結論
IDEC は、工場の押ボタンスイッチや安全スイッチ、リレー、PLC などを作る制御機器メーカーだ。国内の押ボタンスイッチでは 4 割ほどのシェアを持つとされ、安全分野に強い。
筆者の結論は「割高」。事業の質は悪くないが、稼ぐ力に対して今の時価総額が重い。直近の利益率は 8% 台で、中計が掲げる 13% の達成には、価格が通りにくい標準品の比率を下げる必要がある。
成長の柱は安全・防爆と海外だ。海外比率は 67% に達し、中国の自動車・半導体向けと、米国の関税を転嫁した値上げが 2026/03 期の増収を支えた。AGV や協働ロボットで広がる協調安全も、長い目では追い風になる。
弱みは収益力のばらつきだ。過去 10 年の利益率は 5〜17% の間を行き来し、ROE の中央値は 7% 台にとどまる。配当は純利益のほぼ全額で、自社株買いに回す余力は小さい。
本質価値は、10 年で利益率が 10% 台に乗る姿を中心に置いた。そこから逆算すると、今の値段は計画どおりの好調まで織り込んでいる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、IDEC は「悪くない会社だが、安全域のある値段ではない」と見る。
良い点は、安全規格に守られた製品群と、国内での高いシェアだ。人命に関わる機器は、顧客が安さだけで替えにくい。財務も堅く、倒産の心配は小さい。
気になる点は、稼ぐ力の低さだ。過去 10 年の ROE は中央値で 7% 台、資本コストの 8% に届かない年が多い。利益のほとんどを配当に回しても、利益そのものが増えないと、株主のものになる利益は伸びない。
今の経営は、ようやく動き出したと見る。拠点集約と事業整理で、利益率が 13% に向かう道は確かにある。ただ、数字で示されるまでは、途中までしか織り込まない。
オーナーとして持ち続けたいかと問われれば、利益率が 12% を超え、ROE が 10% を超える姿が見えてからだと答える。そこに届く確率は半分に満たず、届いても今の値段に収まる。
何で稼ぐ会社か
IDEC は 1945 年創業の制御機器メーカーで、売上の 67% が海外だ。製品は、人が機械を操作する部分(スイッチ、表示灯、HMI)と、機械を止める部分(安全スイッチ、安全リレー)、制御する部分(PLC、リレー、センサー)に分かれる。
HMI 事業の中心は産業用スイッチで、押ボタンやパネルの仕様が細かく、顧客の機械設計に組み込まれると替えにくい。安全・防爆事業は、イネーブルスイッチやレーザースキャナーなど、人を守る機器だ。インダストリアルコンポーネンツは制御用リレーが主力で、中国と北米で伸びた。オートメーション&センシングは PLC が中心で、OEM 向けの在庫調整で落ちた。
顧客は工作機械、半導体装置、自動車、建設機械、食品機械のメーカーだ。販売は代理店経由が多く、流通在庫の増減で四半期の業績が振れやすい。製造は日本、台湾、シンガポールなどで行い、中計で国内拠点の集約と台湾工場の電子製造拠点化を進めている。
2025 年には太陽光発電事業を譲渡し、ファインバブル事業も手放した。本業の制御機器に絞り込む動きだ。米国ではメキシコの新拠点を立ち上げ、関税の影響を抑えようとしている。
優良さと弱いところ
優良さは「中の上」とみる。強みは安全規格に通った製品群と、国内の押ボタンスイッチの高いシェアだ。安全機器は認証の手間が参入の壁になり、顧客が機械の設計図に組み込むと、他社品へ替えにくい。
それでも堀は強いとまでは言えない。スイッチやリレーなど標準品は、中国・台湾の同業が追い上げやすく、キーエンスのような直販型の価格決定力はない。粗利率は 44% と高めだが、販管費が 36% を占め、営業利益率は 8% 台にとどまる。
資本効率は物足りない。過去 10 年の ROE は中央値で 7% 台、最悪の 2025/03 期は 2.8% だった。自己資本比率は 61% で財務は堅いが、現金は厚くなく、純負債が 75 億円ある。配当は純利益のほぼ全額で、自社株買いは直近 3 期ほぼ無い。
経営は構造改革に本気で取り組んでいる。早期退職の募集、拠点集約、事業の切り離しと、手はかなり打った。ただ、その成果は利益率の改善として数字に出てから評価したい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
FA(工場の自動化)市場は、中国の自動車・半導体投資、北米と欧州の人手不足対応に支えられて、10 年では年 3〜4% で伸びる。ただし景気の波は大きく、2009 年、2013 年、2020 年の設備投資の落ち込みでは受注が大きく減った。
制御機器の競合は、国際大手のシュナイダー、ロックウェル、オムロン、パナソニック、そして中国の地場メーカーだ。押ボタンスイッチやリレーなど標準品は、中国・台湾勢が品質を上げて価格を下げており、IDEC の弱い所になる。一方、安全分野は規格と認証が壁になり、価格競争が緩い。
追い風は協調安全の広がりだ。AGV、AMR、協働ロボットが工場に入るほど、人と機械の境目で安全機器が要る。中計はここを重点領域に置き、新製品の比率を 15% 以上にする目標を掲げる。
向かい風は為替と関税だ。2026/03 期は円安と米国での価格転嫁が売上を押し上げたが、これは続かない。欧州の景気低迷も重しで、2026/03 期は EMEA の伸びが一桁にとどまった。
筆者は、FA 需要そのものより、標準品の値決めと在庫の波が IDEC の利益を決めると見ている。市場が伸びても、利益率が上がるとは限らない。
資本政策と M&A
還元は配当が中心だ。年 38 億円ほどの配当を維持しているが、配当性向は 99% で、利益の伸びが追いついていない。直近 3 期の自社株買いはほぼゼロで、中計の 3 年間の還元 120 億円は、配当の継続が前提だ。
お金の使い道は、営業 CF の 400 億円を、設備 90、成長投資 100(M&A と新拠点)、R&D 90、DX 25、還元 120 に回す計画だ。M&A は米国の売上を 5 年で 5 割増やす手段として検討している。過去の買収は小ぶりで、大型案件の経験は乏しい。
政策保有株は、取締役会で合理性を検証し、意味のない株は売る方針だ。縮減額の数字までは確認できていない。
なお、2027/03 期の純利益計画 60 億円には、米国の旧本社の土地と建物の売却益 39 億円が入っている。一度きりの利益で、本来の稼ぐ力ではない。他社に買われる可能性は、時価総額が 1,100 億円台と小ぶりで、東証が資本効率を求める流れもあるため、ゼロではない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
中計の初年度である 2026/03 期は、営業利益が 67% 増え、利益率は計画の 6.9% を上回る 8.4% に達した。粗利率は 44% から 46% 台へ向かい、拠点集約で原価も下がる。受注と受注残は中国と米州で伸びており、日本でも半導体装置向けが立ち上がった。
安全・防爆は 15% 近い伸びで、人手不足と省人化が続く限り、需要は途切れにくい。AGV や協働ロボットに伴う協調安全は、IDEC が長年磨いてきた領域そのものだ。新製品の比率を 15% にする目標も、全社の価格調整力を高める。
米国は関税の転嫁が通り、メキシコ拠点も立ち上がる。海外比率は 67% でまだ伸びしろがあり、M&A で売上の 5 割増を狙える。時価総額が小さく、中計 1 年目で数字が出ているため、利益率 13% の達成は十分に現実的だ。これが実現すれば、営業利益は 100 億円に乗り、ROE も 10% を超える。
慎重な見方
過去 10 年の営業利益率は 5〜17% の間を行き来し、中央値は 8% 台だ。2023/03 期の 16.8% は流通在庫の積み増しが生んだ山で、翌期には 8.6% に戻った。2026/03 期の 8.4% が、実力の水準に近い。
中計の 13% を支える増益要因の多くは、売上増による粗利の増加と価格調整だ。しかし標準品の価格は中国・台湾勢に押され、関税の転嫁も一度きりの効果にとどまる。販管費は人材投資と基幹システムの減価償却で増え、粗利率の改善を食っていく。
配当性向は 99% で、利益が伸びない限り増配も自社株買いも出せない。2027/03 期の純利益 60 億円は、土地の売却益 39 億円で膨らんでいる。本来の純利益は 20 億円台で、今の時価総額に対して稼ぎが小さすぎる。
流通在庫の調整が一巡した後は、需要が平常に戻るだけだ。構造改革の費用を払った割に、利益率が 10% を超えるかどうかも怪しい。
どちらに重みを置いたか
2026/03 期の利益率の改善は本物で、事業の質に対する強気の見方は一部正しい。一方、過去 10 年の利益率の振れと、標準品の価格競争の弱さについては、慎重な見方に説得力がある。
中立は、利益率が 10.5% に乗る姿に置いた。中計の 13% は届かないが、過去の中央値 8% よりは上、という落としどころだ。確率は、構造改革の効果が見えた分を、やや楽観側の厚みにした。同時に、標準品の価格攻勢は現実的なので、やや悲観にも楽観より重い確率を置いた。
結論として、中立でも今の時価総額には届かない。成功すればそれなりに伸びるが、その成功を前提にした値段に近い、というのが落としどころだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,394 円1,006 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,414 円419 億円)。 今の値に割り戻すと 2,534 円751 億円、今との差 −28.7%、 期待の年率 +3.1%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 7,182 円2,129 億円 | 2,024 円600 億円 | +159.0% | +10.0% | 737 円218 億円 |
| やや楽観 | 22% | 5,294 円1,569 億円 | 1,754 円520 億円 | +98.3% | +7.1% | 1,551 円460 億円 |
| 中立 | 32% | 3,554 円1,054 億円 | 1,484 円440 億円 | +41.7% | +3.5% | 1,612 円478 億円 |
| やや悲観 | 26% | 1,633 円484 億円 | 1,113 円330 億円 | −22.8% | −2.5% | 714 円212 億円 |
| 悲観 | 12% | 776 円230 億円 | 843 円250 億円 | −54.5% | −7.6% | 194 円58 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,394 円1,006 億円 | 1,414 円419 億円 | +35.2% | +3.1% | 4,808 円1,425 億円 |
今の株価時価総額 3,555 円1,054 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 安全と自動化の需要を取り込み、利益率が計画を超える 利益 137 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 7,182 円2,129 億円
協調安全の考え方が工場に広がり、イネーブルスイッチ、安全リレー、レーザースキャナーの組み合わせ売りが定着する。AGV や協働ロボットの現場では、非常停止からコントローラーまで一式で採用される。米国は買収も使って売上が大きく伸び、海外比率は 70% に近づく。
新製品の比率が 15% を超え、価格調整も通る。営業利益率は 14% で安定し、中計の 13% を超える。拠点集約と台湾工場の電子化で原価も下がる。
配当は増やしながら、自社株買いも少額ずつ入る。ただ、10 年で数量が 1.5 倍を超えるのは、需要の追い風と買収の成功が重なった時だけだ。
- 国内事業(日本向け):数量 500(国内の出荷数量(万個、推定))× 価格 0.70(1 個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 350 億円・営業利益 49 億円。500 万個 × 0.700 万円(今の 1.40 倍)、営業利益率 14.0%
- 海外事業(米州・欧州・アジア):数量 1,381(海外の出荷数量(万個、推定))× 価格 0.77(1 個あたり平均単価(万円・名目、1 ドル 150 円))→ 売上 1,063 億円・営業利益 149 億円。1381 万個 × 0.770 万円(今の 1.40 倍)、営業利益率 14.0%
倍率:事業の純利益 137 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍。全体の PER 15.54 倍、時価総額 2,129 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の利益率 13% 超を何年も保ち、米国の売上も大きく伸ばす連続成功が要る。実績の乏しい M&A も絡むので厚くは置けない。
やや楽観 22% 中計の利益率にほぼ届き、海外が伸びる 利益 108 億円 · PER 14.5 倍 · 株価時価総額 5,294 円1,569 億円
構造改革が実を結び、粗利率は 46% 台へ上がる。国内の製造拠点の集約が終わり、固定費が下がる。営業利益率は 12.5% まで上がり、中計の 13% には少し届かない。
海外は中国の自動車・半導体向けと、米国の関税を転嫁した値上げで伸びる。数量は 1.4 倍、価格は物価並みに上がる。安全・防爆は 2 桁で伸びる時期が続く。
M&A は米国で小さな案件を数件こなす程度に収まる。配当性向は 6 割台に下がるが、配当額は守る。成長と還元が両立する、いちばん収まりのよい好調の姿だ。売上は 1,250 億円規模、安全・防爆の比率が上がり、新製品が全体の利益率を押し上げる。
- 国内事業(日本向け):数量 485(国内の出荷数量(万個、推定))× 価格 0.69(1 個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 332 億円・営業利益 42 億円。485 万個 × 0.685 万円(今の 1.37 倍)、営業利益率 12.5%
- 海外事業(米州・欧州・アジア):数量 1,247(海外の出荷数量(万個、推定))× 価格 0.75(1 個あたり平均単価(万円・名目、1 ドル 150 円))→ 売上 940 億円・営業利益 118 億円。1247 万個 × 0.754 万円(今の 1.37 倍)、営業利益率 12.5%
倍率:事業の純利益 108 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.5 倍。全体の PER 14.53 倍、時価総額 1,569 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の目標は高めだが、2026/03 期は利益率が計画を上回った。構造改革の効果が出る道筋は見えており、実績の延長として置ける。
中立 32% 利益率は 10% 台に乗るが、中計の目標には届かない 利益 80 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 3,554 円1,054 億円
市場は年 3〜4% で伸び、IDEC は同じペースで成長する。国内は人口減で数量が横ばい、海外は 1.25 倍に増える。価格は物価並みに上がる。
営業利益率は 10.5% に落ち着く。粗利率の改善は、販管費の増加(人材投資、基幹システムの減価償却)にかなり食われる。中計の 13% は、新製品比率と価格調整の両方がうまく行った場合の数字だと見る。
配当は年 38 億円前後を保ち、自社株買いは小さい。M&A は成長投資の枠で動くが、大きな買収はしない。売上は 1,100 億円台で、当たり前の優良中堅として 10 年を終える。
- 国内事業(日本向け):数量 470(国内の出荷数量(万個、推定))× 価格 0.67(1 個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 315 億円・営業利益 33 億円。470 万個 × 0.670 万円(今の 1.34 倍)、営業利益率 10.5%
- 海外事業(米州・欧州・アジア):数量 1,114(海外の出荷数量(万個、推定))× 価格 0.74(1 個あたり平均単価(万円・名目、1 ドル 150 円))→ 売上 821 億円・営業利益 86 億円。1114 万個 × 0.737 万円(今の 1.34 倍)、営業利益率 10.5%
倍率:事業の純利益 80 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍。全体の PER 13.17 倍、時価総額 1,054 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:FA の需要は伸びるが、スイッチやリレーは価格が上がりにくく、中計の利益率 13% は届かないというのが筆者の見立て。過去 10 年の利益率の高値は 16.8% で、この 8 年の平均は 9% 前後。
やや悲観 26% 中国勢と関税に押され、海外の数量が伸びない 利益 44 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 1,633 円484 億円
中国の地場メーカーが標準品の価格を下げ、海外の数量は横ばいにとどまる。米国の関税は転嫁しきれず、価格は物価に届かない。国内は人口減で数量が 1 割弱減る。
新製品の効果は出るが、販管費の増加で相殺される。営業利益率は 7.5% で、過去 10 年の中央値 8% 前後に戻る。構造改革の費用だけが残る形だ。
配当は守るのが苦しくなる。利益に対して配当が重く、増配はできず、減配も視野に入る。事業は続くが、グローバル企業への変身は看板倒れに終わる。売上は 900 億円台にとどまり、中計の 770 億円は通過点にすぎなかったことになる。
- 国内事業(日本向け):数量 440(国内の出荷数量(万個、推定))× 価格 0.65(1 個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 286 億円・営業利益 21 億円。440 万個 × 0.650 万円(今の 1.30 倍)、営業利益率 7.5%
- 海外事業(米州・欧州・アジア):数量 891(海外の出荷数量(万個、推定))× 価格 0.70(1 個あたり平均単価(万円・名目、1 ドル 150 円))→ 売上 627 億円・営業利益 47 億円。891 万個 × 0.704 万円(今の 1.28 倍)、営業利益率 7.5%
倍率:ROE 5.8% は k 8.0% を下回る。稼ぐ力(事業の純利益÷k=約 12.5 倍相当)を上限とし、低成長の企業として 11 倍に置いた。今の自己資本 693 億円に対する PBR は約 0.70 倍で、中立の PBR 1.1 倍より低い。
確率:スイッチ、リレー、センサーは中国・台湾勢の価格攻勢を受けやすい。2024/03 期以降、利益率が 5〜8% に沈んだ実績もあり、このまま低迷が続く道は現実的。
悲観 12% 標準品の価格破壊が進み、利益が薄い部品メーカーに戻る 利益 22 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 776 円230 億円
中国・台湾の同業が品質を上げて、欧米の流通網にも入り込む。IDEC の標準スイッチ、リレー、PLC は値引きを強いられ、価格は物価の半分しか上がらない。海外の数量は 15% 減る。
米国での成長投資と欧州の再編が空振りに終わり、拠点の再編費用がかさむ。安全・防爆は踏みとどまるが、全体を支えるほどの規模はない。
営業利益率は 4.5% で、過去に赤字を出した 2002 年・2010 年に近い水準になる。配当は大きく削られ、事業を買われる側に回る道(TOB)も出てくる。売上は 750 億円前後で、10 年たっても今と同じ規模のまま、稼ぐ力だけが細る。
- 国内事業(日本向け):数量 400(国内の出荷数量(万個、推定))× 価格 0.60(1 個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 240 億円・営業利益 11 億円。400 万個 × 0.600 万円(今の 1.20 倍)、営業利益率 4.5%
- 海外事業(米州・欧州・アジア):数量 760(海外の出荷数量(万個、推定))× 価格 0.66(1 個あたり平均単価(万円・名目、1 ドル 150 円))→ 売上 502 億円・営業利益 23 億円。760 万個 × 0.660 万円(今の 1.20 倍)、営業利益率 4.5%
倍率:悲観の純利益 22 億円は ROE 3.4% で、ためた利益は額面未満の価値しかない。やや悲観の時価総額÷純利益 11.0 倍より悲観ほど低く置くので、その約 95% の 10.4 倍(時価総額 229.9 億円)とした(稼ぐ力 純利益÷k も超えない)。自己資本の厚さや市場の倍率は根拠にしない。
確率:押ボタンやリレーなど標準品が主力で、代替が効く。中国勢が品質を上げて欧米にも出れば、2002 年・2010 年のように赤字が出る展開もありうる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内事業(日本向け)
日本国内向けの押ボタンスイッチ・安全機器・リレー・PLC などの売上。国内の押ボタンスイッチは高いシェアを持つ。
| 数量国内の出荷数量(万個、推定) | 価格1 個あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 480 | 0.50 | 240 | 24 |
| 10 年後 中立 | 470 | 0.67 | 315 | 33 |
取り方:売上 729 億円のうち日本向けを海外比率 67.1% の残り約 240 億円とした。数千円のスイッチ・リレーから数万円の PLC・HMI までの平均単価を約 0.5 万円と推定し、約 480 万個に分けた。数量は実質、物価の分と製品の高度化は単価に入れる。地域別の営業利益は開示がなく、国内の利益率を 10% と推定した。
海外事業(米州・欧州・アジア)
米州・EMEA・アジア向けの売上。中国の自動車・半導体と米国の関税転嫁値上げが伸びを支えた。
| 数量海外の出荷数量(万個、推定) | 価格1 個あたり平均単価(万円・名目、1 ドル 150 円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 891 | 0.55 | 490 | 37 |
| 10 年後 中立 | 1,114 | 0.74 | 821 | 86 |
取り方:海外売上は全体の 67.1% で約 490 億円。安全機器・PLC・APEM 製品の比率が国内より高いとみて平均単価を約 0.55 万円と推定し、約 891 万個に分けた。数量は実質で、物価と為替の分は単価に入れる。営業利益は全社 61 億円から国内分を引いた残りで、海外の販管費の重さから利益率は約 7.6% と推定した。
リスクと懸念
標準品の価格競争
押ボタンスイッチ・リレー・センサーは、中国・台湾の同業が品質を上げて価格を下げている。標準品が売上の大きな部分を占める IDEC は、値引きを強いられると利益率が戻りにくい。中計の 13% の前提である価格調整も通りにくくなる。
設備投資の景気と流通在庫
主な販売先は工作機械・半導体装置・自動車のメーカーで、設備投資に連動して受注が振れる。代理店経由の販売が多く、流通在庫の積み増しと取り崩しで四半期の業績が揺れる。2023/03 期の 16.8% から 2025/03 期の 5.4% までの落差が実例だ。
米国の関税と為替
2026/03 期は米国の追加関税を販売価格に転嫁できたが、これは一度きりの効果だ。今期の計画は関税の影響を半年分しか織り込んでいない。ドル・ユーロの円安が戻ると、売上と利益の両方を押し下げる。
構造改革の実行と費用
国内製造拠点の集約、台湾工場の電子化、米国・メキシコの新拠点、欧州の再編と、同時に大きな変更が進む。早期退職の特別損失は約 14 億円出た。集約が遅れると、固定費が下がらないまま費用だけが残る。
M&A の失敗
米国の売上を 5 年で 5 割増やすために M&A を検討しているが、IDEC は大型の買収経験が乏しい。成長投資の枠 100 億円で買収を急ぐと、割高な値段で買う恐れがある。時価総額の 1 割近い金額で、失敗の傷は小さくない。
配当と自社株買いの余力の小ささ
配当性向が 99% で、利益が減れば配当を守るのが苦しくなる。自社株買いは直近 3 期ほぼ無く、資本効率の改善を株主に還元で示す余力に乏しい。ROE が 10% に届かないままだと、投資家の目も厳しくなる。
今後の分かれ目
- 営業利益率が 2 年続けて 11% を超えたら
- 中計の 13% が見えてくる。楽観・やや楽観の確率を上げ、中立の利益率を 12% 台に引き上げて考える。
- 営業利益率が 8% を割り込む期が出たら
- 構造改革の成果が出ていない。やや悲観の確率を厚くし、配当を守れるかを点検する。
- 米国で売上 100 億円規模の M&A を発表したら
- 買収価格と利益率を点検する。割高なら筋書きをやや悲観に寄せ、小ぶりで利益率が高ければ米国の数量を上げる。
- 中国・台湾の同業が欧米の大手流通網に標準スイッチを入れ始めたら
- 価格決定力の侵食が始まったとみて、価格の上がり方を物価より低く置き、悲観の確率を上げる。
- 自社株買いを数十億円規模で始めるか、配当性向の目標を引き下げたら
- 資本効率を変える意思の表れで、ROE の改善が見込める。ただ利益が増えない限り、価値の増加は小さい。
- 他社による買収提案(TOB)が出たら
- 価格が中立の価値を上回るかが分かれ目になる。時価総額が小さく、買われる側の可能性はある。
見ておくもの
- 営業利益率(四半期ごと。9.5% の計画を上回れるか)
- 粗利率の推移(46% 台に乗るか)
- 安全・防爆の売上の伸び(協調安全の効果)
- 米国の受注残と関税の転嫁の続き
- 配当性向と自社株買いの実施の有無
倍率と資本コストの決め方
倍率は式だけで置いた。k=基本 7.5%+quality 0.5%=8.0%、g は 4.0%(k−g≧3.5% を守る)、中立の ROE 8.9% から RONIC=k+1/2×(ROE−k)=8.5%、正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=13.2 倍。ROE が k を少し上回る程度なので、下限の 1÷k=12.5 倍に置いた。今の PER や過去の PBR は使っていない。今の株価が 2 倍でも半分でも筋書きは変わらない。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)を上限に、倍率をやや悲観の約95%に置いた。過去の倍率や自己資本の厚さは根拠にしていない。新リース会計基準(2028/03 期から BS に載る)で営業利益は少し増え、純負債が増えるが、10 年後の数字は今と同じ家賃を費用に入れた形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.4→15.54 倍・やや楽観 PER 13.2→14.53 倍・中立 PER 12.5→13.17 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。