結論
寺崎電気産業は、船の電気設備をまとめて動かす配電制御システムと、低圧遮断器などの機器で稼ぐ大阪の会社だ。売上は約630億円、営業利益は約62億円で、海外が売上の半分を超える。
筆者の結論は、10年の本質価値は今の時価総額を1割半ほど下回る「やや割高」、というものだ。事業は堅いが、造船は波の大きい業界で、利益がこの先も伸び続けると見るには根拠が足りない。
強みは船級協会に認められた実績と、受注残の厚みである。システム製品の受注残は約700億円あり、売上の1年半分にあたる。LNG船やコンテナ船の電気設備を、日本・韓国・中国の造船所に納めている。会社は船舶用の配電制御で世界の首位級を自任する。
弱みは、売る相手が造船所と海運会社に偏ることだ。世界の新造船の半分は中国の造船所が造っており、電気設備もいずれ中国の地場メーカーに寄る恐れがある。さらに銅や銀の高騰と人件費が、来期の利益を押し下げる計画になっている。
財務は強い。自己資本比率は約68%で、借金より現金が多い。ただし利益の水準が資本コストに届かない年が長く、積み上がった自己資本は十分に働いていない。ここに自社株買いの余地がある。
数字の上では、10年後の中立の時価総額は今の約1.5倍に育つが、年にならせば資本コストをわずかに下回る。強気の筋書きが実現すれば大きく報われるが、その確率は高くない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、寺崎電気産業は「悪くない事業を、まあまあの値段で持てる会社」である。強い堀の会社ではない。
まず、事業の寿命は長い。船が動く限り電気設備は要り、止まれない装置ほど実績ある会社が選ばれる。借金がなく、現金が厚い。景気の谷でも潰れにくい。
次に、利益の質には課題がある。造船の波があり、機器は価格競争を受ける。ROEは過去10年の中央値で6%台と、資本コストに届いてこなかった。直近の営業利益率10%も、来期は8%強へ下がる計画だ。
三つめは経営の資本の使い方である。自社株買いと増配は前向きだが、まだ控えめだ。厚い自己資本を持ち続けるほど、その1単位あたりの価値は薄まる。
四つめは安全域である。10年後の中立の価値を資本コストで戻すと、今の時価総額をやや下回る。割安と言える材料は、受注残の厚さと、現金の厚さにとどまる。
以上から、筆者は「持ちたいが、この値段では安全域が薄い」と見る。悲観の局面では、現金と保有株で価値の下支えはあるものの、事業の価値はかなり落ちる。強気の局面でも、利益は資本コストを大きくは上回らない。
安く買えれば良い会社だが、今の値段は、その条件を満たしていない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は、システム製品と機器製品の二つだ。売上は前者が約6割、後者が約4割を占める。
システム製品は、船内の電気を配り、止まらないように制御する装置一式である。発電機から推進装置、荷役設備までの電力を束ね、機関の状態を見守る。LNG運搬船のような高付加価値船ほど、設備は複雑で単価も高い。船ごとの特注品であり、造船所とは設計の段階から付き合う。陸に上がれば、ビルや工場の受配電盤にも使われる。
機器製品の代表は、電気の過電流を遮る低圧遮断器だ。船向けの高い信頼性を要る場面で磨いた製品を、ビル・工場・データセンターへ広げてきた。標準品が多く、価格競争の影響を受けやすい。ただ、消耗や更新の需要があり、システム製品の波を和らげる役目を持つ。人工透析関連などの医療機器も手がけるが、規模はごく小さい。
地域別の売上は、日本が約45%、アジアが約43%、ヨーロッパが約11%だ。アジアは中国・韓国の造船所向けと、現地の工場が中心である。従業員は連結で約2,200人。その半分はアジアにいる。
主な顧客は海運と造船の業界で、売上の1割を超える相手はいない。単一顧客への依存は避けられているが、業界そのものへの依存は大きい。
利益の質は悪くない。営業利益率は直近で約10%、会社の中期目標は8%以上だ。ただし機器の価格競争と、特注の船向けの手戻りが、利益率を8%台と10%台の間で揺らしてきた。2027年3月期は、銅・銀と人件費の上昇で、営業利益率が8%強へ下がる計画だ。
優良さと弱いところ
筆者がまず見るのは、船級協会に認められた実績という堀、つまり他社がまねしにくい強みである。船の電気設備は、止まれば船が動かず、人命にもかかわる。造船所と船主は実績のない部品を選びにくい。この「実績の壁」が値引きを抑えている。
ただし堀は狭い。ABB、シーメンス、シュナイダーといった世界の大手電機が、遮断器や配電の分野で競合する。中国や韓国で地場の電機メーカーが育ち、造船所が内製や系列に寄せれば、需要は一気に細る。会社が自ら首位級と言うのは強みだが、確かな順位は外部の資料で確かめられなかった。
資本の使い方は、堅実だが控えめだ。ROEは直近で7.5%、過去10年の中央値は6.2%である。自己資本比率は68%と厚く、手元の現金は借金を上回る。この余力を、成長投資と株主還元の両方に使い切れていない。
直近は変化がある。2026年3月期は自社株買いに約35億円を使い、配当も段階的に増やしている。配当性向はまだ16%と低く、利益が増えれば還元を厚くする余地は大きい。
弱点はもう一つある。株式持ち合いだ。上場株の保有は約130億円あり、通信大手の株を議決権の指図権に基づく「みなし保有」でも持つ。取引関係のための保有は減らす方針だが、資本の効率を損なう面は残る。
経営の質は、利益率が8%を安定して超え始めたことが示す。ただし、この水準を景気の波を越えて保てるかは、まだ証明されていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
船の電気設備の需要は、新造船の建造量と、船の高機能化の二つで決まる。
世界の新造船は、2020年代に入って受注が大きく戻り、造船所は数年先まで仕事を抱える。国土交通省の資料は、2030年代の建造需要を年8,000万〜1億総トンと見る。中国が建造の約5割、受注の7割超を取り、日本は縮む。日本政府は2035年に建造量の倍増を目標にするが、道は遠い。
高機能化は追い風だ。LNG船は2030年代に50〜130隻規模の需要が見込まれ、1隻あたりの電気設備の金額も大きい。環境規制で、陸上電力の供給や電動化も進む。
ただし造船は波が大きい。受注が積み上がった後に、数年で建造が細り、設備投資が止まる局面が必ず来る。2008年の金融危機のあと、世界の新造船は大きく落ち込んだ。会社の受注残が厚いのは今の強みだが、10年先まで続く保証にはならない。
機器製品の側は、電気を増やす需要が広がる。データセンターや再生可能エネルギーのつなぎ込みで、配電機器の需要は実質で緩やかに伸びる。ただし国内は人口が減り、競合も多い。日東工業、東光高岳、明電舎などの国内勢に加え、ABBやシュナイダーなどが世界で競う。
原材料では、銅と銀の価格が利益を左右する。値上げは転嫁できるが、遅れる局面で利益率が落ちる。2027年3月期の減益計画も、この転嫁の遅れが一因である。
資本政策と M&A
資本政策は、いま転換点にある。2026年3月期は自社株買いに約35億円を使い、年間配当を前期より増やし、来期も増配を予想する。それでも配当性向は2割に届かない。
自己資本比率は68%、現金は借金を上回る。中期目標は営業利益率8%以上、自己資本比率55%以上で、後者の目標はすでにはるかに超えている。
筆者は、この余力が株主に戻るかどうかが10年の価値を分けると見る。戻れば資本の効率が上がり、ROEが資本コストに近づく。戻らなければ、現金は低い利息を生むだけだ。
買収は、これまでほとんどない。大型の買収で価値を壊す危険は小さい反面、成長を買う力も使っていない。10年以内にTOBなどの再編が起きる確率は、推定で約2割ある。小さく、財務が堅く、現金が厚い会社は、買い手から見て魅力がある。
政策保有株は、上場株で約130億円で、名村造船所などの取引先株を含む。通信大手の株は、議決権の指図権による約60億円のみなし保有もある。縮減の方針は出ているが、実際の売却の速さが課題になる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
船の電気設備は、実績のある会社しか選べない。この壁は薄れにくい。造船所は数年分の仕事を抱え、寺崎電気のシステム製品の受注残は約700億円と、過去最高の水準にある。LNG船の需要は2030年代まで続くと見られ、1隻あたりの金額も大きい。
日本政府は造船業の再生を掲げ、2035年に建造量を倍にする目標を持つ。日本の造船所が復活すれば、国内の売上は大きく伸びる。アジアの売上はすでに前期で2割を超えて伸びた。中国と韓国の造船所に実績ができ、これは簡単には崩れない。
機器製品も追い風を受ける。データセンターと再生可能エネルギーのつなぎ込みで、遮断器の需要は10年にわたり伸びる。加美工場のめっき設備など、自動化投資も進んでいる。
財務の余力は大きい。自己資本比率は68%、現金は借金を上回る。自社株買いと増配が続けば、ROEは10%近くまで上がる。会社の中期目標である営業利益率8%は、すでに超えている。
配当性向は16%と低く、還元を倍にしても利益は余る。この余力が株主に回れば、今の値段は割安になる。強気の筋書きでは、利益は10年で今の約1.6倍に育つ。
慎重な見方
船の電気設備は、造船が元気な間だけ儲かる。いまの受注残は過去の好況の残りであり、10年先の保証ではない。システム製品の新規受注は前期に12%減っており、先行きの鈍りはすでに出ている。
中国は新造船の約5割を造り、受注の7割超を押さえる。造船所が中国にあれば、電気設備も地場メーカーに寄るのが自然だ。寺崎電気は、取引先の造船所ごと失うおそれがある。
来期の営業利益は62億円から57億円へ減る計画で、銅・銀の高騰と人件費の上昇が原因だ。値上げで転嫁しきれないなら、利益率は8%を割る。機器製品は標準品が多く、ABBやシュナイダー、国内の日東工業と競う。
ROEは過去10年の中央値で6%台で、資本コストに届いたことはほとんどない。自己資本が厚くても、使い方が下手なら価値は薄れる。株式持ち合いも効率を損なう。
10年後の中立の価値を資本コストで戻すと、今の時価総額を下回る。景気の山の利益に高い倍率を掛けた値段は、危うい。造船の谷で利益が半分になれば、今の時価総額は割れる。
どちらに重みを置いたか
強気の指摘は、受注残の厚さと実績の壁という点で説得力がある。だが、利益が資本コストを安定して超える根拠は、まだ弱い。慎重な見方は、造船の波と中国勢の押し上げ、来期の減益計画という具体的な事実を挙げており、重みが勝つ。
確率は、中立を最も厚く置いた。強気側は、造船の好況が長引き、日本の造船が復活する場合に限られるので、1割にとどめた。やや楽観は2割とした。
やや悲観は、造船の谷と価格競争で利益率が6〜8%に沈む筋書きで、2割強を置いた。悲観は、中国勢への切り替えと価格競争が重なる場合で、1割とした。受注残と現金の厚みで、悲観の確率はこれ以上は上げなかった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,037 円864 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,491 円183 億円)。 今の値に割り戻すと 4,453 円547 億円、今との差 +15.4%、 期待の年率 +8.2%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 13,334 円1,637 億円 | 2,037 円250 億円 | +298.2% | +14.8% | 1,230 円151 億円 |
| やや楽観 | 20% | 10,253 円1,259 億円 | 1,833 円225 億円 | +213.1% | +12.1% | 2,417 円297 億円 |
| 中立 | 38% | 7,901 円970 億円 | 1,629 円200 億円 | +146.9% | +9.5% | 3,622 円445 億円 |
| やや悲観 | 24% | 3,413 円419 億円 | 1,222 円150 億円 | +20.1% | +1.8% | 1,112 円137 億円 |
| 悲観 | 10% | 978 円120 億円 | 489 円60 億円 | −62.0% | −9.2% | 147 円18 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,037 円864 億円 | 1,491 円183 億円 | +120.9% | +8.2% | 8,528 円1,047 億円 |
今の株価時価総額 3,860 円474 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 造船の好況が長く続き、日本の造船が復活する 利益 102 億円 · PER 15.7 倍 · 株価時価総額 13,334 円1,637 億円
LNG船や環境対応船の発注が10年にわたり途切れず、造船所の手持ち工事は常に数年分ある。日本政府の再生策が効いて国内の造船が戻り、寺崎電気は国内の売上を大きく伸ばす。中国と韓国の造船所にも実績が積み上がり、取扱い率は広がる。
機器製品は、データセンターと再生可能エネルギーのつなぎ込みで需要が続く。標準品でも、信頼性の高い船級品の評価が値段を支える。
会社は余った現金を自社株買いに回し、ROEは10%近くまで上がる。ただし利益が資本コストを大きく上回るほどの堀は築けず、倍率は正当化の範囲に収まる。
- システム製品(船舶・産業向け配電制御):数量 780(当社の電気設備が載る新造船の量(万総トン)=世界の建造量約5,000万総トン × 取扱い率約12%の推定)× 価格 0.90(1万総トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 702 億円・営業利益 91 億円。780万総トン × 1万総トンあたり0.90億円(今の1.41倍)、利益率13%
- 機器製品(低圧遮断器ほか):数量 2.3(世界の低圧遮断器・配電機器市場(億ドル・今の値段で測った実質)× 当社シェア約1.1%の推定)× 価格 205(1ドルあたり円(150円 × 物価の倍率))→ 売上 472 億円・営業利益 57 億円。市場 × シェアで2.30億ドル相当 × 205(円/ドル相当)、利益率12%
倍率:事業の純利益 101 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.3% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)40 億円。全体の PER 15.74 倍、時価総額 1,637 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:造船の好況が10年近く続き、日本の再生策が実り、機器もデータセンター向けで伸びる、という重なりが要る。受注残は厚いが、連続で当たる確率は高くない。
やや楽観 20% 受注残が売上に変わり、利益率が10%台に定着する 利益 83 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 10,253 円1,259 億円
約700億円の受注残が売上になり、システム製品の利益率は12%前後で落ち着く。造船の建造量は2030年代に高い水準で推移し、LNG船の発注も続く。
中国勢の追い上げはあるが、実績が要る高機能船では寺崎電気の席が残る。船主は止まらない設備を選ぶので、値引きだけで取引は動かない。機器製品は、更新と電力需要の増加で実質で緩やかに伸びる。
還元は少しずつ厚くなり、配当性向は3割へ近づく。利益は今の約2倍に育つが、物価の分を除けば伸びは小さい。ROEは8%台まで上がるが、資本コストを大きくは超えない。強気ほどの上振れはなく、堅実に伸びる姿である。
- システム製品(船舶・産業向け配電制御):数量 720(当社の電気設備が載る新造船の量(万総トン)=世界の建造量約5,000万総トン × 取扱い率約12%の推定)× 価格 0.87(1万総トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 626 億円・営業利益 75 億円。720万総トン × 0.87億円(今の1.36倍)、利益率12%
- 機器製品(低圧遮断器ほか):数量 2.2(世界の低圧遮断器・配電機器市場(億ドル・今の値段で測った実質)× 当社シェア約1.1%の推定)× 価格 203(1ドルあたり円(150円 × 物価の倍率))→ 売上 436 億円・営業利益 48 億円。2.15億ドル相当 × 203(円/ドル相当)、利益率11%
倍率:事業の純利益 82 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)40 億円。全体の PER 14.78 倍、時価総額 1,258 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:足元の受注残と、中期目標の営業利益率8%超が続く姿に近い。造船の好況が数年続けばこの形になる。
中立 38% 造船の波を越え、堅実な中堅として成熟する 利益 68 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 7,901 円970 億円
好況の後に造船の建造量は平常化するが、2008年のような崩れ方はしない。LNG船や環境対応船が下支えになり、世界の建造量は今より1割ほど多い水準で落ち着く。
寺崎電気は取扱い率を守り、価格は物価並みに上げる。銅・銀の転嫁の遅れは一時的で、利益率は10%弱で定着する。機器製品は更新需要と電力需要で伸び、ビルや工場、データセンター向けが主力になる。
還元は配当性向3割ほどに上がり、時々の自社株買いで現金を使う。自己資本は厚いままなので、ROEは7%台にとどまる。堅実だが、資本コストを超える稼ぎには届かない10年である。
- システム製品(船舶・産業向け配電制御):数量 660(当社の電気設備が載る新造船の量(万総トン)=世界の建造量約5,000万総トン × 取扱い率約12%の推定)× 価格 0.85(1万総トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 561 億円・営業利益 62 億円。660万総トン × 0.85億円(今の1.33倍)、利益率11%
- 機器製品(低圧遮断器ほか):数量 2.0(世界の低圧遮断器・配電機器市場(億ドル・今の値段で測った実質)× 当社シェア約1.1%の推定)× 価格 201(1ドルあたり円(150円 × 物価の倍率))→ 売上 392 億円・営業利益 39 億円。1.95億ドル相当 × 201(円/ドル相当・物価並み)、利益率10%
倍率:事業の純利益 67 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)40 億円。全体の PER 13.69 倍、時価総額 963 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:造船の好況が数年続いたあと平常化し、機器は緩やかに伸びる。会社の目標(営業利益率8%以上)を少し上回る姿で、最も起こりやすい。
やや悲観 24% 造船の谷と価格競争で、利益率が6〜8%に沈む 利益 36 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 3,413 円419 億円
好況の後に造船の発注が細り、建造量は今より1割ほど減る。受注残が尽きるころ、システム製品の売上は減り始める。
中国の地場メーカーが低価格で入り込み、機器製品の値上げは物価に届かない。銅・銀の高騰を転嫁できず、利益率は6〜8%台に沈む。人員は削れず、固定費が重くなる。アジアの工場は稼働率が落ち、減価償却の負担も利益を圧迫する。
会社は現金と持ち合い株を使って耐え、配当は維持する。国内の更新需要が下支えにはなるが、船向けの落ち込みを埋めるほどの大きさはない。ただし自社株買いは止まり、自己資本は分厚いまま眠る。事業は崩れないが、成長の期待は後退する10年になる。受注残が尽きる後半の数年が、利益率の最も苦しい時期になる。
- システム製品(船舶・産業向け配電制御):数量 560(当社の電気設備が載る新造船の量(万総トン)=世界の建造量約5,000万総トン × 取扱い率約12%の推定)× 価格 0.78(1万総トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 437 億円・営業利益 37 億円。560万総トン × 0.78億円(今の1.22倍)、利益率8.5%
- 機器製品(低圧遮断器ほか):数量 1.7(世界の低圧遮断器・配電機器市場(億ドル・今の値段で測った実質)× 当社シェア約1.1%の推定)× 価格 190(1ドルあたり円(150円 × 物価の倍率))→ 売上 323 億円・営業利益 23 億円。1.70億ドル相当 × 190(円/ドル相当)、利益率7%
倍率:ROE4.6%は資本コスト7.5%に届かず、ためた利益は額面未満の価値。PERは1÷k=12.5倍が上限で、利益が縮む会社として約7割の9倍を置いた。
確率:造船の建造量が数年にわたり落ち込み、中国勢の低価格が機器にも及ぶ。受注残は2〜3年は持つが、その後は薄れる。2008〜2009年の重電の受注減が参考になる。
悲観 10% 中国勢に取引を奪われ、配電制御の堀が崩れる 利益 4 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 978 円120 億円
建造の中心がさらに中国へ移り、造船所は電気設備を系列や地場メーカーから買う。寺崎電気は入札で値下げを重ね、取扱い率は半分近くまで落ちる。
機器製品も標準品の値下がりで利益が消える。銅・銀の転嫁もできず、営業利益はほぼゼロになる。固定費の重い工場とアジアの人員が、赤字に近い体質を作る。リストラには時間と費用がかかり、受注残が尽きた後は売上の減り方が利益の減り方をさらに大きくする。
会社は持ち合い株を売って現金を作り、配当を守ろうとするが、事業の価値は大きく落ちる。造船所との取引を戻す手立てが見つからないまま、10年がたつ。残るのは、手元の現金と保有株が示す資産の価値だけになる。買い手が現れても、事業の価値に大きな上乗せは付かない。
- システム製品(船舶・産業向け配電制御):数量 420(当社の電気設備が載る新造船の量(万総トン)=世界の建造量約5,000万総トン × 取扱い率約12%の推定)× 価格 0.65(1万総トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 273 億円・営業利益 11 億円。420万総トン × 0.65億円(今の1.02倍)、利益率4%
- 機器製品(低圧遮断器ほか):数量 1.4(世界の低圧遮断器・配電機器市場(億ドル・今の値段で測った実質)× 当社シェア約1.1%の推定)× 価格 170(1ドルあたり円(150円 × 物価の倍率))→ 売上 238 億円・営業利益 7 億円。1.40億ドル相当 × 170(円/ドル相当)、利益率3%
倍率:稼ぐ力は純利益4億円を資本コスト7.5%で割った約50億円にすぎず、純現金と売れる持ち合い株の税引き後が価値の床になる。今の自己資本554億円ではなく、その資産の約120億円に当たる倍率を置いた。
確率:造船所が地場の電機に切り替え、価格競争で利益がほぼ消える筋書き。船級の実績と受注残の厚みで即座には崩れないので、1割にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
システム製品(船舶・産業向け配電制御)
船の発電機から推進・荷役設備までの電力を束ねる配電制御システムと機関監視制御。ビル・工場向けの受配電盤も含む。
| 数量当社の電気設備が載る新造船の量(万総トン)=世界の建造量約5,000万総トン × 取扱い率約12%の推定 | 価格1万総トンあたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 600 | 0.64 | 383 | 45 |
| 10 年後 中立 | 660 | 0.85 | 561 | 62 |
取り方:システム製品の売上382.5億円を、世界の年間建造量(推定5,000万総トン)のうち当社が関わる約12%(600万総トン)で割って1総トンあたり約0.64万円とした。取扱い率12%は開示がなく、世界首位級という会社の自己評価と売上規模からの推定。陸上のビル・工場向けも含む。数量は実質(船の量)、物価3%と高機能船への移行は価格に入れる。営業利益は地域別セグメント利益から本社費を差し引いた推定で、製品別は開示がない。
機器製品(低圧遮断器ほか)
ビル・工場・データセンター・船で使う低圧遮断器、配電機器。医療機器など小さな事業を含む。
| 数量世界の低圧遮断器・配電機器市場(億ドル・今の値段で測った実質)× 当社シェア約1.1%の推定 | 価格1ドルあたり円(150円 × 物価の倍率) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.6 | 150 | 246 | 29 |
| 10 年後 中立 | 2.0 | 201 | 392 | 39 |
取り方:機器製品の売上246.1億円を、世界の低圧遮断器・配電機器の市場(推定150億ドル)に対する当社の取り分約1.1%(1.64億ドル相当)としてドル円150円で換算した。市場規模は業界の公表資料で確かめられず推定。数量は実質の市場の量にシェアを掛けたもの、物価3%は価格(円・ドル × 物価の倍率)に入れた。営業利益は製品別の開示がなく、地域別から推定。
リスクと懸念
造船の波と受注の谷
システム製品の売上は新造船の建造量に直結する。受注残が約700億円と厚い間は見えにくいが、新規受注は前期に12%減っている。発注が数年止まれば、残高が尽きるころに売上と利益が落ちる。
中国の造船所と地場メーカーへの切り替え
世界の建造量の約5割、受注の7割超を中国が占める。造船所が電気設備を系列や地場に寄せれば、実績の壁だけでは取引を守れない。アジアの売上が大きいだけに、影響は直接に出る。
銅・銀の高騰と人件費
会社自身が、2027年3月期の営業利益率は8%強へ下がると計画している。値上げの転嫁が遅れる局面で利益率が落ちる構造は、機器製品の標準品ほど強い。
機器製品の価格競争
低圧遮断器は、ABB、シュナイダー、国内の日東工業などが競う。標準品の値下げ圧力が続けば、船向けで稼いだ利益率が機器で削られる。
資本の効率が上がらない
自己資本比率は68%と厚く、ROEは7%台で資本コストに届いてこなかった。還元が遅れれば、現金は低い利息しか生まず、本質価値は伸びない。
持ち合い株の価格変動
上場株の保有は約130億円あり、造船会社などの株を含む。株価が下がれば自己資本が減り、売却が遅れれば資本の効率を損なう。
為替と海外事業
売上の半分超が海外で、ドルや現地通貨の動きが利益に響く。前期に為替が利益を押し下げた局面もあり、アジアと欧州の規制や地政学も事業の不確実性になる。
今後の分かれ目
- システム製品の新規受注が、売上を上回るペースに戻ったら
- やや楽観・楽観の確率を上げてよい。受注残が売上の2年分を超えるなら、造船の谷の確率は下げる。
- 営業利益率が8%を割り、銅・銀の転嫁が進まない状態が続いたら
- やや悲観の確率を上げる。機器の価格競争が構造的かどうかを見分ける。
- 中国の造船所向けの受注が、実績のあるLNG船以外の船種へ広がったら
- 取扱い率が伸びる筋書きの根拠になり、中立の利益率を見直す。
- 自社株買いと増配が、純利益の半分を超える水準で続いたら
- 資本の効率が上がり、ROEが資本コストに近づく。中立の倍率を引き上げる材料になる。
- 造船会社が電気設備を内製化・系列化する動きを明らかにしたら
- 悲観の確率を上げ、取引先の喪失に備えた筋書きを重くする。
- 10年以内に大手電機がTOBを提案したら
- 買収価格は本質価値の上方を示す材料になる。ただし、価格が本質価値を超えるかは別に確かめる。
見ておくもの
- システム製品の四半期ごとの受注高と受注残高
- 世界の新造船の発注量と、中国・韓国・日本のシェア
- 銅・銀の価格と、営業利益率(会社の中期目標は8%以上)
- 自社株買いと配当性向、持ち合い株の売却の速さ
- 機器製品の海外の売上の伸び(データセンター・再生可能エネルギー向け)
倍率と資本コストの決め方
システム製品は世界の建造量 × 当社の取扱い率 × 1総トンあたり売上、機器製品は市場 × シェア × 1ドルあたり円で積み、物価3%は価格に入れた。倍率は資本コスト7.5%(基本7.5%にquality+0.5%)と、ROEが資本コストを下回る点から、利益ベースの正当化PER(g4%・残る割合0.5)の約85%に置いた。今のPERも過去の倍率も使っていない。悲観は稼ぐ力ではなく、純現金と売れる持ち合い株の税引き後の資産から置いた。リースの扱いは今と同じ形(家賃を営業費用に含む)でそろえ、2028年3月期の新リース会計基準で営業利益が少し増え純有利子負債が増える点は、10年後の数字には反映していない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.5→15.74 倍・やや楽観 PER 11.5→14.78 倍・中立 PER 10.96→13.69 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +0.5%を足してk7.5%。個別のリスクはkに足さず筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.50%。