結論
電気興業は、携帯基地局や放送局のアンテナ・鉄塔を作って建てる会社だ。もう一つの柱は、自動車部品の焼入れに使う高周波の誘導加熱装置である。売上は約 350 億円で、東証プライムに上場する。筆者の結論は、10 年後の価値は今の値段を大きく下回る、というものだ。
技術の腕は確かだが、稼ぐ力が弱い。2026 年 3 月期の営業利益率は 3.4% で、過去 12 年の中心も 3% 台である。2023 年と 2024 年には赤字に沈んだ。会社の目標は 2028 年 3 月期の営業利益 20 億円で、それでも利益率は 5% 台にとどまる。
足元の純利益 19 億円は、投資有価証券の売却益で膨らんだ。稼ぐ力の実態は、営業利益の 12 億円にある。
気がかりなのは会計だ。2026 年 9 月、棚卸資産の評価に疑義が示され、外部の専門家による調査が始まった。2019 年にも、原価の付け替えが疑われた。
株主への還元は厚い。配当は自己資本の 2.5% を下限にする。ただ、資本の大きさに比べて稼ぎが小さいため、配当を出しても価値は積み上がりにくい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、事業そのものは悪くない。アンテナ・鉄塔と誘導加熱という、ニッチだが技術の要る分野で、長く続いている。財務も堅く、自己資本比率は 69% ある。
問題は、その資本で稼げていないことだ。ROE の中央値は 2%、2026 年 3 月期の営業利益率も 3.4% である。会社の目標を達成しても ROE は 5% で、資本コストに届かない。資本を株主に返す姿勢は強まっているが、稼ぐ力が先に要る。
経営の質も確かめにくい。2019 年と 2026 年に、会計の疑義で調査が入った。経営者が数字に正直かを問えば、慎重にならざるを得ない。
払う値段の安全域を問う。利益が会社の計画どおりに伸びても、10 年後の価値は今の値段を下回る。強気の筋書きでさえ、今の値段に届かない。会社が資産の売却と還元を進める姿勢は評価できるが、稼ぐ力が上がらなければ、還元は元手を削るだけになる。安全域は見えない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は二つある。電気通信と高周波だ。
電気通信は、売上の約 7 割を占める。携帯基地局のアンテナと鉄塔の製作・工事・保守が中心で、NTT ドコモが最大の顧客である。官公庁向けの防災行政無線、防衛施設のアンテナ、テレビ・ラジオの送信所も請け負う。子会社のサイバーコアは、画像解析 AI で人の流れを分析する。
単体の電気通信は、特命、つまり競争でなく指名で受ける案件が 26% で、残り 74% は入札や相見積りだ。民間が 153 億円、官公庁が 58 億円である。
高周波は、売上の約 3 割だ。自動車部品を焼入れする誘導加熱装置を作り、子会社で受託の熱処理もする。販売先は豊通マシナリーが最大だ。食品や廃棄物向けの、過熱水蒸気の装置も育てている。
貸付と売電は小さく、売上は 3.6 億円にすぎない。
2026 年 3 月期の売上は 354 億円、営業利益は 12.2 億円だった。受注残は 212 億円で、1 年で 2 割増えた。ただ、研究開発や本社の費用が重く、事業の利益約 42 億円のうち、約 30 億円が全社の費用に消える。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、アンテナ・鉄塔を設計から工事まで一貫してこなす技術にある。基地局の無線技術と鉄構の施工、めっきまで、グループの中で完結する。高周波でも、長年の誘導加熱のノウハウを持つ。
弱みは、値段を決める力が弱いことだ。電気通信は 7 割強が入札と相見積りで、携帯キャリアは発注側の力が強い。高周波の販売先も、自動車関連に偏る。
資本効率は低い。過去 10 年の ROE の中央値は 2% ほどで、2023 年と 2024 年は赤字だった。自己資本比率は 69% と厚いが、その資本を使って稼ぐ力が追いついていない。
経営の質にも課題がある。2019 年に原価の付け替えの疑いで決算発表を延期し、2026 年 9 月には棚卸資産の評価をめぐって特別調査委員会を置いた。2026 年 6 月には会計監査人も交代している。
中計は 2028 年 3 月期に営業利益 20 億円、ROE 5% を掲げる。方向は正しいが、ROE 5% は資本コストに届かない水準である。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
電気通信の需要は、携帯キャリアの設備投資で決まる。基地局の投資額は、5G の整備が一段落した 2024 年度に 4,200 億円ほどまで縮んだ。調査会社は、2026 年度から拡大に転じ、以降は 5,000 億円規模で推移するとみる。ただ、アンテナなど附帯設備の市場は、投資の浮き沈みを受けにくく、横ばいが続いてきた。
新しい需要もある。電気興業は 700MHz 帯の 5G 無線装置を商用で納め始め、5.7GHz 帯のワイヤレス給電では国内初の商用免許を得た。官公庁の防災無線の更新や、防衛施設の整備も、安定した需要になる。
高周波は、自動車の焼入れが主な用途だ。誘導加熱の世界市場は年 6〜10% で伸びるとの調査があるが、日本のエンジン部品向けは、EV への切り替えで減りかねない。EV のモーター関連で新しい用途も出始めている。
10 年後を考える。基地局は更新が繰り返し続くが、数が増える時代は終わった。高周波は、EV 化の影響をどこまで埋められるかが分かれ目になる。同業の比較資料は、国内では見つからなかった。
資本政策と M&A
還元の方針は明確だ。連結の配当性向 40% を目途にし、自己資本に対する配当の割合(DOE)の下限を、2026 年 2 月に 2.0% から 2.5% へ引き上げた。2026 年 3 月期は、約 10 億円の自社株を取得して消却した。
取引先の株は、すべて売る方針だ。2026 年 3 月期に、上場 6 銘柄を 12 億円で売った。残る上場 5 銘柄は 13 億円で、2027 年 3 月末までに売る。
土地の売却も続く。2024 年にふじみ野市の土地を譲渡して約 15 億円の益を出し、2026 年 6 月にも固定資産の譲渡を完了した。2026 年 8 月には株主優待を始めた。保有株数と期間に応じたカタログで、費用は年 1 億円に届かない。
借入は、総額 70 億円のコミットメントラインで 44 億円を使う。財務制限条項が付く。
M&A の大型案件はない。特別調査委員会の結果によっては、決算の訂正や追加の費用が出る可能性がある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
電気興業の受注は、勢いが戻っている。2026 年 3 月期の受注は 389 億円で 12% 増え、受注残は 2 割増えた。基地局投資は、2026 年度から 5,000 億円規模に戻る見通しだ。700MHz 帯の 5G 無線装置の納入が始まり、ワイヤレス給電も国内初の商用免許を得た。
事業の利益は、すでに 42 億円ある。本社と研究の費用を構造改革で絞れば、営業利益は会社の目標(2028 年 3 月期に 20 億円)を超える。
資産の面でも余地がある。2024 年と 2026 年に土地を売っており、売れる土地がまだ残る可能性がある。政策保有株もすべて売り、資金を還元や成長に回す。
配当は DOE 2.5% を下限とし、自社株買いも始めた。2026 年 8 月には株主優待も導入した。資本効率への意識は高まっている。EV のモーター向けなど、高周波の新しい用途が育てば、10 年後の利益は今の 2 倍に届く。
慎重な見方
稼ぐ力が弱い。営業利益率は 3.4% で、過去 12 年の中心も 3% 台だ。2023 年と 2024 年には赤字だった。会社の目標を達成しても、ROE は 5% にとどまり、資本コストに届かない。自己資本が 370 億円と厚いだけに、稼ぎの小ささが際立つ。
事業の利益 42 億円のうち 30 億円は、研究開発と本社の費用で消える。この費用は売上が減っても残る。受注が 1 割落ちれば、営業利益は大きく減る。
顧客も偏る。基地局は携帯キャリアが発注者で、入札の競りが強い。高周波は自動車のエンジン部品向けが多く、EV への切り替えが逆風になる。
会計の疑義が最大の気がかりだ。棚卸資産の評価をめぐり、特別調査委員会が置かれた。2019 年にも似た疑いがあった。決算の訂正や、信用の低下が起きれば、受注にも響く。
足元の純利益 19 億円は、有価証券の売却益で膨らんだ。実力ではない。
高周波も安泰ではない。自動車のエンジン部品向けが多く、利益率は高いが、EV 化で需要の土台が細る恐れがある。新しい用途は、まだ売上の柱になっていない。
一つひとつは致命傷でなくても、重なれば、10 年後に資本を持て余した会社が残るだけである。
どちらに重みを置いたか
受注残の増加と、還元を強める姿勢には、実現性がある。ただ、ROE が資本コストに届かないこと、会計の疑義が晴れていないことは、割り引かざるをえない。
筆者は、中立の利益率を中計の線(5% 台)に置き、確率は慎重側へ少し寄せた。強気に 3 割強、慎重に 4 割弱だ。強気が実現しても、10 年後の価値は今の値段に届かない。会計の疑義は、結論が出るまで、慎重側の確率を支える材料である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,270 円198 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,339 円117 億円)。 今の値に割り戻すと 1,894 円165 億円、今との差 −41.6%、 期待の年率 +1.1%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 3,763 円328 億円 | 1,973 円172 億円 | +76.7% | +5.9% | 574 円50 億円 |
| やや楽観 | 22% | 2,913 円254 億円 | 1,629 円142 億円 | +40.0% | +3.4% | 999 円87 億円 |
| 中立 | 31% | 2,306 円201 億円 | 1,399 円122 億円 | +14.2% | +1.3% | 1,149 円100 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,536 円134 億円 | 1,112 円97 億円 | −18.4% | −2.0% | 662 円58 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,280 円112 億円 | 596 円52 億円 | −42.2% | −5.3% | 225 円20 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,270 円198 億円 | 1,339 円117 億円 | +11.2% | +1.1% | 3,609 円315 億円 |
今の株価時価総額 3,245 円283 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 強気:5G の更新と防衛・防災が重なり、利益率が 7% 台へ上がる 利益 28 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 3,763 円328 億円
携帯キャリアの基地局投資が 5,000 億円規模で続き、5G の高度化や次世代の無線で、アンテナと鉄塔の更新が途切れない。官公庁の防災無線、防衛施設のアンテナも増え、電気通信の受注は 10 年で大きく伸びる。
高周波は、EV 向けのモーターや歯車の焼入れ、食品・廃棄物向けの新しい装置が、エンジン部品の減りを埋める。研究開発の成果が出て、単価も物価を上回る。
本社と研究の費用を抑え込み、営業利益率は 7% 台に乗る。過去 12 年の最高に並ぶ水準だ。配当は DOE の下限を超えて増え、自社株買いも続く。ただし ROE は 7% どまりで、資本コストには届かない。特別調査委員会の結論も軽微な訂正で済み、信用は保たれる。政策保有株の売却と土地の売却益は、配当の原資として回る。
- 電気通信:数量 700(技術者・従業員数(人、電気通信の従業員))× 価格 60(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 422 億円・営業利益 49 億円
- 高周波:数量 400(従業員数(人、高周波の従業員))× 価格 35(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 140 億円・営業利益 22 億円
倍率:事業の純利益 28 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.0% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 328 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注残が増え続け、利益率が 7% に乗る姿。会計の疑義が軽く済み、中計の目標を超えた場合として 1 割を置いた。
やや楽観 22% やや強気:電気通信が伸び、全社の費用を少しずつ減らす 利益 22 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,913 円254 億円
電気通信は、基地局の更新と防災・防衛の案件で、人員が 1 割ほど増える。単価は物価をやや上回る。受注残が厚く、工事の採算も改善する。
高周波は、自動車の焼入れの減りを、受託熱処理と新しい用途で一部埋める。人員は横ばいで、単価は物価を下回る。
本社と研究の費用は、事業構造改革で少し減る。営業利益率は 6% で、会社の 2028 年 3 月期の目標(5% 台)を上回る。配当は DOE の下限どおり、自社株買いは小さい。ROE は 5% 台で、資本コストにはなお届かない。
10 年後の電気興業は、堅実に稼ぐ会社に戻っている。特別調査委員会は、訂正はあっても小さいと結論づける。政策保有株の売却は予定どおり終わり、資金は自社株買いに回る。
- 電気通信:数量 650(技術者・従業員数(人、電気通信の従業員))× 価格 59(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 387 億円・営業利益 43 億円
- 高周波:数量 375(従業員数(人、高周波の従業員))× 価格 34(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 128 億円・営業利益 19 億円
倍率:事業の純利益 22 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.3% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 254 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中計(2028 年 3 月期に営業利益 20 億円)を守り、さらに少し上積みする姿。強気側へ 2 割強を置いた。
中立 31% 中立:中計の利益率を保ち、資本効率は低いまま 利益 17 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,306 円201 億円
電気通信は、基地局の更新が一巡と再開を繰り返し、人員は 3% ほど増える。官公庁の防災無線と防衛の案件が下支えになる。単価は物価並みに上がるが、入札の競りで採算は伸びない。
高周波は、自動車のエンジン部品の焼入れが少しずつ減る。受託熱処理と新しい用途で補うが、人員は 1 割弱減る。単価は物価を下回る。
営業利益率は 5.2% で、会社の 2028 年 3 月期の目標(5.3%)と同じ線を保つ。本社と研究の費用は、物価の分だけ増え、構造改革で少し減る。配当は DOE 2.5% の下限どおり、自社株買いを小さく足す。
ROE は 4% 台にとどまる。10 年後の電気興業は、事業は回るが、資本を持て余す会社である。特別調査委員会の結果で、過年度の数字を小さく直す程度にとどまる。それでも会計への信頼は、完全には戻らない。
- 電気通信:数量 600(技術者・従業員数(人、電気通信の従業員))× 価格 59(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 352 億円・営業利益 39 億円
- 高周波:数量 350(従業員数(人、高周波の従業員))× 価格 33(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 117 億円・営業利益 18 億円
倍率:事業の純利益 17 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.2% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 201 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の線(営業利益率 5% 台)を 10 年先まで保つ姿。最も重い筋書きとして 3 割強を置いた。
やや悲観 25% やや弱気:基地局投資が谷に入り、高周波も縮む 利益 5 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,536 円134 億円
携帯キャリアの基地局投資が谷に入り、アンテナと鉄塔の受注が 1 割ほど減る。入札の競りが強まり、単価は物価に届かない。人員の余りで、固定費が重くなる。
高周波は、EV への切り替えで、エンジン部品の焼入れが 2 割近く減る。単価の下落も重なる。
本社と研究の費用は、売上が減っても同じ額が残る。営業利益率は 2% ほどで、2022 年の水準に近い。配当は DOE の下限を保つが、自己資本はほとんど増えない。
稼ぐ力は小さく、価値は売れる資産と配当の下限で支えられる。山の利益でなく、谷の利益が当たり前になった姿である。過年度の決算の訂正が出て、会計への信頼が下がる。受注の一部で、取引先の見方が慎重になる。
- 電気通信:数量 530(技術者・従業員数(人、電気通信の従業員))× 価格 57(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 301 億円・営業利益 27 億円
- 高周波:数量 310(従業員数(人、高周波の従業員))× 価格 32(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 99 億円・営業利益 12 億円
倍率:純利益は 4.7 億円で稼ぐ力は 70 億円ほどにしかならず、床は売れる資産で測る。回収後に残る約 187 億円の 7 割強を、今の自己資本 372 億円に対する PBR 0.36 倍(時価総額 133.9 億円)に置いた。DOE の下限での配当も、価値を支える。
確率:2022 年から 2025 年の低い利益率に戻る姿。過去に赤字が 2 期あったので、4 分の 1 を置いた。
悲観 12% 弱気:受注が構造的に崩れ、赤字が続く 利益 −18 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,280 円112 億円
携帯キャリアが設備投資を絞り、基地局のアンテナと鉄塔の受注が大きく減る。入札で値下げを迫られ、工事の採算が崩れる。官公庁の案件だけでは、固定費を賄いきれない。
高周波は、EV への切り替えが早く進み、エンジン部品の焼入れが 4 割ほど減る。新しい用途は育たない。
会計の疑義が広がり、過年度の決算の訂正と信用の低下で、受注にも響く。本社と研究の費用は、売上が減っても残り、営業赤字が続く。
配当は DOE の下限も守れず、大きく減る。工場と土地を売って資金を作るが、事業は縮む。優良さを失った 10 年である。2019 年に続く会計の問題として、監督の目も厳しくなる。経営の立て直しに、時間と費用がかかる。
- 電気通信:数量 480(技術者・従業員数(人、電気通信の従業員))× 価格 52(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 252 億円・営業利益 13 億円
- 高周波:数量 230(従業員数(人、高周波の従業員))× 価格 29(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 66 億円・営業利益 4 億円
倍率:赤字が続き稼ぐ力はなく、床は売れる資産で測る。回収後に残る約 136 億円の 8 割強を、今の自己資本 372 億円に対する PBR 0.30 倍(時価総額 111.6 億円)に置いた。
確率:2023 年と 2024 年の赤字が再び続く、構造的な負け筋。会計の疑義が重なる分、1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電気通信
携帯基地局のアンテナ・鉄塔の製作と工事・保守、防災行政無線、防衛施設、放送送信所、画像解析 AI のソリューション。
| 数量技術者・従業員数(人、電気通信の従業員) | 価格1 人当たり売上(百万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 581 | 44 | 254 | 24 |
| 10 年後 中立 | 600 | 59 | 352 | 39 |
取り方:電気通信の売上 254.1 億円(有価証券報告書)を、電気通信の従業員 581 人で割って 1 人当たり 43.7 百万円とした。人数は実質の数量、単価は物価で上がる名目。利益は開示のセグメント利益 23.8 億円(利益率 9.4%)で、全社の研究開発費・本社費は含まない。外注の工事も売上に含むため、従業員 1 人当たりが大きく出る。
高周波
自動車部品向けの高周波誘導加熱装置と受託熱処理、食品・廃棄物向けの過熱水蒸気装置。
| 数量従業員数(人、高周波の従業員) | 価格1 人当たり売上(百万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 382 | 26 | 100 | 16 |
| 10 年後 中立 | 350 | 33 | 117 | 18 |
取り方:高周波の売上 99.5 億円を、高周波の従業員 382 人で割って 1 人当たり 26.1 百万円とした。人数は実質の数量、単価は物価で上がる名目。利益は開示のセグメント利益 16.0 億円(利益率 16.0%)。自動車のエンジン部品向けが多く、EV 化の影響を受ける。
リスクと懸念
棚卸資産の会計の疑義
2025 年 3 月期と 9 月期の棚卸資産の評価に疑義が示され、外部専門家の特別調査委員会が置かれた。2026 年 3 月期に評価損 9.1 億円を出したが、過年度に計上すべきだった可能性がある。決算の訂正や追加の費用が出れば、信用も傷つく。
利益率が低く、費用が固い
営業利益率は 3.4% で、研究開発と本社の費用が事業の利益の 7 割を吸う。売上が減っても費用は残るので、受注が少し落ちるだけで赤字に近づく。2023 年と 2024 年は実際に赤字だった。
携帯キャリアの投資の波
基地局の投資は 5G の整備後に縮み、2026 年度から回復する見通しだが、保証はない。発注者の力が強く、入札で値下げを迫られる。NTT ドコモは連結売上の 13.5% を占める。
EV 化による焼入れの減少
高周波は、自動車のエンジン部品の焼入れが主な用途だ。EV への切り替えが進めば、装置の需要も受託熱処理も減る。販売先は豊通マシナリーに偏る。新しい用途が間に合うかが問われる。
運転資金の重さ
2026 年 3 月期は営業キャッシュフローが 25 億円の赤字だった。売掛債権が 30 億円増え、現金が 45 億円減った。借入のコミットメントラインには財務制限条項があり、悪化すれば資金繰りが縛られる。
配当方針の硬直
配当は DOE 2.5% を下限とする。稼ぎが減っても自己資本に比例した配当を続けると、資本が削られる。利益が戻らないまま方針を変えれば、株主の信頼を損なう。
売却益に頼った利益
2026 年 3 月期の純利益 19 億円は、投資有価証券の売却益や投資事業組合の運用益で膨らんだ。政策保有株は残りが 13 億円で、売り終われば、この種の益は出なくなる。
今後の分かれ目
- 特別調査委員会が過年度の決算の訂正を求めたら
- やや弱気・弱気側へ重みを移す。数字の信頼性を見直し、優良さの評価を下げる。
- 特別調査委員会が、問題なしまたは軽微な訂正にとどまると結論づけたら
- 弱気側の確率を少し下げてよい。ただ、2019 年の前例があるので、大きくは動かさない。
- 営業利益率が 6% を超えて、2 期以上続いたら
- 強気側の確率を上げてよい。構造改革と価格の改善が実証された証拠になる。
- 携帯キャリアが基地局投資の増額を発表したら
- 強気側へ重みを移す。電気通信の受注残が積み上がる。
- 自動車向けの高周波装置の受注が、2 期連続で減ったら
- やや弱気側へ重みを移す。EV 化の影響が表れた証拠になる。
- 遊休地の売却や、大型の自社株買いが発表されたら
- 売却益と還元の額を見て、強気側を少し上げてよい。ただ、稼ぐ力が上がらない限り、価値は大きく変わらない。
見ておくもの
- 特別調査委員会の調査結果と決算の訂正の有無
- 営業利益率の推移(中計の 5% 台との比較)
- 電気通信・高周波の受注残と受注高
- 本社・研究開発費の推移
- 政策保有株の売却の進み具合と土地の売却
倍率と資本コストの決め方
数量は電気通信と高周波の従業員数(実質)、価格は 1 人当たり売上(物価 3% を含む名目)で積んだ。従業員 1 人当たりは外注の工事も売上に含むため大きく出る。事業の利益は開示のセグメント利益を使い、セグメントに入らない全社費用(研究開発 9.9 億円・本社費など約 30 億円)は、物価で増える固定の費用として調整欄に置き、構造改革での削減を少し見込んだ。中立の価格は、電気通信が物価並みの 1.34 倍、高周波は EV 化と競争で 1.28 倍とした。中立の営業利益率 5.2% は、会社の 2028 年 3 月期の目標 5.3% と同じ線で、過去 12 年の最高 7.3% を下回る。倍率は k 8.5%・g 4% の式から置き、ROE が資本コストを下回るので上限は 1÷k だ。現金は運転資金に使うため、余った現金は分けていない。優待は年 1 億円に届かず、差は小さいので、還元に年 0.2 億円だけ足した。減価償却は物価で増やさず、設備投資(年 14 億円前後)の膨らみは、全社費用の増加に含めた。今の株価と PER は、最後に比べただけで、倍率の根拠にしていない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1.0% = 8.5%。理由は quality_why。会計の疑義など個別の事情は k に足さず、筋書きと確率で表した。