結論
アルバックは、真空の中で薄い膜をつくる装置を柱に、半導体・パネル・電子部品の工場へ納める会社だ。筆者の結論は「割高」。一番の理由は、稼ぐ力に対して値段が先を走っていることにある。
26年6月期は売上が伸びたのに、営業利益は2割以上減った。利益率は7%台まで落ち、期中に計画も引き下げた。受注は4割超増えており、仕事が足りないわけではない。問題は、受注が利益に変わる効率の悪さだ。
伸びの中心は半導体向けだ。ロジック、メモリ、先端パッケージの装置が売れ、来期は2割ほど増える見込みである。反対に、中国の大型パネル投資で膨らんだ分は反動で減る。会社は31年6月期に利益率22%を掲げたが、足元は計画の総点検に入った。筆者は、利益率が10%前後にとどまる姿を中心に置く。
財務は堅い。純現金が厚く、自己資本比率は6割近い。つぶれる心配は小さい。ただ、資本の稼ぎ(ROE)は7%前後で、株主が求める8%強に届かない。この水準では、事業が大きくなっても価値は増えにくい。
今の時価総額は、利益が順調に戻る前提に近い。10年後の楽観の筋書きでも、今の1.8倍ほどにとどまる。中立は今の8割台で、総合の本質価値は今の時価総額の半分ほどだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、アルバックは「事業は理解できるが、オーナーの手元に残る利益が少ない」会社だ。装置は工場に納めるたびに開発と据え付けの費用がかかる。パネル向けは数年に1度の大型案件頼みで、利益の読みにくさもある。
堀は一定の幅がある。真空技術の蓄積と、ポンプやターゲット材のような消耗品の売上は、景気が悪い時の支えになる。だが堀の広さは、利益率に表れていない。10%前後の営業利益率は、堀の深さに見合っていない。
資本の使い方には疑問が残る。自己資本の4分の1ほどが純現金で、ROEは資本コストを下回る。バリュー投資家が重くみるのは、稼いだお金を事業に回して株主の価値が増えるかどうかだ。この会社は、そこがまだ証明されていない。
安全域の点では、財務は厚い。純現金があるため、景気の谷でも自己資本の半分近くは守られるだろう。しかし、利益の回復を織り込んだ今の値段には、安全域は見当たらない。筆者は、利益率が12%を超えて定着する姿がはっきり見えるまで、今の値段を払う理由は薄いと考える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、真空装置を工場に売ることだ。真空とは、空気をほぼ抜いた空間のこと。そこで金属や酸化物の薄い膜を板の上につくる。スパッタ(金属を叩いて飛ばす成膜)や蒸着、エッチング(削る加工)が代表的な工程だ。
会社の区分では、装置を売る真空機器事業が全体の8割弱を占める。26年6月期の売上は2,100億円ほどだった。残りは真空応用事業で、真空ポンプや真空計といった部品、半導体の成膜に使うスパッタターゲット(膜の原料)、真空炉などが入る。装置は納めて終わりではない。部品と材料は、納めた装置が動く限り売れ続ける。
装置の中身は3つに分けると分かりやすい。1つ目は半導体・電子部品向けで、26年6月期は880億円ほど。ロジック、メモリ、先端パッケージのほか、パワー半導体向けもある。2つ目はディスプレイやエネルギー(電池・太陽電池など)、一般産業向けで、ここは大型の投資が来るかどうかで売上が大きく動く。3つ目が部品・材料の安定収益だ。
地域では中国が最大の市場で、日本、韓国、台湾が続く。中国では、パネル工場とパワー半導体の工場が主な顧客になる。日本・中国のパワーデバイス投資が一息ついたことが、26年6月期の下振れの引き金になった。
会社は25年5月に旧い中期計画をやめ、31年6月期までのバリューアッププランに切り替えた。半導体・電子関連の売上を6割以上に引き上げる方針だ。パネルへの依存を下げ、景気の波を小さくするのが狙いである。
優良さと弱いところ
筆者は、アルバックを「優れた技術を持つが、儲けを残す力が弱い会社」と見る。真空技術は半世紀以上の蓄積があり、ディスプレイ用の成膜では高いシェアを持つ。真空の中で膜をつくる工程は、1つ1つの調整に経験が要る。ここは容易にまねできない。
ただ、その技術が利益に結びついていない。過去12年の営業利益率は、最良でも14%、直近は7%台だ。自己資本は10年前の3倍に積み上がったのに、利益は倍にもなっていない。結果としてROEは7〜9%台にとどまる。堀(他社が入りにくい強み)はあるが、価格を決める力は強くない。
半導体向けでは、アプライドマテリアルズのような大手が成膜装置の主役で、アルバックは得意分野を絞って戦っている。中国の装置メーカーも育っており、成熟した工程では値下げ圧力が強まる。パネル向けは顧客の投資が数年おきにまとまって来る。見通しが立ちにくい。
強みもある。真空ポンプやターゲット材などの部品・材料は、装置の稼働とともに売れる。この部分があるから、赤字を出した11〜13年のような崩れ方は起こりにくい。純現金が厚く、自己資本比率も高い。
経営の課題は、利益率の低さの原因を断ち切れていないことだ。受注は増えるのに利益が付いてこない。26年6月期の計画の引き下げは、見積もりの甘さか、受注時の採算の甘さを示している。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
半導体の製造装置は、世界で2025年に1,170億ドルほどの市場だった。AI向けの投資で、今後数年は急拡大が見込まれる。10年後の中立では2,600億ドル前後だ。アルバックは、この波の中心にいるわけではない。成熟した工程、パワー半導体、先端パッケージ、電子部品といった周辺の領域で戦っている。
先端ロジックやメモリの最前線は、東京エレクトロンやアプライドマテリアルズなどの大手が握る。アルバックが狙うのは、その横にある市場だ。先端パッケージ(チップを重ねてつなぐ工程)は伸びるが、パワー半導体は中国の増設が一巡して調整が続いている。
ディスプレイ向けは別の景気で動く。有機ELの大型ラインの投資は、中国のパネル各社の判断で数年おきにまとめて来る。26年6月期は上期にこの分が大きく上振れし、27年6月期は反動で減る見込みだ。パネルの装置市場は実質で横ばいか縮小と見るのが自然だろう。
競合は分野で変わる。スパッタではアプライドマテリアルズが大きく、磁性膜ではキヤノンアネルバが強い。国内には芝浦メカトロニクスなどもいる。中国では北方華創など現地の装置メーカーが伸び、中国向けの商談は価格で厳しくなる。
こうした市場の中で、アルバックの数量は半導体向けで年3〜4%、パネル向けは横ばいから小幅の縮小、部品・材料は年3%の実質成長が中立の姿だ。値段は物価並みに上がる。景気の谷では、半導体が3〜4割縮んだ過去の局面が目安になる。
資本政策と M&A
還元は業績連動で、配当性向35%以上が目安だ。26年6月期は配当と自社株買いで86億円を還元した。業績の下振れを受けて期末配当を引き下げたが、還元の水準は純利益の5割ほどになる。
25年5月のバリューアッププランでは、6年間の資金の使い道を、成長・戦略投資に約7割、株主還元に約3割と配分した。ところが、足元の利益率は目標とかけ離れ、27年6月期は計画の総点検に入ると明らかにしている。筆者は、7割を投じる成長投資の収益性が、この会社の価値を決めると見る。
厚い純現金は、現状は活かされていない。自己資本は2,400億円あり、その4分の1ほどが純現金で、使い道は定まっていない。ROEが資本コストを下回る会社が現金を抱えると、株主の取り分は薄まる。自社株買いを増やすか、買収に使うかを決める時期にきている。
M&Aは、この数年は大型の動きがない。TOBや買収提案の報道も確認できなかった。大株主は国内外の機関投資家が分散して持ち、特定の親会社はいない。筋書きでは、買収を行う側としての失敗と、買われる側になる可能性のどちらも、小さな確率で置いた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体向けの装置は、いま最も勢いがある。ロジック、メモリ、先端パッケージの各分野で受注が増え、26年6月期の受注は4割超伸びて残高も厚い。来期の半導体・電子部品向けは売上が2割増える見込みで、利益は後から付いてくる。26年6月期に利益が落ちたのは、パワー半導体の投資が日本と中国で一時的に引いたからで、この調整は終わりに近い。
パネル向けも、有機ELの大型ラインの採用が広がる。中国のパネル各社が投資を続ければ、大型ガラスへの成膜で高いシェアを持つアルバックが受け皿になる。反動減が出ても、受注残が下支えする。
ポンプやターゲット材などの部品・材料は、装置の稼働台数が増えるほど売上が増える。収益が安定する部分が厚くなり、利益率を押し上げる。これは会社が掲げる22%への道筋でもある。経営が総点検に入ったのは、採算の悪い案件を整理し、利益率の改善を急ぐ動きだともいえる。
財務の余力も大きい。純現金を成長投資や自社株買いに使えば、ROEは資本コストを上回る方向へ動く。業績が戻れば、厚い現金と低い倍率の組み合わせは、株価が見直される条件がそろっている。利益率が12%を超えるなら、今の時価総額も説明がつく。
慎重な見方
まず、利益率が上がる根拠が弱い。26年6月期の営業利益は、売上が増えたのに2割以上減った。期中に計画を引き下げたのは、これが初めてではない。会社が掲げる22%の目標は、過去最良の14%を大きく超える。しかも直近の数字は7%台で、目標は遠い。
半導体向けでは、アプライドマテリアルズが成膜装置の中心にいて、アルバックは得意分野を絞って戦っている。成熟した工程では、中国の北方華創などが価格で攻める。パワー半導体の調整は長引くかもしれない。
パネル向けは、中国の投資が一巡すれば止まる。26年6月期に膨らんだ売上は、反動で減る。部品・材料は安定しているが、全体の2割強にすぎず、装置の波を打ち消すほどではない。
資本の効率にも疑問がある。自己資本は2,400億円あるのに、ROEは7%前後だ。資本コストの9%を下回る会社は、成長しても株主の価値を生みにくい。それなのに、今の株価は利益の20倍超にまで買われている。半導体の景気が崩れれば、この値段は大きく切り下がる。純現金は下値を支えるが、時価総額の2割にも満たない。さらに、会社が掲げる22%の目標は、過去最良の14%を大きく超える。計画を総点検に回したことは、その目標が現実的でなかったことを会社自身が認めた形に見える。
どちらに重みを置いたか
受注の増加と財務の厚さは、強気の言い分に説得力がある。しかし、利益率が10%を超えて定着する証拠は、まだ出ていない。直近の利益の弱さと、ROEが資本コストを下回る事実は、慎重な見方が重い。確率は中立を最も厚くし、悲観側をやや厚めに置いた。利益率が12%を超えて定着する姿が見えれば、楽観側へ寄せる。筆者が強気の見方で最も重く見るのは、26年6月期の受注の伸びだ。受注残の厚さは、売上の底堅さを裏付ける。ただし利益は売上に遅れて付いてくるとは限らない。この会社は、受注があっても利益が減る年を繰り返してきた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/06 期)
確率で加重した株価時価総額 7,728 円3,800 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,950 円959 億円)。 今の値に割り戻すと 5,107 円2,512 億円、今との差 −30.9%、 期待の年率 +2.7%(資本コスト 7.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 18,797 円9,243 億円 | 3,339 円1,642 億円 | +199.7% | +11.6% | 1,771 円871 億円 |
| やや楽観 | 20% | 13,158 円6,471 億円 | 2,690 円1,323 億円 | +114.6% | +7.9% | 3,170 円1,559 億円 |
| 中立 | 32% | 8,589 円4,224 億円 | 2,188 円1,076 億円 | +45.9% | +3.8% | 3,449 円1,696 億円 |
| やや悲観 | 26% | 2,861 円1,407 億円 | 1,556 円765 億円 | −40.2% | −5.0% | 1,148 円565 億円 |
| 悲観 | 14% | 712 円350 億円 | 285 円140 億円 | −86.5% | −18.2% | 140 円69 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,728 円3,800 億円 | 1,950 円959 億円 | +31.0% | +2.7% | 9,677 円4,759 億円 |
今の株価時価総額 7,387 円3,632 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 半導体の周辺領域で存在感が増し、利益率が14%台に定着 利益 527 億円 · PER 17.3 倍 · 株価時価総額 18,797 円9,243 億円
世界の半導体の装置投資が10年で大きく伸び、アルバックの成熟工程・パワー・先端パッケージ向けも広がる。半導体向けの売上は今の2.5倍以上になり、全社の4割強を占める。部品・材料も装置の稼働増で伸び、営業利益率は14%台と過去最良に並ぶ水準で定着する。パネル向けは有機ELの大型ラインで一定の売上を保つ。会社は成長投資の収益性を示し、純現金も自社株買いなどで活かされる。ROEは12%台と資本コストを上回る。会社の掲げる22%には届かないが、半導体の周辺領域での存在感は確かなものになる。中国の装置メーカーとの競争には、先端パッケージのような技術で差が付く分野に絞って勝つ。受注時の採算管理が定着し、装置の利益率が構造的に上がる。部品・材料は稼働台数の増加で売上が積み上がる。純現金は自社株買いなどで還元され、1株あたりの価値も高まっていく。
- 半導体・電子部品向け装置:数量 11.5(ULVAC が取る半導体・電子部品向け装置の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア)× 価格 201(1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 2,312 億円・営業利益 439 億円。数量 11.50 億ドル相当、営業利益率 19.0%
- ディスプレイ・エネルギー・一般産業向け装置:数量 8.5(ULVAC が取るディスプレイ・エネルギー・一般産業向け装置の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア)× 価格 201(1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,708 億円・営業利益 188 億円。数量 8.50 億ドル相当、営業利益率 11.0%
- 部品・材料(真空応用):数量 6.4(ULVAC が取る部品・材料の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア)× 価格 201(1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,286 億円・営業利益 206 億円。数量 6.40 億ドル相当、営業利益率 16.0%
倍率:事業の純利益 523 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.7% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)225 億円。全体の PER 17.25 倍、時価総額 9,243 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10 年続けて数量が伸び、価格競争に負けず、採算改善も進む必要がある。会社の実績から 1 割を切る確率にした。
やや楽観 20% 半導体が過半を占め、利益率が12%台に 利益 397 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 13,158 円6,471 億円
半導体向けが全社の4割を超える中核になり、パネル向けは安定した水準に落ち着く。先端パッケージとメモリの装置の更新需要が続き、部品・材料の売上も着実に増える。営業利益率は12%台と、過去の山より少し低い水準で定着する。中国の装置メーカーとの競争は続くが、先端パッケージのような技術で差が付く分野に集中して採算を保つ。ROEは10%ほどで、資本コストをわずかに上回る。還元は純利益の4〜5割を維持する。パネル向けは大型案件の山谷が残るが、全体に占める比率が下がるため、利益の振れは小さくなる。部品・材料と半導体の安定が、会社全体の利益率を支える。純現金は成長投資に回り、収益性は少しずつ改善する。会社の22%には届かないが、10年前より明らかに強い会社になる。
- 半導体・電子部品向け装置:数量 9.8(ULVAC が取る半導体・電子部品向け装置の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア)× 価格 201(1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,970 億円・営業利益 325 億円。数量 9.80 億ドル相当、営業利益率 16.5%
- ディスプレイ・エネルギー・一般産業向け装置:数量 7.8(ULVAC が取るディスプレイ・エネルギー・一般産業向け装置の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア)× 価格 201(1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,568 億円・営業利益 141 億円。数量 7.80 億ドル相当、営業利益率 9.0%
- 部品・材料(真空応用):数量 5.8(ULVAC が取る部品・材料の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア)× 価格 201(1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,166 億円・営業利益 169 億円。数量 5.80 億ドル相当、営業利益率 14.5%
倍率:事業の純利益 393 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)225 億円。全体の PER 15.9 倍、時価総額 6,470 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社が描く方向(半導体が中核・利益率の改善)がほぼ実現する筋書き。実現は十分ありうるが、中立より軽く置いた。
中立 32% 半導体が広がるが、利益率は10%にとどまる10年 利益 288 億円 · PER 14.1 倍 · 株価時価総額 8,589 円4,224 億円
世界の半導体の装置投資は10年で大きく伸びるが、アルバックの数量は市場の伸びを下回る。半導体向けは年3〜4%の実質成長で今の1.4倍の数量になり、全社の4割ほどを占める。パネル向けは小幅の縮小で、数年おきの大型投資に売上が左右される。部品・材料は年3%で堅実に伸びる。中国の装置メーカーとの競争で値下がりを通せず、営業利益率は10%ほどにとどまる。ROEは8%台で資本コストの9%を下回る。会社の掲げる22%は実現せず、安定した中堅の装置メーカーとして続く。純現金は還元と投資に使われ、積み上がりは止まる。自社株買いは増えるが、価値を大きく押し上げるほどではない。景気の山と谷は10年に2回ほど来て、谷の年は赤字に近づく。それでも倒れることはなく、長い目では安定した営業利益を稼ぎ続ける。
- 半導体・電子部品向け装置:数量 8.3(ULVAC が取る半導体・電子部品向け装置の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア)× 価格 201(1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,668 億円・営業利益 225 億円。数量 8.30 億ドル相当、営業利益率 13.5%
- ディスプレイ・エネルギー・一般産業向け装置:数量 7.2(ULVAC が取るディスプレイ・エネルギー・一般産業向け装置の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア)× 価格 201(1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,447 億円・営業利益 101 億円。数量 7.20 億ドル相当、営業利益率 7.0%
- 部品・材料(真空応用):数量 5.2(ULVAC が取る部品・材料の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア)× 価格 201(1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,045 億円・営業利益 141 億円。数量 5.20 億ドル相当、営業利益率 13.5%
倍率:事業の純利益 284 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.3% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)225 億円。全体の PER 14.09 倍、時価総額 4,224 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去 12 年の営業利益率の平均(10% 強)と直近の実績を中心に置いた最も重い筋書き。
やや悲観 26% 競争と投資の鈍化で、利益率が6%台に低迷 利益 150 億円 · PER 8.3 倍 · 株価時価総額 2,861 円1,407 億円
半導体向けは中国の装置メーカーに成熟工程を奪われ、数量が今の1割ほどしか増えない。パネル向けは中国の自前化で縮み、売上が今の水準を下回る。値下げ圧力が続き、営業利益率は6%台に低迷する。部品・材料は底堅いが、全体の利益を支えきれない。資本の稼ぎは5%を切り、ROEは資本コストを大きく下回る。経営は構造改革を繰り返し、純現金は事業の穴を埋めるために減る。倍率は成熟した低収益の装置メーカー並みに縮む。中国の自前化と価格競争に押され、半導体向けもパネル向けも期待した伸びがない。会社は構造改革を繰り返し、費用が先行して利益が出にくい。景気の谷で2度ほど赤字になり、還元は純利益の5割を保つのが難しくなる。純現金は残るが、成長の原資にはならない。
- 半導体・電子部品向け装置:数量 6.7(ULVAC が取る半導体・電子部品向け装置の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア)× 価格 201(1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,347 億円・営業利益 121 億円。数量 6.70 億ドル相当、営業利益率 9.0%
- ディスプレイ・エネルギー・一般産業向け装置:数量 5.8(ULVAC が取るディスプレイ・エネルギー・一般産業向け装置の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア)× 価格 201(1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,166 億円・営業利益 47 億円。数量 5.80 億ドル相当、営業利益率 4.0%
- 部品・材料(真空応用):数量 4.3(ULVAC が取る部品・材料の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア)× 価格 201(1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 864 億円・営業利益 91 億円。数量 4.30 億ドル相当、営業利益率 10.5%
倍率:ROE 4.7% が k 7.5% 以下なので、伸びても価値は増えず(ためた利益は額面未満)、正当化 PER は 1÷k=12.1 倍。利益が薄い局面なので7割へ引き上げず、上限の 7.0 割の 8.3 倍に置いた。
確率:中国の装置メーカーとの競争と採算の弱さが続く筋書き。慎重な見方の重さを反映して中立に近い厚さにした。
悲観 14% 構造的に競争力を失い、薄い利益に沈む10年 利益 0 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 712 円350 億円
中国の装置メーカーに成熟工程を奪われ、半導体向けの数量は今の7割ほどに縮む。パネル向けも中国の自前化で半分近くまで落ち、値段も物価に追いつかない。営業利益率は1桁台前半から赤字を行き来し、部品・材料だけが利益を稼ぐ。会社は買収や新分野で立て直しを図るが、成果が出ず、価値を壊す案件も混じる。ROEはほぼゼロで、もう優良な装置メーカーとは見なされない。株価は純資産を大きく下回る水準で推移する。景気の谷が重なり、顧客の投資が止まる年が続く。還元は大きく絞られ、配当は最低限になり、その分は現金の取り崩しと保有資産の売却で払う。純現金も構造改革や赤字の穴埋めに使われ、10年後には今の半分ほどに減る。それでも借金に頼らず、事業を縮めながら続けていく姿になる。
- 半導体・電子部品向け装置:数量 4.3(ULVAC が取る半導体・電子部品向け装置の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア)× 価格 175(1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 752 億円・営業利益 15 億円。数量 4.30 億ドル相当、営業利益率 2.0%
- ディスプレイ・エネルギー・一般産業向け装置:数量 4.2(ULVAC が取るディスプレイ・エネルギー・一般産業向け装置の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア)× 価格 185(1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 777 億円・営業利益 −8 億円。数量 4.20 億ドル相当、営業利益率 -1.0%
- 部品・材料(真空応用):数量 3.4(ULVAC が取る部品・材料の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア)× 価格 195(1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 663 億円・営業利益 33 億円。数量 3.40 億ドル相当、営業利益率 5.0%
倍率:構造的に負けた後の利益はほぼゼロで、稼ぐ力(純利益÷k)では測れない。売れる資産の床(減って残る純現金に売れる在庫・設備の一部を足した350億円)を時価総額とし、自己資本2300億円(今の2410億円から、利益がほぼゼロで配当140億円を払った分だけ減る)に対する倍率に直すと0.15倍になる。
確率:10 年で構造的に負ける複合の筋書き。装置メーカーが 10 年で競争力を失う例は繰り返されており、1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
半導体・電子部品向け装置
ロジック・メモリ・先端パッケージ・パワー半導体向けのスパッタ・エッチングなどの成膜・加工装置と、電子部品向けの装置。
| 数量ULVAC が取る半導体・電子部品向け装置の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア | 価格1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 5.9 | 150 | 883 | 100 |
| 10 年後 中立 | 8.3 | 201 | 1,668 | 225 |
取り方:会社開示の品目別売上 883 億円(26年6月期)を 150 円で割り、5.9 億ドル相当とした。ULVAC の対象は WFE(1,170 億ドル)のうち成熟工程・パワー・先端パッケージ・電子部品向けの成膜とエッチングで、おおむね 100 億ドル(実質)、シェア約 6% と推定した(開示は無く、売上からの逆算)。営業利益は開示が無いので、真空機器の営業利益 152 億円を半導体 100・パネル等 52 に配分した推定。物価 3% は価格に入れ、市場の実質の伸びとシェアの変化は数量に入れた。
ディスプレイ・エネルギー・一般産業向け装置
大型ガラスへの成膜など液晶・有機 EL のパネル装置、電池・太陽電池などエネルギー関連、真空炉などの一般産業向け。
| 数量ULVAC が取るディスプレイ・エネルギー・一般産業向け装置の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア | 価格1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 8.2 | 150 | 1,225 | 52 |
| 10 年後 中立 | 7.2 | 201 | 1,447 | 101 |
取り方:真空機器事業の売上 2,108 億円から半導体・電子部品 883 億円を引いた 1,225 億円を、150 円で割って 8.2 億ドル相当とした。対象市場は約 70 億ドル(実質)、シェア約 12% の推定。26年6月期は中国の大型パネル投資で上振れした年で、売上のピークに近い。27年6月期は反動で減る見込みなので、中立は実質で縮む置き方にした。
部品・材料(真空応用)
真空ポンプ・真空計などの部品、スパッタターゲットなどの材料。納めた装置の稼働とともに売れる。
| 数量ULVAC が取る部品・材料の市場(億ドル・実質)=対象市場×シェア | 価格1 ドルあたりの売上(円)=150 円×物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 3.9 | 150 | 583 | 75 |
| 10 年後 中立 | 5.2 | 201 | 1,045 | 141 |
取り方:真空応用事業の売上 583 億円(26年6月期)を 150 円で割り、3.9 億ドル相当とした。対象市場は約 60 億ドル(実質)、シェア約 6.5% の推定。営業利益は開示が無い推定(利益率 13%)で、全社の営業利益 196 億円から装置 152 億円と本社費ほか −31 億円を引いて合わせた。部品・材料は装置の稼働台数とともに増える。
リスクと懸念
利益率の改善が進まないリスク
26年6月期は売上が7%伸びたのに、営業利益は26%減った。期中に計画を引き下げたのは、受注時の採算の見積もりに甘さがあったことを示す。受注は4割超増えているが、利益に変わる効率が改善しなければ、増えた受注は数字だけの成長に終わる。会社が掲げる利益率22%も、この点が証明されない限り現実味が薄い。
パネル投資の反動と大型案件への依存
ディスプレイやエネルギー向けは、顧客が数年おきにまとめて投資する。26年6月期は上期に大きく上振れしたが、27年6月期はその反動で減る見込みだ。次の大型案件がいつ来るか読めず、売上と利益が年ごとに大きく動く。この波は、会社の利益率の平均を押し下げている。
中国の装置メーカーによる価格競争
売上の最大の地域は中国だ。現地では北方華創などの装置メーカーが育ち、成熟した工程やパワー半導体向けでは、価格で攻められやすい。中国の自前化が進めば、売上の数量と値段の両方が削られる。中国のパネル各社が国産装置に切り替える可能性もある。
パワー半導体の投資の調整が長引く
26年6月期の下振れは、日本と中国のパワーデバイス投資の反動減が引き金だった。電気自動車向けの需要の鈍化や、中国の増設の一巡が続けば、この分野の装置の受注は戻りにくい。半導体向けの成長の一部が先送りされる。
半導体の投資の急な冷え込み
半導体の装置投資は、リーマンショックの時に4割前後縮んだ。2018〜19年の不況でも大きく落ちた。アルバックは先端の最前線ではないが、同じ循環を共有する。過去には2012年6月期に大幅な赤字を出しており、谷では利益が簡単に消える。
資本効率が低いまま現金が積み上がる
ROEは7%前後で資本コストを下回るのに、純現金は600億円を超えて増えている。成長投資の7割という配分が収益に結びつかなければ、株主の価値は薄まる。買収が裏目に出る、あるいは現金が使われないまま眠るという二つの危険がある。
計画の総点検による費用
会社は27年6月期にバリューアッププランの総点検を進める。事業の整理や構造改革に伴う減損や費用が出る可能性がある。計画の見直しで目標が引き下げられれば、市場の期待も下がる。決算発表後にストップ安となった経緯が、その不安の大きさを物語る。
今後の分かれ目
- 半導体・電子部品向けの受注が受注残とともに伸び、利益率が12%を超えて定着したら
- 楽観とやや楽観の筋書きに確率を移してよい。受注が利益に変わる効率が改善した証拠になる。
- 27年6月期の営業利益の計画280億円が期中に下方修正されたら
- やや悲観の筋書きに重みを移す。26年6月期に続く下振れは、採算管理の弱さが構造的な問題である可能性を示す。
- 中国の装置メーカーが成熟工程やパワー半導体向けで大きな受注を得たら
- アルバックの数量と価格が削られるとみて、悲観側の確率を上げる。
- 会社が純現金を使って大型のM&Aや大規模な自社株買いを発表したら
- 買収は価格と事業の相性を個別に確認する。自社株買いならROEの改善が見込めるため、中立の倍率の根拠を見直す。
- 中国のパネル各社が有機ELの大型投資を再び出したら
- パネル向けの反動減が小さく済む。やや楽観の筋書きの確率を上げる。
- 半導体の装置投資が複数の大手顧客で同時に先送りされたら
- 10年の悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 半導体・電子部品向けの受注高と受注残の推移
- 営業利益率の四半期ごとの変化と計画の修正
- バリューアッププランの総点検の結果(新しい目標の数字)
- 中国のパネル・パワー半導体の投資の動向
- 純現金の使い道(自社株買い・M&A)
倍率と資本コストの決め方
今の株価(PER24倍)や過去のPBRは見ずに、事業の稼ぎ(ROE)とk7.5%(基本7.5%に循環+0.75%)、長期の成長率から決めた。中立は事業のROEがk以下なので、正当化PERは1÷kの12.1倍の9割台に置いた。ROEが高い楽観の筋書きでも、成熟工程の価格競争と投資の波を見て上限の9割台にとどめた。悲観は稼ぐ力ではなく、減って残る純現金に売れる資産の一部を足した350億円を床にした。結果は10年後の中立でも今の時価総額を下回るが、利益率が過去12年の平均(10%強)にとどまる前提に従った。純現金623億円のうち運転資金と前受金の戻りに備える分を引いた300億円を余った現金とし、還元の実績が薄いので半分の重みで足した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.5→17.25 倍・やや楽観 PER 12.82→15.9 倍・中立 PER 11.26→14.09 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。