結論
エスペックは、製品を高温・低温・多湿・振動の中に置いて、壊れ方を調べる「環境試験器」の世界大手だ。国内シェアは6割を超え、世界でもドイツ勢と並ぶ2強の一角にいる(いずれも会社の推定)。筆者の結論は「適正」だ。事業は堅いが、利益率が1割前後にとどまるため、10年後の本質価値は今の時価総額と大差ない。
強みは、顧客の開発の現場に入り込んだ「定番の道具」であることだ。車、電池、半導体、通信機器の新製品は、世に出す前に必ず厳しい環境で試される。試験が増えれば装置も増える。いまは北米の衛星通信とアジアのAI半導体で受注が伸び、2027年3月期の第1四半期の受注は初めて200億円を超えた。
弱みは稼ぐ力だ。営業利益率は10%前後で、同じ領域のキーエンスや日置電機のような高さはない。特注の大型機が多く、中国では値下げ競争があり、受託試験は赤字に近い。中期計画の利益目標も下方修正された。
資本は堅実だ。自己資本比率は74%、純現金は141億円ある。この現金は大型案件の前受金や運転資金に回る性格が強く、事業の外に余っているとは見ない。還元は厚くなり、60億円の自社株買いを決めた。
10年の中立の筋書きは、売上1,200億円、営業利益率12%だ。楽観ではAI向けが柱になって利益率が15%を超え、悲観では中国勢の値下げで普通の装置メーカーに落ちる。確率で重みづけした本質価値は、今の時価総額とほぼ等しい。割安でも割高でもなく、10年かけて資本コスト並みに報われる値段、というのが筆者の見立てだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で最初に問うのは、「10年後も、この会社を持ち続けたいか」だ。答えは「持っていてよい会社だが、値段次第」になる。
試験器の需要は消えない。新製品は必ず試されるからだ。ただ、オーナーの取り分、つまり再投資を引いたあとに自由に使える利益は、利益率1割の事業では大きくならない。売上が1,200億円になっても、営業利益は140億円台にとどまる。
資本の使い方は改善している。現金をためる会社から、還元と増強投資で使う会社へ変わりつつある。ただし、増強投資を景気の山で行うと重荷になる。福知山と北米の増設が受注に見合うか、2027年度後半の稼働まで見ておきたい。
安全域はある。悲観の筋書きでも事業は続き、純現金と投資有価証券で約185億円が残る。倒産の心配はない。しかし悲観では価値が今の2割弱まで下がる。割安と言い切れない理由はここにある。
筆者は、わかりやすい事業で、確信度は高いと見る。そのうえで、今の値段は中立の筋書きをほぼ織り込んでおり、買い増したくなるほどの安全域はない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は装置事業で、売上の85%を占める。恒温恒湿器、冷熱衝撃装置、温度と振動を組み合わせた装置など、環境試験器が主力だ。小さな卓上機から、車ごと入る部屋型まで幅が広い。半導体の不良品を出荷前にふるい落とす「バーンイン装置」と、その計測評価システムも、この事業に入る。
顧客は自動車、電池、電子部品、半導体、航空宇宙、通信と幅広い。1社に偏らないが、設備投資の波は受ける。大型機や複数台の一括案件が多く、顧客の都合で納入が数カ月ずれると、売上を計上する期もずれる。2027年3月期の第1四半期は、国内の自動車関連の大型案件が第2四半期にずれ、売上と利益が会社の予想に届かなかった。
サービス事業は売上の12%を占め、納めた装置の保守・点検・校正と、受託試験からなる。保守は設置した台数に比例して積み上がる安定した商売だ。一方の受託試験は、愛知の次世代モビリティ向け試験所のように設備を先に持つ重い商売で、EV需要の減速で収益が悪化した。2026年3月期のサービス事業の営業利益は2億円台で、前の期の3分の1以下に落ちた。
その他事業は小さく、食品機械と熱解析のサービスがある。会社は新しい柱として育てたい考えだが、まだ全体の利益を動かす規模ではない。
売上の地域は、日本が約5割、中国と北米がそれぞれ2割弱、東南アジア・インドが7%ほどだ。工場は日本、米国、中国に置く。福知山工場は2024年度に能力を1.4倍にし、2027年度にさらに約3割増やす。北米でも増強投資を進めている。受注残は303億円と厚く、売上の4割強にあたる。
優良さと弱いところ
エスペックの優良さは「定番であること」にある。環境試験器は一度入れると何十年も使われ、試験の条件や記録の取り方が顧客の品質管理に組み込まれる。別のメーカーに替えると、過去のデータと比べにくくなる。国内で6割を超えるシェアは、この切り替えにくさの結果だ。
ただし、堀、つまり他社がまねしにくい強みは広くない。環境試験器は構造が比較的わかりやすく、中国や台湾、欧州に競合が多い。世界ではドイツのヴァイス・テクニックが並ぶ強豪だ。値決めの力は強くなく、営業利益率が10%前後にとどまるのがその証拠だと筆者は見る。堀は「普通」と置き、強いとは書かない。
資本の効率は並だ。自己資本利益率は過去10年の中央値が8%弱で、資本コストに届かない年が多かった。景気の谷では赤字も出している(2010年3月期など)。借金はほとんどなく、財務の安全度は高い。
経営は、中期計画で利益率と自己資本利益率の目標を掲げ、還元も厚くする方向に動いている。一方で、2027年度の営業利益の目標は105億円から91億円へ下方修正された。北米の増強投資、中国と受託試験の収益改善の遅れが理由だ。利益を伴う実行力は、まだ証明の途上にある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
環境試験器の需要は、顧客が行う開発と品質保証の量で決まる。世界の市場は調査会社の推計でおよそ10〜15億ドルで、年の伸びは名目で3%前後と見られている。物価の分を除けば、数量はほぼ横ばいに近い。
そこに、試験が増える構造の変化が3つ重なる。AI半導体は発熱が大きく、出荷前の選別試験(バーンイン)の台数と時間が増える。自動運転は、車載の電子部品に厳しい信頼性試験を課す。衛星通信は、宇宙環境を模した試験が欠かせない。会社が狙う3つの市場は、まさにここだ。
一方、EV・電池向けは投資が一巡し、受注が想定どおり減った。ブームで売れた設備の反動が出る点が、この業界の循環の怖さだ。2026年3月期の受注は前の期から7%増えたが、2027年3月期の受注計画は3.6%減と、会社は保守的に見ている。
競争は地域で違う。日本は事実上の独走で、欧州ではヴァイス・テクニックなどが強い。米国にはサーモトロンなどがいる。中国では地場メーカーが台頭し、汎用の恒温恒湿器は値下がりが続く。半導体のバーンイン装置は米国のエイハーなど専業が強く、エスペックは試験器の知見を生かして食い込む立場だ。
筆者の見立てでは、10年で試験の数量はAIなど新しい需要で実質2割台伸びる。値段は物価並みに上がるが、汎用品は中国勢に抑えられ、AI向けの特注品が上積みする。景気に左右される産業であることは変わらない。
資本政策と M&A
還元は厚くなる方向だ。中期計画の3年間は総還元性向50%以上、連結配当性向40%以上とし、減配はしない。2026年8月には、上限60億円、発行済株式の6.07%にあたる自社株買いを決めた。直前の35億円の枠を終えた直後で、2回合わせて時価総額の約1割になる。
自己資本比率は74%と高い。会社は「70%以内」「手元流動性は売上の3カ月分以内」を管理の目標に置いた。積み上がった現金は使うという宣言だ。使い道は工場の増強(福知山・北米)と還元になる。
政策保有株は上場104銘柄で簿価44億円と、自己資本の1割に満たない。毎年、取締役会で保有の適否を点検し、2026年3月期は5銘柄を売った。大株主は信託銀行の口座、取引先持株会、生命保険会社で、親会社や支配株主はいない。
M&Aは目立たない。中期計画に大型の買収は掲げられていない。一方、買われる側になる可能性は、時価総額が900億円台と小さく、世界2強の座にあるため、無視できない。参考値(kabufuの推計)では、10年以内に買収を受ける確率は18%ある。この上乗せは価値には入れていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIの時代は、試験の時代だ。半導体は微細化と積層で発熱が増え、出荷前の選別に長い時間がかかる。自動運転と衛星通信は、故障が許されない用途で、試験の条件が年々厳しくなる。エスペックはこの3つを狙い、AIサーバー向けの試験器を2025年12月に、AI半導体向けの新製品を2026年7月に出した。2027年3月期の第1四半期の受注は228億円と過去最大で、受注残も300億円を超える。
利益の面でも改善の余地は大きい。特注品の設計の標準化、価格の見直し、福知山の増強による固定費の分散が進めば、営業利益率は中期計画の当初目標の15%に届く。受託試験が黒字に戻れば、さらに上積みがある。
還元の姿勢も変わった。総還元性向50%以上と、自社株買いの連続は、資本の使い方が変わった証拠だ。自己資本比率を70%以内に管理するのは、ROE12%以上を本気で目指すという意思表示だ。
これだけの条件がそろえば、10年で数量は6割増え、装置の利益率は16%台に乗る。そのときROEは17%に達し、売上1,500億円超の会社が、世界の2強として評価される。
慎重な見方
利益率が10%前後から抜け出せない会社が、10年後に利益を2倍にする理由は薄い。中期計画の2027年度の営業利益の目標は、1年で105億円から91億円に引き下げられた。理由は北米の増強投資、中国の収益、受託試験の遅れで、どれも一時的ではなく構造の問題だ。
環境試験器は、技術的に参入しやすい。中国の地場メーカーは国内の汎用品で価格を下げ、やがて東南アジアや欧州へ出てくる。ドイツの強豪も北米で攻める。値決めの力が弱い会社は、物価が上がっても値上げが通りにくい。
EV・電池向けの反動は、大型設備に特有の波を示している。AI半導体も同じで、投資の勢いが止まれば試験の需要も止まる。福知山と北米で増やした能力が埋まらなければ、減価償却が利益を削る。
さらに、バーンイン装置は専業が強く、エスペックは後発だ。AI向けの新製品は開発が遅れたと、会社自身が認めている。
こうした条件で、10年後の営業利益率は中立の1割強ではなく、1割に届かない。ROEは6〜7%で資本コストを下回り、倍率は10倍にとどまる。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分には、受注の勢いという事実がある。ただ、利益率の改善はまだ証明されていない。慎重な言い分は構造の弱さを突いているが、悲観の底は財務の厚さで支えられる。そこで中立に3割台半ば、やや悲観に2割台半ばを置き、楽観とやや楽観を合わせた強気側は3割にとどめた。悲観側が合計で3割台半ばと、わずかに重い。結果として、確率で重みづけした本質価値は、今の時価総額に近い水準に収まった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,802 円1,661 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,967 円419 億円)。 今の値に割り戻すと 5,156 円1,098 億円、今との差 +15.9%、 期待の年率 +8.2%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 17,596 円3,746 億円 | 2,969 円632 億円 | +362.1% | +16.5% | 1,645 円350 億円 |
| やや楽観 | 22% | 12,013 円2,558 億円 | 2,475 円527 億円 | +225.6% | +12.5% | 3,187 円679 億円 |
| 中立 | 34% | 8,587 円1,828 億円 | 2,137 円455 億円 | +141.0% | +9.2% | 3,646 円776 億円 |
| やや悲観 | 24% | 3,050 円649 億円 | 1,527 円325 億円 | +2.9% | +0.3% | 1,098 円234 億円 |
| 悲観 | 12% | 830 円177 億円 | 766 円163 億円 | −64.2% | −9.8% | 191 円41 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,802 円1,661 億円 | 1,967 円419 億円 | +119.5% | +8.2% | 9,769 円2,080 億円 |
今の株価時価総額 4,450 円947 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% AI半導体と衛星の試験が爆発し、利益率が1割台半ばへ 利益 194 億円 · PER 19.3 倍 · 株価時価総額 17,596 円3,746 億円
AI半導体の選別試験、衛星通信、自動運転の3つが想定以上に伸び、エスペックは「AI時代の試験の定番」として評価される。数量は10年で6割増え、AI向けの高機能機が単価を押し上げる。装置の売上は1,300億円を超え、装置の営業利益率は16%台に乗る。
福知山と北米の増強は、受注で埋まる。特注品の設計を標準化し、粗利益が改善する。受託試験も黒字化し、食品機械や熱解析の新事業も育つ。中国の値下げ競争は日本・北米の高付加価値品で避け、世界2強の座を守る。
資本政策も効く。総還元性向は50%台を保ち、10年で600億円を超える還元を行う。M&Aは小粒で、研究開発に自社の資金を回す。10年後の営業利益は250億円近く、ROEは17%になり、倍率も上がる。
- 装置事業(環境試験器・半導体関連装置):数量 6,400(年間の出荷台数(台・推定))× 価格 2,082(1 台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 1,333 億円・営業利益 220 億円。台数1.6倍、単価1.4倍(AI向けの高単価が上積み)、利益率16.5%
- サービス事業(保守・校正・受託試験):数量 81.0(稼働している設置台数(千台・推定))× 価格 19(1 台あたり年間売上(万円・名目))→ 売上 157 億円・営業利益 13 億円。設置台数1.35倍、利益率8%(受託試験が黒字化)
- その他事業(食品機械・熱解析サービスなど):数量 360(年間の案件数(件・推定))× 価格 2,566(1 件あたり平均売上(万円・名目))→ 売上 94 億円・営業利益 13 億円。件数3倍、利益率14%(食品機械・熱解析が育つ)
倍率:事業の純利益 194 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.3 倍。全体の PER 19.3 倍、時価総額 3,746 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIの試験需要が全社の利益率を1割台半ばへ押し上げる道は開けているが、利益率の改善は中計で下方修正された直後で、実績が伴っていない。確率は1割未満にとどめた。
やや楽観 22% AI向けが柱になり、利益率が1割4分に届く 利益 144 億円 · PER 17.8 倍 · 株価時価総額 12,013 円2,558 億円
AI向けと衛星通信が柱として定着し、EV・電池の落ち込みを埋めて余りある成長になる。数量は10年で4割増え、単価は物価をわずかに上回る。装置の売上は1,100億円を超え、その営業利益率は14%台まで上がる。
福知山の増強で固定費が分散し、特注品の収益も改善する。ただし受託試験の黒字化は途中で、新事業も小さいままだ。中国市場は価格競争が続くが、日本・北米・東南アジアで穴を埋める。
還元は総還元性向50%台で、10年で500億円強を株主に返す。営業利益は180億円台に乗り、ROEは14%近くになる。中期計画が当初掲げた利益率15%には届かないものの、会社が自力で稼げる水準に改善した姿だ。
- 装置事業(環境試験器・半導体関連装置):数量 5,600(年間の出荷台数(台・推定))× 価格 2,022(1 台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 1,133 億円・営業利益 164 億円。台数1.4倍、単価1.36倍、利益率14.5%
- サービス事業(保守・校正・受託試験):数量 78.0(稼働している設置台数(千台・推定))× 価格 19(1 台あたり年間売上(万円・名目))→ 売上 147 億円・営業利益 10 億円。設置台数1.3倍、利益率7%
- その他事業(食品機械・熱解析サービスなど):数量 288(年間の案件数(件・推定))× 価格 2,493(1 件あたり平均売上(万円・名目))→ 売上 73 億円・営業利益 10 億円。件数2.4倍、利益率13%
倍率:事業の純利益 144 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.7% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.8 倍。全体の PER 17.81 倍、時価総額 2,558 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注の勢いは本物で、AI・衛星・自動運転が柱に育つ可能性は十分ある。ただ利益率が1割4分に届くには特注品の収益改善が要る。2割強を置いた。
中立 34% 試験需要は着実に伸び、利益率は計画どおり1割2分台 利益 111 億円 · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 8,587 円1,828 億円
試験の量は10年で2割台半ば増え、値段は物価並みに上がる。装置の売上は約1,000億円、会社全体の営業利益は140億円台、利益率は12%になる。2028年3月期に12%という中期計画の修正目標が出発点で、そこから大きくは動かない前提だ。
AI半導体・衛星通信・自動運転は伸びるが、EV・電池は一巡したまま戻らない。中国の値下げ競争は続くが、日本と北米の特注品で利益を守る。福知山と北米の増強は、能力に見合う受注で埋まる。
受託試験は損益が均衡に戻る程度で、大きな黒字にはならない。還元は総還元性向50%台を保ち、10年で450億円ほどを株主に返す。M&Aは小粒のままだ。堀は普通で、世界2強の座は守るが、利益率を押し上げるほどの値決めの力は生まれない。ROEは11%台に落ち着く。
- 装置事業(環境試験器・半導体関連装置):数量 5,000(年間の出荷台数(台・推定))× 価格 1,993(1 台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 997 億円・営業利益 128 億円。台数1.25倍、単価は物価並みの1.34倍、利益率12.8%
- サービス事業(保守・校正・受託試験):数量 72.0(稼働している設置台数(千台・推定))× 価格 19(1 台あたり年間売上(万円・名目))→ 売上 134 億円・営業利益 8 億円。設置台数1.2倍、利益率6%(受託試験が均衡に戻る)
- その他事業(食品機械・熱解析サービスなど):数量 240(年間の案件数(件・推定))× 価格 2,456(1 件あたり平均売上(万円・名目))→ 売上 60 億円・営業利益 7 億円。件数2倍、利益率12%
倍率:事業の純利益 111 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.3% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.4 倍。全体の PER 16.41 倍、時価総額 1,828 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:試験の数量が着実に伸び、利益率が計画どおり12%台に乗る筋書きを最も重く置いた。堀が普通で、大きな上振れも下振れもない会社の落としどころ。
やや悲観 24% 中国の値下げ競争とEV需要の不振で、利益率が1割を割る 利益 59 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 3,050 円649 億円
中国の地場メーカーが汎用の恒温恒湿器で価格を下げ続け、日本以外では単価が物価ほど上がらない。EV・電池の反動に加え、AI半導体向けも波で、数量は10年を通して横ばいに近い。装置の売上は約750億円にとどまる。
福知山と北米で増やした能力が埋まらず、減価償却が重く、営業利益率は9%台にとどまる。受託試験は赤字に近い状態が続き、サービス事業の利益は薄いままだ。バーンイン装置も専業に押され、AI向けの新製品は伸びない。
それでも事業は黒字で、財務の厚さから還元は続ける。10年の営業利益は80億円弱、ROEは6〜7%で資本コストを下回る。世界2強の座は維持するが、「普通の装置メーカー」の評価に近づく。
- 装置事業(環境試験器・半導体関連装置):数量 4,000(年間の出荷台数(台・推定))× 価格 1,859(1 台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 744 億円・営業利益 71 億円。台数横ばい、単価は1.25倍(汎用が中国勢に抑えられる)、利益率9.5%
- サービス事業(保守・校正・受託試験):数量 66.0(稼働している設置台数(千台・推定))× 価格 17(1 台あたり年間売上(万円・名目))→ 売上 115 億円・営業利益 3 億円。設置台数1.1倍、利益率3%
- その他事業(食品機械・熱解析サービスなど):数量 180(年間の案件数(件・推定))× 価格 2,291(1 件あたり平均売上(万円・名目))→ 売上 42 億円・営業利益 4 億円。件数1.5倍、利益率9%
倍率:ROEは6.7%で資本コスト7.5%を下回り、ためた利益は額面より低く評価される。この場合、正当化PBRは(ROE−g)÷(k−g)の約0.7倍で、PERでは約10倍。稼ぐ力に見合う10倍に置いた。
確率:中国の値下げ競争とEV・電池の反動は、すでに数字に出ている。利益目標の下方修正も続けて起きており、強気より慎重の言い分がわずかに強い。この筋書きを2割台半ばに寄せた。
悲観 12% 価格破壊で堀が崩れ、ふつうの装置メーカーに落ちる 利益 20 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 830 円177 億円
中国勢が汎用品で価格を大きく下げ、東南アジア・欧州・北米へ展開して価格破壊が起きる。ドイツの強豪との差別化も難しくなり、環境試験器は値決めの力をほぼ失う。数量は10年で15%減り、単価は物価の3分の1ほどしか上がらない。
バーンイン装置は専業の強さとAI向け開発の遅れで定着せず、福知山と北米の増強は過剰設備になる。受託試験は赤字が続き、減損も出る。装置の営業利益率は5%に落ち、全社でも1割を大きく下回る。
それでも倒産の心配はなく、純現金と投資有価証券の約185億円は残る。ただし稼ぐ力は営業利益30億円弱、純利益20億円ほどに縮み、ROEは2%台。還元は利益の半分以下に落とす。世界2強の評価は、過去のものになる。
- 装置事業(環境試験器・半導体関連装置):数量 3,400(年間の出荷台数(台・推定))× 価格 1,636(1 台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 556 億円・営業利益 28 億円。台数0.85倍、単価1.1倍(価格破壊)、利益率5%
- サービス事業(保守・校正・受託試験):数量 57.0(稼働している設置台数(千台・推定))× 価格 15(1 台あたり年間売上(万円・名目))→ 売上 87 億円・営業利益 −1 億円。設置台数0.95倍、受託試験の赤字が残り-1%
- その他事業(食品機械・熱解析サービスなど):数量 132(年間の案件数(件・推定))× 価格 2,016(1 件あたり平均売上(万円・名目))→ 売上 27 億円・営業利益 1 億円。件数1.1倍、利益率4%
倍率:ROEは2.4%と資本コストを大きく下回り、事業の稼ぎだけの価値は純現金と上場株の簿価(約185億円)並みにとどまる。PER9倍は、この水準に見合う値で、床の資産と整合する。
確率:世界2強の座と財務の厚さがあり、堀が完全に崩れる確率は高くない。ただ過去に赤字の年もあり、中国勢の台頭と価格破壊は現実の脅威なので、1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
装置事業(環境試験器・半導体関連装置)
恒温恒湿器・冷熱衝撃装置・振動試験機などの環境試験器と、半導体のバーンイン装置・計測評価システム。売上の85%、利益のほぼすべてを稼ぐ。
| 数量年間の出荷台数(台・推定) | 価格1 台あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4,000 | 1,487 | 595 | 66 |
| 10 年後 中立 | 5,000 | 1,993 | 997 | 128 |
取り方:装置事業の売上595億円を、年間約4,000台×平均単価約1,490万円に分けた推定(台数は開示なし)。小さな卓上機は数百万円、部屋型・特注機は億円超で、平均はその混ぜ合わせ。世界の環境試験器の市場約13億ドル(調査会社6社の中央)×世界シェア30%は約4億ドル=約600億円で、この規模と合う。台数は実質で、単価は物価3%で名目に上がる。営業利益は装置事業の実績66億円。
サービス事業(保守・校正・受託試験)
納めた装置の保守・点検・校正と、愛知の試験所などでの受託試験。売上の12%だが、受託試験が足を引っ張り利益は薄い。
| 数量稼働している設置台数(千台・推定) | 価格1 台あたり年間売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 14 | 83 | 2 |
| 10 年後 中立 | 72.0 | 19 | 134 | 8 |
取り方:サービスの売上83億円を、稼働している設置台数約6万台(推定)×1台あたり年約14万円に分けた。保守・校正は装置の設置台数に比例して増え、受託試験は設備の稼働に応じる。単価は物価で上がる名目。営業利益2.3億円はセグメントの実績で、前の期の7.9億円から受託試験の悪化で落ちた。
その他事業(食品機械・熱解析サービスなど)
食品機械と熱解析(CAE)のサービス。会社が新しい柱として育てる途上の小さな事業。
| 数量年間の案件数(件・推定) | 価格1 件あたり平均売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 120 | 1,833 | 22 | 2 |
| 10 年後 中立 | 240 | 2,456 | 60 | 7 |
取り方:その他事業の売上は、セグメント間の取引を除いた約22億円を、年約120件×平均約1,830万円に置いた推定(件数は開示なし)。食品機械と熱解析のサービス。営業利益2.4億円は実績で、全社の消去分0.1億円は調整に入る。
リスクと懸念
利益率が1割台から上がらない
2027年度の営業利益の目標は、中期計画の1年目に105億円から91億円へ下方修正された。北米と福知山の増強で固定費が先に増え、中国と受託試験の収益は戻っていない。特注品の収益改善が遅れれば、10年を通して利益率は1割前後のままで、本質価値はこの筋書きで決まる。
設備投資の波と受注の期ずれ
顧客の設備投資で受注が決まるため、EV・電池向けのように、ブームのあとに急な反動が出る。大型機は納入が数カ月ずれ、売上を計上する期もずれる。2027年3月期の第1四半期はこれで予想に届かなかった。景気の谷には赤字もありうる(2010年3月期は純損失26億円)。
中国勢の台頭と価格競争
環境試験器は構造が比較的わかりやすく、中国の地場メーカーが汎用品で値下げを続けている。中国の売上は2割弱を占め、この競争の直撃を受ける。今後、東南アジアや欧州へ出てくれば、世界2強の座も、価格の面から崩れる可能性がある。
受託試験の重い設備
愛知の次世代モビリティ向け試験所などは、設備を先に持つ事業で、需要が落ちても固定費が残る。EV需要の減速で収益が悪化し、サービス事業の営業利益は前の期の3分の1以下に落ちた。回復が遅れれば、減損や追加の損失もありうる。
増強投資の回収
福知山は2027年度に約3割の能力増を、北米も増強を進めている。稼働は2027年度後半の予定だ。受注が伸びなければ、減価償却と人件費が先に利益を削る。2回続けた自社株買いと増強投資が同時に進むため、景気の山での投資になるおそれがある。
バーンイン装置の後発の立場
AI半導体向けの選別試験は、米国のエイハーなど専業が強い市場だ。会社自身も、AI向けの新製品の開発・投入が遅れたと認めている。新製品2機種を2026年7月に出したが、定着するかはこれからの受注で決まる。
今後の分かれ目
- 営業利益率が2期連続で12%を超えた
- 中立の筋書きを上に見直し、楽観・やや楽観側に確率を寄せる。特注品の収益改善と固定費の分散が実績で確認できたことになる。
- AI半導体向けの新製品が、2027年度までに大型の継続受注を取った
- バーンイン装置が定着したと見て、装置の台数と単価を上げ、楽観側の確率を高める。
- 福知山と北米の増強後も受注が伸びず、稼働率が低い
- 減価償却が利益を削る筋書きが現実になる。やや悲観側に確率を寄せ、利益率の前提を下げる。
- 中国の地場メーカーが日本や東南アジアで大型案件を取り始めた
- 価格破壊の入口と見て、悲観の確率を上げ、単価の上がり方の前提を下げる。
- EV・電池向けの受注が底打ちして回復した
- 設備投資の循環が戻る前触れだが、数量の上振れは数年限りとして、10年の前提は大きく変えない。
- 自社株買いや大型の資本政策、あるいは買収の提案が出た
- 自社株買いが続くなら、還元の前提を厚くする。買収を受ける側に回る場合は、価値の上振れ要因として別に考える。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高と受注残(2027年3月期の第1四半期は228億円で過去最大)
- 営業利益率の推移(2028年3月期の12%という修正目標に近づくか)
- サービス事業の営業利益(受託試験が黒字に戻るか)
- AI半導体向け新製品(2026年7月発売の2機種)の受注の積み上がり
- 福知山工場の増強と北米の増強の進み具合、稼働率
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業のROEとg 4%、残る割合の1/2から式で置き、今の株価や同業の倍率は見ていない。中立のPER12.7倍は、式の上限14.6倍の8.7割で、ROEが資本コストを上回るため1÷kの12.5倍を床にした。時価総額は今の940億円から10年後に1,400億円台へ上がるが、これは利益が約2倍になる筋書きによる。今の値段が倍でも半分でも、価値の数字は動かない。数字は日本の会計基準の今の形(リースは家賃を費用に入れた形)でそろえている。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.3→19.3 倍・やや楽観 PER 13.9→17.81 倍・中立 PER 12.7→16.41 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。