結論
KOKUSAI ELECTRICは、半導体ウェハーを数十〜百枚まとめて処理する「バッチ式」の成膜・熱処理装置に特化した会社だ。原子層堆積(ALD)のバッチ方式では世界シェア約7割を握り、東京エレクトロンとともに市場を二分する。2018年に日立国際電気からKKR主導でスピンオフし、2023年に上場した。AI投資が牽引する3D NANDの層数増加は、1枚のウェハーに必要な成膜工程を大きく増やす。WFE(ウェハー製造装置)市場全体より一段速い需要が見込める。
一方で、波も大きい。2025年11月の決算では、半導体メーカーが投資に慎重になって装置の出荷がずれ込み、通期の純利益を大きく下方修正して株価が急落した。中国向けの売上比率はピークの53%から直近39%まで下がった。レガシー半導体への投資が一服し、重心は先端メモリと先端ロジックに移っている。
資本面では、2025年7月にKKRが保有の過半を売り、アプライド・マテリアルズ(AMAT)が筆頭株主に浮上した。2026年5月にはKKRが残りの全株を売って退場した。AMATは過去に買収を試みた経緯があり、中長期の再編の芽は残る。筆者の結論は「割高」だ。WFE市場の構造的な拡大とバッチALDの寡占を評価しても、今の株価(PER61倍、PBR8.4倍)は中立の筋書きを超え、楽観の一部まで織り込んでいる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、狭いが寡占度の高いニッチ(バッチALD)で世界シェア7割を握り、顧客の工程認証という高い切り替えコストに支えられた価格決定力を持つ点は評価できる。実質無借金の財務と高い粗利率は、半導体投資サイクルの谷でも会社が生き残る安全域を提供する。一方で、稼いだ利益のうち将来の成長のために再投資すべき部分(研究開発・設備投資)を引いた株主のものになる利益は、会社自身の中期目標がまだ実現していない段階では読みにくい。2025年11月の下方修正は、半導体メーカーの投資判断というコントロール外の変数に業績が左右されやすいことを示した。経営の資本配分は、無理な買収に走らず株主還元と自社株買いに軸を置いている点は評価できるが、事業の規模が相対的に小さく大口顧客への依存度が高いため、楽観シナリオが実現する確度には相応の不確実性を割り引く必要がある。今の株価(PER61倍・PBR8.4倍)は、AI投資がこのまま何年も途切れず続くという前提をかなり長く織り込んでおり、安全域は薄いとみる。
何で稼ぐ会社か
主力は半導体の前工程で使う「バッチ式」の成膜・熱処理装置。炉の中に数十〜百枚のウェハーを一度に入れ、複数のガスを繰り返し反応させて原子レベルの薄膜を均一に積み上げるバッチALD技術が強みで、微細で複雑な3D構造のデバイスに向く。顧客はキオクシア・サムスン電子・SKハイニックス・TSMC・インテルなど、NAND型フラッシュメモリーと先端ロジックの大手。とくにNAND型フラッシュメモリーの「主役」であるメモリーメーカーに対し、同社は層数を増やすたびに装置投資が必要になる「脇役」の立ち位置で、業界の需要サイクルに直結する一方、顧客数が少なく大口案件の有無で業績が跳ねやすい。事業は装置の新規販売(2026年3月期で売上の約6割)と、既存装置の保守・部品供給によるサービス収益(約4割)に分かれる。装置は半導体メーカーの投資サイクルに連動して大きく上下するのに対し、サービス収益は据付済みの装置台数(稼働ベース)に紐づくため相対的に安定し、装置の販売が落ち込む年でも収益の底を支える役割を持つ。地域別では中国向け売上比率が2024年にピークの53%まで上昇したあと、直近は39%まで低下。米国の対中規制の対象外とされるレガシー半導体への投資一服と、先端メモリ・先端ロジック向けの比重拡大が背景にある。
優良さと弱いところ
バッチALDの世界シェア約7割は、枚葉式を含む成膜装置全体で見れば東京エレクトロンが規模で上回るものの、バッチという方式に限れば実質的に二社で市場を分け合う寡占である。装置の切り替えには顧客側の工程認証(量産ラインでの歩留まり確認)に数年単位の時間がかかるため、一度採用された装置は簡単には置き換えられず、価格決定力と高い粗利率(粗利率は4割超で推移)を支えている。弱点は顧客数の少なさと一本足に近い事業構成(成膜・熱処理装置がほぼ全て)で、大口顧客の投資計画の遅れが業績に直結しやすい。2025年11月の下方修正はこの脆さを示した典型例であり、会社が掲げる中期目標(WFE1,200億ドル以上を前提に売上3,300億円以上・調整後営業利益率30%以上)は、投資のタイミングが読みにくい中でやや楽観的な到達点とみる方が妥当。財務は実質無借金(純有利子負債はほぼゼロ〜ネットキャッシュ)で自己資本比率は6割台と厚く、下振れ時の耐久力は高い。政策保有株式は現在保有しておらず、資本の使い道を自社の成長投資・株主還元に集中できる構造になっている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
半導体製造装置の世界需要(WFE)は2025年に1,170億ドル前後まで来ており、AIデータセンター向けの投資加速を背景に2026〜2027年に1,500〜1,900億ドル超へ急拡大、2028年に2,200億ドル規模という会社計画・業界団体の上方修正も出ている。この中でKOKUSAIが強いのは成膜・熱処理のうちバッチ方式という狭いが寡占度の高い領域で、半導体テスタ(アドバンテスト)やEUVマスク検査(レーザーテック)と同じAI投資の波に乗る。3D NAND型フラッシュメモリーの層数増加は、1枚のウェハーに必要な成膜・熱処理の工程数を世代ごとに増やすため、WFE市場全体の伸びよりも速いペースで同社の装置需要を押し上げる構造的な追い風になっている。競合構図は、バッチALDでは東京エレクトロンとの二社寡占が続く一方、中国政府系ファンドの支援を受けるNAURAなど中国装置メーカーが、対中規制の対象外となるレガシー工程の装置で急速にシェアを伸ばしている。KOKUSAIの装置はレガシーから先端まで幅広く使われるため、中長期で中国国産化の影響を受ける可能性がある領域にも接している。循環面では、2025年11月の下方修正が示すとおり、半導体メーカーの投資判断は年度の途中でも揺れやすく、会社計画からのずれが出やすい。2008〜2009年・2011年・2018〜2019年の半導体不況期にはWFE市場が前年比3〜4割縮小した例があり、同規模の下振れが今後も起こり得る前提で悲観シナリオを置く。10年の視点では、AIの計算基盤需要と先端メモリ・先端ロジックの投資が続く限り、WFE市場は構造的に拡大が続くとみるが、成熟後の倍率は現在の高い水準をそのまま伸ばさない。
資本政策と M&A
配当方針は研究開発・設備投資を最優先しつつ、連結配当性向20〜30%程度を目安とし、ネットキャッシュがプラスに転換した後は有利子負債の分割償還後フリーキャッシュフローの70%程度を配当・自己株式取得に充当する方針を掲げる。2023年には上限180億円の自社株買いを実施しており、実質無借金化を背景に余剰資金が生じれば株主還元に積極的な姿勢を示している。株主構成の変化が本件の最大の固有トピックである。2018年にKKRが日立国際電気から本事業を買収し2023年に上場させたが、2025年7月にKKRが保有の過半(議決権23.48%→10.60%)を売却し、14.84%を保有するアプライド・マテリアルズ(AMAT)が筆頭株主に浮上。2026年5月にKKRが残る全株(約10.57%)を約1,630億円で売却し、完全に退場した。AMATは2019〜2021年にKOKUSAIの買収を試みた経緯があり(独禁審査の長期化で2021年に契約不成立、解約金1.54億ドルを支払い)、筆頭株主としての存在は将来の資本提携強化や再編の可能性を完全には排除しない。半導体装置の寡占2社(東京エレクトロンとKOKUSAI)の経営統合に相当するような再編は独禁審査の壁が高く、現時点では可能性の一つとして見ておく程度に留める。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIデータセンター投資はまだ序盤で、WFE市場は2026〜2028年にかけて1,500億ドルから2,200億ドル規模へ急拡大する。3D NAND型フラッシュメモリーの層数増加は世代ごとに加速しており、1枚のウェハーに必要な成膜・熱処理の工程数が増えるため、KOKUSAIの装置需要はWFE市場全体の伸びよりも速いペースで拡大する。バッチALDの世界シェア7割という地位は、顧客の工程認証コストの高さに守られており、東京エレクトロンとの二社寡占は当面崩れない。会社が掲げる中期目標(売上3,300億円以上・調整後営業利益率30%以上)は、2025年11月の下方修正という一時的な出荷ずれを除けば、WFE市場の拡大ペースを踏まえれば十分到達可能であり、むしろ上振れの余地がある。アプライド・マテリアルズが筆頭株主として14.84%を保有し続けている事実は軽視できない。AMATは過去に買収を試みた相手であり、技術・販売網での協業強化や、将来的な資本提携の深化(さらなる出資拡大や合弁、技術ライセンスなど)を通じて、KOKUSAIの海外展開や研究開発投資の効率を高める可能性がある。KKRというファンド株主が完全に退場したことで、より長期の事業パートナーを意識した経営の自由度が増す面もある。サービス収益(保守・部品)は据付済みの装置台数に比例して積み上がる安定収益であり、装置販売が循環的に増えるほど将来のサービス収益の土台も厚くなる。中国向け比率の低下は、むしろ地政学リスクの分散とみることができ、先端メモリ・先端ロジック向けの比重拡大は長期的な顧客基盤の質の向上を意味する。実質無借金の財務を生かし、株主還元と研究開発投資を両立しながら、AI投資の波に乗り続けられる。
慎重な見方
2025年11月の下方修正(通期純利益を市場予想から2割強下回る水準へ下方修正、株価が一時15%急落)は、半導体メーカーの投資判断がいかに読みにくいかを如実に示した。WFE市場の拡大予測は会社計画・業界団体の見通しに過ぎず、実際の装置発注は投資計画の延期・前倒しで年度ごとに大きくぶれる。KOKUSAIは顧客数が少なく大口案件への依存度が高いため、この変動の影響を相対的に強く受ける。中国向け売上比率がピークの53%から39%へ急速に下がっているのは、単なる地域分散ではなく、対中規制対象外のレガシー半導体投資が息切れしている兆候でもある。中国の装置国産化(政府系ファンドが支援するNAURAなど)はレガシー工程を中心に急速にシェアを伸ばしており、KOKUSAIの装置が及ぶ領域の一部(熱処理・バッチ成膜の相対的に成熟した工程)は中長期で代替される可能性がある。KKRが2025年7月から2026年5月にかけて保有株を段階的に、最終的に全株売却したことは、ファンドとして「株価が十分に上がったので売り切る」という単純な利益確定の動きであり、必ずしも将来の成長を裏付けるものではない。アプライド・マテリアルズが筆頭株主として残っているとはいえ、過去に買収を一度断念した相手であり、積極的な資本提携を今後進める保証はない。今のPER61倍・PBR8.4倍という株価は、会社の中期目標がすべて実現し、かつその先も高成長が続くことを前提にした水準に見える。半導体装置という循環業種で、2025年11月のような下方修正が今後も起こり得る前提に立てば、この株価は楽観シナリオの一部まで既に織り込んでおり、安全域はほとんど残っていない。
どちらに重みを置いたか
バッチALDでの寡占的な地位と3D NAND型フラッシュメモリーの構造的な需要押し上げは、強気の見方が強調するとおり否定しづらい事実である一方、2025年11月の下方修正が示した業績のぶれやすさと、中国向け比率の急低下という変化の速さは慎重な見方が指摘するとおり軽視できない。顧客数の少なさと一本足に近い事業構成を踏まえ、中立シナリオを軸に置きつつ、確率は慎重な見方の側にやや厚めに寄せた。今の株価は中立シナリオをかなり上回っており、強気の見方の一部までを織り込んでいるとみる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,037 円1.41 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,161 円2,707 億円)。 今の値に割り戻すと 3,587 円8,364 億円、今との差 −47.2%、 期待の年率 +0.6%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 13% | 13,118 円3.06 兆円 | 2,269 円5,291 億円 | +126.3% | +8.5% | 2,000 円4,665 億円 |
| やや楽観 | 22% | 8,571 円2.00 兆円 | 1,573 円3,669 億円 | +49.2% | +4.1% | 2,232 円5,205 億円 |
| 中立 | 32% | 6,523 円1.52 兆円 | 1,222 円2,850 億円 | +13.9% | +1.3% | 2,478 円5,780 億円 |
| やや悲観 | 21% | 1,492 円3,480 億円 | 511 円1,192 億円 | −70.5% | −11.5% | 421 円981 億円 |
| 悲観 | 12% | 382 円890 億円 | 178 円414 億円 | −91.8% | −22.1% | 67 円157 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,037 円1.41 兆円 | 1,161 円2,707 億円 | +5.9% | +0.6% | 7,198 円1.68 兆円 |
今の株価時価総額 6,798 円1.59 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 13% 楽観:半導体の構造的成長をフルに取り込む 利益 1,463 億円 · PER 20.9 倍 · 株価時価総額 13,118 円3.06 兆円
AIの計算基盤需要と3D NAND型フラッシュメモリーの層数増加が10年を通じて続き、WFE市場は2036年3月期時点で名目3,400億ドル(実質2,537億ドル)規模に達する。アプライド・マテリアルズとの協業が技術・販売網の両面で深まり、KOKUSAIのバッチALD・熱処理装置の実効シェアは先端メモリ・先端ロジックの比重増加でさらに上昇する。中国の装置国産化はレガシー工程中心にとどまり、先端工程でのKOKUSAIの地位は揺るがない。調整後営業利益率は27%台まで改善し、会社の中期目標(30%以上)に接近する。サービス収益も据付台数の大幅な増加で売上の柱に育つ。株主還元は配当と自社株買いを組み合わせ、ネットキャッシュを維持しながら成長投資も続ける。
- 装置(新規販売):数量 2,537(世界WFE市場(億ドル・名目))× 価格 1.65(WFE市場1ドルあたりのKOKUSAIの装置売上(円)=実効シェア×150円)→ 売上 4,186 億円・営業利益 1,130 億円。WFE(実質)2,537億ドル(名目3,400億ドル)×実効シェア1.65(円/ドル)、営業利益率27%
- 保守・部品(サービス):数量 220(稼働装置の据付台数指数(今=100))× 価格 15(指数1あたりの保守・部品売上(億円))→ 売上 3,190 億円・営業利益 925 億円。据付台数指数220×14.50億円、営業利益率29%
倍率:事業の純利益 1,463 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 25.6% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 16.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.9 倍。全体の PER 20.91 倍、時価総額 30,591 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:WFE市場が10年で3,400億ドル規模(楽観)へ拡大し、KOKUSAIの実効シェアもAMATとの協業などで上昇する複合的な上振れ。
やや楽観 22% やや楽観:寡占的地位を維持しながら着実に成長 利益 1,033 億円 · PER 19.4 倍 · 株価時価総額 8,571 円2.00 兆円
WFE市場は10年で名目3,000億ドル(実質2,239億ドル)規模に拡大し、3D NAND型フラッシュメモリーの層数増加と先端ロジックの投資が構造的な追い風になり続ける。KOKUSAIはバッチALDの寡占的な地位を保ちながら、中国向け比率は2割程度まで下がり先端メモリ・先端ロジック向けの比重が一段と高まる。アプライド・マテリアルズとの関係は資本面での大きな進展はないものの、技術・販売網での協業は緩やかに続き、海外展開の支えになる。中国の装置国産化はレガシー工程中心にとどまり、KOKUSAIの先端工程での地位は大きく揺らがない。調整後営業利益率は24%程度まで改善。据付台数の積み上がりでサービス収益も拡大し、業績のブレを和らげる役割が大きくなる。半導体投資サイクルの波は10年の間に一度程度訪れるが、会社計画の範囲内で収まる。
- 装置(新規販売):数量 2,239(世界WFE市場(億ドル・名目))× 価格 145.0%(WFE市場1ドルあたりのKOKUSAIの装置売上(円)=実効シェア×150円)→ 売上 3,247 億円・営業利益 747 億円。WFE(実質)2,239億ドル(名目3,000億ドル)×実効シェア1.45(円/ドル)、営業利益率23%
- 保守・部品(サービス):数量 195(稼働装置の据付台数指数(今=100))× 価格 14(指数1あたりの保守・部品売上(億円))→ 売上 2,632 億円・営業利益 724 億円。据付台数指数195×13.50億円、営業利益率27.5%
倍率:事業の純利益 1,033 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.4 倍。全体の PER 19.35 倍、時価総額 19,989 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:WFE市場が中立のやや上(3,000億ドル)で推移し、シェアも緩やかに改善する軌道。
中立 32% 中立:WFE市場の構造的拡大を取り込むが寡占は少し緩む 利益 839 億円 · PER 18.1 倍 · 株価時価総額 6,523 円1.52 兆円
WFE市場は電気機器ノートの中立シナリオどおり10年で名目2,600億ドル(実質1,940億ドル)規模へ拡大。3D NAND型フラッシュメモリーの層数増加という構造的な追い風は続くが、中国の装置国産化(NAURAなど)がレガシー工程でのシェアを徐々に奪い、KOKUSAIの実効シェアは先端工程への集中で何とか維持される程度にとどまる。中国向け売上比率は2割程度まで下がり、先端メモリ・先端ロジック向けが主力になる。アプライド・マテリアルズとの資本関係は大きな進展も後退もなく推移。調整後営業利益率は19%程度まで改善するが、会社の中期目標(30%以上)には届かない。半導体投資サイクルの波は10年の間に複数回あり、2025年11月のような下方修正が度々起こることを前提とする。サービス収益は10年間の据付台数の積み上がりで売上の4割弱を占める規模に育ち、業績のブレを和らげる役割を果たす。
- 装置(新規販売):数量 1,940(世界WFE市場(億ドル・名目))× 価格 1.65(WFE市場1ドルあたりのKOKUSAIの装置売上(円)=実効シェア×150円)→ 売上 3,201 億円・営業利益 608 億円。WFE(実質)1,940億ドル(名目2,600億ドル)×実効シェア1.65(円/ドル。物価並みの価格上昇+先端工程への集中)、営業利益率19%
- 保守・部品(サービス):数量 175(稼働装置の据付台数指数(今=100))× 価格 13(指数1あたりの保守・部品売上(億円))→ 売上 2,240 億円・営業利益 594 億円。据付台数指数175×12.80億円、営業利益率26.5%
倍率:事業の純利益 839 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.6% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.1 倍。全体の PER 18.13 倍、時価総額 15,211 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電気機器ノートの半導体装置の領域の中立シナリオ(WFE2,600億ドル)に沿う、最も重みを置く筋書き。中国国産化の影響をある程度織り込む。
やや悲観 21% やや悲観:中国国産化と投資の波が重荷になる 利益 380 億円 · PER 8.1 倍 · 株価時価総額 1,492 円3,480 億円
中国の装置国産化がレガシー工程だけでなく一部の先端工程にも及び始め、WFE市場自体は名目1,900億ドル(実質1,418億ドル)規模にとどまる。KOKUSAIの実効シェアはNAURAなど中国メーカーとの価格競争で徐々に低下し、物価並みの価格上昇も確保できなくなる。半導体投資サイクルの谷が10年の間に2回程度訪れ、会社計画からの下方修正が繰り返される。キオクシア・サムスン電子の投資が計画より遅れる年が増え、業績の予見性が低下する。調整後営業利益率は11%程度まで低下し、据付台数の伸びも鈍化。アプライド・マテリアルズとの関係も実質的な協業拡大には至らず、同社が保有比率を徐々に引き下げる展開も想定される。会社が掲げる中期目標からは明確に後退した10年になる。
- 装置(新規販売):数量 1,418(世界WFE市場(億ドル・名目))× 価格 105.0%(WFE市場1ドルあたりのKOKUSAIの装置売上(円)=実効シェア×150円)→ 売上 1,489 億円・営業利益 163 億円。WFE(実質)1,418億ドル(名目1,900億ドル)×実効シェア1.05(円/ドル。中国国産化と価格競争で物価上昇分を確保できず)、営業利益率11%
- 保守・部品(サービス):数量 150(稼働装置の据付台数指数(今=100))× 価格 12(指数1あたりの保守・部品売上(億円))→ 売上 1,725 億円・営業利益 414 億円。据付台数指数150×11.50億円、営業利益率24%
倍率:ROE 8.6%(事業の純利益÷自己資本)。k 8%。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC=k+残る割合 1/2×(ROE−k)=8.4%、長期の成長率 g 4.5% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=12.5 倍。中国の国産化とWFEの谷で受注が落ち込み、成長が鈍る前提で、上限の 6.5 割の 8.1 倍に置いた。
確率:中国国産化の進展が先端工程にも及び始め、かつ半導体投資サイクルの谷が複数回訪れる、構造要因と循環要因が重なるシナリオ。
悲観 12% 悲観:構造的に優良さを失う 利益 113 億円 · PER 7.9 倍 · 株価時価総額 382 円890 億円
中国の装置国産化(NAURAなど)が先端工程にも食い込み、KOKUSAIのバッチALDの実効シェアは大きく低下する。同時に東京エレクトロンや海外勢の枚葉式装置の高度化が進み、バッチ方式そのものの優位性が薄れる技術の転換も重なる。WFE市場自体は名目1,800億ドル(実質1,343億ドル)程度で推移するが、KOKUSAIはシェアと価格の両面で損失を被る。装置部門は実質的な損益分岐点近辺に沈み、調整後営業利益率は一桁台半ばに低迷。アプライド・マテリアルズは筆頭株主としての関与を薄め、資本的な支援も限定的になる。サービス収益(保守・部品)は据付済み装置の稼働が続く限り底を支えるが、「この会社抜きには先端メモリを量産しづらい」という独特の立ち位置は失われ、普通の装置部材サプライヤーとして評価されるようになる10年になる。実質無借金の財務と事業の清算価値が株価の下支えとなり、倒産に近い水準までは売り込まれない。
- 装置(新規販売):数量 1,343(世界WFE市場(億ドル・名目))× 価格 55.0%(WFE市場1ドルあたりのKOKUSAIの装置売上(円)=実効シェア×150円)→ 売上 739 億円・営業利益 −37 億円。WFE(実質)1,343億ドル(名目1,800億ドル)×実効シェア0.55(円/ドル。先端工程でのシェア・価格ともに大きく低下)、営業利益率-5%
- 保守・部品(サービス):数量 130(稼働装置の据付台数指数(今=100))× 価格 9.80(指数1あたりの保守・部品売上(億円))→ 売上 1,274 億円・営業利益 217 億円。据付台数指数130×9.80億円(新規受注の長期停滞)、営業利益率17%
倍率:ROE 2.9% が k 8% 以下なので、伸びても価値は増えず(ためた利益は額面未満)、正当化 PER は 1÷k=12.1 倍。優位を失った後でROEは2.9%まで落ち、純利益113億円まで縮む。実質無借金の純現金は小さく床として積めないので、稼ぐ力(純利益÷k)から出した。上限の 6.5 割の 7.9 倍に置いた。
確率:中国の装置国産化が先端工程にまで及び、かつバッチALDの代替技術(枚葉式の高度化など)への切り替えが進む複合シナリオ。技術優位の喪失は一度始まると10年で後退しやすいため、低頻度だが無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
装置(新規販売)
バッチ式の成膜(ALD)・熱処理装置の新規販売。NAND型フラッシュメモリー・先端ロジックの前工程向け。
| 数量世界WFE市場(億ドル・名目) | 価格WFE市場1ドルあたりのKOKUSAIの装置売上(円)=実効シェア×150円 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,170 | 120.0% | 1,404 | 197 |
| 10 年後 中立 | 1,940 | 1.65 | 3,201 | 608 |
取り方:2026年3月期の売上2,351億円のうち装置が約6割(1,411億円)という会社開示の構成比を使い、2025年のWFE市場1,170億ドル(電気機器ノート)に対する実効シェアを1,411億円÷150円÷1,170億ドル≒0.80%とした。バッチALD単体のシェアは約7割だが、WFE全体(枚葉式の成膜・エッチング・露光・検査なども含む)に対する比率で見ると小さくなる。価格=実効シェア×150円=1.20(円/ドル。1ドルのWFEのうちKOKUSAIに落ちる取り分)。営業利益率は2026年3月期の装置・サービス合算17.8%から、装置はサービスより低いと見て14%と置いた。数量は WFE の実質の市場(業種ノートの名目のドル建ての見通しを物価1.34倍で割った値)、物価は価格に入れる。
保守・部品(サービス)
据付済みの装置の保守契約・消耗部品の供給。装置の新規販売より循環性が小さい。
| 数量稼働装置の据付台数指数(今=100) | 価格指数1あたりの保守・部品売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 9.40 | 940 | 226 |
| 10 年後 中立 | 175 | 13 | 2,240 | 594 |
取り方:2026年3月期の売上2,351億円のうちサービスが約4割(940億円)という会社開示の構成比を使い、据付台数指数を今=100として逆算(940億円÷100=9.40億円/指数)。保守・部品は装置本体より粗利率が高いと見て営業利益率24%と置いた(装置14%より高い)。
リスクと懸念
顧客集中・投資サイクルのぶれ
キオクシア・サムスン電子・SKハイニックス・TSMCなど少数の大口顧客に売上が集中し、投資判断の延期・前倒しで業績が年度ごとに大きくぶれる。2025年11月の下方修正はその典型例で、今後も同様の出荷ずれが起こり得る。顧客の数が少ないぶん、1社の投資計画の変更が全社の業績に直結しやすい構造である。
中国の装置国産化
中国政府系ファンドが支援するNAURAなど中国の装置メーカーが、レガシー工程を中心に急速にシェアを拡大している。KOKUSAIの装置が及ぶ領域の一部(熱処理・バッチ成膜の相対的に成熟した工程)が中長期で中国製に代替されるリスクがあり、価格競争の激化も招きやすい。
中国向け比率の急低下
中国向け売上比率がピークの53%から直近39%まで急速に下がっており、対中規制対象外のレガシー半導体投資の一服を示す可能性がある。先端メモリ・先端ロジック向けでの代替が会社計画どおりに進まなければ、全体の売上成長が想定より鈍る。
東京エレクトロンとの競争激化
バッチALDでは東京エレクトロンとの二社寡占だが、東京エレクトロンが枚葉式装置の高度化などでバッチ方式の優位性を切り崩す可能性がある。技術の転換が進めば、KOKUSAIの価格決定力と高い粗利率が弱まり、優良さの前提そのものが揺らぐ。
株主構成の変化
KKRが2025年7月から2026年5月にかけて段階的に全株を売却し退場した。アプライド・マテリアルズが筆頭株主(14.84%)として残るが、過去に一度買収を断念した相手であり、資本提携を深めるのか、逆に関与を薄めていくのかは不確実である。
中期目標の未達リスク
会社が掲げる中期目標(売上3,300億円以上・調整後営業利益率30%以上)は、半導体メーカーの投資ペースという外部要因に強く依存する。2025年11月の下方修正のような一時的な未達が今後も繰り返されれば、市場の信頼が低下し倍率の縮小を招きやすい。
今後の分かれ目
- WFE市場が会社計画どおり2027〜2028年に1,500〜2,200億ドル規模へ拡大し、出荷ずれが解消する
- 中立からやや楽観のシナリオに近づき、本質価値は今の評価に近づく方向に動く。
- 半導体メーカーの投資判断の慎重化が複数年続き、2025年11月のような下方修正が繰り返される
- やや悲観のシナリオに近づき、今の株価との差はさらに広がる方向に動く。
- 中国の装置国産化が先端工程にまで及び始める
- 10年の構造的な負け筋(悲観)に近づき、バッチALDの寡占的な地位という評価の前提が揺らぐ。
- アプライド・マテリアルズが筆頭株主として技術・販売網での協業を深める、あるいは追加出資・TOBに動く
- 楽観シナリオの実現確度が上がり、株価にプレミアムが乗る可能性がある。
- 3D NAND型フラッシュメモリーの層数増加のペースが会社・業界の想定より速い(または遅い)
- KOKUSAIの実効シェアと価格が想定より上振れ(下振れ)し、楽観(悲観)シナリオに近づく。
- 東京エレクトロンがバッチ方式に代わる高効率な枚葉式技術で顧客を奪う
- バッチALDの寡占的地位という前提が崩れ、10年の悲観シナリオに近づく。
見ておくもの
- 四半期ごとの装置受注・出荷の進捗率(2025年11月のような出荷ずれの再発有無)
- 中国向け売上比率の推移(39%からさらに下がるか、下げ止まるか)
- キオクシア・サムスン電子・SKハイニックスの3D NAND投資計画の発表
- アプライド・マテリアルズの保有比率・協業に関する発表
- 中国装置メーカー(NAURAなど)の先端工程への参入動向
- 会社の中期目標(売上3,300億円以上・調整後営業利益率30%以上)に対する進捗
倍率と資本コストの決め方
今の株価(PER61倍・PBR8.4倍)は見ずに、WFE市場の規模とKOKUSAIの実効シェア・価格から売上と利益を積み上げ、その時点のROEとk8%(基本7.5%に、循環+0.75%・値決め力−0.25%・寿命+0.25%)から正当化PERを出し、上限の8.5〜8.8割に置いた。中立シナリオの10年後の本質価値は、今の時価総額を大きく下回る結果になった。これは同じ領域の東京エレクトロン・アドバンテスト・レーザーテック・SCREENホールディングスでも共通して出ている結果(AI投資の期待がWFE市場の確実な拡大以上に株価へ織り込まれている)であり、KOKUSAI固有の結論に寄せたものではない。悲観側は稼ぐ力(純利益÷k)から出し、二重の下げを避けた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 17.22→20.91 倍・やや楽観 PER 15.42→19.35 倍・中立 PER 14.47→18.13 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。
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- Kokusai Electric(Wikipedia英語版)