結論
AIメカテックは、AI向け半導体の後工程で使う装置の会社だ。薄く削るウエハをガラス板に仮に貼り、加工後に剥がす「仮接合・剥離装置」が主力で、2026年6月期の売上は352億円、営業利益は58億円に達した。前の期の売上は210億円だった。
筆者の結論は「割高」だ。事業は優れているが、利益の大半は海外の大手顧客1〜2社の設備投資に乗っている。2年前の営業利益は3億円弱だった。この振れの大きさを、10年先まで続く稼ぎとして払うのは危うい。
成長の道筋ははっきりしている。AI向けの先端パッケージが増えるほど、ウエハを薄く加工する工程が増える。会社は2028年6月期に売上450億円・営業利益率20%を掲げる。ただ、主力の装置群の売上は2027年6月期から2028年6月期でほぼ横ばいと、会社自身が置いている。伸びしろは、大型基板に対応したPLP向けやHBM向けの新型機で、本格的な量産受注は2028年6月期の見込みだ。
相手は手ごわい。EVグループやSUSSは、この分野で長い実績を持つ。中立の筋書きでは10年後の純利益を70億円前後と置き、10年後の価値は今の時価総額の3割弱になる。今の値段は、AI投資がこのまま10年続くことを強く前提にしている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で最初に問うのは、10年後もこの稼ぎがあるかだ。AIメカテックの利益は、AI向けの大型投資という一つの流れに集中している。営業利益率が2%前後だった年もあり、利益が10年続く事業とは言い切れない。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、見た目より小さい。新工場、運転資金、研究用の試験機に、稼ぎの多くを回す計画だからだ。株主還元は5%程度しかない。
堀は、量産ラインに入った実績と、材料まで含めた提案だ。幅は狭い。競合のEVグループやSUSSは長い実績を持つ。資本の使い方は、大型の買収がまだ無く、目立つ失敗も無い。ただ、希薄化を伴う調達は経験している。
安全域は無い。今の時価総額は、会社自身が予想する来期の純利益のおよそ26倍にあたる。筆者が置く中立の10年後の利益では、さらに重い。筆者は、この会社を10年持ち続けたい事業とは、今は言えない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は半導体関連で、売上の約9割を占める。主力は仮接合・剥離装置(TB/DB)だ。AIの計算チップを載せる部品や、HBMのようなメモリは、薄く削らないと積めない。薄いウエハは割れやすいので、ガラス板に仮に貼って補強し、削り終えたらレーザーで剥がして洗う。この貼り合わせ・搬送・剥離の一連を担うのが同社の装置だ。ほかに、基板へはんだの小さな球を載せるボールマウンタと、パワー半導体向けのプラズマ・紫外線装置がある。
顧客は「海外の大手半導体関連メーカー」とだけ開示され、社名は出ない。大口の受注が数十億〜百数十億円の単位で入るのが、この会社の特徴だ。2025年8月に約155億円、2026年2月に海外2社から約78億円、2026年8月に約50億円と続いた。2026年6月期末の受注残は342億円ある。
光学系はインクジェット(IJP)装置とLCD装置で、売上は合わせて40億円。2026年6月期は両方とも赤字で、合計11億円ほどの損が出た。スマートグラス用のマイクロディスプレイを封止するラインなど、種まきの段階にある。
源流は日立製作所の装置事業で、2016年に独立した。2021年に上場し、2022年には東京応化工業から子会社を取得した。材料メーカーの東京応化と組み、材料・装置・工程をまとめて提案する「A-PI戦略」を事業の軸に置く。
優良さと弱いところ
強みは、量産ラインに入った実績だ。仮接合・剥離は、歩留まり(良品の割合)を左右する工程で、顧客は一度採用した装置を簡単には替えない。東京応化の材料と組んだ工程の提案も、装置だけを売る他社とは違う入り口になる。2026年6月期の営業利益率は16.5%、ROEは28%と、会社の歴史では例のない水準だ。
弱みは三つある。第一に、顧客が少なく、しかも社名を言えない。1社が投資を止めれば受注は止まる。第二に、稼ぐ力に歴史がない。2020年から2024年の営業利益率は2〜6%で、2024年6月期は営業利益3億円弱まで落ちた。第三に、急拡大のひずみが出ている。製品保証引当金は0.3億円から5億円へ、貸倒引当金は3億円規模へ増えた。
資本効率は今は高いが、稼ぎを支える自己資本は145億円にすぎない。大型受注が1回遅れる、あるいは装置に不具合が出るだけで、利益が大きく振れる規模だ。筆者は、利益率20%の継続を前提にした見方には慎重でいたい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
AI向けの先端パッケージは、チップを横に並べ、メモリを縦に積む方向へ進んでいる。積むほど各層を薄く削る必要があり、仮接合・剥離の工程が増える。AIメカテックの稼ぎは、この流れの上にある。
市場はまだ小さい。仮接合・剥離装置の世界市場は、調査会社の推計で2025年に10億ドル余り、2030年に16億ドル前後とされる。ただ推計ごとの開きは大きく、信頼できる数字とは言いにくい。筆者は、同社の半導体関連が扱う後工程の装置を合わせて16億ドル前後と置き、同社のシェアを1割強とみている。
競合は、オーストリアのEVグループ、ドイツのSUSS、日本の東京エレクトロンだ。EVグループは2025年に、HBMや3D DRAM向けのレーザー剥離を発表した。HBMがバンプ(はんだの突起)を使わない接合へ移れば、同社のボールマウンタの需要が細るという見方もある。
循環の面では、いま投資の山にいる。2024年6月期は売上が154億円のまま営業利益が3億円弱まで落ちた。山と谷の落差は忘れてはならない。半導体装置の長期の前提は、AIの計算基盤が伸び続けることだが、同社は10年を通じて同じ顧客の投資に左右される。
資本政策と M&A
還元は薄い。配当は株主資本配当率2.5%を目安とし、2026年6月期の配当性向は9%にとどまる。見直し後の3年間の計画では、稼ぐ現金の使い道は成長投資が約4割、借入の返済が約2割、株主還元は約5%だ。当面は設備と運転資金に回す方針である。
資本の歴史には希薄化が目立つ。2024年2月には新株予約権で約27億円を調達し、潜在株式は約12%あった。使い道は、組立の建屋とクリーンルームの増設だった。
大株主は材料の東京応化工業と、成膜装置のオプトラン。どちらも2025年12月時点で約17.5%を持つ(調査サイトの数字)。ここには、東京応化との材料・装置の一体提案という強みと、将来の取り込みの可能性が同居する。
会社は中計に、協業や買収による事業の拡大と、米国などでの販売・サポート拠点づくりも掲げる。大型の買収はまだ無く、価値を壊す心配は今は小さい。
点検済み(2026-10-19):起点が山でないか(中立は予想より先)、株数、悲観の確率を確かめた。割高に見せる見落としは見つからなかった。
点検済み:中立の営業利益率18.5%は、会社の27・28年6月期予想(19%)と目標(利益率20%)より低く、会社は前の目標を2年早く超えた実績がある。数字は据え置く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI向けの先端パッケージは増え続け、ウエハを薄く削る工程は欠かせない。同社は量産ラインに入った実績があり、受注残は342億円ある。会社は2026年6月期に、当初の最終年度目標を2年早く超えた。2028年6月期の売上450億円・営業利益90億円は、受注残と相次ぐ大口受注が支える数字だ。
HBMは積む段数が増え、PLP(大型の四角い基板に載せる方式)は一度に処理する数を増やす。そこでの仮接合・剥離は、装置が大きくなり、単価も上がる。会社は東京応化工業の材料と組み、工程ごと提案できる。装置だけを売る競合より、顧客の工程設計の初期から入りやすい。2026年2月には海外2社から同時に受注しており、顧客の広がりも始まっている。
光学系はスマートグラスやシリコンフォトニクス向けの種まきが進み、赤字の足かせは薄れる。利益率20%超の定着は、事業の質が変わった証拠になる。10年後に売上が今の2倍以上になる絵は、十分に描ける。
慎重な見方
利益の源は、顧客の設備投資の波だ。2024年6月期は売上154億円で営業利益3億円弱まで落ちた。わずか2年前のことである。いまの利益は、特定の顧客が生産能力を広げる局面に乗ったものだ。能力が十分に広がれば、新しい装置の注文は減る。会社自身の計画も、主力の装置群の売上は2027年6月期から2028年6月期で横ばいと置いている。
顧客は社名も明かされず、1〜2社に偏る。値下げや仕様変更を求められれば、小さな会社に拒む力は乏しい。競合のEVグループはレーザー剥離で先を行き、SUSSと東京エレクトロンも同じ土俵にいる。HBMがバンプを使わない接合へ移れば、ボールマウンタの需要は減りかねない。
次の成長を担うPLPやHBM向けの新型機は、まだ評価の段階で、量産受注は2028年6月期の想定にすぎない。光学系は赤字が続く。製品保証や貸倒の引当が一気に増えたのも、急拡大のひずみを示す。筆者は、いまの売上を10年続く水準とは見ない。
どちらに重みを置いたか
事業の質と成長の道筋は、強気の見方に説得力がある。ただし、利益が少数の顧客の投資の山に乗っていること、主力の売上が会社計画でも横ばいに入ること、競合が長い実績を持つことは、慎重な見方の指摘が強い。確率は中立を3割強に置き、やや悲観と悲観を合わせて38%にした。同社の営業利益が2年前に3億円弱まで落ちた実績と、顧客の集中は、すでに資本コストに入れたので、確率では重ねない。楽観とやや楽観は合わせて28%とした。10年の価値は、今の時価総額の3割弱になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/06 期)
確率で加重した株価時価総額 6,422 円1,208 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 855 円161 億円)。 今の値に割り戻すと 3,557 円669 億円、今との差 −37.9%、 期待の年率 +2.4%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 14,449 円2,718 億円 | 1,499 円282 億円 | +178.3% | +10.8% | 1,435 円270 億円 |
| やや楽観 | 19% | 10,156 円1,911 億円 | 1,154 円217 億円 | +97.4% | +7.0% | 2,149 円404 億円 |
| 中立 | 34% | 8,209 円1,544 億円 | 989 円186 億円 | +60.5% | +4.8% | 3,127 円588 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,461 円275 億円 | 595 円112 億円 | −64.1% | −9.7% | 494 円93 億円 |
| 悲観 | 14% | 356 円67 億円 | 159 円30 億円 | −91.0% | −21.4% | 72 円14 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,422 円1,208 億円 | 855 円161 億円 | +27.0% | +2.4% | 7,277 円1,369 億円 |
今の株価時価総額 5,730 円1,078 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 9% AI向け後工程の中核装置として定着 利益 125 億円 · PER 20.0 倍 · 株価時価総額 14,449 円2,718 億円
AI向けの先端パッケージが10年にわたり増え続け、後工程の対象市場は実質で今の1.75倍(28億ドル)になる。主力の仮接合・剥離装置は、PLP(大型基板)向けとHBM向けの新型機が量産に乗り、顧客も複数に広がる。同社のシェアは14%まで上がる。東京応化工業の材料と組んだ一体提案が標準的な入り口になり、値段も保てる。営業利益率は半導体関連で26%に届く。光学系もスマートグラスやシリコンフォトニクス向けの量産が始まり、黒字になる。売上は約900億円、営業利益は約190億円になる。稼ぎが増えても設備と運転資金の需要は旺盛で、還元は純利益の3分の1ほどにとどまる。会社は「ありたい姿」の売上500億円・営業利益率20%超を、予定より早く通過する。
- 半導体関連(仮接合・剥離装置ほか):数量 28.0(同社が扱う後工程の装置の世界市場(億ドル・今の値段で測った実質)× 同社のシェア)× 価格 28(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 788 億円・営業利益 205 億円。市場 28 億ドル(実質)× シェア 14%、営業利益率 26%
- 光学系・LCD(IJP・LCD 装置):数量 16.0(IJP・LCD 装置の年間の納入システム数(推定、台))× 価格 7.40(1 システムあたりの売上(億円・名目))→ 売上 118 億円・営業利益 17 億円。16 システム × 1 システム 7.4 億円、営業利益率 14%
倍率:事業の純利益 125 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 32.3% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 20.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.0 倍。全体の PER 20.04 倍、時価総額 2,507 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:同じ顧客が10年にわたり AI 向け投資を続け、PLP・HBM 向けの新型機も量産に乗る必要がある。条件が多く重なるので、確率は低い。
やや楽観 19% 主力装置が定着し、新型機も一部が量産へ 利益 88 億円 · PER 19.6 倍 · 株価時価総額 10,156 円1,911 億円
主力の装置は、AIの生産能力拡大が続くかぎり着実に売れる。後工程の対象市場は実質で今の1.5倍(24.5億ドル)に広がり、同社のシェアは12.5%に落ち着く。PLP・HBM向けの新型機は一部が量産に入るが、すべての顧客が採用するわけではない。半導体関連の営業利益率は25%。光学系は小さな黒字になる。売上は約700億円、営業利益は約130億円と、会社の中期計画の延長線上だ。顧客の集中は残り、投資が止まる年には利益が振れる。それでも、新工場の稼働と受注残の積み上がりで、利益が2024年6月期のような水準へ戻ることはない。還元は少しずつ厚くなるが、純利益の3分の1ほどだ。
- 半導体関連(仮接合・剥離装置ほか):数量 24.5(同社が扱う後工程の装置の世界市場(億ドル・今の値段で測った実質)× 同社のシェア)× 価格 25(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 615 億円・営業利益 154 億円。市場 24.5 億ドル(実質)× シェア 12.5%、営業利益率 25%
- 光学系・LCD(IJP・LCD 装置):数量 12.0(IJP・LCD 装置の年間の納入システム数(推定、台))× 価格 7.00(1 システムあたりの売上(億円・名目))→ 売上 84 億円・営業利益 8 億円。12 システム × 1 システム 7.0 億円、営業利益率 10%
倍率:事業の純利益 88 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 29.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 18.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.6 倍。全体の PER 19.61 倍、時価総額 1,724 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:主力の装置が定着し、新型機の量産が2028年6月期ごろから立ち上がる。会社の中期計画に近い、強気の見方に沿う筋書き。
中立 34% 中立:投資の山は越え、シェアはやや低下 利益 70 億円 · PER 19.4 倍 · 株価時価総額 8,209 円1,544 億円
能力増強の山を越えたあとも、後工程の対象市場は実質で今の1.4倍弱(22億ドル)まで伸びる。AIの計算チップやメモリが複雑になり、薄く削る工程が増えるからだ。ただし同社のシェアは、EVグループやSUSSの追い上げと顧客の値下げ要求で、13%から11.5%に下がる。半導体関連の営業利益率は25%で、会社の中期計画より低い。光学系は小さな黒字にとどまる。売上は約580億円、営業利益は約106億円になる。新型機は量産に乗るが、会社が描く売上500億円の「ありたい姿」を、1割余り上回る程度だ。純利益は来期予想の1.4倍で、勢いはなくなる。東京応化工業とオプトランが株主に残り、還元は純利益の3分の1ほどになる。
- 半導体関連(仮接合・剥離装置ほか):数量 22.0(同社が扱う後工程の装置の世界市場(億ドル・今の値段で測った実質)× 同社のシェア)× 価格 23(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 509 億円・営業利益 127 億円。市場 22 億ドル(実質)× シェア 11.5%、営業利益率 25%
- 光学系・LCD(IJP・LCD 装置):数量 10.0(IJP・LCD 装置の年間の納入システム数(推定、台))× 価格 6.70(1 システムあたりの売上(億円・名目))→ 売上 67 億円・営業利益 4 億円。10 システム × 1 システム 6.7 億円、営業利益率 6%
倍率:事業の純利益 70 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 27.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 18.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.4 倍。全体の PER 19.43 倍、時価総額 1,362 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:顧客の投資の山を越えたあとも、実質で市場が伸び続け、シェアは競争でやや下がる。最も起こりやすい中心の筋書き。
やや悲観 24% 能力増強が一巡し、競合に押される 利益 20 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 1,461 円275 億円
顧客の能力増強が一巡し、仮接合・剥離の注文は更新と小口の案件が中心になる。後工程の対象市場は実質で1.1倍(17.6億ドル)にとどまり、EVグループのレーザー剥離などに押されて、同社のシェアは9.5%まで下がる。顧客が値下げと仕様変更を迫り、半導体関連の営業利益率は17%に落ちる。PLP・HBM向けは一部しか量産に乗らず、光学系は赤字が続く。売上は約380億円、営業利益は約31億円になる。会社は黒字を保つが、2026年6月期の水準には戻らない。成長の資金需要が減るので、還元は純利益の4割ほどまで厚くなる。
- 半導体関連(仮接合・剥離装置ほか):数量 17.6(同社が扱う後工程の装置の世界市場(億ドル・今の値段で測った実質)× 同社のシェア)× 価格 19(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 336 億円・営業利益 57 億円。市場 17.6 億ドル(実質)× シェア 9.5%、営業利益率 17%
- 光学系・LCD(IJP・LCD 装置):数量 7.0(IJP・LCD 装置の年間の納入システム数(推定、台))× 価格 6.00(1 システムあたりの売上(億円・名目))→ 売上 42 億円・営業利益 −2 億円。7 システム × 1 システム 6.0 億円、営業利益率 −5%
倍率:ROE 6.4% が k 8% を下回るので、伸びても価値は増えず(ためた利益は額面未満)、正当化 PER の上限は 1÷k=10.5 倍。競争で値段と利益率が下がる局面で、利益の質も低いので、上限の 8.1 割の 8.5 倍に置いた。
確率:能力増強が一巡し、競合の追い上げでシェアが下がる筋書き。2024年6月期に営業利益が3億円弱まで落ちた実績はある。ただ、その振れは資本コストの循環と寿命に入れたので、確率では重ねず、同じ領域の他社並みの厚さにとどめた。
悲観 14% 接合方式の変化で役割が縮む 利益 −25 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 356 円67 億円
接合方式の変化と競合、顧客の内製化が重なり、同社が担う工程の役割が縮む。バンプを使わない接合へ移ってボールマウンタの需要が細り、仮接合・剥離でもEVグループが主要顧客に入る。後工程の対象市場は実質で今の0.85倍(13.6億ドル)に縮み、同社のシェアは5%まで下がる。受注は2024年6月期以前の水準を割り、半導体関連の営業利益率はマイナスになる。光学系の赤字も続く。売上は約160億円で、営業損益は約30億円の赤字だ。会社は新型機の開発費を負いきれず、事業の縮小に追い込まれる。還元は、受注が好調だった最初の数年に払った配当の合計30億円ほどにとどまる。赤字の年の配当は、手元の現金と設備の売却で払う。株主の持ち分は、現金と売れる設備の価値が支えになる。
- 半導体関連(仮接合・剥離装置ほか):数量 13.6(同社が扱う後工程の装置の世界市場(億ドル・今の値段で測った実質)× 同社のシェア)× 価格 10(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 137 億円・営業利益 −4 億円。市場 13.6 億ドル(実質)× シェア 5%、営業利益率 −3%
- 光学系・LCD(IJP・LCD 装置):数量 5.0(IJP・LCD 装置の年間の納入システム数(推定、台))× 価格 5.40(1 システムあたりの売上(億円・名目))→ 売上 27 億円・営業利益 −5 億円。5 システム × 1 システム 5.4 億円、営業利益率 −20%
倍率:構造的に負けたあとは赤字で、稼ぐ力では床を測れない。床は純現金と売れる建屋・設備の税引き後の合計 67 億円とし、今の自己資本 145 億円に掛けるなら PBR 0.46 倍。この筋書きの自己資本 120 億円に対しては 0.56 倍になる。減損で自己資本が目減りした分は、床の計算には入れていない。
確率:接合方式の変化と、競合・顧客の内製で、仮接合・剥離の役割が縮む構造的な負け。単一工程・少数顧客の弱さは資本コストの寿命に入れてあるので、確率は同じ領域の他社より少し高い14%にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
半導体関連(仮接合・剥離装置ほか)
AI向け先端パッケージの仮接合・剥離装置(TB/DB)、はんだボールマウンタ、パワー半導体向けのプラズマ・紫外線装置など。
| 数量同社が扱う後工程の装置の世界市場(億ドル・今の値段で測った実質)× 同社のシェア | 価格実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 16.0 | 20 | 312 | 88 |
| 10 年後 中立 | 22.0 | 23 | 509 | 127 |
取り方:仮接合・剥離装置の世界市場は 2025 年に約 10.6 億ドル(調査会社の推計。推計ごとに 1.7〜12 億ドルと開きが大きい)。ここにボール搭載やプラズマなど同社が扱う装置を足して、市場を約 16 億ドルと置いた。同社の半導体関連の売上 312 億円(150 円換算で約 2.1 億ドル)÷ 16 億ドル = シェア約 13%。市場の大きさは推定で、シェアは会社が開示していない。数量は実質の市場、物価 3% は価格(シェア × 150 円 × 物価の倍率)に入れた。仮接合・剥離の市場の予想は年率 8.5%(名目)で、物価を引くと実質 5% 前後。中立は今が AI 投資の山にあるので、10 年で実質 1.4 倍弱に抑えた。中立の 10 年でシェアが 13% から 11.5% へ下がるので、価格は今の 1.19 倍と、物価の 1.34 倍を下回る。セグメント利益は 87.5 億円(利益率 28%)。
光学系・LCD(IJP・LCD 装置)
IJP(インクジェット)装置と LCD 装置。スマートグラス用マイクロディスプレイの封止ラインや、LCD 向けの部品・改造が中心。
| 数量IJP・LCD 装置の年間の納入システム数(推定、台) | 価格1 システムあたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 8.0 | 5.00 | 40 | −11 |
| 10 年後 中立 | 10.0 | 6.70 | 67 | 4 |
取り方:IJP と LCD の売上は合計 40 億円(IJP 18.5 億円・LCD 21.8 億円)。台数は開示が無いので、年に約 8 システム、1 システムあたり約 5 億円と推定した。損益は 2 つのセグメント損失の合計(−6.9 億円と −3.8 億円)。台数は実質の数量、物価 3% は 1 システムあたりの売上に入れる。
リスクと懸念
顧客集中
売上の大半が、社名を明かさない海外の大手顧客1〜2社に集中している。2026年2月の約78億円の受注も2社分だ。1社が投資を先送りするだけで、受注残も売上計上の時期も大きく動く。分散が効かない構造が、いちばん大きな弱みである。
投資の山
利益はAI向け設備投資の山に乗っている。2024年6月期は売上154億円で営業利益3億円弱にまで落ちた。顧客の能力増強が一巡すれば、新しい装置の注文は減る。会社の計画でも、主力の装置群は2027年6月期から2028年6月期で横ばいと置かれている。
競合と技術の変化
EVグループはHBM・3D DRAM向けのレーザー剥離を2025年に発表した。SUSSと東京エレクトロンも同じ工程にいる。大手顧客が装置の仕様を競わせれば、値段と利益率が下がる。ハイブリッドボンディングなど接合方式が変われば、ボールマウンタの需要も細りかねない。
新型機の立ち上がり
次の柱であるPLP・HBM向けの新型機は、まだ量産前の評価段階にある。本格的な量産受注は2028年6月期の想定にすぎない。評価が長引いたり、顧客が別の方式を選んだりすれば、売上450億円・営業利益率20%という会社の目標には届かない。
品質と急拡大のひずみ
製品保証引当金は2026年6月期に0.3億円から5億円へ、貸倒引当金は3億円規模へ増えた。急な増産で納期と品質の両立が難しくなり、現地での装置の立ち上げに時間がかかれば、費用が膨らみ、顧客の信頼を損なう。
光学系の赤字
IJPとLCDは2026年6月期に合計11億円ほどの損失を出した。スマートグラスなどの需要が立ち上がらなければ、赤字が長引いて半導体の利益を食う。LCDは大きな新規投資は見込めないと、会社自身も述べている。
資本政策と希薄化
大株主の東京応化工業とオプトランは、それぞれ約17.5%を持つ。会社は2024年に新株予約権で資金を集め、潜在株式は約12%あった。成長資金のため、再び希薄化を伴う調達が起きる可能性がある。株主還元が5%程度と薄いことも、株主には重い。
今後の分かれ目
- PLP・HBM向け新型機の量産受注が、2028年6月期より早く出たら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。受注残と売上計上の時期を合わせて確かめる。
- 主力の顧客が設備投資の先送りを表明したら
- やや悲観・悲観に重みを移す。受注残の減り方と、売上計上のずれを見る。
- EVグループなどのレーザー剥離が、同社の主要顧客に採用されたら
- シェアの前提を下げ、悲観側の確率を上げる。
- HBMの世代で、バンプを使わない接合が主流になり、ボールマウンタの注文が止まったら
- 半導体関連の売上構成と利益率の前提を見直し、やや悲観側に寄せる。
- 東京応化工業が株式の買い増しやTOBに動いたら
- 提示の条件と、材料・装置の一体化の効果を個別に確かめて価値を見直す。
- 光学系の赤字が縮まらず、拡大したら
- 全社の利益率の前提を下げ、資本配分の質を見直す。
- 製品保証や貸倒の引当が、再び膨らんだら
- 急拡大の質の問題として、悲観側に寄せる。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高・受注残と、顧客ごとの売上の偏り
- PLP・HBM向け新型機の量産受注の時期
- 製品保証・貸倒引当金の推移
- EVグループ・SUSSのHBM向け剥離装置の採用の動き
- 東京応化工業・オプトランの持株比率の変化
倍率と資本コストの決め方
今の株価や倍率は見ずに、後工程の対象市場(実質の億ドル)× 同社のシェア × 価格の指数で売上を積み、物価の分は価格の側に入れた。倍率は資本コスト8%(基本7.5%に、循環+1.0%・値決め力+0.25%・寿命+0.75%)と長期の成長率4%から、利益ベースの正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g) で決めた。中立は上限の約9割に置き、悲観は稼ぐ力でなく純現金と売れる設備の税引き後から置いた。市場の大きさ、シェア、顧客は開示が乏しく、推定の幅が大きい。結果は10年の楽観でも今の時価総額を1割余り上回る程度で、計算に従った。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12→20.04 倍・やや楽観 PER 11.2→19.61 倍・中立 PER 10.6→19.43 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。