結論
日本電子は、電子顕微鏡と NMR(核磁気共鳴装置)を作る理科学機器の会社だ。ただし利益の中身は偏っている。半導体の回路原版(マスク)を描く電子ビーム描画装置が、売上の約 27% で利益の約 6 割を稼ぐ。
筆者の結論は、10 年で測ると今の値段は割高、である。堀は本物だが、利益の山が高すぎる。2025 年 3 月期の営業利益率 18% は、先端マスク向けの装置が重なった結果とみられる。そこへ米国の研究予算の削減懸念、中国向けの輸出規制、競合の参入という向かい風が来ている。2027 年 3 月期の第 1 四半期は、営業赤字だった。
強みははっきりしている。NMR を作る会社は世界で 2 社しかなく、日本電子はその片方だ。マルチビーム描画装置では、長く独占に近い位置にいた。研究室や工場に一度入れば、装置を替えにくい。保守や部品の収入も付いてくる。
弱みは三つある。利益が先端半導体の設備投資の波に乗る。主力装置は、インテルが過半を持つ IMS との共同開発で、自社だけでは決められない。さらに、ニューフレアが 2021 年に参入した。
資本の使い方は堅実だ。純現金で、配当性向は約 3 割にとどまる。赤字の医用機器はシスメックスへ譲る。中立の筋書きで利益が 10 年で 5 割増えても、割り引くと今の値段には届かない。これが筆者の見立てだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、日本電子は「良い事業だが、値段の付け方が難しい会社」である。
良い点は、替えのききにくさだ。NMR の 2 社体制、電子顕微鏡の保守収入、マルチビーム描画装置の先行は、10 年後も残る可能性が高い。純現金で、増資に頼らず成長できる。
難しい点は、オーナー利益の読みにくさだ。利益の約 6 割が、少数顧客の設備投資で動く産業機器に偏る。2025 年 3 月期の高い利益を土台に将来を描くと、将来を高く見すぎる。筆者は、利益率の平均が 15% 台の事業として測る。配当と投資の配分も、やや投資に傾いている。設備への投資が高い ROE につながるかが問われる。
安全域は今の値段では薄い。楽観の筋書きでも、今の値段を大きくは上回れない。悲観の筋書きでは、全社の営業利益が今の 4 分の 1 にまで縮む。予測のしやすさは、中くらいだ。わからない部分は、先端マスクの投資が何年続くかと、IMS との関係である。確信度を一段下げて見る。
何で稼ぐ会社か
日本電子の売り物は、目に見えない世界を見る装置だ。2026 年 3 月期の売上は 1,794 億円。三つの事業で成り立つ。
最大は理科学・計測機器(売上の約 65%)だ。電子顕微鏡、NMR、質量分析計を作る。顧客は大学、研究所、製薬、材料・電池・半導体の企業である。納めたあとの保守と部品が、継続的な収入になる。NMR は物質の分子の姿を調べる装置で、作るのは日本電子と米ブルカーの 2 社だけだ。日本電子は国内で約 7 割、世界で約 3 割とされる。電子顕微鏡の競合は日立ハイテク、サーモフィッシャー、ZEISS などだ。生体分子を見るクライオ電子顕微鏡では、サーモフィッシャーが強いとされる。
二つ目は産業機器(約 27%)で、利益率は約 4 割と飛び抜けて高い。中身は電子ビーム描画装置だ。マルチビーム方式は、26 万本のビームを一度に当ててマスクを描く。オーストリアの IMS ナノファブリケーションとの共同開発品である。ほかに、AI データセンター向けの光通信部品(DFB レーザー)に使う描画装置や、電子銃もある。
三つ目は医用機器(約 8%)だ。生化学の自動分析装置を作るが、利益はほとんど出ていない。2026 年 4 月にシスメックスへ譲る予定と発表されており、完了は確認できなかった。進めば、利益率の低い事業が外れる。
売上の約 3 分の 2 は海外だ。中国が約 2 割、米州が約 15% を占める。
優良さと弱いところ
筆者が評価するのは、替えのききにくさだ。電子顕微鏡や NMR は、研究者が使い方を覚え、解析の手順も装置に合わせて組む。他社へ替えれば、研究が止まる。この性質が、保守と部品の継続収入を支える。NMR の 2 社体制と、マルチビーム描画装置の先行は、その堀の一番強い部分だ。
資本効率は悪くない。ROE は過去 10 年の中央値で 14%、2026 年 3 月期は 15% だった。自己資本比率は約 6 割で、純現金。利払いの負担はほぼない。
弱みも並べておく。第一に、利益が荒い。営業利益率は 2017 年 3 月期に 2%、2025 年 3 月期に 18% と振れた。2009 年と 2012 年は赤字だった。第二に、利益の山を作ったのが、少数の先端顧客の設備投資だ。顧客が絞られ、買う時期もずれる。2027 年 3 月期の第 1 四半期に売上が 4 割減ったのは、その表れである。第三に、2021 年に最大 173 億円の公募増資をして、既存株主の持分は薄まった。
経営の目標は、2029 年度に営業利益率 20%、ROE 15% 以上だ。前の中期計画は 1 年早く達成した。実行力はある。ただ 20% は、先端マスク向けの好況が続く前提に近い。筆者は、そこまでは届かないとみる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
日本電子の市場は、性格の違う二つに分かれる。
一つは理科学機器だ。電子顕微鏡の世界市場は、調査会社により 2025 年で約 40〜50 億ドルと幅がある。年 8% 前後の成長が見込まれるが、物価の分を含む名目の数字だ。人や物の数でみれば、年 2〜3% が妥当だろう。材料、電池、半導体、創薬の研究が需要を支える。逆風は研究予算だ。米国で科学予算の削減が議論され、中国は国産化を進めている。日立ハイテクやサーモフィッシャーとの競争も続く。
もう一つは半導体向けの描画装置だ。回路が細かくなるほど、マスクを描く時間が延び、マルチビーム方式が必要になる。2 ナノ級の量産や、次世代の EUV 露光が追い風になる。同じ方式の市場は、年に十数台の規模とされ、台数が少ない。顧客の投資が 1 年ずれるだけで、売上が大きく動く。マスク描画全体では東芝系のニューフレアが圧倒的で、マルチビームにも 2021 年に参入した。
もう一つの芽が、AI データセンター向けの光通信部品だ。DFB レーザーの製造に使う電子ビーム描画装置の引き合いが強い。ただ中国向けは輸出規制の影響を受けやすい。
景気の位置としては、理科学は底に近く、先端半導体向けは設備投資の谷にいる。10 年でみれば、山と谷を平均した姿で測るのが筋だ。
資本政策と M&A
還元は控えめだ。配当性向は約 3 割で、2027 年 3 月期も配当は据え置きの予想である。自社株買いの実施は確認できなかった。
設備には厚く使う。昭島の本社工場と天童工場に、総額 340 億円の新棟を建てる。需要の波が来たときの生産能力を先に用意する考えだ。投資が実を結べば、利益は増える。ただ、波が来ないと固定費が重くなる。
買収で拡大してきた会社ではない。医用機器の売却は、本業への集中と読める。価格は公表されていない。
政策保有株の額は確認できなかった。親会社はなく、支配株主もいない。kabufu の推定では、10 年以内に TOB や買収を受ける確率は約 17% だ。電子顕微鏡と NMR の技術、マスク描画の位置は、買い手にとって魅力がある。ただし、確実な材料はない。
2021 年の公募増資は、旺盛な需要に先回りするためだった。10 年後に同じことが起きると、持分が薄まる点は押さえておきたい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
日本電子の堀は 10 年たっても崩れない。NMR を作る会社は世界で 2 社だけで、研究者が使い慣れた装置は替えられない。電子顕微鏡も、材料・電池・創薬の研究が続く限り、台数が増える。
産業機器の力はこれから出る。2 ナノ以降のマスクはマルチビームでなければ描けず、先行する日本電子には受注が集まる。AI データセンター向けの光通信部品の需要も強い。足元の落ち込みは、設備投資の時期がずれただけで、需要が消えたわけではない。
会社は 2029 年度に営業利益率 20% と ROE 15% 以上を掲げ、前の計画は 1 年早く達成した。医用機器を手放して、利益率の高い本業に集中する。新棟に 340 億円を入れるのも、成長への自信の表れだ。
純現金で借金がなく、配当の余力は大きい。還元を厚くする余地もある。10 年で見れば、営業利益は 700 億円台にも届く。その利益に、世界で代わりのきかない装置を持つ会社にふさわしい倍率が付けば、今の値段は妥当か、むしろ安い。
慎重な見方
利益の山が高すぎる。営業利益率 18% を出したのは 2025 年 3 月期だけで、その前は 6% 前後が長かった。山の理由はマルチビームの先端向け納入が重なったことで、再来する保証はない。2027 年 3 月期の第 1 四半期は売上が 4 割減り、営業赤字になった。
産業機器は、顧客が数社の先端半導体に絞られる。台数が少なく、1 件のずれで業績が動く。インテルが過半を持つ IMS との共同開発で、取り分も自社では決められない。ニューフレアはマスク描画で圧倒的な地位にあり、マルチビームにも参入した。独占は長続きしない。
輸出規制が強まれば、中国向けは続かない。中国は売上の約 2 割だ。理科学機器でも、米国の科学予算の削減が研究室の購入を止める。国産化を進める中国メーカーも伸びる。
しかも、会社は新棟に 340 億円を投じる。需要が戻らなければ、固定費が重くなる。配当性向は約 3 割にとどまり、還元で株主を支える力も弱い。利益を 10 年平均で見れば、今の値段は高い。
どちらに重みを置いたか
堀の評価は強気の言い分に分があるが、利益の山の高さと、先端投資への依存は慎重な言い分のほうが重い。確率は慎重な側にやや寄せた。
やや悲観とやや楽観を、ほぼ同じ重さで置いた。そのうえで悲観の確率を 12% と、やや厚くした。顧客が数社に絞られる産業機器で、構造的に負ける場合を重く見たからだ。中立の利益は、営業利益率 16% 台の事業を、物価を含めて年 6% で伸ばす姿だ。それでも今の値段は、10 年の割引で届かない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 10,838 円5,336 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,252 円1,108 億円)。 今の値に割り戻すと 6,827 円3,361 億円、今との差 −1.0%、 期待の年率 +6.6%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 21,461 円1.06 兆円 | 3,591 円1,768 億円 | +263.3% | +13.8% | 1,754 円863 億円 |
| やや楽観 | 20% | 16,745 円8,244 億円 | 2,834 円1,395 億円 | +183.9% | +11.0% | 3,916 円1,928 億円 |
| 中立 | 38% | 12,805 円6,304 億円 | 2,399 円1,181 億円 | +120.5% | +8.2% | 5,778 円2,844 億円 |
| やや悲観 | 23% | 4,421 円2,177 億円 | 1,846 円909 億円 | −9.1% | −1.0% | 1,442 円710 億円 |
| 悲観 | 12% | 868 円428 億円 | 810 円399 億円 | −75.7% | −13.2% | 201 円99 億円 |
| 加重平均 | 100% | 10,838 円5,336 億円 | 2,252 円1,108 億円 | +89.8% | +6.6% | 13,090 円6,444 億円 |
今の株価時価総額 6,896 円3,395 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 先端マスクと AI 向けが続き、利益率 20% を超える 利益 565 億円 · PER 18.7 倍 · 株価時価総額 21,461 円1.06 兆円
2 ナノ以降のマスク需要が続き、マルチビーム描画装置は台数を伸ばす。ニューフレアは参入したが、IMS との組み合わせの完成度で日本電子が先行を守り、シェアは今より上がる。AI データセンター向けの光通信部品の描画装置も、安定した柱になる。理科学では、クライオ電子顕微鏡と NMR の新機種が受け入れられ、材料・電池・創薬の研究需要に乗って数量が伸びる。産業機器の利益率は 38% を保ち、全社の営業利益率は約 21% と、会社目標の 20% を超える。高い収益を背景に配当と投資を厚くできるが、利益の積み上がりで自己資本も増え、ROE は 15% 台にとどまる。
- 理科学・計測機器:数量 109(対象市場の規模(億ドル、実質、電子顕微鏡・NMR・質量分析等の推定))× 価格 23(市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数)→ 売上 2,487 億円・営業利益 423 億円。数量とシェアが伸びる(実質市場 109 億ドル)
- 産業機器:数量 32.0(対象市場の規模(億ドル、実質、先端の描画装置・電子銃の推定))× 価格 37(市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数)→ 売上 1,186 億円・営業利益 451 億円。先端マスクと光通信向けで拡大(実質市場 32 億ドル、シェア上昇)
- 医用機器:数量 0.0(対象市場の規模(億ドル、実質、推定))× 価格 4.99(市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。2026 年 4 月にシスメックスへ譲渡する予定の事業。今後の売上には入れない
倍率:事業の純利益 565 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.7% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.7 倍。全体の PER 18.7 倍、時価総額 10,566 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:先端マスクの投資が 10 年続き、競合の参入や輸出規制も限定的で、研究予算も回復する。条件が複数重なる必要があるので 7% に置いた。
やや楽観 20% マルチビームの先行を保ち、理科学も着実に伸びる 利益 443 億円 · PER 18.1 倍 · 株価時価総額 16,745 円8,244 億円
マスク描画では、マルチビームの需要が緩やかに続き、日本電子はシェアを少し上げる。ニューフレアの参入で値下がり圧力はあるが、先端向けの価格は維持できる。光通信向けも伸びる。理科学では、電子顕微鏡の台数が世界の研究需要とともに増え、NMR は 2 社体制の強さで値上げを通す。会社目標の 20% には届かないが、全社の営業利益率は 18% 台まで上がる。純現金は保たれ、配当性向は 4 割台に引き上がる。設備への投資は回収され、ROE は 13% 台になる。堀の中身は変わらない。ただ、マスクを描く顧客は数社に限られるので、1 社の投資の波が全社の利益を動かす構図は残る。
- 理科学・計測機器:数量 101(対象市場の規模(億ドル、実質、電子顕微鏡・NMR・質量分析等の推定))× 価格 22(市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数)→ 売上 2,189 億円・営業利益 339 億円。着実な数量増と価格転嫁(実質市場 101 億ドル)
- 産業機器:数量 29.0(対象市場の規模(億ドル、実質、先端の描画装置・電子銃の推定))× 価格 34(市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数)→ 売上 1,000 億円・営業利益 360 億円。先行を守って拡大(実質市場 29 億ドル、シェア小幅上昇)
- 医用機器:数量 0.0(対象市場の規模(億ドル、実質、推定))× 価格 4.99(市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。2026 年 4 月にシスメックスへ譲渡する予定の事業。今後の売上には入れない
倍率:事業の純利益 443 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.3% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.1 倍。全体の PER 18.09 倍、時価総額 8,014 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要の追い風は続くが、競合の参入と研究予算の弱さで伸びは抑えられる、手堅い楽観の筋書き。
中立 38% 利益率は 16% 台、物価並みの成長に落ち着く 利益 342 億円 · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 12,805 円6,304 億円
産業機器の利益率は、独占的だった 4 割から、競合が現れた 34% へ下がる。マルチビームの台数は増えるが、シェアは今のまま。光通信向けは続く。理科学では、数量は世界の研究需要とともに年 2% ほど伸び、価格は物価並みに上がる。利益率は、保守収入と新機種の効果で 14% に上がる。全社の営業利益率は 16% 台で、会社目標の 20% には届かない。医用機器は譲渡済みで、売上に入らない。純現金で、還元は配当性向 4 割台に上がる程度だ。新棟への投資が、利益の下支えになる。筆者が最も重いとみるのは、この筋書きである。堀は残るが、超過利益は競合と顧客の交渉で少しずつ薄まる。2025 年 3 月期の高い利益は、再び来ない前提だ。
- 理科学・計測機器:数量 93.8(対象市場の規模(億ドル、実質、電子顕微鏡・NMR・質量分析等の推定))× 価格 21(市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数)→ 売上 1,948 億円・営業利益 273 億円。数量は年 2% 前後、価格は物価並み(実質市場 94 億ドル、シェア横ばい)
- 産業機器:数量 26.0(対象市場の規模(億ドル、実質、先端の描画装置・電子銃の推定))× 価格 32(市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数)→ 売上 838 億円・営業利益 285 億円。競合の参入で利益率は 34% へ(実質市場 26 億ドル、シェア横ばい)
- 医用機器:数量 0.0(対象市場の規模(億ドル、実質、推定))× 価格 4.99(市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。2026 年 4 月にシスメックスへ譲渡する予定の事業。今後の売上には入れない
倍率:事業の純利益 342 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.4 倍。全体の PER 17.37 倍、時価総額 5,940 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:先端マスクの投資は続くが、2025 年 3 月期のような山は来ず、競合の参入で産業機器の利益率は下がる。堀はあるが超過利益は薄れる、最も蓋然性の高い筋書き。
やや悲観 23% 輸出規制と競合で、産業機器の利益率が 2 割台に 利益 183 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 4,421 円2,177 億円
輸出規制が強まり、中国向けの描画装置と電子顕微鏡の売上が細る。ニューフレアはマルチビームの完成度を上げ、日本電子は新規の先端案件で値引きを迫られる。産業機器の利益率は 24% まで下がる。理科学では、米国の研究予算が細り、中国メーカーの国産機が広がって、数量の伸びは年 1% 程度にとどまる。価格転嫁も一部に限られる。投資した新棟の稼働率が上がらず、固定費が重い。全社の営業利益率は 11% 台になる。配当は維持するが、還元の余地は小さい。強みの NMR と電子顕微鏡の保守収入は残るため、赤字には落ちない。ただ、先端案件の山を失った事業が、普通の資本財の利益率に近づく。
- 理科学・計測機器:数量 82.5(対象市場の規模(億ドル、実質、電子顕微鏡・NMR・質量分析等の推定))× 価格 20(市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数)→ 売上 1,629 億円・営業利益 171 億円。研究予算の減少と国産機の台頭(実質市場 83 億ドル、価格転嫁が一部に)
- 産業機器:数量 22.0(対象市場の規模(億ドル、実質、先端の描画装置・電子銃の推定))× 価格 30(市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数)→ 売上 659 億円・営業利益 158 億円。競合の参入と輸出規制で値引き(実質市場 22 億ドル、利益率 24%)
- 医用機器:数量 0.0(対象市場の規模(億ドル、実質、推定))× 価格 4.99(市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。2026 年 4 月にシスメックスへ譲渡する予定の事業。今後の売上には入れない
倍率:ROE 7.2% が k 7.5% 以下なので、伸びても価値は増えず(ためた利益は額面未満)、正当化 PER は 1÷k=12.5 倍。輸出規制と競合で稼ぐ力が落ちる筋書きなので、上限の 8 割の 10.0 倍に置いた。
確率:中国向けの規制が広がり、ニューフレアが力をつけ、米国の研究予算も細る。構造的な負けの手前で、複数の逆風が重なる筋書き。
悲観 12% 構造的に負ける:マルチビームを奪われ、研究需要も細る 利益 45 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 868 円428 億円
マスク描画で、ニューフレアのマルチビームが日本電子の装置を置き換え、IMS との共同開発の取り分も細る。先端案件の受注が絞られ、産業機器の利益率は 8% まで落ちる。輸出規制で中国向けが閉じ、国産機が広がる。理科学でも、米国の科学予算の削減で、大学・研究所の購入が減り、数量が縮む。価格も競争で下がる。新棟は稼働率が上がらず、減損を出す。全社の営業利益は 60 億円ほどに縮み、利益率は 4% に落ちる。配当は、手元の現金と過去の蓄えで払う。それでも NMR の 2 社体制と、電子顕微鏡の保守収入は残る。事業が消えるわけではなく、稼ぐ力が細った普通の資本財メーカーになる姿だ。
- 理科学・計測機器:数量 71.3(対象市場の規模(億ドル、実質、電子顕微鏡・NMR・質量分析等の推定))× 価格 17(市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数)→ 売上 1,214 億円・営業利益 73 億円。研究需要が縮み、国産機に押される(実質市場 71 億ドル、価格下落)
- 産業機器:数量 17.0(対象市場の規模(億ドル、実質、先端の描画装置・電子銃の推定))× 価格 19(市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数)→ 売上 329 億円・営業利益 26 億円。マルチビームを奪われ失注(実質市場 17 億ドル、利益率 8%)
- 医用機器:数量 0.0(対象市場の規模(億ドル、実質、推定))× 価格 4.99(市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。2026 年 4 月にシスメックスへ譲渡する予定の事業。今後の売上には入れない
倍率:悲観の純利益 45 億円は ROE 2.0% で、ためた利益は額面未満の価値しかない。やや悲観の時価総額÷純利益 10.0 倍より悲観ほど低く置くので、その約 95% の 9.5 倍(時価総額 427.5 億円)とした(稼ぐ力 純利益÷k も超えない)。自己資本の厚さや市場の倍率は根拠にしない。
確率:10 年のうちに、マルチビームの先行が競合に奪われ、輸出規制と研究予算の削減が重なる構造的な負けの筋書き。顧客が少数に絞られ、一つの案件の失注が業績を大きく動かす点を重く見て、悲観を 12% と、やや厚くした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
理科学・計測機器
電子顕微鏡、NMR、質量分析計、検査装置。大学・研究所・製薬・材料・電池・半導体の企業向け。
| 数量対象市場の規模(億ドル、実質、電子顕微鏡・NMR・質量分析等の推定) | 価格市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 75.0 | 16 | 1,163 | 130 |
| 10 年後 中立 | 93.8 | 21 | 1,948 | 273 |
取り方:電子顕微鏡(調査会社の推定で 40〜50 億ドル)、NMR、質量分析などを合わせて 75 億ドル規模と推定し、売上 1,163 億円から約 10% のシェアを逆算した(開示は無い)。2026 年 3 月期の営業利益率は約 11%。
産業機器
電子ビーム描画装置(マルチビームのマスク描画、光通信部品向けのスポットビーム)、電子銃、3D プリンタ。
| 数量対象市場の規模(億ドル、実質、先端の描画装置・電子銃の推定) | 価格市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20.0 | 24 | 481 | 193 |
| 10 年後 中立 | 26.0 | 32 | 838 | 285 |
取り方:先端のマスク描画、光通信部品向けの描画、電子銃などの市場を 20 億ドル規模と推定し、売上 481 億円から約 16% のシェアを逆算した(開示は無い)。2026 年 3 月期の営業利益率は約 40% で、マルチビームの独占的な位置が効いている。前期より 15% 減った。
医用機器
生化学自動分析装置。2026 年 4 月にシスメックスへ譲渡する予定と発表(完了は未確認)。
| 数量対象市場の規模(億ドル、実質、推定) | 価格市場 1 億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替 150 円×価格の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 3.73 | 149 | 1 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 4.99 | 0 | 0 |
取り方:生化学自動分析装置の市場を 40 億ドル規模と仮置きし、売上 149 億円から約 2.5% のシェアを逆算した(開示は無い)。営業利益はほぼゼロ。10 年の筋書きでは譲渡後として売上に入れない。
リスクと懸念
先端マスクの設備投資の山と谷
利益の約 6 割を稼ぐ産業機器は、先端半導体の少数の顧客に絞られる。台数が少なく、1 件の納入のずれで四半期の業績が大きく動く。2027 年 3 月期の第 1 四半期に、売上が 4 割減り営業赤字になったのが例である。
共同開発先 IMS への依存
マルチビーム描画装置は、インテルが過半を持つ IMS ナノファブリケーションとの共同開発だ。IMS はインテルと TSMC の意向の影響を受ける。取り分や供給の条件が変われば、日本電子が単独で守れる部分は小さい。
ニューフレアの追い上げ
マスク描画全体では東芝系のニューフレアが圧倒的で、2021 年にはマルチビームにも参入した。性能が追いつけば、値引きとシェアの両面で産業機器の高い利益率が削られる。
輸出規制と中国の国産化
売上の約 2 割を占める中国向けは、輸出規制の強化で受注が読みにくい。電子顕微鏡や NMR でも、中国政府が国産機を後押しする方針で、中期的にシェアが削られるおそれがある。
米国の科学予算の削減
理科学機器の最大の買い手は大学と研究所だ。米国で科学予算の削減が議論されており、大型の NMR や電子顕微鏡の購入が先送りされると、数量が伸びない。受注は前期比で約 1 割減っている。
新棟への先行投資
昭島と天童に総額 340 億円の新棟を建てる。需要が計画どおりに戻らなければ、減価償却と人件費の固定費が利益を圧迫する。先に設備を作る経営の勝負で、読みを外すと自己資本の効率が下がる。
利益の質と一過性
2026 年 3 月期は営業利益が減ったのに純利益は増えた。営業外の利益や特別利益が含まれるとみられ、事業の稼ぐ力は純利益より小さい。純利益の高さを事業の実力と読み違えない必要がある。
今後の分かれ目
- ニューフレアのマルチビーム装置が、日本電子の主要顧客で本格採用される
- 産業機器の利益率の前提が崩れ、やや悲観〜悲観の確率が上がる。
- 2 ナノ以降のマスク投資が回復し、マルチビームの受注が大きく戻る
- 産業機器の売上が戻り、中立〜やや楽観の確率が上がる。
- 輸出規制が中国向けの電子顕微鏡や NMR にまで広がる
- 売上の約 2 割が細り、理科学の数量が下がる。やや悲観に寄る。
- 米国の科学予算が大きく減る、または回復する
- 理科学の受注が下がれば中立が下振れ、回復すれば上振れる。
- 自社株買いを含め、還元を大きく引き上げる
- 純現金が資本効率の改善に回り、ROE が上がる。評価はやや上がる。
- 新棟の稼働後も、売上の伸びが固定費の増加に追いつかない
- 利益率が下がり、中立が下振れする。
見ておくもの
- 産業機器の受注と売上の四半期の動き(マルチビームの納入時期)
- ニューフレアのマルチビーム装置の採用先
- 中国向け売上の比率と輸出規制の動き
- 理科学機器の受注(米国の科学予算、日本の補正予算)
- 営業利益率が 2029 年度の目標 20% に近づくか
- 還元方針の変更(配当性向・自社株買い)
- 新棟の稼働と減価償却の増え方
倍率と資本コストの決め方
先に理科学機器と産業機器の二つで、実質の市場規模×シェアから 10 年の売上と利益を積み、そこから倍率を決めた。2025 年 3 月期の営業利益率 18% は山とみて、中立では 16% 台に置いた。倍率は ROE と資本コスト 7.5% から出した正当化 PER の 8.5 割前後で、今の株価からは決めていない。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)を上限に、倍率をやや悲観の約95%に置いた。過去の倍率や自己資本の厚さは根拠にしていない。医用機器の譲渡は、新リース会計基準の影響とともに 10 年の数字に入れていない(家賃は今の形で揃えた)。今の株価が倍でも半分でも、価値の数字は変わらない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.9→18.7 倍・やや楽観 PER 13.2→18.09 倍・中立 PER 12.5→17.37 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。