結論
リバーエレテックは、山梨に工場を持つ水晶部品の専業メーカーだ。時計の基準になる小さな水晶振動子を作り、スマホやスマートリング、車に納める。筆者の結論は、今の値段は割高だ、というものだ。
夢のある話はそろっている。1.2ミリ角の超小型品は、指輪型の端末や血糖値のセンサーに入る。車載向けの新しいラインが動き出し、AIデータセンターの光通信向けの部品も立ち上げる。会社は2029/03期に売上93億円、営業利益15億円を掲げる。
だが、過去を見ると話は別だ。過去12年で営業利益が出たのは半分ほどで、2割近い利益率は2022〜2023年の需要の山の2年だけだった。2026/03期は売上58億円で、営業損益は赤字だ。借入は48億円と自己資本に近く、設備投資は今期11億円に膨らむ。
部品の値段は、エプソンや大真空、台湾勢との競争で毎年下がる。数量が伸びても、売上は物価ほどには伸びない。10年後の中立は、営業利益が約6億円で、ROEは資本コストに届かない。今の時価総額は、会社の計画が当たる姿をほぼ前提にしている。確率を重ねた本質価値は、今の時価総額の3割に満たない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「わかりにくい事業に、高い期待の値段が付いている」と見る。
超小型の水晶の技術は本物だ。医療や指輪型の端末という新しい用途も、10年後には今より大きいだろう。だが、その成長の果実が誰に落ちるかはわからない。顧客は大きく、競合も大きい。値段は毎年下がる。
過去の利益の記録は、持ち続けたい事業のそれではない。12年のうち半分ほどが赤字で、利益が出た年も需要の山に偏る。借入は自己資本に近く、設備投資はさらに増える。
安全域は無い。今の値段は、会社の中期の目標が当たる姿をほぼ前提にしている。外れた時に下を支える資産も、借入を引くと薄い。筆者は、この技術が報われる可能性を強気の筋書きで認めつつ、払う値段には見合わないと見る。持ち続けるなら、新しい用途が利益として数字に出てからでも遅くない。それまでは、技術の物語より、借入と設備投資の数字を見ておきたい。
何で稼ぐ会社か
リバーエレテックは、水晶振動子という電子部品を作る会社だ。水晶は電気をかけると決まった速さで震える。その震えが、時計や通信の基準のリズムになる。どんな電子機器にも1個以上は入っている、目立たないが欠かせない部品だ。
主力は「音叉型」と呼ぶ、32.768kHzの小さな振動子だ。スマホ、スマートウオッチ、IoTのモジュール、医療の機器に入る。リバーエレテックの強みは小ささで、1.2×1.0ミリの品はスマートリングや、肌に貼る血糖値のセンサーに使われる。2026/03期の用途別の売上は、スマホが15億円、産業機器が12億円、医療ヘルスケアと民生がそれぞれ8億円だった。
もう一つの柱が、MHz帯の「ATカット」だ。車載の品質の認証を取り、新しいラインで量産を始めた。車載の売上は1年で6割増えて9億円になった。さらに「KoTカット」という独自の加工で、AIデータセンターの光トランシーバー向けの基準クロックを開発している。
売上の9割近くは海外向けで、中国と台湾の電子機器の工場に納める。為替の想定は1ドル155円で、会社の試算では、想定より円高に振れると営業利益が1億円近く減ることもある。
費用の柱は、工場の人件費と設備の償却だ。水晶を薄く削り、真空で封じる工程には、専用の装置が要る。売上が少し落ちるだけで、固定費が利益を食う構造だ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、超小型の加工の技術に限られる。
超小型の水晶部品を作れる会社は、世界でも多くない。小さく削るほど歩留まりが落ち、量産の腕が問われる。リバーエレテックはここに賭けてきた。医療やウエアラブルの顧客は、一度採用した部品を簡単には替えない。この部分には小さな堀がある。
だが、会社全体では値段を決める力が弱い。水晶部品の市場では、エプソン、京セラ、大真空、日本電波工業、台湾のTXCといった大手が並ぶ。顧客は複数の会社から買い、毎年の値下げを求める。スマホ向けの売上は、米国の関税をきっかけに1年で3割近く減った。
資本効率は低い。過去10年のROEの中央値はマイナスだ。2021〜2023年に一時3割前後まで上がったが、需要の山が過ぎると赤字に戻った。2022年には増資もしている。
経営は前向きだが、計画の当たり外れが大きい。会社は2029/03期にROE27%以上を見込むが、筆者はその実現に高い確率を置けない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
水晶部品の需要は、数では伸びる。電子機器の数が増え、車の電子化とIoTが進むからだ。1台の車には数十個、データセンターのサーバーにも多くの水晶が入る。業界全体で、個数は年に数%ずつ増えると筆者は見る。
一方で、値段は下がり続ける。スマホ向けのような汎用の品は、量が伸びにくく、競争で単価が毎年下がる。電子部品の業界では、中国と台湾の会社が力をつけ、日本の中堅は値段で押される。物価が上がる世界でも、部品1個の値段は名目でほぼ横ばいか、下がるのが普通だ。
伸びる場所は、車載とデータセンターと医療だ。車載は品質の認証が要り、一度採用されれば長く続く。AIデータセンターの光通信は、高い周波数の精密な部品が要る。医療とウエアラブルは、超小型であることが値段を支える。リバーエレテックは三つとも狙っているが、いずれも大手が先にいる。
景気の循環も大きい。電子部品は、顧客が在庫を積み増す時期と減らす時期で、受注が大きく振れる。2021〜2022年の山のあと、2024年から赤字に沈んだのが、その典型だ。リーマン級の谷では、スマホと車の生産が同時に4割前後落ちる。
資本政策と M&A
資本政策は、成長投資が先にある。会社は3年で設備投資31億円を計画し、還元は3億円ほどにとどまる。配当性向は連結の純利益の20%が目安だ。
財務は軽くない。2026/03期末の借入は48億円で、現金22億円を引いても純負債は約26億円ある。自己資本比率は43%で、会社は45〜50%を目安にする。2027/03期は設備投資が11億円とここ数年で最大になり、借入はさらに増えるおそれがある。
2022年には増資で資本を厚くした。計画どおりに稼げなければ、再び増資で株主の取り分が薄まる可能性がある。
M&Aの実績は小さい。超小型の技術を欲しがる大手に買われる可能性は残るが、確かめられる話は無い。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強気の見方は、超小型の水晶という技術に、次の大きな用途が見えてきたと考える。
スマートリングや、肌に貼る血糖値のセンサーは、これから数が大きく伸びる。こうした機器には、1.2ミリ角という極めて小さな部品が要る。リバーエレテックは、その小ささで勝負してきた会社だ。医療の機器は一度部品を決めると長く替えない。採用が増えれば、売上は積み上がる。
車載も動き出した。品質の認証を取り、新しいラインの本格的な稼働で、車載の売上は1年で6割増えた。会社は年1億個超の安定生産を目指す。車の電子化は止まらない。
AIデータセンターの光通信向けも、大きな選択肢だ。KoTカットの基準クロックは625MHzという高い周波数を出し、単価も高い。採用されれば、利益率は一気に上がる。
2022〜2023年には、営業利益率16%台を出した実績がある。会社の目標の16%は、夢物語ではない。設備投資の山を越えれば、償却の負担も落ち着く。
慎重な見方
慎重な見方は、夢の話と過去の記録が合わないことを突く。
過去12年で営業利益が出たのは半分ほどだ。16%台の利益率は、需要が異常に膨らんだ2年だけの話で、そのあとすぐに赤字に戻った。2019/03期には自己資本が8億円まで細り、2022年には増資もした。
水晶部品は、数が伸びても値段が下がる商売だ。エプソン、大真空、日本電波工業、京セラ、台湾のTXCといった大手が並び、顧客は複数の会社から買って毎年値下げを求める。スマホ向けの売上は、米国の関税をきっかけに1年で3割近く消えた。
財務も重い。借入は48億円で、自己資本の46億円に近い。今期は設備投資が11億円とここ数年で最大になり、借入はさらに増える。金利が上がる世界では、利払いが利益を削る。
AIデータセンター向けは、まだ売上が無い。大手が先にいる市場で、小さな会社が勝てる保証は無い。会社の目標が外れれば、増資で株主の取り分が薄まる。過去にも、需要の山で計画を広げ、谷で赤字に沈む動きを繰り返してきた。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、超小型の技術と新しい用途を正しく見ているが、それが値段の力に変わる証拠は無い。慎重な見方は、12年の記録と借金の重さという動かない事実に立っており、こちらが強い。
そこで確率は慎重な側に寄せた。強気の筋書きは、会社の計画に届く場合に限り1割とした。慎重な側は、増資で株主の取り分が薄まる場合まで含めた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 498 円41 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 43 円4 億円)。 今の値に割り戻すと 223 円18 億円、今との差 −67.2%、 期待の年率 −2.3%(資本コスト 9.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 1,389 円114 億円 | 128 円11 億円 | +123.0% | +8.4% | 152 円12 億円 |
| やや楽観 | 22% | 722 円59 億円 | 69 円6 億円 | +16.3% | +1.5% | 174 円14 億円 |
| 中立 | 33% | 470 円39 億円 | 45 円4 億円 | −24.2% | −2.7% | 170 円14 億円 |
| やや悲観 | 23% | 168 円14 億円 | 0 円0 億円 | −75.3% | −13.1% | 39 円3 億円 |
| 悲観 | 12% | 56 円5 億円 | 0 円0 億円 | −91.8% | −22.1% | 7 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 498 円41 億円 | 43 円4 億円 | −20.4% | −2.3% | 541 円45 億円 |
今の株価時価総額 680 円56 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 超小型とAIデータセンター向けが当たり、会社の計画に届く 利益 11 億円 · PER 10.8 倍 · 株価時価総額 1,389 円114 億円
超小型の音叉型が、スマートリングや血糖値のセンサーの標準の部品になる。医療とウエアラブルの顧客は採用した部品を替えず、数量は10年で4割増える。単価もわずかに上がる。
AIデータセンターの光トランシーバー向けのKoTカットが量産に乗り、車載のATカットも年1億個を大きく超える。ATカットとKoTの個数は今の4倍になる。高い周波数の品は単価が高く、利益率は15%に届く。
会社全体の営業利益は約16億円、利益率は16%台。会社が2029/03期に掲げた目標に、数年遅れて届く。借入は利益で返し、増資は要らない。ROEは12%で資本コストを上回る。
- 音叉型水晶振動子(スマホ・医療ヘルスケア・民生・産業機器):数量 560(出荷個数(百万個。推定))× 価格 13(1個あたり売上(円))→ 売上 72 億円・営業利益 9 億円。個数+40%、単価+5%、利益率13%
- ATカット・KoTカット(車載・通信):数量 250(出荷個数(百万個。推定))× 価格 17(1個あたり売上(円))→ 売上 43 億円・営業利益 6 億円。個数4倍、KoTが乗る、利益率15%
倍率:事業の純利益 11 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 9.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 10.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.8 倍。全体の PER 10.78 倍、時価総額 114 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期の目標(営業利益15億円・利益率16%)に届く姿で、2022〜2023年に一度出した利益率でもある。ただ、それは需要の山の2年だけで、AI向けの品はまだ売上が無い。1割に置いた。
やや楽観 22% 車載と医療が伸び、利益率は1割弱に戻る 利益 6 億円 · PER 10.3 倍 · 株価時価総額 722 円59 億円
車載のATカットが顧客を増やし、個数は今の3倍になる。医療とウエアラブル向けの超小型品も伸び、スマホ向けの落ち込みを埋める。音叉型の個数は3割増える。
値段は毎年の値下げ要求で物価ほど上がらないが、超小型と車載の比率が上がり、平均の単価は保たれる。設備投資の山が過ぎて償却の負担が落ち着き、利益率は9%前後に戻る。
営業利益は約9億円、純利益は約6億円。借入は少しずつ減る。ROEは8%台で、資本コストにはわずかに届かない。会社の計画には届かないが、赤字の会社からは抜け出す。配当は利益の2割を目安に、細く続く。AIデータセンター向けは、一部の顧客に採用されるところで止まる。
- 音叉型水晶振動子(スマホ・医療ヘルスケア・民生・産業機器):数量 520(出荷個数(百万個。推定))× 価格 13(1個あたり売上(円))→ 売上 65 億円・営業利益 6 億円。個数+30%、単価+2%、利益率9%
- ATカット・KoTカット(車載・通信):数量 180(出荷個数(百万個。推定))× 価格 16(1個あたり売上(円))→ 売上 29 億円・営業利益 3 億円。個数3倍、利益率11%
倍率:事業の純利益 6 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 9.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.3 倍。全体の PER 10.26 倍、時価総額 59 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:車載の新ラインは本格的に動き、医療向けも伸びている。スマホの落ち込みを埋めて利益率1割弱に戻る姿は、過去の平均より良いが十分にありうる。2割強に置いた。
中立 33% 数は伸びるが単価が下がり、利益率は7%前後 利益 4 億円 · PER 10.3 倍 · 株価時価総額 470 円39 億円
水晶部品の個数は、車載とIoTで伸び続ける。音叉型は10年で25%増え、ATカットは今の2倍強になる。AIデータセンター向けは一部の顧客に採用されるが、大手に先を越され、柱にはならない。
値段は上がらない。音叉型の単価は10年で名目の横ばいで、物価を考えると3割近く下がる。毎年の値下げの要求と、台湾や中国の会社との競争が続くからだ。人件費と電気代は物価で上がる。
営業利益は約6億円、利益率は7%前後に落ち着く。借入の利払いは金利の上昇で増え、純利益は約4億円にとどまる。ROEは6%で、資本コストを大きく下回る。会社は続くが、ためた利益が資本コストを超える稼ぎを生むことはない。
- 音叉型水晶振動子(スマホ・医療ヘルスケア・民生・産業機器):数量 500(出荷個数(百万個。推定))× 価格 12(1個あたり売上(円))→ 売上 61 億円・営業利益 4 億円。個数+25%、単価横ばい、利益率7%
- ATカット・KoTカット(車載・通信):数量 140(出荷個数(百万個。推定))× 価格 16(1個あたり売上(円))→ 売上 22 億円・営業利益 2 億円。個数2.3倍、単価+5%、利益率9%
倍率:事業の純利益 4 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.2% が k 9.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.3 倍。全体の PER 10.26 倍、時価総額 39 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:車載とIoTで個数は伸びるが、スマホ向けの値下げと競争が利益を削る。過去12年の平均よりは良く、会社の計画よりはずっと低い姿で、いちばん起こりやすいとみて3割強に置いた。
やや悲観 23% スマホの値下げに負け、利益はほぼゼロ 利益 0 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 168 円14 億円
スマホ向けは、関税と中国の部品メーカーの台頭で数量も単価も削られる。音叉型の個数は少し減り、単価は10年で1割下がる。車載は伸びるが、品質の認証を持つ大手との競争で利益が薄い。
設備投資で膨らんだ償却と、金利の上がった借入の利払いが重い。営業利益はほぼゼロで、純利益はわずかな赤字になる。配当は止まる。
会社は工場と技術を持ったまま、細々と続く。借入を返す力は弱く、増資か資産の売却が要る場面も出てくる。株主の取り分は、稼ぐ力でなく、工場と技術を買う相手が現れるかどうかにかかる。借入が自己資本に近いまま残るので、谷が来るたびに資金繰りの不安が株価を揺らす。
- 音叉型水晶振動子(スマホ・医療ヘルスケア・民生・産業機器):数量 380(出荷個数(百万個。推定))× 価格 11(1個あたり売上(円))→ 売上 42 億円・営業利益 0 億円。個数−5%、単価−10%、利益率1%
- ATカット・KoTカット(車載・通信):数量 100(出荷個数(百万個。推定))× 価格 15(1個あたり売上(円))→ 売上 15 億円・営業利益 0 億円。個数1.7倍、利益率2%
倍率:利益がほぼゼロで稼ぐ力では測れない。借入を引いた売れる資産はほとんど残らないので、今の自己資本46億円に0.3倍を掛けた。工場と技術を買う相手が出る余地だけを見た。純負債約26億円を足したEVで見ると営業利益の50倍を超え、利益の倍率では測れない局面だ。
確率:スマホ向けの売上は関税で1年に3割近く減り、2024〜2026年は赤字が続く。設備投資の負担がさらに増える中で、利益がほぼ出ない姿の現実味は高い。2割強に置いた。
悲観 12% 値下げと循環の谷が重なり、赤字が続く 利益 −2 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 56 円5 億円
構造的に負ける筋書きだ。超小型の技術は大手に追いつかれ、医療とウエアラブルの顧客も値段で他社に替える。スマホ向けは中国の会社に奪われ、音叉型の個数は2割近く減る。単価も1割強下がる。
車載とAI向けの新しい品は、立ち上げの費用ばかりがかかり、利益にならない。設備の稼働が落ち、償却と利払いが重くのしかかる。赤字が10年の多くの年で続き、減損で自己資本も削られる。
借入の返済のために増資が要り、今の株主の取り分は薄まる。残る価値は、現金と在庫、工場から借入を引いた額で、ほとんど何も残らない。2019/03期に自己資本が8億円まで細った姿が、もっと長く続く筋書きだ。
- 音叉型水晶振動子(スマホ・医療ヘルスケア・民生・産業機器):数量 330(出荷個数(百万個。推定))× 価格 11(1個あたり売上(円))→ 売上 35 億円・営業利益 −1 億円。個数−18%、単価−14%、赤字
- ATカット・KoTカット(車載・通信):数量 80.0(出荷個数(百万個。推定))× 価格 14(1個あたり売上(円))→ 売上 11 億円・営業利益 0 億円。個数1.3倍、赤字
倍率:赤字が続き、稼ぐ力は無い。売れる資産から借入を引くとほぼゼロで、今の自己資本46億円の0.1倍に置いた。
確率:過去12年で半分ほどが赤字で、2019/03期には自己資本が8億円まで細った。借入が自己資本に近い今、谷が深ければ同じことが起きる。1割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
音叉型水晶振動子(スマホ・医療ヘルスケア・民生・産業機器)
時計の基準になる32.768kHzの小さな水晶部品。スマホ、スマートリングや血糖値センサー、IoTのモジュールに入る。超小型が得意。
| 数量出荷個数(百万個。推定) | 価格1個あたり売上(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 400 | 12 | 49 | 1 |
| 10 年後 中立 | 500 | 12 | 61 | 4 |
取り方:2026/03期の用途別売上のうち、スマホ15.0億・産業機器11.7億・医療8.2億・民生8.2億とその他の一部を音叉型とみて約48.9億円。個数の開示は無く、1個あたり約12とみて約4億個と推定した。営業利益は全社の赤字0.7億円を、立ち上げ中のATカットに損を多く配って分けた。
ATカット・KoTカット(車載・通信)
MHz帯の水晶振動子。車載の認証を取り、新しいラインで量産を始めた。AIデータセンターの光トランシーバー向けの基準クロックも立ち上げ中。
| 数量出荷個数(百万個。推定) | 価格1個あたり売上(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 15 | 9 | −1 |
| 10 年後 中立 | 140 | 16 | 22 | 2 |
取り方:2026/03期の車載向け売上8.85億円をこの区分とした。会社は年1億個超の安定生産を目指すと説明しており、今は約6千万個、1個あたり約15と推定した。新ラインの償却と立ち上げの費用で赤字とみた。
リスクと懸念
部品の値下げ
水晶部品は、顧客が複数の会社から買い、毎年値下げを求める。物価が上がっても単価は名目で横ばいか下がるのが普通だ。人件費と電気代は上がるので、数量が伸びても利益は伸びにくい。
スマホと関税
スマホ向けの売上は、米国の関税をきっかけに1年で6億円強減った。売上の9割近くが海外向けで、中国と台湾の工場に納める。貿易の摩擦が強まれば、受注はさらに揺れる。
借入と設備投資
借入は48億円で自己資本に近い。今期の設備投資は11億円とここ数年で最大で、3年で31億円を計画する。稼ぎが計画に届かなければ、金利の上昇とともに利払いが重くなり、増資が要る場面も出る。
新製品の当たり外れ
AIデータセンター向けのKoTカットと車載のATカットは、まだ利益に乗っていない。大手が先にいる市場で採用が進まなければ、立ち上げの費用と償却だけが残る。
電子部品の循環
電子部品の受注は、顧客の在庫の積み増しと調整で大きく振れる。2021〜2022年の山のあと、2024年から3期続けて赤字になった。固定費の重い工場なので、売上の小さな落ち込みが大きな赤字になる。
今後の分かれ目
- KoTカットの光トランシーバー向けが量産に乗り、売上の1割を超えた
- 単価の高い新しい柱ができた証拠になる。強気の筋書きの確率を上げる。
- 車載のATカットが年1億個を超え、黒字になった
- 新ラインの投資が回収に入った合図だ。やや強気の筋書きに近づく。
- 設備投資の資金のために増資が発表された
- 今の株主の取り分が薄まる。慎重な筋書きの確率を上げる。
- スマホ向けの売上がさらに3割減った
- 主力の音叉型が値下げと関税に負けている。慎重な筋書きの確率を上げる。
- 大手の部品メーカーから買収の提案が出た
- 超小型の技術に値段が付く場面になる。事業の価値は変わらないが、時価総額は上振れうる。
見ておくもの
- 用途別の売上(スマホ・車載・医療ヘルスケア・産業機器)
- ATカットの個数と、KoTカットの採用の状況
- 設備投資と減価償却、借入の残高
- 営業利益率と、為替の影響
- 中期の目標(2029/03期に営業利益15億円)への進み具合
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から出した。中立のROEは6%で資本コスト9.75%を大きく下回り、PERの上限は約10.3倍。ROEと資本コストの比を見て7.5倍に置いた。悲観の側は利益がほぼ出ないので、今の自己資本に低い倍率を掛けた。今の株価やPER、PBR、同業の値付けは倍率の根拠に使っていない。今の時価総額は会社の中期の目標に近い利益を前提にした値段に見えるが、それには合わせていない。個数と単価は開示が無く推定だ。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→10.78 倍・やや楽観 PER 8.5→10.26 倍・中立 PER 7.5→10.26 倍)。
資本コスト 9.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +2.25% を足した9.75%。新しい製品の当たり外れは筋書きと確率で表した。