結論
ダブル・スコープは、リチウムイオン電池の中で正極と負極を隔てる膜、セパレータを作る会社だ。筆者の結論は割高である。価値のほとんどは、韓国の工場を分けて上場させた WCP の持分 3 割強にある。その時価から借金を引くと、今の時価総額を支える分はわずかしか残らない。
2024 年に WCP を連結から外して以来、本体の売上は 36 億円まで縮んだ。本体は日本とハンガリーの工場、水処理に使うイオン交換膜を持つが、営業赤字は年 20 億円を超える。現預金は 3 億円しかなく、短期の借入は 67 億円ある。
筆者は、10 年後に WCP がサムスン SDI の蓄電池向けで立ち直る姿を中心に置く。それでも本体の赤字と利払いが持分の稼ぎを削り、自己資本利益率(ROE)は 4% 台にとどまる。帳簿の価値は時価総額の 5 倍近いが、その大半は WCP の帳簿の額で、市場の値段はその 4 分の 1 ほどしかない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ダブル・スコープは「持分を一つ持った借金のある会社」だ。事業として持ちたいかと問われれば、答えは否である。値段を決められない膜を、顧客 1 社に頼って作り、財務は借入でつないでいる。
筆者がいちばん気にしているのは、帳簿の価値の中身だ。自己資本 408 億円のうち、346 億円は WCP の持分の帳簿の額である。WCP の時価で数え直すと、持分は 90 億円前後にしかならない。そこから借入 79 億円を引くと、株主に残るのは本体の事業の見込みだけになる。本体は年 20 億円を超える赤字を出している。
安全域は見当たらない。WCP が蓄電池で立ち直れば持分の値段は上がるが、それまでの赤字と利払いが持分を少しずつ食う。資金が尽きれば、安い値段で持分を売るか、株主の取り分を薄めることになる。
何で稼ぐ会社か
セパレータは電池の安全を守る膜だ。正極と負極が触れると発火するので、その間に穴の空いた薄い樹脂の膜を挟み、電気を運ぶイオンだけを通す。ダブル・スコープは、樹脂を溶かして伸ばす「湿式」の膜で、韓国のサムスン SDI を最大の顧客に育った。
生産の主力は韓国の忠州工場で、これを WCP として分け、2022 年に韓国の株式市場に上場させた。持分は 2024 年に 36% まで下がり、協調していたファンドの売却で議決権の過半を失った。そのため WCP は持分法の関連会社になり、その売上は本体の数字から消えた。今の持分は、その後の一部売却で 3 割強とみられる。
本体に残る事業は 2 つある。日本とハンガリーで作るセパレータは、2026 年 1 月期の売上が 22 億円にとどまる。ハンガリーの工場は欧州の電池工場向けで、政府の補助金を受けて立ち上げている途中だ。
もう 1 つはイオン交換膜で、売上は 14 億円。水を浄化する装置や、電気で水素を作る装置に使う膜で、新しい案件の受注で伸び始めた。WCP の損益は持分に応じて本体の利益に入るが、2026 年 1 月期は 63 億円の損失だった。
優良さと弱いところ
強みは、湿式のセパレータを大量に作る技術と、サムスン SDI との長い取引だ。量産の立ち上げを経験した会社は世界でも多くない。
弱さはそれを上回る。第 1 に、値段を決められない。セパレータは中国の上海エナジーなどが巨大な設備で安く作り、世界の値段を決めている。第 2 に、顧客が偏っている。サムスン SDI の電気自動車向けの数量が落ちると、工場の稼働がそのまま下がる。第 3 に、財務が細い。工場を建てるたびに借入と株式の発行を重ね、過去 20 年に 5 回、株主の取り分を薄めた。
経営は WCP を上場させて資金を得たが、その後の持分の低下で稼ぎの芯を手放した形になった。堀、つまり他社がまねできない強みは、今の会社にはほとんどない。残る強みは技術と顧客との縁だが、それを持分の形でしか持っていないことが、株主の取り分を弱くしている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
電池のセパレータは、電気自動車と蓄電池の数量に連れて動く。世界の需要は 10 年で数倍に伸びる見込みだが、その多くを中国勢が取る。上海エナジー(恩捷)や星源材質が巨大な設備で値段を下げ、日本の旭化成や東レも採算に苦しむ。
2024〜25 年は電気自動車の伸びが欧米で鈍り、韓国の電池メーカーは在庫を抱えて発注を絞った。WCP の稼働も落ち、赤字に沈んだ。立ち直りの頼みは蓄電池(ESS)だ。データセンターや送電網に置く大きな蓄電池の需要が米国で伸び、サムスン SDI も ESS 向けの出荷を増やしている。韓国の証券会社は、WCP が 2026 年の後半に黒字に戻ると見る。
10 年の流れでは、筆者はセパレータの数量は世界で大きく伸びるが、値段は物価に届かず、中国勢が主導し続けると見る。韓国と欧州の電池メーカーは中国製を避けたい事情があり、そこに日韓のセパレータの居場所が残る。米国の関税と補助金の行方が、その居場所の広さを決める。
技術の面でも、膜に塗る材料や、電池そのものを固体にする研究が進む。固体の電池が広がれば、今の形のセパレータは要らなくなる。10 年の内には大きな量にならないが、長い目で見た寿命の不安になる。
資本政策と M&A
還元はない。配当は長く出しておらず、利益剰余金は 282 億円のマイナスだ。資金は借入と株式の発行、WCP の株の売却で賄ってきた。2021 年には WCP の株を一部売って借入を返し、継続企業の前提に関する注記を外した。
今は現預金 3 億円に対し、短期の借入が 67 億円ある。会社は営業キャッシュフローの黒字とハンガリーの補助金で回ると説明するが、借り換えが続かなければ、また WCP の株を売るか、株式を発行するしかない。プライム市場の上場維持の基準も満たしておらず、2027 年 1 月末までの改善を求められている。
WCP の持分を丸ごと売る道もある。売れば借入は返せるが、本体に残るのは小さな赤字の事業だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
WCP は立ち直りの入口にいる。米国ではデータセンターと送電網の蓄電池の需要が急に伸び、サムスン SDI は ESS 向けの出荷を増やしている。韓国の証券会社は 2026 年の後半に WCP の黒字化を見込む。WCP の株価は 52 週で 3 倍以上振れており、立ち直れば持分の時価はすぐに倍になる。
本体にも芽がある。イオン交換膜は水処理と水素の装置に使われ、新しい案件で売上が伸び始めた。ハンガリーの工場は欧州の電池メーカーの近くにあり、中国製を避けたい顧客の受け皿になる。補助金も付く。
帳簿の価値は時価総額の 5 倍近い。WCP の持分の帳簿の額 346 億円が意味を持つ水準まで WCP の利益が戻れば、今の値段は大きな割引だ。WCP は韓国の上場会社で、株価は毎日つき、売れる資産でもある。持分を高く売って借入を返せば、身軽な会社として出直せる。イオン交換膜と水素の装置の膜は、電池と関係のない新しい柱になりうる。
慎重な見方
本体は燃え続けている。2026 年 1 月期の営業赤字は 49 億円で、今期も 24 億円の赤字を見込む。現預金は 3 億円、短期の借入は 67 億円だ。借り換えが細れば、底値で WCP の株を売るか、株式を発行して株主を薄めるしかない。過去 20 年に 5 回、同じことを繰り返してきた。
WCP の立ち直りも確かではない。セパレータの値段は中国勢が決め、上海エナジーは桁違いの設備で安く売る。サムスン SDI の数量に頼る構図は変わらず、電気自動車の需要が欧米で鈍れば、蓄電池だけでは埋まらない。
持分の時価は 90 億円前後で、借入 79 億円を引くと残りはわずかだ。帳簿に載る持分の 346 億円は市場の値段の 4 倍近くあり、いずれ減損で消える可能性が高い。プライムの上場維持の基準も満たしていない。区分が下がれば、資金を集める道はさらに細る。持分を売るたびに、立ち直りの果実も他人の手に渡る。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が明らかに強い。WCP の立ち直りは中立に入れたが、本体の赤字と利払いが持分の稼ぎを削り、資本コストに届く姿は見えない。資金繰りの細さを重く見て、悲観側に 4 割強を置き、楽観は 1 割未満にした。帳簿の価値の厚さは、確率を上に寄せる理由にしていない。WCP の黒字化が数字で見えれば、楽観側に重みを移す余地はある。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/01 期)
確率で加重した株価時価総額 164 円99 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 5 円3 億円)。 今の値に割り戻すと 63 円38 億円、今との差 −46.0%、 期待の年率 +3.7%(資本コスト 10.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 850 円513 億円 | 50 円30 億円 | +668.9% | +22.6% | 45 円27 億円 |
| やや楽観 | 13% | 415 円250 億円 | 17 円10 億円 | +268.9% | +13.9% | 56 円34 億円 |
| 中立 | 34% | 174 円105 億円 | 0 円0 億円 | +48.3% | +4.0% | 59 円36 億円 |
| やや悲観 | 26% | 25 円15 億円 | 0 円0 億円 | −78.6% | −14.3% | 7 円4 億円 |
| 悲観 | 22% | 8 円5 億円 | 0 円0 億円 | −92.9% | −23.3% | 2 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 164 円99 億円 | 5 円3 億円 | +44.0% | +3.7% | 168 円102 億円 |
今の株価時価総額 117 円71 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 10.5% を下回るほど割高。
楽観 5% 蓄電池の波に乗り、WCP と本体がともに稼ぐ 利益 52 億円 · PER 9.9 倍 · 株価時価総額 850 円513 億円
米国のデータセンターと送電網で蓄電池の需要が膨らみ、サムスン SDI の出荷が大きく伸びる筋書きだ。中国製を避けたい米欧の顧客が日韓のセパレータを選び、WCP の工場はフル稼働に戻る。WCP の純利益は 130 億円規模になり、持分に応じて 40 億円を超える稼ぎが本体に入る。
ハンガリーの工場も欧州の電池メーカー向けで黒字になり、イオン交換膜は水素の装置で伸びる。本体の営業利益は 15 億円に届く。借入は返し、配当も再開する。ROE は 12% 前後と、ようやく資本コストを少し上回る。WCP の持分を買い戻す話も出て、稼ぎの芯が本体に戻り始める。
- セパレータ(日本・ハンガリー、連結分):数量 400(セパレータの販売面積(百万 m²・推定))× 価格 5.80(千 m² あたりの売上(万円))→ 売上 232 億円・営業利益 14 億円。4 億 m²(9.1 倍)× 千 m² あたり 5.8 万円(1.16 倍、値段は物価に届かない)、営業利益率 6%
- イオン交換膜:数量 250(膜の販売面積(千 m²・推定))× 価格 28,000(1 m² あたりの売上(円))→ 売上 70 億円・営業利益 8 億円。25 万 m²(3.6 倍)× 2.8 万円(1.40 倍)、営業利益率 12%
倍率:事業の純利益 52 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.4% が k 10.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 11.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 9.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 9.9 倍。全体の PER 9.86 倍、時価総額 513 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:WCP の大きな黒字と、本体の赤字の解消が重なる必要がある。中国勢が値段を決める業界で、両方がそろう見込みは小さく 5% とした。
やや楽観 13% WCP が蓄電池で黒字を保ち、本体は小さな黒字 利益 26 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 415 円250 億円
WCP が蓄電池向けで立ち直り、黒字を保つ筋書きだ。サムスン SDI の ESS 向けの出荷が増え、WCP の純利益は 80 億円ほどになる。持分に応じて 27 億円が本体の利益に入る。
本体ではハンガリーの工場が補助金を受けて立ち上がり、赤字を脱する。イオン交換膜も水処理と水素の装置で伸び、本体の営業損益は小さな黒字に戻る。借入は残るが、利払いは持分の稼ぎで賄える。ROE は 5% 台で、資本コストの半分ほどだ。配当は限られ、利益は借入の返済と工場に回る。WCP の株価が戻り、持分を一部売れば借入はほぼ消える。
- セパレータ(日本・ハンガリー、連結分):数量 250(セパレータの販売面積(百万 m²・推定))× 価格 5.80(千 m² あたりの売上(万円))→ 売上 145 億円・営業利益 4 億円。2.5 億 m²(5.7 倍)× 千 m² あたり 5.8 万円(1.16 倍)、営業利益率 3%
- イオン交換膜:数量 180(膜の販売面積(千 m²・推定))× 価格 27,500(1 m² あたりの売上(円))→ 売上 50 億円・営業利益 5 億円。18 万 m²(2.6 倍)× 2.75 万円(1.38 倍)、営業利益率 10%
倍率:事業の純利益 26 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.5% が k 10.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 9.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 9.5 倍。全体の PER 9.52 倍、時価総額 250 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:韓国の証券会社は WCP の 2026 年後半の黒字化を予想し、ESS の需要も伸びている。本体の赤字も縮み始めたので 13% とした。
中立 34% WCP は小さく立ち直るが、本体の赤字と利払いが削る 利益 11 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 174 円105 億円
WCP が小さく立ち直り、本体はほぼ収支とんとんになる筋書きだ。蓄電池の需要で WCP の工場の稼働は戻るが、値段は中国勢に抑えられ、純利益は 45 億円ほどにとどまる。持分に応じて 15 億円が本体の利益に入る。
本体ではハンガリーの工場が少しずつ数量を増やし、イオン交換膜も伸びるが、本社の費用を賄うのがやっとだ。借入はほぼ今の水準で残り、金利の上昇で利払いは年 4 億円に増える。セパレータの値段は物価に届かず、本体の利益率は低いままだ。ROE は 4% 台で、資本コストに遠い。WCP の持分の帳簿の額は、市場の値段との差を埋められないまま残る。
- セパレータ(日本・ハンガリー、連結分):数量 150(セパレータの販売面積(百万 m²・推定))× 価格 6.00(千 m² あたりの売上(万円))→ 売上 90 億円・営業利益 3 億円。1.5 億 m²(3.4 倍)× 千 m² あたり 6.0 万円(1.20 倍、値段は物価に届かない)、営業利益率 3%。中国勢の大量生産で値段は物価に届かない
- イオン交換膜:数量 140(膜の販売面積(千 m²・推定))× 価格 26,800(1 m² あたりの売上(円))→ 売上 38 億円・営業利益 3 億円。14 万 m²(2.0 倍)× 2.68 万円(物価並み 1.34 倍)、営業利益率 8%
倍率:事業の純利益 11 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.5% が k 10.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 9.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 9.5 倍。全体の PER 9.52 倍、時価総額 105 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ESS の伸びで WCP は黒字に戻るが、セパレータの値段は中国勢が決める。本体の赤字は縮むが消えきらない落としどころで、34% とした。
やや悲観 26% WCP は低空飛行、本体の赤字が持分を食う 利益 −10 億円 · PBR 0.0 倍 · 株価時価総額 25 円15 億円
WCP の立ち直りが鈍く、本体の赤字が続く筋書きだ。電気自動車の需要が欧米で伸び悩み、蓄電池だけでは工場を埋められない。WCP の純利益は 10 億円前後の低空飛行で、持分の稼ぎは小さい。
本体はハンガリーの工場の数量が伸びず、赤字が残る。資金を手当てするため、会社は WCP の株を安い値段で少しずつ売る。売るたびに売却損が出て、帳簿の額も減損で削られる。借入は減らず、利払いは増える。持分を売るたびに、WCP の立ち直りの果実は他人の手に渡る。株主に残るのは、細った持分と、立ち直りに賭ける期待の値段だけだ。
- セパレータ(日本・ハンガリー、連結分):数量 80.0(セパレータの販売面積(百万 m²・推定))× 価格 5.50(千 m² あたりの売上(万円))→ 売上 44 億円・営業利益 −4 億円。8,000 万 m²(1.8 倍)× 千 m² あたり 5.5 万円(1.10 倍)、営業利益率 −8%
- イオン交換膜:数量 100(膜の販売面積(千 m²・推定))× 価格 25,000(1 m² あたりの売上(円))→ 売上 25 億円・営業利益 1 億円。10 万 m²(1.4 倍)× 2.5 万円(1.25 倍)、営業利益率 4%
倍率:赤字なので PBR で置く。床は WCP 持分の時価(WCP の純利益 10 億円前後で 150 億円×持分約 3 割)から純負債を引くとほぼ 0 で、残るのは立ち直りの見込みの分だけ。今の自己資本 408 億円の 0.037 倍の約 15 億円。
確率:本体は 2 期続けて大きな赤字で、資金の手当てに WCP の株の売却が要る。電気自動車の鈍化が長引く筋として 26% とした。
悲観 22% 資金が尽き、持分を投げ売って小さな会社に縮む 利益 −8 億円 · PBR 0.0 倍 · 株価時価総額 8 円5 億円
資金が尽きる筋書きだ。借り換えが細り、会社は WCP の持分を底値で売って借入を返す。それでも足りず、安い値段で株式を発行し、今の株主の取り分は大きく薄まる。
ハンガリーの工場は数量が集まらず止め、補助金の返還も求められる。残るのはイオン交換膜の小さな事業と、日本の工場の一部だけだ。セパレータは中国勢と韓国の大手に任せる形になる。上場の区分も下がり、市場の関心は消える。イオン交換膜は伸びても、本社の費用を賄うのがやっとだ。株主の価値は、清算されない小さな会社の、細い将来の見込みの分しか残らない。
- セパレータ(日本・ハンガリー、連結分):数量 20.0(セパレータの販売面積(百万 m²・推定))× 価格 5.00(千 m² あたりの売上(万円))→ 売上 10 億円・営業利益 −2 億円。2,000 万 m²(0.45 倍、ハンガリーを止める)× 千 m² あたり 5.0 万円、営業利益率 −20%
- イオン交換膜:数量 70.0(膜の販売面積(千 m²・推定))× 価格 24,000(1 m² あたりの売上(円))→ 売上 17 億円・営業利益 0 億円。7 万 m²(横ばい)× 2.4 万円(1.20 倍)、営業利益率 0%
倍率:赤字なので PBR で置く。WCP の持分を底値で売って借入を返すと純資産の時価はほぼ 0 で、増資で薄まった後の今の株主の取り分として、今の自己資本 408 億円の 0.0123 倍の約 5 億円。
確率:現預金 3 億円に短期借入 67 億円で、過去にも継続企業の前提の注記が付いた。プライムの上場維持基準にも不適合で、構造的に負ける筋として 22% とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
セパレータ(日本・ハンガリー、連結分)
日本とハンガリーの工場で作る湿式のリチウムイオン電池用セパレータ。韓国の WCP は持分法で、ここには入らない。
| 数量セパレータの販売面積(百万 m²・推定) | 価格千 m² あたりの売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 44.0 | 5.00 | 22 | −42 |
| 10 年後 中立 | 150 | 6.00 | 90 | 3 |
取り方:面積の開示がないため推定。セグメント売上 22 億円を、湿式膜の千 m² あたり約 5 万円で割った約 4,400 万 m²。営業損失は全社の −49 億円のうち、立ち上げ中のハンガリーと稼働の落ちた日本の工場の分を約 −42 億円と推定。
イオン交換膜
水処理装置や水電解(水素製造)装置に使うイオン交換膜。
| 数量膜の販売面積(千 m²・推定) | 価格1 m² あたりの売上(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 70.0 | 20,000 | 14 | −7 |
| 10 年後 中立 | 140 | 26,800 | 38 | 3 |
取り方:面積の開示がないため推定。セグメント売上 14 億円を、1 m² あたり約 2 万円で割った約 7 万 m²。営業損益は本社の費用の配分を含めて約 −7 億円と推定。
リスクと懸念
資金繰りの細さ
現預金は 3 億円、短期の借入は 67 億円だ。本体は今期も営業赤字を見込む。借り換えが細れば、WCP の株を安く売るか、株式を発行するしかない。2019 年には継続企業の前提に関する注記が付いた。
WCP の持分の帳簿と時価の差
WCP の持分の帳簿の額は 346 億円だが、市場の値段は 90 億円前後だ。WCP の利益が戻らなければ、帳簿の額は減損で削られる。自己資本の大半が消える恐れがある。
中国勢の値下げ
セパレータは上海エナジーや星源材質が巨大な設備で安く作る。値段は物価に届かず、中国製を避ける米欧の需要が細れば、日韓の膜の居場所も狭まる。
顧客の偏り
WCP の最大の顧客はサムスン SDI だ。電気自動車や蓄電池の出荷計画が変われば、工場の稼働がそのまま動く。顧客を広げる取り組みは、まだ実を結んでいない。
上場の区分と株主の取り分
プライム市場の上場維持の基準を満たしておらず、2027 年 1 月末までの改善が要る。資金のために株式を発行すれば、今の株主の取り分は薄まる。過去 20 年に 5 回、その経験がある。
今後の分かれ目
- WCP が 2 四半期続けて黒字を出し、持分法の損益がプラスに転じたら
- 立ち直りの証拠として、中立とやや楽観の確率を上げる。
- WCP の株を売って短期の借入を返したら
- 資金繰りの不安は和らぐが、稼ぎの芯も細る。悲観の確率を下げ、楽観の上限も下げる。
- 第三者割当などで株式を発行したら
- 株主の取り分が薄まる筋として、悲観に重みを移す。
- WCP の持分に減損を入れたら
- 帳簿の価値が市場の値段に近づく。価値の見方は変わらないが、自己資本の流れを直す。
- ハンガリーの工場が欧州の電池メーカーと長期の契約を結んだら
- 本体の赤字が縮む証拠として、本体の数量の見通しを上に直す。
見ておくもの
- WCP の四半期の損益と株価(KOSDAQ)
- 持分法の損益と WCP の持分比率
- 現預金と短期借入の残高、借り換えの条件
- サムスン SDI の ESS 向けの出荷
- プライムの上場維持基準への適合
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や PBR を見ずに、ROE と k 10.5%(基本 7.5% に quality 3%、事業が傾いている上乗せ 1%)から決めた。中立の ROE は 4% 台で k を大きく下回るので、PER の上限は 1÷k の 8.7 倍で、その 7.5 割を使った。WCP の持分は持分法益を純利益に残す形で数え、持分の時価から純負債を引いた値と見比べた。PBR 0.2 倍は割安の根拠にしていない。帳簿の価値の大半は WCP の帳簿の額で、市場の値段の 4 倍近いので、床には使っていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 8.7→9.86 倍・やや楽観 PER 7.4→9.52 倍・中立 PER 6.5→9.52 倍)。
資本コスト 10.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5% + 上乗せ 1.0%。