結論
ASTI は、ヤマハ発動機やスズキ向けのバイク・船外機の電装品とワイヤーハーネス(配線の束)を、受託で作る浜松の会社だ。売上は 624 億円、営業利益は 13 億円。筆者の結論は、今の値段は妥当で、やや高めに見るということだ。
スズキ系という見方は正確でない。スズキは顧客の一社(売上の 11.8%)にすぎず、資本の親子関係はない。ヤマハ発動機が 12.6%、自転車部品のシマノが 10.3%。上位 3 社で 35% の取引先に頼る独立系である。
稼ぎ方は薄利だ。営業利益率は直近で 2.1%。受託製造は原価に利益を乗せる形で、客先が値下げを求めれば、利益は削られる。人件費が物価並みに上がっても、価格に十分には乗せられない。
本業は EV 化で二重の影響を受ける。内燃のバイクや船外機の部品は縮み、一方で EV 二輪向けの充電器や DC/DC コンバータ(電圧を変える部品)は伸びる。インドの二輪市場は成長が続く。10 年の中立では、売上は物価を除いて今より少し細り、営業利益は 22 億円まで増える。
資産は厚い。自己資本は 250 億円で、時価総額は 3 割弱にすぎない。ただし ROE は 3% 台で、ためた利益は額面どおりの価値を持たない。確率で重みづけした総合は、1 割台の割高である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、これは「資産は厚いが、稼ぎが薄い会社」と映る。自己資本は時価総額の 3 倍超ある。だが営業利益率は 2% で、資本を食う割に稼がない。
受託製造は、客先の下請けの性格が強い。客先が値段を決め、仕様も決める。堀はない。有力な客先との取引が続くことは強みだが、それは堀ではなく、客先の都合に左右される関係だ。
経営は改善に動いている。不採算の中国事業から撤退し、インドへ投資を移す。医療機器や EV 向けの電源部品は、新しい稼ぎの種だ。ただし、これらが全社の利益を変えるのは、早くても 5 年先とみる。
資本の使い方は堅実だ。借金は減り、配当も安定している。だが、現金を増やして株主に戻す力は小さい。
だから筆者は、これを「買って持ち続けたい会社」とは見ない。資産の割安さだけで、安全域を十分に取れるわけではない。安全域は、10 年後の稼ぐ力が今より大きいと言えて初めて生まれる。
何で稼ぐ会社か
ASTI は、受託製造で稼ぐ電機部品メーカーだ。売上の 9 割超が客先の設計による受託で、自社設計の製品は少ない。セグメントは 3 つ。車載電装品が約 223 億円、ワイヤーハーネスが約 209 億円、民生産業機器が約 189 億円である。
車載電装品は、バイクや船外機、自動車向けの電子部品だ。点火や充電、電源まわりの装置を、客先の仕様で作る。EV 二輪向けの充電器、双方向 DC/DC コンバータ、48V 級のインバータも開発している。
ワイヤーハーネスは、二輪車や船外機向けが中心だ。2025 年 9 月に中国の浙江子会社が事業から撤退し、売上は前期比 12.5% 減った。代わりにインドのハリアナ州で新工場を建設中で、2026 年 7 月に完成の予定だ。
民生産業機器は、家庭用と産業用の電子機器の受託生産だ。シマノ向けの自転車電動部品などが含まれる。利益はこの区分がいちばん大きい。
顧客はヤマハ発動機 12.6%、スズキ 11.8%、シマノ 10.3%。上位 3 社で約 35%。ほかに医療機器の小さな事業がある。使い捨ての注射針や注射システム「ZELOSTAT」を扱い、2026 年度中に次世代の多針タイプを発売する計画だ。
連結従業員は約 4,300 人で、臨時を入れれば 5,000 人を超える。国内のほか、中国、ベトナム 3 拠点、インド、フィリピンに工場を持つ。
優良さと弱いところ
優良さは低めに見る。受託製造は、客先が仕様と価格を握る。ASTI の営業利益率は過去 12 年で 0.5% から 3.8% の間にとどまり、最高でも 2018 年 3 月期の 3.8% だ。値決めの力は弱い。
強みは、二輪と船外機向けの電装品を長年作ってきた実績と、浜松の客先との距離の近さだ。ヤマハ発動機、スズキ、シマノという有力な客先は、一定の取引継続を期待させる。ただし客先は部品の内製や他の受託先への切り替えも持つ。
財務は中程度だ。自己資本比率は 55%、有利子負債はリースを含めて 121 億円、純有利子負債は 79 億円。営業利益は支払利息の 10 倍あり、借金は重くない。借入には純資産に関する財務制限条項が付く。
構造改革は途中だ。中国のワイヤーハーネスからは撤退したが、事業整理の損失は 8.5 億円出た。インドは工場の新設で拡大を狙うが、立ち上げの負担も重い。
研究開発費は年 3.5 億円。電動二輪向けのパワーエレクトロニクスと医療機器は、新しい稼ぎの芽として進める。ただし、売上への貢献はまだ小さい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
主な需要は二輪車、船外機、自転車の電動化だ。世界の二輪車は年 6,000 万台規模で、インドが最大の市場として伸びている。インドでは EV 二輪も増えるが、内燃もしばらく主流だ。
EV 化は、ASTI の部品に二つの形で効く。内燃の点火・燃料まわりの電装品や、エンジン周辺の配線は減る。一方、バッテリーの充電器、DC/DC コンバータ、モーター制御のインバータは新しく生まれる。ASTI は後者の開発を進めるが、客先の仕様で作る受託なので、客先の採用次第だ。
価格は物価並みに上がらない。完成車メーカーは部品の値下げを毎年求める。受託製造は原価に利益を乗せるので、人件費や部材の上昇分は転嫁できるが、客先の値下げ要請があれば利益率の改善にはつながらない。
競争相手は国内の電装メーカーと、中国や東南アジアの受託製造だ。中国の製造コストは急速に下がり、日本から見た競争は厳しい。ASTI は中国から撤退し、インドと東南アジアに寄せる方針だ。
分かれ目は、インドの工場の立ち上げと、EV 二輪向けの電源部品が客先に採用されるかである。
資本政策と M&A
資本政策は、業績に応じた安定配当だ。中期計画の方針は、連結営業利益の 20% か自己資本の 1% の、高い方を基準にする。直近の配当総額は約 2.5 億円で、配当性向は 35% 前後。自社株買いの実績は確認できない。
借金は返済が進む。借入金は前期から 1,656 百万円減った。設備投資は 28 億円で、うちインドの新工場に 13.5 億円、グジャラートの車載電装品設備に 3.5 億円を充てる。完成後の能力は約 5 割増える。
親会社はなく、スズキやヤマハは顧客として付き合うだけだ。政策保有株は上場 7 銘柄で 8 億円と小さい。大きな現金も、余った資産もない。純有利子負債が 79 億円あるので、余った現金の戻り方を考える必要はない。
M&A は目立たない。売る側の動きとして、中国子会社を譲渡する決議(2026 年 6 月・取引総額 13 億円)が出た。買う側の余力は小さい。時価総額が自己資本の 3 割弱で、10 年のうちに買収される可能性は 3 割近いと外部の試算にある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
自己資本 250 億円の会社が、時価総額 69 億円で買える。事業の価値が 3 割にまで下がっても、資産の裏づけがある。下値は固い。
稼ぎの伸びしろも具体的だ。インドは二輪市場が成長し、ASTI は新しいワイヤーハーネス工場と車載電装品の設備を増やしている。完成後の車載電装品の能力は約 5 割増える。EV 二輪向けの充電器と DC/DC コンバータは、すでに開発が進んでいる。
中国の不採算部門から撤退した効果も大きい。事業整理損は 8.5 億円出たが、固定資産の売却益が 6 億円あり、今後は赤字の足を引っ張らない。ワイヤーハーネスの営業利益は前期比 23.5% 増えた。
医療機器は小さいが、利益率は高い。国内の承認を得て生産販売が始まり、次世代品の発売も控える。営業利益が 2% から 3.5% に上がれば、純利益は今の 2 倍近くになる。
株主構成も追い風になりうる。個人の大株主が 2 人で約 16% を持ち、加賀電子や金融機関も保有する。時価総額が自己資本の 3 割弱という水準は、再編や非公開化の候補になりうる。
慎重な見方
資産が厚いのは、稼げていないことの裏返しだ。営業利益率は 2% で、自己資本利益率は 3% にとどまる。資本コストの 3 分の 1 に届かない。ためた利益は、額面どおりの価値を持たない。
EV 化で、内燃の二輪や船外機の電装品は縮む。新しい電源部品は、客先の設計と採用に左右される受託だ。採用が決まっても、客先の値下げ要請は続く。物価が 3% 上がっても、部品の値段は同じ速さでは上がらない。
中国の撤退で、ワイヤーハーネスの売上は 12.5% 減った。インドの新工場は立ち上げに時間がかかり、赤字の期間が続く可能性がある。
客先の集中も重い。ヤマハ、スズキ、シマノの 3 社で 35%。いずれかが内製化や他社への発注に動けば、固定費の重い工場が稼働率を落とす。人件費は年 3% 上がり、受託の価格に転嫁しきれない。
新しい稼ぎの芽も、数字にはまだ出ていない。医療機器の売上は 3 億円足らずで、EV 向け電源部品の採用実績の開示もない。構想と実績の差が大きい会社だ。
どちらに重みを置いたか
資産の厚みは本物だが、稼ぐ力は資本コストに届かない。客先の価格決定力が強い受託の構造は、10 年で変わりにくい。この点を重く見て、確率は中立に厚く置き、やや悪い側に寄せた。楽観は、インドと電源部品が計画どおり立ち上がる筋書きに限った。借金が重くなく、床が固いため、悲観の確率はこれ以上積まなかった。インドの立ち上げの遅れは、やや悲観の筋書きに織り込んだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,572 円143 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 972 円30 億円)。 今の値に割り戻すと 2,669 円83 億円、今との差 +22.4%、 期待の年率 +9.8%(資本コスト 8.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 10,910 円341 億円 | 1,907 円60 億円 | +487.9% | +19.4% | 769 円24 億円 |
| やや楽観 | 19% | 7,147 円223 億円 | 1,379 円43 億円 | +291.1% | +14.6% | 1,620 円51 億円 |
| 中立 | 36% | 5,004 円156 億円 | 1,078 円34 億円 | +179.0% | +10.8% | 2,190 円68 億円 |
| やや悲観 | 25% | 2,137 円67 億円 | 723 円23 億円 | +31.2% | +2.8% | 715 円22 億円 |
| 悲観 | 14% | 1,600 円50 億円 | 192 円6 億円 | −17.8% | −1.9% | 251 円8 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,572 円143 億円 | 972 円30 億円 | +154.3% | +9.8% | 5,544 円173 億円 |
今の株価時価総額 2,180 円68 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 6% 楽観:インドと EV 二輪向け電源が立ち上がり、利益率が 3.5% に 利益 29 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 10,910 円341 億円
インドの二輪市場が伸び、新しいワイヤーハーネス工場と車載電装品の設備が満稼働になる。EV 二輪向けの充電器、DC/DC コンバータ、インバータが複数の客先に採用され、車載電装品の数量は 1.3 倍に伸びる。医療機器は国内外で認められ、売上は 10 倍に育つ。
営業利益は 40 億円、利益率は 3.7% に上がる。これは過去の最高を上回る水準で、固定費の吸収と製品構成の改善が揃った場合に限る。
純利益は 29 億円、配当性向 3 割強で、配当は今の 5 倍近くになる。ただし、受託製造の構造から見て、ここまで伸びる確率は低い。
客先が EV 二輪の電源を外部の受託先に出す流れが強まれば、ASTI の設計力が評価される余地はある。
- 車載電装品:数量 1,820(出荷数量(万個))× 価格 2,070(1 個あたり単価(円))→ 売上 377 億円・営業利益 15 億円。EV 向け電源で 1.3 倍
- ワイヤーハーネス:数量 700(出荷数量(万本))× 価格 4,540(1 本あたり単価(円))→ 売上 318 億円・営業利益 11 億円。インド新工場が満稼働
- 民生産業機器:数量 3,800(出荷数量(万個))× 価格 700(1 個あたり単価(円))→ 売上 266 億円・営業利益 10 億円。数量は緩やかに増える
- 医療機器ほか:数量 600(出荷数量(万本))× 価格 400(1 本あたり単価(円))→ 売上 24 億円・営業利益 2 億円。医療機器が 10 倍に育つ
倍率:事業の純利益 29 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 341 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:インドの新工場が計画どおり立ち上がり、EV 二輪向けの電源部品が複数の客先で採用される必要がある。条件が重なるので 6%。
やや楽観 19% やや楽観:インドが寄与し、内燃の縮みを電源部品が埋める 利益 19 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 7,147 円223 億円
内燃向けの数量は減るが、EV 二輪向けの電源部品とインドの増産で、車載電装品の数量は今より 1 割増える。インドのハーネス工場は 3 年で黒字化し、全体の利益率を押し上げる。医療機器も売上が数倍になる。
営業利益は 30 億円、利益率は 3.2%。受託の価格は 1.27〜1.30 倍に上がるが、人件費の上昇で利益の増加は限られる。
純利益は 19 億円。配当は営業利益の 2 割基準で増え、借金の返済が進む。それでも ROE は 5% を超えない。
構造改革の効果で赤字の事業は消え、民生産業機器と医療機器が利益を支える。ただし、改善は緩やかで、資産の重さに比べて稼ぎは小さいままだ。
- 車載電装品:数量 1,540(出荷数量(万個))× 価格 2,020(1 個あたり単価(円))→ 売上 311 億円・営業利益 10 億円。数量は 1.1 倍
- ワイヤーハーネス:数量 650(出荷数量(万本))× 価格 4,500(1 本あたり単価(円))→ 売上 293 億円・営業利益 9 億円。インドが寄与
- 民生産業機器:数量 3,600(出荷数量(万個))× 価格 685(1 個あたり単価(円))→ 売上 247 億円・営業利益 8 億円。微増
- 医療機器ほか:数量 350(出荷数量(万本))× 価格 400(1 本あたり単価(円))→ 売上 14 億円・営業利益 1 億円。数倍に育つ
倍率:事業の純利益 19 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.6% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 223 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:内燃の縮みを EV 向け電源とインドで埋める筋書き。構造改革が進んでいる現状から、十分ありうるので 19%。
中立 36% 中立:内燃は縮むが電源部品とインドが補い、利益は物価並みに増える 利益 13 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 5,004 円156 億円
内燃向けの二輪・船外機の部品は 10 年で 3〜4 割減る。EV 二輪向けの電源部品とインドの増産が、ほぼ同じ分を埋め、車載電装品の数量は横ばいになる。ワイヤーハーネスはインドが寄与して、全体で微減だ。民生産業機器は横ばいで、医療機器は数倍に育つ。
受託の価格は、値下げ要請の中で 1.25 倍にとどまる。営業利益は 22 億円で、利益率は 2.8%。純利益は 13 億円で、今の 2 倍近い。
借金は返済が進み、配当は営業利益の 2 割で増える。ただし、名目の売上が 1.25 倍に膨らむ世界での利益増で、実質の成長は小さい。
- 車載電装品:数量 1,400(出荷数量(万個))× 価格 1,990(1 個あたり単価(円))→ 売上 279 億円・営業利益 7 億円。内燃の縮みを EV 向け電源が補う
- ワイヤーハーネス:数量 570(出荷数量(万本))× 価格 4,360(1 本あたり単価(円))→ 売上 249 億円・営業利益 6 億円。インドが中国撤退を補う
- 民生産業機器:数量 3,500(出荷数量(万個))× 価格 676(1 個あたり単価(円))→ 売上 237 億円・営業利益 7 億円。数量は横ばい
- 医療機器ほか:数量 500(出荷数量(万本))× 価格 390(1 本あたり単価(円))→ 売上 20 億円・営業利益 1 億円。数倍に育つ
倍率:事業の純利益 13 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.2% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 156 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の見方に沿い、内燃の縮みを新しい電源部品とインドが補う。もっとも重みを置く筋書きで 36%。
やや悲観 25% やや悲観:内燃の縮みが先行し、インドの立ち上げが遅れる 利益 8 億円 · PER 6.5 倍 · 株価時価総額 2,137 円67 億円
内燃向けの数量は 4 割減り、EV 向けの電源部品の採用は限られる。インドの新工場は立ち上がるのに時間がかかる。車載電装品の数量は 15% 減る。
営業利益は 13 億円と、今とほぼ同じだ。受託の価格は物価の 3 分の 2 程度しか上がらず、賃上げが利益を削る。利益率は 1.9% にとどまる。
純利益は 8 億円。借金返済は進むが、配当は据え置きで、ROE は 3% に届かない。
客先の発注は維持されるが、新しい分野の採用は取れない。医療機器も収益化が遅れ、研究開発費だけが先に出る。人件費の上昇を転嫁できず、利益が削られる。
- 車載電装品:数量 1,190(出荷数量(万個))× 価格 1,900(1 個あたり単価(円))→ 売上 226 億円・営業利益 4 億円。数量は 15% 減
- ワイヤーハーネス:数量 540(出荷数量(万本))× 価格 4,150(1 本あたり単価(円))→ 売上 224 億円・営業利益 4 億円。インド立ち上げが遅れる
- 民生産業機器:数量 3,300(出荷数量(万個))× 価格 645(1 個あたり単価(円))→ 売上 213 億円・営業利益 4 億円。微減
- 医療機器ほか:数量 200(出荷数量(万本))× 価格 380(1 本あたり単価(円))→ 売上 8 億円・営業利益 0 億円。育ちが遅い
倍率:PER 6.5 倍。利益が横ばいで ROE は 3% 台。構造的な負けに近づく筋書きなので、上限の 7 割を超えて引き上げない。
確率:客先の値下げ要請が続き、新しい分野の立ち上げが遅れる筋書き。過去の利益率の振れ幅から見て 25%。
悲観 14% 悲観:内燃が崩れ、客先が内製・他社へ移り、利益が消える 利益 2 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 1,600 円50 億円
内燃向けの数量は 5 割減り、EV 向けの電源部品は採用されない。客先の 1〜2 社が内製化や他の受託先への切り替えに動き、固定費の重い工場が稼働率を落とす。
営業利益は 6 億円まで縮み、利払いと特別損失を引くと純利益は 1〜2 億円になる。構造的に収益力を失った受託製造の姿である。
配当は細り、新規投資は止まる。国内の工場の統廃合や減損が出て、自己資本は今より減る。株価は稼ぐ力ではなく、資産の処分価値で測られる。
客先の判断は早い。ヤマハやスズキが部品を内製化すれば、数量は一気に落ちる。工場の人員整理が追いつかず、特別損失が重なる。
- 車載電装品:数量 840(出荷数量(万個))× 価格 1,700(1 個あたり単価(円))→ 売上 143 億円・営業利益 1 億円。数量は 4 割減
- ワイヤーハーネス:数量 420(出荷数量(万本))× 価格 3,800(1 本あたり単価(円))→ 売上 160 億円・営業利益 1 億円。客先が離れる
- 民生産業機器:数量 2,800(出荷数量(万個))× 価格 590(1 個あたり単価(円))→ 売上 165 億円・営業利益 2 億円。数量は 2 割減
- 医療機器ほか:数量 80.0(出荷数量(万本))× 価格 350(1 本あたり単価(円))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。育たない
倍率:PBR 0.20 倍を今の自己資本に掛けた約 50 億円。EV÷営業利益は 37 倍だが利益がほぼ無く意味を持たない。稼ぐ力は純利益 1〜2 億円でほぼ無く、床の資産(売掛金・在庫・固定資産の処分価値から負債を引いた分)に近い。
確率:構造的に負ける筋書き。客先の集中が重く、内燃の縮みを EV 向けで埋められない。床が固いので崖ではないが、14% と置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
車載電装品
バイク・船外機・自動車向けの点火・充電・電源まわりの電子部品。EV 二輪向けの充電器・DC/DC コンバータを開発中。
| 数量出荷数量(万個) | 価格1 個あたり単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,400 | 1,590 | 223 | 4 |
| 10 年後 中立 | 1,400 | 1,990 | 279 | 7 |
取り方:有報の売上 222.7 億円、営業利益 3.6 億円(前期比 51% 減)。出荷数量 1,400 万個、単価 1.59 千円は推定(客先別の数量は非開示)。
ワイヤーハーネス
二輪・船外機向けの配線の束。中国から撤退し、インドで新工場を建設中。
| 数量出荷数量(万本) | 価格1 本あたり単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 600 | 3,490 | 209 | 4 |
| 10 年後 中立 | 570 | 4,360 | 249 | 6 |
取り方:有報の売上 209.4 億円、営業利益 3.75 億円。出荷数量 600 万本、単価 3.49 千円は推定。
民生産業機器
家庭用・産業用の電子機器の受託製造。シマノ向けの自転車電動部品などを含む。利益の稼ぎ頭。
| 数量出荷数量(万個) | 価格1 個あたり単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,500 | 541 | 189 | 5 |
| 10 年後 中立 | 3,500 | 676 | 237 | 7 |
取り方:有報の売上 189.3 億円、営業利益 5.4 億円(前期比 23.7% 増)。出荷数量 3,500 万個、単価 0.54 千円は推定。
医療機器ほか
使い捨て注射針、注射システム「ZELOSTAT」、マイクロニードル。まだ小さい新事業。
| 数量出荷数量(万本) | 価格1 本あたり単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 90.0 | 300 | 3 | 0 |
| 10 年後 中立 | 500 | 390 | 20 | 1 |
取り方:有報の「その他」売上 2.7 億円、営業損失 0.15 億円。本数と単価(0.3 千円)は推定。2026 年度中に次世代の多針タイプを発売する計画。
リスクと懸念
EV 化で内燃向けが縮む
二輪・船外機の点火・燃料まわりの電装品と配線は、EV 化で減る。EV 向けの電源部品が客先に採用されなければ、固定費の重い工場の稼働率が落ちる。
客先の値下げ要請
受託製造は客先が価格を握る。物価が 3% 上がっても、価格は 1.25 倍程度にとどまる想定で、人件費の上昇と板挟みになる。営業利益率は 1〜2% 台に張りつきやすい。
客先の集中
ヤマハ発動機 12.6%、スズキ 11.8%、シマノ 10.3%。上位 3 社で 35%。いずれかが内製化や他の受託先への切り替えに動けば、売上と稼働率が同時に落ちる。
インド・新規の立ち上げ
インドのハリアナ州に 13.5 億円の工場を建設中。立ち上げに時間がかかれば赤字が続く。医療機器も売上は小さく、収益化には時間がかかる。
中国の撤退コスト
中国の浙江子会社は 2025 年 9 月に撤退。事業整理損が 8.5 億円出た。残る中国拠点の再編や減損が続く可能性もある。
人手と賃上げ
従業員は臨時を含め 5,000 人超。賃上げは年 3% 前後で続く。自動化投資を進めても、受託の価格に転嫁できなければ利益が削られる。
今後の分かれ目
- インドの新工場が 2027 年に黒字化し、ハーネスの利益率が 3% を超える
- 中立のハーネスの利益率を上方に直し、やや楽観に重みを移す。
- EV 二輪向けの充電器や DC/DC コンバータの量産採用が決まる
- 車載電装品の数量を上向きに直し、楽観・やや楽観の確率を上げる。
- ヤマハ・スズキ・シマノのいずれかが発注を 3 割以上減らす
- 悲観に重みを寄せ、固定費の負担を再点検する。
- 営業利益率が 2 年続けて 3% を超える
- 過去の最高水準に並ぶため、持続性を確かめる。中立の利益率を上げる根拠になりうる。
- 自社株買いや配当性向の引き上げなど、還元方針が変わる
- ROE の改善につながるが、利益そのものは変わらない。価値の増加は小さい。
見ておくもの
- 車載電装品の EV 向け売上と、内燃向けの減り方
- インドの新工場(ハリアナ・グジャラート)の稼働と収益
- 営業利益率(直近 2.1%)
- 客先 3 社(ヤマハ・スズキ・シマノ)の発注動向
- 医療機器の売上と承認・上市の進み具合
- 純有利子負債と財務制限条項の余裕
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から置いた。ROE が k 未満なので PER の上限は 1÷k の約 10.8 倍で、中立はその約 7 割強。今の株価や同業の PER は使っていない。今の時価総額は自己資本の 3 割弱だが、これは ROE の低さの結果で、価値を押し上げる根拠にしていない。新リース会計基準は工場の賃借が少なく影響は小さいとみて、10 年後の数字は今と同じ形で置いた。依頼文の「スズキ系」は資本関係がなく、顧客の一社として書いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 8.6→11.76 倍・やや楽観 PER 8→11.76 倍・中立 PER 7.8→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.75% を足して 9.25%。内燃の縮みは数量で、客先集中は確率で扱い、k に二重に足していない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.25% → 8.50%。