結論
ヨコオは、車のアンテナと、半導体の検査に使う接続部品を作る会社だ。売上の6割は車載、2割強が半導体検査である。筆者の結論は割高で、いちばんの理由は、会社の稼ぎを決める比重と、今の期待が向いている先がずれていることにある。
期待が集まるのは半導体検査(CTC)だ。生成AI向けのGPUを検査する治具の需要で、売上は前期に25%伸び、営業利益は倍になった。利益率は15%ある。ここは本物の成長だと筆者は見る。
ただし、全社の利益の大半を稼ぐ力はまだ車載にない。車載の営業利益率は4%に届かず、日系完成車が中国で苦戦するたびに揺れる。検査が伸びても、全体の採算は9%弱にしか上がらないと筆者は見る。
会社は営業利益で130億円前後という計画を掲げる。2027年3月期の目標だった100億円も、予想は70億円にとどまる。計画が達成されたうえで、さらに倍率が付くなら今の値段は妥当だが、そこまで織り込むのは強気に過ぎる。借金は無く、純現金が約70億円ある。財務が崩れる心配はないが、それは安全域であって、割安の根拠ではない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ヨコオは良い事業と普通の事業が同居する会社だ。
良い事業は CTC である。検査治具は顧客の設計に深く入り、AIの需要で数量が伸びる。利益率は15%を超え、少ない資本で稼げる。持ち続けたいと思う部分だ。
普通の事業は車載である。売上の6割を占めるが、利益率は低く、完成車メーカーの値下げと台数の動きに左右される。持ち続けても、資本を増やす力は弱い。
資本の使い方に懸念がある。会社は稼ぎの中心を車載に置いたまま、増える投資を CTC に回す。車載の稼ぎが細ると、検査の投資に回すお金も細る。検査の需要が一巡するタイミングと、車載の弱さが重なると、設備が重荷になる。
安全域は、純現金が時価総額の約8%ある点にしかない。事業の質は10年で自己資本の9%前後しか稼がず、資本コストを少し上回る程度である。それなら、払う値段は事業の将来の稼ぎに見合うべきで、今の値段は、検査の急成長が車載の弱さを上回る姿を強く織り込んでいる。筆者はその確信を持てない。
何で稼ぐ会社か
ヨコオの稼ぎは、車のアンテナ、半導体の検査治具、民生・医療の小さな部品の3つに分かれる。
最大の柱は車載通信機器(VCCS)だ。屋根に付くシャークフィンアンテナやGPSアンテナを作り、顧客の中心は日系の完成車メーカーである。販売の約7割が海外で、生産も9割超が中国とベトナムにある。売上は前期でほぼ横ばいだった。
成長の柱は半導体検査用コネクタ(CTC)だ。前工程ではウエハーを検査するプローブカード、後工程ではチップを検査するソケットを作る。山形の子会社が針状のプローブを量産し、2027年の上期に月産300万本を目指している。顧客は半導体メーカーとその検査を請け負う会社で、検査の相手が GPU や HBM のような高性能の品に移るほど、治具の単価と難度が上がる。
残りは民生コネクタと医療機器部品(FC・MD)、新規事業を探るインキュベーションセンターである。前者は利益が薄く、後者は赤字が続く。会社は余った資金を CTC に集中する方針で、今後3年で設備投資に約250億円を充てる計画だ。民生コネクタは小型で付加価値の高い特注品に絞り、医療は自社企画の製品を欧米に広げる狙いがある。損益はまだ小さく、全社の稼ぎを左右するのは車載と検査の2つだ。
優良さと弱いところ
優良さの点では、CTC は光るが、会社全体はまだ平凡である。
CTC の強みは、顧客ごとの設計に入り込むことだ。検査治具は半導体の新しい品種ごとに作り直すので、一度採用されれば次の世代でも声がかかりやすい。会社も前工程のプローブカードや、システムレベルテスト、バーンインへの参入で、検査の総合ベンダーを目指している。ただし、検査治具はソケットのEnplas・Cohu、プローブカードの日本電子材料・日本マイクロニクス・FormFactor、韓国のLeenoなど、競合が多い。世界で圧倒的なシェアを握る分野ではない。
車載の弱さが全体の質を決める。完成車メーカーの値下げ要求を受け、利益率は4%に届かない。日系完成車の中国での地位が下がるたびに、台数が揺れる。会社が自称する「シェアトップ」は、数字での裏付けを確かめられなかった。
資本の使い方は、いまのところ堅実だ。純現金で、自己資本比率は67%ある。過去10年のROEの中央値は9.5%で、資本コストをわずかに上回る程度にとどまる。
筆者がいちばん気にするのは、CTC に投じる大きな設備投資が、稼ぎを増やすかどうかである。台数の動く車載の利益を、検査の新しい設備投資に回している構図で、検査の需要が一巡したときの傷が大きい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
業界は2つの全く違う市場に分かれる。
自動車向けでは、アンテナが単品から通信モジュールに変わっている。通信とGPSと放送が1つの箱にまとまり、1台あたりの金額は上がる。ただし完成車メーカーが統合ユニットを自社で作り込めば、部品単体の需要は細る。日系完成車は中国の電気自動車に押され、世界の販売台数も大きくは伸びない。台数は横ばいが妥当で、インドと東南アジアでどこまで補えるかが分かれ目になる。
半導体の検査では、AIの計算基盤が需要を押し上げている。GPUやHBMのような大きく複雑なチップは検査にかかる時間が長く、治具の単価も高い。ウエハー製造装置の市場は10年で倍以上に伸びる見通しがあり、検査治具もそれに連動するが、伸び方はなだらかだと筆者は見る。AIの投資が一服すれば、治具の受注は装置より速く縮む。
競争は厳しい。検査治具は、日本の同業に加えて、韓国や中国の安い製品が入ってくる。価格が物価ほど上がらない前提で見る必要がある。この領域の電子部品の会社では、山一電機が同じ検査ソケットを手がけ、日本航空電子工業がコネクタで競合する。
資本政策と M&A
資本政策は、配当は安定、投資は CTC に集中という方針だ。
配当は純資産配当率(DOE)2.2%を目安にしてきた。会社は中期計画でこれを2.5%水準に上げる方針を示す。配当の増加は、利益の増加よりも自己資本の増加に歩調を合わせる形になる。自社株買いは、自己株式が10億円程度で、大きな実績は確かめられなかった。
投資は検査に向かう。2026年6月に、CTCの生産能力を増やすため2031年3月期までに約76億円を使うと発表した。中期計画の設備投資約250億円のうち、150億円超が CTC と医療に配分される。
買収については、会社が「機会を逃さず実行する」と書いている。検査の総合ベンダーを目指す文脈で、前工程や新しい検査の装置・ソフトを持つ会社を買う可能性は十分にある。買われる側としては、筆頭株主や政策保有株の状況を確かめられなかったので、TOB の確率は筋書きに書き込まない。時価総額が1,000億円に満たない小さな会社なので、検査を求める大手に買われる可能性はゼロではない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ヨコオは、車載の会社から半導体検査の会社に変わりつつある。CTC は前期に売上が25%伸び、営業利益は倍になった。生成AI向けのGPUの検査は、チップが大きく複雑になるほど治具の単価が上がる。会社は山形の新工場でプローブの月産を300万本にし、76億円の設備投資で検査の総合ベンダーを目指している。前工程のプローブカードや、システムレベルテスト、バーンインまで広げれば、検査治具の市場全体が取り込める。車載は営業利益率が低いが、すでに底に近く、モジュール化とインドの伸びで戻る余地がある。会社の中期計画の営業利益130億円は、CTC が売上の3割強になれば届く数字だ。純現金で借金が無く、配当も増える。今は検査の波の初期で、10年で利益は2倍以上に伸びる。しかも、検査で稼いだ利益は設備と開発に再投資され、複利で効く。車載の安定した売上があるので、検査の景気が少し悪くなっても、会社全体が傷む場面は限られる。医療や民生の自社製品も、少しずつ積み上がる。
慎重な見方
検査治具は同業が多く、世界で圧倒的な強さを持つ分野ではない。ソケットにはEnplasやCohu、プローブカードには日本電子材料・日本マイクロニクス・FormFactor、韓国のLeenoが並ぶ。AIの投資が一服すると、治具の受注は装置より速く縮み、新工場の稼働が下がる。会社は2027年3月期に営業利益100億円を掲げていたが、予想は70億円にとどまる。今の計画も営業利益を一気に倍以上にする前提が置かれている。売上の6割を占める車載は営業利益率が4%に届かず、日系完成車の中国での地位が下がる中、台数は伸びない。アンテナが完成車メーカーの統合ユニットに吸われる恐れもある。それでいて設備投資は3年で250億円と重く、配当に回る余力は小さい。今の値段は、この計画の達成と高い倍率の両方を先取りしている。医療や新規事業は小さく、全体を救うには足りない。検査の増強を急ぐほど、固定費は重くなり、需要が反転したときの利益の落ち込みも深くなる。
どちらに重みを置いたか
検査の成長は本物だが、売上の6割を占める車載が全体の採算を決める点を重く見て、確率を中立から慎重な側にやや寄せた。悲観の側に3割強、楽観の側に3割弱を置き、中立が最も大きい。利益率は9%弱が落としどころで、会社の計画の12%には届かない。それでも、10年後の価値は今の値段を大きく下回る。検査が計画通りに伸びる姿は、楽観の筋書きにしか入っていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,654 円1,085 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 898 円209 億円)。 今の値に割り戻すと 2,711 円632 億円、今との差 −22.1%、 期待の年率 +4.8%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 10,856 円2,531 億円 | 1,416 円330 億円 | +252.6% | +13.4% | 859 円200 億円 |
| やや楽観 | 20% | 7,497 円1,748 億円 | 1,137 円265 億円 | +148.1% | +9.5% | 1,727 円403 億円 |
| 中立 | 35% | 5,298 円1,235 億円 | 1,072 円250 億円 | +83.1% | +6.2% | 2,230 円520 億円 |
| やや悲観 | 26% | 1,601 円373 億円 | 558 円130 億円 | −38.0% | −4.7% | 561 円131 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,033 円241 億円 | 429 円100 億円 | −58.0% | −8.3% | 175 円41 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,654 円1,085 億円 | 898 円209 億円 | +59.5% | +4.8% | 5,552 円1,294 億円 |
今の株価時価総額 3,480 円811 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 7% CTC が検査の総合ベンダーになる 利益 167 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 10,856 円2,531 億円
CTC は後工程のソケットで足場を固め、前工程のプローブカードと、システムレベルテスト、バーンインまで広げる。世界の検査治具市場は AI の計算基盤とともに伸び、ヨコオは先端の GPU 向けで指名を受ける立場になる。山形の新工場も稼働率が高く、利益率は 18% まで上がる。
車載は日系完成車の落ち込みを、インドと東南アジアの伸びで埋める。アンテナを通信モジュールに作り替えて 1 台あたりの金額が増え、採算も少し戻る。新規事業の中から医療や高周波の製品が育ち、赤字は消える。全社の営業利益率は 12% に届く。会社の中期計画が描いた姿が、少し遅れて実現する筋書きだ。
- 車載通信機器(VCCS):数量 1,400(搭載台数(万台、推定))× 価格 0.55(1 台あたり平均売価(万円、モジュール含む))→ 売上 770 億円・営業利益 58 億円。日系車の搭載台数を保ち、インドとモジュール化で単価が上がる
- 半導体検査用コネクタ(CTC):数量 3.9(検査治具の世界市場(億ドル、実質)× ヨコオのシェア)× 価格 1.30(値段の指数(今を 1.0)、1 ドル 150 円で円に換算)→ 売上 751 億円・営業利益 135 億円。市場 70 億ドル × シェア 5.5%。AI の GPU 検査と前工程に広がる
- 民生コネクタ・医療機器部品(FC・MD):数量 5.8(出荷数(億個、推定))× 価格 34(1 個あたり平均売価(円))→ 売上 197 億円・営業利益 18 億円。ウェアラブルと医療の自社製品が伸びる
- インキュベーションセンター:数量 100(試作・受託の案件数(件、推定))× 価格 0.70(1 件あたり平均売上(億円))→ 売上 70 億円・営業利益 6 億円。新規事業のいくつかが製品になる
倍率:事業の純利益 167 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.6% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍。全体の PER 14.9 倍、時価総額 2,488 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:CTC が AI の検査需要を取り込み、車載も持ちこたえる組み合わせ。強い順風だが、会社の目標が届かない例があるので 1 割を切らせた。
やや楽観 20% CTC が計画に近い形で伸びる 利益 122 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 7,497 円1,748 億円
CTC が会社の計画に近い形で伸びる。AI 向けの検査需要で後工程のソケットが太り、MEMS プローブカードも顧客を増やす。市場が伸びる中でシェアを 1 ポイントほど取り、利益率は 16% 台を保つ。
車載は台数が横ばいで、モジュール化による単価の上昇が、値下げ要求と釣り合う程度。利益率は 6% 台に戻るが、かつての水準には届かない。医療・民生のコネクタは小さく伸びる。10 年後の営業利益率は 10% 前後と、会社の過去の最高圏に近い。
新工場の稼働は高く、検査の設備投資は回収できる。純現金を保ったまま配当を増やし、株主への還元も厚くなる。ただし、車載の弱さが残るので、検査だけで全体の採算を引き上げる力には限りがある。
- 車載通信機器(VCCS):数量 1,380(搭載台数(万台、推定))× 価格 0.53(1 台あたり平均売価(万円、モジュール含む))→ 売上 731 億円・営業利益 48 億円。台数はほぼ横ばい、モジュール化で単価は物価並み
- 半導体検査用コネクタ(CTC):数量 3.1(検査治具の世界市場(億ドル、実質)× ヨコオのシェア)× 価格 1.28(値段の指数(今を 1.0)、1 ドル 150 円で円に換算)→ 売上 595 億円・営業利益 98 億円。市場 66 億ドル × シェア 4.7%
- 民生コネクタ・医療機器部品(FC・MD):数量 5.5(出荷数(億個、推定))× 価格 33(1 個あたり平均売価(円))→ 売上 180 億円・営業利益 14 億円。高付加価値品が増える
- インキュベーションセンター:数量 70.0(試作・受託の案件数(件、推定))× 価格 0.67(1 件あたり平均売上(億円))→ 売上 47 億円・営業利益 1 億円。赤字をほぼ止める
倍率:事業の純利益 122 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.4% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.0 倍。全体の PER 13.95 倍、時価総額 1,702 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画に近い歩み。CTC への投資が実を結ぶ見方には根拠があるが、車載の弱さと同時に進むには条件が重い。
中立 35% CTC は育つが、車載が足を引く 利益 93 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 5,298 円1,235 億円
CTC は伸びるが、会社の主力はなお車載のままで、全体の採算は抜け出せない。検査治具の市場は AI で厚みを増すが、ヨコオのシェアは 3% 台から 4% 強へ、1 ポイントほどの上積みにとどまる。競合が多く、単価は物価ほどには上がらない。
車載は、日系完成車が中国で苦戦するのを、インドなどの新しい地域で補う。売上は物価で緩やかに増えるが、台数は伸びず、利益率は 5% 台にとどまる。医療部品の自社製品は育つが小さい。
営業利益率は 9% 弱で、過去 10 年の山の水準を少し超える程度。配当は安定して出るが、設備投資が重く、株主に回る金額は大きくならない。
- 車載通信機器(VCCS):数量 1,350(搭載台数(万台、推定))× 価格 0.52(1 台あたり平均売価(万円、モジュール含む))→ 売上 702 億円・営業利益 39 億円。日系車の中国での苦戦を、インドと東南アジアで補う
- 半導体検査用コネクタ(CTC):数量 2.6(検査治具の世界市場(億ドル、実質)× ヨコオのシェア)× 価格 1.25(値段の指数(今を 1.0)、1 ドル 150 円で円に換算)→ 売上 488 億円・営業利益 73 億円。市場 62 億ドル × シェア 4.2%、単価は物価より少し弱い
- 民生コネクタ・医療機器部品(FC・MD):数量 5.3(出荷数(億個、推定))× 価格 33(1 個あたり平均売価(円))→ 売上 172 億円・営業利益 12 億円。医療の自社製品が育つ
- インキュベーションセンター:数量 80.0(試作・受託の案件数(件、推定))× 価格 0.67(1 件あたり平均売上(億円))→ 売上 54 億円・営業利益 −1 億円。損益ほぼ均衡へ
倍率:事業の純利益 93 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍。全体の PER 12.98 倍、時価総額 1,207 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:CTC は伸びるが、売上の 6 割を占める車載が低採算のまま、という落としどころ。過去 10 年の営業利益率の中央値に近い。
やや悲観 26% 車載が痩せ、検査も値下げに押される 利益 34 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 1,601 円373 億円
車載と検査のどちらも期待を下回る。日系完成車が中国と東南アジアで地盤を失い、車載の台数は 2 割ほど減る。アンテナは完成車メーカー自身が組み込むようになり、部品単体の値段も上がらない。
CTC は AI の投資が一服するたびに受注が振れ、韓国や中国の同業が値下げで入ってくる。増強した工場の稼働が上がらず、利益率は 10% まで下がる。全社の営業利益率は 4.6% と、足元より低い。配当は DOE の目安を守るが、積み増しはできない。
新規事業の赤字は止まらず、買収で広げた検査の事業も採算に乗らない。会社が自負する「検査の総合ベンダー」は、看板だけが先に立つ。優良な部品会社という見方は薄れ、車載の弱さを検査で隠せない姿になる。
- 車載通信機器(VCCS):数量 1,150(搭載台数(万台、推定))× 価格 0.48(1 台あたり平均売価(万円、モジュール含む))→ 売上 552 億円・営業利益 17 億円。日系車が地盤を失い、台数が 2 割減る
- 半導体検査用コネクタ(CTC):数量 1.6(検査治具の世界市場(億ドル、実質)× ヨコオのシェア)× 価格 1.15(値段の指数(今を 1.0)、1 ドル 150 円で円に換算)→ 売上 276 億円・営業利益 28 億円。市場 50 億ドル × シェア 3.2%。中韓勢の値下げ
- 民生コネクタ・医療機器部品(FC・MD):数量 4.4(出荷数(億個、推定))× 価格 28(1 個あたり平均売価(円))→ 売上 123 億円・営業利益 4 億円。医療・民生とも伸びない
- インキュベーションセンター:数量 55.0(試作・受託の案件数(件、推定))× 価格 0.55(1 件あたり平均売上(億円))→ 売上 30 億円・営業利益 −3 億円。新規事業の赤字が残る
倍率:事業の ROE は 4% 台で k を下回る。ためた利益は額面を下回る価値なので、倍率は市場でなく稼ぐ力で測る。利益が谷にあることを割り引き、1÷k の 11.4 倍よりかなり下の 8.5 倍に置いた。
確率:日系車の失速と検査治具の値下げが重なる。最近の車載の減益と、中韓勢の追い上げを見ると、起きやすい。
悲観 12% どちらの柱も崩れる 利益 7 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,033 円241 億円
車載が構造的に縮む。完成車メーカーが通信機能を自社の統合ユニットに入れ、ヨコオのアンテナは台数が 3 分の 2 になり、利益はほとんど残らない。海外の工場が固定費を重くする。
CTC は AI の検査需要が一巡し、中国と韓国の同業が単価を落とす。市場の成長も鈍り、76 億円を投じる増強設備の稼働が上がらない。減損も出る。新規事業は整理する。優良な部品会社の位置から、価格競争の受け手に回った会社になる筋書きだ。
配当は DOE の目安を維持できず、減らさざるを得なくなる。純現金は設備と減損に食われ、財務の余裕も薄れる。買収の標的にされる可能性は残るが、その時の値段は今よりずっと低い。
- 車載通信機器(VCCS):数量 900(搭載台数(万台、推定))× 価格 0.44(1 台あたり平均売価(万円、モジュール含む))→ 売上 396 億円・営業利益 8 億円。アンテナが完成車メーカーの統合ユニットに吸われ、台数が 3 分の 2 に
- 半導体検査用コネクタ(CTC):数量 1.0(検査治具の世界市場(億ドル、実質)× ヨコオのシェア)× 価格 1.05(値段の指数(今を 1.0)、1 ドル 150 円で円に換算)→ 売上 158 億円・営業利益 8 億円。市場 42 億ドル × シェア 2.4%。増強した設備が遊ぶ
- 民生コネクタ・医療機器部品(FC・MD):数量 4.0(出荷数(億個、推定))× 価格 28(1 個あたり平均売価(円))→ 売上 110 億円・営業利益 0 億円。価格競争で利益が出ない
- インキュベーションセンター:数量 40.0(試作・受託の案件数(件、推定))× 価格 0.50(1 件あたり平均売上(億円))→ 売上 20 億円・営業利益 −5 億円。新規事業を畳む
倍率:赤字すれすれの利益なので PER は使わず、今の自己資本 602 億円に 0.4 倍を掛けた。稼ぐ力(正常化した純利益 15 億円前後 ÷ k)と純現金 72 億円、売れる設備と在庫・売掛金の回収分を足した額に近い。
確率:車載が構造的に縮み、増強した検査設備も回収できない。起きる確率は低いが、投資が重いぶん傷は深いので 1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
車載通信機器(VCCS)
シャークフィンアンテナ・GPSアンテナなど、自動車向けのアンテナと通信モジュール。日系完成車が主な顧客。
| 数量搭載台数(万台、推定) | 価格1 台あたり平均売価(万円、モジュール含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,402 | 0.40 | 561 | 22 |
| 10 年後 中立 | 1,350 | 0.52 | 702 | 39 |
取り方:売上 561 億円を、アンテナ単体より高いモジュール込みの平均売価(0.4 万円前後)で割ると 1,400 万台ほど。開示は無く推定。売価は名目で、物価の分は価格の側に入れる。
半導体検査用コネクタ(CTC)
前工程のプローブカードと後工程のテストソケット。生成 AI 向け GPU の検査が伸びている。
| 数量検査治具の世界市場(億ドル、実質)× ヨコオのシェア | 価格値段の指数(今を 1.0)、1 ドル 150 円で円に換算 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.3 | 1.00 | 196 | 29 |
| 10 年後 中立 | 2.6 | 1.25 | 488 | 73 |
取り方:検査治具(ソケット・プローブカード・プローブ)の世界市場を 40 億ドル前後とみて、ヨコオのシェアを 3.3% と置くと 196 億円。市場規模もシェアも会社は開示しておらず、競合の売上から組んだ推定。
民生コネクタ・医療機器部品(FC・MD)
ウェアラブル端末向けの高付加価値コネクタと、カテーテルなど医療機器の部品・ユニット。
| 数量出荷数(億個、推定) | 価格1 個あたり平均売価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.6 | 25 | 115 | 6 |
| 10 年後 中立 | 5.3 | 33 | 172 | 12 |
取り方:売上 115 億円を、小型コネクタと医療部品を混ぜた平均売価(1 個あたり二十数円の小さな部品と、数百円の医療部品の混合)で割ると 4.6 億個。開示は無く推定。
インキュベーションセンター
新規事業の探索と試作を受け持つ部署。売上は小さく、赤字が続いている。
| 数量試作・受託の案件数(件、推定) | 価格1 件あたり平均売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 58.0 | 0.50 | 29 | −7 |
| 10 年後 中立 | 80.0 | 0.67 | 54 | −1 |
取り方:売上 29 億円を 1 件 0.5 億円で割って 58 件相当と置いた推定。実際は案件の大きさがまちまち。
リスクと懸念
車載の台数と値下げ
売上の6割を占める車載は、日系完成車メーカーの販売に左右される。中国で苦戦が続けば台数が減り、毎年の値下げ要求で利益率も削られる。直近で営業利益が22.5%減ったのが、その証拠だ。車載の減益が CTC の増益を食う形が続くと、全体の利益は伸びない。
アンテナの内製化・統合
車の通信機能は、完成車メーカーが自社の統合ユニットに入れる流れにある。アンテナが部品単体で売れなくなり、モジュールの一部としてしか使われなくなると、ヨコオの値決めの力はさらに弱くなる。車載の台数が3分の2になる悲観の筋書きは、この流れの帰結だ。
検査投資の波と過剰設備
CTC は生成AI向けの検査需要で伸びている。AIの投資が一服したとき、治具は装置より速く受注が縮む。76億円の増強と中期計画の250億円の設備投資が、稼働の低い設備として残ると、減価償却が利益を押し下げる。
検査治具の競争
検査ソケットとプローブカードには、日本のほか韓国・米国・台湾の同業が多い。顧客が複数のメーカーから買う例も多く、値下げの圧力は強い。単価が物価ほど上がらず、シェアも伸びない場合、CTC の利益率は15%を保てない。
計画の未達の歴史
会社は2027年3月期に営業利益100億円を目標にしていたが、予想は70億円にとどまる。新しい計画も、営業利益を倍以上にする前提で組まれている。計画を信じて値段が決まっていると、未達のたびに期待が縮む。
中国・東南アジアの生産と為替
生産の9割超が中国とベトナムにあり、販売の約7割が海外だ。為替の動きや関税、地政学の変化が、そのまま利益に響く。この筋書きでは為替を150円に固定しているので、実際の変動は上下の振れになる。
今後の分かれ目
- CTC の売上が、中期計画の3割強の比率に近づき、利益率が15%を保つ
- 楽観側の筋書きに近づく。CTC が全体の採算を引き上げ、営業利益率が10%台に入る。確率を楽観側へ寄せてよい。
- 車載の営業利益率が4%を割り込み、台数も減り始める
- 慎重な見方に重心を移す。CTC の増益が車載の減益に消されるなら、全体の利益は伸びない。
- AIの検査需要が鈍り、CTC の受注が前年を割る
- 新工場の稼働が下がり、設備投資が重荷になる。悲観側の筋書きの確率を上げる。
- 完成車メーカーがアンテナを統合ユニットに取り込み、ヨコオの採用が減る
- 車載の台数と単価が構造的に下がる。やや悲観から悲観の筋書きの色が濃くなる。
- 検査の総合ベンダーを目指す買収が発表される
- 買収額と買う相手の中身を見る。高い値段で買えば、資本の使い方が崩れる。安く買って検査の事業が広がるなら、楽観側に寄せる。
- 大手の検査会社や半導体メーカーが、ヨコオに資本参加または TOB を持ちかける
- 時価総額が小さく純現金もあるので、可能性はゼロではない。条件次第で、中立より上の筋書きに入る。
見ておくもの
- CTC の四半期の受注と売上の伸び(生成AI向けのソケットとプローブカードの動き)
- 車載の営業利益率と、日系完成車の中国での販売台数
- 山形のプローブ工場の稼働と、76億円の増強の進み具合
- 中期計画の営業利益目標に対する、期ごとの達成度合い
- 買収の発表と、配当(DOE)の引き上げ
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROE と資本コスト k 8.25%、長期の成長 g 4% から出した正当化 PER から決めた。今の株価と、同業の PER・PBR は見ていない。中立の事業の ROE は 9% 前後で k をわずかに上回るだけなので、PER は下限の 1÷k(11.4 倍)の近くに収まる。楽観は 12.2 倍、やや悲観以下は稼ぐ力から置いた。今の株価が倍でも半分でも、この数字は動かない。セグメントの数量と価格は、検査治具市場とシェア、車載の台数と単価の推定から積み上げた。開示がないので、推定の根拠は notes に残した。新リース会計基準(2028年3月期から)で営業利益と負債の形が変わるが、10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。純現金は時価総額の1割を下回るので、余った現金は分けていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.2→14.9 倍・やや楽観 PER 11.8→13.95 倍・中立 PER 11.6→12.98 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.25% を足して 8.75%。山一電機・日本航空電子(1.0%)より高いのは、車載への偏りと規模の小ささが寿命と値決めに響くため。純現金で借金は無く、ホシデン(1.5%)よりは低い。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 8.25%。