結論
サンケン電気は、家電と自動車向けのパワー半導体を作る会社だ。筆者の結論は、今の値段はほぼ妥当で、割安とは言えないというものだ。会社の価値の大半が本業ではなく、持ち株の米アレグロにあるからである。
本業は苦しい。2026年3月期のコア事業は営業赤字45億円だった。中国の白物家電では、現地の半導体メーカーに客を奪われた。今期の黒字化計画も、4〜6月期の赤字拡大でぐらついている。
一方、持ち株は大きい。アレグロの約32%を持ち、時価は約2,800億円になる。サンケンの時価総額1,193億円の2倍以上だ。税金を引いても2,100億円を超える。
ただし、これが株主の手元に届くとは限らない。売却を禁じる期間が明けても売らず、借入は増え、設備投資で現金は出ていく。筆者は、帳簿の半分しか株主に戻らないと見る。この見方だと持ち株の価値は約1,070億円で、本業の値打ちを足しても今の時価総額とほぼ釣り合う。
動く材料もある。筆頭株主のエフィッシモは34%を握る。アレグロが身売りすれば、持ち株は一度に現金になる。
逆に、本業が赤字を抜けないまま借入を重ねれば、持ち株の価値が食われていく。10年で見ると、価値の大半を決めるのは本業の出来ではなく、持ち株をどう扱うかという経営の判断である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「何を買うのか」をはっきりさせる必要がある。サンケンを買うことは、赤字の本業と、アレグロという持ち株の組み合わせを買うことだ。
本業だけを見れば、持ち続けたい事業ではない。稼ぐ力が資本コストに届かず、利益を積み増しても価値は増えない。堀も狭く、10年後に今より強いとは言い切れない。
持ち株は別である。アレグロは磁気センサーと車載向け電力ICに強く、大手が買収を提案した実績もある。ただ、持ち株を動かすのはサンケンの経営陣で、株主ではない。経営が売却や還元に動かなければ、価値は株主に届かない。
筆者がいちばん気にするのは、この届くかどうかだ。そこで持ち株の価値の半分だけを数える。売却を禁じる期間が明けても売らなかった事実があり、本業は現金を消費しているからだ。
安全域は薄い。持ち株が一部しか届かない前提で、今の値段がほぼ妥当になる。割安と言うには、会社が資本の使い方を変える証拠が要る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、パワー半導体とそのモジュールだ。電気を流したり止めたりして、モーターや電源の電力を細かく操る部品である。2026年3月期のコア事業の売上786億円は、白物家電が365億円、自動車が314億円、産業機器・民生が107億円だった。
自動車では、EVの駆動モーターを動かすパワーモジュールに力を入れてきた。複数の半導体を1つにまとめた部品のことだ。ただバッテリーEVの伸びは鈍く、ハイブリッド車を含む内燃車の需要が支えている。白物家電では、エアコンや洗濯機のインバーター向けが主力である。中国の家電メーカーが現地の半導体に切り替えており、ここが最近の赤字の主因になった。
もう一つ、見落とせない柱がある。米アレグロ・マイクロシステムズへの出資だ。かつてはアレグロを連結子会社として抱え、連結売上の大きな部分を占めていた。2024年7月と8月に株を売って持分を約51%から約32%に下げ、持分法の関連会社に変わった。会社は売却代金を、借入の返済と株主還元に充てると説明した。
2026年3月期の売上が前の期から3割以上減ったのは、この連結除外が主な原因である。
会社は2024年の中期経営計画で、2027年度にコア事業の売上1,000億円、営業利益率10%を掲げた。実績は計画から遠く、達成は難しいと筆者は見る。
新しい芽はある。ミネベアパワーデバイスとはパワーモジュールの後工程を共同で作る。2025年4月に買収したパウデックは、GaNという新しい素材のパワー半導体を開発している。どちらも当たれば、車載と産業向けの品ぞろえが厚くなる。
優良さと弱いところ
優良さは高くない。筆者は、本業の堀、つまり他社がまねできない強みは狭いと見る。パワー半導体は品種が多く、値段は市場が決める。インフィニオンや三菱電機、富士電機、onsemiが強く、中国勢が安い品で攻める。サンケンは規模で劣り、投資の負担も重い。
強みは、家電と車載で長く付き合ってきた顧客と、モジュールまで作れる技術だ。2026年1月にはミネベアパワーデバイスと後工程の生産協業を決めた。2025年4月には、次世代の高効率素材であるGaNのパウデックを買収した。小さな会社が投資を一人で背負わず、相手と分ける動きは理にかなう。ただ、収益に出るのはまだ先だ。
資本の使い方は評価が割れる。アレグロ株の売却で得た資金は、借入の返済と自社株買いに回った。自社株買いは発行済株式の16.6%、417万株で、消却も済ませた。形は株主に優しい。しかし配当は出さず、本業は赤字のまま設備投資を続けている。
経営の実行力には疑問が残る。中期計画の数字は大きく外れ、石川サンケンでは24億円の特別退職金も出した。安全域、つまり買う値段の余裕は、本業ではなく持ち株の側にしか見えない。
財務は自己資本比率が50%あり、すぐ詰まる水準ではない。ただ営業利益では利息を払えておらず、持ち株の価値が支えている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
パワー半導体は、電動化と省エネの流れに乗る成長市場だ。ただこの数年は、在庫調整と中国の自前化が重なり、日本勢の利益は傷んだ。
自動車では、EVの駆動用モジュールと、ハイブリッド車のインバーター向け部品が数量を伸ばす。筆者は、車載向けパワー半導体の市場が10年で実質1.5倍強になると置く。ただしバッテリーEVは足踏みしており、勢いは読みづらい。
白物家電は、数量が伸びにくい成熟市場だ。それでもインバーター化は続き、1台あたりの半導体の金額は少しずつ増える。サンケンはここを稼ぎ頭にしてきたが、中国の家電メーカーが現地の半導体に切り替え、シェアを落とした。インドでは新しい取引が出てきた。ただ、中国の穴を埋めるには足りない。
値段には下押しがかかる。中国勢の生産能力が増え、汎用品の値下がりは続くと見る。素材も重荷で、素材価格の高騰が原価を押し上げた。
今は循環の谷の底に近い。しかし谷から戻っても、サンケンは元の利益には戻らない。奪われたシェアは、新しい客で埋め直すしかないからだ。
もう一つの前提が、持ち株アレグロの行方である。アレグロは磁気センサーと、車載・産業向けの電力ICを作る。同じ車載市場の会社なので、業界の追い風と逆風は、サンケンの本業と持ち株に同時に効く。
資本政策と M&A
資本政策の中心は、アレグロ株の扱いだ。2024年7月、サンケンはアレグロ株を売り、持分を約51%から約32%に下げた。売却額は約1,370億円で、アレグロは連結から外れた。会社は代金を借入の返済や株主還元に使うと説明した。
その後、2024年12月から2025年9月にかけて、発行済株式の16.6%に当たる417万株を299億円で買い、すべて消却した。配当は出していない。残る約32%は、売却を禁じる期間が明けた後も売らず、取締役2人の枠も保ち続けている。
筆頭株主のエフィッシモは、2026年6月の報告で保有割合が34.37%に上がった。自社株の消却で分母が減ったためと見られる。2025年3月には米onsemiがアレグロに買収を提案し、翌月に取り下げた。もしアレグロが買収されれば、サンケンの持ち株は一度に現金になる。
kabufuの試算では、10年以内の買収・TOBの確率は約20%である。持ち株が現金に変わる道は、アレグロの身売り、サンケン自身の再編、段階的な売却と複数ある。筆者は、どれも起きうるが時期は読めないと見る。
配当は出しておらず、10年の還元は小さな自社株買い程度(中立で約60億円)に置いた。アレグロ株の売却代金は還元に入れていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
持ち株だけで会社の値段を超えている。アレグロの約32%の時価は約2,800億円で、サンケンの時価総額の2倍以上ある。税金を引いても2,100億円を超える。純負債454億円を差し引いても、本業はおまけの値段で手に入る。
本業にも回復の道がある。車載需要は堅く、ハイブリッド車が支えている。白物家電の落ち込みは、中国の取引を失った谷とも言える。固定費の削減と後工程の再編で、今期は営業黒字を目指す。ミネベアパワーデバイスとの協業で、投資の負担も軽くなる。
持ち株が現金になる道筋も見えている。筆頭株主のエフィッシモは34%を握り、会社に還元を迫れる立場にある。2025年にはonsemiがアレグロの買収を提案した。次の買い手が現れれば、持ち株は一度に現金へ変わる。アレグロ株は52週の高値から半値以下にあり、戻れば価値はさらに膨らむ。
市場は持ち株の価値を、ほとんど織り込んでいない。サンケンの時価総額から持ち株を引くと、本業はほぼゼロ円以下の評価になる。本業が少しでも黒字に向かえば、それだけで再評価が進む。
慎重な見方
持ち株は帳簿の上の数字で、株主の手元にはない。売却を禁じる期間が明けた後もサンケンは売らず、その間に借入は増え、赤字が続いた。持ち株を抱えたまま、本業の損失をしのいでいるだけだと見ることもできる。
本業は中国で構造的に負けている。現地の半導体メーカーに客を奪われ、取り戻す手立てが乏しい。今期の黒字計画は、4〜6月期の赤字拡大で早くも崩れかけている。2024年の中期計画は売上1,000億円、営業利益率10%を掲げたが、実績は遠い。
アレグロ側のリスクもある。株価は52週の高値から半値以下で、車載半導体は競争が激しい。売るときには税金も出ていく。本業の赤字が続けば、持ち株の価値を食いつぶす。さらに設備投資が積み上がっており、稼がない設備を抱えたままになる恐れがある。
割安に見えるのは、会社が持ち株を動かさないせいでもある。動かない資産は、株主にとって存在しないのと同じだ。エフィッシモが34%を持っても、これまで経営は大きな手を打たなかった。
どちらに重みを置いたか
どちらにも根拠があるが、決め手は持ち株が株主に届くかどうかだ。強気の見方は価値の大きさで、慎重な見方は届き方で、それぞれ正しい。筆者は届き方の不確かさを重く見て、持ち株は帳簿の半分だけ数えた。全額を数えれば大きな割安になるが、そう言い切れるだけの証拠は、まだ会社から出ていない。確率は中立に厚く置き、やや悲観を楽観よりやや多くした。本業が赤字を抜けない場合の下振れが大きいためだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 25,945 円5,186 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 435 円87 億円)。 今の値に割り戻すと 11,242 円2,247 億円、今との差 +88.4%、 期待の年率 +16.0%(資本コスト 9.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 51,645 円1.03 兆円 | 1,651 円330 億円 | +793.2% | +24.5% | 4,264 円852 億円 |
| やや楽観 | 22% | 35,526 円7,102 億円 | 900 円180 億円 | +510.5% | +19.8% | 8,014 円1,602 億円 |
| 中立 | 35% | 27,715 円5,540 億円 | 300 円60 億円 | +369.5% | +16.7% | 9,805 円1,960 億円 |
| やや悲観 | 23% | 16,741 円3,347 億円 | 0 円0 億円 | +180.6% | +10.9% | 3,851 円770 億円 |
| 悲観 | 12% | 3,722 円744 億円 | 0 円0 億円 | −37.6% | −4.6% | 447 円89 億円 |
| 加重平均 | 100% | 25,945 円5,186 億円 | 435 円87 億円 | +342.1% | +16.0% | 26,380 円5,273 億円 |
今の株価時価総額 5,967 円1,193 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 本業が立ち直り、アレグロも伸びて、持ち株が現金になる 利益 258 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 51,645 円1.03 兆円
本業は構造改革をやり遂げる。ミネベアパワーデバイスとの協業とパウデックのGaNが効き、EV向けモジュールの受注が積み上がる。自動車のシェアは今の1.9%から2.6%へ上がる。インドの家電も取り込み、コア事業の売上は2,000億円に迫る。営業利益率は10%を超え、中期計画の目標にようやく届く。
持ち株の側でも追い風が吹く。アレグロは車載のセンサーと電力ICで伸び、株価は今の4倍強になる。エフィッシモの圧力もあり、サンケンは持ち株の一部を売って株主に戻し、残りは柱として持ち続ける。本業の赤字を持ち株が支える構図が、ここで逆転する。
自己資本には、アレグロ持分を税引き後の時価で載せた評価益を含む。余った現金は今の 2,136 億円から 8,482 億円になり、その増え分(約 6,346 億円)が、今の自己資本に純利益の合計を足して還元を引いた流れより厚い理由である。
- 自動車向けパワー半導体・モジュール:数量 5.2(サンケンが取る売上の量(世界の車載向けパワー半導体の市場 × シェア。今の値段で測った実質・億ドル))× 価格 201(実質 1 ドルあたりの売上(円)= 150 円 × 値段の指数(物価 3% で 10 年 1.34 倍が基本))→ 売上 1,046 億円・営業利益 126 億円。市場 200 億ドル(実質)× シェア 2.6%、値段の指数 1.34、営業利益率 12.0%
- 白物家電・産業機器・民生向けパワー半導体:数量 4.8(サンケンが取る売上の量(家電・産業機器向けパワー半導体の市場 × シェア。今の値段で測った実質・億ドル))× 価格 195(実質 1 ドルあたりの売上(円)= 150 円 × 値段の指数(物価 3% で 10 年 1.34 倍が基本))→ 売上 938 億円・営業利益 94 億円。市場 370 億ドル(実質)× シェア 1.3%、値段の指数 1.30、営業利益率 10.0%
倍率:事業の純利益 139 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.6% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)8,482 億円。全体の PER 13.21 倍、時価総額 10,324 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:本業の立て直しとアレグロの上振れ、持ち株の現金化が重なる必要がある。連続して当たる確率は低く、8%にとどめた。
やや楽観 22% 本業は黒字を取り戻し、持ち株は順調に育つ 利益 159 億円 · PER 11.3 倍 · 株価時価総額 35,526 円7,102 億円
コア事業は黒字を取り戻す。自動車は車載の追い風で堅調に伸び、白物家電は中国の落ち込みが底を打つ。売上は1,400億円台に乗り、営業利益率は8%前後になる。ただ、中国勢の値下げで利益が伸びきらず、かつての高い利益率には戻らない。
アレグロは車載と産業向けで着実に伸び、株価は今の3倍ほどになる。サンケンは配当を再開し、持ち株の売却益の一部を還元に回す。ただし本格的な売却には踏み込まない。持ち株の価値は膨らむものの、株主に届く分は限られる。
インドなど新しい市場での取引も少しずつ増えるが、中国の穴を完全に埋めるには届かない。それでも赤字から抜け、本業が現金を食う状態は終わる。
自己資本には、アレグロ持分を税引き後の時価で載せた評価益を含む。余った現金は今の 2,136 億円から 6,301 億円になり、その増え分(約 4,165 億円)が、今の自己資本に純利益の合計を足して還元を引いた流れより厚い理由である。
- 自動車向けパワー半導体・モジュール:数量 3.6(サンケンが取る売上の量(世界の車載向けパワー半導体の市場 × シェア。今の値段で測った実質・億ドル))× 価格 195(実質 1 ドルあたりの売上(円)= 150 円 × 値段の指数(物価 3% で 10 年 1.34 倍が基本))→ 売上 693 億円・営業利益 66 億円。市場 187 億ドル(実質)× シェア 1.9%、値段の指数 1.30、営業利益率 9.5%
- 白物家電・産業機器・民生向けパワー半導体:数量 3.9(サンケンが取る売上の量(家電・産業機器向けパワー半導体の市場 × シェア。今の値段で測った実質・億ドル))× 価格 188(実質 1 ドルあたりの売上(円)= 150 円 × 値段の指数(物価 3% で 10 年 1.34 倍が基本))→ 売上 724 億円・営業利益 58 億円。市場 351 億ドル(実質)× シェア 1.1%、値段の指数 1.25、営業利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 71 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)6,301 億円。全体の PER 11.25 倍、時価総額 7,102 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:車載の追い風とコスト削減が順調に進む想定。本業の黒字化は会社計画に近く実現性はあるが、中国の値下げが重しになるため2割強。
中立 35% 本業は薄い黒字、持ち株は市場並みに育つが半分しか届かない 利益 110 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 27,715 円5,540 億円
コア事業の売上は1,200億円台に戻る。自動車が堅調に伸び、白物家電は中国での取引減を新しい顧客で少し埋める。ただ中国勢の値下げが続くため、営業利益率は6%弱にとどまる。投資の重さもあり、本業の稼ぎは資本コストに届かない。
アレグロの株価は今の2.5倍になる。年率にして9〜10%で、資本コストと同じくらいの育ち方だ。サンケンは持ち株をほぼ持ち続け、配当は小さく、売却の動きは遅い。結果として持ち株の価値は膨らむが、株主に届くのは半分程度にとどまる。エフィッシモの圧力は続くものの、経営は強い手を打たない。
自己資本には、アレグロ持分を税引き後の時価で載せた評価益を含む。余った現金は今の 2,136 億円から 5,111 億円になり、その増え分(約 2,975 億円)が、今の自己資本に純利益の合計を足して還元を引いた流れより厚い理由である。
- 自動車向けパワー半導体・モジュール:数量 3.1(サンケンが取る売上の量(世界の車載向けパワー半導体の市場 × シェア。今の値段で測った実質・億ドル))× 価格 188(実質 1 ドルあたりの売上(円)= 150 円 × 値段の指数(物価 3% で 10 年 1.34 倍が基本))→ 売上 575 億円・営業利益 43 億円。市場 170 億ドル(実質)× シェア 1.8%、値段の指数 1.25、営業利益率 7.5%
- 白物家電・産業機器・民生向けパワー半導体:数量 3.4(サンケンが取る売上の量(家電・産業機器向けパワー半導体の市場 × シェア。今の値段で測った実質・億ドル))× 価格 188(実質 1 ドルあたりの売上(円)= 150 円 × 値段の指数(物価 3% で 10 年 1.34 倍が基本))→ 売上 633 億円・営業利益 38 億円。市場 338 億ドル(実質)× シェア 1.0%、値段の指数 1.25、営業利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 39 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.3% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)5,111 億円。全体の PER 11.11 倍、時価総額 5,540 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中国の自前化は止まらないが車載は堅調という中心の見立て。持ち株は市場並みに育ち、株主への届き方は半分程度という想定に最も厚く置いた。
やや悲観 23% 本業の赤字が長引き、持ち株の育ちも鈍る 利益 51 億円 · PER 5.3 倍 · 株価時価総額 16,741 円3,347 億円
本業は中国で失った客を取り戻せない。白物家電の売上は伸びず、自動車でも値下げ圧力が強まる。コア事業の売上は700億円台で横ばいになる。営業利益は薄い黒字がやっとで、利息を払うと利益はほとんど残らない。設備投資と、構造改革の費用も重なる。
アレグロは車載需要の鈍化と競争で伸びが鈍り、株価は今の1.6倍にとどまる。サンケンは本業の損失を埋めるため、持ち株を一部売るか借入を増やす。売却は安値になりやすく、税金も出ていく。持ち株の価値は残るが、本業に食われて株主に届く分はさらに減る。
会社の再建計画は何度も作り直され、市場の信頼は戻らない。エフィッシモは経営への不満を強めるが、打てる手は限られる。
自己資本には、アレグロ持分を税引き後の時価で載せた評価益を含む。余った現金は今の 2,136 億円から 3,326 億円になり、その増え分(約 1,190 億円)が、今の自己資本に純利益の合計を足して還元を引いた流れより厚い理由である。
- 自動車向けパワー半導体・モジュール:数量 2.2(サンケンが取る売上の量(世界の車載向けパワー半導体の市場 × シェア。今の値段で測った実質・億ドル))× 価格 173(実質 1 ドルあたりの売上(円)= 150 円 × 値段の指数(物価 3% で 10 年 1.34 倍が基本))→ 売上 384 億円・営業利益 15 億円。市場 148 億ドル(実質)× シェア 1.5%、値段の指数 1.15、営業利益率 4.0%
- 白物家電・産業機器・民生向けパワー半導体:数量 2.4(サンケンが取る売上の量(家電・産業機器向けパワー半導体の市場 × シェア。今の値段で測った実質・億ドル))× 価格 162(実質 1 ドルあたりの売上(円)= 150 円 × 値段の指数(物価 3% で 10 年 1.34 倍が基本))→ 売上 385 億円・営業利益 12 億円。市場 297 億ドル(実質)× シェア 0.8%、値段の指数 1.08、営業利益率 3.0%
倍率:事業の ROE 0.6% が k 9% 以下で、利益も利息を払うとほぼ残らない。PER の上限は 1÷k=10.5 倍だが、構造的に負けつつある筋書きで利益の質が低いため、上限の 5 割の 5.3 倍に置いた。持ち株の分は余った現金として別に足している。
確率:今期の4〜6月期は赤字が拡大し、計画達成が揺らいでいる。構造改革の費用と中国の落ち込みが続く想定を、楽観側より厚く置いた。
悲観 12% 本業が縮み、持ち株の価値も削られる 利益 −50 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 3,722 円744 億円
本業は中国のシェア低下と値下げで縮み、コア事業の売上は今の半分の400億円まで落ちる。自動車ではモジュールの量産が立ち上がらず、設備が遊ぶ。営業赤字は50億円を超え、リストラを重ねても止まらない。
アレグロも車載半導体の競争と景気後退で株価を下げ、今の6割に沈む。サンケンは赤字を埋めるため持ち株を安値で売り、税金だけが残る。株主に戻るお金はなく、本業の減損で自己資本も削られる。構造的に負けた会社の姿である。
それでも倒産はしない。アレグロ株が最後の支えとして残り、財務の行き詰まりは避けられる。ただ、優良な会社だった面影は消える。
- 自動車向けパワー半導体・モジュール:数量 1.5(サンケンが取る売上の量(世界の車載向けパワー半導体の市場 × シェア。今の値段で測った実質・億ドル))× 価格 150(実質 1 ドルあたりの売上(円)= 150 円 × 値段の指数(物価 3% で 10 年 1.34 倍が基本))→ 売上 218 億円・営業利益 −17 億円。市場 121 億ドル(実質)× シェア 1.2%、値段の指数 1.00、営業利益率 -8.0%
- 白物家電・産業機器・民生向けパワー半導体:数量 1.3(サンケンが取る売上の量(家電・産業機器向けパワー半導体の市場 × シェア。今の値段で測った実質・億ドル))× 価格 143(実質 1 ドルあたりの売上(円)= 150 円 × 値段の指数(物価 3% で 10 年 1.34 倍が基本))→ 売上 183 億円・営業利益 −18 億円。市場 256 億ドル(実質)× シェア 0.5%、値段の指数 0.95、営業利益率 -10.0%
倍率:営業赤字が続き、稼ぐ力では測れない。持ち株の戻る分 672 億円(税後 1,343 億円の半分)と、事業の自己資本 248 億円の 3 割(設備と在庫の売却価値だけ)を合わせて約 744 億円。今の自己資本 1,200 億円の 0.62 倍に置いた。やや悲観(稼ぐ力と持ち株から出した約 1,684 億円)より低い。
確率:本業の縮小と持ち株の下落が同時に起きる複合の負け。半導体の不況と車載の競争は重なりやすいため、1割強は置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
自動車向けパワー半導体・モジュール
EV・ハイブリッド車の駆動用パワーモジュール、車載のパワー半導体・電源ICを自動車メーカーとTier1に供給する事業。
| 数量サンケンが取る売上の量(世界の車載向けパワー半導体の市場 × シェア。今の値段で測った実質・億ドル) | 価格実質 1 ドルあたりの売上(円)= 150 円 × 値段の指数(物価 3% で 10 年 1.34 倍が基本) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.1 | 150 | 314 | −18 |
| 10 年後 中立 | 3.1 | 188 | 575 | 43 |
取り方:車載向けパワー半導体(ディスクリート・モジュール・IC)の世界市場を実質 110 億ドルと推定(開示なし。100〜120 億ドルの幅の中央)。コア事業の自動車向け売上 314 億円(決算短信)を 150 円で割ると 2.1 億ドルで、シェアは約 1.9%。営業利益は開示がなく、コアの営業損失 45 億円を売上の比で按分して -18 億円とした。
白物家電・産業機器・民生向けパワー半導体
エアコン・洗濯機などのインバーター向け部品、産業機器・民生機器向けのパワー半導体とモーター駆動IC・電源ICを供給する事業。
| 数量サンケンが取る売上の量(家電・産業機器向けパワー半導体の市場 × シェア。今の値段で測った実質・億ドル) | 価格実質 1 ドルあたりの売上(円)= 150 円 × 値段の指数(物価 3% で 10 年 1.34 倍が基本) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.1 | 150 | 472 | −27 |
| 10 年後 中立 | 3.4 | 188 | 633 | 38 |
取り方:家電・産業機器向けのパワー半導体と駆動ICの世界市場を実質 270 億ドルと推定(開示なし。240〜300 億ドルの幅の中央)。白物家電 365 億円と産機・民生 107 億円の計 472 億円(決算短信ほか)を 150 円で割ると 3.1 億ドルで、シェアは約 1.2%。営業利益はコアの営業損失 45 億円を売上の比で按分して -27 億円とした。
リスクと懸念
持ち株が株主に届かない
アレグロの約32%は時価では大きいが、動かすのはサンケンの経営陣だ。売却を禁じる期間が明けた後も売らず、取締役2人の枠も保っている。本業の赤字や設備投資で現金が出ていけば、持ち株の価値は株主の手元に残らない。
中国の自前化で白物家電を失う
中国の家電メーカーが現地の半導体に切り替え、サンケンのシェアは大きく下がった。白物家電はコア事業の売上の約半分を占める。取引が戻らなければ、本業の赤字は構造的なものになる。
今期の黒字化計画が崩れる
会社は2027年3月期に営業利益14億円、純利益10億円を見込む。しかし4〜6月期は売上が前年同期比16%減、経常赤字は17.6億円に広がった。下期の回復が前提で、計画の達成は不確実である。
アレグロ株の下落と税金
アレグロの株価は52週の高値から半値以下にある。車載・産業向けの半導体は競争が激しく、業績が崩れれば持ち株の時価は縮む。売却すれば含み益に約3割の税もかかり、手取りは時価より小さい。
設備投資が稼がない
建設仮勘定が約178億円あり、後工程の生産再編やEV向けモジュールに投資が続く。需要が立ち上がらなければ、稼がない設備と償却だけが残る。ミネベアパワーデバイスとの協業で負担は軽くなるが、結果はまだ見えない。
素材高と為替
素材価格の高騰が原価を押し上げ、営業赤字の一因になった。会社は材質変更や部品の共用で変動費を減らす考えだが、値上げを通しにくい市場で吸収しきれるかは読めない。
今後の分かれ目
- サンケンがアレグロ株を売り、代金を自社株買いや配当で戻すと発表したら
- 持ち株が株主に届く道が見えるので、戻り方を厚く見直す。楽観・やや楽観の確率を上げてよい。
- アレグロが他社から買収提案を受けたら
- サンケンの持ち株は一度に現金になる。持ち株の価値の見積もりを引き上げ、本質価値を見直す。
- 中国の白物家電向けの売上が底を打ち、インドなど新しい取引で穴が埋まり始めたら
- 本業の営業利益率の前提を上げ、やや悲観の確率を下げる。
- 下期に営業黒字が確認できず、今期の計画が未達になったら
- やや悲観・悲観の筋書きに重みを移し、本業が持ち株の価値を食う度合いを大きく見る。
- アレグロの株価が今の半分に下がったら
- 持ち株の価値が大きく縮み、本質価値は割高側に傾く。借入の返済余力も見直す。
- エフィッシモが会社に株主還元や持ち株の売却を強く求めたら
- 経営が動く可能性が高まる。戻り方を1.0に近づけて見直す。
見ておくもの
- コア事業の四半期の営業損益と、白物家電・自動車・産機民生それぞれの売上の動き
- アレグロ・マイクロシステムズの株価と決算(次回は10月29日)、サンケンの持分の増減
- サンケンの配当・自社株買いの発表と、アレグロ株の売却の有無
- ミネベアパワーデバイスとの協業の進み方と、EV向けパワーモジュールの受注
- エフィッシモの保有割合と、株主総会での提案
倍率と資本コストの決め方
先にセグメントごとの数量(市場×シェア)と値段の指数で10年後の売上と利益を積み、そこから倍率を式で決めた。今のサンケンの株価や過去のPER・PBRは倍率の根拠にしていない。アレグロ持分は時価を出発点にし、10年後はアレグロ株が資本コスト並みに育つ中立の置き方(今の2.5倍)から上下に5段階へ広げた。アレグロ自体の割安・割高は独自に判断していない。持ち株を株主に届く半分しか数えないことで、結論は大きく動く(全額なら大幅な割安)。この戻り方の判断が結論の最大の分かれ目である。ALGM 持分の含み益(税引き後7割)は自己資本に足した。リース負債の重い事業ではなく、新リース会計基準の影響は小さい。自己資本が「今+純利益−還元」から離れる注意は、アレグロ株の値上がり分(利益に入らない評価益)が自己資本に入るためで、事業の ROE は事業の自己資本だけで測った。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.32→13.21 倍・やや楽観 PER 7.89→11.25 倍・中立 PER 7.37→11.11 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。