結論
エンプラスは、半導体の検査に使うソケットと、自動車・光通信向けの樹脂精密部品を作る会社である。筆者の結論は、10年後の本質価値は今の値段を4割ほど下回る、というものだ。
稼ぎ頭は半導体向けのバーンインソケットだ。チップを高温で動かして初期不良をふるい落とす検査の消耗部品で、AIサーバーの増産に乗り、2026年3月期の半導体事業は売上が46%増え、営業利益は3倍になった。
ただ、この利益は山の上にある。同事業は2023年3月期にも過去最高の売上をつけ、2年で3割縮んだ。光通信のレンズ事業も、1年で売上が3分の1に落ちた。山と谷が大きい会社である。
財務は無借金で、純現金は238億円ある。時価総額の3割近い。だが使い道は設備投資が中心で、還元は配当性向20%どまりだ。自己資本が厚くなるため、ROEは8%前後に落ち着く。資本コスト7.75%を稼ぎ切れない。
中立の筋書きでは、ソケット市場が実質で年3〜4%伸び、同社のシェアは1割から11%に上がる。それでも10年後の時価総額は今とほぼ同じ水準にとどまる。強気の筋書き(確率10%)でようやく今の2.7倍である。確率を掛けた本質価値は今を4割下回り、総合は「割高」になった。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で最初に問うのは、10年後もこの事業が今より強いか、である。半導体の検査ソケットは、チップが増える限り需要がなくならない。この点は好ましい。
次に問うのは、稼いだ利益が株主の手元に残るかだ。同社は利益の多くを設備と研究に回し、純現金も積み上がったままである。再投資の稼ぎが資本コストを超えなければ、ためた利益は額面の価値に届かない。筆者は、半導体の山を除いた平均的な利益で見ると、そこまでの超過収益は期待しにくいと考える。
堀については、顧客の仕様に入り込む設計は評価する。だが顧客が大手に偏り、光通信レンズの特需が1年で消えた実績がある。堀の幅は、強いと言い切れるほど広くない。
経営はオーナー色が強い。長期の視点で投資できる強みがある一方、還元は配当性向20%と低い。資本の配り方に、まだ厳しさが足りない。
安全域の目で見ると、今の値段は、AIの検査需要が高い利益率で長く続くことを前提にしている。確率を掛けた本質価値は今を4割下回る。悲観の筋書きでも純現金が床になるので財務で行き詰まる心配は小さいが、払う値段に余裕があるとは言えない。
何で稼ぐ会社か
事業は4つに分かれる。
半導体事業が売上の55%、営業利益の8割を占める。ICを検査装置につなぐソケットを作る会社だ。高温で長時間動かして初期不良を探すバーンインソケットと、出荷前に電気の性能を測るテストソケットが主力である。顧客は大手GPUメーカー、巨大クラウド事業者が自社設計するAI専用チップ(ASIC)の関係先、車載SoCやスマートフォン向けの半導体メーカーだ。ソケットは検査のたびに接点がすり減る消耗品で、チップの世代が変わるたびに作り直す。顧客の仕様に入り込んだ設計が、この事業の守りになっている。
省エネ・自動車向けのエネルギー事業(Energy Saving Solution)は、樹脂ギヤなどの精密成形部品を作る。自動車の電装部品とプリンター向けが中心で、売上は142億円。5期連続の増収だが、利益率は7%台と低い。
光通信事業(Digital Communication)は、光トランシーバー用のレンズと、液晶テレビの裏で光を広げるLED用の拡散レンズを作る。2025年3月期は営業利益25億円と稼いだが、顧客の次世代品の立ち上がりが遅れ、2026年3月期は3億円弱の赤字に沈んだ。
ライフサイエンス事業は、マイクロ流路チップなどの試作・量産で、売上は31億円。一部の量産品が生産終了となり、2027年3月期は10億円に縮む計画だ。
社長の横田大輔氏が約14%を持つ筆頭株主で、オーナー経営の色が濃い。
優良さと弱いところ
堀は「標準品ではない」点にある。ソケットはチップごとの専用設計で、顧客の検査工程に組み込まれる。一度採用されれば、次の世代でも声がかかりやすい。バーンインとテストの両方で、世界の上位3社に入るとみてよい。2018年の調査では山一電機、米コーフに次ぐ3位だった(同社は数字を開示していない)。
ただし筆者は、この堀を強いとは見ない。理由は3つある。顧客が大手に集中していること。韓国のLEENOやISCなど、競う会社が多いこと。そして光通信レンズが示したとおり、特定顧客の特需は1年で剥がれることだ。
値決め力も並みである。半導体事業の営業利益率は2023年3月期の28%から、2024年3月期は10%、2026年3月期は21%と振れた。値段で守れる会社なら、ここまで揺れない。
資本の使い方は評価が割れる。自己資本比率は88%、純現金は238億円と財務は盤石だ。だが稼ぐ力に対して資本が大きく、ROEは過去10年の中央値で6%台にとどまる。2027年3月期は設備投資を130億円と、前期の2倍近くに増やす。この投資が回収できるかが、経営の通信簿になる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
半導体の検査は、作ったものを確かめる工程である。チップの数と複雑さが増えれば、検査の量と難しさも増える。
追い風はAIだ。GPUやASICは大きく、電力も食う。不良が1個出たときの損失が桁違いなので、出荷前の検査(バーンインやシステムレベルテスト)は厳しくなる。会社が引く半導体市場の予測は、成長領域で年9.6%(名目)。調査会社のテストソケット市場の予測は年5〜13%とばらつく。筆者は実質で年3〜4%、物価を込めて年6〜7%を中立に置く。
競合はソケット専業の山一電機、米コーフ、韓国のLEENOとISC、英スミス・インターコネクトなどだ。上位5社で市場の4〜5割を占めるとみられ、残りは小さな会社が分け合う。
景気の波は大きい。同社の半導体事業は2023年3月期に売上234億円と過去最高をつけたが、2年後には161億円まで3割縮んだ。AI向けの投資は今が山の途中にある。数年の調整が入っても不思議はない。
新しい課題はシステムレベルテスト(SLT)だ。完成品に近い形でチップを動かして検査する領域で、会社は2031年3月期に市場シェア25%を狙う。ソケットだけでなくテスト装置の側に近づく、初めての挑戦になる。
ほかの事業は、自動車向けの樹脂ギヤが年3.5%(名目)の成長で、電動化で部品は増えるがプリンター向けは細る。光通信はデータセンター市場が年10%ほど伸びるが、同社の売上は顧客の立ち上げ次第で大きく動く。
資本政策と M&A
還元は控えめである。方針は安定配当で、2027年3月期からの3年間は配当性向20%を考慮する、とある。3年間の還元35億円に対し、成長投資は275億円を見込む。
自己株は発行済みの5%以下を目安に消却する、との記載にとどまり、積極的な買い戻しは打ち出していない。
今の中期経営計画に、大型買収の計画は見当たらない。自前の設備と研究開発に投じる路線だ。2027年3月期はイノベーションセンター(顧客と試作・評価をする拠点)、IT基盤、AI・ロボティクス研究に、合わせて25億円超の費用を足す。
社長が約14%、自己株が約7%を持つ。時価総額が小さく、純現金も厚いため、買収される側に回る可能性も無視できない。kabufuの推定では、10年以内にTOBや買収が起きる確率は17%である。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体事業は構造が変わった。AIのGPUに加え、巨大クラウド事業者が自社設計するASICの量産が始まり、バーンイン検査の需要は一過性の特需ではなくなった。2026年3月期は営業利益が3倍になり、会社は2029年3月期に売上550億円、営業利益100億円を目指している。
ソケットは顧客の設計に入り込む消耗部品で、一度採用されれば次の世代にも続く。同社は新しいシステムレベルテスト(SLT)にも進み、2031年3月期にシェア25%を狙う。検査の領域が広がれば、単価と数量の両方が伸びる。
光通信のレンズは谷の底にある。1.6T向けの量産が始まり、2027年3月期は売上が倍近くになる計画だ。顧客の立ち上げが軌道に乗れば、前期に25億円あった営業利益が戻る。
財務は無借金で純現金が238億円ある。設備投資を前倒しできる余裕があり、需要の急増にも対応できる。10年で市場が実質で年6%伸び、シェアが14%に上がれば、営業利益は今の4倍になる。この姿は十分にありうる。
慎重な見方
この会社の利益は山と谷を繰り返してきた。半導体事業は2023年3月期に売上234億円をつけたあと、2年で3割縮み、営業利益は4分の1以下になった。AI向けの今の好調も、同じ型の山の可能性が高い。
顧客は大手GPUメーカーとクラウド事業者に集中している。彼らが検査の方式を変えたり、ソケットを内製や別の会社に切り替えたりすれば、売上は一気に動く。光通信のレンズが、まさにそれで売上が3分の1になった。
競合も強い。山一電機、米コーフ、LEENO、ISCがひしめき、新しい領域のSLTは実績のない土俵だ。シェア25%の目標は、上位の会社の牙城に切り込む前提で、達成は容易でない。
利益率はこれから下がる。2027年3月期は販管費を26億円増やし、営業利益率は14.5%から13.3%に下がる計画だ。設備投資は130億円と前期の2倍近く、減価償却も重くなる。
最大の問題は資本効率である。純現金がたまり、還元は配当性向20%。ROEは8%台で、資本コストに届かない。この会社が株主に報いるには、利益を大きく伸ばすしかない。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分に筋はあるが、確率は慎重な見方に寄せた。理由は、利益が山と谷を繰り返してきた実績と、顧客の集中、そして資本効率の低さが、いずれも数字で確かめられるからだ。AI向けの伸びは確かだが、それが10年続くという前提は、まだ確かめられていない。
強気の筋書き(市場が実質で年6%成長、シェア14%)に10%、やや強気に24%を置いた。慎重な側は、シェアを失う筋書きに22%、構造的に負ける筋書きに10%とした。中立は34%である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 13,358 円1,208 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,829 円165 億円)。 今の値に割り戻すと 7,592 円687 億円、今との差 −13.1%、 期待の年率 +5.7%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 31,774 円2,874 億円 | 3,649 円330 億円 | +305.3% | +15.0% | 3,542 円320 億円 |
| やや楽観 | 24% | 19,389 円1,754 億円 | 2,344 円212 億円 | +148.7% | +9.5% | 5,216 円472 億円 |
| 中立 | 34% | 12,048 円1,090 億円 | 1,813 円164 億円 | +58.6% | +4.7% | 4,713 円426 億円 |
| やや悲観 | 22% | 5,594 円506 億円 | 995 円90 億円 | −24.6% | −2.8% | 1,450 円131 億円 |
| 悲観 | 10% | 2,001 円181 億円 | 663 円60 億円 | −69.5% | −11.2% | 266 円24 億円 |
| 加重平均 | 100% | 13,358 円1,208 億円 | 1,829 円165 億円 | +73.8% | +5.7% | 15,187 円1,374 億円 |
今の株価時価総額 8,740 円790 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 強気:AIの検査需要が構造になり、SLTも成功する 利益 171 億円 · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 31,774 円2,874 億円
AIの検査需要が、一過性の特需ではなく構造になる筋書きだ。巨大クラウド事業者の自社設計ASICの量産が広がり、バーンイン検査の需要は市場全体で実質年6%伸びる。同社はこの領域で顧客の信頼を固め、システムレベルテスト(SLT)にも入り込んで、シェアを14%まで引き上げる。光通信のレンズも1.6T・3.2T向けの量産が軌道に乗り、特定顧客の売上が戻るだけでなく、データセンター内の光学部品に広がる。半導体事業の営業利益率は2割台半ばで保たれる。純現金は成長投資と配当に回り、ROEは13%台まで上がる。
- 半導体(バーンイン・テストソケット):数量 398(ソケット世界市場(億ドル・実質)× シェア(%))× 価格 1.34(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 801 億円・営業利益 192 億円
- 省エネ・自動車(樹脂ギヤなど精密成形部品):数量 3.2(精密成形部品の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 71(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 227 億円・営業利益 22 億円
- ライフサイエンス(マイクロ流路チップなど):数量 35.0(チップ・ラボウェアの年間出荷個数(百万個、推定))× 価格 72(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 25 億円・営業利益 4 億円
- 光通信(光トランシーバー用レンズ・LED拡散レンズ):数量 672(レンズの年間出荷個数(百万個、推定))× 価格 15(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 101 億円・営業利益 30 億円
倍率:事業の純利益 169 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)90 億円。全体の PER 16.44 倍、時価総額 2,874 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIの検査需要が構造になり、SLTにも成功する条件が重なる姿。会社の中期目標(営業利益100億円)を超える水準で、実現には市場とシェアの両方が上振れる必要がある。
やや楽観 24% やや強気:需要は続くがシェア拡大は限定的 利益 115 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 19,389 円1,754 億円
需要の伸びはAI向けで続くが、強気ほどの勢いはない筋書きだ。市場は実質で年4.5%伸び、シェアは12.5%まで上がる。SLTは一部の顧客に採用されるが、25%の目標には届かない。光通信は1.6T向けが立ち上がり、売上は80億円台になる。半導体の営業利益率は22%。山と谷はあるものの、10年を均すと今より一段高い水準を保つ。配当性向は少しずつ上がり、純現金の一部が株主に戻る。ROEは10%台に乗り、資本コストをわずかに上回る。省エネ・自動車は電装化で売上が2割ほど伸び、プリンター向けの減少を補う。会社が掲げる2029年3月期の営業利益100億円は、その少し先で達成される姿である。
- 半導体(バーンイン・テストソケット):数量 308(ソケット世界市場(億ドル・実質)× シェア(%))× 価格 1.34(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 619 億円・営業利益 136 億円
- 省エネ・自動車(樹脂ギヤなど精密成形部品):数量 3.1(精密成形部品の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 68(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 207 億円・営業利益 18 億円
- ライフサイエンス(マイクロ流路チップなど):数量 30.0(チップ・ラボウェアの年間出荷個数(百万個、推定))× 価格 69(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 21 億円・営業利益 3 億円
- 光通信(光トランシーバー用レンズ・LED拡散レンズ):数量 448(レンズの年間出荷個数(百万個、推定))× 価格 14(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 63 億円・営業利益 10 億円
倍率:事業の純利益 113 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)90 億円。全体の PER 14.68 倍、時価総額 1,754 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI向けの需要が続き、シェアも上がるが、強気ほどの勢いではない筋書き。会社の中期計画に近い。
中立 34% 中立:山谷がならされ、普通の優良部品メーカーになる 利益 79 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 12,048 円1,090 億円
AIの需要は続くが、半導体の景気の波がならされる筋書きだ。ソケット市場は実質で年3.5%伸び、同社のシェアは1割から11%に緩やかに上がる。SLTは小さく始まる程度で、数量の押し上げは限られる。半導体事業の営業利益率は19%で、今の21%よりやや低い。省エネ・自動車は電装化でじわじわ伸びるが、プリンター向けが細り、利益率は8%前後。光通信は1.6Tレンズの立ち上がりで売上が40億円台前半に戻る。純現金は残り続け、ROEは8%前後で資本コストに届かない。10年後の営業利益は今の2倍弱にとどまり、会社の中期目標(2029年3月期に100億円)に数年遅れで届く程度である。普通に強い部品メーカーとして安定するが、特別な評価を受ける理由は見当たらない。
- 半導体(バーンイン・テストソケット):数量 247(ソケット世界市場(億ドル・実質)× シェア(%))× 価格 1.34(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 496 億円・営業利益 94 億円
- 省エネ・自動車(樹脂ギヤなど精密成形部品):数量 2.9(精密成形部品の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 68(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 200 億円・営業利益 16 億円
- ライフサイエンス(マイクロ流路チップなど):数量 24.0(チップ・ラボウェアの年間出荷個数(百万個、推定))× 価格 69(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 17 億円・営業利益 2 億円
- 光通信(光トランシーバー用レンズ・LED拡散レンズ):数量 313(レンズの年間出荷個数(百万個、推定))× 価格 13(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 42 億円・営業利益 4 億円
倍率:事業の純利益 77 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)90 億円。全体の PER 12.92 倍、時価総額 1,089 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:市場が実質で年3.5%伸び、シェアが1割強に上がる中心の筋書き。山と谷をならした姿で、確率はいちばん厚く置いた。
やや悲観 22% やや慎重:競争でシェアを失い、投資の回収が遅れる 利益 38 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 5,594 円506 億円
競争で半導体のシェアが戻る筋書きだ。巨大クラウド事業者が一部のソケットを内製や別の会社に移し、LEENOやISCの低価格品に押されて、シェアは9%に落ちる。市場は実質で年2%しか伸びず、単価も物価に届かない。SLTは実績を作れず、投資の一部が回収できない。光通信は立ち上げの遅れで黒字化せず、売上は20億円台にとどまる。半導体の営業利益率は14%に下がり、設備投資の減価償却が重くのしかかる。純現金は設備と赤字事業の穴埋めで減る。省エネ・自動車は樹脂の値上がりを価格に転嫁しきれず、利益率が6%に下がる。営業利益は今の8割ほどに戻り、成長を前提にした設備投資が重荷になる。それでも配当は続けられる。
- 半導体(バーンイン・テストソケット):数量 172(ソケット世界市場(億ドル・実質)× シェア(%))× 価格 1.30(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 335 億円・営業利益 47 億円
- 省エネ・自動車(樹脂ギヤなど精密成形部品):数量 2.7(精密成形部品の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 62(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 167 億円・営業利益 10 億円
- ライフサイエンス(マイクロ流路チップなど):数量 15.0(チップ・ラボウェアの年間出荷個数(百万個、推定))× 価格 62(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 9 億円・営業利益 1 億円
- 光通信(光トランシーバー用レンズ・LED拡散レンズ):数量 149(レンズの年間出荷個数(百万個、推定))× 価格 12(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 18 億円・営業利益 0 億円
倍率:事業のROEは4%台で、ためた利益は額面未満の価値。上限1÷k=11.8倍に対し、シェアを失った後の利益として約8割を置いた。余った現金は戻り方0.5で足した。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 9.5 倍・時価総額 412 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:利益が山と谷を繰り返してきた実績、顧客の集中、競合の厚さを考え、慎重側を厚めに置いた。
悲観 10% 慎重:構造的に代替され、純現金が床になる 利益 6 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 2,001 円181 億円
構造的に負ける筋書きだ。AI向けの検査需要が2〜3年の山で終わり、その後は設備投資の調整が長引く。主要顧客が検査方式を変え、同社の製品は代替される。シェアは6%台まで下がり、単価は物価の伸びに届かない。SLTは撤退し、増やした設備の減損が出る。光通信は特定顧客を失い、赤字が続く。半導体の営業利益率は5%まで落ちる。純現金が事業の穴埋めに使われ、減っていく。それでも無借金で、純現金が床になるので、会社が行き詰まることはない。ただ、優良な部品メーカーという評価は外れ、利益は小さな水準にとどまる。配当は純現金から細々と続くが、株主が10年で得るのは今の値段を大きく下回る額になる。
- 半導体(バーンイン・テストソケット):数量 93.0(ソケット世界市場(億ドル・実質)× シェア(%))× 価格 1.15(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 160 億円・営業利益 8 億円
- 省エネ・自動車(樹脂ギヤなど精密成形部品):数量 2.3(精密成形部品の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 58(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 133 億円・営業利益 5 億円
- ライフサイエンス(マイクロ流路チップなど):数量 8.0(チップ・ラボウェアの年間出荷個数(百万個、推定))× 価格 58(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円
- 光通信(光トランシーバー用レンズ・LED拡散レンズ):数量 100(レンズの年間出荷個数(百万個、推定))× 価格 10(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 10 億円・営業利益 −1 億円
倍率:事業の利益はほぼ消える。稼ぐ力ではなく、純現金238億円から先行設備投資の取り崩し分を引いた180億円を床とし、今の自己資本624億円に0.29倍を掛けた額で置いた。
確率:構造的な負け(検査方式の変更・内製化・大手顧客の離脱)は、光通信の特需剥落が示すとおり一度起きると10年で戻りにくい。無視できないので10%を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
半導体(バーンイン・テストソケット)
ICの初期不良をふるい落とすバーンインソケットと、電気の性能を測るテストソケット。AIサーバー、車載SoC、スマホ向け。
| 数量ソケット世界市場(億ドル・実質)× シェア(%) | 価格値段の指数(今=1.00。物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 157 | 1.00 | 236 | 50 |
| 10 年後 中立 | 247 | 1.34 | 496 | 94 |
取り方:会社が数量を開示しないため、世界のテストソケット市場を約15.9億ドル(調査会社の2026年予測)と置き、売上236億円を1ドル150円で割った1.57億ドルから、シェアを約9.9%と逆算した。数量は市場(実質)×シェア、価格は値段の指数。10年の中立は市場が実質で年3.5%(1.41倍)、シェアが11%へ。価格は物価並みの1.34倍とした。
省エネ・自動車(樹脂ギヤなど精密成形部品)
自動車の電装部品とプリンター向けの樹脂ギヤなど。5期連続の増収で、利益率は低いが安定している。
| 数量精密成形部品の年間出荷個数(億個、推定) | 価格1個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.8 | 51 | 142 | 10 |
| 10 年後 中立 | 2.9 | 68 | 200 | 16 |
取り方:部品点数は非開示。売上142億円を、小型ギヤから組立部品までの加重平均の単価で割り、年約2.8億個と推定した。数量は電装化で自動車向けが増え、プリンター向けが細るため、中立で10年1.05倍。価格は物価並みの1.34倍。売上は年3.5%の自動車市場の伸びと同じになる。
ライフサイエンス(マイクロ流路チップなど)
マイクロ流路チップなどの試作・量産。米国の在庫調整と一部量産品の生産終了で、2027年3月期は売上が縮む。
| 数量チップ・ラボウェアの年間出荷個数(百万個、推定) | 価格1個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 51 | 31 | 4 |
| 10 年後 中立 | 24.0 | 69 | 17 | 2 |
取り方:個数は非開示。売上31億円を、チップなどの平均単価で割り、年約6,000万個と推定した。一部の量産品の生産終了で2027年3月期は10億円まで縮む計画のため、中立は数量が今の4割(24百万個)まで減り、その後は市場の年6.5%の伸びを数量の側で取り込む。価格は物価並みの1.34倍。
光通信(光トランシーバー用レンズ・LED拡散レンズ)
光トランシーバー用レンズと、液晶用のLED拡散レンズ。顧客の立ち上げ次第で売上が大きく動く。
| 数量レンズの年間出荷個数(百万個、推定) | 価格1個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 165 | 10 | 17 | −3 |
| 10 年後 中立 | 313 | 13 | 42 | 4 |
取り方:個数は非開示。売上16.5億円を、レンズの平均単価で割り、年約1.65億個と推定した。2025年3月期は売上49億円・営業利益25億円だったため、今は谷である。中立は、1.6T用レンズとレンズコネクタの立ち上がりと、データセンター市場の年10%成長は名目なので、物価1.34倍で割った実質で数量が約1.9倍。価格は物価並みの1.34倍。
リスクと懸念
半導体の山と谷
半導体事業は2023年3月期に売上234億円の山をつけ、2年後に161億円まで縮んだ。AI向けの投資が一服すれば、同じ型の谷が来る。営業利益率も28%から10%へ振れた実績がある。
大口顧客への集中
GPUメーカーやクラウド事業者が設計や調達先を変えれば、ソケットの売上は大きく動く。光通信レンズは顧客の次世代品の立ち上げ遅延で売上が3分の1になった。同じことが半導体で起きるリスクがある。
新領域SLTでの実行リスク
システムレベルテスト(SLT)は新しい領域で、2031年3月期にシェア25%を狙うが、実績はまだない。半導体事業のコストは2027年3月期に10億円増える計画で、立ち上がりが遅れれば利益を削る。
設備投資が回収できない
2027年3月期の設備投資は130億円と前期の2倍近くで、減価償却も30億円に増える。需要が想定を下回ると、稼働率が下がって利益率を押し下げる。
競合の追い上げ
山一電機、米コーフ、LEENO、ISCなどが競う。価格で攻められれば、半導体事業の営業利益率が2割台から1割台に戻る。AI向けの高付加価値品でも同じ構図になりうる。
原材料と中東情勢
樹脂のナフサ由来の原料が中東情勢で上がるリスクを、会社自身が挙げている。2027年3月期の計画には織り込まれていない。ギヤ事業は樹脂の価格転嫁が遅れると利益が薄い。
為替
ドルが1円動くと、営業利益が約1.5億円動く。1ドル150円で見ているため、円高になれば海外売上の円換算が目減りする。
今後の分かれ目
- AI・ASIC向けのバーンイン受注が、会社目標の売上CAGR12%を上回って伸びたら
- 強気とやや強気の確率を上げ、半導体のシェアの前提を見直す。
- SLTの量産受注が2028年3月期までに立ち上がり、2031年3月期のシェア25%への道筋が見えたら
- 半導体事業の利益率と売上の前提を上方修正し、強気側の確率を上げる。
- 大手顧客が検査方式を変える、またはソケットを別の調達先に切り替えたら
- やや慎重・慎重側の確率を上げ、シェアの前提を下げる。
- 光通信の1.6T用レンズとレンズコネクタの量産が計画どおり立ち上がり、営業利益が黒字化したら
- 光通信の利益率の前提を上げ、中立の営業利益を上方修正する。
- 配当性向の引き上げや自社株買いなど、積み上がった現金を株主に戻す方針が出たら
- 余った現金の戻り方を見直し、本質価値を上方修正する。
- 投資が回収できず、半導体事業の営業利益率が1割台前半に戻ったら
- やや慎重側の確率を上げ、設備の減損も筋書きに入れる。
見ておくもの
- 半導体事業の四半期売上と受注(AI・ASIC向けバーンインの伸びと、2023年3月期の山との比較)
- システムレベルテスト(SLT)の初受注と、2031年3月期シェア25%目標への進捗
- 光通信事業の1.6Tレンズ・レンズコネクタの量産の立ち上がりと、営業損益の黒字化
- 2027年3月期の販管費(158億円計画)と設備投資130億円が、営業利益率13.3%の計画どおりに収まるか
- 配当性向(20%)の変更、自社株買い、純現金238億円の使い道
倍率と資本コストの決め方
半導体はソケット世界市場(実質)×シェアで、ほかの3事業は出荷個数×単価(名目)で10年を積み上げた。資本コストは基本7.5%に、循環+0.5・寿命+0.5を足した8.5%とした。同じソケットの山一電機と同じ水準である。倍率は、ROEが資本コストに届かない中立(約8%)は1÷kを上限に9割、届く強気側は正当化PERの9割強とし、今の株価や過去・同業の倍率は見ていない。余った現金120億円は戻り方0.5で、事業の利益とは分けて足した。悲観は稼ぐ力ではなく、純現金を床にした。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.9→16.44 倍・やや楽観 PER 11.94→14.68 倍・中立 PER 10.6→12.92 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にquality+1.0%を足した8.5%。同じソケット専業の山一電機と同じ水準。顧客の集中やSLTの実行リスクはkに足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.75%。