結論
ミマキエンジニアリングは、看板やポスター、衣料、工業製品に刷る業務用インクジェットプリンターの専業メーカーだ。売上の7割強が海外で、プリンターを売ったあとのインクと保守部品が売上の約半分を占める。筆者の結論は、本質価値が今の時価総額の近くにある、というものだ。安くも高くもない。
直近の営業利益率は11%で、過去最高になった。ただ、3年前までは6%前後だった。筆者は、この高さを10年続く姿とは見ない。中国メーカーの安い機械が同じ市場に入り込み、本体の値段は上がりにくいからだ。
一方で、稼ぎの土台は固い。顧客が機械を使い続ける限り、純正のインクと保守が売れる。この部分は景気で大きく崩れない。しかも世界の大判印刷は、紙の印刷から機械で刷る方式への移行が続く。
10年後の中立は、売上1,300億円、営業利益率10%台前半。成長は年4%台で、物価の上昇とほぼ同じだ。ROEは今の17%から10%台へ下がる。利益を厚くためる前提だからだ。
慎重に見るべき点が2つある。1つは、米国の関税と為替だ。売上の2割強が北米で、1ドルを150円に固定して見ても、販売価格への転嫁は読み切れない。もう1つは、中計が掲げる売上1,500億円の達成に、新製品と周辺機器への投資が間に合うかどうかだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ミマキは普通の堀を持つ、利益の波のある機械メーカーだ。継続収入が半分あることは強みだが、本体の景気と競合の価格が残りを決める。
10年後もこの事業は残る。刷る需要は、紙から素材への広がりで増えこそすれ、消えにくい。一方で、堀が広がるとまでは言えない。中国勢がヘッドとインクの両方で追い上げている。
経営者の資本配分は、これからを見たい。利益率が上がった今、株主へ返すのか、新領域へ投じるのかで、10年後の価値は変わる。筆者は、高粘度インクや有機ELシートなど手を広げる点を、確かめるべき論点と見る。
安全域は、中立の価値が今の値段の近くにあるため、厚くない。強気の筋書きは大きく上振れるが、悲観では今の4分の1ほどまで下がる。上下の幅が広く、予測の確信度は高くない。
オーナーとして持ちたい会社かと問えば、利益率が高い間に資本を賢く使う経営を確認できてからだ。値段を見て買う会社ではなく、利益の質を見て持つ会社だ。
何で稼ぐ会社か
ミマキの商売は、プリンター本体を売り、そのあとインクと保守で稼ぎ続ける形だ。2026年3月期の売上837億円のうち、本体は314億円、インクが329億円、保守部品が75億円、その他が119億円だった。インクと保守を合わせると売上の約半分になる。
売上は、使う市場で4つに分かれる。いちばん大きいのが、看板・ポスター・車両ラッピングなどに刷るサイン・グラフィックス(SG)向けで347億円。次に、工業製品への加飾や直接印刷に使う産業用(IP)向けが216億円。衣料や布地に刷るテキスタイル(TA)向けが96億円、自動車向けの組立・検査装置のFA事業が41億円ある。残りの138億円は、保守サービスやソフト、周辺機器などだ。
地域は日本が3割弱で、北米と欧州がそれぞれ2割強。アジア・オセアニアが2割弱で、海外が7割強を占める。為替の影響を受けやすい会社だ。
技術の中心は、インクと印刷ヘッドの制御を自社で持つ点にある。紙、ビニール、布、樹脂など、刷る素材を選ばない。顧客が使うたびにインクが減るので、一度入れた機械は純正インクを買い続ける。この仕組みが、本体の販売が波打っても利益を支える。
中計「MI30」は、2030年3月期に売上1,500億円・営業利益率8%以上を掲げる。高粘度インクによる塗装、折り曲げられる有機ELシート、前後工程の周辺機器など、新しい分野にも手を広げる計画だ。
顧客は、看板・広告を作る印刷会社、工場、アパレル工場など、機械を毎日動かす現場だ。機械が止まると売上が止まるので、保守の網の広さが選ばれる理由になる。ミマキは日本・北米・欧州・アジアに自社の販売・保守の拠点を持つ。
優良さと弱いところ
ミマキの堀、つまり他社がまねしにくい強みは、インクと機械をひとまとめで持つ点にある。顧客は機械を選ぶと、そのメーカーのインクを使い続ける。切り替えるには機械ごと入れ替える必要があり、現場は手間を嫌う。売上の約半分がこの継続収入だ。ただし、堀としては普通の強さにとどまる。互換インクを出す競合がおり、大判プリンターは中国勢も作れるからだ。
収益性は上向いた。営業利益率は2021年3月期の赤字から、2026年3月期には11%へ改善した。製品の入れ替えとコスト削減が効いた。ROEも17%と高い。
ただ、筆者は、この数字を10年続く実力とは見ない。2020年と2021年の赤字、2009年前後の低迷を見ると、広告や設備投資の景気に利益が大きく振れる事業だとわかる。
財務は普通だ。純有利子負債は112億円で、自己資本比率は48%。借金で首が回らなくなる水準ではない。
経営は創業家系の資産管理会社が筆頭株主で、東京中小企業投資育成も株主に入る。社外取締役は4割ほどいる。弱点は、世界で戦う会社としては規模が小さいことだ。売上は800億円台で、関税や為替の変動に耐える体力は大きくない。
資本の使い方は、今のところ堅実だ。無理な買収はせず、利益を製品開発に回してきた。開発費は売上の7〜8%を保つ方針で、これが次の新製品をつくる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
大判インクジェットは、成熟した分野の中に成長する芽を持つ市場だ。調査会社の推計では、世界の市場は約39億ドルで、年4〜7%の成長が見込まれる。物価の上昇を除けば実質で年2〜3%だ。上位5社で約6割を占め、HP、キヤノン、エプソン、リコー、ミマキ、ローランドDG、デュルスト、EFI、ムトーなどが争う。
SG向けは、看板や広告の媒体が紙からデジタルサイネージに移る逆風と、アナログ印刷が機械印刷に置き換わる追い風が同時にある。実質の伸びは小さい。筆者は、年1%ほどの伸びを中立と置く。
産業用(IP)は伸びしろが大きい。床材、家具、容器、部品への加飾や直接印刷は、版を作らずに小ロットを刷れるため、少量多品種の工場で採用が増えている。ミマキもここを成長分野に据える。
TAは、衣料の小ロット化で伸びる一方、中国製の安いDTF機が入り込み、本体の値崩れが続く。顧客の現場では、インクだけを安く買う動きも出ている。
国内の需要は人口とともに減る。成長を取るのは海外だ。世界の需要が実質で伸びても、シェアを保てるかどうかは、各社の新製品のタイミングと価格で決まる。ミマキは2026年9月に新しい3機種とインクを世界で発売するなど、投入を続けている。
為替は、1ドル150円で固定して見る。実際には円安が続けば海外売上が押し上げられるが、それは事業の実力ではない。筆者は、為替で上振れした利益を価値に入れない。
資本政策と M&A
資本政策は、成長への投資を優先する形だ。配当は2026年3月期に増配し、配当性向は2割台にとどまる。中計では、既存の開発投資を売上の7〜8%に保ち、新分野に別枠で1〜2%を足す。自己株式は発行済みの約1割を持つ。
株主は、創業家系とみられる池田ホールディングスが18.5%で筆頭。日本マスタートラスト信託銀行12.5%、田中企画9.6%、東京中小企業投資育成5.3%が続く。外国法人は約9%と少ない。
M&Aの実績は大きくない。主力は自社の製品開発で、買収で規模を広げる会社ではない。TOBをかける側にも、かけられる側にも回りにくい資本構成だ。
筆者がいちばん気にしているのは、余ったお金の使い道だ。今は純負債が小さく、利益の大半を再投資に回す。この再投資が資本コストを上回る稼ぎを生むかが、10年の価値を決める。還元を厚くする余地は、今の利益水準なら十分ある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
インクと保守が売上の約半分を占め、機械を売るたびにその後の収入が積み上がる。営業利益率は11%まで改善し、本体の値段を上げなくても利益が出る体質になった。産業用は、床材・家具・容器への印刷が版なしで小ロットに対応できるため、工場の需要が着実に増える。ミマキは自社でインクとヘッドの制御を持つので、素材ごとの最適な組み合わせを顧客に提案でき、競合に差をつける。
TAは、昇華転写の新フラッグシップが順調に立ち上がり、DTFの落ち込みを埋め始めた。海外が7割強で、地域が分散しており、一つの市場の不調に引きずられにくい。2026年9月には新製品6つを世界で発売し、製品の入れ替わりの端境期は終わった。
中計は、2030年3月期に売上1,500億円を掲げる。実現すれば、10年後には売上1,800億円・営業利益率13%の水準も見えてくる。利益を再投資で伸ばし続ける形が、ROEを高く保つ。
さらに、世界の大判印刷は、紙から素材を問わない機械印刷への切り替えが続く。小ロット・多品種の注文はますます増え、機械の台数とインクの使用量が伸びる。ミマキの自社インク・自社ヘッド制御は、この伸びをそのまま取り込める作りだ。
慎重な見方
今の営業利益率11%は、過去最高だ。2023年3月期は6%、2020年と2021年には赤字だった。景気の山の利益を、10年続く実力と見るのは危うい。中国メーカーは、本体を安く出し、互換インクでインクの囲い込みも崩しにかかる。TAのDTF機では、すでに本体の値崩れが売上を押し下げた。
米国は売上の2割強を占め、関税の上乗せを価格に転嫁できるかは読めない。為替が円高に振れれば、海外7割強の売上が目減りする。FA事業は自動車向けの落ち込みで、直近は大きく減収になった。
配当性向は2割台で、利益を内部にためるため、ROEは自己資本が増えるほど下がる。中計の新領域への投資は、高粘度インクや有機ELシートなど、成果が見えにくい分野だ。広告のデジタル化が進めば、SGの需要は実質でも縮みうる。
規模の小さい会社が、キヤノン・エプソン・HPと同じ土俵で価格競争に巻き込まれるなら、利益率は2020年前後の水準まで戻る。
要するに、強気の見方は、利益率が高い状態が続くことに乗っている。しかし、競合の追い上げと関税・為替・景気が同時に悪化したとき、小さな会社の利益は大きく削られる。
どちらに重みを置いたか
筋書きの確率は、やや慎重な側に寄せた。強みは継続収入の厚みと製品の入れ替えの成功だが、今の利益率は景気の山にあり、中国勢の追い上げと関税・為替は10年のあいだに利益を削りうる。中立は、売上は物価並みに伸び、営業利益率は10%強に下がる姿とした。強気の見方が成り立つのは、産業用の成長とインクの継続収入が利益率を保つ場合だ。慎重な見方が成り立つのは、本体の値崩れが続き、互換インクが囲い込みを崩す場合だ。10年では、後者のほうが起きやすい。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,143 円1,490 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,083 円314 億円)。 今の値に割り戻すと 3,184 円923 億円、今との差 +40.8%、 期待の年率 +10.7%(資本コスト 7.8%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 10,408 円3,016 億円 | 1,629 円472 億円 | +432.1% | +18.2% | 1,204 円349 億円 |
| やや楽観 | 20% | 7,540 円2,185 億円 | 1,311 円380 億円 | +291.3% | +14.6% | 1,770 円513 億円 |
| 中立 | 33% | 5,434 円1,575 億円 | 1,097 円318 億円 | +188.8% | +11.2% | 2,155 円625 億円 |
| やや悲観 | 25% | 2,853 円827 億円 | 863 円250 億円 | +64.3% | +5.1% | 929 円269 億円 |
| 悲観 | 12% | 733 円212 億円 | 670 円194 億円 | −38.0% | −4.7% | 168 円49 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,143 円1,490 億円 | 1,083 円314 億円 | +175.3% | +10.7% | 6,227 円1,804 億円 |
今の株価時価総額 2,262 円655 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 産業用が伸び、中計の売上目標に届く 利益 169 億円 · PER 17.7 倍 · 株価時価総額 10,408 円3,016 億円
産業用が、床材・家具・容器・部品への印刷で広く採用され、世界の対象市場を上回る速さで売上が伸びる。ミマキは自社のインクとヘッド制御で、素材ごとの最適な組み合わせを顧客に示し、シェアを伸ばす。SGは、エコソルベント機の好調が続き、アナログから機械印刷への移行を取り込む。TAは、昇華転写の新しい旗艦機が、DTFの落ち込みを埋める。インクと保守の継続収入が、機械の稼働台数とともに積み上がり、営業利益率は13%を超える。中計が目指す売上1,500億円は、前倒しで達成される。新分野の高粘度インクや周辺機器にも利益が出始め、2036年3月期の売上は約1,800億円に達する。 一方で、これだけ伸びても、資本は配当と自社株買いで4割ほどを返し、残りを成長投資に回す形が崩れない。
- サイン・グラフィックス(SG):数量 10,400(世界の大判印刷市場(本体・インク・保守、実質・億円、推定)× シェア)× 価格 6.7%(シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 697 億円・営業利益 91 億円。エコソルベントの好調が続きアナログからの移行も取り込む(実質の市場 10,400億円 × シェア 5.0%、物価込みで名目)
- 産業用(IP):数量 7,200(産業用インクジェット(工業製品・加飾)の対象市場(実質・億円、推定)× シェア)× 価格 7.8%(シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 560 億円・営業利益 90 億円。床材・家具・容器の印刷が広がり成長分野になる(実質の市場 7,200億円 × シェア 5.8%、物価込みで名目)
- テキスタイル(TA):数量 4,800(デジタル捺染(テキスタイル向けインクジェット)の対象市場(実質・億円、推定)× シェア)× 価格 4.8%(シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 232 億円・営業利益 23 億円。昇華転写の新旗艦機がDTFの落ち込みを埋める(実質の市場 4,800億円 × シェア 3.6%、物価込みで名目)
- 保守・ソフト・FA・その他:数量 125(稼働している本体の台数の指数(今を 100 とする))× 価格 2.52(指数 1 あたりの売上(億円)= 物価の倍率で上がる)→ 売上 315 億円・営業利益 60 億円。稼働台数の増加で継続収入が厚くなる(稼働している本体の指数 125、価格は物価込みで名目)
倍率:事業の純利益 169 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.7 倍。全体の PER 17.68 倍、時価総額 2,988 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:産業用の拡大と継続収入の厚みが続き、中計の売上目標を上回る姿。成長分野の見通しは明るいが、利益率13%は過去の最高を超えるため、確率は1割に抑えた。
やや楽観 20% 新製品が効き、利益率が高いまま伸びる 利益 123 億円 · PER 17.2 倍 · 株価時価総額 7,540 円2,185 億円
新製品の入れ替えが順調に進み、SGとIPの両方でシェアを少しずつ伸ばす。TAは、DTFの値崩れが落ち着き、昇華転写で巻き返す。インクと保守の継続収入は、機械の稼働台数に合わせて安定して伸び、本体の景気の波を吸収する。営業利益率は12%前後を保ち、売上は約1,470億円になる。新分野の高粘度インクや有機ELシートは、種として育つが、まだ全社を引っ張る規模には至らない。資本は配当を厚くしつつ、成長投資にも回す形が続く。 競合のキヤノンやエプソン、HPなども新製品を出すが、ミマキは中価格帯の新型機の割安感で顧客を守る。インク販売は機械の台数に応じて着実に増える。
- サイン・グラフィックス(SG):数量 9,440(世界の大判印刷市場(本体・インク・保守、実質・億円、推定)× シェア)× 価格 6.0%(シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 569 億円・営業利益 68 億円。新製品でシェアを少し伸ばす(実質の市場 9,440億円 × シェア 4.5%、物価込みで名目)
- 産業用(IP):数量 6,300(産業用インクジェット(工業製品・加飾)の対象市場(実質・億円、推定)× シェア)× 価格 6.8%(シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 431 億円・営業利益 62 億円。産業用の採用が着実に増える(実質の市場 6,300億円 × シェア 5.1%、物価込みで名目)
- テキスタイル(TA):数量 4,200(デジタル捺染(テキスタイル向けインクジェット)の対象市場(実質・億円、推定)× シェア)× 価格 4.4%(シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 186 億円・営業利益 16 億円。DTFの値崩れが落ち着き巻き返す(実質の市場 4,200億円 × シェア 3.3%、物価込みで名目)
- 保守・ソフト・FA・その他:数量 115(稼働している本体の台数の指数(今を 100 とする))× 価格 2.45(指数 1 あたりの売上(億円)= 物価の倍率で上がる)→ 売上 281 億円・営業利益 51 億円。継続収入が安定して伸びる(稼働している本体の指数 115、価格は物価込みで名目)
倍率:事業の純利益 123 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.7% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.2 倍。全体の PER 17.16 倍、時価総額 2,111 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新製品の入れ替えが成功し、今の利益率を保ったまま伸びる姿。蓋然性はあるが、景気の山の利益率を保つ前提なので、2割にとどめた。
中立 33% 物価並みの成長で、利益率は10%強へ戻る 利益 92 億円 · PER 16.2 倍 · 株価時価総額 5,434 円1,575 億円
世界の大判印刷は、実質で緩やかに伸びる。ミマキは、SGでシェアを保ち、IPで市場の伸びに乗って売上を増やす。TAは、DTFの安値競争で本体の利益が落ちるが、インクは続く。インクと保守は、稼働台数の増加に合わせて伸びる。一方、営業利益率は、景気の山の11%から10%台前半へ下がる。中国勢の価格圧力と、新分野への投資の負担が重なるためだ。売上は物価の上昇とほぼ同じ年4%台で伸び、2036年3月期に約1,300億円になる。中計の1,500億円は届かないが、会社が掲げる8%以上の営業利益率は保つ。 資本は、配当と自社株買いで利益の4割ほどを返し、残りを開発と設備に回す。ROEは自己資本が積み上がる分だけ、10%前後まで下がる。
- サイン・グラフィックス(SG):数量 8,960(世界の大判印刷市場(本体・インク・保守、実質・億円、推定)× シェア)× 価格 5.8%(シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 521 億円・営業利益 55 億円。シェアを保ち緩やかに伸びる(実質の市場 8,960億円 × シェア 4.3%、物価込みで名目)
- 産業用(IP):数量 5,625(産業用インクジェット(工業製品・加飾)の対象市場(実質・億円、推定)× シェア)× 価格 6.4%(シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 362 億円・営業利益 49 億円。市場の伸びに乗って売上が増える(実質の市場 5,625億円 × シェア 4.8%、物価込みで名目)
- テキスタイル(TA):数量 3,900(デジタル捺染(テキスタイル向けインクジェット)の対象市場(実質・億円、推定)× シェア)× 価格 4.1%(シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 159 億円・営業利益 10 億円。DTFの安値競争で本体の利益が落ちる(実質の市場 3,900億円 × シェア 3.0%、物価込みで名目)
- 保守・ソフト・FA・その他:数量 108(稼働している本体の台数の指数(今を 100 とする))× 価格 2.40(指数 1 あたりの売上(億円)= 物価の倍率で上がる)→ 売上 259 億円・営業利益 40 億円。稼働台数に合わせて伸びる(稼働している本体の指数 108、価格は物価込みで名目)
倍率:事業の純利益 92 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.2 倍。全体の PER 16.18 倍、時価総額 1,489 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:世界の大判印刷の実質の伸びと物価で売上が伸び、利益率は景気の山から平均へ戻る姿。業界の見通しと過去の利益率の動きに最も沿うため、最も高い確率を置いた。
やや悲観 25% 中国勢と関税で、本体の利益率が削られる 利益 58 億円 · PER 12.6 倍 · 株価時価総額 2,853 円827 億円
中国勢が、SGとIPの中価格帯に低価格機を投入し、ミマキは値下げかシェア低下かを迫られる。米国の関税が上乗せされ、北米の本体の利益が薄くなる。TAは、DTFの値崩れが長引き、赤字に近づく。インクと保守は残るが、互換インクにじわじわ侵食される。営業利益率は8%台まで下がり、売上は約1,070億円にとどまる。経営は研究開発を守るため、配当は増やしにくくなる。ROEは資本コストを下回り、利益の質が下がる。 営業の現場では、新製品の発売を急ぐあまり、新旧の入れ替えで在庫が重くなる年も出る。それでも赤字には落ちず、利益は薄くなる。
- サイン・グラフィックス(SG):数量 8,400(世界の大判印刷市場(本体・インク・保守、実質・億円、推定)× シェア)× 価格 5.1%(シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 428 億円・営業利益 34 億円。中価格帯の低価格機に押されシェアが下がる(実質の市場 8,400億円 × シェア 3.8%、物価込みで名目)
- 産業用(IP):数量 4,950(産業用インクジェット(工業製品・加飾)の対象市場(実質・億円、推定)× シェア)× 価格 5.9%(シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 292 億円・営業利益 29 億円。価格競争で伸びが鈍る(実質の市場 4,950億円 × シェア 4.4%、物価込みで名目)
- テキスタイル(TA):数量 3,450(デジタル捺染(テキスタイル向けインクジェット)の対象市場(実質・億円、推定)× シェア)× 価格 3.4%(シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 116 億円・営業利益 3 億円。DTFの値崩れが長引き赤字に近づく(実質の市場 3,450億円 × シェア 2.5%、物価込みで名目)
- 保守・ソフト・FA・その他:数量 100(稼働している本体の台数の指数(今を 100 とする))× 価格 2.33(指数 1 あたりの売上(億円)= 物価の倍率で上がる)→ 売上 233 億円・営業利益 35 億円。互換インクにじわじわ侵食される(稼働している本体の指数 100、価格は物価込みで名目)
倍率:ROE 7.6% が資本コスト 7.75% を下回るため、PER の上限は 1÷k の 12.1 倍。本体の落ち込みで利益の質が下がるので、その 87% の 12.63 倍に置いた。
確率:中国勢の低価格化と関税・為替が本体の利益を削り、シェアが少し下がる姿。小さな会社が価格競争に巻き込まれやすい構造と、過去の景気後退での利益の振れから、4分の1を置いた。
悲観 12% 構造的に負ける:互換インクと安い機械に囲い込みを崩される 利益 19 億円 · PER 11.2 倍 · 株価時価総額 733 円212 億円
互換インクが広がり、純正インクの囲い込みが崩れる。中国勢が本体を大幅に値下げし、ミマキの世界シェアはSGで3%、IPで4%弱まで下がる。広告のデジタル化も重なり、SGの需要は実質で縮む。TAは赤字に落ち、FAも自動車の不振で縮小する。インクと保守の収入は、機械の稼働台数が減るとともに細る。営業利益率は4%台まで落ち、売上は約800億円になる。経営は新分野への投資を絞り、研究開発も削る。それでも、残った保守とインクの収益が、事業を黒字に保つ床になる。 売上の7割強を占める海外で、現地の代理店が中国勢の機械へ乗り換える動きも出る。
- サイン・グラフィックス(SG):数量 7,600(世界の大判印刷市場(本体・インク・保守、実質・億円、推定)× シェア)× 価格 4.0%(シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 306 億円・営業利益 9 億円。互換インクと安い機械、広告のデジタル化で縮む(実質の市場 7,600億円 × シェア 3.0%、物価込みで名目)
- 産業用(IP):数量 4,500(産業用インクジェット(工業製品・加飾)の対象市場(実質・億円、推定)× シェア)× 価格 5.1%(シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 229 億円・営業利益 11 億円。シェアを失い値下げを強いられる(実質の市場 4,500億円 × シェア 3.8%、物価込みで名目)
- テキスタイル(TA):数量 2,700(デジタル捺染(テキスタイル向けインクジェット)の対象市場(実質・億円、推定)× シェア)× 価格 2.4%(シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 65 億円・営業利益 −1 億円。赤字に落ちる(実質の市場 2,700億円 × シェア 1.8%、物価込みで名目)
- 保守・ソフト・FA・その他:数量 88.0(稼働している本体の台数の指数(今を 100 とする))× 価格 2.28(指数 1 あたりの売上(億円)= 物価の倍率で上がる)→ 売上 201 億円・営業利益 20 億円。稼働台数の減少で細る(稼働している本体の指数 88、価格は物価込みで名目)
倍率:ROE 3% で資本コスト 7.75% を大きく下回り、PER の上限は 1÷k の 12.1 倍。ためた利益は額面未満の価値と見る。継続収入は残るが、構造的に縮む事業なので、87% の 11.18 倍とし、稼ぐ力だけで価値を置いた。
確率:互換インクと安い機械が、インクの囲い込みと本体の値段の両方を壊し、構造的に負ける姿。悲観が5%未満でないことは、過去に2度赤字を出した利益の振れの大きさと、中国勢の追い上げの勢いによる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
サイン・グラフィックス(SG)
看板・ポスター・車両ラッピングなど広告・表示向けの大判インクジェットプリンターと、そのインク。
| 数量世界の大判印刷市場(本体・インク・保守、実質・億円、推定)× シェア | 価格シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8,000 | 4.3% | 347 | 34 |
| 10 年後 中立 | 8,960 | 5.8% | 521 | 55 |
取り方:SGの売上347億円を、世界の大判印刷市場(本体・インク・保守。調査会社の本体市場約39億ドルにインクと保守を足した推計で約8,000億円)に対するシェア約4.3%として置いた。市場の開示がないため推定。数量は実質の市場、物価3%は価格に入れた。
産業用(IP)
工業製品・パッケージ・床材などへの加飾や直接印刷に使うUVインクジェット機とインク。
| 数量産業用インクジェット(工業製品・加飾)の対象市場(実質・億円、推定)× シェア | 価格シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4,500 | 4.8% | 216 | 28 |
| 10 年後 中立 | 5,625 | 6.4% | 362 | 49 |
取り方:産業用の売上216億円を、工業製品・加飾向けインクジェットの対象市場約4,500億円に対するシェア約4.8%として置いた。市場の開示は無く推定。数量は実質、物価3%は価格に入れた。
テキスタイル(TA)
衣料・布地・ユニフォームなどに刷る昇華転写・DTF・顔料のインクジェット機とインク。
| 数量デジタル捺染(テキスタイル向けインクジェット)の対象市場(実質・億円、推定)× シェア | 価格シェア × 物価の倍率(実質の市場 1 億円あたりの売上・億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,000 | 3.2% | 96 | 5 |
| 10 年後 中立 | 3,900 | 4.1% | 159 | 10 |
取り方:TAの売上96億円を、デジタル捺染(インクジェットでの布への印刷)の対象市場約3,000億円に対するシェア約3.2%として置いた。市場の開示は無く推定。数量は実質、物価3%は価格に入れた。
保守・ソフト・FA・その他
保守部品・保守サービス・ソフト・周辺機器と、自動車向けのFA(組立・検査)装置。
| 数量稼働している本体の台数の指数(今を 100 とする) | 価格指数 1 あたりの売上(億円)= 物価の倍率で上がる | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 1.79 | 179 | 27 |
| 10 年後 中立 | 108 | 2.40 | 259 | 40 |
取り方:保守部品・保守サービス・ソフト・周辺機器とFA事業の合計179億円(保守部品75億円、FA41億円、その他)。稼働している本体の累積台数に連動すると見て、今を指数100とした。物価3%は価格に入れた。
リスクと懸念
中国メーカーの低価格攻勢
大判プリンターは、中国メーカーも作れる。SG・IPの中価格帯、TAのDTF機では、本体の値段が下がり続ける。ミマキの規模では、価格競争で体力が先に尽きる可能性がある。DTF機の落ち込みは、すでに2026年3月期のTAの減収に出た。本体が安くなれば、そのあとに続くインクの顧客も減る。利益率の低下が連鎖する恐れがある。
互換インクによる囲い込みの崩れ
売上の約半分を占めるインクと保守が、ミマキの利益の土台だ。互換インクが広がれば、純正インクの価格と販売量が下がる。本体を売ったあとの継続収入が細ると、利益は本体の景気と値段にそのまま左右される。ここが崩れれば、景気の波に弱い会社に戻る。
米国の関税と為替
北米は売上の2割強を占め、海外全体では7割強に達する。関税の上乗せを価格へ転嫁できなければ、利益が削られる。為替が円高に振れれば、円換算の売上が目減りする。本分析は1ドル150円の固定で見ているが、現実の振れ幅は大きい。為替で上振れした利益は一時的で、事業の実力ではない。
景気の山の利益率を見誤る危険
営業利益率11%は過去最高で、2021年3月期は赤字、2020年3月期の利益率も2%台だった。広告や設備投資の景気に利益が大きく振れる事業だ。今の利益を基準に会社を高く見積もると、谷で値段を大きく割る。
新分野への投資が実らない
高粘度インクによる塗装、折り曲げ可能な有機ELシート、周辺機器は、中計が掲げる新しい成長の柱だ。売上の1〜2%を別枠で投じるが、市場もシェアも見えない分野で、収益化まで時間がかかる。成果が出なければ、費用だけが残り、利益率が下がったまま戻らない。
FA事業の不振
自動車向けの組立・検査装置のFA事業は、2026年3月期に売上が約2割減った。自動車の設備投資に左右され、波が大きい。全体の5%にすぎないが、景気の谷では固定費を抱えて赤字の足を引く。会社は中計で、この事業の位置づけを見直す余地が残る。
今後の分かれ目
- インクと保守の売上比率が、5割から6割へ上がる
- 利益の土台が厚くなり、悲観の確率が下がる。10年の価値は、今の値段を上回る方向へ動く。
- 産業用(IP)の売上が、市場の伸びを上回る速さで増える
- シェアを伸ばしている証拠になり、強気の筋書きに近づく。
- 互換インクの採用が広がり、インクの売上が減る
- 囲い込みの崩れが現実になり、悲観の筋書きに近づく。
- 米国の関税が上がり、北米の利益率が目に見えて落ちる
- 転嫁が難しいことが確かになり、やや悲観の確率が上がる。
- 中計の売上目標を前倒しで達成し、営業利益率が12%を超えて保たれる
- 景気の山ではなく実力の上昇と読め、中立の利益率を上げる根拠になる。
- 新分野(高粘度インク・有機ELシート)への投資が大型の買収や増資に変わる
- 資本配分の質が変わり、価値を見直す必要が出る。
見ておくもの
- インクと保守部品の売上比率
- 産業用(IP)とSGの本体売上の伸び
- 営業利益率(10%を保てるか)
- 北米の売上と関税の影響
- 互換インクの広がり
- 配当と自己株式取得の方針
- 新分野(高粘度インク・有機ELシート)の売上の立ち上がり
倍率と資本コストの決め方
倍率は、10年後の中立の ROE(10.5%)・資本コスト(8.25%)・成長(4%)から正当化 PER を計算し、その 9 割に置いた。今の株価や PER、同業の倍率は根拠にしていない。悲観は、稼ぐ力(純利益 ÷ 資本コストの上限)で置き、過去の PBR の底は使っていない。10年後の利益率は、今の最高益のままではなく、2023年3月期の6%から今の11%までの動きと、中国勢との競争構造から置いた。数量は実質、物価は価格に入れた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→17.68 倍・やや楽観 PER 12.8→17.16 倍・中立 PER 12.2→16.18 倍・やや悲観 PER 10.5→12.63 倍・悲観 PER 10.5→11.18 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75% を足して k 7.75%。純負債は小さく、上乗せは置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。