結論
ケルは、精密なコネクタを作る専業メーカーだ。位置のずれを吸収するフローティング型が看板で、産業機器、アミューズメント機器、車載、医療に納める。筆者の結論は、財務の堅さは本物だが、利益が谷にあり配当が利益を上回る状態が続くため、10年で測った価値は今の値段をやや下回る、というものだ。
稼ぐ力は大きく落ちた。前期の営業利益は3億円で、営業利益率は2%。2023年3月期の24億円から、3年で9割近く減った。原材料高と、中国・珠海に作った新工場の立ち上げ費用が重なった。
財務は強い。自己資本比率は81%、純現金は43億円で時価総額の4割を占める。借入に頼る必要がない。
一方、配当は前期に純利益の2.8倍にあたる5.8億円を出した。利益が戻らなければ、この配当は純現金を削って続けることになる。会社は来期も同水準の配当を予想する。
筆者は、中立の筋書きでも利益率が6.5%までしか戻らないと見る。過去の平均(約9%)より低いのは、中国メーカーの価格攻勢で値上げが物価に届かないとみるためだ。ただし、受注は底を打ち、第1四半期は売上が2割増えた。回復の確率は低くない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、財務は一流、事業は並み、利益は谷、という会社だ。
財務は文句がない。無借金で、現金が手元にあり、自己資本比率は81%。倒産の心配はいらない。純現金43億円は、時価総額の4割を占める。
事業の稼ぐ力は、過去12年で見ると、営業利益が3〜24億円の範囲を動いた。平均的な営業利益率は9%台だ。今の2%は、その4分の1にすぎない。中立の筋書きでは、6.5%まで戻して、営業利益は11.5億円。ここに9倍前後の倍率を掛け、現金を加えた額が、10年後の価値になる。
安全域は、純現金と無借金にある。悲観の筋書きでも、純現金の8割は残ると見て、下値は固い。
ただし、上値も限られる。ROEが資本コストに届かない会社の資産は、帳簿より小さい価値しか持たない。配当が利益を上回る状態が続けば、現金は減る。10年で測ると、価値は今の値段の8割ほど。割安とは言えない。
何で稼ぐ会社か
ケルは1962年創業のコネクタ専業メーカーで、東京都多摩市に本社がある。売上の約88%がコネクタ、約11%がラック(コネクタを収める筐体)だ。
看板は、フローティングコネクタ。基板と基板をつなぐ時に、位置のずれを吸収して接続できる。ほかに、高速で信号を送る高速伝送、水や粉じんを防ぐ防水など、付加価値の高い品が中心になる。
用途は産業機器、アミューズメント機器、車載、医療、通信など。前期は産業機器とアミューズメント機器が堅調で、車載向けのフローティングコネクタは在庫調整で受注が減った。医療向けのラックも生産調整で売上が落ちた。
生産は国内と、中国の上海・珠海の子会社が担う。珠海は2025年3月に設立した全額出資の新工場で、車載のフローティングコネクタや画像機器向けの細線同軸コネクタを現地で作る。台湾、ドイツ、米国、シンガポールにも子会社を持つ。
親会社はない。売上は128億円で、営業利益は2.8億円と薄い。
同社は、小さな会社ながら海外にも拠点を持ち、日本の精密部品メーカーとして世界の機器メーカーに売る。社員は連結で数百人規模で、技術者の比率が高い。売上の多くは法人顧客向けで、個人向けの事業はない。
優良さと弱いところ
事業の質は、技術は確かだが、利益を守る力が弱い。
強みは、フローティングコネクタという特殊な製品を持つことだ。位置ずれを吸収する設計は、顧客の機器に組み込まれると、他社品への切り替えに設計のやり直しが要る。2022〜23年の好況期には、営業利益率が16%台まで上がった。
弱みは、需要が景気に左右され、価格を競争で決められやすい点だ。2024年3月期以降、営業利益は11億円、6億円、3億円と3年連続で半分に近い減り方をした。コネクタの市場には、国内外の大手と中国の新興メーカーが入り乱れている。
資本の使い方は、独特だ。自己資本比率は81%、無借金で純現金が積み上がる。ROEは過去10年の中央値で5〜6%と、資本コストに届かない。その中で、配当は利益を上回る水準を保っている。株主への姿勢は誠実だが、事業の稼ぐ力が追いついていない。
経営は、中国の現地生産で成長を狙っている。ただ、珠海の工場は従業員9人ほどの小さな拠点で、効果が出るまでに時間がかかる。
筆者が一番気にするのは、利益率が谷から戻るかどうかだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
コネクタの市場は、電子機器の増加とともに伸びる一方、景気の波が大きい。
産業機器や半導体の検査装置では、設備投資の波が受注に直結する。2022〜23年は需要が膨らみ、ケルの営業利益は24億円まで伸びた。その反動で、2024年以降は在庫調整が続いた。車載は電動化で部品点数が変わり、フローティングコネクタの需要が揺れる。
競争は厳しい。国内ではヒロセ電機、日本航空電子工業などの大手があり、海外ではTEコネクティビティやアンフェノールなどがいる。中国のローカルメーカーは、価格を武器に産業機器と車載の中低価格帯を侵食している。ケルは付加価値品に絞り、規模で戦わない。
物価3%の世界では、銅や貴金属などの原材料も上がる。価格に転嫁できるかが、利益率の分かれ目だ。為替は150円で固定しているため、円安の追い風はこれ以上期待しない。
中立では、産業機器・アミューズメント向けは底堅く、車載は在庫調整後に持ち直す。数量は10年で15%増、値上げは物価の4分の3にあたる1.30倍と置いた。
AI関連の検査機器や通信機器は、高速伝送コネクタの需要を増やす追い風になりうる。ただし、その需要は大手が先に取りやすく、ケルのような小規模メーカーが受け取れる分は限られる。
資本政策と M&A
配当は前期に純利益2.1億円に対して5.8億円を出した。配当性向は前期で2.8倍。2022〜23年の好況期には増配もした。利益が谷に落ちても、配当を下げなかった。会社は来期も同水準を予想する。
純現金は43億円。この現金を配当で削る構図が、数年続いている。自社株買いの実績は、期末に自己株式が46万株あることから、過去に行ったとみられるが、直近の規模は確認できなかった。
M&Aの実績は目立たない。中国の新工場は、全額出資の新設で、買収ではない。買われる側としては、親会社がなく、時価総額が小さい。純現金が時価総額の4割あるため、TOBの対象になる可能性は否定できない。
資本政策の方向は、今のところ「利益が戻るまで現金を取り崩して配当を維持する」形だ。長続きはしないが、10年スパンでは、利益の回復があれば無理なく続く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
利益は谷にあるが、売上は戻りつつある。前期は売上が8%増え、今期の第1四半期は売上が2割増、営業利益は黒字を保った。産業機器とアミューズメント機器は堅調で、車載の在庫調整も終わりに近い。
利益が谷にある原因は、一時的なものが大きい。中国・珠海の新工場は、立ち上げ費用が先に出る。稼働率が上がれば、費用は売上に吸収される。原材料高は、価格転嫁が進めば解消する。
2022〜23年には、営業利益率が16%台まで上がった。その力は、製品の競争力があってこそだ。需要が戻れば、6.5%に回復するのは保守的すぎる。9%台の平均に戻れば、営業利益は17億円に届く。
財務は盤石で、純現金は時価総額の4割。配当は高水準を維持しており、利回りも高い。待つ間も、現金の戻りがある。
中国で現地生産することで、納期とコストが改善し、現地メーカーとの競争力が高まる。
この見方が正しければ、10年後の価値は今の2倍を超える。ただし筆者は、過去の山の利益が再現する確率を、1割にとどめた。
慎重な見方
利益の悪化は、一時的ではなく構造的だ。営業利益は3年連続で半分に近い減り方をした。中国のローカルメーカーが価格を下げ、産業機器と車載の中低価格帯を取っていく。付加価値のあるフローティングコネクタも、電動化で部品点数が変わると需要が変わる。
会社自身が、来期の営業利益を2〜3億円と、今期並みの谷の水準で予想している。経常利益は35%減る見込みだ。中国の新工場も、従業員9人ほどの小さな拠点で、効果は限られる。
配当は純利益の2.8倍にあたる5.8億円を出しており、純現金を削って支えている。このまま続けば、現金は10年で枯れる。増配で株主を引き留める姿勢は評価できるが、事業が稼げなければ、続かない。
ROEは1.4%で、資本コストに遠く及ばない。自己資本の厚さは、強みではなく、効率の悪さの表れだ。純現金のあるうちは安心でも、現金を稼ぐ力は弱っている。
この見方が正しければ、10年後の価値は今の3分の1近くまで下がる。ただし筆者は、純現金の厚さを床として評価し、確率を1割強にとどめた。
どちらに重みを置いたか
中立に3割半を置き、慎重側(やや悲観・悲観)に3割強、強気側に3割強とした。強気の根拠は財務の厚さと売上の回復で、慎重側の根拠は利益率の低下と、配当が利益を上回ることだ。
決め手は、利益が戻るスピードだ。会社自身が来期も谷の利益を予想し、2028年3月期の営業利益も7億円と控えめに見る。強気側が頼る9%台への回復は、計画の裏づけがない。
一方、無借金と純現金は、下値を支える。総合では、10年後の価値が今の値段の8割ほどになる。やや割高の判断は、利益の回復を待つ価値があるかどうかの、保守的な見方だ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,763 円128 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 781 円57 億円)。 今の値に割り戻すと 1,348 円98 億円、今との差 −3.7%、 期待の年率 +6.2%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 3,860 円281 億円 | 962 円70 億円 | +244.4% | +13.2% | 482 円35 億円 |
| やや楽観 | 22% | 2,535 円184 億円 | 852 円62 億円 | +141.9% | +9.2% | 745 円54 億円 |
| 中立 | 36% | 1,773 円129 億円 | 797 円58 億円 | +83.6% | +6.3% | 925 円67 億円 |
| やや悲観 | 21% | 609 円44 億円 | 715 円52 億円 | −5.5% | −0.6% | 278 円20 億円 |
| 悲観 | 11% | 484 円35 億円 | 550 円40 億円 | −26.2% | −3.0% | 114 円8 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,763 円128 億円 | 781 円57 億円 | +81.7% | +6.2% | 2,544 円185 億円 |
今の株価時価総額 1,400 円102 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 産業機器とデータ通信の需要が戻り、利益率が10%台に乗る 利益 18 億円 · PER 14.5 倍 · 株価時価総額 3,860 円281 億円
産業機器とアミューズメント機器の好調が続き、AI関連の検査・通信機器向けの高速伝送コネクタも伸びる。コネクタの出荷数は今より4割増える。
中国・珠海の新工場が軌道に乗り、中国ローカル顧客向けの現地生産で、納期とコストが改善する。立ち上げ費用が消え、営業利益率は11%に乗る。
営業利益は24億円。過去の最高(2023年3月期の24億円)に並ぶ。純利益は18億円で、ROEは約10%と資本コストを超える。
配当は高水準を保ち、利益が増えた分だけ上乗せされる。純現金は還元に回り、積み上がらない。
売上は10年で5割ほど増え、国内外の拠点の稼働も上がる。この筋書きは、需要の山が再び来て、価格競争が和らぐことを前提にする。確率を1割にとどめたのは、山の利益が長く続いた例が少ないからだ。
- コネクタ:数量 5,250(出荷数量(万個))× 価格 402(1個あたり平均単価(円))→ 売上 211 億円・営業利益 23 億円
- ラックほか:数量 2,937(出荷台数(台))× 価格 80(1台あたり平均単価(万円))→ 売上 24 億円・営業利益 1 億円
倍率:事業の純利益 18 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)23 億円。全体の PER 14.5 倍、時価総額 281 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気は、2022〜23年の好況期(営業利益率16%台)に近づく場合。ただし、あの利益は一時的な需要の山だった面が強く、過去12年の平均は9%台。確率は1割にとどめた。
やや楽観 22% 需要が戻り、利益率が過去の平均に近づく 利益 13 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 2,535 円184 億円
産業機器・アミューズメント向けが堅調で、車載の在庫調整も終わる。コネクタの出荷数は10年で27%増える。
中国工場の立ち上げ費用がなくなり、現地の顧客を取り込む。営業利益率は8.5%で、2015年3月期から2021年3月期の平均(9%台)を少し下回る水準だ。値上げは、原材料高を転嫁する形で物価に少し届かない。
営業利益は17億円、純利益は13億円。ROEは7%台で、資本コストにまだ届かない。
配当は高めの水準が続き、10年で62億円を株主に渡す。自己資本は165億円まで積み上がる。
売上は10年で3割強増える。会社が示す2028年3月期の回復計画を、少し上回る形で進む筋書きだ。過去の山の利益率には届かないが、谷からは確実に抜け出す。
- コネクタ:数量 4,762(出荷数量(万個))× 価格 396(1個あたり平均単価(円))→ 売上 189 億円・営業利益 16 億円
- ラックほか:数量 2,670(出荷台数(台))× 価格 80(1台あたり平均単価(万円))→ 売上 21 億円・営業利益 1 億円
倍率:事業の純利益 12 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)23 億円。全体の PER 13.04 倍、時価総額 184 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:来期の計画(営業利益2〜3億円)は谷の水準で、2028年3月期は7億円まで戻す見込みの会社計画もある。過去の平均的な利益率(2015〜2021年は8〜11%)に戻る筋書きで、2割強を置いた。
中立 36% 谷から戻るが、過去の平均には届かない 利益 9 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,773 円129 億円
コネクタの出荷数は10年で15%増える。産業機器とアミューズメント機器の需要は底堅く、車載は在庫調整を終えて持ち直す。ただし、中国のローカルメーカーが価格で攻めるため、値上げは物価に届かず、10年で1.30倍にとどまる。
営業利益率は6.5%。立ち上げ費用の一巡で回復するが、人件費と原材料高が重く、過去の9%台までは戻らない。減価償却は珠海工場の分が加わるが、既存設備の償却は物価で増えない。
営業利益は11.5億円、純利益は8.8億円。自己資本は150億円とほぼ横ばいで、ROEは6%弱にとどまる。
配当は今の水準を続け、10年で58億円。利益とほぼ同額で、純現金は横ばいで推移する。
- コネクタ:数量 4,312(出荷数量(万個))× 価格 390(1個あたり平均単価(円))→ 売上 168 億円・営業利益 11 億円
- ラックほか:数量 2,536(出荷台数(台))× 価格 80(1台あたり平均単価(万円))→ 売上 20 億円・営業利益 1 億円
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.7% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)23 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 129 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中立は、足元の谷の利益率2.2%から、立ち上げ費用の一巡と受注の回復で6.5%まで戻す筋書き。会社計画の2028年3月期(4.8%)より高く、過去12年の平均(約9%)より低い。最も重い確率を置いた。
やや悲観 21% 価格競争と車載の不振で、利益が谷にとどまる 利益 4 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 609 円44 億円
中国のローカルメーカーが価格を下げ、車載のフローティングコネクタが失注する。コネクタの出荷数は横ばいで、値上げは物価の6割程度にとどまる。
中国工場は稼働率が上がらず、減価償却と人件費が重荷になる。営業利益率は3.5%で、今より少し上がる程度。
営業利益は5億円、純利益は4億円。今の水準の配当は維持できず、10年で52億円に抑える。
純現金は減り、余った現金の価値は4分の3に割り引く。事業の縮小は進まないが、成長もない。
売上は10年でわずかに増えるだけで、利益の回復は一部にとどまる。会社の計画する谷の水準が長引く形で、直近の実績に最も近い筋書きだ。
- コネクタ:数量 3,750(出荷数量(万個))× 価格 366(1個あたり平均単価(円))→ 売上 137 億円・営業利益 5 億円
- ラックほか:数量 2,270(出荷台数(台))× 価格 75(1台あたり平均単価(万円))→ 売上 17 億円・営業利益 0 億円
倍率:事業ROEは約3.1%でkの8.75%に遠く及ばない。上限11.4倍の約6.1割の7.0倍に置いた。
確率:利益が低水準にとどまる筋書き。直近4年は経常利益が減り続けており、現実味が高い。2割強を置いた。
悲観 11% 車載と産業機器の両方を失い、赤字になる 利益 0 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 484 円35 億円
電動化で車載の部品点数が変わり、フローティングコネクタの需要が細る。産業機器でも中国メーカーに価格で負け、コネクタの出荷数は2割減る。
値上げは通らず、営業利益はゼロ近辺に落ちる。珠海工場は稼働率が低く、減価償却が重い。
配当は大幅に減らして10年で40億円。純現金は赤字と配当で目減りし、床は純現金の8割にあたる35億円とみる。
会社は無借金で自己資本比率が80%を超えており、存続に問題はない。ただし、事業の稼ぎは小さく、株主が受け取れるのは現金の戻りが中心になる。
10年後の売上は今より1割ほど減る。固定費の重い体制のまま、売上が細る形だ。それでも現金を厚く持つため、倒産はせず、株主への戻りは現金の取り崩しが中心になる。
- コネクタ:数量 3,000(出荷数量(万個))× 価格 330(1個あたり平均単価(円))→ 売上 99 億円・営業利益 0 億円
- ラックほか:数量 1,869(出荷台数(台))× 価格 66(1台あたり平均単価(万円))→ 売上 12 億円・営業利益 0 億円
倍率:赤字に近いため、床で置いた。今の自己資本153億円に対して0.23倍。純現金43億円の約8割を床にした。
確率:10年の悲観は構造的な負け。電動化とローカルメーカーの台頭で、日本発の精密コネクタの付加価値が薄れる筋書き。1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
コネクタ
精密なコネクタ。位置ずれを吸収するフローティング型、高速伝送、防水などの付加価値品が中心。産業機器、アミューズメント機器、車載、医療向け。
| 数量出荷数量(万個) | 価格1個あたり平均単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,750 | 300 | 113 | 3 |
| 10 年後 中立 | 4,312 | 390 | 168 | 11 |
取り方:品目別の売上比率(コネクタ約88%)を全体の売上128.6億円に当てて約113億円。出荷個数と単価は開示がなく、1個あたり約3百円(推定)で割った個数。営業利益は単一セグメントのため、全社の2.84億円を売上で按分した推定。
ラックほか
電源・鉄道向けなどの特殊ラック(コネクタを収める筐体)と、その他。医療機器向けは在庫調整で減。
| 数量出荷台数(台) | 価格1台あたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,670 | 60 | 16 | 0 |
| 10 年後 中立 | 2,536 | 80 | 20 | 1 |
取り方:品目別の売上比率(ラック約11%・その他約1.4%)から約16億円。台数と単価は開示がなく、1台約60万円(推定)。営業利益は全社を売上で按分した推定。
リスクと懸念
利益率が谷から戻らない
営業利益は3年連続で半分近く減った。原材料高と新工場の立ち上げ費用が一巡しても、中国メーカーの価格攻勢で利益率が戻らなければ、配当を維持できない。
中国メーカーの台頭
産業機器と車載の中低価格帯で、中国のローカルメーカーが価格を下げている。ケルは付加価値品に絞っているが、技術の差が縮めば、値上げは物価に届かない。
車載の電動化
フローティングコネクタは車載で使われる。電動化で部品点数と設計が変わると、需要が揺れる。前期は在庫調整で受注が落ちた。
配当が利益を上回る
前期の配当は純利益の2.8倍。純現金を削って支えており、利益が戻らなければ、減配か現金の枯渇に向かう。減配は株価の悪材料になりうる。
中国事業の不透明さ
珠海の新工場は従業員9人ほどの小さな拠点で、稼働率が上がらなければ費用だけが残る。中国の政治・規制リスクも、現地生産の価値を左右する。
AIエージェントによる代替
製造業が中心で、人月で売る事業ではなく、影響は小さい。逆にAI関連の検査・通信機器向けは需要の追い風になりうる。
今後の分かれ目
- 営業利益率が2期続けて6%を超える
- 中立の利益率6.5%が低すぎることになり、価値が上方修正される。
- 配当を大幅に減らす
- 現金の戻りが減り、短期的には悪材料。ただし純現金が残り、悲観の床は変わらない。
- 車載向けフローティングコネクタの受注が2期続けて増える
- 電動化の影響が想定より小さく、強気側の確率が上がる。
- 中国の新工場の稼働率が7割を超える
- 立ち上げ費用が消え、利益率の回復が確かになる。
- 純現金を狙ったTOBが発表される
- 買付価格が純現金と事業の価値を合わせた額を上回るかが焦点。
見ておくもの
- 営業利益率の回復(前期2.2%、来期計画1.5〜2%)と、中国・珠海工場の稼働率
- 産業機器・アミューズメント向けの受注と、車載(フローティング)の在庫調整の終了
- 配当の維持(利益を上回る水準)と純現金(前期末43億円)の減り方
- 原材料(銅・貴金属)の価格と、為替の影響
- 中国ローカルメーカーの台頭と、コネクタの価格競争
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業ROEが資本コスト8%を下回る筋書きで上限を1÷k=約11.4倍とし、景気の振れと価格競争を考えて、その6〜9割に置いた。今のPER・PBR、過去の倍率は使っていない。中立の営業利益率6.5%は、直近の2.2%から、立ち上げ費用の一巡で戻る分だけを置いたもの。過去12年の平均(約9%)には届かない。計画の2028年3月期の利益率4.8%より高く、回復の確率を高めに見ているが、過去の山(16%台)は使っていない。余った現金は23億円で、戻り方は1.0にした。減価償却は物価で増やさず、珠海工場の分だけ足される前提で、利益率に織り込んだ。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11→14.5 倍・やや楽観 PER 10→13.04 倍・中立 PER 9→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.25% を足した(決まり v2)。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 8.00%。