結論
カシオ計算機は、G-SHOCK を看板にした腕時計の会社である。売上の約 7 割、利益はそれ以上を時計が稼ぐ。関数電卓などの教育事業が堅実な 2 番手で、楽器と新規事業は赤字を抱える。
筆者の結論は「やや割高」だ。時計は強いが、堀は流行と若者の好みに支えられていて、10 年先まで同じ利益率が続くとは言い切れない。足元の急回復をそのまま先へ伸ばした値段になっていると見る。
良い点ははっきりしている。借金はなく、自己資本比率は 7 割近い。手元の現金は時価総額の 3 割に迫る。2026 年 5 月に出した中期計画では、3 年で純利益並みの 600 億円超を株主に返すと言い切った。アクティビストの 3D も 5% 超を持つ。
それでも、倍率は利益の質に見合った所までしか認められない。時計の営業利益率は 14.7% と高く、会社の計画はさらに上を置く。数量は先進国と中国で伸びにくく、インドやブラジルが埋められるかが分かれ目になる。
悲観の下振れは、現金と自己資本が床になって深くはない。一方、上は時計の利益率が 18% に届く楽観で初めて今の 2 倍近くになる。起こりにくい筋書きだ。確率を重ねると、今の値段に安全域は残っていない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「10 年後もあるか」を問う。時計は残る。ただし、利益率が今の高さで残るかは別の問題である。
オーナー利益はおおむね純利益に近い。設備投資は減価償却の範囲で足り、運転資金も重くない。ここは気に入る点だ。稼いだ分のほぼ全部を返すと会社が約束したのも、オーナーにとって好ましい。
一方で、堀は時計のブランドと電卓の定番に依存し、どちらも流行と制度の変化にさらされる。確信を持って 10 年先の利益を言えるほどの独占性ではない。だから倍率は上限まで認めず、7〜8 割の水準に抑える。
安全域は、悲観の筋書きで測る。純現金と自己資本が床になり、悲観でも時価総額は今の 3 割弱に残る。ただ、今の値段はそこからはるかに高い所にあり、払う側の安全域は薄い。
資本の使い方に関する評価は、買収の実行次第で変わる。割高な買収で現金を使い切ることが、いちばん避けたい展開だ。自社株買いも、倍率の高い今の局面では慎重に見たい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は 4 つに分けられる。時計、教育(EdTech)、サウンド(楽器)、新規事業だ。
時計は売上の約 7 割、約 1,850 億円。G-SHOCK と CASIO WATCH の 2 本立てで、G-SHOCK は累計の出荷が 1 億 5,000 万本を超えた。壊れにくさという機能をファッションに変えたブランドで、1 本あたりの利益が厚い。会社は 2 つのブランドに経営資源を絞り込み、営業利益率を 14.7% まで戻した。上位モデルの MR-G は 2013 年比でおよそ 7 倍に育ち、2028 年に 10 倍を目指す。
教育は関数電卓が柱だ。学校の授業や試験で使う機種が決まると、乗り換えられにくい。年に 2,000 万台規模が売れ、多くは海外向けである。ただし先進国の需要は人口と共に細り、成長はインドや東南アジアなど新興国の教育省との連携にかかる。電子辞書は国内で首位級だが、スマートフォンに押され、ハードの新規開発は止まっている。
サウンドは電子ピアノの Privia などで、2026 年 3 月期に約 34 億円の営業赤字だった。不採算の地域から引き、オンライン販売へ切り替えている最中だ。新規事業は AI ペットの Moflin が代表で、北米と英国から海外へ広げる。売上 100 億円と黒字化を 2029 年 3 月期の目標に置く。
生産は国内と海外の拠点で行う。部材高騰や関税は、価格の見直しで吸収する考えだ。同じ民生電機の括りでも、テレビを抱えるソニー・パナソニック・シャープとは、顧客も需要の波もまるで違う。
優良さと弱いところ
筆者がまず評価するのは、財務の強さだ。借金はなく、自己資本比率は約 7 割。手元流動資金は約 1,500 億円ある。景気が悪くなって赤字を出しても、会社が傾く心配はほぼない。
次にブランドの力だ。G-SHOCK は 40 年を超える歴史を持ち、世界の若者と愛好家に通じる名前になった。新規参入の腕時計ブランドが同じ位置を取るのは難しい。電卓も、学校の指定機種という堀が効いている。
ただし堀の質には弱さもある。G-SHOCK は流行の影響を受ける。2025 年 3 月期には中国で G-SHOCK の販売が一時ほぼ半減し、景気と好みで振れることを示した。時計の利益率は直近で 14.7% と高く、これを 10 年保てるかは別の話だ。
スマートウォッチは腕時計の需要を食うが、カシオの価格帯は入口が低く、直接ぶつかりにくい。むしろ中国勢の低価格機と、模倣品が脅威になる。研究開発費は売上の 1.5% 程度と少なく、時計以外に第 2 の柱を立てる力はまだ弱い。
経営は、赤字の事業を整理し、固定費を落としてきた。資本の使い方は評価できる。ただ、前の計画では買収をしておらず、今回 300 億円の枠を買収と提携に回す。ここは未知数だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
腕時計は、安さと実用で選ぶ層と、ブランドや趣味で選ぶ層に分かれる。カシオが戦うのは、入門から中高価格帯のクオーツとデジタルである。需要の総数は人口で決まり、先進国では増えない。伸びる余地は新興国の中間層にある。
競合はセイコー、シチズン、スウォッチグループ、それに Apple や Garmin のスマートウォッチだ。スマートウォッチは出荷が増えたが、G-SHOCK の客層はファッションと耐久性を求めるため、置き換わりは限定的と見ている。反対に中国勢の安価な似た製品、模倣品は目に見える脅威である。
足元の景気は追い風だ。2026 年度の第 1 四半期は国内が 17%、北米が 22%、欧州が 24% の増収で、上位機種の完売が続く。ただし前年が中国の落ち込みなどで低かった面があり、この勢いをそのまま平均と見ない方がよい。
教育では、関数電卓の需要は学校のカリキュラムで決まる。2030 年ごろに教科書のデジタル化が進むと、紙の補助具である電卓の役割は薄れる可能性がある。会社はアプリで補う考えだが、収益の規模はまだ小さい。
楽器は、中国勢の低価格キーボードとヤマハ・ローランドの厚い品揃えに挟まれる。赤字からの脱出が優先で、成長は期待しにくい。
資本政策と M&A
資本の方針は、3 年で 600 億円超を配当と自社株買いで返すというものだ。配当は純資産の 5% 程度を安定して払い、自社株買いは機動的に行う。総還元性向は 100% 前後を目指す。2026 年 5 月から 7 月には 100 億円の自社株買いをすでに実行した。
もう一つの柱は戦略投資の 300 億円で、買収や提携にも使うと明記した。前の中期計画では買収をしておらず、事業の整理が先行していた。方針の転換だ。対象は時計と関数電卓などの教育事業。小さな会社を買うのか、大型の再編に動くのかは見えていない。
アクティビストの 3D インベストメント・パートナーズが 2026 年 4 月に 5.03% の保有を届け出た。保有目的には重要提案行為の可能性が入るが、具体的な提案は確認できていない。手元の現金、土地や本社などの資産、消費者向け事業の扱いが論点になり得る。
TOB(株式公開買い付け)の確率は、kabufu の推計で 10 年以内に約 13% とされる。取引が起きれば、現金の厚さは買い手にも効く。
10年の還元は、総還元性向100%前後の方針に置いた。やや悲観は、利益を超えて払わないよう純利益の合計並みに直した(2026年10月の見直し)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
時計は、G-SHOCK の再成長と CASIO WATCH の高付加価値化が同時に進んでいる。第 1 四半期の時計の営業利益は前年のほぼ倍になり、通期の営業利益は 340 億円へ引き上げられた。中計の 3 年後の目標である 350 億円に、1 年目でほぼ届く。会社の計画が保守的だった証拠だ。
上位機種の MR-G は 2013 年から約 7 倍になり、あと数年で 10 倍の計画だ。高価格帯が育てば、1 本あたりの利益が数量以上に伸びる。インド、ブラジル、ASEAN などの新興国で、G-SHOCK の定番モデルが現地の若者に広がれば、数量も増える。
教育は関数電卓の普及率が新興国で伸び、アプリの ClassPad.net も単価が上がる。サウンドは構造改革で黒字化し、Moflin は北米と英国から世界へ。
資本の面では、純現金がほぼ時価総額の 2 割を占め、3 年で 600 億円超を返す。100% の総還元は、1 株の価値を押し上げる。3D が圧力をかければ、さらに積み増しもあり得る。経営の自己改革が続く間は、利益の質が上がり、倍率も評価される。
慎重な見方
時計の利益率は直近で高い水準にある。2025 年 3 月期には中国で G-SHOCK の販売が一時ほぼ半減した。この変動の大きさが、堀の浅さを示す。一度落ちれば戻らない恐れもある。
足元の増益には、関税後の前年の落ち込みの反動、為替、上位機種の限定モデルの完売という一時的な要素が混じる。売上は過去 10 年で縮んできた。2015 年の 3,300 億円台から 2,700 億円台へ、年率で 2% 余りの縮小だ。時計以外の事業は、電子辞書の新規開発停止とサウンドの赤字が示すとおり、まだ立て直しの途上にある。
競争は静かに強まる。中国勢は低価格で品質を上げ、模倣品も増える。スマートウォッチは若者の腕を取り、G-SHOCK の入門層が細る。関数電卓は 2030 年の教科書デジタル化で、紙の補助具としての位置が揺らぐ。
PER は直近で 27 倍だ。今の利益で測れば倍率は割高であり、利益が鈍れば倍率の縮小が重なって、株価は大きく下がる。研究開発は小さく、買収は初めてで、ガバナンスの課題もある。株主還元の約束は、利益が減った時の守りにはならない。
どちらに重みを置いたか
時計の勢いと財務の厚さは強い見方に説得力がある。だが、堀の浅さと高止まりした利益率、10 年で縮んできた売上という慎重な見方のほうが、価格との関係では重い。利益がもう一段伸びる上の筋書きでも、今の値段には届かない。
そこで確率は、中立を最も厚くしつつ、やや悲観と悲観をあわせて 3 割強に置いた。10 年では構造的な負けの確率も厚めにした。現金が床になるので、悲観の深さは限られる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,381 円5,221 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,137 円2,495 億円)。 今の値に割り戻すと 1,912 円4,192 億円、今との差 −16.7%、 期待の年率 +4.4%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 4,617 円1.01 兆円 | 1,687 円3,700 億円 | +174.6% | +10.6% | 504 円1,106 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,558 円7,803 億円 | 1,459 円3,200 億円 | +118.5% | +8.1% | 1,003 円2,201 億円 |
| 中立 | 35% | 2,987 円6,551 億円 | 1,300 円2,850 億円 | +86.7% | +6.4% | 1,500 円3,290 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,006 円2,207 億円 | 844 円1,850 億円 | −19.4% | −2.1% | 444 円974 億円 |
| 悲観 | 13% | 96 円210 億円 | 410 円900 億円 | −78.0% | −14.0% | 66 円144 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,381 円5,221 億円 | 1,137 円2,495 億円 | +53.2% | +4.4% | 3,518 円7,715 億円 |
今の株価時価総額 2,296 円5,035 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% G-SHOCK が世界でもう一段広がり、新規が育つ 利益 504 億円 · PER 19.7 倍 · 株価時価総額 4,617 円1.01 兆円
G-SHOCK は世界の若者の定番を保ち、MR-G は 10 倍の目標に達する。インド、ブラジル、ASEAN の中間層が増え、時計の数量が 25% 増える。価格も、高価格帯の厚みで物価を上回る。教育は関数電卓が新興国の学校に広がり、アプリも育つ。
Moflin は世界に広がり、ウェルネスの周辺サービスと買収で新規事業が利益を出す。10 年の還元は 3,700 億円に達し、資本の使い方が評価される。ROE は 25% 近くになる。
競合のスマートウォッチは腕時計の需要を食うが、G-SHOCK の客層とは重ならず、むしろ併用が増える。堀は広がり、株主還元は大きく積み上がる。
- 時計:数量 22.5(腕時計の販売本数(百万本・推定))× 価格 1.46(1 本あたり平均売上(万円・名目、G-SHOCK と CASIO WATCH の混合))→ 売上 3,285 億円・営業利益 591 億円。数量 22.50(今の 1.25 倍)× 価格 1.42 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 18.0%
- 教育(EdTech):数量 27.5(電卓・電子辞書などの販売台数(百万台・推定))× 価格 0.34(1 台あたり平均売上(万円・名目、アプリ収入を含む))→ 売上 944 億円・営業利益 132 億円。数量 27.50(今の 1.10 倍)× 価格 1.41 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 14.0%
- サウンド(楽器):数量 1.5(電子楽器の販売台数(百万台・推定))× 価格 2.01(1 台あたり平均売上(万円・名目))→ 売上 301 億円・営業利益 18 億円。数量 1.50(今の 1.07 倍)× 価格 1.34 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 6.0%
- 新規・その他:数量 60.0(新規製品の販売台数に換算した数量(万台相当・推定))× 価格 6.16(1 台あたり売上(万円・名目、周辺サービスと整理中の事業を含む混合))→ 売上 370 億円・営業利益 44 億円。数量 60.00(今の 4.00 倍)× 価格 1.01 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 12.0%
倍率:事業の純利益 500 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 22.7% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)300 億円。全体の PER 19.66 倍、時価総額 10,126 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:時計の利益率 18% が 10 年続き、新規事業まで当たる必要がある。時計の変動の大きさを考えると確率は低い。
やや楽観 20% 新興国と高価格帯で時計が伸び続ける 利益 405 億円 · PER 18.7 倍 · 株価時価総額 3,558 円7,803 億円
時計は新興国と高価格帯で 10 年伸び続ける。G-SHOCK は欧米の若者を保ち、CASIO WATCH は女性客を広げる。利益率は 16〜17% と高水準だ。教育は新興国の採用が進み、アプリの単価も上がる。
サウンドは黒字を維持し、新規は小粒の買収と Moflin で利益が出る。還元は 3,200 億円。資本の使い方が堅実で、安定した高収益の会社として評価される。時計の数量は、新興国の増加が先進国の減少を上回って 15% 近く増える。為替が 150 円で安定している前提で、利益が毎年少しずつ積み上がる 10 年だ。
競合の動きは今と変わらず、時計の需要は人口の増える国に移る。堀は保たれ、10 年後も高い利益率が読める会社に近づく。
- 時計:数量 20.5(腕時計の販売本数(百万本・推定))× 価格 1.42(1 本あたり平均売上(万円・名目、G-SHOCK と CASIO WATCH の混合))→ 売上 2,911 億円・営業利益 480 億円。数量 20.52(今の 1.14 倍)× 価格 1.38 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 16.5%
- 教育(EdTech):数量 26.3(電卓・電子辞書などの販売台数(百万台・推定))× 価格 0.34(1 台あたり平均売上(万円・名目、アプリ収入を含む))→ 売上 884 億円・営業利益 115 億円。数量 26.25(今の 1.05 倍)× 価格 1.38 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 13.0%
- サウンド(楽器):数量 1.4(電子楽器の販売台数(百万台・推定))× 価格 2.01(1 台あたり平均売上(万円・名目))→ 売上 281 億円・営業利益 14 億円。数量 1.40(今の 1.00 倍)× 価格 1.34 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 5.0%
- 新規・その他:数量 45.0(新規製品の販売台数に換算した数量(万台相当・推定))× 価格 6.57(1 台あたり売上(万円・名目、周辺サービスと整理中の事業を含む混合))→ 売上 296 億円・営業利益 30 億円。数量 45.00(今の 3.00 倍)× 価格 1.07 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 10.0%
倍率:事業の純利益 401 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)300 億円。全体の PER 18.72 倍、時価総額 7,803 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:インド・ブラジル・ASEAN と MR-G など高価格帯の広がりが続く。中計の方向が 10 年続く筋書きで、中立の次に自然。
中立 35% 時計は高水準を守り、教育は堅実に伸びる 利益 349 億円 · PER 18.1 倍 · 株価時価総額 2,987 円6,551 億円
時計は本数が 7% 増え、物価に沿って単価が上がり、利益率は 15% 前後に保たれる。教育は関数電卓の新興国での伸びが先進国の減少を上回り、アプリ収入が少し増える。サウンドは台数が減るが黒字、新規は Moflin を中心に 400 億円規模になる。
本社費は物価で増えるが、固定費の適正化で抑える。還元は 10 年で約 2,850 億円。買収は小さい案件にとどまる。ほぼ会社の中計の延長線上にある姿だ。
競合ではスマートウォッチが入門層を取り、中国勢が低価格帯で攻めるが、G-SHOCK の客層は大きく動かない。堀は保たれるが、広がるわけではなく、倍率は上限まで認められない。
- 時計:数量 19.3(腕時計の販売本数(百万本・推定))× 価格 1.39(1 本あたり平均売上(万円・名目、G-SHOCK と CASIO WATCH の混合))→ 売上 2,679 億円・営業利益 402 億円。数量 19.26(今の 1.07 倍)× 価格 1.35 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 15.0%
- 教育(EdTech):数量 25.5(電卓・電子辞書などの販売台数(百万台・推定))× 価格 0.33(1 台あたり平均売上(万円・名目、アプリ収入を含む))→ 売上 850 億円・営業利益 106 億円。数量 25.50(今の 1.02 倍)× 価格 1.37 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 12.5%
- サウンド(楽器):数量 1.3(電子楽器の販売台数(百万台・推定))× 価格 2.01(1 台あたり平均売上(万円・名目))→ 売上 262 億円・営業利益 10 億円。数量 1.30(今の 0.93 倍)× 価格 1.34 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 4.0%
- 新規・その他:数量 49.5(新規製品の販売台数に換算した数量(万台相当・推定))× 価格 8.22(1 台あたり売上(万円・名目、周辺サービスと整理中の事業を含む混合))→ 売上 407 億円・営業利益 37 億円。数量 49.50(今の 3.30 倍)× 価格 1.34 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 9.0%
倍率:事業の純利益 345 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.2% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)300 億円。全体の PER 18.13 倍、時価総額 6,551 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:時計の利益率は 15% 前後で維持され、教育は新興国で数量が増える。物価に沿った売上の伸びを中心に置く。
やや悲観 24% 時計の価格が上げられず、数量も細る 利益 186 億円 · PER 10.8 倍 · 株価時価総額 1,006 円2,207 億円
中国勢の低価格化とスマートウォッチで、時計の数量が 5% 余り減り、価格も物価を下回る。G-SHOCK は一部の愛好家向けに縮み、利益率は 11% に落ちる。教育は教科書のデジタル化の影響が出て、台数が 8% 減る。
サウンドは撤退に近い縮小、新規は計画に届かない。還元は約束を守るが、規模は縮み、買収で使った現金は価値を生まなかった。事業は残るが、もう優良とは呼びにくい。
競合は強くなる一方だ。スマートウォッチと中国勢の低価格機が入門層を取り、堀は狭まる。時計は高価格帯だけが残り、会社は規模を縮めながら現金を返す。
- 時計:数量 17.0(腕時計の販売本数(百万本・推定))× 価格 1.34(1 本あたり平均売上(万円・名目、G-SHOCK と CASIO WATCH の混合))→ 売上 2,272 億円・営業利益 250 億円。数量 17.01(今の 0.94 倍)× 価格 1.30 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 11.0%
- 教育(EdTech):数量 23.0(電卓・電子辞書などの販売台数(百万台・推定))× 価格 0.33(1 台あたり平均売上(万円・名目、アプリ収入を含む))→ 売上 752 億円・営業利益 71 億円。数量 23.00(今の 0.92 倍)× 価格 1.34 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 9.5%
- サウンド(楽器):数量 1.0(電子楽器の販売台数(百万台・推定))× 価格 2.01(1 台あたり平均売上(万円・名目))→ 売上 197 億円・営業利益 0 億円。数量 0.98(今の 0.70 倍)× 価格 1.34 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 0.0%
- 新規・その他:数量 21.0(新規製品の販売台数に換算した数量(万台相当・推定))× 価格 7.40(1 台あたり売上(万円・名目、周辺サービスと整理中の事業を含む混合))→ 売上 155 億円・営業利益 0 億円。数量 21.00(今の 1.40 倍)× 価格 1.21 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 0.0%
倍率:ROE 9.0%・資本コスト 7.75% から正当化 PER 13.3 倍(g 4.0%・残る割合 0.50)を計算し、その 81% をやや悲観の倍率に置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 10.84 倍・時価総額 2,207 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:中国勢の低価格化とスマートウォッチで、時計の数量が 5% 余り減る。悲観寄りの確率を、時計の変動の大きさに合わせて厚くした。
悲観 13% 構造的に負ける。時計も教育も縮む 利益 8 億円 · PER 10.2 倍 · 株価時価総額 96 円210 億円
構造的な負けの 10 年になる。流行ブランドの寿命が来て、G-SHOCK の客層が入れ替わらず、中国勢の低価格機と模倣品が世界の入門層を取る。時計の数量は 3 割、価格は 1 割落ちる。教育も教科書のデジタル化と中国製電卓の浸透で台数が 2 割減る。
サウンドは撤退し、新規の赤字も膨らむ。営業利益はほぼゼロ。借金はなく、自己資本の割れは避けられるが、時価総額は稼ぐ力と残った現金だけの 200 億円前後まで下がる。
10 年の悲観では、時計の客層が入れ替わらず、買収も失敗する。堀が崩れた後の会社は、配当を維持するため現金を取り崩して払い続ける(資産の売却は伴わない)が、事業の稼ぐ力は戻らない。
- 時計:数量 12.6(腕時計の販売本数(百万本・推定))× 価格 1.24(1 本あたり平均売上(万円・名目、G-SHOCK と CASIO WATCH の混合))→ 売上 1,562 億円・営業利益 94 億円。数量 12.60(今の 0.70 倍)× 価格 1.21 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 6.0%
- 教育(EdTech):数量 20.0(電卓・電子辞書などの販売台数(百万台・推定))× 価格 0.31(1 台あたり平均売上(万円・名目、アプリ収入を含む))→ 売上 621 億円・営業利益 37 億円。数量 20.00(今の 0.80 倍)× 価格 1.27 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 6.0%
- サウンド(楽器):数量 0.7(電子楽器の販売台数(百万台・推定))× 価格 2.01(1 台あたり平均売上(万円・名目))→ 売上 141 億円・営業利益 −14 億円。数量 0.70(今の 0.50 倍)× 価格 1.34 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 -10.0%
- 新規・その他:数量 22.5(新規製品の販売台数に換算した数量(万台相当・推定))× 価格 6.57(1 台あたり売上(万円・名目、周辺サービスと整理中の事業を含む混合))→ 売上 148 億円・営業利益 −30 億円。数量 22.50(今の 1.50 倍)× 価格 1.07 倍(物価 1.34 倍を含む)、営業利益率 -20.0%
倍率:悲観の純利益 8 億円は ROE 0.4% で、ためた利益は額面未満の価値しかない。やや悲観の 10.5 倍より悲観ほど低く置くので、その約 95% の 10.15 倍とした(稼ぐ力 純利益÷k の PER 上限も超えない)。自己資本の厚さや市場の倍率は根拠にしない。ためた利益は額面未満の価値なので PER は 1÷k=12.5 倍が上限で、その 95% を稼ぐ力として置いた(余った現金は悲観で 0.5 倍に見積もる)。配当の継続で現金は還元の合計に出ていくため、純現金を床には使わない。
確率:10 年の悲観は、堀が崩れてもう優良ではなくなった姿を置く。流行ブランドの寿命と模倣品・中国勢の浸透を考え、1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
時計
G-SHOCK と CASIO WATCH を中心とする腕時計事業。全社の売上の約 7 割、利益の大半を担う。
| 数量腕時計の販売本数(百万本・推定) | 価格1 本あたり平均売上(万円・名目、G-SHOCK と CASIO WATCH の混合) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 18.0 | 1.03 | 1,850 | 271 |
| 10 年後 中立 | 19.3 | 1.39 | 2,679 | 402 |
取り方:G-SHOCK は 1 四半期に約 155〜175 万個(会社の決算説明の報道)で年に約 650 万個。CASIO WATCH などを足して年に約 1,800 万本と推定し、時計の売上 1,850 億円を 1 本あたり約 1.03 万円とした。世界の腕時計市場の規模は出典で桁が違い確かめられなかったので、市場 × シェアでは置かず、本数 × 単価で置いた。本数は実質の数量。物価 3% と上位機種への移りは 1 本あたり売上に入れる。
教育(EdTech)
関数電卓・一般電卓・電子辞書と、ClassPad.net などの学習アプリ。
| 数量電卓・電子辞書などの販売台数(百万台・推定) | 価格1 台あたり平均売上(万円・名目、アプリ収入を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 25.0 | 0.24 | 610 | 68 |
| 10 年後 中立 | 25.5 | 0.33 | 850 | 106 |
取り方:関数電卓は年に約 2,000 万台(ブログの整理)。一般電卓・電子辞書を足し、アプリ収入を台数あたりに含めて年に約 2,500 万台と推定し、売上 610 億円を 1 台あたり約 0.24 万円とした。台数は先進国で減り新興国で増える実質の数量。物価 3% とアプリの単価上昇は 1 台あたり売上に入れる。
サウンド(楽器)
電子ピアノ(Privia)やキーボードなどの楽器事業。2026 年 3 月期は赤字で構造改革中。
| 数量電子楽器の販売台数(百万台・推定) | 価格1 台あたり平均売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.4 | 1.50 | 210 | −34 |
| 10 年後 中立 | 1.3 | 2.01 | 262 | 10 |
取り方:電子ピアノとキーボードを合わせ年に約 140 万台と推定し、売上 210 億円を 1 台あたり約 1.5 万円とした。不採算地域から引くため台数は減る実質の数量。価格は物価で上がるが、中国勢の低価格機があり上げ幅は限られる。
新規・その他
AI ペットの Moflin や、整理中の事業(非継続事業を含む)を束ねる区分。
| 数量新規製品の販売台数に換算した数量(万台相当・推定) | 価格1 台あたり売上(万円・名目、周辺サービスと整理中の事業を含む混合) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 15.0 | 6.13 | 92 | −13 |
| 10 年後 中立 | 49.5 | 8.22 | 407 | 37 |
取り方:Moflin(1 台 5 万円前後)と周辺サービス、整理中の事業の合計売上 92 億円を、15 万台相当 × 約 6.1 万円と推定した。非継続事業(約 25 億円)は今後減り、Moflin は増える。数量は実質、物価 3% は 1 台あたり売上に入れる。
リスクと懸念
時計の利益率が元に戻る
時計の営業利益率は直近で 14.7% と高い。流行の変化、上位機種の限定モデルの一巡、為替と関税の変動で、数年で 10% 台前半へ戻っても不思議はない。時計だけで全社の利益を超えているため、ここが崩れれば全体が崩れる。分散が効いていない点が最大の弱みだ。
中国と模倣品
中国は 2025 年 3 月期に G-SHOCK の販売が一時ほぼ半減した市場だ。現地ブランドの低価格化と偽物が、入門層を取り込む。流通を上位店に絞る戦略は、模倣品への対策になる一方、数量の伸びを犠牲にする面もある。
教科書のデジタル化と電卓
関数電卓は学校の指定という堀で守られているが、2030 年ごろに教科書や試験がデジタル化されると、専用機の需要は変わる。会社はアプリの ClassPad.net で補う方針だが、規模はまだ小さく、新興国では偽物の電卓との戦いも続く。
初めての本格的な買収
300 億円の枠で買収と提携を行う。カシオは前の中期計画では買収をせず、事業の整理が中心だった。買収の実績が乏しく、割高な価格で買えば、いまの強い現金が目減りする。時計と教育の周辺という限定は歯止めになる。
サウンドと新規事業の赤字
サウンドは約 34 億円の営業赤字、新規事業も十数億円の赤字が続く。構造改革で黒字化を計画するが、中国勢の低価格キーボードや Moflin の売れ行きに左右される。撤退するにしても整理の費用が出て、黒字化の遅れは全社の利益率を押し下げる。
アクティビストとガバナンス
3D が 5.03% を保有し、重要提案を行う可能性を届け出ている。還元が積み上がる良い面もあるが、事業の売却や分割を求められれば、方針が揺れる。株主提案の結果次第で、経営の継続性にも影響が出る。保有の目的は現時点で提案の中身まで示されていない。
為替の振れ
売上の多くが海外で、円高になれば円換算の利益が目減りする。ドル円を 150 円に固定した本分析では織り込んでいない。ただし為替は、円高が進めば、輸出比率の高い時計の利益に大きく響く。海外の売上が多いので、利益の振れ幅は本分析の想定より広がりうる。
今後の分かれ目
- 時計の営業利益率が 3 年続けて 15% を超える
- 中立の利益率を上方に直し、やや楽観・楽観の確率を厚くしてよい。倍率の上限も上がる。
- G-SHOCK の北米・欧州の増収が 1 年で止まる
- やや悲観の確率を上げる。上位機種の一巡と見て、利益率を 12% 台へ戻す。
- 300 億円の枠で時計か教育の優良な会社を買う
- 価格しだいで評価が割れる。割安な買収で利益が上積みされれば楽観寄り、割高なら現金の目減りで悲観寄り。
- 3D が株主提案で事業の売却・消費者向け事業の分離を求める
- 売却益と還元の積み増しは短期の追い風。一方で長期の経営方針が揺れる点を見る。
- 関数電卓の指定機種が新興国で拡大する
- 教育の数量の伸びを上げ、中立の教育利益率を引き上げてよい。
- 中国勢の低価格機が欧米の若年層に浸透する
- 悲観(構造的な負け)の確率を上げる。時計の価格と数量が同時に押し下げられる。
見ておくもの
- 時計事業の四半期の営業利益率と G-SHOCK の販売個数(地域別)
- 中国・インド・ブラジルの時計売上の伸び
- 関数電卓の新興国での指定採用と教育の営業利益率
- 300 億円の戦略投資の使い道(買収・提携の発表)
- 3D インベストメントなど大株主の動き(大量保有報告書・株主提案)
- サウンドと新規事業の営業損益の推移
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の PER(27 倍)ではなく、k 7.75% と利益の質から出した上限の 8 割前後に置いた。純現金は 1,083 億円で時価総額の 21% あり、このうち会社が余剰と呼ぶ 500 億円から、建替に消える 200 億円を引いた 300 億円を、帳簿の値で別に足した(現金を捨てていない)。今の時価総額は事業の純利益の約 19 倍にあたり、中立の 13 倍を大きく上回る。これは計算の結果で、今の値段に寄せていない。店舗賃借は小さく、リースの約束は軽い。新リース会計で純債務の形が変わるが、数字は今の形で置いた。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)を上限に、倍率をやや悲観の約95%(10 倍)に置いた。過去の倍率や自己資本の厚さは根拠にしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 17.53→19.66 倍・やや楽観 PER 15.6→18.72 倍・中立 PER 13.85→18.13 倍・やや悲観 PER 10.5→10.84 倍・悲観 PER 10→10.15 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。事業で決める:基本 7.5% に quality +0.5%(寿命:G-SHOCK と関数電卓への偏り)を足して k 7.75%。純現金で extra は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.75%。