結論
大同信号は、鉄道の信号設備を作る会社だ。駅の連動装置や踏切、無線式の列車制御を手がけ、売上の9割超が鉄道信号になる。筆者の結論は、本質価値は今の時価総額とほぼ同じ「適正」。理由は、利益が足元の山にいる一方で、顧客がJR東日本に偏り、10年の需要が横ばいにとどまることだ。
足元は好調だ。2026年3月期は売上が17%、営業利益が9割増え、会社の中計の目標を1年早く超えた。配当は前期の2倍超へ引き上げた。
一方で、2027年3月期の経常利益は2割減る予想だ。受注残は積み上がっているが、山の利益をそのまま10年先に延ばすことはできない。
安心材料もある。政策保有株を純資産の2割未満に縮減する方針を数字で示し、すでに売却益を出した。ただし、売上の3分の1強がJR東日本で、導入の時期が読みにくい。足元の好調がどこまで続くかを、筆者は冷静に見ている。株主にとっては、利益の山と谷をならした力で価値を測る必要がある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、公正な値段の、堅い会社だ。信号は止められない設備で、一度入ると数十年使われる。財務は堅く、経営も還元に向かっている。ただし、割安と言えるほど安くはない。
株主のものになる利益は、年に十数億円だ。足元の最高水準の利益は、10年先まで続くとは考えにくい。顧客の約35%がJR東日本で、導入の時期の変動が受注を左右する。値段も顧客に決められる面が強い。
安全域は一定ある。投資有価証券が時価総額の6割あり、売却を進める方針が数字で示された。悲観の姿でも、保有株の価値が下値を支える。
筆者は、先が読みやすい事業ではあるが、成長の余地が限られる点を重く見る。無線式列車制御が全国に広がる兆しが出たら、評価を上げる。反対に、顧客の発注先が分散し始めたら、評価を下げる。価格に織り込まれている以上の安全域は、今のところ見えない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ口は、鉄道の信号保安だ。駅で列車の進路を決める連動装置、踏切の遮断機、列車の位置を管理する運行管理システムを、設計から工事、保守まで請け負う。鉄道会社が発注し、導入すれば数十年使われる。保守と更新の仕事が長く続く性質がある。
最大の顧客はJR東日本で、売上の約35%を占める。東京メトロも1割を超える。売上の半分近くが2社に集中する。JR東日本系の電気工事会社である日本電設工業が、筆頭株主として約15%を持つ。
今の主力の新製品が、無線式列車制御(DS-RTC)だ。地上の信号機に代わり、無線で列車を制御する。省力化と保守費の削減を目的に、JR東日本が採用を広げている。
産業用機器と不動産は、それぞれ売上の5%と2%で、全体への影響は小さい。
製品は大型の工事なので、売上は受注から1年以上遅れて立つ。棚卸資産が総資産の4分の1あり、仕掛かりが重い事業でもある。工事の遅れや仕様の変更が、そのまま利益と現金の動きに響く。利益率は、新製品への切り替えと、固定費の削減で決まっていく。顧客は数十年の付き合いが前提で、乗り換えられにくい。
優良さと弱いところ
堀は、安全に直結する製品の信頼と、鉄道会社との長い付き合いだ。信号は一つ間違えば事故になるため、新規参入が難しい。保守まで含めて顧客の設備に入り込んでいる。ただし、日本信号、京三製作所、日立、東芝など同業も多い。
収益性は上がってきた。営業利益率は2023年3月期の4.7%から、2026年3月期の8.5%まで上がった。過去12年の最高に近い。ただし2018年3月期には赤字もあり、安定した高収益とは言えない。
財務は堅い。自己資本比率は5割を超え、純有利子負債は20億円。借入の金利が上がっても、影響は小さい。
弱点は顧客の偏りと、値決め力の弱さだ。JR東日本が売上の約35%を占め、発注の条件を強く決める。経営は還元に前向きで、2024年度に自社株買いを8億円行った。資本の使い方は、近年は株主に向いてきたと筆者は見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の鉄道信号の市場は年3,000億円ほどと見られ、日本信号が最大手、京三製作所、大同信号、日立、東芝が続く。新設の線路は少なく、需要の中心は老朽化した設備の更新だ。人口減で鉄道会社の収益は細るが、安全の投資は後回しにしにくい。
新しい波が、無線式列車制御だ。地上の信号機やケーブルを減らし、保守の人手を減らせる。JR東日本が先行し、他の会社に広がるかが焦点になる。広がれば更新の需要が一度に動く。
海外は、日本信号が先行して東南アジアなどで受注し、大同信号は小さい。
鉄道会社の運賃改定が2025年以降に相次いでおり、投資余力は少し改善している。ただし人口減は止まらず、10年の国内需要は横ばいと筆者は見る。人手不足で工事の費用が上がる点は、全社の利益を押し下げる。
競争の形は、規制に守られた内需の分散構造だ。成長は小さいが、需要が急に消える心配も小さい。入札の結果と製品の更新時期が、各社の売上を決める。大同信号は西日本より東日本に強く、JR東日本の方針に業績が連動しやすい。技術面では、無線化とAIによる運行管理が次の10年の分かれ目になる。
資本政策と M&A
還元は積極的になった。2026年3月期の配当は前期の2倍超で、配当性向の目安は3割以上だ。2024年度は自社株買いに8億円を使い、総還元性向は68%に達した。
政策保有株の縮減は、数字で示された。連結の投資有価証券を純資産の2割未満に下げる目標を掲げ、2024年度にすでに売却益11億円を出した。投資有価証券は90億円あり、目標に従えば35億円ほどが売却の対象になる。
株主では、日本電設工業が約15%を持つ筆頭株主で、JR東日本グループとの結びつきが強い。買収の可能性は小さくないが、顧客と株主が重なるので、動きは読みにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
鉄道の信号は、止められない設備だ。2026年3月期の営業利益は9割増え、中計の目標を1年早く超えた。受注残は積み上がり、老朽化した信号設備の更新は避けられない。無線式列車制御がJR東日本から他社に広がれば、更新需要が一度に動く。
政策保有株の縮減は数字で示され、すでに売却益11億円を出した。自社株買いも8億円行い、総還元性向は68%に達した。配当も2倍超に引き上げた。
財務は堅く、金利の上昇に強い。顧客が鉄道会社という、潰れにくい発注者である点も安心材料だ。拠点の再編と固定費の削減が進めば、同じ売上でも利益は残りやすくなる。受注残の厚さが、数年の売上を支える。政策保有株の縮減は、資本効率の改善にも直結する。物価が上がる世界でも、保守・更新の値段を転嫁しやすい。安全の設備は削りにくく、需要が急に消える心配は小さい。JR東日本のように、保守費の削減を急ぐ顧客は、新しい製品を採用する強い動機を持つ。
慎重な見方
強気の見方は、山の利益を水準と取り違えている。足元の利益は山にいる。2027年3月期の経常利益は2割減る予想で、中計の目標を1年早く超えたのは、一時的な押し込みの面がある。営業利益率が8%台に上がったのは、過去12年で初めてに近い。
売上の約35%がJR東日本、1割強が東京メトロで、発注の条件は顧客が決める。導入の時期がずれるだけで、受注は大きく動く。無線式列車制御は大手の日本信号や日立との競争になり、大同信号が勝てる保証はない。
鉄道会社は人口減で収益が細り、設備投資の余力は限られる。人手不足で工事の費用も上がる。棚卸資産が総資産の4分の1あり、運転資金の負担も重い。売上の約半分を2社に頼る事業で、高い安定感を期待するのは危うい。保有株の売却益は一度きりで、本業の稼ぐ力を示すものではない。また、利益率が山にある以上、評価の前提を保守的に置くべきだ。顧客の2社への偏りも、交渉力の弱さに直結する。
どちらに重みを置いたか
足元の山と顧客の偏りを重く見て、確率は中立に厚く置いた。強気の見方では、保有株の縮減と還元の改善が説得力を持つが、本業の10年の成長を押し上げるものではない。弱気の見方では、利益率が山にある点が重い。両者を比べると、ほぼ釣り合っていると見る。確率の重みは、足元の山を割り引いて、やや悲観を4分の1強に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,665 円232 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 557 円78 億円)。 今の値に割り戻すと 1,196 円166 億円、今との差 +8.3%、 期待の年率 +7.2%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 3,539 円493 億円 | 862 円120 億円 | +298.7% | +14.8% | 264 円37 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,549 円355 億円 | 718 円100 億円 | +195.9% | +11.5% | 653 円91 億円 |
| 中立 | 37% | 1,917 円267 億円 | 611 円85 億円 | +128.9% | +8.6% | 935 円130 億円 |
| やや悲観 | 26% | 694 円97 億円 | 431 円60 億円 | +1.9% | +0.2% | 292 円41 億円 |
| 悲観 | 11% | 481 円67 億円 | 216 円30 億円 | −36.9% | −4.5% | 77 円11 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,665 円232 億円 | 557 円78 億円 | +101.2% | +7.2% | 2,222 円309 億円 |
今の株価時価総額 1,104 円154 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 6% 無線式列車制御が全国に広がり、海外も立ち上がる 利益 34 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 3,539 円493 億円
JR東日本が採用した無線式列車制御が、東京メトロや他の鉄道会社に広がる。信号設備の更新が重なり、国内の工事件数は10年で15%増える。値段は物価に加え、付加価値の高い製品の比率が上がり、1.4倍になる。
海外は小さく、受注が立ち上がる程度にとどまる。営業利益率は10%台前半に達し、会社が掲げる2031年3月期の営業利益24億円を大きく超える。
還元は配当に加えて自社株買いが続き、総還元性向は6割に近づく。政策保有株の縮減も進み、売却代金が株主に回る。ただし、この姿は導入の時期と受注の取り合いに大きく依存し、筆者は低い確率と見る。
- 鉄道信号関連:数量 920(信号保安設備の納入・工事件数(件・年、推定))× 価格 0.42(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 386 億円・営業利益 64 億円。920.0×0.42、営業利益率 16.5%
- 産業用機器関連:数量 169(出荷台数(台・年、推定))× 価格 0.13(1 台あたり売上(億円・名目))→ 売上 23 億円・営業利益 1 億円。169.0×0.134、営業利益率 5.0%
- 不動産関連:数量 10.0(賃貸面積(千㎡、推定))× 価格 0.54(1 千㎡あたり賃料(億円・名目))→ 売上 5 億円・営業利益 2 億円。10×0.536、営業利益率 40.0%
倍率:事業の純利益 33 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)18 億円。全体の PER 14.27 倍、時価総額 493 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:JR東日本の無線式列車制御の導入が他社に広がり、海外の受注も実を結ぶ必要がある。顧客が一社に偏る会社で、導入の時期が読みにくいため、確度は低い。
やや楽観 20% 更新需要が堅調で、利益率は緩やかに上がる 利益 26 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 2,549 円355 億円
国内の信号設備の更新が堅調で、工事件数は10年で7%増える。値段は物価並みか、少し上回る。営業利益率は9%台に上がり、中計の2031年3月期の目標に近づく。
産業用機器は小さく黒字を保ち、不動産の賃貸は物価並みに増える。本社の費用は拠点再編で物価ほど増えない。
還元は配当性向3割以上に自社株買いが加わる。財務は安全で、資本効率が資本コストに近づく姿だ。無線式列車制御の導入が、JR東日本以外にも少しずつ広がる。筆者は、これを現実に近い上振れと見る。足元の利益率が一時的な山でなく、水準として定着する姿でもある。受注残の厚みが、その裏づけになる。
- 鉄道信号関連:数量 856(信号保安設備の納入・工事件数(件・年、推定))× 価格 0.41(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 352 億円・営業利益 53 億円。856.0×0.411、営業利益率 15.0%
- 産業用機器関連:数量 143(出荷台数(台・年、推定))× 価格 0.13(1 台あたり売上(億円・名目))→ 売上 19 億円・営業利益 1 億円。143.0×0.134、営業利益率 3.0%
- 不動産関連:数量 10.0(賃貸面積(千㎡、推定))× 価格 0.54(1 千㎡あたり賃料(億円・名目))→ 売上 5 億円・営業利益 2 億円。10×0.536、営業利益率 40.0%
倍率:事業の純利益 25 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.8% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)18 億円。全体の PER 13.33 倍、時価総額 355 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注残は積み上がり、足元の利益率は中計を上回っている。更新と省力化の需要が続くなら、現実的な範囲に入る。足元の実績が、この筋書きを支える。
中立 37% 更新需要は横ばい、値段は物価並み、利益率は7%台 利益 19 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 1,917 円267 億円
国内の鉄道信号の工事件数は、10年でほぼ横ばいになる。老朽化した連動装置の更新と、無線式列車制御への移行が需要を支えるが、新線の建設は少なく、鉄道会社の投資余力は人口減で細る。値段は物価並みの1.34倍で、利益率は13%台に落ち着く。
本社の費用は、拠点再編で削る分を除いて、物価の分だけ増える。全社の営業利益率は7%台半ばで、中計の2031年3月期の8%を少し下回る。
設備の償却は小さい。今の設備は取得時の値段のままで、DXと拠点再編の新規投資の分だけ新しい値段で足される。還元は配当性向3割強に自社株買いが少し加わり、利益の4割強を配る。
- 鉄道信号関連:数量 800(信号保安設備の納入・工事件数(件・年、推定))× 価格 0.40(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 322 億円・営業利益 43 億円。800.0×0.402、営業利益率 13.5%
- 産業用機器関連:数量 130(出荷台数(台・年、推定))× 価格 0.13(1 台あたり売上(億円・名目))→ 売上 17 億円・営業利益 0 億円。130.0×0.134、営業利益率 1.0%
- 不動産関連:数量 10.0(賃貸面積(千㎡、推定))× 価格 0.54(1 千㎡あたり賃料(億円・名目))→ 売上 5 億円・営業利益 2 億円。10×0.536、営業利益率 40.0%
倍率:事業の純利益 19 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.3% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)18 億円。全体の PER 13.33 倍、時価総額 267 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の信号設備の需要は更新が中心で、数量は横ばい。値段は物価並みに通る。足元の利益率は中計を上回るが、将来の山と見て、過去の最高水準を超えない7%台に置いた。
やや悲観 26% 鉄道会社の投資が絞られ、導入も遅れる 利益 11 億円 · PER 6.4 倍 · 株価時価総額 694 円97 億円
鉄道各社が設備投資を絞り、信号の更新を先送りする。国内の工事件数は10年で1割減り、値段も競争で物価の分を取り切れない。営業利益率は5%に落ちる。
無線式列車制御の導入は思ったほど広がらず、開発投資が重い。産業用機器は赤字に転じる。
配当は性向の目安を保てず、自社株買いも止まる。政策保有株の売却代金は借入の返済や運転資金に回り、株主に戻る分は小さい。受注残が減り始めてから利益が落ちるまでには、1〜2年の時間差がある。足元の好調は、その時間差の中で見えにくくなる。人手不足による工事費の上昇も、利益率の重荷になる。
- 鉄道信号関連:数量 720(信号保安設備の納入・工事件数(件・年、推定))× 価格 0.38(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 277 億円・営業利益 32 億円。720.0×0.384、営業利益率 11.5%
- 産業用機器関連:数量 104(出荷台数(台・年、推定))× 価格 0.12(1 台あたり売上(億円・名目))→ 売上 13 億円・営業利益 0 億円。104.0×0.12、営業利益率 -3.0%
- 不動産関連:数量 10.0(賃貸面積(千㎡、推定))× 価格 0.52(1 千㎡あたり賃料(億円・名目))→ 売上 5 億円・営業利益 2 億円。10×0.52、営業利益率 40.0%
倍率:事業の ROE は3%で k 7.5% を下回る。RONIC=7.75%+1/2×(3.0%−7.75%)=5.4%、g 4% から正当化 PER=(1−4%÷5.4%)÷(7.75%−4%)=6.8 倍。稼ぐ力が資本コストに届かない分を見て6.4倍に置いた。売る予定の保有株は谷で食うとみて今の額の0.75倍を、戻り方0.75で足している。
確率:鉄道会社の収益は人口減で細り、設備投資の余力は限られる。顧客の3分の1強がJR東日本で、導入の時期がずれるだけで受注は大きく動く。
悲観 11% 鉄道会社の発注が構造的に縮み、受注を失う 利益 −2 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 481 円67 億円
鉄道会社の設備投資が構造的に縮み、国内の工事件数は10年で4分の1減る。無線式列車制御の導入で大手に受注を奪われ、値段は物価ほど上がらない。営業利益率は赤字に落ち、拠点の再編と減損も出る。
配当は最低限に抑え、自社株買いは止まる。保有株は売却を急ぎ、売却益は損失の穴埋めに消える。
この姿では、稼ぐ力ではなく手持ちの資産が価値を決める。保有株を売り、借入を返したあとの残りが、株主の取り分になる。JR東日本や東京メトロが発注先を絞れば、売上の半分が揺らぐ。仕掛かりの棚卸資産は、契約の解除で価値を失う。
- 鉄道信号関連:数量 600(信号保安設備の納入・工事件数(件・年、推定))× 価格 0.35(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 207 億円・営業利益 15 億円。600.0×0.345、営業利益率 7.0%
- 産業用機器関連:数量 78.0(出荷台数(台・年、推定))× 価格 0.11(1 台あたり売上(億円・名目))→ 売上 9 億円・営業利益 −1 億円。78.0×0.11、営業利益率 -8.0%
- 不動産関連:数量 10.0(賃貸面積(千㎡、推定))× 価格 0.48(1 千㎡あたり賃料(億円・名目))→ 売上 5 億円・営業利益 2 億円。10×0.48、営業利益率 35.0%
倍率:稼ぐ力は赤字で、価値は売れる資産の税後で決まる。投資有価証券90億円の税後72億円に谷で食う分0.75を掛けて54億円、純有利子負債20億円を引き、土地の帳簿65億円の半分33億円を足した約67億円を床にし、今の自己資本278億円に0.241倍を掛けた。棚卸資産118億円は工事の仕掛かりで売れないので数えない。
確率:鉄道会社の収益が人口減で長く細り、無線式列車制御で大手に受注を奪われる姿。確度は低いが、顧客の1社が3分の1強を占める弱さがある。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
鉄道信号関連
駅の連動装置、踏切の保安装置、運行管理、無線式列車制御など、鉄道の安全を守る信号設備の設計・製造・工事・保守。
| 数量信号保安設備の納入・工事件数(件・年、推定) | 価格1 件あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 800 | 0.30 | 240 | 37 |
| 10 年後 中立 | 800 | 0.40 | 322 | 43 |
取り方:鉄道信号関連の売上は2026年3月期に約240億円(売上の93%)、セグメント利益は37億円(edinetdb)。件数は開示されていない。国内の鉄道信号・交通信号設備の市場を約3,000億円(同じ領域の京三製作所の置き方)とみて、会社の売上240億円は国内で約8%のシェア。納入・工事の1件を平均3,000万円とみて、年約800件と推定した。セグメント利益は全社費用を配分する前の値。
産業用機器関連
産業用の電子機器。鉄道信号の技術を転用した小さな事業。
| 数量出荷台数(台・年、推定) | 価格1 台あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 130 | 0.10 | 13 | 0 |
| 10 年後 中立 | 130 | 0.13 | 17 | 0 |
取り方:売上は約13億円、利益はほぼゼロ(edinetdb)。1台1,000万円とみて年約130台と推定した。開示は金額のみ。
不動産関連
保有地・建物の賃貸。小さいが利益率が高い。
| 数量賃貸面積(千㎡、推定) | 価格1 千㎡あたり賃料(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.0 | 0.40 | 4 | 2 |
| 10 年後 中立 | 10.0 | 0.54 | 5 | 2 |
取り方:売上は約4億円、営業利益1.6億円(利益率40%)。面積は賃料を年4万円/㎡とみた推定。開示は金額のみ。
リスクと懸念
JR東日本への偏り
売上の約35%がJR東日本で、東京メトロを合わせると半分近い。発注の時期が数年ずれるだけで受注が大きく動き、値段も顧客に決められやすい。
足元の利益が山
2027年3月期は経常利益が2割減る予想だ。営業利益率8%台は過去の最高水準で、10年先まで続くとは考えにくい。
無線式列車制御での競争
日本信号、日立、東芝などの大手との競争が続く。導入の主導権を取られれば、従来の連動装置の保守収入も減る。
鉄道会社の投資余力
人口減で鉄道会社の収益は細る。運賃改定で一息ついているが、信号の更新を先送りされれば、受注は落ちる。
人手不足と工事費
信号工事は人手に頼る。技能者の賃金は物価を上回って上がり、全社の費用を押し上げる。
運転資金の重さ
棚卸資産が118億円あり、総資産の4分の1を占める。工事の遅れや契約の変更が、利益と現金を同時に削る。
今後の分かれ目
- JR東日本以外の大手鉄道会社が、無線式列車制御の本格導入を発表したら
- 更新需要が一度に動く。数量を上げ、楽観とやや楽観の確率を上げてよい。
- 受注残が2期続けて前年を下回ったら
- 利益の山が過ぎている。やや悲観の確率を上げ、中立の利益率を下げる。
- 政策保有株の縮減が目標を前倒しで達成し、売却代金の使い道が示されたら
- 余った現金の戻り方を1.0へ引き上げる根拠になる。
- JR東日本が外部のメーカーに発注先を広げたと報じられたら
- 顧客の偏りが重い問題になる。悲観の確率を上げる。
- 日本電設工業が持株比率を高め、取引関係を強めると発表したら
- 買収や持分の引き上げの可能性がある。確率を見直す。
見ておくもの
- 受注高と受注残(鉄道信号)
- JR東日本・東京メトロ向け売上比率
- 無線式列車制御の導入先の広がり
- 政策保有株の縮減の進み具合
- 営業利益率と運転資金の動き
倍率と資本コストの決め方
倍率は、k 7.5%と長期の成長率4%から、利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)で決めた。事業のROEは5%台で k を下回るため、中立のPERは式の値の約94%に置いた。今の株価や過去のPER・PBRは使っていない。同じ領域の京三製作所・日本信号とは、k、PER、営業利益率の位置を比べ、会社ごとの違い(顧客の偏り、利益率の山)で説明できる範囲に収めた。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得時の値段のまま(年4億円台と推定)、DXと拠点再編の新規投資の分だけ新しい値段で足した。純利益÷営業利益は過去の中央値0.72に近い。10年後の数字は、家賃を営業費用に入れた今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13→14.27 倍・やや楽観 PER 11.2→13.33 倍・中立 PER 9.7→13.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。