結論
能美防災は、火災報知機と消火設備をつくり、工事をし、点検まで受け持つ防災の専業だ。ホーチキと並ぶ国内の二大手で、セコムが過半の株を持つ。2026年3月期は売上1,397億円、営業利益183億円と、どちらも過去最高だった。
筆者の結論は「やや割高」だ。事業は堅い。ただ今の値段は、最高益の利益率が10年続くことを前提にしている。直近の営業利益率13%は、過去10年の中央値の10.8%をかなり上回る。
堅さの源は三つある。消防法が定期点検を義務にしていること。ビルの改修需要が厚いこと。受注残が915億円と、1年分を超えていることだ。値上げも4年続けて通っている。
弱みは人だ。工事の人手が足りず、外注費が上がっている。保守点検の利益は、すでに前期を割った。2026年に買った明星電気(気象観測・宇宙防衛機器)の統合も、会社自身が体制不足を認めている。
中立の筋書きでは、10年後の営業利益率は11.6%に落ち着く。市場は人口減で量が伸びず、値段は物価並みに上がる。それでも自己資本が着実に積み上がる、普通に良い会社だ。純現金は346億円あるが、成長投資の原資になるので別枠にはしていない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、能美は「分かりやすい事業を、堅く守っている会社」だ。10年後も防災設備は必要で、消防法の点検義務は残る。予測できる事業という点で合格だ。
オーナーとして気になるのは、稼いだ利益が株主の手に戻るかどうかだ。配当性向50%は合格点。ただ、買収と工場に今後4年で440億円超を使う計画があり、その投資が資本コストを上回る稼ぎを生むかは、まだ見えない。大きな買収を、会社自身が「統合体制が足りない」と語っている点は、安全域を削る材料だ。
堀については、規制と信用が支える「やや強い堀」と見る。最高益の利益率が続くとは考えにくい。人手不足と外注費が、確実に利益を削る。
それでも、純現金が厚く、10年間赤字が無い会社は、悲観の筋書きでも下値が見える。問題は、安全域が今の値段にあるかどうかだ。最高益を前提にした値段には、安全域が薄い。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ方は三段ある。まず機器と工事。ビルに火災報知設備を入れ、スプリンクラーなどの消火設備を据える。次に点検。消防法でビルの持ち主は年2回の点検が必須で、これが毎年の安定収入になる。最後に補修と更新。古くなった設備を新しくする工事だ。
2026年3月期の売上は、火災報知設備510億円、消火設備469億円、保守点検等367億円、その他50億円。利益の柱は消火設備で、プラントなど特殊な物件に強い。
親会社のセコムには、火災報知機器をOEMで納めている。つまり、能美は工事会社であると同時に、感知器や受信機をつくるメーカーでもある。自社で工場を持つことが、同業との差になっている。
2026年2月にIHI子会社の明星電気を買い、気象観測と宇宙防衛の機器が加わった。同じ年に、石川の消防設備点検会社セフトも傘下に入れた。ステージⅢの初年度だけで4件の買収だ。会社は4年で440億円以上を成長投資に使う計画を持つ。
メヌマ工場には総額77億円を投じ、火災報知機器の製造設備を増やす。工期は2027年10月までだ。
優良さと弱いところ
能美の優良さは、規制に守られた必需品を、メーカーと施工と点検の三つで握っているところにある。防災設備は建築基準法と消防法で設置と点検が決まる。ビルの持ち主は安さだけで選べず、実績と信用のある会社が残る。
数字にも出ている。営業利益率は過去10年で8%台から13%まで動いたが、赤字の期は一度もない。純現金も10年間ずっと厚い。1979年3月期以降、特別配当を除いて減配していないと会社は言う。
ただし堀は「強い」とまでは言えない。ホーチキという同格の相手がいて、大型の入札では値段で競る。ゼネコンや設計事務所の力も強い。
筆者が気にしているのは三点だ。第一に、人手不足。工事の担い手がいなければ、受注残があっても売上にならない。第二に、親子上場。セコムは52%を持ち、少数株主の利益と必ずしも一致しない。第三に、資格の不正取得。グループ内で監理技術者などの資格を不正に取っていた件で、会社は再発防止を進めていると語った。防災は信用の事業だから、この傷は軽くない。
ROEは9.8%。資本コストの7%は上回るが、突き抜けた水準ではない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の防災設備の市場は、新築の量が景気で動き、改修と点検が土台を支える二層の構造だ。新築は建設投資に連動して波がある。一方、点検と改修は、設置済みの設備の数と古さで決まる。日本のビルは古くなる一方なので、この土台は10年先も消えない。
競争は、火災報知でホーチキと能美が二強、ニッタンが続く。消火は専業のアンスルや日本ドライケミカルのほか、総合電機の防災部門も競う。点検は小さな会社が多数あり、分散している。
今の追い風は三つある。改修の需要。プラントやデータセンターなど特殊物件の消火設備。そして物価と人件費の上昇を、値上げで通せる環境だ。能美は2026年4月に、4年続けて価格改定をした。
逆風は人手と外注費だ。工事の担い手は全国で減っている。外注費が上がる分を値上げで取り返せるうちは良いが、取り返せなくなれば利益率が下がる。
人口が減るので、設備の量そのものは伸びない。10年で市場の量は0.95〜1.05倍の範囲が普通で、伸びを置くには理由がいる。避難所運営のアプリや、クラウド型の防災支援のような新しい分野は、芽が出たばかりだ。
資本政策と M&A
還元は厚くなっている。2026年3月期は配当性向50%を打ち出し、前期から大きく増配した。2027年3月期は純利益が少し減る見込みでも、配当は据え置く。自社株買いは「選択肢の一つ」と書かれているが、額も時期も無い。
資金の使い道は、買収と工場だ。ステージⅢの4年で440億円以上を成長投資に回す。メヌマ工場に77億円。明星電気の取得は大きな買収だった。会社自身が、買収後の統合の体制が足りないと認めている。
政策保有株は、上場29銘柄で約60億円と小さい。含み益に頼る会社ではない。
最大の論点は親会社のセコムだ。52%を持ち、能美の火災報知機器の買い手でもある。セコムが完全子会社化に動く可能性は、ゼロではない。ただし、そうなっても本質価値は変わらない。この分析は、買収価格の上乗せを前提にしていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
防火の規制は強まる方向で、古いビルの改修は10年続く。受注残は915億円と過去最高で、1年分を超える。値上げは4年連続で通っており、人件費の上昇を価格に転嫁できる力がある。
メーカーと施工と点検を一社で持つので、改修の相談を丸ごと受けられる。ホーチキと並ぶ二強の地位は、設備士の数と全国の拠点で固まっており、新規参入は難しい。
財務は純現金で、10年間赤字が無い。配当性向は50%に上げ、前期から大きく増配した。メヌマ工場の増設で供給力も上がる。明星電気は気象観測と宇宙防衛という、これまで持たなかった技術を持ち込み、屋内の防災に屋外が加わる。
会社の目標は、営業利益率12%以上、ROE10%以上。すでに到達しており、受注残の厚みを考えれば、この水準を守るのは難しくない。親会社のセコムが安定した買い手であることも、事業の土台を固めている。
人手の問題も、会社は手を打っている。2026年3月期の採用は6割がキャリア採用で、即戦力を利益率の高い改修の工事に配置する方針だ。グループの従業員は1年で約13%増えた。工事の担い手を自前で育てられる会社が、結局は市場の取り分を広げる。
慎重な見方
最高益の利益率は、続かない。2026年3月期の営業利益率13.1%は、過去10年の中央値10.8%を大きく上回る。直近の増益は、値上げと改修の需要が重なった結果で、山の水準だ。
保守点検は、受注も売上も最高なのに、利益は前期を割った。外注費が上がり、採算の低い工事が増えているからだ。会社は2027年3月期の火災報知と消火で、利益率の低下を見込んでいる。人手不足は構造の問題で、値上げで取り返せる保証は無い。
明星電気の買収は、ステージⅢの初年度に4件ある買収の中でも大きい。会社自身が統合の体制の不足を認めている。資格の不正取得という不祥事も、信用の事業には重い。
ROEは10%に届かず、資本コストの7%を少し上回るだけだ。そのうえ、ステージⅢで440億円超の投資を計画している。稼ぐ力に見合う値段は、今よりかなり低い。
加えて、親会社が過半を握る会社には、少数株主が口を挟みにくい面がある。投資の判断が、能美の稼ぐ力よりセコムグループの都合で決まる場面も出てくる。成長投資の440億円超が、資本コストを上回る稼ぎを生む保証はない。
どちらに重みを置いたか
事業の堅さと、規制に守られた土台の強さでは、強気の見方が正しい。一方、今の値段が最高益の利益率を前提にしている点では、慎重な見方の指摘が強い。確率は中立に最も厚く置き、人手と外注費に削られる筋書きを、強気の筋書きの倍以上に置いた。
ただし悲観は、必需品の事業で赤字になりにくく、親会社と純現金が支える。そのため深い悲観の確率は低めにとどめた。結果は「やや割高」で、事業が悪いのではなく、値段が先に進んでいるという判断だ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,333 円2,550 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,351 円795 億円)。 今の値に割り戻すと 3,229 円1,901 億円、今との差 −25.2%、 期待の年率 +2.8%(資本コスト 6.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 7,542 円4,439 億円 | 1,813 円1,067 億円 | +116.8% | +8.0% | 935 円551 億円 |
| やや楽観 | 20% | 6,147 円3,618 億円 | 1,587 円934 億円 | +79.2% | +6.0% | 1,547 円910 億円 |
| 中立 | 34% | 5,024 円2,958 億円 | 1,400 円824 億円 | +48.9% | +4.1% | 2,184 円1,286 億円 |
| やや悲観 | 24% | 2,324 円1,368 億円 | 1,126 円663 億円 | −20.0% | −2.2% | 828 円487 億円 |
| 悲観 | 12% | 691 円407 億円 | 883 円520 億円 | −63.5% | −9.6% | 189 円111 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,333 円2,550 億円 | 1,351 円795 億円 | +31.7% | +2.8% | 5,684 円3,345 億円 |
今の株価時価総額 4,315 円2,540 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 規制と更新の波に乗り、防災の総合力で地位を固める 利益 245 億円 · PER 18.1 倍 · 株価時価総額 7,542 円4,439 億円
防火の規制は強まる一方で、古いビルの改修が 10 年途切れずに続く。能美は火災報知と消火の両方を持つので、改修の相談を丸ごと受けられる。値上げは物価を超えて通り、保守契約も増える。明星電気の気象観測と宇宙防衛の機器は、能美の販売網に乗って伸びる。人手は採用と協力会社の囲い込みで確保でき、利益率は今の高さを保つ。セコムとの関係も安定し、配当性向 50% を保ったまま、自社株買いも加わる。そうして内需の優良企業として、市場から長く評価される 10 年になる。人手の確保で他社に差をつけるのが、この筋書きの鍵だ。
- 火災報知設備:数量 2,750(国内の火災報知設備の市場規模(億円・今の値段で測った実質)× 能美のシェア)× 価格 29.5%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 811 億円・営業利益 162 億円。市場 2,750 億円(実質)× 取り分 22.0%、営業利益率 20%
- 消火設備:数量 3,500(国内の消火設備工事の市場規模(億円・実質)× 能美のシェア)× 価格 22.1%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 774 億円・営業利益 170 億円。市場 3,500 億円(実質)× 取り分 16.5%、営業利益率 22%
- 保守点検等:数量 6,100(国内の消防設備の点検・補修市場(億円・実質)× 能美のシェア)× 価格 9.6%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 589 億円・営業利益 124 億円。市場 6,100 億円(実質)× 取り分 7.2%、営業利益率 21%
- その他(気象・宇宙防衛機器・海外・防犯ほか):数量 5,600(気象・防災観測、宇宙防衛機器、海外などの対象市場(億円・実質)× 能美の取り分)× 価格 0.08(市場 1 億円あたりの売上(億円)=取り分 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 450 億円・営業利益 50 億円。市場 5,600 億円(実質)× 取り分 6.0%、営業利益率 11%
倍率:事業の純利益 245 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.0% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.1 倍。全体の PER 18.12 倍、時価総額 4,439 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:改修需要の波が長く続き、人手不足の中でも値上げが通り続ける必要がある。明星電気の統合もうまくいく前提で、条件が多いので低めに置く。
やや楽観 20% 改修需要と値上げが定着し、最高益圏が続く 利益 210 億円 · PER 17.2 倍 · 株価時価総額 6,147 円3,618 億円
改修需要と更新需要が続き、受注残の厚みが数年先の売上を支える。値上げは物価並みを少し超えて通る。消火設備はプラントやデータセンターなどの特殊物件で伸びる。保守点検は件数が増えるが、外注費の上昇で利益率は横ばいにとどまる。明星電気は統合が進み、その他の事業が一つの柱になる。利益率は中期計画の目標である 12% 前後を、おおむね守る。配当性向 50% は続き、ROE は 10% 近くまで上がる。人手不足は続くが、キャリア採用で即戦力を改修の工事に回せるので、取り残される心配は小さい。新築が弱い年があっても、改修と点検が売上の土台を保つ。
- 火災報知設備:数量 2,650(国内の火災報知設備の市場規模(億円・今の値段で測った実質)× 能美のシェア)× 価格 28.8%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 763 億円・営業利益 145 億円。市場 2,650 億円(実質)× 取り分 21.5%、営業利益率 19%
- 消火設備:数量 3,350(国内の消火設備工事の市場規模(億円・実質)× 能美のシェア)× 価格 21.2%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 709 億円・営業利益 152 億円。市場 3,350 億円(実質)× 取り分 15.8%、営業利益率 22%
- 保守点検等:数量 5,950(国内の消防設備の点検・補修市場(億円・実質)× 能美のシェア)× 価格 9.2%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 550 億円・営業利益 113 億円。市場 5,950 億円(実質)× 取り分 6.9%、営業利益率 20%
- その他(気象・宇宙防衛機器・海外・防犯ほか):数量 5,400(気象・防災観測、宇宙防衛機器、海外などの対象市場(億円・実質)× 能美の取り分)× 価格 0.07(市場 1 億円あたりの売上(億円)=取り分 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 362 億円・営業利益 36 億円。市場 5,400 億円(実質)× 取り分 5.0%、営業利益率 10%
倍率:事業の純利益 210 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.2 倍。全体の PER 17.23 倍、時価総額 3,618 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注残が 9 百億円規模と厚く、4 年連続の価格改定が通っている。中期計画の 12% 超の利益率がほぼ守られる筋書きで、十分ありうる。
中立 34% 普通に強い内需の優良企業として落ち着く 利益 181 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 5,024 円2,958 億円
10 年後も能美は、国内の防災設備でホーチキと並ぶ二大手として残る。市場の量は人口減で伸びないが、改修と更新の需要がそれを支える。値段は物価並みに上がり、取り分は少し増える程度だ。工事の人手不足は続き、外注費が利益率の上限を押さえる。明星電気は事業として定着するが、利益率は防災本体より低い。利益率は直近の最高圏から 11〜12% に落ち着き、配当性向 50% で自己資本の厚さが緩やかに増していく。急成長はないが、赤字もない。ROE は資本コストをわずかに上回る水準で、事業の堅さが自己資本の増加に変わっていく。
- 火災報知設備:数量 2,600(国内の火災報知設備の市場規模(億円・今の値段で測った実質)× 能美のシェア)× 価格 27.5%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 714 億円・営業利益 132 億円。市場 2,600 億円(実質)× 取り分 20.5%、営業利益率 18%
- 消火設備:数量 3,200(国内の消火設備工事の市場規模(億円・実質)× 能美のシェア)× 価格 20.1%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 643 億円・営業利益 135 億円。市場 3,200 億円(実質)× 取り分 15.0%、営業利益率 21%
- 保守点検等:数量 5,850(国内の消防設備の点検・補修市場(億円・実質)× 能美のシェア)× 価格 8.7%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 510 億円・営業利益 102 億円。市場 5,850 億円(実質)× 取り分 6.5%、営業利益率 20%
- その他(気象・宇宙防衛機器・海外・防犯ほか):数量 5,200(気象・防災観測、宇宙防衛機器、海外などの対象市場(億円・実質)× 能美の取り分)× 価格 0.06(市場 1 億円あたりの売上(億円)=取り分 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 300 億円・営業利益 27 億円。市場 5,200 億円(実質)× 取り分 4.3%、営業利益率 9%
倍率:事業の純利益 181 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.3 倍。全体の PER 16.34 倍、時価総額 2,958 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:内需で規制に守られ、市場の量は大きく動かない。値上げは物価並みで、利益率は過去 10 年の中央値の上、直近の最高益の下に落ち着く。最も確からしい筋書き。
やや悲観 24% 人手と外注費に利益を削られる 利益 119 億円 · PER 11.5 倍 · 株価時価総額 2,324 円1,368 億円
建設の人手不足が続き、協力会社の外注費が物価を上回って上がる。値上げは進むが、入札や大型物件では通らない場面が増える。保守点検は低採算の工事が混ざり、利益率が落ちる。消火設備はプラント投資が一巡して受注が細り、改修の需要も天井に近づく。明星電気の統合には手間取り、その他の利益は薄いままだ。事業が崩れるわけではないが、直近の高い利益率は戻らず、ROE は資本コストを下回る 6% 前後にとどまる。新築が弱い年は工事の稼働が落ち、固定の人件費が重くなる。保守契約の解約は少なく、売上は物価並みに伸びるが、利益は伸びない。会社は成長投資を続けるものの、新しい領域の収益化は遅れ、配当性向 50% を守るのが精いっぱいになる。
- 火災報知設備:数量 2,450(国内の火災報知設備の市場規模(億円・今の値段で測った実質)× 能美のシェア)× 価格 26.1%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 640 億円・営業利益 102 億円。市場 2,450 億円(実質)× 取り分 19.5%、営業利益率 16%
- 消火設備:数量 2,950(国内の消火設備工事の市場規模(億円・実質)× 能美のシェア)× 価格 19.4%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 573 億円・営業利益 100 億円。市場 2,950 億円(実質)× 取り分 14.5%、営業利益率 18%
- 保守点検等:数量 5,750(国内の消防設備の点検・補修市場(億円・実質)× 能美のシェア)× 価格 8.4%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 485 億円・営業利益 85 億円。市場 5,750 億円(実質)× 取り分 6.3%、営業利益率 18%
- その他(気象・宇宙防衛機器・海外・防犯ほか):数量 5,000(気象・防災観測、宇宙防衛機器、海外などの対象市場(億円・実質)× 能美の取り分)× 価格 0.05(市場 1 億円あたりの売上(億円)=取り分 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 255 億円・営業利益 15 億円。市場 5,000 億円(実質)× 取り分 3.8%、営業利益率 6%
倍率:ROE 6.0% は k 6.75% に届かず、ためた利益は額面未満の価値。稼ぐ力の上限 1÷k=14.3 倍の 8 割(11.5 倍)を置いた。
確率:工事の人手不足と外注費の上昇は構造的で、価格転嫁が遅れる年が重なる可能性が高い。直近の利益率は 10 年で最高圏にあり、元に近づく筋書きの確率を厚めに置く。
悲観 12% 信用の傷と価格競争で堀が薄れる消火設備は特殊物件の波に乗り、受注残の積み上がりが数年先まで見通しを支える。保守点検の件数は伸びるが、点検員の確保が上限になり、利益の伸びは売上より緩やかだ。設備士の資格を持つ人を増やせるかが、この筋書きの分かれ目になる。受注残の厚みが、値上げが通る間の安心材料になる。 利益 37 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 691 円407 億円
資格の不正取得など不祥事が重なり、発注者の信頼が傷つく。行政処分で受注の制限を受け、大手ゼネコンとの取引で値引きを迫られる。同業のホーチキやニッタンが、その隙にシェアを取る。工事の人手は流出して施工が回らず、遅れが違約につながる。買収した明星電気ののれんの減損も出る。防災という必需の事業であり、保守契約が残るので赤字にはならないが、利益は大きく細り、優良企業という評価が外れる。それでも配当は、利益が落ちる中で減らさざるをえない。明星電気への投資の回収は見えなくなり、成長投資の計画は縮む。親会社のセコムが支えるので存続の心配はないが、市場は能美を、伸びも堀も薄い普通の工事会社として評価するようになる。
- 火災報知設備:数量 2,200(国内の火災報知設備の市場規模(億円・今の値段で測った実質)× 能美のシェア)× 価格 24.1%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 531 億円・営業利益 58 億円。市場 2,200 億円(実質)× 取り分 18.0%、営業利益率 11%
- 消火設備:数量 2,500(国内の消火設備工事の市場規模(億円・実質)× 能美のシェア)× 価格 18.1%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 452 億円・営業利益 54 億円。市場 2,500 億円(実質)× 取り分 13.5%、営業利益率 12%
- 保守点検等:数量 5,500(国内の消防設備の点検・補修市場(億円・実質)× 能美のシェア)× 価格 7.8%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 427 億円・営業利益 56 億円。市場 5,500 億円(実質)× 取り分 5.8%、営業利益率 13%
- その他(気象・宇宙防衛機器・海外・防犯ほか):数量 4,500(気象・防災観測、宇宙防衛機器、海外などの対象市場(億円・実質)× 能美の取り分)× 価格 0.04(市場 1 億円あたりの売上(億円)=取り分 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 181 億円・営業利益 0 億円。市場 4,500 億円(実質)× 取り分 3.0%、営業利益率 0%
倍率:ROE 2% 台で k を大きく下回る。稼ぐ力(純利益÷k)の上限の約 8 割を置き、床の純現金+売れる資産の税後(約 400 億円)と同水準。優良でなくなった後の利益で、市場の値付けは根拠にしない。
確率:不正の発覚や買収の失敗が重なる筋書き。親会社のセコムが支えており、財務も厚いので低く置く。ただし資格不正の再発防止を会社自身が語っており、ゼロにはしない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
火災報知設備
自動火災報知設備・非常放送・感知器と受信機の設計、施工、販売。ビルの新築と改修の両方が対象。
| 数量国内の火災報知設備の市場規模(億円・今の値段で測った実質)× 能美のシェア | 価格市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,550 | 20.0% | 510 | 100 |
| 10 年後 中立 | 2,600 | 27.5% | 714 | 132 |
取り方:国内の火報設備(新築・改修の工事と機器)の市場を約 2,550 億円と推定し、能美の売上 510 億円がその 20% にあたるとした。市場規模は有報・会社資料に開示が無く、競合のホーチキの国内売上と受注残の動きからの推定。市場は実質で測り、物価 3% は価格(シェア × 物価の倍率)に入れる。 全社費など約 109 億円(セグメント利益の合計 292.5 億円と連結営業利益 183.5 億円の差)は調整に入れる。
消火設備
スプリンクラー・ガス系・泡など消火設備の設計と施工。プラント・特殊物件が強い。
| 数量国内の消火設備工事の市場規模(億円・実質)× 能美のシェア | 価格市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,125 | 15.0% | 469 | 108 |
| 10 年後 中立 | 3,200 | 20.1% | 643 | 135 |
取り方:国内の消火設備工事(一般ビルと、プラント・トンネル・データセンターなどの特殊物件)の市場を約 3,125 億円と推定し、能美の売上 469 億円を 15% の取り分とした。アンスル・日本ドライケミカルなどの専業と、ホーチキ・ニッタン・総合電機の防災部門が競う。推定で、開示は無い。
保守点検等
消防法で義務の定期点検、補修・更新工事、保守契約。
| 数量国内の消防設備の点検・補修市場(億円・実質)× 能美のシェア | 価格市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5,830 | 6.3% | 367 | 80 |
| 10 年後 中立 | 5,850 | 8.7% | 510 | 102 |
取り方:国内の消防設備の点検・補修の市場を、専業の点検会社が多数ある分散市場として約 5,830 億円と推定し、能美の売上 367 億円を 6.3% の取り分とした。点検は消防法で年 2 回の義務があり、市場の量は設置済みの設備の数で決まる。推定で、開示は無い。
その他(気象・宇宙防衛機器・海外・防犯ほか)
2026 年 2 月に取り込んだ明星電気(気象観測・宇宙防衛機器)と、海外・防犯など。
| 数量気象・防災観測、宇宙防衛機器、海外などの対象市場(億円・実質)× 能美の取り分 | 価格市場 1 億円あたりの売上(億円)=取り分 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5,000 | 0.01 | 50 | 5 |
| 10 年後 中立 | 5,200 | 0.06 | 300 | 27 |
取り方:明星電気の連結は 2026 年 2 月からで、今の売上 50 億円には 2 か月分しか入っていない。受注残がその他で 106 億円(前期比 7.7 倍)と大きいのは明星電気の分。気象観測・宇宙防衛などの対象市場を約 5,000 億円とみて、今の取り分を 1% とした。10 年の筋書きでは通年の取り込みで取り分が上がる。推定。
リスクと懸念
工事の人手不足と外注費の上昇
工事の担い手は全国で減っている。外注費は物価を上回って上がり、保守点検の利益はすでに前期を割った。値上げで取り返せなければ、利益率は直近の最高圏から確実に下がる。受注残が厚くても、人がいなければ売上にならない。
最高益の利益率が山だった可能性
営業利益率13%は過去10年の中央値を大きく超える。値上げと改修の需要が重なった結果で、会社自身も2027年3月期は火災報知と消火の利益率低下を見込む。山の水準に倍率を掛けると、価値を過大に見る。
明星電気の統合と買収の連続
ステージⅢの初年度に4件の買収。明星電気は気象観測と宇宙防衛という、能美にない技術だ。会社は統合の体制が足りないと語る。うまくいかなければ、のれんの減損と本業の人手の分散が起きる。
資格の不正取得という信用の傷
グループ内で監理技術者などの資格を不正に取得した件で、会社は再発防止を進めていると決算説明で述べた。防災は発注者の信頼が命の事業で、行政処分や取引の制限が出れば、受注に響く。詳細は確かめられていない。
親子上場とセコムへの依存
セコムは52%を持ち、火災報知機器のOEMの買い手でもある。少数株主の利益とセコムの利益が食い違う場面が起こりうる。セコムの発注方針が変われば、機器の売上に影響が出る。
新築の落ち込みと特殊物件の波
新築は建設投資に連動し、消火設備はプラントやデータセンターなどの特殊物件の波に左右される。消火設備の受注残は530億円まで積み上がったが、投資が一巡すれば受注が細るおそれがある。
今後の分かれ目
- 保守点検の利益率が連続して下がり、値上げでも戻らなくなったら
- 中立の筋書きの利益率を下げ、やや悲観に確率を移す。人手と外注費が構造の問題だという証拠になる。
- 火災報知と消火の営業利益率が、2027年3月期の見込みより上で推移したら
- やや楽観に確率を寄せる。値上げが人件費を上回って通っている証拠になる。
- 明星電気の統合が進み、その他の事業が防災本体の利益率に近づいたら
- その他の利益率を上げて、やや楽観の筋書きの確率を上げる。
- 資格の不正取得で行政処分や取引の制限が出たら
- 悲観の筋書きの確率を上げる。防災は信用の事業で、受注の制限は利益に直結する。
- セコムが完全子会社化に動いたら
- 買収価格の上乗せは起こりうるが、本質価値の計算は変えない。少数株主にとっては出口になる。
- 自社株買いが額つきで発表されたら
- 純現金の使い道が株主に向く証拠として、還元の筋書きを見直す。
見ておくもの
- 保守点検等の営業利益率と外注費の動き
- 火災報知・消火の受注残高と、価格改定の継続
- 明星電気の統合の進み具合と、その他の利益率
- 配当性向50%の維持と、自社株買いの有無
- 資格不正取得に関する行政の判断と再発防止の進み
倍率と資本コストの決め方
市場規模とシェアは有報に無く、競合の動きからの推定にした。価格は物価並み(10年1.34倍)に置き、取り分の変化を数量の側に入れた。倍率は資本コスト6.75%と、ROE 8.4%から出る利益ベースの正当化PERの95%(ROEがkを上回るので下限は1÷k=14.3倍)に置き、今の株価のPER約18倍には寄せていない。悲観は、稼ぐ力と、純現金と政策保有株の税引き後(約400億円)の床から置いた。過去の倍率や谷のPBRは使っていない。直近の利益率13%が山かどうかは、過去10年の中央値を物差しにして、中立で11.6%に落とした。賃借料は年5億円程度と小さく、リースの影響は軽いので、数字の形は今と同じに揃えた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.6→18.12 倍・やや楽観 PER 15.5→17.23 倍・中立 PER 14.8→16.34 倍)。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality −0.5%(寿命 −0.5、値決め −0.25、循環 +0.25)を足して k 6.75%。純現金で借金の上乗せは置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.00% → 6.75%。