結論
山洋電気は、サーバーや通信機器を冷やすファン「San Ace」で稼ぐ会社だ。利益の約4分の3はこのファンが生む。サーボモータと電源装置が残りを支えるが、利益率はまだ薄い。
筆者の結論は、10年先の本質価値は今の時価総額を下回る、というものだ。AI向けの需要は本物で、受注残も積み上がっている。ただ、その勢いを前提にした今期予想の利益を、10年先まで延ばして払える値段ではない。
理由は3つある。ファンは台湾・中国勢との値下げ競争にさらされる。サーバーの液冷化でファンの搭載数が減る恐れもある。そして過去11年、売上は1千億円前後で足踏みしてきた。
救いは財務の厚さだ。純現金が約250億円あり、借金に頼らない。会社は総還元性向50%以上への引き上げを掲げ、物言う株主も後押しする。ただし現金の山を吐き出す約束ではなく、余りの現金は半分しか株主に届かないと筆者は見る。
強気に傾く条件は、液冷ポンプなどの新製品が柱に育ち、全社の営業利益率が12%台で定着することだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見るべきは2点だ。ファンの稼ぐ力が10年後も続くか。そして、たまった現金が株主に届くか。
ファンの利益率20%は魅力だ。だが、それを生む需要は今がいちばん強い時期にある。今期予想の営業利益163億円を、筆者は「ならした利益」とは見ない。過去11年、売上は1千億円前後から動かず、営業利益率は1.5%から11%の間を行き来した。山の利益に高い値段は払えない。
オーナー利益で考えると、設備投資は小さく、利益の大半が現金になる。この点は良い。ただ、サーボ事業は規模が足りず、利益率が資本コストを超える水準で定着していない。ここが改善すれば、評価は大きく変わる。
資本配分は変わり始めた。還元の引き上げは歓迎するが、10年守られるかを確かめたい。
安全域は財務にある。悪い筋書きでも、純現金と稼ぐ力で価値の底は残る。ただ、その底の上に払える値段には限りがある。10年の見立てを楽観で埋めて高く買えば、安全域は消える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は3つの事業だ。
一つ目は冷却ファン(サンエース)。サーバー、通信機器、半導体装置、制御盤の熱を逃がす部品で、売上は約410億円、セグメント利益は約82億円。利益率は20%に達する。風量が大きく寿命の長い高性能品が売りで、顧客は価格より信頼性で選ぶ。AIサーバー向けが伸び、2026年6月には液冷用のポンプも発売した。
二つ目はモーション(サーボモータ)。工作機械、半導体装置、ウエハ搬送ロボットを動かす部品で、売上は約375億円。ただ利益率は3%台と低い。規模で上位の安川電機や三菱電機に劣るためだ。半導体装置向けの受注残が積み上がり、利益率は上向き始めた。
三つ目はエレクトロニクス(電源装置・サーボアンプ)。売上は約230億円で、利益率は5%に届かない。ほかに販売・電気工事が約57億円ある。
地域別では日本が約6割、北米が2割強、東アジアが約1割を占める。
この会社の特徴は、利益がサンエースに偏っていることだ。モーションとエレクトロニクスが、ファンの稼ぎにどこまで近づくか。10年の勝負はそこで決まる。
優良さと弱いところ
優良さは、ファンとそれ以外で分けて見る必要がある。
ファンは優良な事業だ。利益率は約20%で、設備の負担も重くない。売りは風量と寿命で、故障が許されないサーバーや通信機器では、価格より信頼性が選ばれる。ただ、堀(他社がまねできない強み)は鉄壁ではない。台湾のDeltaとSunon、ドイツのebm-papstなどが同じ土俵に立ち、中国勢も力をつけている。標準品に近い製品ほど、値下げの圧力は強い。
サーボと電源は、まだ優良とは言えない。過去10年のROEの中央値は約7.5%で、資本コストをようやく超える程度だ。2020年3月期には営業利益率が1.5%まで落ちた。
財務は強い。自己資本比率は約77%、純現金は約250億円。営業利益は支払利息の200倍を超える。
資本の使い方は変わりつつある。長く内部留保が厚かったが、2026年4月に始まる中期計画でROE10%以上と総還元性向50%以上を掲げた。筆者は方向を評価する。ただ、実績はまだ浅い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の中心は、AIサーバーと半導体装置だ。
AIサーバーは発熱が大きく、冷やす部品の需要が増えている。山洋電気のファンは、2026年4〜6月の受注が前年より約7割増え、受注残は約170億円に達した。ただ、この伸びが10年続くとは筆者は考えない。サーバーの冷却は空冷から液冷へ移りつつあり、ファンの搭載数は減る方向に働く。会社は液冷ポンプを投入して備えるが、立ち上げ段階で、採用実績はこれからだ。
サーボは、半導体装置とウエハ搬送ロボットが牽引している。中国の工作機械向けも戻った。モーションの受注残は約206億円で、前年の1.5倍を超える。サーボは世界の設備投資に連動し、数年おきに大きく振れる。業種の調べでは、2009年、2012年、2019年の落ち込みでロボットの出荷が3〜4割減った。
10年で見れば、人手不足と省人化が数量を押し上げる。一方、中国のサーボ・ファンメーカーが技術で追いつき、値下げ圧力をかけ続ける。数量は伸びるが、価格は物価ほど上がらない製品が出てくる。
競合は、ファンがDeltaやebm-papst、サーボが安川電機、三菱電機、パナソニックだ。山洋電気は規模では勝てない。性能で勝てるニッチに絞って戦う会社だ。
資本政策と M&A
還元は変わる局面にある。
会社は2026年3月、第10次中期経営計画(2026年4月〜2031年3月)の方向を示した。ROE10%以上を続ける。配当性向は30%から50%へ、総還元性向は35%から50%以上へ引き上げる。実際、2026年3月期の配当は純利益の4割ほどに増え、2027年3月期は5割に届く見込みだ。2026年4〜6月には約10億円の自社株買いも行った。数値目標の中身は、筆者は確かめられていない。
背景には株主の圧力がある。物言う株主のストラテジックキャピタルは、大量保有報告書で2026年1月に15%台、8月に12.15%を報告した。自己資本の厚さと無借金志向を批判してきた株主だ。持ち分を減らしており、圧力が弱まる可能性もある。筆頭株主の協同興業は14〜15%を持つ。
M&Aに目立った動きはない。純現金250億円は買収の原資にもなる。10年以内にTOBを受ける、または大型買収に動く確率は無視できない。筆者は、規律のない大型買収を最大の資本政策リスクと見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI向けの需要は一時の流行ではなく、設備の更新サイクルに乗っている。山洋電気はファンの受注が前年同期より約7割増え、受注残は約170億円まで積み上がった。ファンの利益率は4〜6月期に23%を超えた。サーバーが液冷へ移っても、メモリやネットワーク機器にはファンが残る。会社は液冷ポンプを投入し、ファンとポンプの両方を売れる数少ない専業になる。
サーボも変わる。半導体装置向けの受注残は前年の1.5倍を超え、2024年には第4工場が動き出した。モーションとエレクトロニクスの利益率は、4〜6月期にそれぞれ6%、10%まで上がった。ここに量産の効果が乗れば、全社の営業利益率は12%台で定着する。
資本政策も味方だ。総還元性向50%以上の方針と物言う株主の存在が、現金の積み上げに歯止めをかける。純現金250億円に加えて配当と自社株買いが厚くなれば、ROEは10%を超える。会社の予想どおり今期の営業利益が163億円に届けば、この見方は一段と強くなる。
慎重な見方
需要の山が高いほど、そのあとの谷は深い。山洋電気の売上は、2015年3月期の約920億円から2026年3月期の約1,070億円まで、11年かけて2割弱しか増えていない。2020年3月期には営業利益率が1.5%に落ちた。今期予想の営業利益163億円は、過去11年の最高134億円を大きく上回る。ここを出発点に10年を描くのは危うい。
ファンは標準品に近づくほど値段が下がる。台湾のDeltaやドイツのebm-papst、中国勢が同じ顧客を狙っている。サーバーの液冷化で、1台あたりのファンは減る。液冷ポンプは発売したばかりで、採用実績はまだない。
サーボは規模が足りない。安川電機や三菱電機、中国の新興勢に挟まれ、利益率は3%台だ。受注残が積み上がっても、値段で稼げるとは限らない。
物言う株主は持ち分を減らしている。年初の15%台から12%台へ下がった。圧力が弱まれば、還元の引き上げが続く保証はない。余った現金が買収に使われ、価値を壊す恐れも残る。
どちらに重みを置いたか
ファンの稼ぐ力とAI需要の強さについては、強気の見方が正しい。一方、その利益が10年続くかは、慎重な見方のほうが強い。売上が11年足踏みしてきた事実と、サーボの低い利益率は、足元の勢いでは消せない。確率は中立より悲観側に寄せ、構造的に負ける筋書きも1割を超えて残した。財務の強さと還元の転換は、悪い筋書きでも価値の床を高く保つ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,039 円2,146 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,917 円681 億円)。 今の値に割り戻すと 4,102 円1,457 億円、今との差 −17.7%、 期待の年率 +4.8%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 14,000 円4,974 億円 | 3,026 円1,075 億円 | +241.5% | +13.1% | 1,362 円484 億円 |
| やや楽観 | 20% | 9,867 円3,506 億円 | 2,449 円870 億円 | +147.1% | +9.5% | 2,463 円875 億円 |
| 中立 | 32% | 6,416 円2,280 億円 | 2,252 円800 億円 | +73.9% | +5.7% | 2,774 円986 億円 |
| やや悲観 | 27% | 2,821 円1,002 億円 | 1,464 円520 億円 | −14.0% | −1.5% | 1,157 円411 億円 |
| 悲観 | 13% | 1,004 円357 億円 | 535 円190 億円 | −69.1% | −11.1% | 200 円71 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,039 円2,146 億円 | 1,917 円681 億円 | +59.6% | +4.8% | 7,956 円2,827 億円 |
今の株価時価総額 4,985 円1,771 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:AIの冷却需要が10年続き、サーボも稼げる会社になる 利益 305 億円 · PER 16.1 倍 · 株価時価総額 14,000 円4,974 億円
AIとデータセンターの冷却需要が10年を通して伸び、ファンと液冷ポンプの両方を売れる専業として地位を固める。ファンの数量は今の2.1倍、価格は物価並みに上がる。サーボは半導体装置とロボットの受注が太り、売上は10年で2,500億円を超える。営業利益率はファンが22%、サーボと電源が10%まで上がり、全社で15%前後になる。
資本政策は総還元性向50%を守る。還元は10年で1,000億円を超える。大型買収には手を出さず、現金は戻る分だけ減る。ROEは14%台に乗り、利益の質が評価される。
それでも、ここまで描けるのはこの筋書きだけだ。ファンの値下げ圧力と液冷化を乗り越え、サーボの利益率まで倍にする必要がある。
- 冷却ファン(サンエース):数量 2,856(年間の販売台数(万台、推定))× 価格 4.02(1 台あたり平均単価(千円・名目))→ 売上 1,148 億円・営業利益 253 億円。数量 2.1 倍 × 価格 1.34 倍、利益率 22%
- エレクトロニクス(電源・サーボアンプ):数量 33.5(年間の販売台数(万台、推定))× 価格 12(1 台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 404 億円・営業利益 40 億円。数量 1.3 倍、利益率 10%
- モーション(サーボモータ):数量 113(年間の販売台数(万台、推定))× 価格 8.04(1 台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 906 億円・営業利益 91 億円。数量 1.8 倍、利益率 10%
- その他(販売・電気工事):数量 1.9(年間の取引件数(万件、推定))× 価格 40(1 件あたり平均額(万円・名目))→ 売上 77 億円・営業利益 8 億円。件数は横ばい、価格は物価並み
倍率:事業の純利益 303 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.5% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)82 億円。全体の PER 16.12 倍、時価総額 4,974 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ファンの利益率が22%を保ち、液冷ポンプも採用され、サーボとエレクトロニクスが10%まで改善する。三つが同時に揃う道は細く、1 割に届かない。
やや楽観 20% やや楽観:ファンは伸び、サーボの利益率が8%台に上がる 利益 229 億円 · PER 15.1 倍 · 株価時価総額 9,867 円3,506 億円
ファンは10年で数量が1.75倍になり、液冷ポンプが加わって減る分を補う。価格は中国・台湾勢の圧力で、物価の1.34倍より少し低い1.32倍にとどまる。サーボは半導体装置と省人化の需要で数量が5割強増え、利益率は8%台まで改善する。売上は約2,170億円、営業利益は約290億円で、営業利益率は13%台になる。
還元は純利益の55%ほどで、10年で870億円。買収は小粒で、失敗しても傷は浅い。ROEは12%台まで上がるが、需要の山の利益を含むため、高い倍率までは付かない。
今期予想の12.7%を超える利益率が、10年続くという前提に立つ筋書きだ。
- 冷却ファン(サンエース):数量 2,380(年間の販売台数(万台、推定))× 価格 3.96(1 台あたり平均単価(千円・名目))→ 売上 943 億円・営業利益 189 億円。数量 1.75 倍 × 価格 1.32 倍、利益率 20%
- エレクトロニクス(電源・サーボアンプ):数量 31.0(年間の販売台数(万台、推定))× 価格 12(1 台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 374 億円・営業利益 32 億円。数量 1.2 倍、利益率 8.5%
- モーション(サーボモータ):数量 97.0(年間の販売台数(万台、推定))× 価格 8.04(1 台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 780 億円・営業利益 66 億円。数量 1.55 倍、利益率 8.5%
- その他(販売・電気工事):数量 1.9(年間の取引件数(万件、推定))× 価格 40(1 件あたり平均額(万円・名目))→ 売上 77 億円・営業利益 8 億円。件数は横ばい、価格は物価並み
倍率:事業の純利益 227 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)82 億円。全体の PER 15.05 倍、時価総額 3,506 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIとデータセンター向けの需要が受注残どおりに実績になり、サーボの利益率が上向く流れが続く、会社予想に近い道。
中立 32% 中立:AIの山は越え、物価並みの成長に落ち着く 利益 166 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 6,416 円2,280 億円
AIの山は越え、成長は物価と並ぶ程度に落ち着く。ファンの数量は10年で1.5倍、価格は1.3倍にとどまる。台湾・中国勢の追い上げで、物価ほどは値上げできない。サーボは半導体装置と省人化で数量が3割増えるが、利益率は6%止まりだ。エレクトロニクスは7%まで戻る。
売上は約1,870億円、営業利益は約210億円で、利益率は11%台になる。今期予想の12.7%より低く、過去の最高11.1%を少し上回る水準だ。
還元は純利益の55%ほどを保ち、10年で800億円。買収は小粒にとどめる。ROEは9%に届かず、資本コストをわずかに上回る程度だ。良い会社ではあるが、高い倍率を付けられる成長会社ではない、という落ち着き所になる。
- 冷却ファン(サンエース):数量 2,040(年間の販売台数(万台、推定))× 価格 3.90(1 台あたり平均単価(千円・名目))→ 売上 796 億円・営業利益 143 億円。数量 1.5 倍 × 価格 1.30 倍、利益率 18%
- エレクトロニクス(電源・サーボアンプ):数量 28.4(年間の販売台数(万台、推定))× 価格 12(1 台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 343 億円・営業利益 24 億円。数量 1.1 倍、利益率 7%
- モーション(サーボモータ):数量 81.4(年間の販売台数(万台、推定))× 価格 8.04(1 台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 655 億円・営業利益 39 億円。数量 1.3 倍、利益率 6%
- その他(販売・電気工事):数量 1.9(年間の取引件数(万件、推定))× 価格 40(1 件あたり平均額(万円・名目))→ 売上 77 億円・営業利益 8 億円。件数は横ばい、価格は物価並み
倍率:事業の純利益 164 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)82 億円。全体の PER 13.36 倍、時価総額 2,280 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ファンの高い利益率は続くが数量は伸びが鈍り、価格は物価並みに届かない。サーボは半導体装置の波に乗るが、利益率は6%止まり。強気と慎重の議論の落としどころ。
やや悲観 27% やや悲観:AI需要が冷え、価格競争と液冷化でファンの稼ぎが細る 利益 88 億円 · PER 10.8 倍 · 株価時価総額 2,821 円1,002 億円
AIの設備投資が一巡し、ファンは台湾・中国勢との値下げ競争に巻き込まれる。サーバーの液冷化で1台あたりの搭載数が減り、数量は10年で1.2倍にとどまる。価格は1.18倍と、物価に大きく届かない。利益率は14%まで下がる。
サーボは半導体装置の波が引き、利益率は3%台のまま。電源も4%どまりだ。売上は約1,430億円、営業利益は約110億円、利益率は8%近くになる。2023年3月期の山には届かない。
還元は純利益の半分強を保つが、利益が細るので10年で520億円。余った現金の一部は谷で食われる。ROEは資本コストに届かず、ためた利益は帳簿の額より低くしか評価されない。
- 冷却ファン(サンエース):数量 1,632(年間の販売台数(万台、推定))× 価格 3.54(1 台あたり平均単価(千円・名目))→ 売上 578 億円・営業利益 81 億円。数量 1.2 倍 × 価格 1.18 倍、利益率 14%
- エレクトロニクス(電源・サーボアンプ):数量 25.8(年間の販売台数(万台、推定))× 価格 11(1 台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 290 億円・営業利益 12 億円。数量 1.0 倍、価格 1.25 倍、利益率 4%
- モーション(サーボモータ):数量 68.9(年間の販売台数(万台、推定))× 価格 7.20(1 台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 496 億円・営業利益 17 億円。数量 1.1 倍、価格 1.2 倍、利益率 3.5%
- その他(販売・電気工事):数量 1.9(年間の取引件数(万件、推定))× 価格 36(1 件あたり平均額(万円・名目))→ 売上 69 億円・営業利益 6 億円。件数は横ばい
倍率:事業の ROE 5.6% は k 8% に届かない。ためた利益は帳簿の額より低い価値で、PER は 1÷k=12.1 倍が上限。需要が冷えて利益が細る筋書きなので、上限の約 9 割より低い 10.83 倍に置いた。余った現金は谷で食われ 0.75 倍、戻り方 0.5 を掛けて足した。
確率:売上が11年間足踏みしてきた実績と、台湾・中国勢の値下げ、液冷化の三つが重なる道。AI需要の山のあとは谷になりやすく、確率を最も厚くした悲観側。
悲観 13% 悲観:構造的に負け、ファンもサーボも普通の部品メーカーになる 利益 34 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 1,004 円357 億円
構造的に負ける筋書きだ。ファンは標準品の値下げが止まらず、数量は横ばい、価格も今のままになる。液冷化でAIの恩恵を取り込めず、利益率は9%まで下がる。サーボは中国勢と安川電機などに挟まれ、利益率は1%台に沈む。
売上は約1,050億円と今と変わらず、営業利益は約40億円で、利益率は4%台。2016年3月期から2021年3月期の水準だ。
大株主の圧力が薄れ、余った現金の一部が買収と減損で失われる。自己資本は減損で1,500億円に下がる。還元は10年で約190億円にとどまる。価値の床は、事業の稼ぐ力と純現金248億円にある。
- 冷却ファン(サンエース):数量 1,360(年間の販売台数(万台、推定))× 価格 3.00(1 台あたり平均単価(千円・名目))→ 売上 408 億円・営業利益 37 億円。数量 1.0 倍 × 価格 1.0 倍、利益率 9%
- エレクトロニクス(電源・サーボアンプ):数量 23.2(年間の販売台数(万台、推定))× 価格 9.90(1 台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 230 億円・営業利益 3 億円。数量 0.9 倍、利益率 1.5%
- モーション(サーボモータ):数量 56.3(年間の販売台数(万台、推定))× 価格 6.30(1 台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 355 億円・営業利益 5 億円。数量 0.9 倍、価格 1.05 倍、利益率 1.5%
- その他(販売・電気工事):数量 1.9(年間の取引件数(万件、推定))× 価格 30(1 件あたり平均額(万円・名目))→ 売上 57 億円・営業利益 3 億円。件数は横ばい
倍率:事業の ROE は 2% 台で k 8% を大きく下回る。PER は 1÷k=12.1 倍が上限で、利益が細る構造的な負けなので 9.5 倍に置いた。余った現金は失敗した買収と谷で半分に減り、戻り方 0.5 を掛けて足した。床は稼ぐ力と純現金 248 億円(floor_assets_oku)のうち、大きい方の稼ぐ力で測った。
確率:台湾・中国勢の値下げでファンの利益率が1桁になり、液冷化で数量も伸びず、サーボは赤字すれすれ。さらに現金を使った買収が失敗する。売上が11年足踏みしてきた会社で、起きても不思議はないため1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
冷却ファン(サンエース)
サーバー・通信機器・半導体装置・制御盤を冷やすファンと、2026年6月に発売した液冷用ポンプ。利益の約4分の3を稼ぐ柱。
| 数量年間の販売台数(万台、推定) | 価格1 台あたり平均単価(千円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,360 | 3.00 | 408 | 82 |
| 10 年後 中立 | 2,040 | 3.90 | 796 | 143 |
取り方:売上 408 億円(セグメント利益 82 億円)を、サーバー・通信向けの小型 DC ファンから大型の AC ファンまでの平均単価を約 3 千円と推定して、約 1,360 万台に分けた(台数は開示がない)。台数は実質の数量で、AI 向けの増加は台数に入れる。物価 3% と高性能品への移行は単価に入れる。
エレクトロニクス(電源・サーボアンプ)
電源装置・サーボアンプ・UPS など。売上は約 230 億円で利益率は 5% に届かない。
| 数量年間の販売台数(万台、推定) | 価格1 台あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 25.8 | 9.00 | 232 | 11 |
| 10 年後 中立 | 28.4 | 12 | 343 | 24 |
取り方:売上 232 億円(セグメント利益 11 億円)を、小型電源から UPS・サーボアンプまでの平均単価を約 9 万円と推定して、約 26 万台に分けた(開示なし)。台数は実質、物価 3% は単価に入れる。
モーション(サーボモータ)
工作機械・半導体装置・ウエハ搬送ロボット向けのサーボモータとドライバ。受注残が積み上がっているが利益率は 3% 台。
| 数量年間の販売台数(万台、推定) | 価格1 台あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 62.6 | 6.00 | 375 | 12 |
| 10 年後 中立 | 81.4 | 8.04 | 655 | 39 |
取り方:売上 375 億円(セグメント利益 12 億円)を、小型のモータから大型のサーボ一式までの平均単価を約 6 万円と推定して、約 63 万台に分けた(開示なし)。台数は実質、物価 3% は単価に入れる。
その他(販売・電気工事)
グループの販売会社と電気工事。売上は約 57 億円で利益率は 1 割強。
| 数量年間の取引件数(万件、推定) | 価格1 件あたり平均額(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.9 | 30 | 57 | 6 |
| 10 年後 中立 | 1.9 | 40 | 77 | 8 |
取り方:売上 57 億円(セグメント利益 6 億円)を、電気工事・販売の 1 件あたり約 30 万円と推定して約 1.9 万件に分けた(開示なし)。件数は実質、物価 3% は単価に入れる。
リスクと懸念
AI需要の山と反動
ファンとサーボの両方が、AIと半導体の設備投資の山に乗っている。今期の営業利益予想は163億円で、過去11年の最高134億円を大きく上回る。投資が一巡すれば、受注残の積み上がりが一転して在庫の重荷になり、利益率は2020年3月期の1.5%近くまで戻りうる。
液冷化でファンの搭載数が減る
サーバーの冷却は空冷から液冷へ移りつつある。液冷が主流になれば、1台あたりのファンの数は減る。会社は2026年6月に液冷ポンプを発売したが、採用実績はこれからで、ファンの減る分を埋められる保証はない。
台湾・中国勢との値下げ競争
ファンはDeltaやebm-papst、中国勢が同じ顧客を狙う。性能で選ばれる高付加価値品は守れても、標準品に近い製品は値下げが続く。中立の10年でファンの価格を物価並みの1.34倍でなく1.3倍に抑えたのは、この圧力による。
サーボ事業の低収益が続く
モーションの利益率は3%台、エレクトロニクスは5%に届かない。安川電機や三菱電機は規模で勝り、中国の新興勢は価格で迫る。受注が伸びても利益が出ない状態が続けば、全社のROEは資本コストに届かないままになる。
株主の圧力が弱まり還元が後退する
ストラテジックキャピタルは2026年1月の15%台から、8月に12.15%まで持ち分を減らした。圧力が弱まれば、総還元性向50%以上の方針が骨抜きになり、現金が再びたまる。逆に余った現金が大型買収に使われ、価値を壊すリスクもある。
設備投資サイクルと中国の景気
サーボは工作機械や半導体装置の設備投資に連動し、数年おきに大きく振れる。東アジアは売上の約1割と小さいが、中国の景気が崩れれば、半導体装置と工作機械の両方向けの需要が同時に落ちる。
今後の分かれ目
- ファンの受注が前年を下回り始めたら
- AI需要の山が過ぎたとみて、やや悲観の確率を上げる。受注残の取り崩しが先に出る。
- 液冷ポンプが大手サーバーメーカーの標準部品に採用されたら
- ファンの減る分を補える道が開く。強気の筋書きに確率を移してよい。
- モーションの営業利益率が6%を超えて定着したら
- サーボが重荷でなくなる。全社の利益率が12%台に乗る楽観側の筋書きが現実味を帯びる。
- 大株主の持ち分がさらに減り、還元の方針が後退したら
- 純現金が再びたまり、ROEが上がらない。余った現金の戻り方を0.5からさらに下げて見る。
- 現金を使った大型買収が発表されたら
- 山洋電気に買収の経験は乏しい。価値を壊す筋書きの確率を上げ、買収額を余った現金から引いて見直す。
- 中国勢が日本・欧米のサーバー向けファンで採用を広げたら
- ファンの価格を支える力が崩れる。構造的に負ける悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- ファン(サンエース)の四半期の受注高と受注残(2026年4〜6月は受注150億円、受注残170億円)
- モーションとエレクトロニクスの営業利益率(2026年4〜6月は6%と10%)
- 液冷ポンプの採用先と月産台数(会社計画は月1,000台)
- 第10次中期経営計画の数値目標と、総還元性向の実績(50%以上を守るか)
- ストラテジックキャピタルなど大株主の保有割合の変化
倍率と資本コストの決め方
倍率は式(RONIC・g・k)と事業の ROE だけで決め、今の株価や過去の PER・PBR には寄せていない。k は基本 7.5% に循環 +0.75% を足した 8.25%。余った現金 110 億円は、運転資金と借金を引いて分け、戻り方 0.5 を掛けて足した。今期予想が需要の山にあたるので、10 年先の純利益は予想(120 億円)の約 1.4 倍にとどめた。悪い筋書きは構造(価格競争・液冷化・サーボの低収益)から利益率を出し、床は稼ぐ力と純現金 248 億円から置いた。山洋電気は IFRS で、新リース会計基準の形の変更は既に済んでいる。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→16.12 倍・やや楽観 PER 13→15.05 倍・中立 PER 11.8→13.36 倍・やや悲観 PER 10.5→10.83 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。