結論
イノテックは、半導体の検査装置、設計ソフトの代理販売、組込み機器の三つで稼ぐ新横浜の中堅企業だ。利益の柱はまだ決まっていない。だから筆者は、今の値段を「ほぼ妥当」と見る。
2026年3月期の純利益は41億円に跳ねたが、中身の約3割は本社ビルの売却益だ。会社の予想する27年3月期の営業利益40億円も、検査装置の売上が1四半期に集中した結果で、そのまま10年続くとは考えにくい。
成長の芽は自社のテスタにある。NAND向けの小型テスタは、大手の高機能機より安く、顧客が必要とする機能だけを載せる。利益率が高い自社品が増えれば、全体の利益率は上がる。ただし得意先はメモリ各社に偏り、投資の波をまともにかぶる。
安定を担うのは、米ケイデンスの設計ソフトを国内で約40年売ってきた代理店事業と、組込み機器だ。この二つが景気の谷を支えるので、10年先の悲観でも会社が傷みきる姿は描きにくい。
一方、10年先の中立でも、時価総額は今を1.5倍強上回る程度にとどまる。借入はなく自己資本比率は5割を超える。それでも、強い堀があるとまでは言えない。筆者の結論は、割安でも割高でもない「適正」の近くだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社の問いは単純だ。「10年後、今よりも稼ぎが安定して大きくなっているか」である。
答えは半分だけ「はい」だ。EDA代理店と組込み機器は、地味だが10年後も残る。ここは利益の土台になる。一方、検査装置は大手が支配する市場の隙間にあり、顧客の投資次第で利益が大きく動く。その波に耐えられる体力は、借入がなく自己資本比率が5割を超える点から見て十分にある。
経営者の資本の使い方は合格点だ。要らなくなった本社ビルを売り、借入を消し、特別配当と自社株買いに回した。株主のお金を事業に押し込む癖が見えない。
問題は、永続的に高い利益を生む堀が見えないことだ。ROEは特別益を除くと8%台で、資本コストの8.5%と同じ水準にしかない。これでは、事業の価値は帳簿から大きく離れない。筆者がオーナーとして長く持ちたい会社の条件には、まだ足りない。
安全域で言えば、10年後の悲観でも今の時価総額をそれほど下回らない一方、楽観でも倍にはならない。上下の幅が狭い、静かな会社だ。
何で稼ぐ会社か
1987年に輸入商社として生まれ、今は自社製品が売上の約7割を占めるメーカーに近い。事業は三つに分かれる。
一つ目はテストソリューションだ。売上の約4割を占める。主力はNANDフラッシュ向けの自社テスタで、製造は外部に委託する。小型の装置を1台のプローバーに最大12台載せられる設計で、限られた床面積で検査能力を増やせる。台湾子会社のSTArは、信頼性評価装置とプローブカードを手がける。2026年3月期の営業利益率は6%台にとどまったが、直近の四半期には16%台まで上がった。
二つ目の半導体設計関連は、米ケイデンスの設計ソフト(EDA)の日本総代理店だ。ソフトは数年単位のライセンス契約で売るため、収益は安定する。子会社が設計の受託や技術者の派遣も行う。売上の約3割を占めるが、利益率は4%台と薄い。
三つ目のシステム・サービスは、利益の約半分を稼ぐ。交通・医療・防衛向けの組込みCPUボード、車載ソフトの検証ツールを扱うガイオ・テクノロジー、自販機向けのクラウド決済端末のアイティアクセスなどだ。営業利益率は12%近い。
地域別では日本が約7割、中国と台湾が各1割強。売上の1割を超える特定顧客はいない。ただ、半導体メモリ最大手のキオクシアは、テスタの納入先として昔から大きな存在だと会社は語ってきた。
優良さと弱いところ
堀は、事業ごとにまだらだ。いちばん強いのは、ケイデンスの総代理店という地位である。約40年続く関係で、顧客への営業網も国内屈指の規模にある。ただ、代理店は元の会社の方針ひとつで条件が変わりうる。堀というより、長い信用の積み重ねと言うべきだ。
テスタの強みは値段にある。アドバンテストのような大手が狙う高機能機とは正面からぶつからず、必要な機能に絞って安く売る。この位置取りは理にかなっている。だが、顧客の工場が増えるのを待つ商売で、値決めの力は大きくない。世界のメモリ向けテスタ市場は大手が握っており、イノテックは隙間を縫う立場だ。
資本の効率は、特別益を除くと平凡だ。過去10年のROEは中央値で6%台、中計の目標は10%だ。会社自身も、直近の10%超は売却益のおかげで、除けば8%台と説明している。
経営の姿勢は評価できる。借入を返し、使い道のない本社ビルを売り、手にした資金で特別配当と自社株買いを同時に打ち出した。資本を遊ばせない動きは、小さな会社ではまれだ。
弱みは、事業の寿命の読みにくさにある。NAND依存が高く、DRAMやイメージセンサー向けは研究段階で、中計期間の売上には入っていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社が戦う場は、半導体の「検査」と「設計支援」だ。どちらも半導体の生産量そのものではなく、設備投資と設計の複雑さに左右される。
検査装置は投資の波が大きい。NANDメーカーの設備投資は約2年停滞し、国内のテスタ需要は冷えていた。ここへきて海外向けの販売が伸び、国内にも回復の兆しが出ている。AIサーバー向けの記憶装置の需要が、NAND投資を後押しするという筋書きだ。ただし、会社自身が「第1四半期に顧客の投資が集中した」と述べており、第2四半期以降は下がりうる。
競争の構図は、世界のテスタ市場を握るアドバンテストとテラダインが頂点にあり、中国の華峰測控・長川科技といった新興も育っている。イノテックはその下の隙間に自社品を入れている。メモリ向けの検査需要は世界で伸びるが、シェアを上げる道筋は、DRAMやイメージセンサーへの採用が実際に決まるかどうかにかかる。
EDAは、半導体の設計が複雑になるほど使うソフトの数と期間が増える。国内の半導体設計の裾野は広くないが、AIチップや車載向けの設計は増えており、需要は底堅い。ケイデンスの対抗はシノプシスで、国内の設計会社の選好が変われば代理店の売上も動く。
組込みは、防衛・船舶・AIデータセンター向けの計測や記憶装置の需要が足元で急増する一方、自動車向けは調整が続く。三つの事業の波が同時には来ないことが、この会社の強みでもあり、読みにくさでもある。
資本政策と M&A
資本政策の中心は、本社ビルの売却だ。売却益は63.7億円で、26年3月期に約29億円、27年3月期の第2四半期に約35億円を計上する。この資金で借入を返し終え、特別配当と自社株買いを実施する。
還元は手厚い。今期の配当には特別配当が含まれ、通常の配当を大きく上回る。さらに発行済み株式の8.2%にあたる100万株、25億円を上限とする自社株買いを5月に決めた。通常時の配当性向は30%以上、通常の利益に対して50%程度を目安にする。
買収は、これからの課題だ。会社は成長投資を、M&A、半導体テスタの研究開発、海外展開に向けると述べている。中計では新規投資を約40億円と置いた。過去にガイオ・テクノロジーやアイティアクセスなど小さな会社を傘下に収めてきたが、大型の買収はない。
株主の顔ぶれは、信託銀行の口座が13.65%で最大、みずほ銀行が3%台だ。支配株主はいない。TOBの話は表には出ていないが、時価総額が400億円台と小さく、半導体関連を欲しがる買い手が現れても不思議ではない。
還元の点検(P3 2026-10-19):5月決定の25億円の自社株買いのうち、期末(12.17百万株)から8/31(11.62百万株)の株数減で約20億円は実行済みで株数に反映ずみ。二重なので全筋書きの還元から20億円除いた(純資産は据え置き)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
テスタ事業が構造的に変わりつつある。26年3月期の営業利益率は6%台だが、足元の四半期は16%台に乗り、自社テスタの売上は前年同期の約6倍だ。通期の自社テスタ売上計画は69億円で、第1四半期だけでその約5割を稼いだ。製造を外部に委託するので、売上が増えても設備投資が膨らまない。利益が増える余地は大きい。
NANDの設備投資は約2年の停滞を終えつつある。AIサーバーが記憶装置の需要を押し上げ、メモリ各社は積み増しに動く。海外メーカー向けの販売が増えており、国内の顧客に頼る構図も崩れ始めている。DRAMやイメージセンサーに採用が広がれば、市場は今の数倍になる。
安定部門も厚みを増す。ケイデンスの設計ソフトは契約が長く、AIチップの設計増で国内の需要も底堅い。組込み機器はAIデータセンター向けの計測・記憶装置で急増している。自社製品の比率が上がれば、営業利益率は過去最高の7%を超えて8%台に届く。
財務は無借金で、売却益と合わせて株主還元はほぼ倍になる。10年後に営業利益が100億円を超える姿は、荒唐無稽ではない。
慎重な見方
今期の好業績は、まだ「一過性」の色が濃い。純利益48億円の予想のうち、35億円は本社ビルの売却益だ。除いた実力の利益は27億円前後にすぎず、PERで見れば17倍近い。会社自身も、第1四半期に顧客の投資が集中したと認め、第2四半期以降は下がりうると述べた。
テスタ事業は、大手の隙間にいる小さな会社だ。得意先はNANDメーカーに偏り、国内の需要は2年間冷えていた。アドバンテストやテラダインが同じ市場を狙えば、値段で勝負する立場は危うい。DRAMやイメージセンサーへの進出は、中計期間の売上には入っていない。つまり、まだ誰も買っていない話だ。
EDA代理店は、ケイデンスの方針が変わればひと晩で姿を変える。代理店の利益率は薄く、4%台でしかない。
組込みも一枚岩ではない。自動車向けのガイオ・テクノロジーは、今期2割の減収を見込む。
ROEは特別益を除けば8%台で、資本コストと変わらない。成長の見えない中堅企業に高い倍率はつかない。10年後の姿が、今の姿とそれほど違わない確率は高い。
どちらに重みを置いたか
強気の指摘の中で説得力があるのは、自社テスタの利益率の改善と、無借金の財務、手厚い還元だ。慎重な見方の指摘では、売却益込みの今期利益の見かけと、メモリ向けへの偏り、ケイデンス頼みの構造が重い。
10年の時間軸では、波が大きいほど平均への回帰が効く。確率は中立に3割強を置き、悲観側(やや悲観と悲観の合計)に4割弱を寄せた。強気の材料が実現しても、倍率が大きく上がる事業ではないためだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,014 円815 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,841 円214 億円)。 今の値に割り戻すと 4,685 円544 億円、今との差 +39.2%、 期待の年率 +10.2%(資本コスト 7.5%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 16,958 円1,970 億円 | 3,271 円380 億円 | +501.2% | +19.6% | 1,821 円211 億円 |
| やや楽観 | 21% | 11,455 円1,331 億円 | 2,392 円278 億円 | +311.5% | +15.2% | 2,908 円338 億円 |
| 中立 | 34% | 7,376 円857 億円 | 1,894 円220 億円 | +175.5% | +10.7% | 3,152 円366 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,767 円205 億円 | 1,226 円142 億円 | −11.1% | −1.2% | 718 円83 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,250 円145 億円 | 882 円103 億円 | −36.6% | −4.5% | 256 円30 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,014 円815 億円 | 1,841 円214 億円 | +163.1% | +10.2% | 8,854 円1,029 億円 |
今の株価時価総額 3,365 円391 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 9% 楽観:自社テスタが定着、利益率が二桁に 利益 98 億円 · PER 20.1 倍 · 株価時価総額 16,958 円1,970 億円
10年後、自社のテスタはNANDだけでなくDRAMとイメージセンサーでも量産に採用される。世界の対象市場は実質で今の1.8倍に膨らみ、イノテックのシェアは6%から9%へ上がる。大手の高機能機に手が届かない顧客が、必要な機能だけの小型機を選ぶ流れが定着した姿だ。製造を委託する仕組みのおかげで、売上が増えても設備負担は軽い。
EDA代理店はAIチップと車載の設計増で堅調に伸び、組込みはAIデータセンター向けの計測機器と記憶装置で伸びを保つ。三つの事業が同時に好調となり、営業利益は130億円台、利益率は10%台に乗る。
この場合でも、倍率は大きく上がらない。堀は弱く、ROEは高くても利益の質は景気の波に左右される。
- テストソリューション(NAND向けテスタ・信頼性評価装置):数量 36.0(対象とする検査装置市場(億ドル・今の値段の実質))× 価格 18(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 651 億円・営業利益 85 億円。市場1.8倍、シェア9%、営業利益率13%
- 半導体設計関連(Cadence製EDAの総代理店・設計受託):数量 2,660(国内のEDAソフトと設計受託の市場(億円・今の値段の実質))× 価格 10.5%(売上÷実質の市場=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 278 億円・営業利益 17 億円。市場1.4倍、シェア7.8%、営業利益率6.2%
- システム・サービス(組込み・車載検証・決済端末):数量 4,200(対象とする国内の組込み機器・検証ツール・決済端末の市場(億円・今の値段の実質))× 価格 7.8%(売上÷実質の市場=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 326 億円・営業利益 41 億円。市場1.4倍、シェア5.8%、営業利益率12.5%
倍率:事業の純利益 98 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.1 倍。全体の PER 20.1 倍、時価総額 1,970 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:テスタの利益率が実際に上がり、DRAMやイメージセンサーに採用が広がる筋書きは、中計期間に売上の実績がなく、実現には複数の条件が要る。重なる確率は1割弱と置いた。
やや楽観 21% やや楽観:テスタの採用が広がる 利益 72 億円 · PER 18.5 倍 · 株価時価総額 11,455 円1,331 億円
自社テスタの採用がNAND以外にも少しずつ広がり、シェアは8%に上がる。世界の対象市場は実質で今の1.65倍。海外メーカー向けの販売が国内の需要に代わる柱になる。
EDAと組込みも堅実で、特にAIデータセンター向けの需要が組込みを押し上げる。営業利益は100億円近くまで増え、利益率は9%台になる。
買収も絡む。会社は成長投資の手段にM&Aを挙げており、テスタ分野の補完的な買収が成功すれば、ここに近い姿になる。
本社ビルの売却で手元の資金は厚く、無借金のまま買収に回せる。ただし、倍率は中立と大きくは変わらない。事業の堀が普通である以上、利益が増えても価値の増え方は利益の伸びと同じ歩調だからだ。
- テストソリューション(NAND向けテスタ・信頼性評価装置):数量 33.0(対象とする検査装置市場(億ドル・今の値段の実質))× 価格 16(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 531 億円・営業利益 58 億円。市場1.65倍、シェア8%、営業利益率11%
- 半導体設計関連(Cadence製EDAの総代理店・設計受託):数量 2,508(国内のEDAソフトと設計受託の市場(億円・今の値段の実質))× 価格 10.1%(売上÷実質の市場=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 252 億円・営業利益 14 億円。市場1.32倍、シェア7.5%、営業利益率5.7%
- システム・サービス(組込み・車載検証・決済端末):数量 3,900(対象とする国内の組込み機器・検証ツール・決済端末の市場(億円・今の値段の実質))× 価格 7.2%(売上÷実質の市場=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 282 億円・営業利益 33 億円。市場1.3倍、シェア5.4%、営業利益率11.8%
倍率:事業の純利益 72 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.5 倍。全体の PER 18.48 倍、時価総額 1,331 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:足元の利益の改善は本物で、海外向けの販売も伸びている。この延長にテスタの採用が少し広がる姿は、1.5倍の市場と7%台のシェアを超える程度なので、2割強を置いた。
中立 34% 中立:三本柱が揃って堅実に伸びる 利益 51 億円 · PER 16.8 倍 · 株価時価総額 7,376 円857 億円
10年後、世界のNAND向けを中心とする検査装置の市場は実質で今の1.5倍に伸び、イノテックのシェアは7%に上がる。AIサーバーの記憶装置の需要が支えるが、DRAMやイメージセンサーへの採用は一部にとどまる。
EDA代理店は市場の伸びに沿って増収となり、利益率は5%台に少し改善する。組込みは防衛・船舶とAIデータセンターで伸び、ガイオの車載は横ばいにとどまる。
会社全体の売上は約900億円、営業利益は70億円弱、利益率は8%弱だ。中計の目標(営業利益率の向上、ストック型ビジネスの拡大)がおおむね達成された姿である。自社テスタの比率が上がり、利益率は過去の最高水準(7%弱)をわずかに超える。
無借金のまま、利益の5割強を配当と自社株買いで返す。
- テストソリューション(NAND向けテスタ・信頼性評価装置):数量 30.0(対象とする検査装置市場(億ドル・今の値段の実質))× 価格 14(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 422 億円・営業利益 38 億円。市場1.5倍、シェア7%、営業利益率9%
- 半導体設計関連(Cadence製EDAの総代理店・設計受託):数量 2,375(国内のEDAソフトと設計受託の市場(億円・今の値段の実質))× 価格 9.7%(売上÷実質の市場=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 229 億円・営業利益 12 億円。市場1.25倍、シェア7.2%、営業利益率5.2%
- システム・サービス(組込み・車載検証・決済端末):数量 3,600(対象とする国内の組込み機器・検証ツール・決済端末の市場(億円・今の値段の実質))× 価格 6.7%(売上÷実質の市場=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 241 億円・営業利益 27 億円。市場1.2倍、シェア5%、営業利益率11%
倍率:事業の純利益 51 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.8 倍。全体の PER 16.8 倍、時価総額 857 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:三つの事業が揃って堅実に伸びる姿が、いちばん起きやすい中心の筋書き。ただし投資の波が大きい事業なので、3割台前半にとどめた。
やや悲観 24% やや悲観:メモリ投資の谷と値下げ圧力 利益 23 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 1,767 円205 億円
NANDの投資が再び冷え込み、国内の顧客はテスタの買い替えを先送りする。世界の対象市場の伸びは実質で今の1.25倍にとどまり、アドバンテストなど大手の値下げ攻勢でイノテックのシェアは5%に落ちる。
テスタの利益率は5%を下回り、2026年3月期より悪くなる。EDAは契約更新の際に値引きを迫られ、利益率が下がる。組込みもガイオの車載の弱さが残り、伸びは1.05倍にとどまる。
会社全体の営業利益は30億円前後で、今の水準から伸びない。利益は残るが、事業の価値は膨らまない。株主還元は続くが、成長が止まると倍率が縮む。
- テストソリューション(NAND向けテスタ・信頼性評価装置):数量 25.0(対象とする検査装置市場(億ドル・今の値段の実質))× 価格 10(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 251 億円・営業利益 11 億円。市場1.25倍、シェア5%、営業利益率4.5%
- 半導体設計関連(Cadence製EDAの総代理店・設計受託):数量 2,090(国内のEDAソフトと設計受託の市場(億円・今の値段の実質))× 価格 9.1%(売上÷実質の市場=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 190 億円・営業利益 8 億円。市場1.1倍、シェア6.8%、営業利益率4.4%
- システム・サービス(組込み・車載検証・決済端末):数量 3,150(対象とする国内の組込み機器・検証ツール・決済端末の市場(億円・今の値段の実質))× 価格 6.0%(売上÷実質の市場=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 190 億円・営業利益 17 億円。市場1.05倍、シェア4.5%、営業利益率9%
倍率:ROEは約6%とkを下回るので、PERの上限は1÷k=11.8倍。成長が止まった事業は、ためた利益が額面未満の価値になるため、稼ぐ力から9倍に置いた。
確率:利益の9割近くがメモリ投資と組込みに左右され、投資の谷は10年のうちに必ず来る。慎重な見方の主張(売却益込みの利益の見かけ、顧客の偏り)が強いので、やや悲観に厚めの確率を置いた。
悲観 12% 悲観:検査装置が大手と中国勢に挟まれ、代理店の条件も悪化 利益 6 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 1,250 円145 億円
大手のアドバンテストが低価格帯にも手を伸ばし、中国の華峰測控・長川科技など新興がNAND向けの検査装置を国産化する。メモリ最大手の大型投資は海外の装置に流れ、イノテックの小型テスタは居場所を失う。シェアは3%まで下がり、事業は利益を生まなくなる。
ケイデンスが日本の販売体制を見直し、代理店契約の条件を厳しくする。EDAの売上は縮み、利益率は2%台に落ちる。組込みも自動車向けが戻らず縮小する。
本社ビルの売却で現金は残るが、稼ぎの力はほとんど失われる。営業利益は6億円ほどで、事業の価値は純現金と売れる資産に近づく。
- テストソリューション(NAND向けテスタ・信頼性評価装置):数量 20.0(対象とする検査装置市場(億ドル・今の値段の実質))× 価格 6.03(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 121 億円・営業利益 0 億円。市場1.0倍、シェア3%、営業利益率0%
- 半導体設計関連(Cadence製EDAの総代理店・設計受託):数量 1,900(国内のEDAソフトと設計受託の市場(億円・今の値段の実質))× 価格 6.0%(売上÷実質の市場=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 115 億円・営業利益 3 億円。市場1.0倍、シェア4.5%、営業利益率2.5%
- システム・サービス(組込み・車載検証・決済端末):数量 2,850(対象とする国内の組込み機器・検証ツール・決済端末の市場(億円・今の値段の実質))× 価格 5.1%(売上÷実質の市場=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 145 億円・営業利益 9 億円。市場0.95倍、シェア3.8%、営業利益率6.5%
倍率:稼ぐ力は営業利益6億円にとどまり、事業の純利益÷kは約65億円。これに本社ビル売却後の純現金と売れる資産の税後を足した床として、今の自己資本264億円の0.55倍に置いた。
確率:大手と中国勢に挟まれ、ケイデンスの条件も悪化する複合は、同時には起きにくいが、小さな会社なので無視できない。構造的に負ける筋書きとして1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
テストソリューション(NAND向けテスタ・信頼性評価装置)
NANDフラッシュ向けの自社テスタ(製造は委託)と、台湾子会社STArの信頼性評価装置など、半導体の検査装置を売る事業。
| 数量対象とする検査装置市場(億ドル・今の値段の実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20.0 | 9.23 | 185 | 12 |
| 10 年後 中立 | 30.0 | 14 | 422 | 38 |
取り方:26年3月期のセグメント売上185億円を、自社テスタ・信頼性評価装置・商社品の合算とみて、NAND・DRAM・イメージセンサー向けの検査・評価装置の対象市場を約20億ドル(実質)と推定した。この推定は開示がなく筆者の置いたもの。売上を150円で割ると1.23億ドルで、シェアは約6%になる。市場は今の値段で測った実質で、物価の3%は価格に入れた。中立の10年は、AIサーバーの記憶装置の需要増で市場が実質1.5倍に伸び、シェアは7%に上がる(DRAM・イメージセンサーへの採用が一部進むため)。
半導体設計関連(Cadence製EDAの総代理店・設計受託)
米ケイデンスの設計ソフト(EDA)の日本総代理店と、LSIの設計受託・技術者派遣。契約型で収益が安定する。
| 数量国内のEDAソフトと設計受託の市場(億円・今の値段の実質) | 価格売上÷実質の市場=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,900 | 7.2% | 137 | 7 |
| 10 年後 中立 | 2,375 | 9.7% | 229 | 12 |
取り方:国内のEDAソフトと半導体設計受託の市場を約1,900億円(実質)と推定した。この推定は開示がなく筆者が置いた。セグメント売上137億円は、その約7.2%にあたる。市場は設計の複雑化で実質1.25倍に伸びる(世界のEDAは名目で約1割成長だが、国内は設計会社の数が増えにくいので実質年2%程度)。価格は、シェアに物価の倍率(1.34倍)を掛けたもの。
システム・サービス(組込み・車載検証・決済端末)
組込みCPUボード、車載ソフトの検証ツール(ガイオ・テクノロジー)、クラウド決済端末(アイティアクセス)などの事業。
| 数量対象とする国内の組込み機器・検証ツール・決済端末の市場(億円・今の値段の実質) | 価格売上÷実質の市場=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,000 | 4.9% | 146 | 17 |
| 10 年後 中立 | 3,600 | 6.7% | 241 | 27 |
取り方:国内の組込み用CPUボード、車載ソフトの検証ツール、クラウド決済端末など、イノテックが戦う市場を約3,000億円(実質)と推定した。この推定は開示がなく筆者の置いたもの。セグメント売上146億円はその約4.9%。AIデータセンターと防衛・船舶の需要で実質1.2倍に伸び、シェアは5%に上がる。ガイオの車載は調整が続くため伸びは控えめ。
リスクと懸念
メモリ投資の波に利益が振れる
テスタの需要はNANDメーカーの設備投資に左右される。国内の投資は約2年停滞し、26年3月期のテスタ事業は利益率が6%台にとどまった。会社も、足元の好調が第1四半期に集中したと認めている。谷に入ると、事業全体の利益が大きく削られる。
売却益込みの利益の見かけ
27年3月期の純利益予想48億円のうち、本社ビル売却益が約35億円を占める。除いた実力は27億円前後だ。PERの低さや、ROE10%超は、特別益の効果が大きい。数字だけを見て割安と判断するのは危うい。
大手と新興国メーカーに挟まれる
NAND検査の分野はアドバンテストとテラダインが頂点にあり、中国の華峰測控・長川科技などが国産化を進める。イノテックは大手の隙間で安さを武器にするが、大手が低価格帯に降りてくれば、その位置は守れない。
ケイデンスへの依存
EDA代理店は約40年続く関係に支えられるが、ケイデンスが日本の販売体制を変えれば、条件は一方的に変わりうる。売上の約3割を占め、利益率は薄いが、安定部門を失うと会社の下支えが弱まる。
自動車向けの減速
ガイオ・テクノロジーは、自動車メーカーの業績低迷で今期約2割の減収を見込む。車載ソフトの検証は開発費の削減で真っ先に削られやすい。組込み事業の利益の稼ぎ頭の一つが細ると、全体の安定感が揺らぐ。
新分野の不発
会社はDRAMとイメージセンサー向けのテスタを研究しているが、中計期間の売上には入っていない。採用が決まらない場合、テスタ事業はNAND一本足のままで、波に弱い体質が続く。
小規模ゆえの買収の失敗
会社はM&Aを成長投資の柱に挙げる。時価総額が400億円台の会社が高い価格で買えば、その後の償却で利益を傷める。過去の買収は小さく、大型買収の実績はないので、経営の審美眼がまだ試されていない。
今後の分かれ目
- DRAMかイメージセンサー向けのテスタが、量産ラインで採用されたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。市場の広がりとシェアの両方が上がるので、利益率が二桁に乗る道が開ける。
- NANDメーカーが設備投資を大きく絞ったら
- やや悲観の確率を上げる。テスタの利益率は5%を割り、会社の営業利益は30億円前後に戻る。
- ケイデンスが日本の販売体制を変える、または代理店契約の条件を見直したら
- 悲観の確率を上げる。EDAの売上が縮み、安定部門の下支えが弱まる。
- 会社が大型の買収を発表したら
- 価格と相手の事業を見て判断する。テスタの補強なら楽観側、成長の見えない買収なら悲観側に寄せる。
- 自社株買いが追加され、配当性向が上がり続けたら
- 資本の使い方に問題はなく、悲観の確率を下げる材料になるが、事業の価値そのものは変わらない。
見ておくもの
- 四半期ごとの自社テスタの売上高と受注、営業利益率
- NAND・DRAMメーカーの設備投資計画
- ケイデンスの日本での販売体制と契約更新の話
- 特別益を除いた通常の利益とROE(中計の最終年度の達成度)
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業のROE・成長率g 4%・資本コストk 7.5%から、正当化PERの式と上限の約93%で置いた。今のPER(特別益込みで約9倍、除くと17倍近く)や株価は参照していない。中立でも今の時価総額の約1.5倍強で、楽観でも2倍強にとどまる。「適正」に近い結論は、今の値段が高くも低くもないというより、事業の稼ぐ力が資本コストに近いことから来ている。本社ビル売却の第2弾(27年3月期第2四半期)は、自己資本の起点に足し、純利益の起点からは外した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.5→20.1 倍・やや楽観 PER 13.5→18.48 倍・中立 PER 12.5→16.8 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。