結論
チノーは、温度を測り、制御する機器を作る会社だ。工場で使う調節計や記録計、熱電対のようなセンサ、燃料電池の評価装置までを手がける。2026年3月期は売上317億円、営業利益32億円(利益率10.2%)と、6年続けて過去最高を更新した。中期経営計画の2026年度目標(売上300億円、営業利益27億円)は、一年早く超えた。筆者の結論は、本質価値が今の値段を2割弱下回る、やや割高だ。
稼ぎの柱は温度センサだ。売上の3割だが利益率は23%と高く、半導体や電子部品の製造設備向けが堅調だ。一方、燃料電池や水電解の評価装置を扱う計装システムは、大型案件の時期で受注が振れる。受注は13%減った。
財務は堅い。純現金は51億円、自己資本比率は57%で、配当性向は40%を目指して引き上げている。ただ事業は成熟した計測機器で、10年の利益の伸びは物価並みだ。余った現金を全額数えても、10年の期待の年率は4%台半ばで、資本コストの7%台には届かない。
筆者は、10年の中立でも売上は年3%台、利益は物価並みにしか伸びないと見る。強みは堅いが、成長の筋書きが薄い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、チノーは派手さのない、堅実な計測機器の会社だ。温度という基礎技術に絞り、精度と校正で顧客を囲っている。堀は広くないが、簡単には崩れない。
株主のものになる利益、つまり設備投資と運転資金を引いた後の利益は、純利益の7割ほどとみる。設備投資は年10億円台で、新工場があっても負担は重くない。純現金51億円は、そのうち事業に必要な分を除いた30億円を余りとして数え、戻る実績があるので全額を価値に入れる。
経営は資本配分を改善中だ。配当性向40%への引き上げ、自社株買い、政策保有株の縮減と、方向は正しい。ただ、ROEは10年で資本コストをわずかに超える程度で、利益の伸びも物価並みだ。今の値段は、その堅実さをすでに織り込んでいる。 払う値段に安全域があるかどうかが問われる。 高く買えば、物価並みの利益の伸びでは報われない。
何で稼ぐ会社か
事業は三つに分かれる。計測制御機器は売上96億円で、調節計(温度を決めた値に保つ機器)、記録計、放射温度計を作る。熱処理や自動車、電子部品の工場で使われ、利益率は15%だ。国内が中心で、売上は前期より1.4%減った。
計装システムは売上117億円で、案件ごとに仕様を組む受注生産の事業だ。燃料電池や水電解の評価装置、自然冷媒を使うコンプレッサの試験装置、工場の温度を集めて監視するシステムを納める。2026年3月期は水素関連で17%伸びたが、受注は13%減った。利益率は14%。
センサは売上92億円で、熱電対や測温抵抗体といった温度センサだ。半導体や電子部品の製造装置向けが堅調で、船舶向けの子会社、明陽電機も伸びた。利益率は23%と全社で最も高い。校正装置や黒体炉などを含むその他の事業を足すと、売上は104億円、利益は24億円だ。
海外の売上は2割強で、中国と韓国が中心になる。米国、上海、昆山、韓国、インド、タイに拠点を持つ。会社は海外売上を70億円まで伸ばす計画を掲げている。顧客は半導体・電子部品、自動車、熱処理、水素、データセンター、医薬など幅広い。
優良さと弱いところ
チノーの強みは、測る精度と校正の信頼だ。温度は製品の品質や安全に直結するため、顧客は一度採用した機器を簡単には変えない。校正装置も自社で作るので、導入後の保守や再校正も収益になる。日置電機、堀場製作所、アズビル、横河電機などが同業にあたるが、温度に絞った品ぞろえでは独自の地位を持つ。
数字にも出ている。営業利益率は2017年3月期の3%から、2026年3月期の10.2%まで上がった。研究開発費は売上の4%台を保ち、新製品を出し続ける。
弱みは三つある。第一に、国内の製造業の設備投資に売上が連動する。第二に、計装システムは案件型で、大型の受注が抜ければ四半期の利益が大きく動く。第三に、世界の大手と比べて規模が小さく、中国や海外のセンサメーカーとの価格競争を受けやすい。
経営は堅実だ。ROEは10年の中央値が7.8%で、資本コストをわずかに超える程度にとどまる。中期経営計画ではROE 10%を掲げたが、実績は8.7%だった。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
温度計測は、製造業のあらゆる工程に必要な基礎技術で、需要は国内の設備投資の動きに沿って伸び縮みする。国内の熱電対市場は年2〜3%の低成長という予測がある。世界の温度センサ全体は年5〜6%と見られるが、消費者向けを含むため、チノーの領域とは重ならない。
追い風は三つある。第一に、半導体と電子部品の製造設備だ。工程の温度管理が厳しくなるほど、センサの単価と数量が増える。第二に、水素と次世代電池だ。燃料電池や水電解の評価装置は、研究開発の投資が続く限り需要がある。第三に、データセンターの冷却や熱管理で、温度監視の需要が広がる。
逆風もある。国内の自動車と電子部品の工場は、新規の設備投資が伸びにくい。中国のセンサメーカーが性能を上げ、汎用品の価格を押し下げる。計装システムは水素の投資が一巡すれば、反動が来る。
10年の分かれ目は、半導体向けセンサの成長が続くかどうか、水素関連の投資が事業として定着するかどうかだ。
競争の形は、分野ごとに違う。調節計や記録計は横河電機、アズビル、理化工業、オムロンなどと国内で分け合う成熟市場で、価格より精度とサービスで選ばれる。センサは世界の大手と中国勢が混在し、半導体向けの高精度品だけが利益を稼げる。計装システムは案件ごとの提案力で決まる。
資本政策と M&A
還元は強化の方向にある。配当性向を2026年度に連結40%へ引き上げる方針で、2025年10月に株式を2分割し、中間配当を再開した。2026年3月期は配当に7億円、自己株式の取得に5億円を使った。
投資は自前の設備が中心だ。船舶向けの子会社、明陽電機の新工場に22億円を投じ、2027年12月に完成する予定だ。大きな買収は見当たらない。
政策保有株は上場13銘柄で約18億円。日置電機やエスペック、共和電業のような計測機器の同業が含まれる。会社は縮減の方針を示している。配当は利益に含まれているため、価値は別に足さない。
株主優待は300株以上に、ポイントを贈る制度を続けている。費用は年1億円に満たず、価値への影響は小さい。買われる側としては、プライム市場で時価総額300億円と小さく、同業の再編対象になりうる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
センサの成長は、一時の波ではなく構造だ。半導体の製造工程では、温度管理の精度が歩留まりを左右するので、微細化とともにセンサの数量と単価が上がる。センサの利益率は23%まで上がり、2026年3月期の受注は17%増えた。水素と次世代電池の評価装置は、世界でまだ立ち上がりの段階にあり、計装システムの受注は大型案件の時期で振れるだけで、需要の方向は強い。
会社は2026年度の目標を一年早く超えた。次の中期計画が出れば、水準が一段上がる可能性が高い。配当性向40%、自社株買い、政策保有株の縮減と、資本効率を高める方針が出そろい、ROEも10%に近づく。明陽電機の新工場が2027年に稼働し、船舶と産業用の温度センサの供給力も増える。海外売上を70億円に引き上げる計画が実現すれば、国内の成熟を補える。10年で売上を名目で年4〜5%伸ばせば、営業利益は60億円近くに届く。 校正と保守の収益は景気で振れにくく、導入した機器の基盤が積み上がるほど安定感が増す。
慎重な見方
2026年3月期は、好調に見えて中身は偏っている。売上の伸び23億円のうち、計装システムが17億円を占める。ところが計装の受注は13%減っており、来期の売上の源が細っている。2027年3月期の第1四半期は、売上が9%減った。会社の予想も売上325億円と3%増にとどまる。
純利益は営業利益が12%増えたのに、2.5%しか伸びなかった。税や特別要因を含め、営業利益の増加が株主の利益に届いていない。ROEも8.7%と、目標の10%を下回った。
センサの好調は、半導体の設備投資という波に乗っている面がある。この波が引けば、利益率23%は守れない。水素関連は研究開発向けで、量産の需要はまだ見えない。国内の工場の設備投資は伸びにくく、中国勢が性能を上げれば、価格も下がる。10年かけて見れば、利益の伸びは物価並みにとどまり、今の値段の先取りが剥がれる。 純現金が厚いことは確かだが、余った現金の利息では、資本コストに届かない事業の価値を埋められない。
どちらに重みを置いたか
センサと水素の成長という強気の見方は筋が通るが、計装の受注減、第1四半期の減収、ROEが目標に届かない事実が慎重な見方を支える。中立の確率は4割弱に抑え、やや悲観を2割、悲観を1割と、悲観側を3割残した。純現金を全額数えても、中立の10年後の時価総額と還元は今の1.7倍にとどまり、資本コストに届かない。価値は今の時価総額を2割弱下回り、やや割高となった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,784 円456 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 696 円114 億円)。 今の値に割り戻すと 1,836 円301 億円、今との差 +3.9%、 期待の年率 +7.0%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 4,707 円771 億円 | 1,020 円167 億円 | +224.1% | +12.5% | 573 円94 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,876 円635 億円 | 867 円142 億円 | +168.4% | +10.4% | 1,044 円171 億円 |
| 中立 | 38% | 3,071 円503 億円 | 763 円125 億円 | +117.0% | +8.1% | 1,457 円239 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,158 円190 億円 | 482 円79 億円 | −7.2% | −0.7% | 328 円54 億円 |
| 悲観 | 10% | 614 円101 億円 | 171 円28 億円 | −55.6% | −7.8% | 79 円13 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,784 円456 億円 | 696 円114 億円 | +96.9% | +7.0% | 3,480 円570 億円 |
今の株価時価総額 1,767 円289 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 半導体と水素で、センサと計装が一段上に伸びる 利益 43 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 4,707 円771 億円
半導体の微細化で温度管理の精度が上がり、センサは世界市場のシェアを2.9%まで伸ばす。水素と次世代電池の評価装置が定着し、計装システムは国内の試験・評価市場でシェアを4%台に乗せる。明陽電機の新工場が船舶と産業用のセンサを支え、海外売上は70億円を超える。売上は約530億円、営業利益は62億円で、利益率は過去の山を超えて12%に近づく。ROE は12%に上がり、新しい中期経営計画で資本効率を高める方針も明確になる。この筋書きが成り立つには、半導体の設備投資が10年にわたって続き、水素の評価装置が量産用の設備にまで広がる必要がある。研究開発費を売上の4%台で保ち、校正やサービスの収益も厚くなれば、利益率はさらに上がる余地がある。
- 計測制御機器:数量 1,600(国内の温度計測・調節機器市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 8.3%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 133 億円・営業利益 21 億円。国内で小幅に伸びる(実質の市場 1,600 億円 × シェア 6.2%、物価込みで名目)
- 計装システム:数量 3,400(国内の試験・評価システム市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 5.6%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 191 億円・営業利益 27 億円。水素・次世代電池で定着(実質の市場 3,400 億円 × シェア 4.2%)
- センサ・その他:数量 5,200(世界の産業用温度センサ市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 3.9%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 202 億円・営業利益 47 億円。半導体向けに加え船舶・産業用で拡大(実質の市場 5,200 億円 × シェア 2.9%)
倍率:事業の純利益 43 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.4% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)30 億円。全体の PER 17.08 倍、時価総額 759 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体向けセンサの成長が続き、水素・次世代電池の評価装置が事業として定着する。会社の計画を大きく上回る筋書きなので1割に抑えた。
やや楽観 22% 中計を超え、緩やかに高水準を保つ 利益 36 億円 · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 3,876 円635 億円
センサは半導体向けで伸び続け、シェア2.7%を保つ。計装システムは大型案件の振れを均しながら、水素関連で安定した受注を確保する。計測制御機器は国内の成熟を、校正やサービスで補う。売上は約470億円、営業利益は52億円で、利益率は11%に乗る。配当性向は4割を超え、自社株買いも続くため、ROE は10%に近づく。純現金は余りのまま積み上がらず、株主への戻りが進む。会社が目標を超え続けてきた実績を考えると、この水準は無理のない延長線上にある。ただ国内の成熟は変わらず、海外売上の拡大が欠かせない。海外売上は70億円の目標に近づき、中国・韓国に加えインドの拠点が育つ。
- 計測制御機器:数量 1,600(国内の温度計測・調節機器市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 7.9%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 127 億円・営業利益 20 億円。国内で安定(実質の市場 1,600 億円 × シェア 5.9%)
- 計装システム:数量 3,250(国内の試験・評価システム市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 5.2%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 170 億円・営業利益 24 億円。水素関連で底堅い(実質の市場 3,250 億円 × シェア 3.9%)
- センサ・その他:数量 4,900(世界の産業用温度センサ市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 3.6%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 177 億円・営業利益 40 億円。半導体向けで伸びる(実質の市場 4,900 億円 × シェア 2.7%)
倍率:事業の純利益 35 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.3% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)30 億円。全体の PER 16.38 倍、時価総額 606 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体向けセンサが堅調に伸び、計装も水素の需要で底堅い。会社が掲げる方向に近い。実現しやすい好ケースとして2割強を置いた。
中立 38% 物価並みに伸び、利益率10%を保つ 利益 29 億円 · PER 15.3 倍 · 株価時価総額 3,071 円503 億円
計測制御機器は国内の成熟で数量が縮み、シェアも少し下がるが、物価の上昇で売上は緩やかに伸びる。計装システムは水素関連の評価装置で一定の需要を保つ。センサは半導体向けで市場より速く伸び、利益の中心を担う。売上は10年で約440億円、年3%台の伸びとなり、営業利益は43億円、利益率は9.7%と今の水準をやや下回る。全社費用も物価で増える。純利益は29億円、配当性向は5割に上がり、純資産が積み上がって ROE は9%近くに落ち着く。目標に掲げた営業利益率9%を超えて、10%近い水準を保つ姿だ。物価の分だけ売上も費用も増えるので、利益率は上がらない。センサの高い利益率と、計測制御・計装の安定した収益が並んで、全体を支える。
- 計測制御機器:数量 1,550(国内の温度計測・調節機器市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 7.8%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 121 億円・営業利益 18 億円。国内の成熟、シェアは微減(実質の市場 1,550 億円 × シェア 5.8%)
- 計装システム:数量 3,150(国内の試験・評価システム市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 5.1%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 160 億円・営業利益 22 億円。案件の波を均す(実質の市場 3,150 億円 × シェア 3.8%)
- センサ・その他:数量 4,600(世界の産業用温度センサ市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 3.5%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 160 億円・営業利益 35 億円。半導体向けが牽引(実質の市場 4,600 億円 × シェア 2.6%)
倍率:事業の純利益 29 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)30 億円。全体の PER 15.33 倍、時価総額 470 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:センサの成長は続くが、計装は案件の波があり、国内の計測制御は成熟する。会社の中期計画の延長で、最も蓋然性が高い。
やや悲観 20% 設備投資の波が引き、価格競争で利益率が下がる 利益 14 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 1,158 円190 億円
半導体の投資が一巡し、センサの伸びが止まる。計装システムは水素関連の案件が減り、大型案件の振れが利益を削る。計測制御機器は国内の設備投資が冷え、汎用品の値下がりも続く。全社費用は物価で増えるため、利益率の下がり方が大きくなる。売上は約380億円と伸びるが、営業利益は21億円、利益率は5.6%に下がる。純利益は14億円で、ROE は4%台と資本コストを下回る。新工場の償却も負担になる。配当性向は4割台で据え置かれ、自社株買いも小さくなる。純現金は残るが、戻りは細る。国内の同業との再編が議論に上る局面でもある。
- 計測制御機器:数量 1,500(国内の温度計測・調節機器市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 7.2%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 109 億円・営業利益 14 億円。国内の投資が冷える(実質の市場 1,500 億円 × シェア 5.4%)
- 計装システム:数量 2,900(国内の試験・評価システム市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 4.6%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 132 億円・営業利益 15 億円。案件が減る(実質の市場 2,900 億円 × シェア 3.4%)
- センサ・その他:数量 4,200(世界の産業用温度センサ市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 3.2%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 135 億円・営業利益 24 億円。伸びが止まる(実質の市場 4,200 億円 × シェア 2.4%)
倍率:事業の ROE は4%台と k 7.5% を下回るので、PER の上限は 1÷k の12.9 倍。そこから稼ぎの質の低下を割り引き、7割台に置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 9.5 倍・時価総額 154 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:半導体と水素の設備投資が一巡し、中国勢との価格競争も重なる。過去の水準(利益率5〜8%)に近い。2割と厚めに置いた。
悲観 10% 中国勢と代替技術に押され、構造的に負ける 利益 −3 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 614 円101 億円
中国メーカーがセンサの性能と価格で追いつき、チノーはシェアを失う。半導体の設備投資は国内で細り、水素関連の評価装置も量産の需要に結びつかない。計装システムは案件が減って赤字に近づき、計測制御機器も値下がりに耐えられない。全社費用を削っても営業利益は赤字になる。新工場の投資は回収できず、減損で自己資本が減る。それでも純現金と運転資本が残るため、売れる資産の税後が株価の床になる。配当は半減に近づき、純現金の一部は赤字の穴埋めに使われる。同業との再編や買収提案が出る可能性もあるが、少数株主に有利な条件になる保証はない。
- 計測制御機器:数量 1,350(国内の温度計測・調節機器市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 6.0%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 81 億円・営業利益 7 億円。国内で縮小(実質の市場 1,350 億円 × シェア 4.5%)
- 計装システム:数量 2,600(国内の試験・評価システム市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 3.8%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 98 億円・営業利益 6 億円。案件が細る(実質の市場 2,600 億円 × シェア 2.8%)
- センサ・その他:数量 3,800(世界の産業用温度センサ市場(今の値段で測った実質・億円、推定))× 価格 2.4%(実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 92 億円・営業利益 10 億円。中国勢にシェアを奪われる(実質の市場 3,800 億円 × シェア 1.8%)
倍率:稼ぐ力はほぼ消え、価値は売れる資産の税後で決まる。今の自己資本に PBR 0.43 倍を掛けた額が、floor_assets_oku の内訳(純現金の一部、上場株の税後、運転資本の6割)と一致する。
確率:センサの汎用品が中国勢に奪われ、半導体や水素の需要も定着せず、構造的に負ける。純現金と運転資本が床を作るため1割に抑えた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
計測制御機器
調節計・記録計・監視機器・放射温度計。熱処理、自動車、電子部品などの工場で使う。
| 数量国内の温度計測・調節機器市場(今の値段で測った実質・億円、推定) | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,600 | 6.0% | 96 | 15 |
| 10 年後 中立 | 1,550 | 7.8% | 121 | 18 |
取り方:この市場の規模は調査も会社の開示もなく、1,600 億円と推定して売上 96 億円からシェア 6.0% を逆算した(国内の調節計・記録計・放射温度計を横河・アズビル・RKC などと分け合う前提)。数量は実質、物価 3% は価格に入れた。セグメント利益 14.8 億円(利益率 15.4%)。
計装システム
燃料電池・水電解の評価装置、コンプレッサ試験装置、集録・監視システムなどの受注生産。
| 数量国内の試験・評価システム市場(今の値段で測った実質・億円、推定) | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,000 | 3.9% | 117 | 17 |
| 10 年後 中立 | 3,150 | 5.1% | 160 | 22 |
取り方:案件ごとに仕様が違い、市場の統計はない。3,000 億円と推定して売上 117 億円からシェア 3.9% を逆算した。2026 年 3 月期は水素関連の評価装置で 17% 伸びたが、受注は 13% 減っており、大型案件の時期で振れる。セグメント利益 16.6 億円(利益率 14.2%)。
センサ・その他
熱電対・測温抵抗体などの温度センサ、半導体・電子部品製造設備向け、船舶向け(明陽電機)、校正装置。
| 数量世界の産業用温度センサ市場(今の値段で測った実質・億円、推定) | 価格実質の市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4,000 | 2.6% | 104 | 24 |
| 10 年後 中立 | 4,600 | 3.5% | 160 | 35 |
取り方:世界の温度センサ市場の調査は消費者向けまで含み幅が大きいため、産業用の高機能品に絞って 4,000 億円と推定し、センサとその他の売上 103.5 億円からシェア 2.6% を逆算した。半導体製造設備向けが堅調。利益はセンサ 21.0 億円とその他 3.2 億円の合計(利益率 23%)。全社費用 −23.3 億円は調整額に入る。
リスクと懸念
計装システムの受注の振れ
受注生産の事業で、大型案件の時期により売上と利益が大きく動く。2026年3月期の受注は13%減っており、来期以降の売上の源が細る懸念がある。水素関連の投資が一巡すれば反動も大きい。
半導体設備投資の波
センサの利益率23%は、半導体・電子部品の設備投資という波に乗っている面がある。波が引けば受注が減り、固定費の負担から利益率が数ポイント下がりうる。
中国勢との価格競争
中国のセンサメーカーは性能を上げており、汎用品では価格競争が強まる。海外売上を伸ばす計画は、現地で競合と正面から戦う局面になる。
国内製造業の設備投資の低迷
売上の7割以上は国内で、自動車や電子部品の設備投資に連動する。円高や景気悪化で国内の投資が冷えれば、調節計や記録計の需要が減る。
資本効率が資本コスト並み
ROE は10年の中央値で7.8%、直近も8.7%と、資本コストをわずかに超える程度にとどまる。目標の10%に届かないまま純資産だけが積み上がれば、価値は増えない。
新工場と為替・調達
明陽電機の新工場に22億円を投じるが、船舶向けの需要が想定を下回れば償却が重くなる。半導体など部品の調達難や、為替の変動も利益を動かす。
今後の分かれ目
- 計装システムの受注が2期続けて回復し、売上を超える
- 水素関連の評価装置が一時の波でなく定着した証拠で、強気の筋書きの確率が上がる。
- センサの受注が前年を下回り、利益率が20%を割り込む
- 半導体設備投資の波が引いた証拠で、慎重な筋書きの確率を上げる。
- 新しい中期経営計画で営業利益率11%以上、ROE 10%以上を掲げる
- 資本効率を高める意思が数字で示され、倍率の見方を上方に見直す材料になる。
- 自社株買いや増配で総還元性向が6割を超える
- 純現金の戻りが加速し、余った現金の価値の見積もりが上がる。
- 同業との再編や TOB の提案が出る
- プライム市場で時価総額が小さいため、現実味がある。価値は買収側の条件次第で動く。
- 中国メーカーがセンサの汎用品で大きく値下げする
- センサの利益率が崩れ、構造的な負けの筋書きに近づく。
見ておくもの
- センサと計装システムの受注の推移
- 営業利益率10%の維持
- 新しい中期経営計画の目標
- 総還元性向と自社株買い
- 明陽電機の新工場の立ち上がり
- 政策保有株の縮減
- 海外売上70億円の進捗
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や PER を見ず、セグメントごとの市場規模とシェア、利益率から10年後の利益を積み、k 7.5%・長期成長 4%・残る割合 0.5 の式の正当化 PER の9〜10割(楽観寄りでは9割)に置いた。ROE が資本コストを上回る間は PER の下限が 1÷k になる。余った現金は戻す実績があるので全額を足した。やや悲観・悲観は稼ぐ力と売れる資産の床から置き、過去の PBR は使っていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.2→17.08 倍・やや楽観 PER 13.3→16.38 倍・中立 PER 13→15.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.25%(循環)を足して k 7.5%。純現金で借金の加算はなく、事業が傾いてもいないので extra は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.50%。