結論
ロームは京都発のパワー・アナログ半導体専業で、車載・産業機器向けのパワー半導体(SiCを含む)とアナログICを中核に、産業機器・民生・通信・データセンター(コンピュータ&ストレージ)向けにも裾野を広げている。2026年3月期はSiC関連の生産設備を中心に過去最大の固定資産減損を計上し、純損失1,584億円という大きな谷を記録した。原因はEV需要の拡大が当初の計画どおりに進まず、出荷が市場の期待値に届かなかったことにある。2026〜2028年度の中期経営計画では2028年度にSiC事業の黒字化を見込み、売上高5,000億円以上・営業利益率20%以上・ROE9%以上を掲げて再成長を描いている。
もうひとつの大きな論点は資本政策である。2026年にデンソーがロームへの買収提案(TOB)を行ったが賛同を得られず撤回し、ロームは東芝・三菱電機とのパワー半導体事業の統合・提携路線を選んだ。業界再編の当事者であり続けていることが、この会社の本質価値を考える際にもうひとつの重要な変数になる。自動車・産業機器という2つのセグメントで市場規模とシェアを積み上げ、その時点のROEと資本コスト(基本7.5%に、循環+0.75%・値決め力+0.25%・寿命+0.5%を入れた9.0%)から倍率を決めると、中立シナリオの時価総額は10年後でも今の5割弱にとどまり、中立では「割高」の結果が出る。中国勢の値下げとEV需要の減速という逆風を事業がどこまで吸収できるかが、今の値段を正当化できるかどうかの分かれ目になる。
バリュー投資の観点から
オーナー利益の観点では、ロームは2021〜2025年度に6,082億円というSiC関連投資を行い、EV需要の見立て違いで固定資産減損という結果に終わった。将来の需要を過度に先取りして設備投資を約束した資本配分の失敗例であり、バリュー投資の観点では経営の需要予測能力への評価を一段厳しくする材料になる。2026〜2028年度の投資を年間約500億円規模へ大幅に絞ったことは規律回復の表れだが、同じ規模の見立て違いを再び起こさないかは、まだ実績で確認できていない。
堀の幅については、SiCウエハーからデバイスまでの垂直統合という技術的な強みと、自動車メーカーとの長年のデザインインは残るものの、中国地場メーカーの量産・値下げ参入でSiCパワー半導体の価格競争は構造的に強まっており、10年後も同じ強さを保てるかは「予測できる事業か」という一次審査で慎重に見るべきだろう。2026年のデンソーによる買収提案とその後の東芝・三菱電機との連合構想は、会社の経営体制そのものが変わりうる局面にあることを示しており、安全域の判断では、今の値段がSiC事業の黒字化とEV需要の回復をどこまで前提にしているかを厳しく見るべきで、今はその安全域が乏しいと判断するのが妥当だ。
何で稼ぐ会社か
事業は「自動車」「産機」「民生」「通信」「コンピュータ&ストレージ(C&S)」という5つの市場区分で開示されるが、実質的には車載向け(売上の約半分)とそれ以外(産機・民生・通信・C&Sの合計で残り半分)の2本柱として捉えられる。車載向けは車載パワー半導体(SiCパワーMOSFET・モジュールを含む)、車載アナログIC(モータードライバ、LEDドライバ等)をEV・ADAS向けに自動車メーカー・Tier1部品メーカーへ供給し、SiCの採用拡大による電装化の進展が構造的な追い風だが、2024〜2026年にかけてはEV需要の減速で出荷が会社計画に届かず、SiC関連投資の減損という結果を招いた。産機・民生・通信・C&S向けは産業機器用パワー半導体・アナログIC、民生機器向け電源IC、通信機器向けデバイスに加え、AIサーバー・データセンター向けの電源制御(C&S)が新しい成長領域として立ち上がっている。
ロームは半導体の設計から自社のウエハー・基板製造まで垂直統合で手掛ける数少ない企業で、SiCウエハーを世界で最初に量産した歴史を持つ。2009年にSiCデバイスメーカーのSiCrystal(独)を買収して以来、基板からデバイスまでの垂直統合をSiC事業の強みにしてきた。一方で、2021〜2025年度の第1次投資計画(6,082億円)はEV市場の急拡大を前提にした積極投資であり、需要が計画に届かなかったことで固定資産の収益性が悪化し、2026年3月期の大型減損につながった。2026〜2028年度の第2次投資は年間約500億円規模へ大きく絞り、既存設備の稼働率改善と収益性重視へ軸足を移している。
優良さと弱いところ
ロームの優良さは、SiCウエハーからデバイスまでを垂直統合で手掛ける技術力と、長年の自動車メーカーとの設計段階からの取り込み(デザインイン)による顧客基盤に支えられているが、SiCパワー半導体の世界シェアでは、ST マイクロエレクトロニクス(約4割)、インフィニオン、Wolfspeed に続く4〜5位にとどまり、首位級ではない。中国地場のSiCデバイスメーカーが50社以上に増え、価格面での攻勢が強まっており、特に中国市場でのシェアは低下傾向にある。小信号デバイス(ディスクリート半導体の一種)では世界シェア17%程度で上位につけるが、アナログIC全体では世界ランキング17位程度と、テキサス・インスツルメンツやアナログ・デバイセズのような巨大アナログ専業に比べ規模の差が大きい。
ROEは2022〜2023年度の8%前後から2025年度には-20.9%まで落ち込み、2026年度は黒字転換の計画だが、本業の収益力そのものがまだ本調子ではない。自己資本比率59.1%、純有利子負債は-287億円(ほぼ純現金中立)と財務の健全性は保たれており、大型減損を吸収できる体力はあったが、2021〜2025年度の積極投資がEV需要の見立て違いにつながったことは、経営の需要予測の精度に疑問を残す。2028年度にROE9%以上・SiC事業の黒字化という中期目標の実現力が、次の優良さの試金石になる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
パワー半導体の世界市場は富士経済の調査で2030年に5兆3,587億円、2035年に7兆7,757億円(2023年比2.4倍)まで拡大する見通しで、次世代パワー半導体(主にSiC)は2022年見込みの1,249億円から2030年には1兆円を超える規模への急拡大が見込まれている。車載向けパワー半導体市場は現状で3兆円規模、2030年には10兆円を超えるという報道もあり、EV化・ADASによる車載半導体搭載量の増加が長期の構造的な追い風であることは変わらない。ただし2024〜2026年にかけてはEV普及のペースが当初の想定より緩やかになり、車載・産業向け半導体の在庫調整と相まって、SiCを中心とする投資回収が遅れている。
競争環境では、SiCパワー半導体はSTマイクロ・インフィニオン・Wolfspeedという欧米大手に加え、中国地場メーカー(BYD半導体等、50社以上)が量産・値下げで参入し、価格競争が構造的に強まっている。中国政府の国産化志向もあり、中国市場でのロームのシェアは侵食されやすい状況にある。アナログIC・産業用パワー半導体では、テキサス・インスツルメンツ、アナログ・デバイセズ、インフィニオン、オンセミ等の巨大プレーヤーと競合する分散した構造だが、AIサーバー・データセンター向けの電源制御需要が新しい成長の柱として立ち上がっている点はロームに追い風となる。
業界再編の動きも大きな変数である。2025年にデンソーとパワー半導体分野で業務提携を発表した直後、2026年にデンソーがローム全株取得を目指すTOBを提案したが、ロームの賛同が得られず撤回された。代わりにロームは東芝・三菱電機との資本提携も視野に入れた事業統合・業務提携の協議を進めており、日本のパワー半導体産業の再編がローム・東芝・三菱電機の連合を軸に進む可能性が高まっている。
資本政策と M&A
株主還元は長年の配当重視の方針を基本に、業績の谷であった2025・2026年3月期も配当を維持する姿勢を続けている。大型のSiC投資(2021〜2025年度に6,082億円)を優先してきたため自社株買いの規模は相対的に控えめだったが、2026〜2028年度は投資を年間約500億円規模へ大きく絞り、収益性重視・既存設備の稼働率改善へ軸足を移している。
資本政策で最大の論点は2025〜2026年に起きた業界再編交渉である。2025年5月にデンソーとパワー半導体分野での業務提携を発表した直後、2026年2月にデンソーがローム株式の全株取得を目指すTOBによる買収提案を行った。ロームはこれに賛同せず、2026年3月には東芝との資本提携も視野に入れた半導体事業の業務提携強化の協議開始を発表、三菱電機も交渉に加わる3社連合構想が浮上した。2026年4月、デンソーは「ローム側の賛同を得られなかった」としてTOB提案を撤回し、再編はロームを軸に東芝・三菱電機との連合路線で進む見通しとなった。一度は買収提案を受けた会社であり、東芝・三菱電機との事業統合が実現すれば資本構成・経営体制が大きく変わる可能性がある。kabufuのfactsでは10年以内のTOB・買収の確率を15.5%と見ており、今回の経緯を踏まえれば今後も再編の当事者になり続ける確率は中立より高めに見るべきである。
10年の還元は、業績の谷でも配当を維持する方針と、投資を絞る計画の範囲に置いた。中立は純利益の合計の約8割である。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
SiC事業は2026〜2028年度の中期経営計画で2028年度の黒字化を会社自身が確信しており、投資計画を年間約500億円規模へ絞ったことで既存設備の稼働率改善が進めば、収益性は急速に改善する余地がある。EV需要の減速は一時的な需要の踊り場であり、電動化・ADASという構造的な追い風自体は失われていない。SiCウエハーからデバイスまでの垂直統合という技術的な強みは、中国勢の量産攻勢のなかでも高付加価値モジュール(車載インバータ向け等)でのシェア維持に寄与しており、トヨタ向けの新規採用決定のような実績も積み上がっている。
AIサーバー・データセンター向けの電源制御需要(コンピュータ&ストレージ事業)は前年比2.5倍という高い成長計画を掲げ、新しい収益源として立ち上がり始めている。資本政策の面では、2026年にデンソーから買収提案を受けたこと自体が、ロームの技術・顧客基盤にそれだけの価値があると外部から評価された証拠であり、東芝・三菱電機との事業統合が実現すれば、規模の経済とパワー半導体の国内再編による価格決定力の向上が期待できる。経営陣が独立路線を選んだことも、単独でも十分な成長が描けるという自信の表れと見ることができる。
慎重な見方
2021〜2025年度に6,082億円を投じたSiC関連投資が、EV需要の見立て違いで過去最大の固定資産減損という結果に終わったことは、経営の需要予測能力そのものへの疑問を残す。10年先のAIサーバー需要やSiC市場の拡大ペースについても、同じ精度の見立て違いが繰り返されるリスクは軽視できない。SiCパワー半導体の世界シェアではSTマイクロ・インフィニオン・Wolfspeedに次ぐ4〜5位にとどまり、首位級の規模の経済を持たない。中国地場メーカー50社以上が量産・値下げで参入し、中国市場でのシェアが侵食されている構造は、2028年度のSiC事業黒字化計画そのものの前提を崩しうる。
資本政策の面では、2026年にデンソーから買収提案を受けたこと自体が、単独での成長戦略に市場・取引先が完全な信頼を置いていない可能性を示している。東芝・三菱電機との事業統合協議が長期化・複雑化すれば、経営の意思決定が遅れ、中国勢との価格競争にさらに後手を踏むリスクもある。産機・民生・通信事業もテキサス・インスツルメンツ、アナログ・デバイセズ、インフィニオン、オンセミという巨大な競合と戦う分散した市場であり、単独でSiC事業の黒字化とAIサーバー向けの成長を同時に実現するには、規模の小さいロームにとって経営資源の配分がより難しくなる。
どちらに重みを置いたか
SiC事業の黒字化計画とAIサーバー向けの新しい成長の芽には一定の説得力があるが、2021〜2025年度の積極投資がEV需要の見立て違いで過去最大の減損に終わった実績と、中国勢の値下げ攻勢が続く構造は、慎重な見方の指摘の方が重みを持つ。本質価値の計算では、資本コスト8.75%で測ると、中立シナリオの時価総額は10年後でも今の5割弱にとどまった。これはSiC事業の黒字化計画そのものを否定するものではなく、今の値段がEV需要の順調な回復とSiC事業の計画どおりの黒字化をある程度先取りしていることを示している。確率は中立に最も重みを置きつつ、2026年の大型減損と中国勢との価格競争という直近の実績を踏まえ、やや悲観側も相応に厚めに置いた。東芝・三菱電機との事業統合の行方は本質価値を大きく動かしうる変数であり、具体的な内容が固まるまでは楽観・悲観の両方にその可能性を織り込んだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,524 円9,744 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 958 円3,700 億円)。 今の値に割り戻すと 1,721 円6,644 億円、今との差 −54.2%、 期待の年率 −0.8%(資本コスト 8.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 9,457 円3.65 兆円 | 2,331 円9,000 億円 | +213.7% | +12.1% | 943 円3,641 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,722 円1.82 兆円 | 1,684 円6,500 億円 | +70.5% | +5.5% | 1,281 円4,946 億円 |
| 中立 | 32% | 2,270 円8,763 億円 | 1,088 円4,200 億円 | −10.6% | −1.1% | 1,074 円4,148 億円 |
| やや悲観 | 24% | 311 円1,200 億円 | 363 円1,400 億円 | −82.1% | −15.8% | 162 円624 億円 |
| 悲観 | 16% | 137 円531 億円 | 0 円0 億円 | −96.3% | −28.2% | 22 円85 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,524 円9,744 億円 | 958 円3,700 億円 | −7.3% | −0.8% | 3,482 円1.34 兆円 |
今の株価時価総額 3,758 円1.45 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 8% SiCとAIサーバーが両輪で定着し、業界再編の主導権も握る 利益 2,402 億円 · PER 15.2 倍 · 株価時価総額 9,457 円3.65 兆円
10年間でSiC事業は当初計画どおりの黒字化を超え、EV・AIサーバー双方向けの電源需要を取り込む形で世界シェア上位に定着する。車載事業はSiCの高付加価値モジュールで中国勢との価格競争を回避し、デザインインの顧客基盤を守る。産機・民生・通信・C&S事業はAIサーバー・データセンター向け電源制御が主力の成長ドライバーに育ち、アナログIC全体でのランキングも上昇する。東芝・三菱電機との事業統合が会社に有利な条件でまとまり、日本のパワー半導体産業の再編の主導権を握る理想的な10年になる。ROEは15%前後まで回復する。
- 自動車:数量 70,896(世界の車載用パワー・アナログ半導体市場(億円・今の物価で測った実質の市場規模))× 価格 10.1%(実質1単位あたりの売上(倍)=シェア×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 7,125 億円・営業利益 1,639 億円。車載用パワー・アナログ半導体市場9.5兆円(名目)×シェア7.5%、営業利益率23%
- 産機・民生・通信・C&S:数量 238,806(世界のアナログ半導体市場(億円・ドル建てを150円換算し、今の物価で測った実質の市場規模))× 価格 3.1%(実質1単位あたりの売上(倍)=シェア×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 7,360 億円・営業利益 2,134 億円。アナログ半導体市場32.0兆円(名目)×シェア2.3%、営業利益率29%
倍率:事業の純利益 2,402 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 20.0% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.2 倍。全体の PER 15.2 倍、時価総額 36,510 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:SiC事業がEV・AIサーバー双方で世界上位シェアを確立し、東芝・三菱電機との事業統合も会社に有利な形でまとまる必要があり、連続した好条件がすべてそろう確度は高くない。
やや楽観 20% SiC黒字化とAIサーバー向け成長が定着する 利益 1,320 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 4,722 円1.82 兆円
SiC事業の黒字化が定着し、AIサーバー・データセンター向け電源制御(C&S)事業も着実に収益の柱へ育つ。車載事業はEV化・ADASの進展を取り込みながら、中国勢との価格競争の中でも現状程度のシェアを維持する。産機・民生・通信事業もアナログIC市場全体の成長を取り込みながら緩やかにシェアを広げる。SiCウエハーからデバイスまでの垂直統合という技術的な強みが、高付加価値モジュールでの価格決定力を一定程度保つ支えになる。東芝・三菱電機との事業統合協議は何らかの形で結論が出るが、会社の独立性は大きくは変わらない10年になる。2026年3月期の大型減損のような見立て違いは繰り返されず、投資計画の規律も保たれ、ROEは10%程度で安定する。
- 自動車:数量 53,731(世界の車載用パワー・アナログ半導体市場(億円・今の物価で測った実質の市場規模))× 価格 9.4%(実質1単位あたりの売上(倍)=シェア×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 5,040 億円・営業利益 857 億円。車載用パワー・アナログ半導体市場7.2兆円(名目)×シェア7.0%、営業利益率17%
- 産機・民生・通信・C&S:数量 194,030(世界のアナログ半導体市場(億円・ドル建てを150円換算し、今の物価で測った実質の市場規模))× 価格 2.7%(実質1単位あたりの売上(倍)=シェア×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 5,200 億円・営業利益 1,300 億円。アナログ半導体市場26.0兆円(名目)×シェア2.0%、営業利益率25%
倍率:事業の純利益 1,320 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.5% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍。全体の PER 13.81 倍、時価総額 18,229 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期経営計画(2028年度SiC黒字化・ROE9%以上)の延長線にあり、業界見通しの上位レンジに相当する想定。
中立 32% 中立:SiCは黒字化するが、中国勢との競争で成長は穏やかになる 利益 764 億円 · PER 11.5 倍 · 株価時価総額 2,270 円8,763 億円
10年後にはSiC事業の黒字化は実現しているが、特別な超過成長は一巡し「普通に手堅い会社」としての評価に収まる。車載事業はEV化・ADASによる半導体搭載量の増加が数量を支える一方、中国勢との価格競争でシェアは現状からわずかに低下する。産機・民生・通信・C&S事業はAIサーバー向け電源制御が一定の規模に育つが、テキサス・インスツルメンツ等の巨大競合に需要の多くを奪われ、ニッチな成長にとどまる。東芝・三菱電機との事業統合は具体的な資本構成の変更には至らず、ロームは単独路線を続ける10年になる。配当は維持しながら特別な高倍率は付かない10年になり、ROEは8%台で推移する。
- 自動車:数量 41,045(世界の車載用パワー・アナログ半導体市場(億円・今の物価で測った実質の市場規模))× 価格 10.1%(実質1単位あたりの売上(倍)=シェア×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 4,125 億円・営業利益 578 億円。車載用パワー・アナログ半導体市場5.5兆円(名目)×シェア7.5%、営業利益率14%
- 産機・民生・通信・C&S:数量 156,716(世界のアナログ半導体市場(億円・ドル建てを150円換算し、今の物価で測った実質の市場規模))× 価格 2.1%(実質1単位あたりの売上(倍)=シェア×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 3,360 億円・営業利益 706 億円。アナログ半導体市場21.0兆円(名目)×シェア1.6%、営業利益率21%
倍率:事業の純利益 764 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.5 倍。全体の PER 11.47 倍、時価総額 8,763 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の長期見通しの中心値と、中国勢の値下げ・EV普及ペースの緩やかさという現実的な想定を組み合わせた中心シナリオ。
やや悲観 24% 中国勢のシェア侵食がSiC黒字化を上回る 利益 92 億円 · PER 9.4 倍 · 株価時価総額 311 円1,200 億円
SiC事業は小幅な黒字にとどまり、中国地場メーカーの量産拡大・現地調達志向の強まりで車載事業の世界シェアの侵食が構造的に続く。AIサーバー向け需要自体は伸びるが、テキサス・インスツルメンツ、インフィニオン等の強い競合が同じ需要を取り込み、ロームのシェア拡大は限定的にとどまる。東芝・三菱電機との統合協議も具体的な進展がなく、単独での規模の限界が意識される10年になる。2026年3月期の大型減損の記憶が投資家の間で残り続け、新しい大型投資には慎重な姿勢が続くため、SiC・AIサーバーの成長機会の一部を競合に取られる展開になる。配当は維持するが、成長期待が後退した10年になり、ROEは1%程度まで落ち込む。
- 自動車:数量 29,851(世界の車載用パワー・アナログ半導体市場(億円・今の物価で測った実質の市場規模))× 価格 8.0%(実質1単位あたりの売上(倍)=シェア×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 2,400 億円・営業利益 0 億円。車載用パワー・アナログ半導体市場4.0兆円(名目)×シェア6.0%、営業利益率0%
- 産機・民生・通信・C&S:数量 130,597(世界のアナログ半導体市場(億円・ドル建てを150円換算し、今の物価で測った実質の市場規模))× 価格 1.8%(実質1単位あたりの売上(倍)=シェア×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 2,363 億円・営業利益 284 億円。アナログ半導体市場17.5兆円(名目)×シェア1.35%、営業利益率12%
倍率:ROE 1.0% が k 8.75% 以下なので、伸びても価値は増えず(ためた利益は額面未満)、正当化 PER は 1÷k=11.1 倍。EV需要の減速とSiCの赤字が続き、利益がほとんど出ない筋書きなので、上限の 8.5 割の 9.4 倍に置いた。
確率:中国地場メーカーのSiC量産・値下げによるシェア侵食が、SiC黒字化・AIサーバー成長を上回って続く想定。業界見通しの弱めのレンジに相当する。
悲観 16% 車載で構造的に負け、SiC黒字化も実現しない 利益 −196 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 137 円531 億円
世界的な金融収縮と自動車生産の構造的な縮小が重なり、車載事業は中国勢・欧米大手にさらにシェアを奪われて営業損失に近い水準まで落ち込む。SiC事業は2026年の減損後も収益化できず、再び設備の収益性が問われる。AIサーバー向け需要そのものは残るが、テキサス・インスツルメンツ等の競合に取り込まれ、ロームの産機・民生・通信事業も期待された成長を実現できずに終わる。東芝・三菱電機との統合協議も実を結ばず、経営の資本配分への市場の信頼が大きく後退する。自己資本比率の高さが財務的な破綻は防ぐが、SiCを世界で最初に量産した会社としての優位性を失う10年になる。
- 自動車:数量 20,896(世界の車載用パワー・アナログ半導体市場(億円・今の物価で測った実質の市場規模))× 価格 6.0%(実質1単位あたりの売上(倍)=シェア×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 1,260 億円・営業利益 −151 億円。車載用パワー・アナログ半導体市場2.8兆円(名目)×シェア4.5%、営業利益率-12%
- 産機・民生・通信・C&S:数量 97,015(世界のアナログ半導体市場(億円・ドル建てを150円換算し、今の物価で測った実質の市場規模))× 価格 1.2%(実質1単位あたりの売上(倍)=シェア×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 1,170 億円・営業利益 12 億円。アナログ半導体市場13.0兆円(名目)×シェア0.9%、営業利益率1%
倍率:車載で構造的に負け、SiC黒字化も実現しない10年で営業損失に近く、稼ぐ力では測れない。売れる資産の根拠を積めないので、今の純現金287億円と設備の売却価値だけを見て、今の自己資本7580億円の0.07倍(約530億円)に置いた。やや悲観(稼ぐ力から出した約870億円)より低い。
確率:中国勢・欧米大手にSiC・車載アナログのシェアをさらに奪われ、かつSiC黒字化計画が実現しないという複合シナリオ。半導体の技術・顧客基盤の流出は一度始まると10年で後退しやすいため低頻度だが無視できない確率を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
自動車
車載パワー半導体(SiCパワーMOSFET・モジュールを含む)・車載アナログIC(モータードライバ、LEDドライバ等)を自動車メーカー・Tier1部品メーカーに供給する事業。
| 数量世界の車載用パワー・アナログ半導体市場(億円・今の物価で測った実質の市場規模) | 価格実質1単位あたりの売上(倍)=シェア×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 30,000 | 7.9% | 2,368 | −24 |
| 10 年後 中立 | 41,045 | 10.1% | 4,125 | 578 |
取り方:車載向けパワー半導体(Si+SiC)の世界市場を現状3兆円規模(産業時報系報道の「車載向けパワーデバイス現状3兆円」)とし、自動車セグメント売上2,367.5億円(facts、2026年3月期の自動車売上構成比49.2%×全社売上4,812億円)から逆算したシェア7.9%を掛けた。営業利益率はSiC関連の損失が車載セグメントに集中しているとみて全社平均(2.3%)より低いマイナス1.0%と置いた(SiC事業単独の損失が車載セグメントの収益を押し下げている)。EV化・ADASによる車載半導体搭載量の増加(電動化で1台あたりの半導体使用量が増える)を実質の数量の伸びに入れ、物価3%は価格(シェア×物価の倍率)の側に入れた。
産機・民生・通信・C&S
産業機器・民生機器向けパワー半導体・アナログIC、通信機器向けデバイス、AIサーバー・データセンター向け電源制御(コンピュータ&ストレージ)を束ねる事業。
| 数量世界のアナログ半導体市場(億円・ドル建てを150円換算し、今の物価で測った実質の市場規模) | 価格実質1単位あたりの売上(倍)=シェア×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 161,000 | 1.5% | 2,445 | 133 |
| 10 年後 中立 | 156,716 | 2.1% | 3,360 | 706 |
取り方:世界のアナログ半導体市場(2025年時点で約1,075億ドル規模)を1ドル150円で換算した約16.1兆円に、産機・民生・通信・C&S合計売上2,444.5億円(facts、2026年3月期の売上構成比50.8%×全社売上4,812億円)から逆算したシェア1.5%を掛けた。営業利益率は全社の営業利益109億円から自動車セグメントの損失(-24億円)を除いた残りとして5.5%相当(133億円)と置いた。AIサーバー・データセンター向け電源制御(C&S)の高成長(会社計画で前年比2.5倍)を実質の数量の伸びに入れ、物価3%は価格の側に入れた。
リスクと懸念
SiC投資の見立て違いの再発
2021〜2025年度に6,082億円を投じたSiC関連投資は、EV需要の見立て違いで2026年3月期に過去最大の固定資産減損を招いた。2026〜2028年度の投資は年間約500億円規模へ絞られたが、AIサーバー向けなど新しい需要の見立てで同様の判断ミスが再発すれば、収益改善が計画より遅れる。
中国勢のSiC量産・値下げ攻勢
中国地場のSiCデバイスメーカーが50社以上に増え、価格面での攻勢を強めている。中国市場でのロームのシェアは低下傾向にあり、中国政府の国産化志向も強まる中、SiCパワー半導体の価格競争が構造的に続けば、2028年度のSiC事業黒字化計画の前提が崩れる可能性がある。
東芝・三菱電機との事業統合の不確実性
2026年にデンソーから買収提案を受けた後、ロームは東芝・三菱電機との資本提携も視野に入れた事業統合の協議を進めている。協議が長期化・複雑化すれば経営の意思決定が遅れるリスクがあり、逆にロームに不利な条件で統合がまとまれば、既存株主の価値が損なわれる可能性もある。
EV需要の減速・循環リスク
2024〜2026年にかけてEV普及のペースが当初の想定より緩やかになり、車載・産業向け半導体の在庫調整と重なってSiC関連投資の回収が遅れた。世界的な金融収縮や自動車生産の急減速が起きれば、車載・産業用の両事業が同時に落ち込むリスクがある。
アナログIC市場での規模の劣位
産機・民生・通信事業で競合するテキサス・インスツルメンツ、アナログ・デバイセズ等は規模の経済で大きく先行しており、ロームの世界ランキングは17位程度にとどまる。AIサーバー向け電源制御という新しい成長機会でも、規模の大きい競合に需要を奪われるリスクがある。
需要予測の精度への市場の信頼低下
過去最大の固定資産減損を経たことで、経営の需要予測・資本配分能力への市場の評価が厳しくなっている。次の大型投資判断(SiCの追加投資、事業統合に伴う設備再編等)が慎重になりすぎれば、構造的な成長機会を逃すリスクもある。
今後の分かれ目
- SiC事業が2028年度の黒字化目標を会社計画どおり、またはそれより前倒しで達成したら
- 楽観・やや楽観の筋書きの確率を上げてよい。自動車セグメントの利益率前提を上方修正し、価値を見直す。
- 東芝・三菱電機との事業統合が具体的な資本構成の変更を伴う形でまとまったら
- 資本政策・コントロールの変化を前提に本質価値を見直す。統合条件がロームに有利か不利かで株主価値への影響が大きく異なる。
- 中国地場メーカーのSiC量産・値下げがさらに強まり、ロームの中国市場シェアがさらに低下したら
- やや悲観・悲観側の筋書きに重みを移す。自動車セグメントの市場シェア前提を下方修正する。
- AIサーバー・データセンター向け電源制御(C&S事業)の売上が会社計画(前年比2.5倍)どおりに拡大したら
- 産機・民生・通信・C&S事業の長期成長率を上方修正し、倍率を見直す。
- 世界的な金融収縮で自動車生産・データセンター投資が同時に急減速したら
- 悲観側の筋書きに重みを移し、自己資本比率の高さが財務的な行き詰まりを防いでいるかを確認する。
- デンソーまたは他の自動車メーカー・半導体メーカーから新たな買収提案が出たら
- coc.distressや資本政策の前提を見直し、TOB・買収の確率をさらに上方修正する。
見ておくもの
- SiC事業単体の損益(2028年度黒字化目標との比較)と、2026年3月期減損後の設備稼働率の改善状況
- 東芝・三菱電機との事業統合・資本提携協議の進展と、合意に至った場合の資本構成・経営体制の内容
- 中国地場SiCメーカーの量産規模・価格動向と、ロームの中国市場シェアの推移
- AIサーバー・データセンター向け電源制御(コンピュータ&ストレージ事業)の売上拡大ペース
- 車載向けSiC・パワー半導体の大口顧客(トヨタ等)の採用拡大状況
倍率と資本コストの決め方
自動車・産機・民生・通信・C&Sの2セグメントとも、市場の見通し(アナログ半導体はドル建ての名目、車載用パワー半導体は円建ての名目)を今の物価で測った実質の市場規模に直し、物価3%はシェア×物価の倍率という価格の側に入れて売上を積み上げた。資本コストは基本7.5%に、循環+0.75%・値決め力+0.25%・寿命+0.5%を入れた9.0%とし、2026年3月期の大型減損は一時的として上乗せは置かず、個別のリスクは筋書きと確率で表した。倍率は利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)(ROEが資本コストを超える楽観で g 4.5%)、ROEが資本コストを下回る中立以下は1÷kを上限にし、上限にROE÷kを掛けた中立は約9割、やや悲観以下は8割に置いた。悲観側は稼ぐ力と売れる資産から出した。最後に今の時価総額(約16,022億円)と比べ、2026年3月期末PBR(2.11倍)や過去のPBRには寄せていない。SiC事業の黒字化とAIサーバー向け成長が会社計画どおりに進めば楽観側の筋書きに含めた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。
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