結論
愛知電機は、変圧器の電力機器、空調用などのモータ、半導体用のプリント基板の三本柱を持つ中部電力系の中堅メーカーだ。2026年3月期は純利益85億円と過去最高を更新した。筆者の結論は、本質価値が今の時価総額をわずかに上回る「適正」圏だというものだ。決め手は、AI向けの基板がこの先も伸び続けるのか、それとも設備投資の重さに食われるのかという一点にある。
稼ぎの中身はこの数年で入れ替わった。利益の約4割は基板、約4割は電力機器が生む。売上の4割を占める回転機は、利益率が4%に届かない。つまり売上の見た目と、利益の源泉がずれている。
基板の主力は、半導体のパッケージに使うコアだ。生成AI向けの需要で売上は前期に3割以上伸びた。ただし最大の取引先は海外の基板大手で、基板売上の約4割を占める。この顧客が購入を絞れば、新発田の新工場は一気に重荷になる。
電力機器は、中部電力グループ向けの安定した需要が土台だ。守りは堅い。一方で、取替需要の一巡で足もとは減収に傾いており、成長の主役は務まらない。
10年の中立は、基板が数量で1.6倍になり、電力機器が一般産業向けで緩やかに伸び、回転機は横ばいという姿だ。それでも自己資本が厚く増えるため、ROEは8%前後にとどまる。資本コストは基本の7.5%に品質の+0.75%を足した8.25%で測った。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、オーナー利益、つまり設備投資を引いた後に株主の手元に残る利益を見る。この会社は、稼いだ利益の多くを基板の設備に再投資している。投下した資本が長く高い稼ぎを生むなら、それは価値の増える再投資だ。生まなければ、利益は積んだ帳簿の数字にとどまる。
堀の幅は、事業ごとに違う。電力機器は、顧客の信頼と認証で守られた狭いが深い堀だ。基板は、技術で先行しているが、顧客が少数で、仕様の変化にも弱い。回転機に堀はほとんどない。
10年後の姿は読みにくい。基板の需要は大きいが、AIの設備投資が10年続くかは誰にも分からない。分からない部分は、確信度を下げて扱うのが安全だ。
安全域は、今の値段に対して薄い。純現金と自己資本比率の高さは、倒れにくさを与える。ただ、悪い結末を割り引いても、価値が今の値段を大きく上回るわけではない。筆者は、10年の期待値は今の値段付近とみて、安く買える会社ではないと考える。
何で稼ぐ会社か
事業は三つに分かれる。電力機器は、柱上変圧器や中型変圧器、制御機器の製造と、電力設備の工事を担う。販売先の中心は中部電力パワーグリッドで、中部電力グループ向けは全社売上の約12%にあたる。製造は岐阜愛知電機が受け持つ。変圧器では、ダイヘンや東光高岳、東芝、日立などが競合する。
回転機は、建物の空調用モータ、車載の空調用モータ、電動ベッドのアクチュエータ、水中ポンプのモータなどだ。主力は中国の子会社で、蘇州と広州で造る。中国の建物空調と車載の受注が落ち、利益率は3%台まで下がった。空調の回復は遅く、EVの伸び悩みも響いている。
プリント基板は、子会社の愛工機器製作所が担う。両面・多層基板に加え、AIサーバー向けのパッケージ基板に使うコアを造る。旧京セラ工場の建屋を取得して新発田に新工場を建て、2024年に竣工した。第3期と第4期を合わせて約170億円を投じている。最大の取引先は、オーストリア系のAT&Sの重慶拠点だ。
中期経営計画2028は、売上1,500億円、営業利益100億円、ROIC6%以上を掲げる。配当性向は30%以上を目安にし、基板を回転機から切り離して独立の事業とする。営業利益の目標は、すでに今期の予想水準に届いている。
優良さと弱いところ
優良さを一言で言えば、「堅い土台の上に、浮き沈みの激しい成長事業が乗っている」会社だ。
土台は電力機器である。中部電力という安定した顧客が、需要の底を支える。自己資本比率は約60%で、純現金も約100億円ある。財務の傷みは小さい。
基板は強みであると同時に、最大の弱みでもある。コアの量産で顧客の評価を得て、利益率は16%台に乗った。しかし、取引先は少数に偏り、AIの設備投資の循環に左右される。製品の仕様が変われば、設備の価値が一気に落ちる。他社がまねできない強み、つまり堀は、中型の技術力と顧客との信頼にとどまる。独占ではない。
回転機は、中国勢との価格競争に巻き込まれている。ROEは直近で約10%だが、過去10年の中央値は約8%だ。10%は基板の好況が押し上げた値で、長く続くとは限らない。
経営は慎重で、設備投資の判断も堅実だ。ただ、大型投資が重なる局面で、投下した資本がどれだけ稼ぐかは、これから結果が出る。筆者はそこを最も注視している。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
電力機器の市場は、二つの顔を持つ。一つは中部電力のような電力会社向けの配電用変圧器で、更新需要が中心だ。国内の人口が減るため、数量は伸びない。もう一つは、工場やデータセンターなど一般産業向けの中型変圧器だ。電化の流れで、こちらは緩やかに伸びる。足もとは、小型変圧器の取替需要が一巡して減収に傾いた。
空調用モータは、中国の不動産不況で建物向けの需要が弱い。車載は、世界のEV需要が伸び悩んでいる。ここは数量の回復を待つしかない。中国の現地メーカーも力をつけており、値下げの圧力が続く。
プリント基板の中でも、パッケージ基板のコアは、AIサーバーの増加で最も勢いがある分野だ。AI向けの半導体は、大型で多層の基板を必要とする。コアはその芯材で、需要が増えれば使う量も増える。ただし、設備を増やす側の競争も激しい。新素材のコアが実用化されれば、現在の技術は置き換えられる恐れがある。
総じて、電力機器は需要の底が固く、基板は上にも下にも大きく振れ、回転機は低い利益率で粘る。この三つが同じ会社に同居するため、全体の評価は事業構成の変化に敏感だ。
資本政策と M&A
株主構成は、中部電力が約25%を持つ筆頭株主だ。ほかに古河電気工業や取引金融機関が並ぶ。経営の独立性は保たれているが、中部電力との関係は、電力機器の需要を支える強みであり、同時に大型の資本再編を起こしにくい要因でもある。
還元は配当が中心だ。配当性向は約30%で、中期計画の下限と同じ水準にある。自社株買いは小さい。利益の多くを設備投資に回している。
新発田工場の投資は、第3期と第4期で約170億円にのぼる。前期の設備投資は約120億円の計画だった。投資が先行し、純現金は増えていない。基板の売上が計画どおりに増えれば報われるが、遅れれば減価償却が利益を圧迫する。
買収の話は目立たない。TOBや再編の可能性はあるが、中部電力が約25%を握る構造では、第三者の動きは読みにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
基板の成長はまだ序盤だ。AIサーバーの増加で、パッケージ基板用コアの需要は何年も伸びる。新発田工場は建屋を取得して早く立ち上がり、投資の回収が始まったばかりだ。基板の利益率は16%台に乗り、設備が埋まるほど固定費が薄まる。最大の取引先との関係も、量産実績の積み重ねで深まっている。
電力機器は、電化の流れで一般産業向けの中型変圧器が伸びる。中部電力向けの安定収益が、基板の変動を受け止めてくれる。回転機も、空調の回復とEVの再加速で、赤字を避けながら利益を戻せる。
財務は強い。自己資本比率は約60%、純現金は約100億円ある。この体力で、基板の追加投資を自前で賄える。中期計画で掲げた営業利益100億円は、すでに今期の予想水準だ。次の計画では、基板の拡大で営業利益が150億円を超える余地もある。
中部電力が約25%を持つ安定株主であることも、長期の投資を続けやすくする。短期の株価に振り回されず、設備を先に整えて需要を待てるのは、この会社の強みだ。
慎重な見方
基板は、利益の4割を担うのに、顧客が少数に偏っている。最大の取引先1社で基板売上の約4割だ。この顧客が内製や他社に切り替えれば、設備は遊ぶ。新素材のコアが実用化されれば、現在の技術そのものが古くなる。AI向けの設備投資も、過去の半導体と同様に循環する。
投資の負担は重い。新発田の第3期と第4期で約170億円を投じ、減価償却はこれから膨らむ。会社自身が今期の営業利益を減らす計画にしている。基板の利益率16%台は、設備が満杯の好況期の値だ。
回転機は中国勢との値下げ競争に巻き込まれ、利益率は4%に届かない。電力機器も、取替需要が一巡して足もとは減収だ。三つの事業の中で、安定して伸びる事業が見当たらない。ROEは過去10年の中央値で約8%と、資本コストを下回る水準が続いてきた。今の好況をそのまま10年に延ばす根拠は弱い。
中部電力が約25%を持つため、資本の効率を急ぐ圧力も弱い。ROICの目標は6%と低く、資本コストを上回る約束にはなっていない。
どちらに重みを置いたか
基板の成長力と財務の厚みでは、強気の見方に説得力がある。ただ、顧客の偏り、設備投資の重さ、ROEが資本コストに届かない歴史では、慎重な見方が重い。確率は中立を最も厚くしつつ、基板の失速を含むやや悲観と悲観の合計をやや厚く置いた。結果として、期待値は今の値段のわずかに上、適正圏に収まった。基板が当たれば大きく上に、外れれば純現金と資産が下を支える。上と下の幅が大きい会社であり、期待値だけで安心できる型ではない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 19,943 円1,875 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 3,839 円361 億円)。 今の値に割り戻すと 12,097 円1,137 億円、今との差 +49.3%、 期待の年率 +11.4%(資本コスト 7.8%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 46,347 円4,357 億円 | 6,298 円592 億円 | +549.9% | +20.6% | 5,264 円495 億円 |
| やや楽観 | 20% | 31,884 円2,997 億円 | 4,989 円469 億円 | +355.2% | +16.4% | 7,375 円693 億円 |
| 中立 | 33% | 20,048 円1,885 億円 | 3,851 円362 億円 | +195.1% | +11.4% | 7,887 円741 億円 |
| やや悲観 | 24% | 7,585 円713 億円 | 3,053 円287 億円 | +31.3% | +2.8% | 2,553 円240 億円 |
| 悲観 | 13% | 3,808 円358 億円 | 1,596 円150 億円 | −33.3% | −4.0% | 703 円66 億円 |
| 加重平均 | 100% | 19,943 円1,875 億円 | 3,839 円361 億円 | +193.6% | +11.4% | 23,782 円2,236 億円 |
今の株価時価総額 8,100 円761 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 基板がAI需要を取り切り、第二の本業になる 利益 254 億円 · PER 16.8 倍 · 株価時価総額 46,347 円4,357 億円
AIサーバー向けのパッケージ基板が10年にわたって伸び、愛工機器は新発田の設備を満杯にして増設を重ねる。最大の取引先に加えて、国内外の複数の基板メーカーとも取引が広がり、顧客の偏りが解ける。基板の売上は今の3倍を超え、営業利益率は17%に乗る。電力機器は電化の流れで一般産業向けの中型変圧器が伸び、中部電力向けの安定収益が下支えを続ける。回転機は空調と車載の回復で利益が戻る。会社は売上1,500億円の計画を大きく超え、基板が利益の過半を占める企業に変わる。配当性向は3割台半ばに保たれ、自己資本は厚みを増す。
- 電力機器:数量 256(変圧器・工事の取扱量(変圧器の容量に換算した万 kVA 相当・推定))× 価格 2.80(1 万 kVA 相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 718 億円・営業利益 115 億円。実質 1.35 倍×価格 1.40 倍、営業利益率 16%
- 回転機:数量 1,788(モータ・応用機器の出荷台数(万台・推定))× 価格 5,000(1 台あたり売上(円・名目))→ 売上 894 億円・営業利益 58 億円。実質 1.25 倍×価格 1.25 倍、営業利益率 6.5%
- プリント基板:数量 144(基板の出荷面積(万㎡・推定))× 価格 74,273(1 ㎡あたり売上(円・名目))→ 売上 1,070 億円・営業利益 182 億円。実質 2.4 倍×価格 1.30 倍、営業利益率 17%
倍率:事業の純利益 254 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.8 倍。全体の PER 16.82 倍、時価総額 4,272 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:基板の数量が2.4倍に伸び、顧客の偏りも解け、新素材への置き換えも起きないという条件がそろう必要があり、連続成功の確度は高くない。
やや楽観 20% 基板の成長が続き、電力機器が下支え 利益 183 億円 · PER 15.8 倍 · 株価時価総額 31,884 円2,997 億円
基板の数量は10年で2倍に伸びる。新発田の第4期までが順調に稼働し、顧客も少しずつ分散する。営業利益率は15%台を保つ。電力機器は一般産業向け中型変圧器の増加で、数量が2割強伸びる。取替需要の一巡は数年で解消し、中部電力向けは底堅い。回転機は空調の回復で数量が1割強戻るが、中国勢との価格競争が続き、利益率は5%台にとどまる。全社の売上は2,200億円台、営業利益は230億円台に乗る。基板の比重が高まるため、利益の振れ幅は大きくなる。配当は利益の3割台半ばを保ち、自己資本も着実に積み上がる。会社の計画を一段上回るが、基板が全体を引っ張る構図は変わらず、顧客の偏りという弱みは残る。
- 電力機器:数量 232(変圧器・工事の取扱量(変圧器の容量に換算した万 kVA 相当・推定))× 価格 2.74(1 万 kVA 相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 636 億円・営業利益 92 億円。実質 1.22 倍×価格 1.37 倍、営業利益率 14.5%
- 回転機:数量 1,603(モータ・応用機器の出荷台数(万台・推定))× 価格 4,800(1 台あたり売上(円・名目))→ 売上 769 億円・営業利益 42 億円。実質 1.12 倍×価格 1.20 倍、営業利益率 5.5%
- プリント基板:数量 120(基板の出荷面積(万㎡・推定))× 価格 71,416(1 ㎡あたり売上(円・名目))→ 売上 858 億円・営業利益 133 億円。実質 2.0 倍×価格 1.25 倍、営業利益率 15.5%
倍率:事業の純利益 183 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.7 倍。全体の PER 15.75 倍、時価総額 2,882 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI向けの基板が成長を続ける姿は、現在の受注の勢いから見て現実的な上位の想定。ただし設備の償却と値下げ圧力があり、楽観ほどは置かない。
中立 33% 基板は伸びるが、投資と値下げで利益率は落ち着く 利益 122 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 20,048 円1,885 億円
基板は10年で数量が1.6倍に伸びる。AIサーバー向けの需要は続くが、新発田の新しい設備の償却が重く、顧客からの値下げ要求もあって、営業利益率は13%に落ち着く。電力機器は、一般産業向け中型変圧器の伸びで数量が1割増える。配電用は人口減で伸びず、中部電力向けは横ばいだ。回転機は数量が横ばいで、中国勢に価格を押さえられ、利益率は4.5%にとどまる。回転機と基板の価格は、物価の上昇分(10年で1.34倍)には届かず、それぞれ1.15倍と1.2倍にとどまる。中国勢との値下げ競争と、顧客からの値下げ要求がその理由だ。全社の売上は1,900億円弱、営業利益は150億円台になる。中期計画の売上1,500億円は超えるが、利益率は今の水準を下回る。自己資本は厚くなり、ROEは8%前後だ。
- 電力機器:数量 209(変圧器・工事の取扱量(変圧器の容量に換算した万 kVA 相当・推定))× 価格 2.68(1 万 kVA 相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 560 億円・営業利益 73 億円。実質 1.10 倍×価格 1.34 倍、営業利益率 13%
- 回転機:数量 1,430(モータ・応用機器の出荷台数(万台・推定))× 価格 4,600(1 台あたり売上(円・名目))→ 売上 658 億円・営業利益 30 億円。実質 1.0 倍×価格 1.15 倍(中国勢との競争で物価並みには上がらない)、営業利益率 4.5%
- プリント基板:数量 95.9(基板の出荷面積(万㎡・推定))× 価格 68,560(1 ㎡あたり売上(円・名目))→ 売上 658 億円・営業利益 86 億円。実質 1.6 倍×価格 1.20 倍(値下げ要求で物価並みには上がらない)、営業利益率 13%
倍率:事業の純利益 122 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.2 倍。全体の PER 14.18 倍、時価総額 1,730 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:基板は伸びるが、設備の償却と顧客からの値下げ要求で利益率が下がり、電力機器と回転機は大きく動かないという、最も起きやすい中間の姿。
やや悲観 24% 基板が頭打ちになり、回転機の低採算が残る 利益 59 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 7,585 円713 億円
AI向けの設備投資が一巡し、基板の数量は1.2倍にとどまる。新発田の設備は半分程度しか埋まらず、償却が利益を食う。値下げも進み、基板の営業利益率は9%に下がる。電力機器は取替需要の一巡で数量が横ばいとなり、入札で価格を押さえられて利益率は10%台前半に下がる。回転機は空調とEVの回復が弱く、数量が1割減り、利益率は2%台に落ちる。会社は減益が続き、増配の余地は小さくなる。それでも事業は崩れず、配当は維持される。電力機器の中部電力向けが下支えとなり、純現金も大きくは減らない。成長を前提にした設備投資の回収だけが遅れ、利益は今の水準を下回り続ける。投資家の見る目は、成長企業から普通の部品メーカーへ移る。
- 電力機器:数量 186(変圧器・工事の取扱量(変圧器の容量に換算した万 kVA 相当・推定))× 価格 2.60(1 万 kVA 相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 485 億円・営業利益 51 億円。実質 0.98 倍×価格 1.30 倍、営業利益率 10.5%
- 回転機:数量 1,258(モータ・応用機器の出荷台数(万台・推定))× 価格 4,320(1 台あたり売上(円・名目))→ 売上 543 億円・営業利益 14 億円。実質 0.88 倍×価格 1.08 倍、営業利益率 2.5%
- プリント基板:数量 71.9(基板の出荷面積(万㎡・推定))× 価格 62,846(1 ㎡あたり売上(円・名目))→ 売上 452 億円・営業利益 41 億円。実質 1.2 倍×価格 1.10 倍、営業利益率 9%
倍率:ROE 4.5% は資本コスト 7.75% に届かず、ためた利益は額面未満の価値。稼ぐ力(利益÷k)の上限 12.1 倍の 8 割を置いた。市場の倍率は根拠にしない。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 9.7 倍・時価総額 572 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:基板の成長が一巡し、回転機が中国勢に押される姿は、過去の電気機器の循環を踏まえると十分に起きうる。
悲観 13% 基板の顧客と技術を同時に失う 利益 −19 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 3,808 円358 億円
最大の取引先が内製化や他社への切り替えで購入を大きく減らし、新素材のコアが主流になって、愛工機器の設備は大半が使われなくなる。基板は赤字に転落し、新発田の設備は減損される。回転機は中国勢との値下げ競争で数量が3割以上減り、赤字になる。電力機器は入札での価格競争が激しくなり、数量も減って利益が細る。会社全体が赤字となり、配当は大きく減る。自己資本は減損で縮み、価値は純現金と売れる資産で支えられる局面になる。中部電力が支える電力機器だけは残るが、それも入札での値下げで利益は薄い。経営は事業の絞り込みを迫られ、回転機の整理や設備の売却が現実の選択肢になる。ここまで悪い結末は低い確率だが、顧客が少数に偏る会社では無視できない。
- 電力機器:数量 152(変圧器・工事の取扱量(変圧器の容量に換算した万 kVA 相当・推定))× 価格 2.40(1 万 kVA 相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 365 億円・営業利益 22 億円。実質 0.80 倍×価格 1.20 倍、営業利益率 6%
- 回転機:数量 930(モータ・応用機器の出荷台数(万台・推定))× 価格 4,000(1 台あたり売上(円・名目))→ 売上 372 億円・営業利益 −7 億円。実質 0.65 倍×価格 1.0 倍、営業利益率 -2%
- プリント基板:数量 42.0(基板の出荷面積(万㎡・推定))× 価格 54,276(1 ㎡あたり売上(円・名目))→ 売上 228 億円・営業利益 −11 億円。実質 0.7 倍×価格 0.95 倍、営業利益率 -5%(減損前)
倍率:赤字のため PBR で置く。今の自己資本 874 億円に 0.41 倍を掛けた額は、床の資産(純現金+売れる資産の税後、下の欄)の約 360 億円と同じ。市場の値付けは使っていない。
確率:最大顧客の取引縮小や新素材への置き換えで、新発田の設備が大幅に遊ぶ事態は、顧客が少数に偏る以上、無視できない確率で起きる。同時に回転機も中国勢に押されて赤字になる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電力機器
変圧器・制御機器の製造販売と電力設備工事。中部電力グループ向けが中心。
| 数量変圧器・工事の取扱量(変圧器の容量に換算した万 kVA 相当・推定) | 価格1 万 kVA 相当あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 190 | 2.00 | 380 | 58 |
| 10 年後 中立 | 209 | 2.68 | 560 | 73 |
取り方:非開示のため推定:変圧器と電力設備工事の取扱量を容量換算で約 190 万 kVA 相当とみて、1 万 kVA 相当あたり約 2.0 億円の売上とした(2026/03 期のセグメント売上 380 億円)。数量は実質の取扱量で、物価 3% は 1 単位あたりの売上(価格)に入れる。セグメント利益 57.5 億円(利益率 15.1%)。
回転機
建物・車載の空調用モータ、電動ベッド用アクチュエータ、水中ポンプ用モータなどの製造販売。
| 数量モータ・応用機器の出荷台数(万台・推定) | 価格1 台あたり売上(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,430 | 4,000 | 572 | 21 |
| 10 年後 中立 | 1,430 | 4,600 | 658 | 30 |
取り方:非開示のため推定:建物・車載の空調モータ、アクチュエータ、水中ポンプ用モータなどを合わせた出荷を約 1,430 万台とみて、1 台あたり約 0.4 万円の売上とした(セグメント売上 572 億円)。台数は実質、物価 3% は 1 台あたり売上(価格)に入れる。セグメント利益 21 億円(利益率 3.7%)。中国子会社で造る比率が高い。
プリント基板
愛工機器製作所が造る、パッケージ基板用コア・多層基板・放熱基板。AIサーバー向けが成長を牽引。
| 数量基板の出荷面積(万㎡・推定) | 価格1 ㎡あたり売上(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 57,133 | 343 | 57 |
| 10 年後 中立 | 95.9 | 68,560 | 658 | 86 |
取り方:非開示のため推定:パッケージ基板用コアを中心とする基板の出荷面積を約 60 万㎡とみて、1 ㎡あたり約 5.7 万円の売上とした(セグメント売上 343 億円、前期比 +36%)。面積は実質、物価 3% は 1 ㎡あたり売上(価格)に入れる。セグメント利益 57.4 億円(利益率 16.7%)。最大顧客 AT&S 重慶は全社売上の 10.2%。
リスクと懸念
基板の顧客が少数に偏る
AT&S重慶が全社売上の約10%、基板売上の約4割を占める。この顧客が内製や他社への切り替えで購入を絞れば、新発田の設備は一気に遊ぶ。基板は利益の4割を担うため、全社の利益が大きく動く。
設備投資の重さと減価償却
新発田の第3期と第4期で約170億円を投じた。設備が計画どおり埋まれば報われるが、遅れれば減価償却が利益を圧迫する。会社が今期の営業利益を前期より減らす計画にしているのも、この負担を映している。
新素材への置き換え
パッケージ基板のコアは、新素材の登場で技術が入れ替わる恐れがある。現在の量産ノウハウと設備が、10年先も通用するとは限らない。技術の転換は事前に読みにくく、起きれば設備の価値が急落する。
回転機の低採算と中国勢
回転機は売上の4割を占めながら、利益率は3%台にとどまる。主力の中国子会社は、現地メーカーとの値下げ競争にさらされている。空調の回復が遅れ、EVの需要も伸び悩んでおり、赤字に落ちる可能性もある。
電力機器の取替需要の一巡
小型変圧器の取替需要が一巡し、足もとの電力機器は減収減益だ。中部電力グループ向けは売上の約12%を占め、調達の方針が変わると影響が大きい。一般産業向けの伸びで補えるかは、まだ見通せない。
中国子会社の事業環境
回転機の製造は蘇州と広州に集中している。中国の景気、人件費、輸出規制や地政学の動きが、数量と利益率に直接響く。現金の一部が現地に滞留する点も、財務の自由度を下げる。
今後の分かれ目
- 最大顧客からの基板の受注が、中期計画の想定を上回って拡大し続けたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ただし顧客の偏りが強まる点は別に割り引く。
- 新発田の稼働率が高止まりし、基板の利益率が16%台を保ったら
- 中立の基板の利益率を上方に直し、価値を見直す。
- 最大顧客の購入が減る、または別の基板メーカーへの切り替えが報じられたら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。新発田の設備の遊びを最優先で確かめる。
- 新素材のコアが量産に入り、大手の半導体メーカーが採用を広げたら
- 基板の寿命の前提を短くし、倍率と数量を下方に直す。
- 回転機の営業利益率が2%台に落ち、中国子会社の赤字が出たら
- 回転機の再建か撤退かの判断を見る。構造的な負けとして悲観側に確率を移す。
- 中部電力が持ち株の比率を変えるなど、資本関係に動きが出たら
- TOBや再編の可能性を考え直す。事業の価値は変わらないが、株主還元の方針が変わりうる。
見ておくもの
- 基板の四半期の売上・営業利益率と新発田の稼働状況
- 最大顧客(AT&S重慶)の売上比率
- 回転機の中国向け受注と営業利益率
- 電力機器の受注と中部電力グループ向けの比率
- 中期経営計画2028の進捗と配当性向、設備投資の額
倍率と資本コストの決め方
倍率は、資本コスト7.75%(基本7.5%に品質+0.75%)と、10年後のROE・長期の成長率4%から出した上限の85〜95%に置き、今の株価や過去の倍率には合わせていない。中立はROEが資本コストを下回るため、上限は1÷kの12.1倍にとどまり、その86%を置いた。悲観側は、稼ぐ力と売れる資産から置いた。セグメントは数量×価格で10年を置き、中国の回転機は価格を物価並みに上げない前提にした。リース会計の基準変更は、当社が店舗を借りて営む事業ではないため大きな影響はなく、10年後の数字は今と同じ形で置いた。最後に今の時価総額と比べた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.9→16.82 倍・やや楽観 PER 12.2→15.75 倍・中立 PER 10.44→14.18 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75% を足して k 7.75%。純現金で上乗せ(extra)は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。