結論
三井ハイテックは、電動車の駆動モーターの鉄心(モーターコア)で世界首位級に立つ、北九州の精密加工メーカーだ。筆者の結論は、10 年で見ても今の値段はやや割高ということである。最大の理由は、稼ぐ力がまだ資本コストをわずかに上回る程度にとどまることだ。
売上の約 7 割はモーターコア、約 3 割は半導体用のリードフレームである。どちらも超精密の金型を自社で作り、薄い鋼板や金属板を打ち抜く。この技術が参入の壁になっている。ところが 2026 年 1 月期の純利益は 32 億円まで落ちた。欧州の電気自動車向け取引で減損が出たためだ。
会社は 3 月、2028 年 1 月期の営業利益目標を 235 億円から 150 億円へ下げた。電気自動車の失速と、成熟した半導体の回復の遅れが理由である。一方で足もとはハイブリッド車向けが好調で、今期の営業利益予想は 145 億円へ上がった。
筆者が見るのは、設備投資の山を越えた先だ。海外工場が黒字化する 10 年後、中立の筋書きでは営業利益が 280 億円前後まで積み上がる。それでも自己資本利益率(ROE)は 10% 程度で、資本コストの 9% と差が薄い。台数が増えても、値段を顧客に握られる事業の本質は変わらない。
確率をかけた本質価値は今の時価総額を約 3 割下回る。電気自動車の需要が戻れば上振れるが、慎重な見方のほうが筋が通っていると筆者は考える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で最初に見るのは、株主が自由に使える利益だ。三井ハイテックは今、稼いだ現金より多くを設備に投じている。3 年で 960 億円という計画は、減価償却のほぼ倍にあたる。配当は純資産の 3% を守るが、これも投資の合間に払っている。株主の手元に残る利益は、見た目の営業利益よりずっと小さい。
次に、10 年後もこの事業があるかを問う。モーターコアは電動車がある限り残る。ただ、モーターの方式が変わる、顧客が内製する、中国勢が値段を崩す、といった変化に耐えられるかは読み切れない。リードフレームは、成熟した半導体の中で値段が下がり続けてきた事業だ。長く続くが、儲かるとは限らない。
経営者の資本の使い方は、まじめだが外れも多い。欧州の電気自動車向けでは、需要の読みを誤り減損を出した。中期計画の目標も、1 年で 4 割近く切り下げた。それでも配当を維持し、投資を絞ったのは評価できる。
最後に安全域である。筆者は、事業の質が資本コストの付近にあるうちは、値段に余裕を求める。中立の筋書きでも今の値段に届かない以上、安全域は薄いと言わざるをえない。台数が戻るという賭けが当たれば報われるが、その賭けに値段が先に乗っている。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は電機部品、つまりモーターコアだ。ハイブリッド車や電気自動車の駆動モーターの中には、薄い電磁鋼板を何百枚も重ねた鉄心が入っている。三井ハイテックはその鋼板を超精密な金型で打ち抜き、かしめや接着で積み上げて納める。売上の 7 割を占める。
顧客は自動車メーカーとその一次部品会社だ。大口の取引先名は確かめられなかった。足もとの販売はハイブリッド車向けが 84%、電気自動車向けは 5% にすぎない。電気自動車の旗色が悪い今は、全タイプに売れる体制が効いている。生産は日本・中国・米国・欧州の 4 拠点で、メキシコには 59 億円で新工場を建てた。量産開始は 2026 年 7 月へ延びた。
もう 1 つの柱は電子部品、リードフレームだ。半導体チップを載せ、外の基板とつなぐ金属の骨組みである。使われるのは車載やパワー半導体など成熟した半導体で、AI 向けの先端チップではない。売上の 3 割弱を占め、モーターコアより値段の下落が続いてきた。
少額だが、金型・工作機械の外販もある。これは両事業の技術の源でもある。会社は電子部品で安定した現金を稼ぎ、モーターコアの投資に回すという構図を描いている。東京エレクトロンやアドバンテストのような半導体製造装置の会社とは、顧客も景気の波も違う。半導体の装置業界に分類されてはいるが、実態は自動車部品の会社に近い。
優良さと弱いところ
堀は 2 つある。1 つは金型を自作する力だ。薄い鋼板を高速で打ち抜き、ずれなく積む。この精度は一朝一夕には真似できない。もう 1 つは顧客との結びつきだ。駆動モーターは 1 つの車種で 10 年以上作り続けるため、一度採用されると長く続く。会社は「電動車の生産台数に対する搭載率でトップ」と述べる。世界シェアは報道で 3 割から 7 割までばらつくため、筆者は 4 割前後と見る。
弱みは値段の決め方にある。モーターコアは材料の電磁鋼板が原価の大半を占め、鋼板が下がれば売値もそのまま下がる。会社の修正計画でも、材料価格の分で売上が 110 億円減る。加工の付加価値は、自動車メーカーの値下げ要求と、中国・欧州の競合に挟まれる。POSCO や Tempel Steel など海外の大手、蘇州の中国勢が増産しており、会社自身も競争は激しくなると書く。
資本効率はこの 10 年、平凡だった。ROE の中央値は 4.6% だ。2022 年 1 月期から 2024 年 1 月期は 16〜22% まで上がったが、いまは 1 桁に戻った。営業利益率は 12.9% から 5.8% まで下がった。立上げの費用と減価償却が重いからだ。
経営は堅実だが、需要の読みは外れた。欧州の電気自動車向けで減損を出し、メキシコ工場の稼働も遅れた。強い技術があることと、その技術で十分な利益が残ることは別の話だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
モーターコアの需要は、電動車の台数が決める。会社が使う S&P Global Mobility の予測では、世界の電動車は 2024 年から 3 年で年 15% 伸びる。ただし 1 年前の予測より下がり、欧州と北米の電気自動車の失速が目立つ。会社は自社の販売も 2 年ほど後ろへずれると見る。
ここで効くのは中身の変化だ。電気自動車が減った分を、ハイブリッド車が埋めている。三井ハイテックは全タイプに売れるため、台数では守られる。ただしハイブリッド車のモーターは小さく、1 台あたりの売上は電気自動車より小さい。筆者は、台数が伸びても金額の伸びは台数より低いと見る。
競争は強まる。調査会社 QY Research によれば、世界の駆動用モーターコアは 2032 年まで年 13.8% 伸び、上位 10 社で売上の約 8 割を占める。市場が伸びると競合も増産する。中国勢の技術向上が速く、欧米でも現地メーカーが顧客に近い。
リードフレームの市場は、さらに地味だ。会社が使うガートナーなどの予測では、成熟した半導体の市場は 2024 年から 3 年で年 4.7% しか伸びない。1 年前の予測は 6.9% だった。使われるのはディスクリートやアナログなどで、AI の先端チップではない。中国の家電補助や顧客の在庫積み増しで足もとは戻るが、構造的な回復とは言いにくい。
米国の関税については、会社は米国の関税政策を「予測不能」と述べている。メキシコは北米向けの要だけに、関税の行方は工場の採算に直結する。電動車の普及が遅れた分、先行投資の回収も遅れる。その長さが、この業界の今のいちばんの問題だ。
資本政策と M&A
配当は、純資産に対する配当総額の比率(DOE)で 3% 以上を守る方針だ。配当は増配が続く計画で、方針は中期計画の修正後も変えていない。自社株買いの方針は確かめられなかった。
カネの使い道の中心は設備投資である。3 年間で 960 億円。当初の 1,100 億円から減らしたが、3 年の営業利益の合計の 2 倍を超える。純有利子負債は 339 億円で、自己資本比率は 47%。まだ余裕はあるが、投資が利益を超える間は借金が増える。
大型買収は見当たらない。成長は自社の設備と金型で賄う会社だ。メキシコ工場もその一例である。政策保有株の状況は確かめられなかったため、含み益は見ていない。
株主構成には特徴がある。筆頭は三井クリエイトで、約 3 割を持つ。福岡銀行、三井金型振興財団、三井姓の個人株主、トヨタ自動車が続く。安定株主が厚く、敵対的な買収は難しい。逆に、少数株主が会社に資本効率の改善を迫る力は弱い。筆者は、ROIC(投下した資本に対する利益)の目標を 7% から 5% へ引き下げた点を、慎重に受け止めている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
電動車の普及が遅れているのは、時期のずれにすぎない。10 年のうちに電動車は 8,000 万台を超え、世界の乗用車の大半を占める。三井ハイテックは全タイプに納められる会社で、ハイブリッド車の好調がその証拠だ。今期の営業利益予想は 3 か月で 110 億円から 145 億円へ上がった。
先行投資の重さは、いずれ軽くなる。会社の見通しでは、モーターコアの利益率は 2028 年 1 月期が底で、その後は販売が伸びて良くなる。メキシコ・米国・欧州の工場は、立上げの費用が消え、稼働率が上がれば、いまの 2% 台から国内並みの 8% 前後へ近づく。国内拠点はすでに 8% を稼いでいる。
金型を自分で作る力は、模倣が難しい。中国勢が増産しても、高精度の駆動用では実績が物を言う。トヨタ自動車が株主に名を連ねる事実も、顧客との関係の深さを示す。電子部品の側でも、車載とパワー半導体の需要が戻れば、リードフレームの稼働と利益率は上がる。
こうした条件がそろえば、営業利益は 400 億円を超え、ROE は 12% 台に乗る。資本コストを明確に上回る会社に変わり、評価も上がる。台数の伸びと工場の稼働率という、数えやすい要因が積み上がる点で、筋は通っている。
慎重な見方
電動車の需要が戻っても、儲かるのは三井ハイテックではないかもしれない。モーターコアは材料の電磁鋼板が原価の大半で、加工の付加価値は薄い。中期計画の修正でも、材料価格の下落だけで売上が 110 億円消えた。数量が伸びても、顧客は値段を下げさせる。10 年の営業利益率が 1 桁にとどまる可能性は高い。
先行投資の回収は遠い。3 年で 960 億円を投じても、2028 年 1 月期の営業利益目標は 150 億円で、ROE は 8%、ROIC は 5% だ。資本コストを下回る。海外拠点の営業利益率は 2.3% にすぎず、これが国内並みに上がる保証は乏しい。欧州ではすでに減損を出した。
競争は確実に強まる。POSCO や Tempel Steel のような海外の大手、中国の蘇州勢が増産しており、顧客の内製や複数社発注も進む。ハイブリッド車のモーターが成熟すれば、値下げ圧力はさらに強まる。リードフレームも、成熟した半導体の値段下落が続く。
筆頭株主が 3 割を持つ構造では、資本効率を高める圧力がかかりにくい。計画は何度も下がった。台数が伸びるという前提だけで今の値段を支えるのは、危うい。中立でも 10 年後の価値は今に届かず、悲観になれば時価総額は半分以下になる。
どちらに重みを置いたか
事業の技術力と、ハイブリッド車の好調には強気の見方が正しい。だが、利益の質と資本の使い方では慎重な見方に分がある。中期計画は 1 年で 4 割近く下がり、投資は利益を大きく上回り、ROE は資本コストを少し超える程度にとどまる。台数が増えるだけでは株主の取り分は増えない。確率は、中立を 3 割強に置いたうえで、悲観側を合わせて 4 割とやや厚くした。強気側は、ハイブリッド車の好調と海外工場の黒字化に相応の重みを残している。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/01 期)
確率で加重した株価時価総額 1,256 円2,296 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 282 円515 億円)。 今の値に割り戻すと 758 円1,385 億円、今との差 −7.7%、 期待の年率 +6.5%(資本コスト 8.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,946 円5,383 億円 | 492 円900 億円 | +318.8% | +15.4% | 275 円503 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,113 円3,862 億円 | 410 円750 億円 | +207.4% | +11.9% | 505 円922 億円 |
| 中立 | 32% | 1,446 円2,643 億円 | 328 円600 億円 | +116.1% | +8.0% | 568 円1,038 億円 |
| やや悲観 | 27% | 397 円726 億円 | 164 円300 億円 | −31.6% | −3.7% | 152 円277 億円 |
| 悲観 | 13% | 217 円396 億円 | 82 円150 億円 | −63.6% | −9.6% | 39 円71 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,256 円2,296 億円 | 282 円515 億円 | +87.3% | +6.5% | 1,538 円2,811 億円 |
今の株価時価総額 821 円1,500 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 電動車が全タイプで伸び、海外工場が黒字化する 利益 353 億円 · PER 15.3 倍 · 株価時価総額 2,946 円5,383 億円
電動車の生産は 9,000 万台に達し、三井ハイテックは全タイプに納める強みで 4 割のシェアを守る。ハイブリッド車の好調が続き、電気自動車も欧州と北米で立ち直る。メキシコを含む海外 4 拠点は立上げ費用が消え、営業利益率が国内に並ぶ。駆動用の高付加価値品が増え、材料の鋼板の転嫁も追いつく。売上は 5,000 億円を超え、モーターコア事業の営業利益率は 9% を超える。
リードフレームは、車載とパワー半導体の需要が戻り、稼働が上がる。貴金属の転嫁もできて、利益率は 11% を回復する。金型・工作機械も安定する。
会社は設備投資を回収し、利益が現金になる。DOE の 3% 以上を守りつつ、自社株買いなどで還元も厚くなる。ROE は 14% を超え、資本コストを明確に上回る会社に変わる。今の自己資本の 2 倍を超える純資産を持つ優良な部品会社として、評価も上がる。
- 電機部品(駆動用モーターコア):数量 3,600(当社のモーターコアを積む電動車(万台・車 1 台分に換算した推定))× 価格 10,903(車 1 台分あたりの売上(円・材料の電磁鋼板込みの名目))→ 売上 3,925 億円・営業利益 373 億円。搭載 3,600 万台(市場 9,000 万台×4 割)、材料込みの 1 台単価は今の 1.34 倍、営業利益率 9.5%
- 電子部品(リードフレーム):数量 479(出荷するリードフレームの半導体 1 個分への換算(億個・推定))× 価格 2.42(1 個分あたりの売上(円・貴金属めっき込みの名目))→ 売上 1,159 億円・営業利益 127 億円。出荷 479 億個分 × 単価は今の 1.34 倍、営業利益率 11%
- 金型・工作機械(外販):数量 440(外販する金型・工作機械の件数(式・推定))× 価格 1,662(1 式あたりの売上(万円・名目))→ 売上 73 億円・営業利益 4 億円。外販 440 式、単価 1.34 倍、営業利益率 6%
倍率:事業の純利益 353 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.5% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.2 倍。全体の PER 15.25 倍、時価総額 5,383 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電動車の台数が計画の上端まで戻り、海外拠点の利益率が国内並みに上がる、すべてがうまくいく筋書き。値段の下落・競合・関税が同時に好転する必要があり、確率は低く置いた。
やや楽観 20% ハイブリッド車の好調が続き、利益率が緩やかに戻る 利益 268 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 2,113 円3,862 億円
電動車の生産は 8,500 万台になり、シェアは 38% に落ち着く。ハイブリッド車が稼ぎ頭であり続け、電気自動車は欧州で伸びが戻り、米国は関税の影響を乗り越える。海外工場の営業利益率は 2% 台から 6% 前後へ上がるが、国内並みの 8% には届かない。材料の鋼板価格の転嫁は遅れ、単価は物価の伸びを少し下回る。
リードフレームは、成熟した半導体の需要が緩やかに戻り、車載向けを中心に稼働が上がる。営業利益率は 10% になる。
会社の 2028 年 1 月期の目標(営業利益 150 億円)は達成され、その後の 8 年で利益が積み上がる。純利益は 270 億円前後、ROE は 12% 台。資本コストは超えるが、突出した高収益ではない。堅実な部品会社として、安定した配当を続ける。
- 電機部品(駆動用モーターコア):数量 3,230(当社のモーターコアを積む電動車(万台・車 1 台分に換算した推定))× 価格 10,578(車 1 台分あたりの売上(円・材料の電磁鋼板込みの名目))→ 売上 3,417 億円・営業利益 280 億円。搭載 3,230 万台(市場 8,500 万台×38%)、単価は今の 1.30 倍、営業利益率 8.2%
- 電子部品(リードフレーム):数量 429(出荷するリードフレームの半導体 1 個分への換算(億個・推定))× 価格 2.31(1 個分あたりの売上(円・貴金属めっき込みの名目))→ 売上 992 億円・営業利益 99 億円。出荷 429 億個分 × 単価は今の 1.28 倍、営業利益率 10%
- 金型・工作機械(外販):数量 410(外販する金型・工作機械の件数(式・推定))× 価格 1,587(1 式あたりの売上(万円・名目))→ 売上 65 億円・営業利益 3 億円。外販 410 式、単価 1.28 倍、営業利益率 5%
倍率:事業の純利益 268 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.4% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍。全体の PER 14.41 倍、時価総額 3,862 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ハイブリッド車の好調が続き、先行投資の負担が薄れていく想定。中期計画の目標が何度も下がった履歴から、強気側の中でも楽観より厚めには置いた。
中立 32% 台数は伸びるが、利益率は平凡にとどまる 利益 199 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 1,446 円2,643 億円
世界の電動車は 8,000 万台へ伸びる。三井ハイテックのシェアは、中国勢と欧米の現地メーカーの増産で 36% に下がる。台数は今の 1.5 倍に増えるが、材料の鋼板価格の下落と顧客の値下げ要求で、1 台分あたりの売上の伸びは物価の伸びより低い。
海外工場は立上げの費用が消え、2% 台の営業利益率は 5〜6% まで改善する。国内は 8% を保つ。モーターコア全体の営業利益率は 7% となる。電子部品は成熟した半導体の需要が戻り、稼働が上がるが、値段の下落が続き利益率は 9% にとどまる。
会社は 960 億円の投資を終え、以後の設備投資は減価償却程度に収まる。DOE の 3% 以上を守り、配当は伸びるが、自社株買いは限定的だ。営業利益は 280 億円前後、純利益は 200 億円前後で、ROE は 10% になる。資本コストをわずかに超える、平凡な優良企業の姿だ。売上は 2026 年 1 月期の 1.8 倍、利益の質はそれに追いつかない。
- 電機部品(駆動用モーターコア):数量 2,880(当社のモーターコアを積む電動車(万台・車 1 台分に換算した推定))× 価格 10,175(車 1 台分あたりの売上(円・材料の電磁鋼板込みの名目))→ 売上 2,930 億円・営業利益 205 億円。搭載 2,880 万台(市場 8,000 万台×36%)、単価は今の 1.25 倍、営業利益率 7.0%
- 電子部品(リードフレーム):数量 395(出荷するリードフレームの半導体 1 個分への換算(億個・推定))× 価格 2.17(1 個分あたりの売上(円・貴金属めっき込みの名目))→ 売上 856 億円・営業利益 77 億円。出荷 395 億個分 × 単価は今の 1.20 倍、営業利益率 9%
- 金型・工作機械(外販):数量 380(外販する金型・工作機械の件数(式・推定))× 価格 1,550(1 式あたりの売上(万円・名目))→ 売上 59 億円・営業利益 2 億円。外販 380 式、単価 1.25 倍、営業利益率 4%
倍率:事業の純利益 199 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.28 倍、時価総額 2,643 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:世界の電動車は伸びるが、シェアは競合の増産で少し下がり、価格は顧客に押さえられる。会社の見通しに近く、慎重な見方を織り込んだ中心の筋書き。
やや悲観 27% 競争が強まり、電動車の伸びが鈍る 利益 70 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 397 円726 億円
世界の電動車は 7,000 万台にとどまる。電気自動車の伸びは遅れ、ハイブリッド車の需要も一巡する。中国の蘇州勢と欧米の現地メーカーが顧客に食い込み、三井ハイテックのシェアは 31% まで下がる。自動車メーカーは複数社から調達する。1 台分あたりの売上は、材料の鋼板の下落と値下げ要求で、物価の伸びを大きく下回る。
海外工場は稼働が上がらず、償却の重さが残る。モーターコアの営業利益率は 3.5% にとどまる。国内の工場も稼働率を保てず、収益は縮む。
リードフレームも、成熟した半導体の市場が弱く、値段の下落が続く。利益率は 5% に落ちる。会社は投資を絞り、配当は DOE の 3% を維持するのがやっとになる。営業利益は 100 億円前後、純利益は 70 億円。ROE は 4% 台で、資本コストを下回る。株主の取り分は増えず、評価も下がる。
- 電機部品(駆動用モーターコア):数量 2,170(当社のモーターコアを積む電動車(万台・車 1 台分に換算した推定))× 価格 9,358(車 1 台分あたりの売上(円・材料の電磁鋼板込みの名目))→ 売上 2,031 億円・営業利益 71 億円。搭載 2,170 万台(市場 7,000 万台×31%)、単価は今の 1.15 倍、営業利益率 3.5%
- 電子部品(リードフレーム):数量 330(出荷するリードフレームの半導体 1 個分への換算(億個・推定))× 価格 1.90(1 個分あたりの売上(円・貴金属めっき込みの名目))→ 売上 626 億円・営業利益 31 億円。出荷 330 億個分 × 単価は今の 1.05 倍、営業利益率 5%
- 金型・工作機械(外販):数量 330(外販する金型・工作機械の件数(式・推定))× 価格 1,364(1 式あたりの売上(万円・名目))→ 売上 45 億円・営業利益 1 億円。外販 330 式、単価 1.10 倍、営業利益率 2%
倍率:ROE 4.3% が k 8.25% を下回るため、新しく投じるお金は資本コストに届かず、伸びても価値は増えない(ためた利益は額面未満)。正当化 PER の上限は 1÷k=11.1 倍で、ここでは事業の稼ぐ力(純利益÷k)に対して、立上げの償却が重く利益が押し下げられている点も考え、上限の 8.1 割の 9.0 倍に置いた。
確率:電気自動車の失速が長引き、競合の増産で単価と利益率が下がる想定。会社の中計が 1 年で 4 割下がった事実と、過去 10 年の ROE の低さから、確率を厚めに置いた。
悲観 13% 構造的な負け:値段を崩され、投資が不良資産になる 利益 −20 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 217 円396 億円
世界の電動車は 6,000 万台にとどまり、モーターの方式が変わるなどして、従来のモーターコアの需要が崩れる。中国の蘇州勢と顧客の内製化で、三井ハイテックのシェアは 24% まで下がり、1 台分あたりの売上は鋼板の下落と値崩れで今の 1.05 倍にとどまる。海外工場は稼働率が上がらず、赤字が続く。
会社は欧州に続いて、メキシコと米国でも減損を出す。設備に投じた 960 億円の多くが回収できず、遊休になった工場の売却で現金をつくる。モーターコア事業の営業利益率は -2% に沈む。
リードフレームも、中国の低価格品に押され、稼働が落ちる。営業利益は全体で赤字に近づく。会社は配当を最低限に減らし、DOE 3% の方針は守れない。評価は稼ぐ力ではなく、持っている資産の売却価値で決まる。時価総額は今の 4 分の 1 にまで縮み、それでも筆頭株主の 3 割の持ち分は動かない。
- 電機部品(駆動用モーターコア):数量 1,440(当社のモーターコアを積む電動車(万台・車 1 台分に換算した推定))× 価格 8,544(車 1 台分あたりの売上(円・材料の電磁鋼板込みの名目))→ 売上 1,230 億円・営業利益 −25 億円。搭載 1,440 万台(市場 6,000 万台×24%)、単価は今の 1.05 倍、営業利益率 -2%
- 電子部品(リードフレーム):数量 280(出荷するリードフレームの半導体 1 個分への換算(億個・推定))× 価格 1.72(1 個分あたりの売上(円・貴金属めっき込みの名目))→ 売上 480 億円・営業利益 10 億円。出荷 280 億個分 × 単価は今の 0.95 倍、営業利益率 2%
- 金型・工作機械(外販):数量 250(外販する金型・工作機械の件数(式・推定))× 価格 1,240(1 式あたりの売上(万円・名目))→ 売上 31 億円・営業利益 −1 億円。外販 250 式、単価は横ばい、営業利益率 -2%
倍率:赤字なので PER は当てず、PBR で置いた。ROE が k 8.25% を大きく下回り、稼ぐ力(純利益÷k)はゼロに近い。値段は、売れる資産の税後(床)から決まる。今の自己資本 1,132 億円に 0.35 を掛けた。減損で自己資本が減る分は筋書きの自己資本に反映した。
確率:中国勢の増産と顧客の内製化で、シェアが 24% まで下がり、先行投資が減損になる複合の筋書き。製造業の部品会社が 10 年で優位を失う例は珍しくなく、無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電機部品(駆動用モーターコア)
電動車の駆動モーターの鉄心を、超精密の金型で打ち抜いて積む。HEV・BEV・PHEV の全部に売る。
| 数量当社のモーターコアを積む電動車(万台・車 1 台分に換算した推定) | 価格車 1 台分あたりの売上(円・材料の電磁鋼板込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 1,900 | 8,137 | 1,546 | 84 |
| 10 年後 中立 | 2,880 | 10,175 | 2,930 | 205 |
取り方:2026 年 1 月期の電機部品の売上 1,546 億円(全体の 70.8%)を、世界の電動車生産(約 4,800 万台)に当社コアが積まれる車 1 台分で割って置いた。1 台分あたり約 0.8 万円とすると約 1,900 万台、世界の電動車の 4 割弱になり、会社の「搭載率トップ」と整合する。営業利益は開示がなく、全体 126.5 億円から電子部品と外販を引いて約 84 億円(5.4%)と推定した。中立の 10 年は、世界の電動車が 8,000 万台へ伸び、シェアは 40% から 36% へ下がるとみた。単価は物価の 1.34 倍に届かず 1.25 倍とした。材料の鋼板の値下がりが売値に響き、加工の値付けは顧客と競合に押さえられるためだ。
電子部品(リードフレーム)
半導体チップを載せて外とつなぐ金属の骨組み。車載・パワー・アナログなど成熟した半導体向けが中心。
| 数量出荷するリードフレームの半導体 1 個分への換算(億個・推定) | 価格1 個分あたりの売上(円・貴金属めっき込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 330 | 1.81 | 596 | 42 |
| 10 年後 中立 | 395 | 2.17 | 856 | 77 |
取り方:電子部品の売上 596 億円(27.3%)を、半導体 1 個分に換算した出荷約 330 億個と、1 個分の単価は一円台の後半と置いた推定。営業利益は約 42 億円(7%)とみた。数量は成熟した半導体(車載・パワー・アナログ)の需要で、10 年の中立は 1.2 倍とした。会社が使う市場予測は年 4.7% 成長で、その半分は値段の分と見たためだ。単価は 1.20 倍で、物価の 1.34 倍に届かない。貴金属めっきの転嫁はあるが、成熟した半導体では値下げ要求が続き、前の中計でも 1 個分あたりの平均価格は下がった。
金型・工作機械(外販)
自社の打ち抜き技術のもとになる超精密金型と研削盤を、外部の顧客にも売る。
| 数量外販する金型・工作機械の件数(式・推定) | 価格1 式あたりの売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 330 | 1,240 | 41 | 1 |
| 10 年後 中立 | 380 | 1,550 | 59 | 2 |
取り方:自社の技術の源である金型・工作機械の外販。売上の約 1.9% にあたる 41 億円で、330 式 × 1 式あたり約 0.12 億円の推定。利益はほぼゼロ。10 年は、顧客の設備投資に合わせて緩やかに増えるとみた。会社の 2028 年 1 月期の目標(売上 120 億円、営業利益 10 億円、内部取引を含む)の範囲に収まる。
リスクと懸念
電気自動車の失速が長引く
欧州と北米の電気自動車の需要が弱く、会社も中期計画を 1 年で 4 割近く下げた。ハイブリッド車が穴を埋めているが、1 台分あたりの売上は電気自動車より小さい。回復が遅れるほど、新工場の立上げ費用と償却が利益を圧迫し続ける。
値段を決める力が弱い
モーターコアは材料の電磁鋼板が原価の大半を占め、材料価格の下落は売値の下落になる。修正計画では材料価格だけで売上が 110 億円減った。加工の付加価値も自動車メーカーの値下げ要求に押さえられ、数量が伸びても利益が増えにくい。
競合の増産とシェアの低下
POSCO や Tempel Steel などの海外大手、中国の蘇州勢が増産し、顧客も複数社から調達する。会社自身も競争が激しくなると書く。世界シェアは報道で 3 割から 7 割まで割れており、実力の確かめにくさ自体が不安材料だ。
海外工場の収益化の遅れ
2028 年 1 月期の営業利益率は国内 8% に対し、海外は 2.3% と見込まれる。メキシコ工場は量産開始が 2026 年 7 月へ延びた。米国の関税の行方次第で、北米向けの採算は大きく変わる。海外の黒字化が遅れれば、全体の利益は目標に届かない。
設備投資が利益を上回る
3 年で 960 億円の投資は、営業利益の合計を大きく上回る。純有利子負債は 339 億円で、増える方向にある。借り換えの金利が上がる局面では、利払いが利益を削る。投資の回収が遅れれば、資本効率は資本コストを下回る。
筆頭株主の持ち分が大きい
三井クリエイトが約 3 割を持ち、安定株主が厚い。敵対的な買収は起こりにくい一方、少数株主が資本効率の改善を求める力は弱い。経営の目標が低いまま据え置かれても、外から正す圧力がかかりにくい。
今後の分かれ目
- ハイブリッド車向けに加えて、電気自動車向けのモーターコアの受注が欧米で戻ったら
- 海外工場の稼働が上がり、強気の筋書きの確率を上げてよい。海外拠点の営業利益率が 5% を超えるかを決算で確かめる。
- 中期計画の目標が再び引き下げられたら
- 投資の回収が遅れる証拠とみて、やや悲観・悲観の確率を上げる。設備投資額が絞られたかを見る。
- 米国の関税が自動車部品に広がり、メキシコ工場の採算が悪化したら
- 北米の成長戦略が崩れたとみて、海外拠点の利益率の前提を下げる。
- 中国勢が日系の自動車メーカーの駆動用モーターコアの受注を取ったら
- 高精度の堀が破られたことになり、シェアの前提を大きく下げる。
- 会社が自社株買いや配当性向の引き上げなど、DOE 3% を超える還元を打ち出したら
- 資本効率への意識が変わったと受け止め、ROE の前提と確率を見直す。
- リードフレームの値段の下落が止まり、車載・パワー半導体の需要が回復したら
- 電子部品の利益率の前提を上げる。稼働率と貴金属の転嫁の動きを見る。
見ておくもの
- 半期ごとの電機部品の売上と営業利益率(国内と海外の差)
- メキシコ工場の量産開始(2026 年 7 月予定)と稼働率
- 世界の電動車生産の見通し(ハイブリッド車と電気自動車の内訳)
- 中期計画の財務目標の追加修正と、設備投資額の変化
- リードフレームの受注と、貴金属価格の転嫁の動き
倍率と資本コストの決め方
今の値段は見ずに、電動車の台数(世界 8,000 万台のうち当社の搭載分)と 1 台分あたりの単価から売上を積み、利益率を海外・国内拠点の収益性から置いた。倍率は資本コスト 8.25%(基本 7.5% に品質の上乗せ 1.5%)と、事業の ROE から出した正当化 PER の 9.8 割で、ROE が k をわずかに超える水準なので 1÷k の下限に近い。市場の倍率には合わせていない。数字は 2026 年 1 月期の期ごとの会計基準(家賃を営業費用に入れる形)にそろえた。新リース会計基準(2028 年 1 月期から)で自己資本比率と負債の見かけが変わるが、PER で測る価値は大きく変わらない。結果は今の時価総額を約 3 割下回った。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12→15.25 倍・やや楽観 PER 11.6→14.41 倍・中立 PER 11.2→13.28 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。