結論
新電元工業は、二輪車の電装品を主力とする部品会社だ。売上の6割強はインド・インドネシアなどで走るバイクの発電・充電まわりの部品で、残りがダイオードやMOSFETなどのパワー半導体と通信用の電源装置になる。筆頭株主は本田技研工業で、ホンダ系の二社だけで売上の2割を占める。
筆者の結論は、今の値段は「ほぼ適正、わずかに割高」だ。理由は稼ぐ力の薄さにある。営業利益率は直近で3%台、過去12年の最高でも7%台にとどまり、赤字の年も20年で7回ある。会社は2027年度に利益率5%、自己資本利益率6%を掲げるが、この水準は資本コストを下回る。利益が出ても、株主が求める収益には届かない。
追い風もある。インドとASEANの二輪需要は厚く、パワー半導体は2026年1月に京セラの事業を買って品ぞろえを広げ、構造改革の効果で黒字に戻った。通信インフラ向けの電源も堅調だ。ただし電動化は両刃で、エンジン用の部品は減り、電動車用は価格競争が激しい。
10年後の中立の姿は、売上が1,700億円前後、営業利益は85億円ほど、純利益は50億円台になる。この利益に見合う値段で測ると、確率で重みをつけた価値は今の時価総額を1割弱下回る。大きく割安でも割高でもなく、安全域もない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、新電元は「買って持ち続けたい会社」とは言いにくい。理由は三つ。
第一に、利益が予測しにくい。20年で7回の赤字は、事業が景気・為替・顧客の都合で大きく振れることを示す。10年先の利益を自信を持って語れる会社ではない。
第二に、再投資の効率が低い。3年で設備投資300億円と研究開発145億円を使う計画だが、目標の自己資本利益率は6%で、資本コストの9%に届かない。稼いだ利益のうち、株主の手元に残る分は多くない。
第三に、経営が資本を扱う手際は改善しつつある。赤字だったパワーデバイスの工場を集約し、持ち合い株の売却と自社株買いに動いた。この方向が続けば評価は上がる。ただ、まだ実績は短い。
安全域を持って買うには、少なくとも今の値段より3割は安く、あるいは利益率5%の達成が見えてくる必要がある。今の値段はそのどちらでもない。
何で稼ぐ会社か
事業は三つに分かれる。いちばん大きいパワーユニットは、売上の64%(728億円)を占める。二輪車のレギュレータ(発電した電気を整える部品)やエンジン制御まわりの電装品、四輪車用の電装品、発電機用のインバータ、電気自動車(EV)の充電器を作る。販売先は二輪メーカーが中心で、PT Astra Honda Motor(インドネシア)とHonda Motorcycle & Scooter India の2社だけで売上の約2割になる。生産はインド、インドネシア、タイ、ベトナム、中国など、売る場所に近い海外に置いている。
パワーデバイスは売上の29%(335億円)。ダイオード、サイリスタ、パワーMOSFET、パワーIC、モジュールといった半導体で、車載が主力だ。秋田、東根、そして2026年1月に京セラから取得した秦野の国内工場と、タイ・フィリピン・台湾の拠点で作る。前の期は22億円の営業赤字だったが、工場の集約などの構造改革と稼働の改善で25億円の黒字に戻った。
パワーシステムは売上の7%(74億円)で、通信会社向けの電源・整流装置を作る。数は小さいが利益率は16%と3事業で最も高い。ただし前の期は、保証引当金の戻し入れという一回限りの利益が乗っていた。
地域で見ると、国内は3割強、残りはインド・インドネシア・タイ・中華圏・ベトナムなどアジアが中心だ。売上は円で表示されるため、アジア通貨が円に対して弱くなると、同じ販売量でも円の売上と利益が目減りする。
優良さと弱いところ
事業の質は「並」。堀、つまり他社がまねできない強みは、あるにはあるが広くない。
強みは二つ。一つは、二輪車用レギュレータで世界の上位に入る実績と、ホンダとの長い取引だ。部品は車種ごとに設計に組み込まれ、一度採用されると数年は入れ替わりにくい。もう一つは、需要地であるインドとインドネシアに工場を持つ現地化で、納期と為替の面で有利に働く。
弱みも二つ。一つは、その強みが特定の顧客に寄りかかっていることだ。ホンダ向けの2社で売上の約2割を占め、値下げ要求を断りにくい。もう一つは、半導体事業の競争相手が大きいことだ。インフィニオンやonsemi、ロームのほか、中国勢が低価格品に攻め込んでいる。
資本効率も弱い。自己資本利益率は過去10年の中央値で4.6%、営業利益率が5%を超えたのは直近12年で3回だけだ。自己資本比率は50%、純有利子負債は自己資本の0.2倍強で、財務は壊れる水準ではないが、赤字の年が多いと余力は削られる。
筆者は、この会社を「景気と為替に利益を左右される、薄利の部品屋」と見ている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
二輪車市場は世界で約5,000万台。最大はインドの約2,000万台で、2030年には電動車を含めて約6,000万台に増えるとの見通しがある。成長の中心は新興国で、先進国は横ばいから微減だ。この需要を受けて、ホンダはインドでの電動二輪の専用工場を2028年に動かす計画を出している。
新電元にとっては、この電動化が最大の分かれ目になる。エンジン車に必須のレギュレータやACG周辺の部品は、電動二輪では要らなくなる。代わりに駆動用のコントローラ、DC-DCコンバータ、充電器といった別の製品が必要になるが、こちらは日系メーカーに加え、インドの現地部品メーカーや中国勢が参入し、利益が薄い。会社も中期計画で「電動化の普及時期を見直した」と述べており、電動化は想定より遅れている。
パワー半導体は、車載と産業機器が柱だ。電動化と省エネで数量は伸びるが、中国勢の供給拡大で汎用品の価格は下がっている。AI関連の設備投資で電源や半導体製造装置向けの需要が増え、産業向けは足元で戻りつつある。
通信電源は、通信会社の投資額に左右される、小さく安定した市場だ。
資本政策と M&A
株主還元は、利益の変動が大きいため配当を軸にしている。2026年3月期の配当性向は、利益が一時的に膨らんだために18%と低かった。2027年3月期は配当を据え置く予想で、性向は4割弱に上がる。
資本政策には変化が出ている。2025年12月に政策保有株の一部を売り、約25億円の売却益を出した。2026年2月には自社株買いを決め、7万株・約2.5億円を3月までに取得した。まだ上場株を13銘柄持っており、売却を続ける余地がある。ただし、売却益は一回限りの利益で、利益の水準を押し上げるものではない。
M&Aでは、2026年1月に京セラのシリコンダイオード事業を約25億円で取得した。買う側として製品群を広げる動きだ。一方で、筆頭株主のホンダが売上の2割を占めるため、会社が買われる側に回る可能性も無視できない。公開データでは、10年以内にTOB・買収を受ける確率を約3割と試算している。
中期経営計画(2025〜2027年度)は、設備投資300億円、研究開発145億円を投じ、2027年度に売上1,200億円、営業利益率5%、自己資本利益率6%、PBR1倍以上を目指す。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
インドとインドネシアの二輪需要はこれからも伸びる。新電元は現地に工場を持ち、ホンダと設計段階から組んでいるため、市場が伸びれば数量はついてくる。電動化は、エンジン用の部品が減る一方で、コントローラ、充電器、DC-DCコンバータといった新しい製品を増やす機会だ。会社が先行して費用をかけているのは、その準備にあたる。
パワーデバイスは、車載の底堅い需要に加え、京セラから取得した事業が通期で寄与する。工場集約の効果も出始めており、前期に黒字へ戻した実績は、改革が実を結んだ証拠だ。AI関連投資で電源や製造装置向けの需要も増える。
通信電源は利益率が高く、5G以降の投資が続けば安定して稼ぐ。構造改革の効果で営業利益率が7%台に乗れば、純利益は今の2倍を超え、自己資本利益率も10%近くまで上がる。持ち合い株の売却を続ければ、資本効率はさらに改善する。
新電元の強みは、二輪の電装品で世界の上位に入る実績と、ホンダの設計に早くから入り込んでいる点にある。インドの二輪市場は2030年に向けて拡大が見込まれ、現地工場で作って現地で売る体制は、為替と納期の両面で競合より有利だ。会社は電動化に先行して人とお金を投じており、その成果が出始める時期は、市場の想定より早いかもしれない。
慎重な見方
利益が薄すぎる。売上1,100億円超で営業利益は38億円、率にして3%台だ。過去12年の最高でも7%台で、20年で7回も赤字になっている。会社の2027年度目標(営業利益率5%、自己資本利益率6%)が実現しても、資本コストには届かない。
二輪の電動化は、新電元の主力製品を直接脅かす。エンジン用のレギュレータが要らなくなり、代わる製品ではインドの現地部品メーカーや中国勢と戦うことになる。しかも売上の2割はホンダ向け2社で、価格交渉力は弱い。アジア通貨が円に対して弱くなれば、同じ販売量でも利益は減る。
パワー半導体は、中国勢の低価格攻勢が続く限り、利益率を上げにくい。京セラの事業の取得も、汎用品の拡大にとどまり、競争力の底上げにはならない。売却益や為替差益で膨らんだ前期の純利益56億円は、続かない数字で、今期の予想はその半分の27億円だ。
財務の面でも余裕は大きくない。純有利子負債は時価総額の5割を超え、金利が上がれば利払いの負担が増える。10年国債が3%の世界では、借入の借り換えコストが上がり、純利益は数億円規模で目減りする。中期計画の設備投資300億円は、利益率が上がらない限り回収できず、株主の取り分を薄める恐れがある。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方に分がある。利益率が低く、資本コストを下回る収益では、成長しても株主の価値は増えにくい。一方で、構造改革の効果が出て、インドの二輪需要が続くという強気の根拠も実績がある。確率は中立に3分の1、やや悲観を厚く置き、悲観の確率も赤字の多さを踏まえ12%とした。結論は、確率で重みをつけた価値が今の時価総額の1割弱下になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,580 円569 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,379 円140 億円)。 今の値に割り戻すと 3,318 円338 億円、今との差 +19.7%、 期待の年率 +9.6%(資本コスト 8.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 15,090 円1,538 億円 | 3,337 円340 億円 | +564.5% | +20.9% | 1,106 円113 億円 |
| やや楽観 | 20% | 9,243 円942 億円 | 2,247 円229 億円 | +314.4% | +15.3% | 2,298 円234 億円 |
| 中立 | 34% | 6,035 円615 億円 | 1,590 円162 億円 | +175.0% | +10.6% | 2,592 円264 億円 |
| やや悲観 | 28% | 2,137 円218 億円 | 589 円60 億円 | −1.7% | −0.2% | 763 円78 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,468 円150 億円 | 196 円20 億円 | −40.0% | −5.0% | 200 円20 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,580 円569 億円 | 1,379 円140 億円 | +151.0% | +9.6% | 6,959 円709 億円 |
今の株価時価総額 2,773 円283 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 6% 二輪の電動化に乗り、半導体も黒字が定着 利益 124 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 15,090 円1,538 億円
インド・ASEANの二輪市場が6,000万台近くまで伸び、新電元の電装品は電動二輪でもコントローラ、DC-DCコンバータ、充電器へ置き換わって採用を保つ。ホンダのインド向け電動二輪が2028年から本格化し、搭載金額は1台あたり上がる。パワーデバイスは京セラ事業の統合と車載の拡大で営業利益率が12%に乗り、AI関連の電源向けも増える。通信電源は5G後の投資が続き高めの利益率を維持する。会社の目標の5%を大きく超え、営業利益率は8%台に達する。自己資本利益率は10%を超えるが、ここまでの10年を通して為替と顧客の値下げ要求に邪魔されない前提が要る。
- パワーユニット:数量 6,300(世界の二輪車販売台数(万台・実質))× 価格 2,146(二輪1台あたりの新電元の電装売上(円)=搭載率と1台あたり金額の結果。物価の倍率を掛ける)→ 売上 1,352 億円・営業利益 128 億円。世界二輪 6300万台 × 1台あたり売上 2146、利益率 9.5%
- パワーデバイス:数量 300(世界のパワー半導体(ディスクリート・モジュール)市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 2.31(市場1ドルあたりの新電元の売上(円)=シェア × 150円 × 物価の倍率)→ 売上 694 億円・営業利益 83 億円。市場 300億ドル × シェア 1.15%、利益率 12.0%
- パワーシステム:数量 2.7(国内通信大手の設備投資(兆円・実質))× 価格 44(設備投資1兆円あたりの新電元の売上(億円)。物価の倍率を掛ける)→ 売上 118 億円・営業利益 19 億円。通信設備投資 2.70兆円、利益率 16%
倍率:事業の純利益 124 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.4 倍。全体の PER 12.45 倍、時価総額 1,538 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:二輪の電動化部品で先行し、半導体の改革が定着し、通信電源も伸びる、という三つが同時に当たる必要がある。過去の利益率の実績から見て、すべてがそろう確率は低い。
やや楽観 20% 二輪は堅調、半導体は黒字を保つ 利益 82 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 9,243 円942 億円
二輪市場は6,000万台近くまで伸び、新電元は電動化の部品でも一定のシェアを保つ。パワーデバイスは京セラの事業が加わり、構造改革の効果が続いて営業利益率は10%前後になる。通信電源は安定する。ただし、ホンダ向けの値下げ要求は続き、アジア通貨の変動で利益が削られる年も混じる。会社全体の営業利益率は6%台まで上がり、自己資本利益率は8%前後。計画の5%を超えるが、資本コストを上回るにはなお足りない。電動化の移行期にも、ホンダ向けの取引は壊れず、数量は保たれる。構造改革で固定費が下がった工場は、売上が増えるほど利益が出やすい体質になっている。
- パワーユニット:数量 6,000(世界の二輪車販売台数(万台・実質))× 価格 2,049(二輪1台あたりの新電元の電装売上(円)=搭載率と1台あたり金額の結果。物価の倍率を掛ける)→ 売上 1,229 億円・営業利益 98 億円。世界二輪 6000万台 × 1台あたり売上 2048、利益率 8.0%
- パワーデバイス:数量 285(世界のパワー半導体(ディスクリート・モジュール)市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 2.01(市場1ドルあたりの新電元の売上(円)=シェア × 150円 × 物価の倍率)→ 売上 571 億円・営業利益 60 億円。市場 285億ドル × シェア 1.05%、利益率 10.5%
- パワーシステム:数量 2.6(国内通信大手の設備投資(兆円・実質))× 価格 40(設備投資1兆円あたりの新電元の売上(億円)。物価の倍率を掛ける)→ 売上 101 億円・営業利益 14 億円。通信設備投資 2.55兆円、利益率 14%
倍率:事業の純利益 82 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 942 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期目標を少し超える程度の達成で、改善の実績(前期の黒字転換)に近い。一方で電動化や為替の逆風もあるため、中立より薄く置いた。
中立 34% 中立:二輪は伸びるが電動化の対応で利益率は5%止まり 利益 54 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 6,035 円615 億円
インドとインドネシアの二輪市場は10年で15%ほど増え、5,750万台に届く。電動化は予想より緩やかに進み、エンジン車用の電装品が長く残る一方、電動車用ではコントローラや充電器で一定の採用を得る。ただし価格は顧客に押さえられ、実質の価格は変わらない。パワーデバイスは構造改革と京セラ事業の効果で営業利益率が9%に乗るが、中国勢の価格圧力で上限が見える。通信電源は12%前後。全社の営業利益率は5%、会社の目標を10年遅れで達成する形になる。自己資本利益率は5〜6%で、資本コストには届かない。この筋書きでは、会社が掲げる二つの目標(利益率5%、自己資本利益率6%)を、期限の2027年度から数年遅れて満たす。ただし資本コストは超えず、株主の価値は大きくは増えない。
- パワーユニット:数量 5,750(世界の二輪車販売台数(万台・実質))× 価格 1,951(二輪1台あたりの新電元の電装売上(円)=搭載率と1台あたり金額の結果。物価の倍率を掛ける)→ 売上 1,122 億円・営業利益 79 億円。世界二輪 5750万台 × 1台あたり売上 1951、利益率 7.0%
- パワーデバイス:数量 270(世界のパワー半導体(ディスクリート・モジュール)市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 1.76(市場1ドルあたりの新電元の売上(円)=シェア × 150円 × 物価の倍率)→ 売上 474 億円・営業利益 43 億円。市場 270億ドル × シェア 0.97%、利益率 9.0%
- パワーシステム:数量 2.4(国内通信大手の設備投資(兆円・実質))× 価格 40(設備投資1兆円あたりの新電元の売上(億円)。物価の倍率を掛ける)→ 売上 95 億円・営業利益 11 億円。通信設備投資 2.40兆円、利益率 12%
倍率:事業の純利益 54 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.6% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 615 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画の利益率5%を10年かけて達成する、という穏当な前提。業界の数量は人口と所得の伸びに沿って増え、電動化の逆風と追い風が打ち消し合う。
やや悲観 28% 電動化と価格競争で利益が薄いまま 利益 7 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 2,137 円218 億円
二輪の電動化が想定より早く進み、エンジン車用のレギュレータの数量が落ちる。代わりの電動用部品では、インドの現地メーカーと中国勢に押され、採用は限られる。ホンダ向けの値下げ要求とアジア通貨安で、実質の価格は1割近く下がる。パワーデバイスは中国勢の低価格品に押されて利益率が3%まで戻り、通信電源の利益率も下がる。全社の営業利益は15億円ほど、率にして1%強になり、自己資本利益率は1%を割る。配当は最低限に抑え、設備投資も絞る。事業は続くが、稼ぐ力は今よりさらに薄い。この水準でも、持ち合い株と売れる資産があるため、会社が行き詰まることはない。ただし、株主が受け取るのは薄い配当と、小さな資産価値にとどまる。
- パワーユニット:数量 5,300(世界の二輪車販売台数(万台・実質))× 価格 1,795(二輪1台あたりの新電元の電装売上(円)=搭載率と1台あたり金額の結果。物価の倍率を掛ける)→ 売上 951 億円・営業利益 43 億円。世界二輪 5300万台 × 1台あたり売上 1795、利益率 4.5%
- パワーデバイス:数量 250(世界のパワー半導体(ディスクリート・モジュール)市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 136.7%(市場1ドルあたりの新電元の売上(円)=シェア × 150円 × 物価の倍率)→ 売上 342 億円・営業利益 10 億円。市場 250億ドル × シェア 0.85%、利益率 3.0%
- パワーシステム:数量 2.2(国内通信大手の設備投資(兆円・実質))× 価格 38(設備投資1兆円あたりの新電元の売上(億円)。物価の倍率を掛ける)→ 売上 83 億円・営業利益 8 億円。通信設備投資 2.20兆円、利益率 9%
倍率:稼ぐ力(純利益÷k)は小さく、売れる資産の税後を床とした。今の自己資本726億円の約0.3倍。中立のPBR(0.4倍強)より低い。EV ÷ 営業利益 は26倍と高く見えるが、利益が薄く、稼ぐ力ではなく資産で測っているため、利益の倍率では評価しない。
確率:赤字の年が20年で7回あり、営業利益率が1%前後の年も続いた実績がある。二輪の電動化と半導体の価格競争が同時に進む筋書きは十分あり得るので、厚く置いた。
悲観 12% 二輪の電装品で負け、赤字が続く 利益 −44 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 1,468 円150 億円
電動化が進み、ホンダがインドの現地部品メーカーや自社内に調達を寄せ、新電元の二輪電装は数量も価格も下がる。パワーデバイスでは中国勢が車載にも入り、稼働率の低下で再び赤字になる。通信電源も縮む。全社は営業赤字が続き、工場の統廃合と減損で自己資本は500億円近くまで減る。配当は止まり、財務は借入に頼る。事業を整理する選択肢が現実になり、持ち合い株などの資産売却が会社の価値の下支えになる。ここまで落ちても、有形資産と持ち合い株という下支えが残るため、価値がゼロになることは考えにくい。ただし、その価値は今の時価総額を大きく割り込む。
- パワーユニット:数量 4,600(世界の二輪車販売台数(万台・実質))× 価格 1,658(二輪1台あたりの新電元の電装売上(円)=搭載率と1台あたり金額の結果。物価の倍率を掛ける)→ 売上 763 億円・営業利益 −15 億円。世界二輪 4600万台 × 1台あたり売上 1658、利益率 -2.0%
- パワーデバイス:数量 230(世界のパワー半導体(ディスクリート・モジュール)市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 91.5%(市場1ドルあたりの新電元の売上(円)=シェア × 150円 × 物価の倍率)→ 売上 211 億円・営業利益 −13 億円。市場 230億ドル × シェア 0.70%、利益率 -6.0%
- パワーシステム:数量 2.0(国内通信大手の設備投資(兆円・実質))× 価格 36(設備投資1兆円あたりの新電元の売上(億円)。物価の倍率を掛ける)→ 売上 71 億円・営業利益 4 億円。通信設備投資 2.00兆円、利益率 5%
倍率:営業赤字で稼ぐ力では測れない。工場・在庫・債権を売り、負債を返した後の手取りを床にして、今の自己資本726億円の約0.2倍に置いた。やや悲観より低い。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PBR 0.206 倍・時価総額 150 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:顧客が電動車用部品を内製や現地メーカーに切り替え、半導体も価格競争で赤字が続く、構造的に負ける筋書き。過去の赤字の多さと顧客集中を踏まえ、5%を大きく上回る確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
パワーユニット
二輪・四輪の電装品(レギュレータ等)、発電機用インバータ、EV充電器。インド・インドネシアの二輪が中心。
| 数量世界の二輪車販売台数(万台・実質) | 価格二輪1台あたりの新電元の電装売上(円)=搭載率と1台あたり金額の結果。物価の倍率を掛ける | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5,000 | 1,456 | 728 | 39 |
| 10 年後 中立 | 5,750 | 1,951 | 1,122 | 79 |
取り方:世界の二輪車市場は約5,000万台(MONOist)。売上728億円を台数で割ると1台あたり約1,460(円ではなく指数として使う)で、四輪・発電機・EV充電器の売上も含めた平均値になる。営業利益はセグメント利益38.5億円(本社費の配賦前)。1台あたりの額は、物価の倍率と電装品の内容の変化で動かす。
パワーデバイス
ダイオード、サイリスタ、パワーMOSFET、パワーIC、モジュール。車載が主力で産業機器・家電にも。
| 数量世界のパワー半導体(ディスクリート・モジュール)市場(億ドル・今の値段で測った実質) | 価格市場1ドルあたりの新電元の売上(円)=シェア × 150円 × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 250 | 134.0% | 335 | 25 |
| 10 年後 中立 | 270 | 1.76 | 474 | 43 |
取り方:市場規模は開示がなく、複数の調査にある200億〜300億ドルの中央を推定で250億ドルとした。外部売上335億円を150円で割ると約2.2億ドル、シェアは約0.9%。営業利益は同部門のセグメント利益25.3億円で、社内取引の利益を含むため外部売上比では7.6%になる。
パワーシステム
通信会社向けの電源装置・整流装置。
| 数量国内通信大手の設備投資(兆円・実質) | 価格設備投資1兆円あたりの新電元の売上(億円)。物価の倍率を掛ける | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.5 | 30 | 74 | 12 |
| 10 年後 中立 | 2.4 | 40 | 95 | 11 |
取り方:国内の通信大手4社の設備投資の合計を約2.5兆円と推定(開示なし、幅は2〜3兆円)。売上74億円はその約0.3%にあたる。営業利益は前期の保証引当戻入がなく、通常の利益率に近い16%台。
リスクと懸念
二輪の電動化
エンジン車用のレギュレータなど主力部品が、電動二輪では不要になる。代わりの製品(コントローラ、充電器)はインドの現地メーカーや中国勢と競うため、利益が薄い。会社も電動化の普及時期を見直しており、想定のずれが投資負担を重くする。
ホンダ系への依存
ホンダ向けの2社で売上の約2割を占める。値下げ要求を断りにくく、ホンダが調達先を変えたり内製化したりすれば、数量と価格の両方に響く。筆頭株主でもあるため、持分が下がる局面は取引関係の変化の兆しとして見ておく必要がある。
アジア通貨と為替
売上の6割以上が円以外の通貨で稼がれる。インドルピーやインドネシアルピアが円に対して弱くなると、円の売上と利益が目減りする。直近の期でも、アジア通貨安が営業利益を押し下げた。
パワー半導体の価格競争
中国勢が低価格品で車載にも入り、汎用ダイオードやMOSFETの値段が下がっている。新電元は規模で劣るため、値下げ競争に付き合うほど利益率が悪化する。構造改革の効果が一巡すれば、再び赤字に戻る恐れがある。
利益の質
前期の純利益56億円には投資有価証券の売却益と為替差益が入っており、続く数字ではない。会社予想は27億円で、実態は営業利益40億円前後と見るべきだ。
景気の循環
20年で7回の赤字は、半導体の在庫調整や二輪の需要の波で業績が大きく振れることを示す。借入は自己資本の0.2倍強で堅いが、赤字が重なれば余力が削られる。
今後の分かれ目
- 営業利益率が2年連続で5%を超え、パワーデバイスの黒字が定着したら
- やや楽観・楽観の確率を上げ、中立の利益率の前提を引き上げて見直す。
- ホンダの電動二輪向けに、新電元のコントローラや充電器の採用が決まったら
- パワーユニットの数量と価格の前提を上方修正する。電動化で伸びる筋書きの確率を高める。
- ホンダが調達先を現地メーカーに寄せ、新電元の二輪向け数量が落ちたら
- やや悲観・悲観の確率を上げ、パワーユニットの利益率を下方修正する。
- 中国勢の低価格品が車載に入り、パワーデバイスの稼働率が再び落ちたら
- 半導体事業の利益率を下げ、赤字の筋書きに重みを移す。
- 政策保有株の売却や自社株買いが大規模に進んだら
- 資本効率の改善として配当と還元の前提を引き上げる。利益の水準は変わらない点に注意する。
- アジア通貨が円に対して大きく下落したら
- 円ベースの利益が減るため、パワーユニットの利益率の前提を下げる。
見ておくもの
- パワーユニットの営業利益率(電動化投資の費用が収まるか)
- パワーデバイスの稼働率と黒字の定着、京セラ事業の通期の寄与
- ホンダ向け2社の売上比率と調達方針
- インド・インドネシアの二輪販売台数と電動二輪の比率
- 中期計画(2027年度の利益率5%)の進捗
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や過去のPERから置かず、資本コスト8.75%(基本7.5%に、循環+0.5%・値決め力+0.25%・借金+0.25%・寿命+0.5%)と、10年後の自己資本利益率から決めた。中立・やや楽観は自己資本利益率が資本コストを下回るので、正当化PERの上限は1÷k。そこに利益の質(ホンダ依存・為替・赤字の多さ)を反映し、7〜7.5割で置いた。純有利子負債が時価総額の5割強なので、EV÷営業利益(今で約12倍)も確かめた。リースは小さく(約7億円)、純現金も無いので、余った現金は立てない。持ち合い株の配当は利益に残しており、売却による価値は足していない。新リース会計基準は今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.9→12.45 倍・やや楽観 PER 8.3→11.43 倍・中立 PER 7.8→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。