結論
PHCホールディングスは、血糖測定器、診療所の電子カルテ、病理用機器と超低温冷凍庫を手がける医療機器の会社だ。パナソニックの医療部門から独立し、KKRの下で買収を重ねて今の形になった。筆者の結論は、やや割高である。一番の理由は、稼ぎ頭の血糖測定が長く細っていくことに加え、借金が重いことだ。
血糖測定は営業利益率が約20%と高いが、患者は連続血糖測定(CGM)へ移り、試験紙の本数は減っていく。この穴を電子カルテと病理が埋める筋書きだが、どちらも利益率が低く、埋めるのは遅い。
次に借金だ。純有利子負債は時価総額を上回る。借り換えのたびに金利が上がるので、営業利益の伸びの多くが利息に消える。今期の純利益予想154億円が、10年後も200億円前後にとどまるというのが、筆者の中立の見立てである。
明るい材料もある。CGM事業を手放したことで赤字が消えた。電子カルテは国が2030年の普及を掲げる追い風を受けている。2026年10月には東邦HDが買収を検討し、9日に検討を終えた。大株主のKKRが持ち分を手放す局面で、持ち手が変わる余地は残っている。
それでも、利益が利息とのれんの償却に削られる構造は、10年では変わらない。強気の筋書きでも時価総額は今の約2.8倍で、実現の確率は小さい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、PHCは持ち続けたい会社の条件に届かない。
理由の第1は、稼ぎ頭の寿命だ。血糖測定は今は高い利益を出すが、市場そのものが縮む。10年後も同じ強さで利益を生むとは言えず、先を読みにくい。
第2は、株主に残る利益の薄さだ。営業利益はのれんの償却と利息、税で大きく削られる。買収で膨らんだ事業を、借金で支える形が続く。借金が重い会社は、判断を誤った時の傷が深い。
第3は、資本の使い方だ。CGMは自前で育てようとして手放し、損失を出した。次に何に資金を回すか、経営の規律が見えにくい。
一方で、悪くない点もある。電子カルテは乗り換えにくく、国の方針が追い風になる。冷凍庫も地位が高い。借金を減らし、血糖測定の利益を守れれば、事業の安定感は増す。
安全域の面では、10年後の中立の価値でも、今の値段を支えきれない。強気の筋書きが実現して初めて、今の値段に見合う。買収の思惑で値が動く会社だが、本質価値は思惑とは別に決まる。
何で稼ぐ会社か
PHCは3つの事業の束だ。売上は3,644億円で、血糖測定が約3割、残りを電子カルテなどと病理・研究機器がほぼ半分ずつ分ける。
稼ぎの中心は糖尿病マネジメント、つまり血糖測定器と試験紙のアセンシアだ。独バイエルから買った事業で、薬局などの店頭で買われる全国ブランドの首位級にある。測定器を安く売り、試験紙で稼ぐ消耗品の商売で、営業利益率は19.8%に達する。CGMの事業は、2026年に米国のセンセオニクス社へ移した。
ヘルスケアソリューションは、診療所向け電子カルテのウィーメックスが軸だ。診療所の電子カルテで金額ベースの首位、顧客は5万軒を超える。ここに臨床検査と治験受託のメディフォードが加わる。営業利益率は4.9%と低い。電子処方箋の売上減や、検査部門の認定取り消しの影響が出た。
診断・ライフサイエンスは、病理事業のエプレディア、超低温冷凍庫を作る旧バイオメディカ、診断薬からなる。冷凍庫は国内1位、世界2位とされる。営業利益率は3.0%。米国の関税で約10億円、本社機能の見直しで12億円の負担があった。
つまり、利益の大半を血糖測定が生み、ほか2つは売上の大きい割に稼ぎが薄い。この偏りが、PHCを読む時の出発点になる。
優良さと弱いところ
堀は部分的にしかない。強い所と弱い所がはっきり分かれる。
強いのは3つある。1つ目は血糖測定の店頭ブランドだ。薬局で選ばれる全国ブランドの首位級にあり、米国の調査でも顧客の推奨度は首位とされる。2つ目は電子カルテで、5万軒超の診療所が使うので、他社への乗り換えが面倒だ。3つ目は超低温冷凍庫で、国内1位・世界2位と自社が示す。
弱いのは、ここから先の成長を担う部分だ。血糖測定は市場そのものが縮み、価格帯が低い方へ動いている。病理は低価格メーカーが参入して、値上げが通りにくい。治験受託は認定取り消しの影響から回復の途中にある。
資本効率は低い。過去8年の自己資本利益率の中央値は3.9%で、資本コストに届いていない。買収でできたのれんと、CGMの失敗の損失が重い。2026年3月期の純利益は5億円まで落ちた。
経営は、事業の組み替えに動いている。CGMの切り離し、電子カルテ会社の統合、血糖測定の利益率改善など、中期経営計画2027で打ち手は並ぶ。ただ、買収に頼った過去の資本の使い方は、バリュー投資の目では評価が分かれる。堀の広さより、重い荷物を下ろせるかが焦点だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
3つの事業は、それぞれ違う市場で戦っている。
血糖測定は、先進国で縮む市場だ。糖尿病の患者は増えているが、指先を刺す測定から、センサーで常に測るCGMへ移っている。会社も、高価格帯の市場が縮み、低価格帯が伸びるので平均価格は下がるとみている。米国では、インフレと医療費抑制の圧力も重なる。ここで勝つ道は、縮む市場で利益率を守ることだけだ。
電子カルテは追い風の市場だ。国は2030年に医療機関の電子カルテ普及を100%にする方針を掲げる。未導入の医療機関は全国に4万件を超え、新築ではクラウド版が選ばれる。ただ、競合が多く、診療報酬の抑制もあり、価格は強気に出にくい。
病理と研究機器は、世界の市場が年4%ほど伸びるとされる。ただ、低価格メーカーの参入で価格競争は強まっている。エプレディアは、組織を処理する装置、デジタル病理、印字機器を成長の軸に置き、デジタル病理ではAIの提携も進める。超低温冷凍庫は、細胞・遺伝子治療の広がりが需要を押し上げる。
業種のノートが言うとおり、医療機器は景気に左右されにくい。その一方で、診療報酬の改定や中国・新興国メーカーの追い上げという、制度と競争のリスクがある。PHCは、国内医療に偏った日本光電やフクダ電子とも、検査試薬で稼ぐシスメックスとも違い、縮む市場と伸びる市場を同時に抱えている。
資本政策と M&A
資本政策の一番の論点は、重い借金と大株主の出口だ。
純有利子負債は1,947億円で、時価総額を上回る。自己資本比率は約30%だ。営業利益は支払利息の1.4倍しかない。借り換えで金利が上がる10年先まで、利息が利益を削り続ける。
還元は控えめだ。配当は年間約53億円で、今期の純利益予想の3分の1ほどにとどまる。借金の返済が優先される。
買収では、バイエルの糖尿病事業の取り込みが大きい。CGMは自社で育てようとして、結局センセオニクス社へ移した。買い手としての実績は、評価が分かれる。
持ち手の変化は、今いちばん動きがある所だ。KKR系のファンドが37.9%を持つ筆頭株主で、パナソニックは4.6%まで持ち分を下げた。2026年9月30日の報道を受け、10月1日に東邦HDが買収を検討していると認め、PHCも初期の提案を受けたと公表した。報道では買収額は2,000億円超だった。東邦HDは9日に検討を終えたが、理由は明かしていない。大株主の売り出口を探す動きは、続くと考えるのが自然だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
血糖測定の利益は、まだ当分は守れる。薬局店頭の全国ブランドで首位級を保ち、米国の顧客の推奨度も首位にある。市場が縮んでも、利益率を守る施策が効き、利益率は19.8%まで上がった。CGMの赤字は切り離しで消え、これからは血糖測定の利益が全社の底を支える。電子カルテは、国が2030年の普及100%を掲げており、未導入の医療機関が4万件以上残る。クラウド版への切り替えで単価も上がる。診療所の乗り換えは面倒で、一度入れば長く使われる。病理事業は市場が年4%伸び、デジタル病理とAIの提携で伸びしろがある。超低温冷凍庫は世界2位で、細胞・遺伝子治療の広がりに乗る。今期の営業利益予想は270億円で、会社の計画どおりに進めば純利益は1.5倍に戻る。借金は利益で少しずつ減り、利息の負担も軽くなる。KKRが持ち分を売る局面では、東邦HDのような買い手が現れ、買収の値段がつく。2000億円超という報道の値段は、今の時価総額を上回っていた。事業の組み替えが進めば、10年後の価値は今の値段を超える。
慎重な見方
血糖測定の細りは、会社の見立てより速い。会社自身が、高価格帯の市場の縮みと低価格化を認めており、売上は2027年度まで年3%ずつ減る計画だ。CGMは世界で標準になり、指先で測る方法はますます使われなくなる。利益率19.8%という数字は、縮む市場から搾り取った結果であり、続く保証はない。電子カルテと病理は、売上が大きい割に利益率が5%と3%にとどまる。会社が掲げる利益率の改善が、10年の中で本当に実現するかは未知数だ。病理は低価格メーカーが入り、関税の負担も出た。治験受託は認定取り消しの傷が残る。借金はさらに重い。純有利子負債は時価総額を上回り、営業利益が支払利息の1.4倍しかない。借り換えで金利が上がれば、営業利益が増えても純利益はほとんど増えない。のれんの償却も続く。2026年3月期の純利益は5億円まで落ち、2022年3月期から3期続けて赤字だった。CGMで自社開発に失敗した経営が、次の組み替えをうまくやれる保証はない。東邦HDの買収は検討終了に終わり、買い手の存在は、値段が付くことの保証ではなかった。
どちらに重みを置いたか
血糖測定の利益と電子カルテの追い風には強気の主張に分がある。だが、血糖測定が構造的に縮むことと、借金が利益を削ることは、10年では変わらない。慎重な見方の方が強いと判断し、確率は中立に最も厚く置いたうえで、やや悲観と悲観をあわせて35%とし、楽観側の27%を上回らせた。借金が重い分だけ、悪い筋書きでは株主の取り分が急に薄くなる。買収の思惑は確率に入れていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,721 円2,188 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 507 円645 億円)。 今の値に割り戻すと 1,017 円1,292 億円、今との差 −22.9%、 期待の年率 +5.4%(資本コスト 9.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 3,987 円5,067 億円 | 865 円1,100 億円 | +267.9% | +13.9% | 340 円432 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,752 円3,498 億円 | 708 円900 億円 | +162.3% | +10.1% | 692 円880 億円 |
| 中立 | 38% | 1,869 円2,376 億円 | 551 円700 億円 | +83.4% | +6.3% | 919 円1,169 億円 |
| やや悲観 | 23% | 625 円794 億円 | 354 円450 億円 | −25.8% | −2.9% | 225 円286 億円 |
| 悲観 | 12% | 318 円404 億円 | 118 円150 億円 | −67.0% | −10.5% | 52 円66 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,721 円2,188 億円 | 507 円645 億円 | +69.0% | +5.4% | 2,228 円2,833 億円 |
今の株価時価総額 1,319 円1,677 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 血糖測定の細りが緩み、診断・電子カルテが伸びる 利益 392 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 3,987 円5,067 億円
CGMへの移行が思ったより遅く、血糖測定の本数は10年で15%ほどの減少にとどまる。米国での高価格帯の維持が利いて、利益率は19%を保つ。電子カルテは国の普及計画に乗って診療所の導入が進み、クラウド版への切り替えで単価も上がる。病理事業は組織処理装置とデジタル病理が伸び、低価格メーカーに奪われる分を新製品の単価が埋める。超低温冷凍庫は細胞・遺伝子治療向けの需要で世界2位の地位を固める。利益が借金を速く減らすので利息の負担が軽くなり、純利益は今期予想の2.5倍に育つ。KKRの持ち分は市場で売られ、株主の顔ぶれは入れ替わる。
- 糖尿病マネジメント(血糖測定):数量 34.0(自社の血糖測定の試験紙の販売本数(億本))× 価格 31(1本あたりの売上(円)=為替・価格帯・ブランドの値段)→ 売上 1,056 億円・営業利益 201 億円。本数は緩やかな減少、単価は米国で維持
- ヘルスケアソリューション(電子カルテ・臨床検査・治験受託):数量 23,000(国内の医療IT・臨床検査・治験受託の対象市場(億円、実質))× 価格 9.2%(市場1億円あたりの売上(億円)=シェア×値段の指数)→ 売上 2,111 億円・営業利益 190 億円。市場は微増、シェアも上がり単価はクラウド化で上昇
- 診断・ライフサイエンス(病理・冷凍庫・診断薬):数量 111(病理・研究機器・診断薬の対象市場(億ドル、実質、推定))× 価格 21(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×値段の指数)→ 売上 2,276 億円・営業利益 273 億円。世界の病理・冷凍庫市場の伸びとシェア上昇
倍率:事業の純利益 392 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.2% が k 9.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.0 倍。全体の PER 12.05 倍、時価総額 4,724 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:血糖測定の減り方が緩く、電子カルテも病理も伸び、借金も早く減る。条件が10年そろい続ける必要があるので7%にとどめた。
やや楽観 20% 血糖測定は緩やかに細り、電子カルテと病理が穴を埋める 利益 279 億円 · PER 11.3 倍 · 株価時価総額 2,752 円3,498 億円
血糖測定は年に3%ほどのペースで本数が減るが、低価格品への移行を高価格のブランドで受け止め、利益率は18%を保つ。電子カルテは新築のクラウド版が伸び、薬局向けの薬歴サービスも続く。臨床検査と治験受託は認定の問題から立ち直る。病理は市場並みに伸び、利益率が1桁後半まで戻る。本社費の削減と関税の影響の一巡で、営業利益は今期予想の1.7倍になる。借金は少しずつ減り、純利益は280億円ほどになる。ロシュなど欧米の大手との直接の競争は避け、日本の診療所、世界の研究機関という得意な場に絞る。血糖測定の単価は低価格品の増加で物価並みには上がらないが、電子カルテは価格を保つ。病理は単価が市場の物価上昇を下回る。
- 糖尿病マネジメント(血糖測定):数量 32.0(自社の血糖測定の試験紙の販売本数(億本))× 価格 30(1本あたりの売上(円)=為替・価格帯・ブランドの値段)→ 売上 950 億円・営業利益 171 億円。本数は年3%減、単価は低価格品への移行を相殺
- ヘルスケアソリューション(電子カルテ・臨床検査・治験受託):数量 22,400(国内の医療IT・臨床検査・治験受託の対象市場(億円、実質))× 価格 8.2%(市場1億円あたりの売上(億円)=シェア×値段の指数)→ 売上 1,841 億円・営業利益 147 億円。市場は実質で増え、シェアは横ばいから微増
- 診断・ライフサイエンス(病理・冷凍庫・診断薬):数量 107(病理・研究機器・診断薬の対象市場(億ドル、実質、推定))× 価格 19(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×値段の指数)→ 売上 2,056 億円・営業利益 206 億円。病理は市場並みの伸び
倍率:事業の純利益 279 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.6% が k 9.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.3 倍。全体の PER 11.3 倍、時価総額 3,153 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:計画どおりに事業の組み替えが進む筋書きで蓋然性が高い。ただし血糖測定の減り方の読みに幅があるので、中立より低く置いた。
中立 38% 血糖測定が細り続け、利益は借金の利息に削られる 利益 196 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 1,869 円2,376 億円
血糖測定は年3%ほどのペースで本数が減り、10年で3割弱が消える。低価格品への移行で単価の伸びは物価に届かず、利益率は17%に下がる。電子カルテは政策の追い風で伸びるが、診療報酬の抑制が単価を押さえ、病理は低価格メーカーの参入で値上げが通りにくい。会社が示す利益率の改善は半分ほどしか実現しない。借金は利益と配当後の余りで少しずつ減るが、借り換えで金利が上がり、営業利益の伸びを利息が食う。営業利益は350億円ほど、純利益は200億円弱で、今期予想から3割増える程度にとどまる。病理も単価の伸びは物価を下回り、10年で2割台の上昇にとどまる。血糖測定は低価格品への移行で単価が10年でほぼ横ばいになる。会社の計画は買収や追加投資を前提にしておらず、新しい事業に資金を回さない形が続く。
- 糖尿病マネジメント(血糖測定):数量 30.0(自社の血糖測定の試験紙の販売本数(億本))× 価格 28(1本あたりの売上(円)=為替・価格帯・ブランドの値段)→ 売上 851 億円・営業利益 145 億円。本数は年3%減、単価は低価格品への移行で物価を下回る伸び
- ヘルスケアソリューション(電子カルテ・臨床検査・治験受託):数量 22,000(国内の医療IT・臨床検査・治験受託の対象市場(億円、実質))× 価格 8.0%(市場1億円あたりの売上(億円)=シェア×値段の指数)→ 売上 1,766 億円・営業利益 124 億円。電子カルテの普及と治験・検査の伸び、診療報酬の抑制
- 診断・ライフサイエンス(病理・冷凍庫・診断薬):数量 104(病理・研究機器・診断薬の対象市場(億ドル、実質、推定))× 価格 19(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×値段の指数)→ 売上 1,956 億円・営業利益 157 億円。病理・冷凍庫市場は実質年2%増、価格競争で単価は物価未満
倍率:事業の純利益 196 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 9.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.5 倍。全体の PER 10.53 倍、時価総額 2,064 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:血糖測定の減少、電子カルテの成長、病理の価格競争がそれぞれ中程度に出る、最も蓋然性の高い筋書き。借金の重さは強気にも慎重にも寄せず、確率はこの筋書きに最も厚く置いた。
やや悲観 23% CGMへの移行が加速し、病理も価格競争で稼げなくなる 利益 72 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 625 円794 億円
CGMの普及が想定より速く、血糖測定の本数は10年で3分の1以上減る。高価格帯の市場が消え、単価は名目でも下がる。電子カルテは大手に押され、シェアを守る代わりに値引きを重ねる。病理は低価格メーカーに押されて値上げが止まり、利益率は5%台に落ちる。借金はあまり減らず、借り換えで金利だけが上がるので、営業利益200億円弱の大半が利息と税に消える。配当は続くが水準を下げ、借金返済を優先する。病理の単価は物価に追いつかず、10年で1割台の上昇しか見込めない。血糖測定は低価格品の比率が高まり、単価が10年で1割弱下がる。診療所向けの電子カルテも、診療報酬が据え置かれ、値上げの余地は小さい。
- 糖尿病マネジメント(血糖測定):数量 26.0(自社の血糖測定の試験紙の販売本数(億本))× 価格 26(1本あたりの売上(円)=為替・価格帯・ブランドの値段)→ 売上 667 億円・営業利益 93 億円。本数は大きく減り単価は名目でも下落
- ヘルスケアソリューション(電子カルテ・臨床検査・治験受託):数量 21,000(国内の医療IT・臨床検査・治験受託の対象市場(億円、実質))× 価格 7.6%(市場1億円あたりの売上(億円)=シェア×値段の指数)→ 売上 1,591 億円・営業利益 80 億円。市場の伸びはあるが値引きでシェアを守る
- 診断・ライフサイエンス(病理・冷凍庫・診断薬):数量 97.8(病理・研究機器・診断薬の対象市場(億ドル、実質、推定))× 価格 18(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×値段の指数)→ 売上 1,770 億円・営業利益 97 億円。価格競争が強まり単価が伸びない
倍率:事業のROEは3%台でk 9.5%を大きく下回り、ためた利益は額面未満。稼ぐ力(純利益÷k)から、上限1÷k=11.8倍の7割に満たない8.0倍に置いた。借金が重く、営業利益のわずかな変化が純利益に大きく響く。
確率:血糖測定の減少が速まり、借金の利息が重くのしかかる構造的な負けの入り口。会社自身が市場縮小と低価格化を認めているので、四分の一弱に置いた。
悲観 12% 構造的な負け:血糖測定が崩れ、資産の売却に追い込まれる 利益 −80 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 318 円404 億円
血糖測定は本数が半分に減り、単価も下がって、利益率は1桁にとどまる。電子カルテと治験・検査は大手との値下げ競争に巻き込まれ、利益率は2%に低下する。病理も低価格品に押される。営業利益はほぼゼロになり、借り換えの金利が5%を超えて、純損益は赤字に落ちる。のれんの大きな減損で自己資本は半分以下に縮む。株主還元は止まり、事業の一部を売って借金を返す。手元に残るのは、事業の売却価値から借金を引いた分だけだ。病理の単価は10年で名目でも横ばいにとどまり、血糖測定は単価が2割以上下がる。大株主の持ち分は売られ、経営の統治も揺らぐ。PHCは事業ごとの売却を進め、残るのは中核の一部だけになる。
- 糖尿病マネジメント(血糖測定):数量 20.0(自社の血糖測定の試験紙の販売本数(億本))× 価格 23(1本あたりの売上(円)=為替・価格帯・ブランドの値段)→ 売上 459 億円・営業利益 37 億円。本数は半減、単価は名目で下落
- ヘルスケアソリューション(電子カルテ・臨床検査・治験受託):数量 20,000(国内の医療IT・臨床検査・治験受託の対象市場(億円、実質))× 価格 6.8%(市場1億円あたりの売上(億円)=シェア×値段の指数)→ 売上 1,350 億円・営業利益 27 億円。値下げ競争で利益が出ない
- 診断・ライフサイエンス(病理・冷凍庫・診断薬):数量 85.0(病理・研究機器・診断薬の対象市場(億ドル、実質、推定))× 価格 16(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×値段の指数)→ 売上 1,346 億円・営業利益 27 億円。価格競争で利益が出ない
倍率:稼ぐ力は赤字で、床は売れる資産の税後から純負債を引いた分。今の自己資本1,617億円に0.25を掛け、約400億円とした。市場の倍率は使っていない。営業利益がほぼゼロなので、EV÷営業利益(約2,300億円÷20億円)は意味を持たず、EVは売却価値の約2,300億円と見ている。
確率:CGM移行・低価格メーカーの攻勢・診療報酬の抑制が同時に進み、借金の返済が重くなる負けの筋書き。2024/03期に営業利益が16億円まで落ちた実績があり、1割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
糖尿病マネジメント(血糖測定)
アセンシアの血糖測定器と試験紙。薬局など一般店頭で全国ブランドの首位級。CGMは売却した。
| 数量自社の血糖測定の試験紙の販売本数(億本) | 価格1本あたりの売上(円)=為替・価格帯・ブランドの値段 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 27 | 1,080 | 214 |
| 10 年後 中立 | 30.0 | 28 | 851 | 145 |
取り方:売上は全社の約3割(1,080億円)、営業利益率19.8%。本数は開示が無いので、売上から逆算して40億本と推定。先進国の市場は縮み、低価格品へ移っている。
ヘルスケアソリューション(電子カルテ・臨床検査・治験受託)
診療所向け電子カルテのウィーメックス、臨床検査、治験受託のメディフォード。
| 数量国内の医療IT・臨床検査・治験受託の対象市場(億円、実質) | 価格市場1億円あたりの売上(億円)=シェア×値段の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20,000 | 6.4% | 1,284 | 63 |
| 10 年後 中立 | 22,000 | 8.0% | 1,766 | 124 |
取り方:売上は全社の35.2%(約1,283億円)、営業利益率4.9%。対象市場を実質2兆円と推定し、シェア約6.4%から逆算した。
診断・ライフサイエンス(病理・冷凍庫・診断薬)
病理事業のエプレディア、超低温冷凍庫などの研究機器、診断薬。
| 数量病理・研究機器・診断薬の対象市場(億ドル、実質、推定) | 価格市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×値段の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 85.0 | 15 | 1,283 | 38 |
| 10 年後 中立 | 104 | 19 | 1,956 | 157 |
取り方:売上は全社の35.2%(約1,283億円)、営業利益率3.0%(関税約10億円と本社機能見直し12億円が重かった)。対象市場を実質85億ドルと推定し、シェア約10%から逆算した。
リスクと懸念
血糖測定がCGMに置き換わる速さ
利益の大半を生む血糖測定は、先進国で市場が縮み、価格帯も低い方へ動いている。会社の計画でも売上は年3%減る。CGMの普及が速まれば、利益の屋台骨が想定より早く細り、全社の利益が大きく崩れる。
借金の重さと借り換えの金利
純有利子負債は時価総額を上回り、営業利益は支払利息の1.4倍と薄い。借り換えで金利が上がれば、営業利益が増えても純利益が増えにくい。景気や信用の悪化で借り換え条件が厳しくなる懸念もある。
のれんの減損と買収の失敗
買収を重ねてきたため、のれんなどの無形資産が大きい。2026年3月期は減損などで純利益が5億円まで落ちた。CGMの自社展開は失敗に終わった。今後も事業の価値が想定を下回れば、追加の減損が出る。
病理事業の価格競争と関税
病理では低価格メーカーの参入で値上げが通りにくい。米国の関税は約10億円の負担になり、一部は還付で戻っているが、今後の制度の変更で再び重くなる可能性がある。利益率が3%と低く、少しの悪化でも利益が消える。
診療報酬と国内医療政策
電子カルテ・臨床検査・治験受託は国内の医療制度に依存する。診療報酬の抑制や電子処方箋の使われ方の変化は、売上と利益率を押し下げる。国の普及方針が追い風になる一方、補助金の終わりは需要の山を作りやすい。
治験受託・臨床検査の品質問題
臨床検査部門でISO認定が取り消され、治験を中心に受注が減った。信頼の回復には時間がかかり、競合に顧客を奪われる恐れが残る。人手の確保と体制の刷新が追いつくかも問われる。
大株主の売却と買収をめぐる不確実性
KKR系が37.9%を持つ筆頭株主で、出口をいずれ探す。2026年10月の東邦HDによる買収検討は検討終了となった。大株主の売り出しは需給を悪化させ、買収が決まっても条件や相手が価値に見合う保証はない。
今後の分かれ目
- 血糖測定の売上が前年比で2期続けて3%を超えて減る
- CGMへの移行が速いことの裏付けになり、やや悲観の筋書きの確率が上がる。
- 血糖測定の利益率が20%を保ったまま、米国の単価が下がらない
- 縮む市場でも利益率を守れる証拠になり、中立からやや楽観の確率が上がる。
- 営業利益が会社予想の270億円を上回り、純有利子負債が毎年減り続ける
- 借金の重さが解消へ向かう証拠で、中立の純利益が上振れし、やや楽観の確率が上がる。
- のれんなどの追加減損や、新たな買収の失敗が出る
- 資本の使い方への疑問が強まり、悲観側の確率が上がる。
- KKRなど大株主が持ち分を大きく売り出す、または新たな買収提案が出る
- 短期では需給が動くが、本質価値は変わらない。買収の条件が事業の稼ぐ力に見合うかを別に確かめる。
- 電子カルテの新規導入件数が伸び、クラウド版の売上が増える
- 診療所の囲い込みが進む証拠で、ヘルスケアソリューションの利益率が上がり、楽観側の確率が上がる。
見ておくもの
- 血糖測定の売上の前年比と、米国での単価の動き
- 営業利益270億円(2027/03期予想)と、中期経営計画2027の利益率改善の進み方
- 純有利子負債と利払いの推移、借り換えの条件
- 診断・ライフサイエンスの利益率(関税・価格改定の効果)
- KKRなど大株主の持ち分の動きと、買収提案の再燃
- 電子カルテの導入件数と、クラウド版への切り替え
- 治験受託・臨床検査の受注(ISO認定の問題からの回復)
倍率と資本コストの決め方
先に3つのドメインを数量と値段で積み、事業のROEと資本コスト9.5%(基本7.5%に借金+0.75%などの+1.0%)から倍率を決めた。中立はROEがk以下なので、上限1÷kの9割(10.5倍)に置いた。今の株価や同業の倍率は見ていない。東邦HDの買収報道(2000億円超)は確定した事実でなく検討終了も出たため、筋書きには入れず確率の背景にとどめた。IFRSの数字は今と同じ形で10年後も置いた(リースは今のIFRSのまま)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.3→12.05 倍・やや楽観 PER 11.2→11.3 倍・中立 PER 10.5→10.53 倍)。
資本コスト 9.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。