結論
テラプローブは、半導体の出来を調べる検査を請け負う会社だ。ウエハーの段階とパッケージにした後の二度の検査を、チップの設計会社から引き受ける。台湾の力成科技(PTI)が6割を持つ親子上場で、売上の4分の3は台湾の子会社が稼ぐ。
筆者の結論は、10年で見ると今の値段は割高ということだ。決め手は2つある。稼ぎが検査装置を買い続けられるかどうかにかかっていること、そして利益の取り分が少数株主と減価償却で薄まることだ。
今は追い風が強い。2026年12月期の売上は前期より4割増え、営業利益率は2割から3割近くへ上がる。サーバー向けプロセッサー、車載用のロジック、民生向けが同時に伸びている。上半期だけで設備に222億円を投じ、借金は急に増えた。
ただ、検査は装置を並べて稼働率で稼ぐ装置産業だ。値段は顧客と競合が決め、顧客3社で売上の5割強を占める。装置は数年で古くなる。AIの需要が続いても、利益の伸びは売上ほどには残らない。
本質価値は今の時価総額を3割ほど下回る。強気の筋書きなら、10年先の時価総額は今の3倍ほどになる。ただ、その確率は1割にすぎない。割安になるには、AI向けの需要が10年続いたうえで、新しい顧客を取り続ける必要がある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社を長く持ちたいかと聞かれれば、慎重になる。理由は3つだ。
1つ目は、稼ぐ力の持続性だ。営業利益率が2割前後になったのは2022年以降で、検査料金を自分で決める力は弱い。2割を超える利益率が10年続くと約束してくれる堀は見当たらない。
2つ目は、オーナーの利益の薄さだ。装置を買い続けないと稼げない。2026年は上半期だけで、設備投資が営業利益の3倍に達した。減価償却費が重く、台湾の少数株主にも利益が流れるので、株主に残るお金は営業利益の4割程度だ。
3つ目は、親会社の支配だ。台湾のPTIが6割を握る。少数株主の取り分は親会社の判断次第で変わる。
逆に、良い点もある。AI向けの検査需要は、一過性ではなく数年続く流れだ。上半期の営業利益率は26%と高い。ただ、今の値段はそれが長く続くことを織り込みすぎている。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、チップを1つずつ動かして良品かどうかを選り分ける検査だ。ウエハー検査は、切り出す前の円盤の上でチップの端子に針を当てて確かめる。ファイナルテストは、パッケージに入れた後に温度や速度を変えて確かめる。両方をまとめて請け負う一貫受託もある。
拠点は横浜の本社と熊本の工場、それに台湾の新竹県にある子会社のTPWだ。売上の約4分の3は台湾のTPWが占め、日本は残りの4分の1になる。ロジック向けが9割強で、メモリは1割に満たない。
顧客はルネサスエレクトロニクスが約24%、アマゾンの半導体部門であるAnnapurna Labsが約18%、ソシオネクストが約13%。3社で55%ほどを占める。ルネサス向けは車載・EV用のロジック、Annapurna Labs向けはデータセンター向けのプロセッサーとみられる。
設立は2005年で、エルピーダ、アドバンテスト、キングストン、PTIの4社が出資した。もとはエルピーダのDRAM検査を引き受ける会社だったが、いまはロジックの会社になった。2017年にPTIの公開買い付けで子会社になっている。
優良さと弱いところ
優良な事業とまでは言い切れない。筆者が堀と呼べると見るのは、顧客の検査プログラムを作り込んで量産に乗せるまでの手間と、台湾と熊本で人を揃えられる運営力くらいだ。
一方で弱みは明らかだ。検査は競合が多い。台湾の京元電子(KYEC)、日月光(ASE)、米アムコア、シグルドなどがあり、親会社のPTIも同じ領域で戦う。顧客は自社で検査する道も持つ。値段を自分で決める力は弱い。
資本効率はまだ低い。過去10年のROEの中央値は6%台で、2019年と2015年は赤字だった。2025年の営業利益率は21%まで上がったが、これが10年続くかどうかは別の話だ。
経営の質は見えにくい。取締役のうち3人はPTIの役員か従業員で、利益の優先順位は親会社の事情に影響される。ただ配当は2023年から3年続けて同額を出しており、利益の3割弱を返す姿勢は安定している。
筆者が最も気にするのは、売上が増えても減価償却費で利益が削られ、さらに台湾子会社の少数株主に利益が流れる点だ。2025年の純利益は営業利益の4割に満たない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
検査の外部委託市場は、2025年で100億〜140億ドルとされる。上位5社で4割強を占め、台湾のASE、京元電子、中国のJCETが主役だ。ファイナルテストだけなら54億ドルほどになる。
追い風は2つある。1つは、AIや高性能計算(HPC)向けチップの検査が長く、難しくなっていること。検査に使う時間が増えれば、装置と運用の需要も増える。もう1つは、車載ロジックの検査が増えることだ。
向かい風もはっきりしている。検査装置の価格は下がりやすく、競合が増設すれば値下がりが早い。TSMCやサムスンなど大手は検査を内製もする。AI向けの設備投資が止まれば、検査の稼働率は一気に下がる。
この会社の特徴は、日本ではなく台湾で稼ぐ点だ。台湾の人件費は上がり、台湾海峡の緊張は常に影を落とす。しかも、半導体の循環は大きい。2012年3月期や2019年12月期には赤字になった。
物価は3%で続くので、検査料金は名目で上がる。ただ、検査料金は装置の進歩でインフレ率ほどには上がらないとみる。10年で1.34倍という物価並みの値上がりが、そのまま通るとは限らない。
資本政策と M&A
資本政策は親会社の意向に左右される。PTIは議決権の60.7%を握り、2017年の公開買い付けで子会社にした。少数株主にとっては、PTIが残りも買い取る可能性と、利益がPTIの都合で配分される不安が同居する。
還元は利益の3割ほどだ。2023年から3年、配当は同額を出した。2026年は設備投資が膨らみ、配当予想は出ていない。上半期のフリーキャッシュフローは約220億円のマイナスだった。
借金は急増している。2025年末の純有利子負債は169億円だったが、純負債÷自己資本は0.4倍から0.7倍へ上がった。自己資本比率は約37%に下がる。増資より借入と内部資金で賄う姿勢だ。
M&Aの動きは小さい。外部の買い手が出る可能性は、PTIが6割を持つ以上ほぼない。PTIによる完全子会社化は、時価総額が上がり過ぎれば難しくなる。
点検済み:中立の営業利益率22.9%は、会社の26・27年12月期予想(26.4〜27.6%)より低く、ロジックも今(22.6%)に近い24%。数字は据え置く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI向けの検査は、これからが本番だ。サーバー用プロセッサーは1個あたりの検査時間が長く、難度も上がる。Annapurna Labsのようなクラウド大手の自前チップは台数が増え続け、そのたびに検査の外注先が足りなくなる。テラプローブは、すでに装置を増設し、台湾と熊本で人を揃えている。先行投資が実を結ぶ局面だ。
顧客の質も変わりつつある。ルネサスの車載・EV向けロジックは、ソフトウェアで定義される車の普及で検査の量が増える。顧客3社の需要が同時に伸びる構図は、過去の赤字期にはなかった。
利益率は2割から3割近くに上がった。台湾の工場は稼働率が高く、同じ装置でより多くのチップを検査できる。この水準が続けば、10年後の売上は今の4倍を超え、営業利益は500億円台に届く。
親会社のPTIは先端パッケージの大手で、パッケージから検査までの一貫受注という強みがある。PTIの顧客基盤に乗れば、新規顧客の獲得も早い。検査の外注比率が上がる流れの恩恵を、最も受けるのはこの会社だ。
慎重な見方
まず利益の質を見るべきだ。2026年の営業利益は163億円の予想だが、親会社株主の純利益は60億円にとどまる。台湾子会社の少数株主への分配と、急増する減価償却がその差を作る。売上が増えても、株主に残る利益は思ったほど増えない。
次に、設備の重さがある。上半期の設備投資は222億円で、フリーキャッシュフローは大幅な赤字だ。借金は膨らみ、金利は上がっている。AIの設備投資が一巡して稼働率が落ちれば、減価償却費と利息だけが残る。2012年3月期と2019年12月期に赤字になった過去は、この構造が変わっていないことを示している。
顧客も偏っている。3社で55%を占め、1社が内製化や他社への切り替えに動けば、稼働率が大きく崩れる。台湾の京元電子、日月光、そして親会社のPTIも同じ市場で装置を増やしている。供給が増えれば、検査料金は下がる。
最後に、台湾への集中だ。売上の4分の3が台湾で上がる以上、台湾海峡の緊張や人件費の上昇は、事業そのものの弱点になる。10年という長さで見れば、優良な会社として評価され続けるとは限らない。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、需要の方向としては正しい。AI向け検査が数年伸びることには筆者も同意する。ただ、10年という長さで見ると、慎重な見方の方が強い。利益が少数株主と減価償却で薄まる構造、装置産業の循環、顧客の偏りは、需要が強くても消えない。
確率は、中立に3割強を置き、悲観側(やや悲観と悲観)に36%を置いた。強気側は32%にとどめた。需要の追い風は筋書きの数字(市場の拡大とシェアの上昇)にすでに入れているので、確率でさらに上げ下げはしない。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 3,362 円1,529 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 591 円269 億円)。 今の値に割り戻すと 1,959 円891 億円、今との差 +8.4%、 期待の年率 +8.1%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 8,473 円3,854 億円 | 967 円440 億円 | +422.4% | +18.0% | 944 円429 億円 |
| やや楽観 | 22% | 5,419 円2,465 億円 | 772 円351 億円 | +242.6% | +13.1% | 1,362 円619 億円 |
| 中立 | 32% | 3,421 円1,556 億円 | 624 円284 億円 | +123.9% | +8.4% | 1,295 円589 億円 |
| やや悲観 | 22% | 897 円408 億円 | 488 円222 億円 | −23.4% | −2.6% | 305 円139 億円 |
| 悲観 | 14% | 220 円100 億円 | 121 円55 億円 | −81.1% | −15.4% | 48 円22 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,362 円1,529 億円 | 591 円269 億円 | +118.8% | +8.1% | 3,953 円1,798 億円 |
今の株価時価総額 1,807 円822 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 強気:AI向けの検査が10年続き、装置の増設が稼ぎに変わる 利益 222 億円 · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 8,473 円3,854 億円
AIや高性能計算(HPC)向けチップの検査が長く難しくなる流れは10年先まで続き、外部委託の市場は今の2倍に育つ。サーバー用プロセッサーでAnnapurna Labsのようなクラウド大手の自前チップが増え、テラプローブは新しい顧客も取り込んでシェアを4割以上引き上げる。
ルネサスの車載・EV用ロジックも伸び、稼働率は高く保たれる。営業利益率は28%と、今より高い水準を保つ。
PTIとの連携も深まり、パッケージから検査までの一貫受注が増える。親会社は、この事業を手放さず育て続ける。検査料金も、先端チップの難度上昇で物価を少し上回る形で通る。それでも利益の一部は少数株主に流れる。
- ロジック向けのテスト受託:数量 190(外部委託テスト市場のうちロジック向け(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 9.65(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 1,833 億円・営業利益 513 億円。外部委託テスト市場(ロジック向け)190 億ドル × シェア 4.8%、営業利益率 28%
- メモリ向けのテスト受託:数量 36.0(外部委託テスト市場のうちメモリ向け(億ドル・実質))× 価格 2.01(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 72 億円・営業利益 9 億円。メモリ向け 36 億ドル × シェア 1.0%、営業利益率 12%
倍率:事業の純利益 222 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.4 倍。全体の PER 17.36 倍、時価総額 3,854 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIと車載の需要が重なる最良の場合。10年続く確率は低く、ここまで来る筋書きに1割を置いた。
やや楽観 22% やや強気:需要は強いが、競争で利益率は少し下がる 利益 153 億円 · PER 16.1 倍 · 株価時価総額 5,419 円2,465 億円
外部委託の市場は今の1.8倍に育ち、シェアも上がる。ただ、台湾の京元電子や日月光も増設し、検査料金の上昇は物価に届かない年が出る。顧客は複数の外注先を競わせ、値下げ交渉も強まる。
営業利益率は26%で、今の水準より少し低いまま落ち着く。顧客3社の比率は下がるが、1社が抜けるほどではない。AI向けの稼ぎは続くが、ルネサス向けの車載は景気で振れる。
この筋書きでは、会社は設備投資を続けつつ、利益の3割強を還元できる。台湾子会社の少数株主への配分は今のままで、親会社株主の純利益は営業利益の4割強にとどまる。10年先も、需要の強さが利益の質を上回るほどの局面にはならない。
- ロジック向けのテスト受託:数量 165(外部委託テスト市場のうちロジック向け(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 8.64(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 1,426 億円・営業利益 371 億円。外部委託テスト市場(ロジック向け)165 億ドル × シェア 4.3%、営業利益率 26%
- メモリ向けのテスト受託:数量 33.0(外部委託テスト市場のうちメモリ向け(億ドル・実質))× 価格 1.81(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 60 億円・営業利益 5 億円。メモリ向け 33 億ドル × シェア 0.9%、営業利益率 8%
倍率:事業の純利益 153 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.5% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.1 倍。全体の PER 16.11 倍、時価総額 2,465 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要の追い風は強いが、競争と装置の重さが利益率を抑える。強気側の2番目に2割強を置いた。
中立 32% 中立:需要は伸びるが、競争と装置の重さで利益の伸びは限られる 利益 106 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 3,421 円1,556 億円
外部委託の市場は10年で1.6倍ほどに育ち、シェアは4%近くで落ち着く。今のAI向けの勢いは、数年でならされる。
営業利益率は24%。今の水準より少し下がる。台湾の京元電子と日月光、そして親会社のPTIも増設し、検査料金は物価に届かない伸びになる。
減価償却と利息が利益を削り、親会社株主の純利益は営業利益の4割にとどまる。還元は純利益の35%ほどで、残りは装置の更新に回る。顧客3社への依存は続くが、極端には崩れない。熊本と台湾で人を確保できるかが、増設のペースを決める。AIの需要は10年のうち前半に強く、後半は車載や民生向けの安定した検査が稼ぎを支える。
- ロジック向けのテスト受託:数量 140(外部委託テスト市場のうちロジック向け(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 7.84(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 1,097 億円・営業利益 263 億円。外部委託テスト市場(ロジック向け)140 億ドル × シェア 3.9%、営業利益率 24%
- メモリ向けのテスト受託:数量 31.0(外部委託テスト市場のうちメモリ向け(億ドル・実質))× 価格 1.81(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 56 億円・営業利益 4 億円。メモリ向け 31 億ドル × シェア 0.9%、営業利益率 8%
倍率:事業の純利益 106 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.7 倍。全体の PER 14.68 倍、時価総額 1,556 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気と慎重の両方の言い分を取り込んだ着地点。最も起こりやすい筋書きに3割強を置いた。
やや悲観 22% やや慎重:顧客の内製化とシェア低下で、利益率が下がる 利益 51 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 897 円408 億円
AI向けの需要は伸びるが、テラプローブのシェアは3%台前半へ下がる。クラウド大手が検査の一部を内製や他社へ移し、ルネサス向けの車載は景気で振れる。
検査料金は下がり、台湾の人件費は上がる。装置が古くなって更新投資の負担は重く、営業利益率は17%まで下がる。熊本の採用難で人件費も上がり、増設の足も重くなる。
純利益は営業利益の4割弱で、ROEは資本コストを下回る。還元は維持するが、増配はできない。もう優良な会社とは言えず、台湾のPTIの意向に沿って動く一つの工場として、景気に左右される検査の請負会社として評価される。顧客の取引条件は厳しくなり、値上げを通す余地はほとんど残らない。
- ロジック向けのテスト受託:数量 125(外部委託テスト市場のうちロジック向け(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 6.63(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 829 億円・営業利益 141 億円。外部委託テスト市場(ロジック向け)125 億ドル × シェア 3.3%、営業利益率 17%
- メモリ向けのテスト受託:数量 28.0(外部委託テスト市場のうちメモリ向け(億ドル・実質))× 価格 1.61(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 45 億円・営業利益 0 億円。メモリ向け 28 億ドル × シェア 0.8%、営業利益率 0%
倍率:ROEが資本コストを下回るので、PERの上限は1÷k=約10.8倍。稼ぐ力が弱く、増えた利益の価値も小さいので8倍とした。
確率:顧客の偏りと競合の増設、装置の更新負担が重なる。構造的な負けの入口に2割強を置いた。
悲観 14% 悲観:主要顧客を失い、装置だけが重く残る 利益 6 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 220 円100 億円
顧客3社のうち1〜2社が内製化や台湾の大手への移管に動き、シェアは2%まで落ちる。同時にAI向けの設備投資が巻き戻り、検査市場は今ほど伸びない。
増設した熊本と台湾の装置は稼働率が上がらず、減価償却と利息だけが残る。営業利益率は5%に下がり、純利益はほぼ消える。2012年3月期や2019年12月期の赤字が再び現れる。
台湾海峡の緊張が強まれば、売上の4分の3を占める台湾の工場の価値は一段と傷む。配当は大きく減らさざるをえない。倍率も、成長株から景気に左右される請負業のものになる。純利益が消えるので、価値は稼ぐ力ではなく、中古の装置と建物をどれだけ売れるかで決まる。
- ロジック向けのテスト受託:数量 100(外部委託テスト市場のうちロジック向け(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 4.02(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 402 億円・営業利益 20 億円。外部委託テスト市場(ロジック向け)100 億ドル × シェア 2.0%、営業利益率 5%
- メモリ向けのテスト受託:数量 24.0(外部委託テスト市場のうちメモリ向け(億ドル・実質))× 価格 120.6%(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 29 億円・営業利益 −1 億円。メモリ向け 24 億ドル × シェア 0.6%、営業利益率 -5%
倍率:純利益は6億円でほぼ消え、稼ぐ力(純利益÷k)は65億円ほどにしかならない。売れる資産の床は100億円とみて、これを時価総額とし、今の自己資本405億円に対する倍率に直すと約0.25倍になる。
確率:構造的に負ける筋書き。親会社への依存、顧客の偏り、台湾への集中が重なる。事業の弱さを考え、1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ロジック向けのテスト受託
サーバー・AI向けプロセッサー、車載・EV用マイコン、民生向けSoCのウエハー検査とファイナルテストを請け負う。売上の9割強。
| 数量外部委託テスト市場のうちロジック向け(億ドル・今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 90.0 | 4.22 | 380 | 86 |
| 10 年後 中立 | 140 | 7.84 | 1,097 | 263 |
取り方:外部委託の半導体テスト市場は2025年で100億〜140億ドル(調査会社の推計に幅がある)。そのうちロジック向けを90億ドル、メモリ向けを30億ドルと推定した。2025年の同社売上418億円のうち、2026年1Qのメモリ比率8%を目安にメモリを約38億円、残りの380億円をロジックとした。シェアは380億円÷150円÷90億ドルで約2.8%。市場は実質で置き、物価の分は価格(シェア×150円×物価の倍率)に入れた。営業利益は全社の89億円を、メモリの薄利と本社費を除いた形で割り振った。
メモリ向けのテスト受託
DRAM・NAND向けのウエハー検査が中心。創業時のエルピーダ向けの名残で、売上の1割に満たない。
| 数量外部委託テスト市場のうちメモリ向け(億ドル・実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 30.0 | 125.0% | 38 | 4 |
| 10 年後 中立 | 31.0 | 1.81 | 56 | 4 |
取り方:2026年1Qのメモリ比率8%(987百万円÷12,722百万円)から、2025年のメモリ売上を約38億円と推定。メモリは大手が内製する比率が高く外部委託市場は小さいとみて、30億ドルと置いた。シェアは約0.8%。営業利益は薄利(1割弱)とした。
リスクと懸念
顧客3社への偏り
ルネサス、Annapurna Labs、ソシオネクストの3社で売上の55%ほどを占める。1社が検査を内製化したり他社へ移したりすれば、装置の稼働率が一気に落ち、減価償却費だけが残る。
設備の重さと借金の増加
2026年の上半期だけで設備に222億円を投じ、フリーキャッシュフローは約220億円の赤字だった。純負債÷自己資本は0.4倍から0.7倍へ上がった。需要が鈍れば、利息と償却が利益を食う。
台湾への集中
売上の約4分の3は台湾のTPWが稼ぐ。台湾海峡の緊張、人件費の上昇、地震などの災害は、事業の中心を直撃する。熊本でも人の採用が難しくなっている。
親会社の支配と少数株主への配分
PTIが議決権の60.7%を持つ。取締役にもPTIの関係者が3人いる。台湾子会社の少数株主に利益が流れ、親会社株主の純利益は営業利益の4割に満たない。
競合の増設と検査料金の低下
台湾の京元電子、日月光、アムコア、シグルドなどが増設を続ける。親会社のPTIも同じ領域にいる。供給が増えれば、検査料金は物価並みに上がらず、利益率を押し下げる。
装置の陳腐化と技術の変化
検査装置は数年で古くなる。チップの構造が変われば、既存の装置を入れ替える必要があり、更新投資が利益を圧迫する。AI向けは検査の難度が上がり、先行投資の負担も重い。
今後の分かれ目
- AI向けの検査需要が2027年も続き、営業利益率が2割台後半を保つ
- 強気側の筋書きの確率を上げてよい。ただし償却と少数株主分で株主に残る利益の割合は変わらないか確認する。
- 顧客3社のうち1社の比率が目に見えて下がる
- 慎重側の筋書きに重みを移す。稼働率の低下は装置産業で利益に直撃する。
- 設備投資が続き、純負債÷自己資本が1倍を超える
- 借金の負担が重くなる。配当が減る可能性を見込み、中立の倍率を引き下げる。
- PTIが少数株主の持ち株を買い取る動きを出す
- その価格が本質価値より低いなら、少数株主には不利だ。価格を計算で確かめる。
- 台湾海峡の緊張が高まり、顧客が台湾以外の検査先を探し始める
- 台湾に偏った収益が傷むので、悲観側の筋書きの確率を上げる。
- 競合の増設が続き、検査料金が下がり始める
- 利益率が下がる。営業利益率が2割を割れば、中立の筋書きの前提が崩れる。
見ておくもの
- 四半期の営業利益率と稼働率(2割台後半が続くか)
- 顧客別の売上比率(ルネサス・Annapurna Labs・ソシオネクスト)
- 純負債÷自己資本と設備投資の額
- PTIの持ち株比率の変化と、株主還元の方針
倍率と資本コストの決め方
倍率は、10年後の事業の稼ぎ方(市場×シェア×価格、利益率、少数株主への配分、自己資本の流れ)から式で出した。今の株価・過去のPER・同業の倍率は使っていない。中立のPERは、成長4%・堀は普通・資本コスト8%・ROE約11%から出る上限(約11.7倍)の9割強に置いた。1÷k(約10.8倍)を下回らせない決まりが効いている。今の時価総額と比べたのは最後だけ。2028年3月期以降の新リース会計は、今は家賃でなく装置の購入が中心なので、数字の形はほぼ変わらない。10年後の数字は今と同じ形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.4→17.36 倍・やや楽観 PER 11.5→16.11 倍・中立 PER 10.9→14.68 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。