結論
日本ケミコンは、アルミ電解コンデンサ(電気をためて電圧を安定させる部品)の世界大手だ。電極に使うアルミ箔まで自社で作る。筆者の結論は、今の値段は割高だ。理由は、利益の底が低いうえ、種類株という株主の取り分を薄める重しが残っているからだ。
AIサーバー向けの大形コンデンサは、この会社に久しぶりに来た追い風だ。2027年3月期は営業利益80億円を見込み、2028年度の計画は140億円まで引き上げている。だが2026年3月期の営業利益は33億円で、利益率は2.5%しかない。過去20年のうち9期が赤字で、計画の未達も続いてきた。
買い手が払う値段は、その利益がどれだけ続くかで決まる。資本コストは9.5%と置いた。会社自身も10〜11%と言う。10年後の中立の利益で測ると、事業の収益性はその水準にほぼ並ぶ。ここでは倍率は伸びない。
種類株は、2023年に集めた150億円と2026年に足した90億円がある。A種は償還、B種は一部が普通株に変わり、取り分は最大で約27%薄まりうる。中立の筋書きでも10年後の価値は今を下回り、楽観の筋書き(確率6%)でようやく今の3倍を超える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「持ち続けたい事業」とは言い難い。アルミ電解コンデンサは必要な部品だが、10年先の利益を言い切れない。値段は買い手が決め、利益は数量と稼働率に振り回される。
株主のものになる利益、つまり設備投資と借金の返済を引いて残る分は、まだ薄い。営業キャッシュフローの計画は3年で440億円だが、そのうち210億円は借金の返済に、110億円は種類株の償還に消える。残りは配当ではなく設備に回る。
資本の使い方は評価が割れる。種類株で調達した資金を、AIサーバー向けの大形品とハイブリッドの設備に振り向けた判断は理にかなう。一方で、これまでの計画は何度も下方修正され、前の中期計画の営業利益110億円は届かなかった。
安全域は乏しい。中立の筋書きで、10年後の価値は今を下回る。ただしAIサーバー向けの大形品で、この会社の箔と設計の力が本物と確かめられれば、見方は変わる。確かめるまでは、価格に余裕はない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、アルミ電解コンデンサを中心とするコンデンサだ。売上の9割を超える。電子機器の電源回路で、電気をためたり、電圧のゆれをならしたりする。単価は1個で数十円の汎用品から、数百円以上のAIサーバー向け大形品まで幅がある。
主な売り先は5つだ。車載(ECU・ADAS・オンボードチャージャー)が3割強、AIサーバーや基地局などのICTが3割弱、産業機器(インバータ・サーボ)、家電、太陽光や風力が残りだ。景気で需要が動くので、利益のぶれは大きい。
強みは、コンデンサの中身である電極箔を自社で作れることだ。高容量の箔を使えば、同じ大きさで容量の大きい製品が作れる。AIサーバーの電源は場所が限られ、小さくて大容量の部品が要る。ここが日本ケミコンの勝負どころだ。
製品は3つの系列に分かれる。液体の電解液を使う従来品、固体の導電性高分子を使う高分子品、両方を組み合わせたハイブリッドだ。単価と利益が高いのはハイブリッドと大形品で、宮城に専用棟を建てて2028年度に月産1億個を目指す。生産は海外比率が約65%で、韓国の持分法会社三瑩電子や中国・台湾・インドネシアに工場がある。
優良さと弱いところ
筆者は、この会社の堀(他社がまねできない強み)を「中くらい」と見る。世界のアルミ電解市場で10%台前半のシェアを持ち、箔から完成品まで一貫して作れる点は本物だ。だが汎用品では、中国や台湾の安い品が市場を広げ、値段を決める力は弱い。
収益力の履歴が弱みだ。営業利益率は過去10年で最大でも8%で、2020年以降は2〜3%が多い。赤字の期が過去20年で9回ある。独禁法関連の損失(コンデンサのカルテル問題)が2016年から続き、自己資本を削った。この問題はほぼ片づき、未解決の民事訴訟は1件だけだ。
財務は厚くない。純有利子負債は492億円で、自己資本の8割に及ぶ。営業利益が支払利息の1.7倍しかない。2023年に集めた種類株のうち、B種は普通株に変えられる。この変換が進むと、株主の取り分が薄まる。経営陣は、再生のために資本の増強を急ぎ、設備投資を増やしている。方針は正しいが、結果を出していない点で評価はまだ付けられない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
アルミ電解コンデンサの世界市場は約1.1兆円。年5%台で伸びる見通しだ。ただし伸びのほとんどは名目で、数量の伸びは年2〜3%にとどまる。AIサーバーの電源に使う大形・ハイブリッド品だけが、数量でも大きく伸びる。
競合は日本のニチコンとルビコン、パナソニック、米国のケメット、ビシェイ、そして中国の艾華・江海などだ。ニチコンもルビコンも、AIサーバー向けの高容量品を2025〜2026年に相次いで出した。この市場は先行者が稼げる期間が短く、供給が増えれば単価は下がる。
車載は電装化で部品点数が増えるが、EVの普及は想定より遅れ、欧州の需要が弱い。産業機器は2023年から続いた在庫調整が終わりに近づき、回復の途上にある。
代替の動きにも注意がいる。高容量のセラミックコンデンサが、一部の用途でアルミ電解を置き換えている。ただしAIサーバーの電源のように高電圧・大容量が要る場面では、アルミ電解の優位がまだ続く。
電子部品のなかでは、この領域は資本コストを稼ぎにくい部類だ。需要の山の高さより、値下げの深さが利益を決める。
資本政策と M&A
資本政策は、いまの株主にとって最大の論点だ。2023年12月に、A種(100億円・累積配当・2026年4月から年7.5%)とB種(50億円・普通株への転換権つき)の種類株を、投資ファンドのジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第参号組合に割り当てた。三瑩電子には普通株で約24億円を割り当てた。
2025年3月期に営業利益が目標の110億円に届かず、転換が可能になった。そこで2026年6月、日本政策投資銀行を割当先とするC種・D種を90億円発行し、A種を買い取って消した。C・D種は2027年6月から償還できる。B種とD種が全部転換すると、希薄化は最大で約27%になる。
中期経営計画(2026〜2028年度)は、自己資本比率を40%以上、D/Eレシオを1.0以下に戻し、配当を再開する内容だ。営業キャッシュフロー440億円のうち210億円を借入返済、110億円を種類株の償還に使う。株主への配当は3年で35億円の計画だ。
筆者の見立てでは、この会社の利益は、株主に回る前に借金と種類株の返済に吸い込まれる。自社株買いの余地はなく、政策保有株の大きな含み益もない。買収される側としては、株主構成にファンド・DBJ・サムスン電機・三瑩電子がいて、再編の火種はある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIサーバー向けの需要は、この会社の歴史でも初めての構造的な追い風だ。GPUの世代が進むほど電源の電力が増え、大形コンデンサの搭載数と単価が上がる。電極箔を自社で作れるので、同じ大きさで容量を増やす技術が強い。
計画の数字は無謀ではない。2027年3月期は営業利益80億円の予想で、第1四半期はすでに16億円出ている。AI向けは3年で2.5倍の276億円。車載は在庫調整が終わり、宮城のハイブリッド専用棟も2024年10月から動いている。
財務の再建も進んでいる。C・D種で90億円を足し、A種を消した。借金を210億円返せば、自己資本比率は4割を超える。利益率が8%に乗れば、ROEは13%に達し、資本コストを超える。AI向け大形品でシェアを2割に伸ばせば、10年で利益は今の10倍にもなりうる。配当の再開は、再生の合図だ。需要の山は一度で終わらず、AIの電力需要は10年続く。そう読めば、今の値段は安い。
慎重な見方
この会社は、成長の約束を何度も破ってきた。前の中期計画は、2026年3月期にROE15%を掲げて、ROE3.8%で終わる。営業利益110億円の目標は37億円だった。今回の計画も、2028年度に営業利益を3.5倍にする内容で、同じ過ちを繰り返す形に見える。
AIサーバー向けの市場は、先に動いた者が稼げる期間が短い。ニチコンとルビコンは同じ高容量品を投入済みで、中国勢の艾華・江海も狙っている。顧客のハイパースケーラーは、調達先を増やして値下げを迫る立場だ。単価は3年で崩れうる。
財務は薄い。営業利益は支払利息の1.7倍しかなく、純有利子負債は自己資本の8割だ。C・D種は2027年6月から償還でき、配当性向を上げられない。B種が転換されれば、既存株主の取り分は最大で27%薄まる。過去20年で9期が赤字で、利益の下限は安全ではない。AIの追い風が一巡し、稼働率が落ちれば、また赤字に戻る。この会社の株は、好況のときだけ高く評価され、不況で戻ってしまう動きを何度も繰り返してきた。
どちらに重みを置いたか
強いのは慎重な見方だ。AI向けの追い風は本物だが、会社の収益力の履歴、価格競争、種類株の希薄化と償還という重しの3つが、成長の果実を株主に届きにくくする。確率は、計画の達成が前提になる楽観を6%と薄くし、やや楽観を20%に抑えた。やや悲観を28%、悲観を12%と厚めにした。中立でも利益率は7%台にとどめ、会社の2028年度の目標を物価で伸ばした水準には届かないとした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,353 円919 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 477 円131 億円)。 今の値に割り戻すと 1,656 円454 億円、今との差 +2.0%、 期待の年率 +9.0%(資本コスト 9.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 8,090 円2,216 億円 | 1,205 円330 億円 | +472.4% | +19.1% | 558 円153 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,768 円1,580 億円 | 803 円220 億円 | +304.6% | +15.0% | 1,314 円360 億円 |
| 中立 | 34% | 3,799 円1,041 億円 | 475 円130 億円 | +163.2% | +10.2% | 1,453 円398 億円 |
| やや悲観 | 28% | 1,314 円360 億円 | 256 円70 億円 | −3.3% | −0.3% | 440 円120 億円 |
| 悲観 | 12% | 456 円125 億円 | 91 円25 億円 | −66.3% | −10.3% | 66 円18 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,353 円919 億円 | 477 円131 億円 | +135.9% | +9.0% | 3,830 円1,049 億円 |
今の株価時価総額 1,624 円445 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.5% を下回るほど割高。
楽観 6% 楽観:AIサーバー向けで世界シェア2割に届く 利益 179 億円 · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 8,090 円2,216 億円
2028年度の計画を前倒しで達成し、その後も利益が伸び続ける筋書きだ。AIサーバーの電源は高圧・大電流化が進み、大形コンデンサと導電性高分子ハイブリッドの出番が増える。ニチコンやルビコンと並んで日本勢が価格で崩れず、中国勢はこの先端品に入れない。アルミ電解の世界シェアは2割に届き、AI向けの売上は500億円台に乗る。
車載は電装化で個数が増え、宮城の専用棟で量産するハイブリッドが主力になる。産業機器も在庫調整を終えて回復する。利益率が10%を超えるのは、2001年3月期以来の水準だ。借金は返し終え、種類株の償還と配当の再開も無理なく進む。B種の転換は一部にとどまり、希薄化は1割程度で収まる。
- ICT市場(AIサーバー・通信)向けコンデンサ:数量 7.5(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 155(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 1,162 億円・営業利益 186 億円。AIサーバー向けが2.3倍。大形・ハイブリッドで利益率16%
- 車載市場向けコンデンサ:数量 19.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 53(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 1,005 億円・営業利益 90 億円。車載の電装化で個数が1.7倍。利益率9%
- 産業機器・家電・新エネルギー・その他(汎用品ほか):数量 15.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 47(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 708 億円・営業利益 35 億円。コスト構造改革が効き、汎用品も黒字が定着
倍率:事業の純利益 179 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.6% が k 9.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.4 倍。全体の PER 12.38 倍、時価総額 2,216 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIサーバー向け大形コンデンサでシェアを取り、車載も数量が伸びる組み合わせは、計画未達が続いてきた会社には強い前提。6% に抑えた。
やや楽観 20% やや楽観:計画に近い形で定着する 利益 134 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 5,768 円1,580 億円
AIサーバー向けの売上が計画の276億円に近づき、その後も市場並み以上に伸びる筋書きだ。高容量のアルミ箔を自社で作れる強みが、大形コンデンサの採算を支える。車載は欧州の回復とEVの再加速で個数が伸び、ハイブリッドの比率が上がる。
汎用品は中国・台湾勢との値下げ競争が続くが、海外生産比率を74%まで高めたコスト構造で赤字は避ける。利益率は7〜8%台で、会社が掲げる8%に届く年もある。種類株はA種を償還し、C・D種も2027年中に返して、借金の利払いが軽くなる。B種の転換で希薄化は1割強にとどまる。
- ICT市場(AIサーバー・通信)向けコンデンサ:数量 6.4(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 155(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 991 億円・営業利益 144 億円。AIサーバー向けが倍増。利益率14.5%
- 車載市場向けコンデンサ:数量 17.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 53(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 899 億円・営業利益 72 億円。車載は個数 1.5 倍。利益率8%
- 産業機器・家電・新エネルギー・その他(汎用品ほか):数量 14.5(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 46(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 667 億円・営業利益 27 億円。汎用品は横ばい。利益率4%
倍率:事業の純利益 134 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.3% が k 9.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.79 倍、時価総額 1,580 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社計画(2028年度 営業利益140億円)に近い水準は届き得るが、過去の計画は何度も外れた。楽観より厚く、中立よりは薄く置いた。
中立 34% 中立:AI向けは伸びるが、汎用品の薄利が全体を重くする 利益 96 億円 · PER 10.8 倍 · 株価時価総額 3,799 円1,041 億円
AIサーバー向けは伸びるが、会社全体の利益率は7%台にとどまる。AI向けの売上は計画どおり3年で倍以上になるものの、その先はニチコン・ルビコンの追い上げと、顧客の値下げ要求で単価の伸びが物価並みに落ち着く。車載は欧州の低迷が尾を引き、個数は4割増にとどまる。
汎用品は中国・台湾勢との競争で個数が増えない。コスト削減で黒字には戻るが、薄利のままだ。全体の売上は10年で1.7倍、営業利益は170億円台になる。会社の2028年度の目標(140億円)を物価で伸ばした水準には届かない。
種類株はA種を償還し、C・D種も返し終える。B種の一部が普通株に転換し、既存株主の取り分は1割ほど薄まる。利益のうち配当に回るのは3割に満たず、残りは借金の返済に回る。
- ICT市場(AIサーバー・通信)向けコンデンサ:数量 5.6(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 155(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 867 億円・営業利益 108 億円。AIサーバー向けが 1.75 倍。利益率12.5%
- 車載市場向けコンデンサ:数量 15.5(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 53(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 820 億円・営業利益 57 億円。車載は個数 1.4 倍。利益率7%
- 産業機器・家電・新エネルギー・その他(汎用品ほか):数量 13.5(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 45(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 610 億円・営業利益 18 億円。汎用品は個数微減。中国・台湾勢の値下げ圧力で物価の 1.34 倍に届かず 1.15 倍、利益率3%
倍率:事業の純利益 96 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.3% が k 9.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 10.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.8 倍。全体の PER 10.84 倍、時価総額 1,041 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIサーバー向けの追い風と、汎用品・車載の価格競争が釣り合う筋書きを中心に置いた。計画の未達が続いた経緯から、計画の達成を前提にしない。
やや悲観 28% やや悲観:AI向けの単価が崩れ、汎用品は赤字すれすれ 利益 48 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 1,314 円360 億円
AIサーバー向けの需要は伸びるが、大形コンデンサの単価が中国勢と台湾勢の参入で下がり、先行利益が薄れる筋書きだ。ニチコンやルビコンも同じ市場に大形品を出し、顧客のハイパースケーラーは調達先を増やして値下げを迫る。
車載はEVの減速で個数が伸びず、汎用品は個数が減る。営業利益率は4%前後にとどまり、10年を通して過去の「やっと黒字」の延長に終わる。利益は増えても、ほぼ借金の利払いと種類株の配当に消え、株主に残る分は小さい。B種は転換されず、C・D種の償還のため追加の借入と配当の抑制が続く。種類株の償還と配当が、成長の投資を圧迫する。AI向けの設備は増やしたが、稼働率は上がり切らない。固定費が重く、売上が1割落ちると利益はほぼ消える。会社は黒字を保つが、資本コストを稼げる会社には戻れない。
- ICT市場(AIサーバー・通信)向けコンデンサ:数量 4.2(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 155(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 651 億円・営業利益 65 億円。AI向けは 1.3 倍。単価競争で利益率10%
- 車載市場向けコンデンサ:数量 12.5(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 51(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 636 億円・営業利益 29 億円。車載は個数 1.1 倍。利益率4.5%
- 産業機器・家電・新エネルギー・その他(汎用品ほか):数量 12.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 43(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 518 億円・営業利益 8 億円。汎用品は個数減。利益率1.5%
倍率:事業の ROE は 7% 弱で資本コスト 9.5% に届かない。稼ぐ力(純利益÷k=9.5 倍が上限)の 8 割弱(7.5 倍)を置いた。
確率:資本コストを下回る利益しか出せない期間が長かった。AI向けの先行利益が競争で削られる筋書きに、計画未達の実績を重ねて、中立に近い厚みを置いた。
悲観 12% 悲観:先端品でも中国勢に負け、事業が縮む 利益 −25 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 456 円125 億円
中国のアルミ電解大手(艾華・江海)が汎用品に続いて、AIサーバーと車載の先端品でも日本勢の価格を割り込む。ニチコン・ルビコンも値下げで対抗し、業界全体の利益が薄くなる。日本ケミコンは固定費の重い国内・海外の工場を抱え、稼働率が落ちて赤字に戻る。
種類株の償還と借金の返済が重く、配当は止まる。B種が転換されると株主の取り分は大きく薄まる。工場の再編と売却で縮み、優良な部品メーカーとは呼べなくなる。独禁法関連の和解は終わっても、また別の品質・法務の問題が起きる可能性もある。営業利益は10年たっても数億円にとどまり、純利益は金利負担で赤字になる。株主の取り分は、売れる資産と種類株への先払いの差し引きで決まる。
- ICT市場(AIサーバー・通信)向けコンデンサ:数量 3.5(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 133(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 465 億円・営業利益 19 億円。AI向けでもシェアを失い、単価が下がる
- 車載市場向けコンデンサ:数量 10.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 45(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 448 億円・営業利益 7 億円。車載は個数減。利益率1.5%
- 産業機器・家電・新エネルギー・その他(汎用品ほか):数量 9.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 39(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 354 億円・営業利益 −11 億円。汎用品は個数 4 割減、値下がりで赤字
倍率:事業は赤字で稼ぐ力はない。今の自己資本 625 億円(種類株 150 億円分を含む)に、工場を売る時の目減りと借金・種類株の先払いを引いた 0.2 倍を置いた。EV ÷ 営業利益 でみても営業利益がほぼ 0 で、利益の倍率では測れないため、売れる資産の差し引きで置いた。
確率:汎用品に続き、AIサーバー・車載でも中国勢にシェアを奪われ、借金と種類株の重みが残る複合の負け。直近20年で9回の赤字を出した会社なので、1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ICT市場(AIサーバー・通信)向けコンデンサ
AIサーバーの電源、データセンター、基地局に使う大形アルミ電解、導電性高分子、ハイブリッド品。利益率は最も高い。
| 数量年間出荷個数(億個、推定) | 価格1個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.2 | 116 | 370 | 37 |
| 10 年後 中立 | 5.6 | 155 | 867 | 108 |
取り方:ICT市場は売上の約27%(約370億円、AIサーバー向けは約110〜115億円)。大形品の単価は1個数百円、PC・通信向けの小形品は数十円なので、平均を1個あたり百円強、出荷を年約3.2億個と推定した。個数は実質、値段は名目。AI向けは数量が伸びるので個数は10年で1.75倍(中立)、単価は大形・ハイブリッドへの構成の変化が競争の値下がりを相殺し、物価並みの1.34倍に置いた。営業利益率は全社2.5%のうち、ICT・車載・汎用に高い順に10%・4.5%・−3%と配分した(開示なし。推定)。
車載市場向けコンデンサ
ECU、ADAS、オンボードチャージャーなどに使うアルミ電解・導電性高分子・ハイブリッド。
| 数量年間出荷個数(億個、推定) | 価格1個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 11.0 | 41 | 448 | 20 |
| 10 年後 中立 | 15.5 | 53 | 820 | 57 |
取り方:車載は売上の約33%(会社資料の約440〜455億円)。1個あたり億円÷億個で約41、年約11億個と推定した。個数は電装化で増えるが、EVの減速と欧州の需要の弱さで10年で1.4倍(中立)にとどめた。単価は、顧客の値下げ要求と中国勢の競争で、物価の1.34倍に届かない1.30倍に置いた。営業利益率は4.5%(推定)。
産業機器・家電・新エネルギー・その他(汎用品ほか)
インバータ、サーボ、エアコン、太陽光・風力設備向けの汎用品。コンデンサ材料やインダクタなども含む。
| 数量年間出荷個数(億個、推定) | 価格1個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 14.0 | 39 | 550 | −17 |
| 10 年後 中立 | 13.5 | 45 | 610 | 18 |
取り方:売上の残り約550億円。1個あたり億円÷億個で約39、年約14億個と推定した。市場が成熟し、中国・台湾勢の安価品との競争が強いため、個数は10年で0.96倍(中立)、単価は物価の1.34倍に届かない1.15倍に置いた。営業利益率は−3%(推定)。全社の営業利益 33億円との差は本社費など−6億円で調整した。
リスクと懸念
計画未達の繰り返し
前の中期計画(2026年3月期にROE15%)は、実績が3.8%で終わった。営業利益の目標110億円に対し、2025年3月期は37億円だった。今回の2028年度140億円も、実績の3.5倍にあたり、また外れれば種類株の転換が進み、株主の取り分が薄まる。
種類株の希薄化と償還の重さ
B種・D種を合わせた希薄化は最大約27%。C・D種は2027年6月から償還でき、A種の償還と合わせ、利益と借入の多くが優先株主に回る。株価が上がるほど転換が進みやすい点も、普通株主には痛い。
中国勢と日本勢の価格競争
中国の艾華・江海、台湾勢が汎用品で値を下げ、ニチコン・ルビコンはAIサーバー向けの大形品を投入している。単価が3年で崩れれば、AI向けの先行利益は短く終わる。汎用品の赤字は固定費の重さがそのまま響く。
薄い財務と金利の上昇
純有利子負債は492億円で、営業利益は支払利息の1.7倍しかない。借り換えのたびに金利が3.5%前後へ上がり、10年で利益を12億円ほど削る。需要が落ちると、稼働率の低下で赤字に戻る。
AIサーバー投資の失速
AI向けは成長の看板だが、売上はまだ110億円規模で全体の1割に満たない。ハイパースケーラーの投資が止まれば、増強した設備の稼働が下がる。調達資金の半分近く(48億円)がここに向かう。
法務・品質の再発
独禁法関連の損失は2016年から続き、民事訴訟は未解決が1件残る。製品の欠陥や環境規制の費用も、薄い利益には響きやすい。
今後の分かれ目
- 2027年3月期の営業利益が80億円に届き、AI向け売上が計画どおり伸びたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げる。ただし2年連続で達成するまでは、中立の利益率を7%台から動かさない。
- 2028年3月期までに種類株の償還が進み、自己資本比率が40%を超えたら
- 借金の項目の資本コストの上乗せを下げる余地が出る。B種の転換が少ないほど、中立の希薄化は1割を下回る。
- AIサーバー向けで、ニチコン・ルビコンが大幅な値引きを始めたら
- AI向けの単価を物価以下に下げ、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 営業利益が2期続けて目標を下回り、B種の転換が一気に進んだら
- 既存株主の取り分は最大27%薄まるので、中立の純利益に掛ける割合を下げ、悲観側の確率を上げる。
- 中国勢がAIサーバー向けの大形品で顧客認定を取ったら
- 悲観の筋書き(先端品でも負ける)の確率を引き上げる。
見ておくもの
- AIサーバー向け売上(2028年度276億円の計画)の進み具合
- 営業利益(2027年3月期80億円の計画)と四半期の利益率
- B種・D種の転換と、C・D種の償還の発表
- ニチコン・ルビコン・中国勢のAI向け大形品の価格
- 自己資本比率(目標40%)と純有利子負債
倍率と資本コストの決め方
セグメントごとに出荷個数(実質)×単価(名目)で積み、単価は物価の1.34倍を基本に、構成の変化・値下げ要求を理由つきで直した。資本コストは基本7.5%にquality +3.0%を付けた10.5%。利益ベースの正当化PERは、中立でROEがk以下のため上限1÷k=9.5倍とし、その9割を置いた。今の株価・今のPER・同業の倍率からは置いていない。種類株の希薄化は純利益に1割強の割合で入れ、悲観は種類株を先に払うため今の自己資本に0.2倍とした。直近の純利益は一過性の影響が大きいが、起点は24億円のまま流した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.6→12.38 倍・やや楽観 PER 9.2→11.79 倍・中立 PER 8.6→10.84 倍)。
資本コスト 9.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +3.0%(上限)を足した 10.5%。同じ領域の太陽誘電(8.75%)、山一電機(8.5%)より高いのは、赤字の多さと借金・種類株の重さのため。個別の事情は筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 10.50% → 9.50%。