期は車載のメモリー部品の値上がりを被り、営業損益が9億円の赤字だった。
一方で、株主への姿勢は変わった。200億円に続き300億円の自社株買いを決め、財務は純現金だ。PBRは1倍を割る。守りは堅い。
10年後の中立の筋書きは今の時価総額を少し上回る程度に収まる。強気の筋書きがすべて実現すれば大きく上振れるが、その確率は高くない。堀が浅い部品事業を抱えたまま、資本を厚く積む会社を割安とまでは言えない。筆者はそう見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、この会社の最大の論点は「稼いだお金をどこへ置くか」だ。
ROEは6%で、10年国債の3%を上回るが、株主が求める10%には届かない。利益を会社に残すほど、価値は目減りする。だから自社株買いの方向は正しい。ただし今期の300億円は、投資計画2,450億円とぶつかる。借入で投資しながら株を買う形になる。財務に余裕はあるが、そこで使うお金の質が問われる。
堀は部分的だ。触覚部品とセンサには技術の積み上げがあるが、顧客数が少なく、価格を決める力は弱い。車載機器の堀は薄い。
オーナー利益、つまり設備投資を引いた後に株主へ残る利益は、今は純利益の7割にも満たない。安全域は、PBR0.9倍の純現金と、堅い自己資本にある。損をしにくい。ただし、大きく儲かる事業でもない。10年後を見通しやすい会社ではないので、確信度は高くない。
何で稼ぐ会社か
事業は大きく3つに分かれる。2026年3月期の売上はモビリティ事業が5,551億円、コンポーネント事業が3,584億円、その他が853億円だ。
モビリティ事業は旧アルパインの流れをくむ。カーオーディオやナビなどの車載情報機器、車載スイッチ、センサ、通信モジュールを、自動車メーカーと一次部品メーカーへ納める。2019年の経営統合以降、経営資源を車載に寄せてきた。ところが新製品の赤字が膨らみ、2024年度に構造改革へ舵を切った。個別の機器を売る形から、複数社と組んでコックピット全体を提案する形への転換を進めている。
コンポーネント事業は会社の原点だ。スマホ向けの触覚部品(押した感触を返す部品)、ゲーム機向けのスイッチ、車載・産業向けのセンサを手がける。利益額は302億円で、全社の稼ぎ頭だ。2024年にはパワーインダクタ事業を約103億円で台湾のデルタ電子に売った。売上30億円の小さな事業で、競合が多く自社だけでは伸ばしにくい。この「選んで絞る」姿勢が、今の経営の特徴だ。
その他は物流などで、売上853億円に対し損益は35億円の赤字だ。
優良さと弱いところ
優良とは言いにくい。筆者がまず気にするのは、利益のぶれの大きさだ。過去20年に赤字の期が5つある。営業利益率は最高でも8.4%だ。
強みはある。スイッチやセンサ、触覚部品は、顧客の製品に深く組み込まれる。一度採用されると、数年は切り替えられにくい。長い取引が、技術の蓄積につながっている。
弱みは二つある。一つは、スマホとゲーム機向けの部品が少数の大口顧客に左右されることだ。顧客の新製品の出来と部品点数で、数量が大きく動く。もう一つは、車載の機器事業が薄利なことだ。メモリー価格が上がれば原価で、自動車メーカーの値下げ要請は価格で、それぞれ利益を削る。2026年度の車載の利益率は2.6%だ。
資本効率も弱い。ROEは6%で、資本コストの10%に届かない。会社は2028年3月期までにPBR1倍を目標に掲げる。それは裏を返せば、今は資本を生かし切れていないという自己評価でもある。
財務は健全だ。自己資本比率は57%で、純現金がある。倒産の心配はなく、悲観の局面でも下値は固い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社の市場は二つに割れる。成熟したスマホと、ゆっくり伸びる車載だ。
スマホ向けの部品は、台数が横ばいのなか、1台あたりの部品点数で勝負が決まる。触覚部品は高級機から普及機へ広がる余地があるが、顧客が内製や他社へ切り替えれば、数量はすぐ落ちる。ゲーム機向けのスイッチは、新型機の発売の年に数量が跳ね、翌年には反動が出る。電子部品全体は、村田製作所・TDK・太陽誘電のような高収益の会社と、薄利の会社に二極化している。アルプスアルパインは後者に近い。
車載は、車1台あたりの電子部品が増える流れにある。電動化と安全装備でセンサの数が増え、操作系は物理スイッチから画面と触覚へ移る。ただし機器の側は、大手の車載部品メーカーが先行し、中国メーカーの台頭も著しい。単体の音響機器やナビは、車載ソフトを自動車メーカーが握る流れのなかで、居場所が狭まる。会社が「デジタルキャビンの統合提案」へ変えようとする背景には、この危機感がある。
もう一つの変数は、米国の関税と半導体メモリーの価格だ。関税の影響は、2026年度の上期で営業利益に10億円未満と軽かった。メモリー価格の上昇は、今期の出だしで原価を押し上げた。AI向けにメモリーが取られる間は、車載の原価は重いままだ。
資本政策と M&A
資本政策は変わりつつある。2025年度から始まる3か年の中期経営計画では、成長投資を2,450億円と見込み、営業キャッシュフローを上回る。借入も使うため、2027年度のフリーキャッシュフローは赤字もありうる。
還元の目安は、自己資本に対する配当(DOE)で3%だ。2028年度の次の計画で見直す。加えて、2026年3月期に200億円、2027年3月期の第1四半期に300億円の自社株買いを決めた。時価総額の約7%にあたる。PBR1倍割れでの買い戻しは、株主にとって筋がよい。
事業の選別も進めている。パワーインダクタ事業の売却は、非中核を切る最初の一手だ。今後は、車載機器の一部やセンサ・通信で、提携や再編があってもおかしくない。TOBの可能性は、kabufuの推計で今後10年に約17%だ。
還元の点検(P3 2026-10-19):配当はDOE3%(約1,500億円)、残りは自社株買い。300億円の枠は8/31時点で未取得が大半で株数と二重にならない。直さず。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
構造改革の成果が数字に出始めている。モビリティ事業は2025年度の56億円から、2026年度に142億円へ利益が増えた。不採算品を絞り、売価を直した効果だ。市場の予想どおり進めば、営業利益は2028年3月期に625億円、利益率は5.7%へ上がる。
コンポーネント事業は、触覚部品とゲーム機向けが好調で、302億円を稼いでいる。スマホ向け触覚部品は高級機から普及機へ広がり、車載のセンサは1台あたりの搭載数が増える。2023年3月期には、この事業だけで383億円を稼いだ実績がある。
資本政策も味方だ。DOE3%の配当に加え、2期続けて大型の自社株買いを行う。PBR1倍割れの今は、買い戻しが1株あたりの価値を直接押し上げる。純現金で、倒産の心配はない。
そのうえ、会社は2028年3月期までにPBR1倍を目標にしている。利益率が8%台に戻れば、この会社の利益は今の2倍近い。その局面ではPERも上がる。今の値段は、まだ底値圏だ。
慎重な見方
利益の水準が低すぎる。営業利益率4%は、資本コストを賄えない。過去20年に赤字の期が5つあり、直近の2027年3月期の出だしも赤字だった。メモリー価格の上昇という外部要因ひとつで、改善の流れは止まった。
車載機器は、自動車メーカーの値下げ要請と、中国メーカーの追い上げに挟まれる。ソフトを握るのは自動車メーカーとテック企業で、単体の車載機器は付加価値が薄い。統合提案へ転じても、勝てる保証はない。
コンポーネントは、少数の顧客に左右される。触覚部品とゲーム機向けは、顧客の新製品の出来で数量が変わる。顧客が内製へ寄れば、数年で数量は落ちる。
成長投資2,450億円は、営業キャッシュフローを上回る。投資の回収が遅れれば、純現金は減り、配当と自社株買いの原資も削られる。2019年の経営統合以降、売上は伸びても利益は伸びなかった。この経緯が示すとおり、資本の使い方に実績がない。
今の時価総額は、会社計画の達成をほぼ織り込んでいる。計画が少しでも遅れれば、本質価値は割り込む。
どちらに重みを置いたか
改善が計画どおり進むなら強気の見方が通るが、過去10年の実績は慎重な見方を支える。中立の利益率は計画より低い5〜6%に置き、やや悲観・悲観の合計を3割強と、上振れ側の3割をやや上回らせた。ただし自社株買いと純現金が下値を支えるため、悲観の確率は高めの1割強にとどめた。この会社の過去の利益率を見る限り、計画より保守的に置くのが筋だと筆者は考える。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,466 円6,697 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,437 円2,776 億円)。 今の値に割り戻すと 2,535 円4,899 億円、今との差 +21.1%、 期待の年率 +8.9%(資本コスト 8.3%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 8,890 円1.72 兆円 | 2,403 円4,644 億円 | +439.6% | +18.4% | 903 円1,746 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,510 円1.06 兆円 | 1,868 円3,609 億円 | +252.5% | +13.4% | 1,475 円2,851 億円 |
| 中立 | 34% | 3,642 円7,037 億円 | 1,557 円3,009 億円 | +148.4% | +9.5% | 1,768 円3,416 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,164 円2,250 億円 | 1,205 円2,328 億円 | +13.2% | +1.2% | 592 円1,144 億円 |
| 悲観 | 13% | 950 円1,835 億円 | 310 円600 億円 | −39.8% | −4.9% | 164 円317 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,466 円6,697 億円 | 1,437 円2,776 億円 | +134.2% | +8.9% | 4,902 円9,474 億円 |
今の株価時価総額 2,093 円4,045 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 統合提案と触覚部品が当たり、利益率が8%台へ 利益 1,088 億円 · PER 15.8 倍 · 株価時価総額 8,890 円1.72 兆円
統合提案が自動車メーカーに根づき、車載機器は部品の売り切りから、ソフトと機器の継続提案へ変わる。利益率は7%台に上がる。コンポーネントは、触覚部品とセンサが新しい用途へ広がり、数量が1.5倍に伸びる。10年かけて利益率は13%に乗る。営業利益は1,500億円台だ。この利益率は、会社の歴史のなかで初めての水準になる。資本は、自社株買いで自己資本が膨らみすぎず、ROEは16%に届く。売上は1兆6,600億円、営業利益率は9.3%になる。会社が目標に掲げる10%の利益率にほぼ届く姿だ。10年かけて堀が厚くなり、価格を決める力が育つ必要がある。過去の実績は、この筋書きを支えない。確率は低く置く。
- コンポーネント事業:数量 60.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 1.20(1個あたり平均単価(百円・名目))→ 売上 7,204 億円・営業利益 937 億円。コンポーネント 数量×単価、営業利益率 13.0%
- モビリティ事業:数量 5,750(車載製品の年間出荷点数(万点、推定))× 価格 1.44(1点あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 8,299 億円・営業利益 622 億円。モビリティ 数量×単価、営業利益率 7.5%
- その他(物流など):数量 170(取扱貨物量(万トン相当、推定))× 価格 6.72(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 1,143 億円・営業利益 −30 億円。その他 数量×単価、営業利益率 -2.6%
倍率:事業の純利益 1,088 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.1% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.8 倍。全体の PER 15.79 倍、時価総額 17,180 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:薄利の会社が10年かけて利益率13%に乗る筋書きで、歴史にない水準。確率は低く置く。
やや楽観 20% センサと触覚が伸び、車載が薄利で安定 利益 743 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 5,510 円1.06 兆円
コンポーネントが伸びて、会社の稼ぎ頭であり続ける。触覚部品は普及機へ広がり、車載のセンサは1台あたりの搭載数が増える。数量は1.3倍だ。車載機器は薄利のまま安定し、利益率は5%台となる。営業利益は1,000億円台に乗る。ROEは12%前後で、資本コストをわずかに上回る。ただし、先行する提携先との競争で、価格を決める力は限られる。売上は1兆4,700億円、営業利益率は7.2%だ。薄利の車載機器と、利益の厚いコンポーネントの組み合わせが、全体の利益率を押し上げる。会社の旧目標である利益率10%は、10年かけても届かない。
- コンポーネント事業:数量 52.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 1.16(1個あたり平均単価(百円・名目))→ 売上 6,057 億円・営業利益 666 億円。コンポーネント 数量×単価、営業利益率 11.0%
- モビリティ事業:数量 5,250(車載製品の年間出荷点数(万点、推定))× 価格 1.42(1点あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 7,461 億円・営業利益 410 億円。モビリティ 数量×単価、営業利益率 5.5%
- その他(物流など):数量 170(取扱貨物量(万トン相当、推定))× 価格 6.72(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 1,143 億円・営業利益 −38 億円。その他 数量×単価、営業利益率 -3.3%
倍率:事業の純利益 743 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.2% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍。全体の PER 14.33 倍、時価総額 10,647 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:コンポーネントの伸びが続き、車載は薄利で安定する。
中立 34% 薄利の電子部品会社として成熟する 利益 543 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 3,642 円7,037 億円
10年後も、会社は薄利の電子部品メーカーとして続く。コンポーネントは、数量が15%伸び、利益率は9〜10%に落ち着く。単価は小型化と競争で、物価ほどは上がらない。車載機器は数量が横ばいで、自動車メーカーの値下げ要請が、物価分の値上がりを一部削る。利益率は4%台だ。営業利益は770億円、ROEは10%弱で、資本コストと同じ水準になる。特別な高倍率は付かない。売上は1兆3,500億円で、利益率は5.7%だ。歴史的な最高の8.4%には届かず、10年平均の4%台よりはやや上だ。この水準なら、資本コストと同じ程度のROEで、会社は価値を生みも壊しもしない。自社株買いが、株主に残る利益の中心になる。
- コンポーネント事業:数量 46.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 1.15(1個あたり平均単価(百円・名目))→ 売上 5,276 億円・営業利益 501 億円。コンポーネント 数量×単価、営業利益率 9.5%
- モビリティ事業:数量 5,000(車載製品の年間出荷点数(万点、推定))× 価格 1.42(1点あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 7,106 億円・営業利益 298 億円。モビリティ 数量×単価、営業利益率 4.2%
- その他(物流など):数量 170(取扱貨物量(万トン相当、推定))× 価格 6.72(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 1,143 億円・営業利益 −45 億円。その他 数量×単価、営業利益率 -3.9%
倍率:事業の純利益 543 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍。全体の PER 12.96 倍、時価総額 7,037 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:薄利で成熟する中心の筋書き。過去の最高利益率8.4%に届かない。
やや悲観 25% 車載機器が中国勢に押され、利益が細る 利益 316 億円 · PER 7.1 倍 · 株価時価総額 1,164 円2,250 億円
車載の機器事業が、中国メーカーと自動車メーカー自身のソフトに挟まれて縮む。数量は8%減り、利益率は2〜3%に下がる。コンポーネントも、顧客の内製化で数量が伸びず、利益率は7%台だ。営業利益は440億円で、今期と大きく変わらない。投資の回収が遅れ、純現金は減る。ROEは6%で、資本コストを大きく割る。売上は1兆1,600億円まで伸びるが、これは物価の上昇によるもので、実質の数量は減る。利益率は3.8%まで下がる。純現金は、借入を伴う投資の回収が遅れて目減りする。配当は維持するが、自社株買いは止まる。
- コンポーネント事業:数量 40.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 1.08(1個あたり平均単価(百円・名目))→ 売上 4,301 億円・営業利益 323 億円。コンポーネント 数量×単価、営業利益率 7.5%
- モビリティ事業:数量 4,600(車載製品の年間出荷点数(万点、推定))× 価格 1.35(1点あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 6,230 億円・営業利益 156 億円。モビリティ 数量×単価、営業利益率 2.5%
- その他(物流など):数量 162(取扱貨物量(万トン相当、推定))× 価格 6.72(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 1,086 億円・営業利益 −48 億円。その他 数量×単価、営業利益率 -4.4%
倍率:ROE 6.0%・資本コスト 8.25% で ROE が k 以下。PER の上限は 1÷k(11.4 倍)で、成長 g 4.0% を養うのに ROE 6.0% の稼ぎの一部を回すため (1−g÷ROE)÷(k−g) = 7.1 倍とした。
確率:車載機器の競争力が落ちる。この会社の歴史では起こりやすい。
悲観 13% 構造的に負け、車載機器から後退する 利益 −34 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 950 円1,835 億円
構造的に負ける。顧客が触覚部品を内製や他社へ切り替え、コンポーネントの数量が2割減る。車載機器は赤字が続き、数量は3割減る。一部の事業は縮小か売却に追い込まれる。営業利益は赤字に沈むが、配当は積み上げた純現金から細々と続ける。優良企業の評価は外れ、PBR0.4倍前後で取引される。売上は9,000億円を割り、固定費の重さで赤字になる。会社は事業の整理を進めるが、整理に費用がかかり、自己資本はほとんど増えない。それでも純現金があるため、財務が行き詰まることはない。市場は、この会社を成長のない資産株として扱う。
- コンポーネント事業:数量 32.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 0.99(1個あたり平均単価(百円・名目))→ 売上 3,154 億円・営業利益 95 億円。コンポーネント 数量×単価、営業利益率 3.0%
- モビリティ事業:数量 3,500(車載製品の年間出荷点数(万点、推定))× 価格 1.22(1点あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 4,274 億円・営業利益 −85 億円。モビリティ 数量×単価、営業利益率 -2.0%
- その他(物流など):数量 145(取扱貨物量(万トン相当、推定))× 価格 6.02(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 870 億円・営業利益 −50 億円。その他 数量×単価、営業利益率 -5.8%
倍率:床は純現金+売れる資産の税後 1,835 億円。今の自己資本 4,475 億円に対する 0.41 倍として置いた。
確率:10年のうちに顧客の内製化と車載の撤退が重なる構造的な負け。顧客が少なく車載が薄利なため、厚めの13%を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
コンポーネント事業
スイッチ・センサ・スマホ向け触覚部品・ゲーム機向け部品など、顧客の機器に組み込む電子部品。利益の稼ぎ頭。
| 数量年間出荷個数(億個、推定) | 価格1個あたり平均単価(百円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 0.90 | 3,584 | 302 |
| 10 年後 中立 | 46.0 | 1.15 | 5,276 | 501 |
取り方:開示された売上3,584億円と、小型部品の出荷が年数十億個規模であることから、年約40億個と推定し、1個あたり約0.9百円とした。数量は実質、単価は名目。スマホ向けは小型化と競争で単価が物価ほど上がらないため、中立の単価は3年で1.07倍、10年で1.28倍(物価の1.34倍を下回る)と置いた。
モビリティ事業
車載の音響・表示機器、車載スイッチ・センサ・通信モジュール。自動車メーカーと一次部品メーカーが顧客。
| 数量車載製品の年間出荷点数(万点、推定) | 価格1点あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5,000 | 1.11 | 5,551 | 142 |
| 10 年後 中立 | 5,000 | 1.42 | 7,106 | 298 |
取り方:世界の自動車生産が年約9,000万台で、1台に搭載される同社製品が数点とみて年約5,000万点と推定し、売上5,551億円から1点あたり約1.1万円とした。数量は実質。不採算品の整理で横ばいと置く。単価は物価分の上昇を自動車メーカーの値下げ要請が一部削るため、中立で3年1.09倍、10年1.28倍とした。
その他(物流など)
物流などの周辺事業。損益は赤字で、全社の本社費用的な性格を持つ。
| 数量取扱貨物量(万トン相当、推定) | 価格1トンあたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 170 | 5.02 | 853 | −35 |
| 10 年後 中立 | 170 | 6.72 | 1,143 | −45 |
取り方:売上853億円を、取扱量は横ばいの170万トン相当、1トンあたり約5万円と推定して置いた。細かな根拠は乏しい推定で、損益の振れも小さいため、結論には効かない。
リスクと懸念
メモリー価格の上昇
車載の情報機器は半導体メモリーを大量に使う。今期の第1四半期は、この値上がりを価格に転嫁できず営業赤字になった。AI向けの需要でメモリーが逼迫する間は、車載の原価が重いままになる恐れがある。会社は売価の改定で補う構えだが、顧客との交渉に時間がかかる。
少数顧客への依存
スマホ向けの触覚部品やゲーム機向け部品は、少数の大口顧客の新製品の出来と部品点数で数量が動く。顧客が内製や他社へ切り替えれば、数年で売上が落ちる。顧客ごとの採用機種の入れ替わりで、年ごとの振れも大きい。分散が効きにくい。
車載機器の競争力
車載ソフトの主導権は自動車メーカーとテック企業へ移り、単体の音響機器やナビの居場所は狭まる。会社は統合提案へ転じているが、勝てる保証はない。中国メーカーの台頭も続く。機器の売り切りだけでは、利益率の改善に限りがある。
成長投資の回収
2025年度からの3か年で成長投資2,450億円を見込み、営業キャッシュフローを上回る。回収が遅れれば純現金が減り、事業の選別も後手に回り、配当と自社株買いの原資が細る。2019年の経営統合後は、売上は伸びても利益が伸びなかった。
景気とスマホの循環
自動車生産とスマホ需要が同時に落ちる局面では、薄利の事業が一気に赤字へ傾く。過去20年に赤字の期が5つある。純現金が倒産を防ぐが、利益のぶれは大きい。景気の谷では、株価も大きく下げやすい。リーマン級の谷では、利益が3〜4割落ちる前提で見ておく必要がある。
為替と関税
売上の多くは海外で、円高は円換算の利益を削る。ドル円は150円が続く前提だが、円高に振れれば部品の採算が悪化する。米国の関税は2026年度の上期で営業利益に10億円未満と軽微だったが、自動車への課税や部品への波及が広がれば、顧客の発注を通じて響く。
今後の分かれ目
- 今期の下期にメモリーの原価が価格へ転嫁され、車載の利益率が4%に乗ったら
- モビリティの利益率の前提を上げ、中立と上振れ側の確率を引き上げる。
- コンポーネントの主要顧客が触覚部品の採用機種を広げたら
- コンポーネントの数量の前提を上げ、10年のやや楽観と楽観の確率を上げる。
- 車載の統合提案が、複数の自動車メーカーで量産採用されたら
- 車載機器の堀の評価を上げ、利益率の上限と倍率を見直す。
- 投資計画の回収が遅れ、営業キャッシュフローが続けて赤字になったら
- 純現金の前提を下げ、還元と倍率の前提を引き下げる。
- 主要顧客が内製や他社への切り替えを進めたら
- やや悲観と悲観の確率を上げ、数量の前提を下げる。
- 車載部品の再編や提携で、株主への配分が変わる動きが出たら
- TOBや再編後の価値を再計算し、筋書きを見直す。
見ておくもの
- モビリティ事業の営業利益率(今期の第1四半期は赤字)
- メモリー価格と、原価の価格への転嫁
- コンポーネント事業のスマホ・ゲーム機向け数量
- 2028年3月期までのPBR1倍の目標と、次の中期計画の還元方針
- 成長投資2,450億円の進み方と純現金の推移
倍率と資本コストの決め方
セグメントごとに数量(実質)と単価(名目)で積み、利益率は過去の実績と会社の予想の範囲で置いた。倍率は資本コスト8.25%(基本7.5%にquality+1.25%)と長期の成長率4.0%から利益ベースの正当化PERを出し、楽観・やや楽観は上限の8.5〜9割、中立はROEがkをわずかに上回るので式の下限1÷k(約11.4倍)に置いた。今の株価や今のPER15倍に寄せたのではない。悲観は赤字のため純現金+売れる資産の税後の床で置いた。純現金611億円は時価総額の1割を超えるが、売上の1.5か月分の運転資金(約1,270億円)に届かず、成長投資が営業キャッシュフローを上回る計画でもあるため、余った現金として分けなかった。新リース会計基準(2028年3月期から)で純負債と営業利益の形が変わるが、10年後は今と同じ形(賃借料を費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.84→15.79 倍・やや楽観 PER 11.07→14.33 倍・中立 PER 11.38→12.96 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。事業で決める:基本 7.5% に quality +1.25%(循環 +0.5・値決め +0.5・寿命 +0.25)を足して k 8.25%。純現金で extra は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 8.25%。