結論
マブチモーターは、自動車のドアミラーやドアロックを動かす小さな直流モーターで世界首位の会社だ。売上の約8割が自動車向けで、残りは理美容・工具・医療などの機器に使うモーターである。筆者の結論は「やや割高」。事業の質は高いが、利益が物価並みにしか伸びない会社に、今の値段は少し先を走りすぎている。
強みは二つある。一つはミラー用で世界シェア8割を超える規模の堀、もう一つは自己資本比率90%、純現金が時価総額の3割という財布だ。つぶれる心配はほとんど無い。
弱みは稼ぎの伸びにある。営業利益率は12〜13%で、過去10年の売上は年3%台の伸びにとどまる。数量は自動車の生産台数に縛られ、値段は物価に合わせて上げるのがやっとだ。中立の筋書きでも、10年後の営業利益は今の1.6倍、年5%弱の伸びである。
目を引くのは資本政策だ。配当の下限を純資産の4%に置き、自社株買いも積む。2026年の総還元は純利益の1.5倍に達する。余った現金を株主に返す姿勢は歓迎できる。ただ、返すだけでは利益は増えない。
経営計画2030は売上3,000億円、営業利益率15%を掲げる。中立では5年遅れで届く姿だ。届けば強気の筋書きに近づく。届かなければ、今の倍率は重い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、マブチは「安心して持てるが、安く買えるとは限らない会社」だ。事業は10年後も存在する。ミラー用モーターは、需要が急に消えない地味な必需品である。堀は規模と実績で、広がってはいないが、簡単には狭まらない。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、事業の稼ぎに近い。設備投資が減価償却と同じ水準(2026年は125億円と138億円)で、成長のための再投資が重くないからだ。その代わり、事業が伸びる余地も小さい。稼ぎは物価と自動車の生産台数に連動して、緩やかに増える性格だ。
資本の使い方は評価できる。借金は無く、現金を溜め込む姿勢を改め、自社株買いと配当で返し始めた。ただし、自社株買いは買う値段で価値が決まる。今の値段は事業の中立の価値に近く、割安とは言えない。高い値段で買えば、それは価値を壊す。
安全域の面では、悲観の筋書きでも現金が下値を支える。リーマン級の谷でも時価総額は今の半分前後にとどまり、そこから大きくは崩れにくい。けれども楽観の筋書きでも、今の値段を大きく超えるのは強気の確率が低いと見る。上値は限られ、下値は堅い。守りの会社だが、値段が高いと妙味は薄い。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は単純だ。クルマ1台に数個から数十個入る小さなモーターを、自動車メーカーと部品メーカーに大量に売る。モーターは基本的に標準品で、用途ごとに最適化した型を量産して安く出す。これがマブチの昔からのやり方である。年間の生産は約13億個に達する。
最大の柱は自動車電装用で、2025年12月期の売上は1,545億円、全体の77%を占める。ドアミラーの角度調整と格納、ドアロック、エアコンの風向きを変えるダンパー、パーキングブレーキなどに使われる。ミラー用は世界シェア8割を超える。最近はグリルシャッター(走行風の量を調整する雨戸)や給油口の開閉といった新しい用途も伸びている。パワーウインドウ用は旧世代の製品が終わって減ったが、競合の事業縮小が追い風になっている。
もう一つの柱がライフ・インダストリー用で、売上は458億円、全体の23%である。理美容機器、電動工具、家電、医療・健康機器などに入る。ここは単純なモーターから、減速ギアや制御を組み合わせたユニットへと中身を変えつつある。
その変化を進めるのがM&Aだ。ポンプユニットのマブチオーケン(2023年)、精密樹脂ギアのオービー工業(2025年)、産業用ネットワークと制御に強い日本パルスモーター(買収額66億円、2026年1月)を相次いで取り込んだ。モビリティ、マシーナリー、メディカルの「3つのM」領域が、会社が描く次の稼ぎ頭である。
売上の約9割は海外で、工場は中国、ベトナム、メキシコ、ポーランドなどに散らばる。人件費と為替の影響を強く受ける事業でもある。
優良さと弱いところ
マブチの優良さは、規模と標準化が生む低コストと、自動車メーカーとの長い取引にある。ミラー用で8割超、自動車電装用の小型モーター全体でも世界1位という位置は、一朝一夕には崩せない。品質事故が許されない車載部品では、実績のある供給元が選ばれ続けやすい。
資本の厚みは際立っている。自己資本比率は90%、純現金は1,386億円と時価総額の3割に当たる。景気が崩れても、赤字で資金が詰まる姿は想像しにくい。リーマン級の谷でも配当を払える会社だ。
一方、弱さもはっきりしている。第一に、稼ぐ力が資本の厚みに見合っていない。ROEは直近で8%、過去10年では4〜9%にとどまる。為替差益などの営業外の利益が純利益を押し上げる年もあり、現金を除いた本業だけで測ればROEは10%前後だ。第二に、ブラシ付き直流モーターという成熟した技術に依存している。自動車用の小型モーターではブラシレスが売上の過半を占めるようになり、伸びも速い。第三に、価格の決定力は限られる。売価とミックスの改善で年30億円台の増益を積んできたが、利益率はこの10年、7〜17%の間を行き来した。2000年代初めの25%には遠い。
経営の自己評価も慎重だ。2025年の経営計画の達成度は100点満点の77点で、会社自身が「まだ途中」と認めている。堀は深いが、広がってはいない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
マブチの属する自動車用の小型モーター市場は、世界で約170億ドル、今後5年は年5%前後の伸びと見込まれる。ただし、伸びの中身が問題だ。成長を引っ張るのはブラシレスで、2025年には市場の売上の半分を超えた。ブラシ付きは、コストを重んじる車種や補機用途に残る形で、伸びは鈍い。
数量の面では、自動車の生産台数はほぼ頭打ちである。ただし1台あたりのモーターの数は増えている。電動ミラー、グリルシャッター、給油口など、動かすものが増えるからだ。会社は2026年の自動車生産を微減と見て、自社の販売数量もほぼ横ばいと計画している。
価格の面では、競争が厳しい。車載小型直流モーターの世界上位は、ジョンソン・エレクトリック、デンソー、ボッシュで、3社を合わせて約4割を占める。ブローゼ、ミツバ、ヴァレオ、ニデックも並ぶ。中国市場では価格競争が厳しく、マブチは採算を重んじて受注を選ぶ方針だ。
マブチの強みは、ミラー・ロックなど「小さくて数が多く、型が決まった部品」に絞ってきたことだ。そこは大手が手を出しにくい領域だ。反面、ブラシレス化・ユニット化が進めば、モーター単体の値段は下がり、制御や減速機まで含めた提案力が問われる。M&Aで産業・医療側の足場を広げているのは、この流れへの備えである。
資本政策と M&A
資本政策は、ここ数年で大きく株主寄りに変わった。配当の基準は、前期のROEが10%に満たない、またはPBRが1倍に届かない場合、純資産に対して4%を配るとした(DOE4%)。配当性向は50%を下限とする。そのうえで2026年は190億円の自社株買いを組み、総還元は純利益の1.5倍の見込みだ。厚い現金を持ち続けることの無駄に、会社自身が気づいたと読める。
M&Aは小粒を重ねる。買収額が公表されているのは日本パルスモーターの66億円だけで、時価総額の1.6%にすぎない。大型の買収で資本を壊すタイプではない。ポーランド工場の73億円の減損(2024年)のように、過去の拡張の後始末はあったが、改善活動で営業利益率を12.7%まで戻した。
政策保有株は、保有の妥当性を取締役会が検証し、合わないものは縮減する方針である。大株主は日本マスタートラスト信託銀行(信託口)の12%と、個人の馬渕隆一氏の約8%だ。取締役11名のうち6名が社外で、監査等委員会設置会社である。
筆者が注目するのは、余った現金の行き先だ。現金のうち事業に要らない分は1,100億円ほどと見る。これを返すのか、買収に使うのか。小粒の買収と自社株買いを続ける限り、資本の使い方は合格点である。
10年の還元は、自己資本配当率4%・配当性向50%以上の方針に自社株買いを足した形で、中立は純利益の合計の約100%に置いた。余った現金1,100億円は還元に入れず、10年後の時価総額に別に足している(二重に数えない)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
マブチは小型モーターで世界の頂点にいる。ミラー用は世界シェア8割超、自動車電装用の小型モーター全体でも世界1位で、車載の品質と数量をこなせる供給元は限られる。パワーウインドウ用では、競合の事業縮小が追い風になっている。
稼ぎ方も変わりつつある。売価とミックスの改善で年30億円台の増益を積み、ポーランドの再建で営業利益率は12.7%まで戻った。2026年は売上2,250億円、営業利益265億円に上方修正した。経営計画2030では売上3,000億円、利益率15%を掲げ、うち500億円はM&Aなどの新領域で取りに行く。オービー工業と日本パルスモーターで、ギアと制御を組み合わせたユニットに進むのは理にかなう。ヒューマノイドロボットのモーターにも参画し、将来の大きな需要を狙える。
財務は鉄壁で、純現金は時価総額の3割ある。DOE4%の配当に加えて自社株買いを積み、2026年の総還元は純利益の1.5倍だ。厚い現金を返すのだから、PBR1倍台前半は事業の質を考えれば決して高くない。利益率が15%に乗れば、利益は今の5割増しも見える。
余った現金を返しても、事業に必要な資金は十分に残る。景気の谷でも下値が堅いので、確率を考えれば守りの面でも魅力がある。
慎重な見方
マブチの利益は、ここ10年でほとんど増えていない。営業利益率は7%台から17%台を行き来し、2025年の純利益263億円は為替差益と運用益が膨らんだ数字で、本業の力とは言えない。会社の2026年予想でも営業利益の増益は4%にとどまり、これが実力に近い。
自動車の小型モーターは、ブラシレスへの移行が進む。ブラシ付きが得意なマブチにとって、単価の下落とシェア流出の両方のリスクがある。中国の現地サプライヤーの攻勢、ジョンソン・エレクトリックなど大手の価格対応も重い。2026年の販売数量計画は前年比0.1%減で、数量の成長は見込めない。値段は物価並みに上げられても、人件費と材料費も物価で上がるため、利益率は上がりにくい。
経営計画2030の営業利益率15%は、過去10年で一度も届いていない水準だ。販管費は2026年に18%も増える計画で、買収子会社の分が先に費用として出る。M&Aは小粒で、これで売上500億円を足すには、数多くの買収と統合が要る。
ROEは直近で8%で、資本コストに届いていない。現金の山を返しても、事業そのものが稼ぐ力は変わらない。今の値段は、利益率の15%到達と現金の返還の両方を先取りしており、買ってから報われる余地は小さい。
どちらに重みを置いたか
事業の堅さと財務の安全域は、強気の見方が正しい。ただ、利益の伸びは物価と数量の範囲に収まり、利益率15%への到達は証拠が乏しい。強気の主張のうち、確かなのは現金の返還と下値の堅さであり、利益の成長ではない。そのため確率は中立に4割近く置き、楽観と悲観は同程度にして、10年はブラシレス化と中国勢のリスクの分だけ悲観を厚くした。結果として、中立の価値は今の時価総額をやや下回る。今の値段に上乗せの余地は小さく、守りの会社として評価する。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 2,001 円4,742 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,152 円2,731 億円)。 今の値に割り戻すと 1,711 円4,055 億円、今との差 +0.0%、 期待の年率 +6.3%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 3,609 円8,553 億円 | 1,456 円3,450 億円 | +196.1% | +11.5% | 355 円840 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,880 円6,824 億円 | 1,308 円3,100 億円 | +144.8% | +9.4% | 838 円1,985 億円 |
| 中立 | 38% | 2,363 円5,599 億円 | 1,224 円2,900 億円 | +109.7% | +7.7% | 1,363 円3,230 億円 |
| やや悲観 | 25% | 945 円2,240 億円 | 992 円2,350 億円 | +13.2% | +1.3% | 484 円1,147 億円 |
| 悲観 | 10% | 383 円907 億円 | 760 円1,800 億円 | −33.2% | −4.0% | 114 円271 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,001 円4,742 億円 | 1,152 円2,731 億円 | +84.4% | +6.3% | 3,154 円7,473 億円 |
今の株価時価総額 1,711 円4,053 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% ユニットと産業・医療・ロボットが育ち、売上3,700億円に 利益 443 億円 · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 3,609 円8,553 億円
ギアと制御を組み合わせたユニット、産業機械・医療機器・ロボット向けのモーターが、10年を通じて新しい稼ぎ頭に育つ。自動車は、補機の増加で1台あたりの搭載数が増え、ブラシ付きとブラシレスの両方を持つマブチが、シェアを守りながら単価の高い製品へ移る。買収した会社の技術が統合され、ライフ・インダストリー用の売上は自動車に迫る規模となる。営業利益率は16%に乗り、経営計画2030の水準を5年遅れで超える。現金は還元で薄まるが、利益の伸びがそれを補う。10年後の売上は3,700億円、営業利益は600億円規模になる。マブチが「モーター屋」から「動かす部品の提案者」に変わる姿だ。
- 自動車電装用モーター:数量 8.3(年間の出荷個数(億個))× 価格 309(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 2,552 億円・営業利益 408 億円。8.26 億個 × 単価 3.09 百円(今の 1.40 倍)、営業利益率 16.0%
- ライフ・インダストリー用モーター:数量 10.8(年間の出荷個数(億個。買収子会社のユニットを含む換算))× 価格 107(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 1,154 億円・営業利益 196 億円。10.80 億個 × 単価 1.07 百円(今の 1.40 倍)、営業利益率 17.0%
倍率:事業の純利益 428 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)1,100 億円。全体の PER 17.43 倍、時価総額 8,553 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:経営計画の達成に加えて新領域が育つ必要があり、連続した上振れの確度は高くない。
やや楽観 20% 自動車は堅調、ライフ・インダストリー用がM&Aで拡大 利益 364 億円 · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 2,880 円6,824 億円
自動車電装用はシェアを守りつつ、新用途で数量を1割ほど増やし、単価は物価並みに上がる。ライフ・インダストリー用は、買収した会社の製品とマブチのモーターを組み合わせて、売上が約2倍に伸びる。営業利益率は15%近くまで上がり、経営計画2030の水準におおむね届く。ブラシレスへの移行は進むが、自社でも手がけるため、単価の下落は小さい。10年後の売上は3,300億円、営業利益は490億円ほどで、事業のROEは15%台になる。強気の見方がかなりの部分で実現した姿だ。配当と自社株買いも、利益の伸びに合わせて続く。買収で足した事業の統合費用は3年のうちに片づき、10年の後半は利益率の上積みに回る。
- 自動車電装用モーター:数量 7.8(年間の出荷個数(億個))× 価格 302(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 2,370 億円・営業利益 351 億円。7.84 億個 × 単価 3.02 百円(今の 1.37 倍)、営業利益率 14.8%
- ライフ・インダストリー用モーター:数量 9.0(年間の出荷個数(億個。買収子会社のユニットを含む換算))× 価格 105(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 941 億円・営業利益 141 億円。9.00 億個 × 単価 1.05 百円(今の 1.37 倍)、営業利益率 15.0%
倍率:事業の純利益 349 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.3% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)1,100 億円。全体の PER 16.42 倍、時価総額 6,824 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:経営計画の目標に近づく姿で、成熟した会社としては現実的な上振れ。
中立 38% 普通に強い会社として、物価並みに成長する 利益 304 億円 · PER 15.6 倍 · 株価時価総額 2,363 円5,599 億円
10年後もマブチは自動車用小型モーターの世界首位であり続ける。自動車は数量の伸びが乏しく、新用途とブラシレス化が拮抗して、数量は8%増にとどまる。単価は物価並みの1.34倍に上がる。ライフ・インダストリー用は、買収子会社の寄与で数量が3割強増える。営業利益率は13%台で、過去10年の高い方の水準に定着する。10年後の売上は3,060億円、営業利益は400億円ほどで、経営計画2030の売上目標に5年遅れで届く姿だ。大きな成長は無いが、現金を返しながら堅実に稼ぐ、普通に強い優良企業として評価される。
- 自動車電装用モーター:数量 7.6(年間の出荷個数(億個))× 価格 296(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 2,236 億円・営業利益 291 億円。7.56 億個 × 単価 2.96 百円(今の 1.34 倍)、営業利益率 13.0%
- ライフ・インダストリー用モーター:数量 8.1(年間の出荷個数(億個。買収子会社のユニットを含む換算))× 価格 102(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 828 億円・営業利益 116 億円。8.10 億個 × 単価 1.02 百円(今の 1.34 倍)、営業利益率 14.0%
倍率:事業の純利益 289 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.3% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)1,100 億円。全体の PER 15.59 倍、時価総額 5,599 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の数量が小幅に増え、価格が物価並みに上がる中心の姿。経営計画の売上目標に5年遅れで届く。
やや悲観 25% ブラシレス化と中国勢で、数量も価格も伸び悩む 利益 192 億円 · PER 7.8 倍 · 株価時価総額 945 円2,240 億円
自動車用の小型モーターはブラシレスが主流となり、ブラシ付きの用途は補機の一部に縮む。マブチはブラシレスでも戦うが、ジョンソン・エレクトリックやニデック、中国勢に対して価格決定力を失う。自動車電装用の数量は5%減り、単価は物価ほど上げられない。ライフ・インダストリー用はM&Aで規模を保つが、利益率は1割を割る。10年後の売上は2,430億円、営業利益率は10%で、今より下がる。配当は下限で守られるが、成長の理由は消え、市場は成熟した部品会社として低い倍率でしか評価しなくなる。買収した会社の技術は残るが、収益の柱と呼べる規模までは育たない。
- 自動車電装用モーター:数量 6.7(年間の出荷個数(億個))× 価格 269(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 1,791 億円・営業利益 188 億円。6.65 億個 × 単価 2.69 百円(今の 1.22 倍)、営業利益率 10.5%
- ライフ・インダストリー用モーター:数量 6.9(年間の出荷個数(億個。買収子会社のユニットを含む換算))× 価格 93(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 642 億円・営業利益 58 億円。6.90 億個 × 単価 0.93 百円(今の 1.22 倍)、営業利益率 9.0%
倍率:ROE 7.4%・資本コスト 8% から正当化 PER 11.8 倍(ROE が k 以下なので 1÷k)を計算し、その 76% をやや悲観の倍率に置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 7.84 倍・時価総額 2,240 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:ブラシレス化と中国勢は構造的な動きで、10年で採算を削る確率は低くない。
悲観 10% 技術の置き換えで優良企業ではなくなる 利益 56 億円 · PER 7.4 倍 · 株価時価総額 383 円907 億円
ブラシ付き直流モーターが自動車で急速に使われなくなり、自動車メーカーが内製や中国メーカーに切り替える。ミラーやロックの電動モジュールが一体設計に移り、モーター単体の需要が消えていく。数量は3割減り、単価は物価の伸びを下回る。買収した会社も期待された成果を出せず、減損が重なる。10年後の売上は1,570億円、営業利益は50億円ほどで、赤字すれすれになる。配当は下限を保つために現金の取り崩し(有価証券の売却を含む)を続ける。自己資本比率は高く現金が下値を支えるが、もう優良な成長企業とは見なされない。
- 自動車電装用モーター:数量 4.9(年間の出荷個数(億個))× 価格 232(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 1,136 億円・営業利益 34 億円。4.90 億個 × 単価 2.32 百円(今の 1.05 倍)、営業利益率 3.0%
- ライフ・インダストリー用モーター:数量 5.4(年間の出荷個数(億個。買収子会社のユニットを含む換算))× 価格 80(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 433 億円・営業利益 17 億円。5.40 億個 × 単価 0.80 百円(今の 1.05 倍)、営業利益率 4.0%
倍率:悲観の純利益 56 億円は ROE 1.8% で、ためた利益は額面未満の価値しかない。やや悲観の 7.84 倍より悲観ほど低く置くので、その約 94% の 7.4 倍とした(稼ぐ力 純利益÷k の PER 上限も超えない)。自己資本の厚さや市場の倍率は根拠にしない。(余った現金は悲観で 0.5 倍に見積もる。
確率:ブラシ付きという成熟した技術に依存するため、置き換えで負ける尾の確率を10%置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
自動車電装用モーター
ドアミラー、ドアロック、エアコンのダンパー、パーキングブレーキ、グリルシャッター、給油口などに使う小型直流モーター。売上の約8割を占める中核事業。
| 数量年間の出荷個数(億個) | 価格1 個あたりの平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 7.0 | 221 | 1,545 | 209 |
| 10 年後 中立 | 7.6 | 296 | 2,236 | 291 |
取り方:2025 年の自動車電装用の売上 1,545 億円(会社開示)。個数は開示が無いので、年間の生産規模 約 13 億個(会社公式)と、売上構成から自動車用を約 7 億個、ライフ・インダストリー用を約 6 億個と推定し、単価は売上から逆算した(約 2.21 百円)。営業利益は開示が無く、全社 255 億円(利益率 12.7%)を自動車 13.5%、ライフ・インダストリー 10% と置いて配分した推定。単価は名目で、中立は物価並み(3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍)。人件費・材料費も同じだけ上がるので利益率は物価で下がらない。
ライフ・インダストリー用モーター
理美容機器・電動工具・家電・医療健康機器・産業機器に使うモーターと、買収したギア・制御・ポンプ会社のユニット。2026 年から日本パルスモーターも加わる。
| 数量年間の出荷個数(億個。買収子会社のユニットを含む換算) | 価格1 個あたりの平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 6.0 | 76 | 458 | 46 |
| 10 年後 中立 | 8.1 | 102 | 828 | 116 |
取り方:2025 年のライフ・インダストリー用の売上 458 億円(会社開示)。個数は約 6 億個と推定(根拠は自動車電装用と同じ)、単価は逆算して約 0.76 百円。ここは理美容・工具向けの安い汎用モーターが多く、単価が低い。買収子会社のユニットは単価の高い製品として個数に換算して含める。営業利益は全社 255 億円から自動車分を引いた推定で、利益率 10%。単価は名目で、中立は物価並み。
リスクと懸念
ブラシ付きモーターの技術の置き換え
自動車用の小型モーターでは、ブラシレスが売上の過半を占めるようになり、伸びも速い。マブチの主力はブラシ付きで、ミラーやロックのような用途では今も優位だが、車種の世代交代でブラシレスや一体型モジュールに置き換われば、数量と単価の両方が下がる。10年の悲観の中心になるリスクである。
中国の現地サプライヤーの価格攻勢
中国の自動車部品メーカーは、国内の補助と大量生産を背景に、低価格で小型モーターに参入している。日系メーカーが中国で売る車でも、現地調達の比率が上がる。マブチは中国市場を採算重視で臨む方針だが、価格が崩れれば他の地域にも波及しかねない。価格の攻防は、数量だけでなく利益率の天井にも響く。
自動車の生産の循環
売上の約8割は自動車向けで、世界の生産台数に数量が連動する。リーマン級の景気後退では、生産が3割前後落ちる。自己資本比率が90%と厚く、赤字で資金が詰まる心配は無いが、利益は大きく減る。為替差益で純利益が膨らむ年もあり、本業の稼ぎと分けて見る必要がある。
M&Aの統合と費用の先行
2026年の販管費は前年比18%増の406億円の計画で、買収子会社の増加が主因だ。買収の効果が出る前に費用が先に出る。日本パルスモーター(66億円)を含む4社の統合が、狙いどおりユニット需要を取り込めない場合、利益率の15%への到達は遠のく。
利益率の天井と価格決定力の限界
営業利益率は過去10年で7〜17%の間を行き来し、一度も15%を安定して超えていない。人件費と材料費は物価で上がるので、値上げが物価並みなら利益率は動かない。経営計画2030の利益率15%以上は、構造改善とミックス改善で届くとは限らない。
為替と各国の工場運営
売上の約9割が海外で、工場は中国、ベトナム、メキシコ、ポーランドなどに分かれる。為替の変動は円換算の利益と、手元の外貨建て現金の評価を揺らす。ポーランドでは2024年に73億円の減損、台湾ではモーター量産を終えるなど、拠点の見直しが続いている。
資本配分の質
総還元が純利益の1.5倍に達する2026年は、余った現金を減らす局面だ。自社株買いは割高な値段で買えば価値を壊す。還元を急ぐあまり、成長への投資や買収の余力を削る恐れもある。経営計画のROE10%以上は、資本を減らして達成する側面があり、稼ぐ力の改善とは分けて見るべきだ。
今後の分かれ目
- ブラシレスの採用がミラーやドアロックまで広がり、ブラシ付きの受注が目立って減るなら
- 自動車電装用の数量と単価の前提を下げ、10年のやや悲観・悲観の確率を引き上げる。
- 売価改善とミックス改善が続き、営業利益率が2年続けて14%を超えるなら
- 経営計画2030の15%への道筋が現実的になったと見て、楽観側の確率を引き上げる。
- 買収子会社(日本パルスモーター、オービー工業など)のユニット受注が、会社の描く数量どおりに積み上がるなら
- ライフ・インダストリー用の数量と利益率の前提を上げ、やや楽観の筋書きに寄せる。
- 中国の自動車メーカーが、日系・欧州系ブランド向けの小型モーターでも現地調達に切り替えるなら
- 価格の前提(物価並みの値上げ)を下げ、数量の減少も織り込んでやや悲観の筋書きに寄せる。
- 余った現金を高い値段の大型買収に使うなら
- 資本配分の質への評価を下げ、現金の価値を割り引いて見る。逆に自社株買いを安い局面で増やすなら、加重平均の価値を引き上げる。
- 世界の自動車生産が2年連続で大きく落ちるなら
- 景気の谷の筋書き(悲観)の確率を引き上げる。ただし純現金が下値を支えるので、時価総額の下値は純資産付近にとどまる。
見ておくもの
- 営業利益率(15%への到達度。四半期ごとの動きと、売価・ミックス改善の寄与)
- 自動車電装用の販売数量と新用途(グリルシャッター・給油口・ヒューマノイド向け)の売上
- ブラシレスモーターの売上と受注、およびブラシ付きの用途別の動き
- 買収子会社(マブチNPM、オービーギアシステム、マブチマイクロテック)の売上と利益への寄与
- 自社株買いの規模と価格、現金残高、配当(DOE4%)の維持
- 中国市場での受注と、中国現地サプライヤーとの競合状況
倍率と資本コストの決め方
自動車電装用とライフ・インダストリー用を、出荷個数(推定・実質)×単価(名目)で積み上げた。単価は中立で物価並み(10年1.34倍)、数量は自動車の生産が頭打ちのため10年で1〜2割増にとどめた。k は基本7.5%に quality +1.0%(寿命 +0.5・循環 +0.25・値決め +0.25)で8.5%。倍率は利益ベースの正当化PER(g4.0%)の約8〜9割で、中立は10年11.4倍。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)を上限に、倍率をやや悲観の約94%(7.4 倍)に置いた。過去の倍率や自己資本の厚さは根拠にしていない。現金1,100億円は分けて帳簿の値で足し、事業の利益に現金の税後利息を含めない。今の PER 16倍(為替差益を含む純利益)にも寄せていない。10年の数字は家賃を営業費用に入れた形でそろえ、新リース会計(2028/03期から)の影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.62→17.43 倍・やや楽観 PER 12.25→16.42 倍・中立 PER 11.37→15.59 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。事業で決める:基本 7.5% に quality +1.0%(寿命 +0.5・循環 +0.25・値決め +0.25)を足して k 8%。純現金で借金の傷みはなく extra は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。