結論
シライ電子工業は、滋賀県と中国の珠海で、車と家電、産業機器に使うプリント配線板を作る会社だ。プリント配線板とは、電子部品を載せて電気の通り道を作る板のことである。筆者の結論はやや割安である。ただし理由は事業の強さではない。汎用の基板は値段で比べられ、利益の振れが大きい。それでも借金をほぼ返し終え、これから稼ぐ利益の多くが現金として積み上がる。その現金の価値が、今の値段には十分に入っていない。
2023〜2025年は営業利益率8%台の好調が続いた。だが2026/03期は車載の回復の遅れと原材料の高騰で減益になり、今期は会社自身が営業利益の6割減を見込む。配当も35から20へ減らす。
強みは、厚い銅を使う基板や放熱の基板など、電気を多く流す特殊な基板の技術だ。EVの充電器や太陽光のパワコン、蓄電池の需要がそれを支える。一方で主力の両面・多層の基板は、中国と台湾の大きな工場と値段で争う。筆者は、10年の中立でROEが資本コストの7割ほどにとどまるとみる。安全域は厚くない。
事業の稼ぐ力だけで見れば、今の値段はほぼ見合う。割安の幅を広げるには、特殊な基板の比率が上がる証拠か、溜まる現金を株主に戻す決断が要る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、シライ電子工業は「景気の山で安く見える普通の会社」だ。利益の5倍ほどの値段は安く見えるが、その利益は山の年のもので、今期はもう6割減る。利益が大きく振れる会社では、1年の利益で倍率を測ってはいけない。
10年先も事業は残るだろう。電力の基板の需要は増え、特殊な基板の技術はそこで生きる。だが堀、つまり他社がまねできない強みは薄い。汎用の基板は中国と台湾の大きな工場と値段で争い、値決めの力は無い。
オーナーとして持ち続けたいかと問えば、慎重になる。好調な年に借金を返した経営は手堅いが、資本の稼ぎは資本コストに届かない年の方が多い。事業の稼ぐ力だけなら、今の値段はその平凡さにほぼ見合う。上乗せになるのは、借金を返し終えたあとに積み上がる現金だ。
安全域を言うには、もっと安い値段か、電力の基板が利益の柱に育った証拠が要る。好調な年の利益を物差しにせず、谷と山をならした稼ぐ力で値段を見る。それが、この種の会社とつき合う時の基本である。
何で稼ぐ会社か
売上のほぼ全てがプリント配線板だ。両面と多層のリジッド基板、つまり硬い板の基板を、設計から試作、量産、部品の実装まで一貫して受ける。客は車の部品メーカー、家電メーカー、産業機器やEV充電器、太陽光のパワコンのメーカーである。主な納入先には、オムロン、デンソー、東芝、三菱電機などの名が挙がる。
得意なのは特殊な基板だ。厚い銅で大きな電流を流す基板、金属の板で熱を逃がす基板、銅のピンを挿して電気を通す基板などがある。電力を扱う機器が増えるほど、これらの需要は増える。
生産は、滋賀県野洲市と守山市の工場と、中国の珠海の自社工場が担う。中国では持分法の関連会社にも作らせ、2025年にはタイのWELL TEKと提携し、インドに販売会社を作った。日系メーカーの調達がアジアに広がるのに合わせ、その近くで作る体制を整えている。
小さな柱として、基板の外観検査機「VISPER」「VIZERA」を売る事業がある。売上は5億円ほどで、利益はほとんど出ていない。従業員は連結で1,200人ほどで、創業家の資産管理会社が筆頭株主だ。
稼ぎ方は、受注した基板を短い納期で作り分けることだ。多品種で少量の注文が多く、試作から量産までを近くでこなせることが、大手の中国の工場との違いになる。
優良さと弱いところ
優良さは並みより下とみる。基板は車と家電に欠かせないが、汎用の両面・多層の基板は作れる工場が多く、客は値段で選ぶ。シライの値決めの力は弱い。
利益の振れも大きい。過去20年に赤字の期が8回あり、2020/03期の赤字から2025/03期の営業利益率8.8%まで、わずか5年で振れた。今期はまた利益が6割減る見込みだ。これだけ振れる事業に、高い倍率は付けにくい。
良い点もある。特殊な基板の技術は小さな会社なりに厚く、電力を扱う機器の需要をつかんでいる。財務は改善し、純有利子負債は5年で95億円から12億円まで減った。好調な年の利益で借金を返した判断は評価できる。
資本の使い方は平凡だ。配当は利益の4割前後で、自社株買いはほとんど無い。中期経営計画の最終年度の目標は届かない見込みで、計画の精度にも割引が要る。
総じて、技術はあるが値段を決められない、典型的な部品の下請けの形である。
客の顔ぶれは良い。オムロンやデンソーなど品質に厳しい大手と長く取引してきたことは、品質と納期の信頼の証しだ。ただ大手の客ほど値下げの要求も強い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
プリント配線板の市場は、電子機器の数とともに伸びるが、値段の競争がきつい。世界の生産の過半は中国と台湾にあり、大きな工場が安く大量に作る。日本の基板メーカーは、車載や産業機器など品質と供給の安定が問われる分野で生き残ってきた。
需要の構図は変わりつつある。スマホやパソコンの基板は細かい配線の高い技術が要り、日本の中小の出番は少ない。代わりに伸びるのは電力の基板だ。EVの充電器、太陽光のパワコン、蓄電池、データセンターの電源は、大きな電流と熱に耐える基板を要る。ここはシライの得意分野にあたる。
車の基板は、EVと電装化で1台あたりの枚数が増える。ただ日系の車の部品メーカーは、調達を中国やアジアに広げており、日本の工場の値段の不利は大きい。米中の対立と関税は、珠海の工場にとって追い風にも逆風にもなる。
同業の日本シイエムケイやメイコーは、車載の高い技術の基板に寄せて規模を取った。シライは規模で劣る分、特殊な基板と客との近さで勝負する。
基板の材料の銅張積層板や銅箔、金めっきの値段は、世界の市況で決まる。小さな基板メーカーは材料の値上げを先に受け、客への値上げは後になる。この時間差が、利益の振れを大きくする。
まとめると、量は大きく伸びず、値段は物価に届かない市場だ。勝負は、伸びる電力の基板にどれだけ寄せられるかにある。
資本政策と M&A
配当は年1回で、利益に応じて増減する。2026/03期は年35だったが、今期は20に減らす予定だ。自社株買いの実績はほとんど無い。設備投資は年7億円ほどで、減価償却の9億円より少なく、今は設備を絞っている。
借金は銀行4行のシンジケートローンで、財務制限条項が付いている。赤字が続けば条件が厳しくなる点は覚えておきたい。純有利子負債は12億円まで減り、財務は軽い。
筆頭株主は創業家の資産管理会社とみられる白井商事で、13%強を持つ。親会社は無い。基板の業界では再編が続いており、同業や大手の部品メーカーによる買収はありうる。その時は帳簿の価値が目安になる。株主優待は無い。
今の課題は、谷の年に設備をどこまで更新するかだ。
筆者は、溜まる現金の使い道に注目している。借金がほぼ無くなった今、利益の多くは現金として積み上がる。自社株買いに回せば、利益の数倍という値段で株主の取り分を増やせる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
利益の5倍ほどで買える基板メーカーは珍しい。2023〜2025年は営業利益率8%台を続け、その間に純有利子負債を95億円から12億円まで減らした。事業は現金を生み、財務は年々軽くなった。
伸びる需要もつかんでいる。EVの充電器、太陽光のパワコン、蓄電池、データセンターの電源は、大きな電流を流す厚銅の基板や放熱の基板を要る。シライはこれらの特殊な基板を得意とし、家電の受注も好調だ。
アジアへの手も打った。タイのWELL TEKと提携し、インドに販売会社を作った。日系メーカーの調達がアジアに広がっても、その近くで作れる。米中の関税で中国の工場を避ける客が出れば、タイの体制は追い風になる。
今期の減益は一時の谷だ。車載の回復の遅れと原材料の高騰は、数年で値上げと需要の戻りで取り返せる。谷の年の利益で会社の価値を測れば、安く買える。
創業家の会社なので、経営の判断も速い。好調な年に借金を返したように、次の山では還元を厚くする余地もある。
借金を返し終えた今、これからの利益は現金として残る。10年で積み上がる現金だけで、今の値段の半分近くになる。
慎重な見方
利益の5倍は、山の年の利益で測った見かけの数字だ。会社自身が今期の営業利益の6割減を見込み、配当も35から20へ減らす。過去20年に赤字の期が8回ある会社に、山の利益で倍率を掛けてはいけない。
汎用の基板は値段の勝負だ。世界の生産の過半は中国と台湾にあり、大きな工場が安く作る。シライの主力の両面・多層の基板は、その土俵で戦っている。銅と金の値段、電気代と人件費が上がっても、値上げは全部は通らない。
客の調達も移っている。日系の車と家電のメーカーは、基板の調達を中国とアジアに広げる。珠海の工場は米中の対立と関税に振られ、国内の工場は値段で不利だ。
中期経営計画の目標にも届かない。最終年度の営業利益26億円に対し、今期の見込みは9億円に満たない。資本の稼ぎは資本コストを下回る年の方が多く、帳簿の6割という値段は高くも安くもない。
好調な年の利益で測った安さは、景気の山で安く見える会社の典型の罠だ。
溜まる現金も当てにならない。創業家の会社で還元は利益の4割ほど、残りは設備の更新と、いつか来る谷で消える。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方がやや強い。電力の基板の伸びと財務の改善は本物だが、汎用の基板の値段の競争と利益の振れの大きさがそれを打ち消す。山の年の利益で測った安さは割り引き、中立に4割弱、やや悲観と悲観に合わせて4割弱を置いた。特殊な基板の比率が上がる兆しが見えれば楽観側に寄せる。結論がやや割安に出るのは、事業の力より、借金を返し終えた後に溜まる現金の分である。逆に営業利益率が2年続けて3%を割れば、慎重側に寄せる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,030 円156 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 262 円40 億円)。 今の値に割り戻すと 630 円95 億円、今との差 +16.0%、 期待の年率 +9.1%(資本コスト 8.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,417 円365 億円 | 435 円66 億円 | +425.3% | +18.0% | 228 円34 億円 |
| やや楽観 | 20% | 1,650 円249 億円 | 354 円54 億円 | +269.1% | +14.0% | 401 円61 億円 |
| 中立 | 36% | 1,101 円166 億円 | 287 円43 億円 | +155.6% | +9.8% | 500 円75 億円 |
| やや悲観 | 22% | 419 円63 億円 | 199 円30 億円 | +13.7% | +1.3% | 136 円21 億円 |
| 悲観 | 14% | 132 円20 億円 | 66 円10 億円 | −63.4% | −9.6% | 28 円4 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,030 円156 億円 | 262 円40 億円 | +138.0% | +9.1% | 1,292 円195 億円 |
今の株価時価総額 543 円82 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 電力と ASEAN で量が伸び、利益率が山に戻る 利益 24 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 2,417 円365 億円
電力を扱う基板が伸びる筋書きだ。EV の充電器、太陽光のパワコン、蓄電池、データセンターの電源は、大きな電流を流す厚銅の基板と放熱の基板を要る。シライはこの特殊基板を得意とし、量は 10 年で 2 割5分増える。タイの WELL TEK との提携とインドの販売会社で、ASEAN の日系メーカーからの注文も取る。単価は物価に近い分だけ上がり、珠海の工場は省人化で原価を下げる。営業利益率は 2025/03 期の山に近い 8% に戻る。ROE は資本コストを少し上回るが、汎用品の値下げの圧力で、それ以上の上振れは難しい。配当は利益の 3 割5分を出し、残りは設備と現金に回る。
- プリント配線板:数量 89.0(年間の出荷面積(万㎡・推定))× 価格 5.20(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 463 億円・営業利益 37 億円。推定 89 万㎡(今の 1.25 倍)× 1 ㎡ 5.2 万円(1.30 倍)、利益率 8%
- 検査機・ソリューション:数量 45.0(販売台数(台・推定))× 価格 0.23(1 台あたり売上(億円・保守込み))→ 売上 10 億円・営業利益 1 億円。推定 45 台 × 1 台 0.23 億円(物価 1.34 倍)、利益率 8%
倍率:事業の純利益 24 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.8% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍。全体の PER 13.87 倍、時価総額 339 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:EV 充電器・太陽光パワコン・産業機器の厚銅基板が伸び、ASEAN とインドの開拓も実る筋書き。2025/03 期に営業利益率 8.8% を出した実績はあるが、汎用品の値下げの圧力が強いので 1 割未満にした。
やや楽観 20% 家電と車載が戻り、中計に近づく 利益 17 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 1,650 円249 億円
車載の回復が遅れていた分が数年で戻り、家電の好調も続く筋書きだ。量は 10 年で 1 割5分増え、単価は物価の 8 割ほど上がる。原材料の銅と金、電気代の上昇は、値上げで大半を取り返す。検査機は新しい機種が売れ、小さな黒字の柱になる。営業利益率は 6% 台半ばで、過去 4 年の平均に近い。珠海の工場は中国の人件費の上昇に押されるが、省人化で吸収する。配当は 3 割5分の性向で増え、借金は返し終わる。それでも ROE は資本コストに少し届かず、帳簿の価値をわずかに下回る値が付く。特殊な基板の比率が少しずつ上がり、値段の競争から離れた稼ぎも増える。
- プリント配線板:数量 82.0(年間の出荷面積(万㎡・推定))× 価格 5.00(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 410 億円・営業利益 27 億円。推定 82 万㎡(今の 1.15 倍)× 1 ㎡ 5.0 万円(1.25 倍)、利益率 6.5%
- 検査機・ソリューション:数量 38.0(販売台数(台・推定))× 価格 0.23(1 台あたり売上(億円・保守込み))→ 売上 9 億円・営業利益 0 億円。推定 38 台 × 0.23 億円、利益率 5%
倍率:事業の純利益 17 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.3% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍。全体の PER 12.76 倍、時価総額 223 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:車載の回復が遅れていた分が戻り、家電の受注も続く筋書き。中計の最終年度の目標(営業利益 26 億円)には届かない見込みが出ており、2 割にした。
中立 36% 量は横ばい、値下げの圧力で利益率は 5% 利益 12 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 1,101 円166 億円
車と家電の基板の需要は、10 年で量にしてほぼ横ばいだ。EV や電力の基板は伸びるが、エンジンまわりと民生の基板は減る。汎用の両面・多層の基板は中国と台湾の工場と値段で比べられ、単価は物価の 6 割ほどしか上がらない(10 年で 1.2 倍)。原材料と人件費の上昇を値上げで全部は取り返せず、営業利益率は 5% 前後に落ち着く。今期の会社の見込み(3% 弱)よりは良いが、2023〜2025 年の 8% 台には戻らない。配当は 3 割5分の性向で出し、残りは設備の更新に回る。設備の更新は物価で高くなり、償却が年 9 億円から少しずつ増える。ROE は 6% 台で、資本コストの 7 割ほどにとどまる。
- プリント配線板:数量 75.0(年間の出荷面積(万㎡・推定))× 価格 4.80(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 360 億円・営業利益 18 億円。推定 75 万㎡(今の 1.05 倍)× 1 ㎡ 4.8 万円(物価に届かない 1.20 倍)、利益率 5%
- 検査機・ソリューション:数量 32.0(販売台数(台・推定))× 価格 0.23(1 台あたり売上(億円・保守込み))→ 売上 7 億円・営業利益 0 億円。推定 32 台 × 0.23 億円(物価 1.34 倍)、利益率 3%
倍率:事業の純利益 12 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 138 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:車載と家電の需要は量でほぼ横ばい、汎用の基板は中国・台湾勢との値段の競争が続く、日本シイエムケイと同じ物差しの中立。もっとも起こりやすいとみた。
やや悲観 22% 車載の減速と中国勢で利益が細る 利益 4 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 419 円63 億円
日系の車と家電のメーカーが、基板の調達を中国とアジアの安い工場に移す。シライの量は 10 年で 1 割減り、単価は物価に大きく遅れる。銅と金の値段、電気代と人件費は上がり続け、営業利益率は 2% 台に沈む。珠海の工場は中国の景気と米中の関税に振られ、稼働が落ちる。借金のシンジケートローンには財務制限条項があり、赤字の年が続けば条件が厳しくなる。配当は減らし、利益の多くは設備の維持に消える。帳簿は残るが、それを生かす稼ぎが無く、値段は稼ぐ力に見合う水準まで下がる。好調な年に返した借金が、谷を耐える支えになる。
- プリント配線板:数量 64.0(年間の出荷面積(万㎡・推定))× 価格 4.40(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 282 億円・営業利益 7 億円。推定 64 万㎡(今の 0.9 倍)× 1 ㎡ 4.4 万円(1.10 倍)、利益率 2.5%
- 検査機・ソリューション:数量 25.0(販売台数(台・推定))× 価格 0.20(1 台あたり売上(億円・保守込み))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。推定 25 台 × 0.20 億円、収支とんとん
倍率:ROE は約 2.6%で k を大きく下回る。値段は稼ぐ力(純利益÷k=約 49 億)まで。家賃のように固定の設備費が残り利益が細いので、上限の 7 割強の 8.0 倍。
確率:車載と家電の基板が中国の工場に流れ、量が減る筋書き。2027/03 期の会社予想で営業利益が 6 割減るように、利益は数年で大きく振れるので厚めに置いた。
悲観 14% 汎用の基板が中国に流れ、赤字が続く 利益 −4 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 132 円20 億円
汎用の両面・多層の基板は、中国とアジアの大きな工場が安く大量に作る時代になる。シライの量は 10 年で 3 割減り、単価は今のまま上がらない。国内の工場は人件費と電気代に押され、珠海の工場は米中の対立で日系の客が離れる。営業損益は赤字に沈み、工場の一部を減損して閉める。財務制限条項に触れて銀行の条件が厳しくなり、配当はほぼ止まる。創業家の会社で、少数株主が清算を決めることはできない。値段は売掛金と在庫と土地を売って借金を返した残りに近づき、帳簿の 2 割ほどで止まる。土地の多くは借りており、売れる資産は思ったより少ない。
- プリント配線板:数量 50.0(年間の出荷面積(万㎡・推定))× 価格 4.00(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 200 億円・営業利益 −4 億円。推定 50 万㎡(今の 0.7 倍)× 1 ㎡ 4.0 万円(据え置き)、利益率 −2%
- 検査機・ソリューション:数量 15.0(販売台数(台・推定))× 価格 0.17(1 台あたり売上(億円・保守込み))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。推定 15 台 × 0.17 億円、利益率 −10%
倍率:赤字なので PBR で置く。価値は稼ぐ力でなく床の資産(約 20 億、floor_assets_why)。今の自己資本 110 億に対し 0.18 倍。
確率:汎用の基板の注文が中国勢に大きく流れ、国内と珠海の工場の稼働が落ちる構造的な負け。2008/03 期から 5 期と 2019/03 期から 3 期、赤字が続いた実績があるので 1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
プリント配線板
両面・多層のリジッド基板と特殊基板(厚銅・金属ベース・銅ピン挿入)。車載・家電・産業機器・EV 充電器・太陽光パワコン向け。滋賀と中国珠海で作る。
| 数量年間の出荷面積(万㎡・推定) | 価格1 ㎡あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 71.4 | 4.00 | 286 | 20 |
| 10 年後 中立 | 75.0 | 4.80 | 360 | 18 |
取り方:面積の開示は無い。両面・多層の汎用基板の 1 ㎡あたりの値段を 4 万円前後と見て、売上 285.5 億円から出荷面積を約 71 万㎡と推定。数量は実質の面積、物価と値下げの圧力は単価に入れた(日本シイエムケイと同じ置き方)。セグメント利益は有報の値。
検査機・ソリューション
プリント配線板の外観検査機「VISPER」「VIZERA」の販売と保守。
| 数量販売台数(台・推定) | 価格1 台あたり売上(億円・保守込み) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 30.0 | 0.17 | 5 | 0 |
| 10 年後 中立 | 32.0 | 0.23 | 7 | 0 |
取り方:台数の開示は無いので 1 台 0.17 億円(保守込み)と置き、売上 5.1 億円から約 30 台と推定。
リスクと懸念
汎用の基板の値段の競争
両面・多層の汎用の基板は中国と台湾の大きな工場が安く作る。値段で比べられる分野では、原価の上昇を値上げで取り返しにくく、利益率は数年で大きく振れる。
客の調達先の移転
日系の車と家電のメーカーは、基板の調達を中国とアジアに広げている。国内の工場は値段で不利で、注文が流れれば稼働が落ち、固定費が利益を食う。
珠海の工場と米中の対立
中国の珠海の自社工場は、中国の景気と人件費、米中の関税に振られる。中国の工場を避ける客が増えれば注文が減り、工場の減損もありうる。
原材料とエネルギーの高騰
銅・金・樹脂などの原材料と電気代は物価以上に上がりうる。2026/03期の減益はこれが一因で、値上げが追いつかなければ利益率は2%台に沈む。
財務制限条項
借入のシンジケートローンには財務制限条項がある。赤字の年が続けば条件が厳しくなり、資金の自由度が下がる。今は純有利子負債が小さく、すぐの心配は少ない。
今後の分かれ目
- EV充電器・パワコン向けなど特殊な基板の売上の比率が年々上がったら
- 値段の競争から離れた稼ぎが増える。やや楽観の確率を上げる。
- タイのWELL TEKとの提携で生産や受注が具体的に始まったら
- アジアの日系メーカーの注文を取る体制が整う。中立の量を上に見直す。
- 2年続けて営業利益率が3%を下回ったら
- 値段の競争の深まりを示す。やや悲観の確率を上げる。
- 珠海の工場の減損や縮小を発表したら
- 中国の生産の不利が表に出た印。悲観の確率を上げる。
- 自社株買いや配当性向の引き上げを打ち出したら
- 溜まる現金が株主に戻る道が開く。戻り方の割引を小さくする。
見ておくもの
- プリント配線板のセグメント利益率
- 用途別(車載・家電・電力)の受注の動き
- 銅・金の値段と電気代
- 珠海の工場の稼働とタイでの生産の立ち上がり
- 配当性向と自社株買い
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価から置いていない。10年後の事業のROEは中立で約6%とk 8.5%を下回るので、正当化PERの上限は1÷k=11.1倍で、値決めの弱さと利益の振れで7.5割の8.3倍とした(日本シイエムケイの中立8.7倍と同じ物差し)。楽観だけROEがkを上回り、式の上限11.8倍の9.5割。今のPER約5倍は山の年の利益で測った値で、根拠にしていない。悲観は売掛金・在庫・土地から負債を引いた約20億で置いた。差の多くは build が自動で足す溜まる現金(戻り方0.75)から来ており、事業の倍率は控えめに置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.2→13.87 倍・やや楽観 PER 9.4→12.76 倍・中立 PER 8.3→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。