結論
アオイ電子は、高松に本社を置く日本最大級の独立系の半導体後工程の受託会社だ。他社が作った半導体を切り分け、パッケージに収め、検査して納める。売上の約9割がこの集積回路事業で、残りがサーマルプリントヘッドなどの機能部品だ。
筆者の結論は割高である。利益が出ていない事業に、会社の体力に迫る大型投資が重なったからだ。営業利益率は2015年3月期の18%から、2026年3月期は1%を割るまで落ちた。そこへ三重県でシャープの旧液晶工場を取得し、2029年までに350〜400億円をかけて先端パッケージを立ち上げる。自己資本432億円の会社にとって、重い賭けだ。
賭けが当たれば話は変わる。データセンター向けの先端パッケージが月産2万枚の枠の8割を埋めれば、営業利益は今の数十倍になる。それでも受託加工は値段を顧客に決められ、堀が浅い。成功した筋書きですら、利益に掛ける倍率は10倍に届かない。
純現金が77億円あるのは安心材料に見えるが、その現金は三重の投資で消える。割安の根拠ではなく、賭けの元手だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、見るべき点は三つある。
第一に、稼いだお金が株主の手元に残るか。この会社の営業キャッシュフローは約9億円で、設備の更新と新規投資に消える。償却前の利益がこれほど薄い装置産業では、帳簿の利益に意味は薄い。株主に残るお金は、実質ほとんどない。
第二に、堀の質だ。顧客が値段を決める受託加工は、長く続けても利益率が上がらない。過去10年のROEの中央値が3%という事実が、堀の浅さをそのまま語っている。
第三に、経営の資本配分である。利益が出ない年にも配当を保ち、同時に自己資本の4分の1にあたる額を単年で設備に投じ、さらに数年で350〜400億円を積む。上手な配分とは言いにくい。成功すれば報われるが、失敗した時に失うものは大きい。
筆者は、予測が難しい賭けに確信を持てない。AI向けの先端パッケージは需要の見通しこそ明るいが、この会社が顧客を取れるかは誰にもわからない。自己資本に迫る額を張る会社を、安全域があるとは呼べない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ方は受託加工である。半導体メーカーが作ったウエハーを預かり、チップに切り分け、パッケージに収め、検査して返す。この後工程を請け負う会社をOSATと呼ぶ。アオイ電子はその国内最大級の独立系で、ウエハーのチップ化から基板への実装、検査、テープ梱包まで一貫して引き受ける。
売上の88%が集積回路事業で、IC、光学センサー、LED、ウエハーレベルパッケージを組み立てる。残る12%が機能部品事業で、感熱紙に印字するサーマルプリントヘッドと各種センサーを自社の製品として売る。開示は単一セグメントだが、2026年3月期の部門別売上は集積回路が339億円、機能部品が45億円だ。
顧客は偏っている。上位3社が売上の約6割で、日亜化学工業、ミツミ電機、日清紡マイクロデバイスの順に並ぶ。売上の9割超は国内向けだ。青森と青梅の子会社が委託製造を担い、めっき加工はハヤマ工業に任せる。
今は事業の重心を動かしている最中だ。2025年にシャープの三重事業所の第1工場(延床面積6万平方メートル)を取得し、液晶パネル用の建屋を先端パッケージの工場に作り替える。方式はFOLP(Fan-out Laminate Package)と呼ぶパネルレベルのパッケージで、チップレット集積、データセンター向け、高周波向けを狙う。計画では2026年10月に一部の量産を始め、本格稼働は2027年度、能力は月産2万枚である。
優良さと弱いところ
堀は浅い。筆者はそう見ている。後工程の受託は、顧客の設計が決まれば同じ工場で作り続けるので粘りはあるが、値段は顧客に決められる。
強みは三つある。一つは一貫対応で、切り分けから実装、検査、梱包までを一社で請けられる。二つ目は独立系であることで、大手メーカーの子会社と違い、どの顧客の仕事も受けられる。三つ目は規模で、報道によれば独立系の後工程会社として日本で唯一、世界の上位20社に入る。
だが世界の中では小さい。売上は約380億円で、第2位のアムコーの25分の1にとどまる。上位3社の顧客に売上の約6割を頼る点も弱い。
決定的なのは稼ぐ力の低下だ。営業利益率は2015年3月期の18%から下がり続け、2024年3月期は赤字に落ちた。ROEの10年の中央値は3%で、自ら掲げる10%以上の目標とは遠い。売上は10年以上400億円前後で動かず、世界の市場が伸びるなかでシェアを失ってきた。優良な受託会社とは言えない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
後工程受託の世界市場は、2025年に460億〜520億ドルと見る調査が多い(定義により650億ドルまで幅がある)。上位5社のASE、アムコー、JCET、パワーテック、SPILで約57%を占める。アムコーの2024年の売上は約63億ドルだ。
成長の中心は先端パッケージに移った。AI向けの半導体は大きく、配線が密で、丸いウエハーでなく四角いパネルに載せて量産する方式(FOPLP)が注目されている。調査会社のカウンターポイントは、FOPLPとガラス基板を合わせた市場が2024年の約6.5億ドルから2030年に81億ドル超へ育つと見る。FOPLP単体では2030年に45億ドル規模だ。ただし予測の幅は広く、別の調査では2030年が11億〜44億ドルに割れる。TSMC、インテル、サムスン電機、ASE、PTIが先に動いており、アオイ電子は後発である。
既存の事業は逆風の中にある。EVの需要が鈍り、車載向けは低調が続く。金など貴金属の値上がりは組立の原価を押し上げる。受託の値段は毎年の値下げ要請にさらされる。データセンター向けの先端品は共同開発で値段が守られやすいが、量が立たなければ設備の償却だけが残る。
分かれ目は二つだ。シャープから譲り受けた工場に、AI向けの大口顧客がつくか。そして既存のLED・光学センサー事業が、値下げに耐えて利益を出し続けられるか。
資本政策と M&A
この会社を見るうえで、資本の使い方が最大のポイントだ。
配当は安定的に続ける方針で、2023年3月期以降は年間の配当を横ばいに保ってきた。総額は年6億円前後で、2026年3月期は純利益が0.7億円しかなく、配当性向が860%を超えた。利益で払えていない。
一方、設備投資は急に膨らんだ。2026年3月期の有形固定資産の取得は約114億円で、営業キャッシュフローの約9億円を大きく上回る。長期借入金は約75億円に増え、自己資本比率は14ポイント下がって69%になった。純現金は2024年3月期の222億円から77億円まで細り、今後も減る。2029年までの総投資は350〜400億円と報じられ、シャープ三重事業所の第2工場の譲受も協議中だ。
株主は固い。筆頭の個人が約18%、公益財団法人と有限会社を加えた上位3者で約4割半を持つ。自社株も約7%ある。買収の標的にはなりにくく、少数株主が資本配分に口を出す余地も小さい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
先端パッケージの需要は本物だ。AI向けの半導体は大型化し、丸いウエハーより四角いパネルのほうが一度に多く作れる。パネル方式の市場は2030年に向けて桁違いに伸びると、複数の調査が見ている。アオイ電子はその入口で、シャープの6万平方メートルの建屋を手にし、技術支援の協議も進める。新築より立ち上げが早い近道だ。
本業の土台も堅い。受注残は前年より2割増え、集積回路は3割増えた。LED、光学センサー、ICのワンストップ対応が評価され、大口の取引は続いている。研究開発費の増加と減価償却は今がピークで、2028年から先端品の売上が加わると、固定費の負担は一気に軽くなる。
財務の余裕もある。自己資本比率は69%、純現金は77億円ある。上位3者で約4割半を持つ安定株主のおかげで、短期の業績に振り回されず、10年の勝負を続けられる。工場の稼働率が8割を超えれば、営業利益は100億円規模に届く。今の時価総額は、その成功のごく一部しか見ていない。
慎重な見方
賭けが大きすぎる。2029年までの投資350〜400億円は、自己資本432億円、時価総額304億円と並ぶ大きさだ。しかも、この工場に誰が仕事を出すのか、顧客の名前は出ていない。先端パッケージで先行するASE、PTI、サムスン電機、TSMCは、資金も顧客も桁が違う。後発の小さな受託会社が、AIの大口顧客から仕事を取れるとは考えにくい。
本業にも自信が持てない。営業利益率は10年で18%から1%を割るまで落ち、2024年3月期は赤字だった。売上は400億円前後で動かず、世界の市場が伸びる間にシェアを失ってきた。上位3社が売上の6割を占めるため、一社の内製化や海外移管で業績は大きく崩れる。貴金属の値上がりと人件費は、受託の値段に転嫁しにくい。
会社の予想も厳しい。2027年3月期の営業利益は3億円、2028年3月期はほぼゼロだ。新しい工場の減価償却が始まれば、立ち上がりの間は赤字になる。配当は利益の8倍を超えて払われており、続ければ純現金が先に尽きる。借り入れで投資と配当をまかなう形は、需要が外れた時の逃げ道を狭める。
どちらに重みを置いたか
成功した時の利益は大きいが、成功の確率は半分に満たず、成功しても利益に掛ける倍率は低い。筆者は慎重な見方の指摘を重く見た。先端パッケージが軌道に乗っても、受託加工はROEが資本コストを大きく超えにくい。稼働率が5割にとどまる中立の姿では、投資に見合う利益が出ず、10年後の時価総額は今の6割に満たない。確率は中立に最も厚く置き、投資が実らず減損に至る筋書きにも15%を割いた。自己資本に迫る額の賭けは、失敗した時の損失が成功した時の利益より重いからだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,111 円244 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 432 円50 億円)。 今の値に割り戻すと 1,173 円136 億円、今との差 −53.8%、 期待の年率 +0.0%(資本コスト 9.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 7,189 円832 億円 | 907 円105 億円 | +218.6% | +12.3% | 486 円56 億円 |
| やや楽観 | 18% | 3,935 円456 億円 | 691 円80 億円 | +82.0% | +6.2% | 833 円96 億円 |
| 中立 | 34% | 2,111 円244 億円 | 536 円62 億円 | +4.2% | +0.4% | 900 円104 億円 |
| やや悲観 | 27% | 821 円95 億円 | 216 円25 億円 | −59.2% | −8.6% | 280 円32 億円 |
| 悲観 | 15% | 216 円25 億円 | 86 円10 億円 | −88.1% | −19.2% | 45 円5 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,111 円244 億円 | 432 円50 億円 | +0.1% | +0.0% | 2,543 円294 億円 |
今の株価時価総額 2,541 円294 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 6% 先端パッケージが量産に乗り、会社の柱になる 利益 72 億円 · PER 11.6 倍 · 株価時価総額 7,189 円832 億円
先端パッケージが量産に乗り、10年後には会社の柱になる。三重の工場は月産2万枚の枠の8割強まで埋まり、先端品の売上は400億円に近づく。大口の顧客はAI向けの半導体を設計する会社で、チップレットを一つのパネルに載せる工程を丸ごと任せる。値段は共同開発で守られ、技術の進歩による値下がりを物価の上昇が相殺する。既存のLED・光学センサー事業は市場の伸びに沿って量を保ち、利益率は9%まで戻る。投資の償却が一巡し、稼いだ利益は第2工場の増設に回る。配当は増やせるが、使い道が多いので水準は控えめだ。ROEは10%前後で、資本コストをわずかに上回る程度にとどまる。受託加工の域を出ないため、倍率は10倍を超えない。
- 集積回路(後工程の受託):数量 2.6(後工程受託(OSAT)の世界市場のうち自社の取り分(億ドル・実質、市場×シェア))× 価格 195(円(為替150円×値段の指数。今は1.0))→ 売上 505 億円・営業利益 46 億円。市場720億ドル(実質1.5倍)×シェア0.36%、値段1.30倍、利益率9%
- 先端パッケージ(三重・FOLP):数量 210(パネルの出荷枚数(千枚/年))× 価格 1.90(1枚あたりの加工単価(億円/千枚、名目))→ 売上 399 億円・営業利益 60 億円。年24万枚の枠の88%、1枚19万円、利益率15%
- 機能部品:数量 0.3(サーマルプリントヘッド等の世界市場のうち自社の取り分(億ドル・実質、市場×シェア))× 価格 201(円(為替150円×値段の指数。今は1.0))→ 売上 60 億円・営業利益 5 億円。量は横ばい、値段は物価並み1.34倍、利益率9%
倍率:事業の純利益 72 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.6 倍。全体の PER 11.56 倍、時価総額 832 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI向けの大口顧客を後発の小さな受託会社が取り、稼働率8割まで埋め、既存事業の利益率も戻る、という連続した成功が要る。名前の出た顧客がまだ無く、確率は低くおく。
やや楽観 18% 先端パッケージは軌道に乗るが、遅れて薄利にとどまる 利益 41 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 3,935 円456 億円
先端パッケージは軌道に乗るが、予定より遅れる。稼働率は7割弱まで上がり、顧客は数社に分散する。データセンター向けのほか、車載レーダー向けの高周波パッケージが加わる。値段は技術の進歩に押され、物価の上昇を打ち消す。既存事業は量が横ばいで、値段は物価に届かない。人件費の上昇に追いつけず、利益率は7%止まりだ。営業利益は60億円台で、投資の回収には10年を超える時間がかかる。大口の顧客が一つ取れたかどうかで、この姿と中立の差が決まる。配当は今の水準を保てるが、増やす余地はない。ROEは7%台で、資本コストに届かない。
- 集積回路(後工程の受託):数量 2.4(後工程受託(OSAT)の世界市場のうち自社の取り分(億ドル・実質、市場×シェア))× 価格 188(円(為替150円×値段の指数。今は1.0))→ 売上 444 億円・営業利益 31 億円。市場696億ドル(実質1.45倍)×シェア0.34%、値段1.25倍、利益率7%
- 先端パッケージ(三重・FOLP):数量 170(パネルの出荷枚数(千枚/年))× 価格 1.70(1枚あたりの加工単価(億円/千枚、名目))→ 売上 289 億円・営業利益 29 億円。枠の71%、1枚17万円、利益率10%
- 機能部品:数量 0.3(サーマルプリントヘッド等の世界市場のうち自社の取り分(億ドル・実質、市場×シェア))× 価格 201(円(為替150円×値段の指数。今は1.0))→ 売上 60 億円・営業利益 5 億円。量は横ばい、値段1.34倍、利益率8%
倍率:事業の純利益 41 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 456 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:シャープの建屋と技術支援があり、国内の半導体・車載の顧客から一定の仕事は取れる。ただし投資の回収は予定より遅れるという、成功寄りの現実的な姿。
中立 34% 中立:先端パッケージは立ち上がるが、稼働率は5割にとどまる 利益 22 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 2,111 円244 億円
先端パッケージは立ち上がるが、稼働率は5割にとどまる。顧客は国内の数社で、AI向けの大口は取れない。値段は共同開発の品でも毎年の値下げ要請を受け、物価の上昇を打ち消す。10年後の売上は、先端品が180億円、既存の集積回路が400億円強になる。既存事業は量が横ばいで、世界の市場が伸びるなかでシェアが細る。値段の上昇は物価に届かず、人件費の上昇に追いつかない。貴金属の値上がりも利益を削る。営業利益率は全社で6%弱にとどまる。配当は利益に見合う水準まで減らす。借り入れで投資をまかない、純現金は消えて小さな純負債が残る。ROEは4%台で、資本コストに届かない。
- 集積回路(後工程の受託):数量 2.3(後工程受託(OSAT)の世界市場のうち自社の取り分(億ドル・実質、市場×シェア))× 価格 180(円(為替150円×値段の指数。今は1.0))→ 売上 406 億円・営業利益 22 億円。市場672億ドル(実質1.4倍)×シェア0.336%、値段1.20倍(顧客の値下げ要請で物価の1.34倍に届かない)、利益率5.5%
- 先端パッケージ(三重・FOLP):数量 120(パネルの出荷枚数(千枚/年))× 価格 1.50(1枚あたりの加工単価(億円/千枚、名目))→ 売上 180 億円・営業利益 11 億円。枠の50%、1枚15万円(技術の進歩による値下がりが物価の上昇を打ち消し1.0倍)、利益率6%
- 機能部品:数量 0.3(サーマルプリントヘッド等の世界市場のうち自社の取り分(億ドル・実質、市場×シェア))× 価格 201(円(為替150円×値段の指数。今は1.0))→ 売上 57 億円・営業利益 4 億円。量は0.95倍、値段1.34倍、利益率7%
倍率:事業の純利益 22 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.5% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 244 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の数社から仕事は取れるが、AI向けの大口は先行する台湾勢に流れる。既存事業は量が横ばいで値段が物価に届かない、というもっとも普通の姿に厚く置く。
やや悲観 27% 先端パッケージの稼働率が低迷し、工場の一部を減損する 利益 1 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 821 円95 億円
先端パッケージの稼働率が2割台で止まり、工場の一部を減損する。顧客の確定が遅れ、先行する台湾勢との価格競争に巻き込まれる。同時に既存事業のシェアが細り、大口顧客の一社が内製化か海外の委託先への移管を進める。値段は物価の半分ほどしか上がらない。遊休になった設備や土地の売却で資金をつくり、配当は大幅に減らして続ける。借り入れは150億円を超え、利払いが営業利益をほぼ食う。それでも事業は残り、赤字は小さい。株主にとっては、10年かけても投資の元本を取り戻せない姿である。会社は生き残るが、成長の物語は終わる。
- 集積回路(後工程の受託):数量 1.9(後工程受託(OSAT)の世界市場のうち自社の取り分(億ドル・実質、市場×シェア))× 価格 168(円(為替150円×値段の指数。今は1.0))→ 売上 327 億円・営業利益 8 億円。市場648億ドル(実質1.35倍)×シェア0.30%、値段1.12倍、利益率2.5%
- 先端パッケージ(三重・FOLP):数量 55.0(パネルの出荷枚数(千枚/年))× 価格 1.20(1枚あたりの加工単価(億円/千枚、名目))→ 売上 66 億円・営業利益 −4 億円。枠の23%、1枚12万円。減損後の償却で損失は小さい
- 機能部品:数量 0.3(サーマルプリントヘッド等の世界市場のうち自社の取り分(億ドル・実質、市場×シェア))× 価格 180(円(為替150円×値段の指数。今は1.0))→ 売上 47 億円・営業利益 1 億円。量は0.88倍、値段1.2倍、利益率3%
倍率:営業利益は出るが利払いで純利益はほぼ0になり、稼ぐ力では測れない。投資の失敗で自己資本の多くが機械設備の減損に消えるので、売れる資産の税後を床とし、今の自己資本432億円の0.22倍(約95億円)に置いた。中立の稼ぐ力から出した値より低い。
確率:顧客の確定が遅れ、先行する台湾勢の価格競争に巻き込まれる。同時に既存の大口顧客の内製化や移管でシェアが細る。投資額が自己資本に迫るため、中立の次に厚く置く。
悲観 15% 先端パッケージの顧客が定着せず、既存事業も縮む 利益 −17 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 216 円25 億円
先端パッケージの顧客が定着せず、三重の工場は遊休に近い状態になる。投資のほとんどを減損する。既存のLED・光学センサーも、大口顧客の内製化や海外移管で縮む。売上は280億円まで落ち、赤字が続く。配当は止め、借り入れの返済のために遊休資産を売却する。会社の最大の危機で、上位株主の支援か増資で延命するが、既存の株主の取り分は大きく薄まる。事業は残るものの、優良な受託会社としての評価は失われる。後工程の受託は、顧客を失えば固定費だけが残る仕事だからだ。自己資本は減損と赤字でほぼ消え、株主に残るのは売れる資産の手取りだけになる。
- 集積回路(後工程の受託):数量 1.6(後工程受託(OSAT)の世界市場のうち自社の取り分(億ドル・実質、市場×シェア))× 価格 150(円(為替150円×値段の指数。今は1.0))→ 売上 234 億円・営業利益 −2 億円。市場600億ドル(実質1.25倍)×シェア0.26%、値段1.0倍
- 先端パッケージ(三重・FOLP):数量 15.0(パネルの出荷枚数(千枚/年))× 価格 1.00(1枚あたりの加工単価(億円/千枚、名目))→ 売上 15 億円・営業利益 −5 億円。枠の6%、1枚10万円。減損後でも固定費が残る
- 機能部品:数量 0.2(サーマルプリントヘッド等の世界市場のうち自社の取り分(億ドル・実質、市場×シェア))× 価格 150(円(為替150円×値段の指数。今は1.0))→ 売上 33 億円・営業利益 −1 億円。量は0.74倍、値段は横ばい
倍率:構造的に負けて赤字が続き、稼ぐ力では測れない。売れる資産を処分して借入金を返したあとに残る分を床とし、今の自己資本432億円の0.058倍(約25億円)に置いた。やや悲観の約95億円より低い。
確率:投資額が自己資本に迫り、顧客の名前もまだ無い。失敗すれば工場の用途が限られ回収できない。同業の悲観より厚い15%を置いた(循環や値決めの理由は資本コストに入れず、この賭けの非対称さだけを確率で表す)。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
集積回路(後工程の受託)
IC、光学センサー、LED、ウエハーレベルパッケージの組立・検査を、半導体メーカーから請け負う既存事業。
| 数量後工程受託(OSAT)の世界市場のうち自社の取り分(億ドル・実質、市場×シェア) | 価格円(為替150円×値段の指数。今は1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.3 | 150 | 339 | 3 |
| 10 年後 中立 | 2.3 | 180 | 406 | 22 |
取り方:後工程受託の世界市場を2025年に約480億ドル(調査により460億〜520億ドル)とし、集積回路部門の売上339億円を150円で換算して2.26億ドル、シェアは約0.47%とみた。数量はこの市場のうち自社の取り分(実質)、価格は150円に値段の指数(今は1.0)を掛けた値。営業利益は単一セグメントで開示が無く、全社3億円を、機能部品+4億円、本社費−1億円、先端パッケージの立ち上げ費用−3億円と推定して割り付け、残りを本セグメントとした。受託の値段は毎年の値下げ要請を受け、売上が10年以上横ばいだったので、10年の値段の指数は物価の1.34倍に届かず中立で1.20倍とした。
先端パッケージ(三重・FOLP)
シャープから取得した三重第1工場で立ち上げる、パネルレベルの先端パッケージ。チップレット集積やデータセンター向け、高周波向けを狙う。
| 数量パネルの出荷枚数(千枚/年) | 価格1枚あたりの加工単価(億円/千枚、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.0 | 1.50 | 0 | −3 |
| 10 年後 中立 | 120 | 1.50 | 180 | 11 |
取り方:本格稼働の能力は月産2万枚で年24万枚。1枚あたりの加工単価は開示が無く、約15万円(1.5億円/千枚)と推定した。設備投資350〜400億円に対し、後工程の設備の回転が売上の1倍弱とみて、満稼働で年360億円前後になる値である。先端パッケージは技術の進歩で単価が下がるため、物価の上昇と相殺して中立は今の単価のまま1.5とした。今は量産前で売上0、立ち上げ費用を営業利益−3億円とした。
機能部品
感熱紙に印字するサーマルプリントヘッドと、各種センサーを自社製品として売る事業。
| 数量サーマルプリントヘッド等の世界市場のうち自社の取り分(億ドル・実質、市場×シェア) | 価格円(為替150円×値段の指数。今は1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.3 | 150 | 45 | 4 |
| 10 年後 中立 | 0.3 | 201 | 57 | 4 |
取り方:サーマルプリントヘッドと小型センサーの世界市場を約15億ドル、自社のシェアを約2%と推定し、0.30億ドル(売上44.5億円を150円で換算)とした。市場の大きさは複数社の公表売上からの粗い見積もりで、幅が大きい。営業利益は開示が無く、利益率9%前後の推定で4億円とした。
リスクと懸念
多気の投資が回収できない
2029年までに350〜400億円を投じる計画は、自己資本432億円に迫る。稼働率が5割にとどまれば投資に見合う利益は出ず、2割台なら減損になる。顧客の名前も、投資額の内訳もまだ開示されていない。
上位3社への依存
日亜化学工業、ミツミ電機、日清紡マイクロデバイスの3社で売上の約6割を占める。一社が内製化するか海外の委託先へ移すだけで、既存事業の稼働が落ち、固定費の重さが利益を直撃する。
値下げ要請と原価の上昇
受託の値段は顧客が決め、毎年の値下げ要請を受ける。金など貴金属の値上がりと人件費の上昇は、そのまま原価に乗る。売上が10年以上横ばいでも営業利益率が18%から1%を割るまで下がった理由はここにある。
先行勢との競争
先端パッケージではASE、PTI、サムスン電機、TSMCが先に動き、資金も顧客も桁が違う。後発の小さな受託会社が価格で押されれば、満稼働に近づいても利益率が育たない。
財務の余裕の低下
純現金は2024年3月期の222億円から77億円に細った。配当は利益で払えておらず、営業キャッシュフローも約9億円と薄い。投資が続けば純負債に転じ、金利が上がる局面では利払いが利益を削る。
方式が主流にならない可能性
FOLPが先端パッケージの主流にならず、他の方式やガラス基板へ需要が移れば、取得した工場の用途が狭まる。パネル方式の市場予測は調査会社により数倍の開きがある。
少数株主の影響力の小ささ
上位3者で約4割半を持つ株主構成のため、資本配分に外部から注文をつけにくい。経営判断が間違っても、是正する力が働きにくい。
今後の分かれ目
- 三重の工場でAI向けの大口顧客の採用が正式に発表されたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。先端パッケージの稼働率と値段の前提を上方修正し、価値を見直す。
- 2027年度の本格稼働が遅れ、稼働率が2年続けて3割を下回ったら
- やや悲観・悲観に重みを移す。減損の可能性と、借り入れの増加による利払い負担を織り込む。
- 上位3社の一社が取引を大きく減らしたら
- 既存事業の量と利益率の前提を下方修正する。固定費の重さから、減益は売上の落ち以上に大きくなる。
- 会社が配当を大きく減らす、または増資や第三者割当を発表したら
- 資本配分の確信度を下げ、悲観の確率を見直す。既存株主の取り分の薄まりも確認する。
- 第2工場の譲受が決まり、追加投資の規模が示されたら
- 総投資額と資金の調達方法を確認し、純負債と利払いの前提を引き直す。
- 貴金属の値上がりが転嫁され、既存事業の値段が物価並みに上がり始めたら
- 既存事業の利益率と値段の指数の前提を上方修正する。
見ておくもの
- 三重の工場の稼働率と、公表される顧客の顔ぶれ
- 営業キャッシュフローと純現金(純負債)の推移、長期借入金の残高
- 上位3社への売上の依存度と、各社との取引額の変化
- 貴金属の価格と、受託の値段に転嫁できた分
- 配当の水準と、自己資本比率の推移
倍率と資本コストの決め方
10年後の売上は、既存の集積回路を世界の後工程市場(約480億ドル)×自社のシェアで、先端パッケージを年24万枚の枠×稼働率×1枚あたりの単価で、機能部品を市場×シェアで積んだ。倍率は、ROEが資本コスト9%に届かない中立以下では1÷kを上限に、事業の質に応じて7.5割・8割に置き、今の株価や同業の倍率は見ていない。純現金は多気の投資に使うので余剰に分けなかった。悲観の床は過去のPBRの底でなく、売れる資産の税後から置いた。工場は自社所有なのでリースの約束は大きくない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.15→11.56 倍・やや楽観 PER 8.4→11.11 倍・中立 PER 7.9→11.11 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。