結論
松尾電機は大阪のタンタルコンデンサとマイクロヒューズの会社だ。売上はわずか50億円余りだが、デンソー向けの車載部品で長く生き残ってきた。筆者の結論は「やや割高」だ。稼ぎの柱は回路を守る小さなヒューズで、利益率は4割を超える。一方で売上の6割を占めるタンタルは薄利で、全社の利益はヒューズの好調にかかっている。
2026年に台湾の電子部品大手、華新科技の系列の釜屋電機が増資を引き受け、持株は約4割になった。社長も釜屋電機の取締役を兼ねる。事業の行方も、余ったお金の使い道も、親会社の意向で決まる会社だ。
会社は2027年3月期に営業利益8億円を見込み、増資の5億円でAIサーバー向けの導電性高分子タンタルを増産する。うまく行けば利益は伸びる。ただ、タンタルではKEMETやKYOCERA AVXなど世界の大手と競い、値決めの力は弱い。ヒューズの高い利益率が10年続くかも確かではない。中立の姿で積み上げると、今の時価総額をわずかに下回る価値になる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ヒューズは良い事業だ。安全に関わる小さな部品で、客は替えたがらない。売上に比べて大きな利益を生み、追加の設備もそれほど要らない。この部分だけなら長く持ちたい。
一方で、会社全体のオーナーとしては気になる点が多い。タンタルは世界の大手と同じ土俵で戦う薄利の事業で、今そこに増資のお金を入れている。過去には減損と赤字で株主の資本を大きく失った。そして今は親会社が4割を握り、少数株主の声は届きにくい。
値段については、ヒューズの好調が続く前提なら妥当、崩れれば高いという位置にある。筆者が見方を変えるのは、導電性高分子タンタルの増産が利益率10%以上で回り始めた時だ。それまでは、安全域はほとんどない。
親会社の存在も安全域を削る。親会社が良い条件で残りの株を買い取ってくれれば報われるが、それを当てにして値段を払うのはバリュー投資ではない。
何で稼ぐ会社か
事業は二つの柱とフィルムコンデンサでできている。2026年3月期の売上51億円のうち、タンタルコンデンサが32億円、回路保護素子が18億円、その他が2億円だった。
タンタルコンデンサは、タンタルという金属の粉を固めて作る小さなコンデンサだ。小さくても大きな容量を持ち、電圧が安定する。車の電子制御ユニットや通信機器に使う。2025年に一部の古い製品の生産をやめ、チップ型に絞った。今は、内部に導電性の樹脂を使う導電性高分子タイプを伸ばしている。AIサーバーの半導体は電流が急に変わるので、瞬時に電流を補うこの部品の引き合いが強い。
回路保護素子は、電流が流れ過ぎた時に溶けて回路を守るマイクロヒューズが中心だ。車の電子部品の中で、火災や故障の広がりを防ぐ最後の守りになる。売上は18億円だが、利益は8億円を超え、全社の利益のほとんどをここで稼ぐ。
客は自動車部品が中心で、デンソーのグループ向けが売上の37%を占める。海外は親会社の系列の釜屋電機が販路を担う。
工場は国内にあり、タンタルの粉など原料は海外から買う。原料の値段はコンゴなどの産地の事情で振れやすく、値上げを客に転嫁できるかが利益を左右する。
優良さと弱いところ
優良さはヒューズにある。車の部品は一度採用されると、その車種の生産が続く間は替えられにくい。安全に関わる部品なので、客は実績のある品を使い続ける。利益率47%はその強さの表れだ。ただ、数年前は1割台だったので、今の利益率が続くとは言い切れない。
タンタルの質は低い。世界ではKEMET(台湾の国巨の傘下)、KYOCERA AVX、ビシェイ、パナソニックが大きく、松尾電機はその中の小さな一社だ。積層セラミックコンデンサの大容量化で、タンタルの出番が減る流れもある。セグメントの利益率は5%台にとどまる。
資本の効率は過去に悪かった。2015〜2020年は減損と赤字が続き、自己資本は半分以下に減った。2021年以降はヒューズのおかげで立ち直ったが、配当は長く無配で、2027年3月期にようやく再開する。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
コンデンサの世界市場は、スマホ向けが伸び悩む一方、車の電装化とAIサーバーが数量を押し上げている。タンタルコンデンサはその中の小さな分野で、主役は積層セラミックコンデンサ、つまりMLCCだ。村田製作所や太陽誘電が大容量のMLCCを出すたびに、タンタルの置き換えが進んできた。
それでもタンタルには残る場所がある。高い電圧や温度で容量が安定し、壊れ方も読みやすい。車載とサーバーの電源で、導電性高分子タンタルの需要は伸びる。KEMETやパナソニックも増産しており、値段は物価ほど上がらないと見るのが筋だ。
マイクロヒューズは、車1台あたりの電子制御ユニットの数とともに増える。電気自動車や運転支援で電子部品が増えるほど、回路を守る部品も増える。競合は国内外の部品会社だが、車載で採用を得るには長い認定の手間が要る。ただし日本の自動車生産は横ばいで、数量は世界の電装化の速さしだいだ。10年の中立では、タンタルは数量が4割増え、ヒューズは2割増え、値段は物価をやや下回ると置く。タンタルの原料は紛争鉱物の規制の対象で、調達の手間も小さな会社には重い。
資本政策と M&A
2026年4月、釜屋電機に627,000株の新株を割り当て、約5億円を集めた。使い道は導電性高分子タンタルの増産設備だ。株数は2割増え、釜屋電機の持株は約27%から約39%に上がった。釜屋電機は台湾の華新科技の100%子会社で、届出書は華新科技を親会社と書く。2022年にも同じ相手に増資している。
配当は2027年3月期に再開する予定で、配当性向は1割余りだ。借入は約21億円、現金と預金は15億円ある。
親会社が4割を持つので、残りの株を買い取って完全子会社にする可能性はある。ただ、それがいつ、いくらで起きるかは読めない。少数株主にとっては、親会社の都合で配当や設備の判断が決まる点が弱みになる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
この会社には二つの成長の芽がある。一つはAIサーバーだ。半導体の消費電力が増えるほど、瞬時に電流を補う導電性高分子タンタルの需要は増える。会社は増資の5億円で生産を増やし、2027年3月期には売上60億円、営業利益8億円を見込む。
もう一つはヒューズだ。車の電子制御ユニットは電気自動車と運転支援で増え続け、その一つ一つに回路を守る部品が要る。利益率4割を超えるこの事業が少しでも伸びれば、全社の利益は大きく動く。
親会社の華新科技は世界の受動部品の大手で、海外の販路を持つ。デンソー頼みの売り先が海外に広がれば、規模の弱さは補える。親会社がいずれ完全子会社にするなら、少数株主は買い取りの上乗せを受け取れる。今の時価総額は会社予想の純利益の10倍ほどで、成長を考えれば安い。
過去の赤字は古い品種を抱えていたためで、2025年にそれをやめたことで利益の質は上がった。営業キャッシュフローは2026年3月期に7.8億円と、純利益の2倍を稼いでいる。
慎重な見方
利益の柱はヒューズだけで、その利益率は数年前の1割台から急に4割台へ跳ねた。部品の不足や値上げの追い風が去れば、利益率は大きく戻る。そうなれば全社の利益は半分になる。
タンタルは世界の大手との競争だ。KEMETやパナソニックも導電性高分子を増産しており、小さな会社の増産は値段の下げに飲み込まれやすい。MLCCの大容量化で、タンタルの出番そのものも細る。2015〜2020年の減損と赤字は、この事業の厳しさを示している。
客の4割近くがデンソーのグループだ。車の生産や部品の選定が変われば、売上は一気に揺れる。そして親会社が4割を持つ。配当は再開しても配当性向は1割余りで、残りの利益の使い道は親会社が決める。増資は既存の株主の取り分を2割薄めた。少数株主に有利な判断が続く保証はない。
2027年3月期の第1四半期は、売上が1割増えたのに営業利益は2割以上減った。増産の費用が先に出ており、計画の8億円は楽な目標ではない。
どちらに重みを置いたか
両者の言い分はほぼ拮抗するが、慎重な見方がわずかに強い。ヒューズの価値とAIサーバーの追い風は本物だ。ただ、ヒューズの利益率が今の高さで続く根拠は弱く、タンタルの増産も値段の競争にさらされる。親会社の支配で少数株主の取り分も細りやすい。確率は中立を中心に、楽観側に3割強、悲観側に3割を置いた。ヒューズの稼ぎがある限り、会社が傾く筋書きは厚くしない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,977 円76 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 335 円13 億円)。 今の値に割り戻すと 1,097 円42 億円、今との差 −6.9%、 期待の年率 +7.0%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 4,373 円168 億円 | 626 円24 億円 | +324.4% | +15.6% | 500 円19 億円 |
| やや楽観 | 22% | 2,966 円114 億円 | 469 円18 億円 | +191.6% | +11.3% | 756 円29 億円 |
| 中立 | 38% | 2,088 円80 億円 | 365 円14 億円 | +108.3% | +7.6% | 932 円36 億円 |
| やや悲観 | 19% | 397 円15 億円 | 130 円5 億円 | −55.2% | −7.7% | 100 円4 億円 |
| 悲観 | 11% | 164 円6 億円 | 52 円2 億円 | −81.6% | −15.6% | 24 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,977 円76 億円 | 335 円13 億円 | +96.3% | +7.0% | 2,312 円89 億円 |
今の株価時価総額 1,178 円45 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 10% AIサーバーでタンタルが化ける 利益 12 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 4,373 円168 億円
AIサーバーの半導体の消費電力は増え続け、電源の周りに置く導電性高分子タンタルの数が増える。増資で入れた設備がすぐに埋まり、追加の増産にも進む。親会社の華新科技の販路で、海外のサーバー向けの客が増える。タンタルの出荷は今の2倍近くになり、利益率は12%まで上がる。
ヒューズは車の電子制御ユニットの増加に乗って数量が4割増え、利益率も4割台を保つ。全社の営業利益は17億円近くに達する。配当性向も2割台に上がり、少数株主にも利益が届く。ROEは12%台に上がり、資本コストを上回る。華新科技がこの成長を取り込もうと、残りの株の買い取りを提案する可能性も高まる。
- タンタルコンデンサ:数量 5.0(出荷個数(億個・年、推定))× 価格 16(1個あたりの売上(円))→ 売上 78 億円・営業利益 9 億円。5億個×単価1.27倍、利益率12%
- 回路保護素子:数量 4.2(出荷個数(億個・年、推定))× 価格 7.60(1個あたりの売上(円))→ 売上 32 億円・営業利益 13 億円。4.2億個×単価1.28倍、利益率42%
- その他(フィルムコンデンサ):数量 0.3(出荷個数(億個・年、推定))× 価格 13(1個あたりの売上(円))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。0.3億個×単価1.34倍
倍率:事業の純利益 12 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.6% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.2 倍。全体の PER 14.18 倍、時価総額 163 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIサーバーの電源で導電性高分子タンタルが大きく採用され、ヒューズの利益率も保たれる姿。両方がそろう必要があるので1割。
やや楽観 22% 増産が埋まり利益が一段上がる 利益 8 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 2,966 円114 億円
導電性高分子タンタルの増産設備は2〜3年で埋まり、出荷は今の1.6倍になる。値段は大手との競争で物価ほどは上がらないが、品種の入れ替えで1個あたりの売上は上がる。タンタルの利益率は10%に乗る。
ヒューズは車の電装化で数量が3割増え、利益率は4割をやや下回る水準で落ち着く。全社の営業利益は12億円台で、会社の今の計画の1.5倍ほどだ。配当は少しずつ増えるが、利益の多くは設備と運転資金に回る。親会社の支配は変わらず、配当性向は2割前後にとどまる。それでもROEは資本コストを少し上回り、帳簿の価値に近い値段は付く。
- タンタルコンデンサ:数量 4.2(出荷個数(億個・年、推定))× 価格 15(1個あたりの売上(円))→ 売上 63 億円・営業利益 6 億円。4.2億個×単価1.23倍、利益率10%
- 回路保護素子:数量 3.9(出荷個数(億個・年、推定))× 価格 7.50(1個あたりの売上(円))→ 売上 29 億円・営業利益 12 億円。3.9億個×単価1.27倍、利益率40%
- その他(フィルムコンデンサ):数量 0.3(出荷個数(億個・年、推定))× 価格 13(1個あたりの売上(円))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。0.25億個×単価1.34倍
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.1% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍。全体の PER 13.15 倍、時価総額 108 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の2027年3月期の計画と増資の使い道がそのまま実を結ぶ姿。AIサーバーの追い風が確かなので中立の次に厚くした。
中立 38% ヒューズが支え、タンタルは小さく伸びる 利益 6 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 2,088 円80 億円
導電性高分子タンタルの出荷は増えるが、KEMETやパナソニックの増産で値段は物価を下回る。タンタルの出荷は4割増え、利益率は9%前後だ。積層セラミックへの置き換えも続き、古い品種は細る。
ヒューズは車の電子部品の増加で数量が2割増えるが、今の4割台の利益率は少し戻り、38%前後に落ち着く。それでも全社の利益の柱であることは変わらない。全社の営業利益は9億円台で、売上の1割強だ。本社と開発の費用は物価で増える。
配当はわずかに増えるが、配当性向は2割に満たない。利益の多くは社内に残り、ROEは資本コストを下回る。
- タンタルコンデンサ:数量 3.6(出荷個数(億個・年、推定))× 価格 15(1個あたりの売上(円))→ 売上 53 億円・営業利益 5 億円。3.6億個×単価1.2倍(KEMET・パナソニックの増産で物価を下回る)、利益率9%
- 回路保護素子:数量 3.6(出荷個数(億個・年、推定))× 価格 7.40(1個あたりの売上(円))→ 売上 27 億円・営業利益 10 億円。3.6億個×単価1.25倍、利益率38%
- その他(フィルムコンデンサ):数量 0.2(出荷個数(億個・年、推定))× 価格 13(1個あたりの売上(円))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。0.2億個×単価1.34倍
倍率:事業の純利益 6 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.09 倍、時価総額 72 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の計画をやや割り引き、ヒューズの利益率が少し戻る姿を中心に置いた。
やや悲観 19% ヒューズの利益率が戻る 利益 1 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 397 円15 億円
部品不足の追い風が去り、ヒューズの値段は下がる。数量は横ばいで、利益率は3割まで戻る。タンタルは大手の値下げに押され、増産設備は思ったほど埋まらない。利益率は4%にとどまる。
全社の営業利益は2億円台に落ち、本社と開発の費用を引くとほとんど残らない。増資で入れた設備の償却が重く、ROEは1%台に沈む。配当は形だけ続く。親会社は追加の支援をする代わりに、取引の条件を自社に有利にする。少数株主は、帳簿の価値よりはるかに低い値段しか付けてもらえない。
会社が傾くわけではないが、資本コストに届かない稼ぎが10年続く。
- タンタルコンデンサ:数量 2.8(出荷個数(億個・年、推定))× 価格 14(1個あたりの売上(円))→ 売上 38 億円・営業利益 2 億円。2.8億個×単価1.1倍、利益率4%
- 回路保護素子:数量 3.0(出荷個数(億個・年、推定))× 価格 6.80(1個あたりの売上(円))→ 売上 20 億円・営業利益 6 億円。3億個×単価1.15倍、利益率30%
- その他(フィルムコンデンサ):数量 0.2(出荷個数(億個・年、推定))× 価格 12(1個あたりの売上(円))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。0.15億個
倍率:ROE1.6%で資本コストに遠く届かない。帳簿は床にならないので稼ぐ力(純利益÷k)で置き、PERは1÷kに近い11倍。今の自己資本に対するPBRは0.27倍で中立より低い。純負債の会社で売れる資産の床も無いので、注意の出るPBRの低さはそのまま残す。
確率:ヒューズの利益率は数年前は1割台で、今の高さは特別な追い風の面がある。戻る筋書きを2割弱置いた。
悲観 11% タンタルが置き換えられ赤字に戻る 利益 −5 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 164 円6 億円
MLCCの大容量化が進み、車載とサーバーの両方でタンタルの採用が減る。増産した設備は遊び、減損を出す。タンタルは赤字になり、再び古い品種の生産をやめる。
ヒューズはデンソーの部品の選定が変わって数量が減り、利益率も2割を割り込む。全社は営業赤字で、減損と構造改革の費用で数年続けて最終赤字になる。借入の借り換えの金利も上がり、利払いが重くなる。親会社は追加の増資で支えるが、株はさらに薄まる。2010年代後半と同じ姿に戻る。
少数株主に残るのは、減り続ける帳簿の価値と、親会社が安い値段で残りの株を買い取るかもしれないという不安だけだ。
- タンタルコンデンサ:数量 2.0(出荷個数(億個・年、推定))× 価格 13(1個あたりの売上(円))→ 売上 25 億円・営業利益 −2 億円。2億個×単価1.02倍、赤字
- 回路保護素子:数量 2.6(出荷個数(億個・年、推定))× 価格 6.50(1個あたりの売上(円))→ 売上 17 億円・営業利益 3 億円。2.6億個×単価1.1倍、利益率18%
- その他(フィルムコンデンサ):数量 0.1(出荷個数(億個・年、推定))× 価格 11(1個あたりの売上(円))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。0.1億個、赤字
倍率:赤字なのでPBRで置く。累損で自己資本は細る。稼ぐ力がないので床は帳簿でなく、増資の前の今の自己資本31.3億円に0.2倍を掛けた(増資の5億円は設備に消える前提)。
確率:2015〜2020年に赤字と減損が続いた歴史があるので1割強を置いた。ヒューズの稼ぎが残るので厚くはしない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
タンタルコンデンサ
チップ型のタンタルコンデンサ。導電性高分子タイプを増産中。
| 数量出荷個数(億個・年、推定) | 価格1個あたりの売上(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.6 | 12 | 32 | 2 |
| 10 年後 中立 | 3.6 | 15 | 53 | 5 |
取り方:個数の開示は無い。売上31.7億円を、車載・民生のチップ品の平均単価を1万個あたり約12万円と置いて約2.6億個と推定。
回路保護素子
マイクロヒューズなど、過電流で回路を守る部品。
| 数量出荷個数(億個・年、推定) | 価格1個あたりの売上(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.0 | 5.92 | 18 | 8 |
| 10 年後 中立 | 3.6 | 7.40 | 27 | 10 |
取り方:個数の開示は無い。売上17.8億円を、平均単価を1万個あたり約6万円と置いて約3億個と推定。
その他(フィルムコンデンサ)
フィルムコンデンサなど。
| 数量出荷個数(億個・年、推定) | 価格1個あたりの売上(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.2 | 9.70 | 2 | 0 |
| 10 年後 中立 | 0.2 | 13 | 3 | 0 |
取り方:個数は推定。売上1.9億円を平均単価を1万個あたり約10万円と置いた。
リスクと懸念
ヒューズの利益率の戻り
回路保護素子の利益率は数年前の1割台から4割台に上がった。部品不足の追い風や値上げの効果が薄れれば、利益率は大きく下がる。全社の利益の大半を稼ぐ事業なので、全社の利益は半分近くまで減りうる。
タンタルの価格競争と置き換え
KEMETやパナソニックなど大手も導電性高分子タンタルを増産している。MLCCの大容量化でタンタルの出番が減る流れも続く。増資で入れた設備が値段の下げで稼がない恐れがある。
デンソーへの偏り
売上の37%がデンソーのグループ向けだ。車の生産の落ち込みや、部品の採用の変更が一度に効く。
親会社の支配
釜屋電機(華新科技の系列)が約4割を持ち、社長も兼務する。配当や設備、取引の条件が親会社の都合で決まりやすい。追加の増資で株が薄まる可能性もある。
過去の減損の繰り返し
2015〜2020年は赤字と減損が続き、自己資本を大きく失った。2025年にも一部製品の生産終了で特別損失を出している。設備投資の判断を誤れば、同じことが起きうる。
今後の分かれ目
- 導電性高分子タンタルの増産が埋まり、タンタルの利益率が10%を超える
- やや楽観の筋書きに近づく。全社の営業利益は10億円を超える。
- 回路保護素子の利益率が3割を割り込む
- 全社の利益の柱が細り、やや悲観の筋書きに寄る。
- 華新科技が残りの株の買い取りを提案する
- 少数株主は上乗せを受け取れる。値段は提案の条件しだいになる。
- デンソー向けの売上が大きく減る
- ヒューズとタンタルの両方が落ち、悲観側の筋書きに寄る。
- 配当性向が3割以上に引き上げられる
- 親会社の支配の不安が薄れ、少数株主の取り分が見えやすくなる。
見ておくもの
- 回路保護素子の利益率
- タンタルコンデンサの利益率と導電性高分子の出荷
- デンソー向けの売上の割合
- 親会社(釜屋電機・華新科技)の持株と取引の条件
- 配当性向
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や過去のPERから置いていない。中立の10年ROEは7%台で資本コスト8.5%を下回るので、PERの上限は1÷kの約11.8倍で、その85%に置いた。楽観側はROEがkを上回り、普通の堀(残る割合1/2)の正当化PERの8割強。悲観側は稼ぐ力(純利益÷k)と今の自己資本に掛けたPBRで置いた。2026年4月の増資で株数は2割増えたが、時価総額で書いているので、増資の後の自己資本36.3億円を起点にした。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.5→14.18 倍・やや楽観 PER 10.5→13.15 倍・中立 PER 10→12.09 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に質の上乗せ1.0%。