結論
ソシオネクストは、顧客の注文に合わせて専用の半導体(SoC)を設計し、製造は台湾 TSMC などに任せるファブレスの会社だ。富士通とパナソニックの設計部門を 2015 年に統合して生まれ、車載、データセンター、スマートデバイスを三本柱とする。
筆者の結論は、今の株価は割高というものだ。2026 年 3 月期は売上が増えたのに営業利益が半分になった。新しい量産品の原価が重く、先行投資もかさんだためだ。会社は来期の営業利益を 140 億円と見ている。
成長の芽は確かにある。北米データセンター向けと車載向けの新製品が、2026 年度の下期に量産へ入る。AI の計算需要は 10 年スパンで実質でも伸びる。ただ、この会社が取れる分け前は市場全体の 1% 前後にすぎない。
もう一つの難点は、利益の質が読みにくいことだ。直近の四半期では売上の約 3 割が設計料(NRE)で、量産品の利益率は顧客との入札で削られやすい。最大顧客が内製に動けば、量産の柱が一本消える。筆者は、この不安定さに見合う安全域が今の値段にはないと見る。
財務は堅い。借金はなく、自己資本比率は約 8 割ある。10 年の中立では売上が 2 倍になるが、倍率が付くのは利益が安定した後だ。その時点の価値は、今の時価総額に届かない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、問うべきは「10 年後も、この会社の利益を予測できるか」だ。筆者の答えは、半分だけはい、である。
AI や自動運転でカスタムチップが増えること自体は、ほぼ確実だ。しかし、そのうち、この会社が取る量と、取った後の利益率は読めない。案件ごとの入札、大口顧客の内製、先端プロセスの原価高が、いつでも利益を削る。理解の難しい事業は、払う値段に厚い安全域を求める。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、売上の 1 割に届かない年がある。研究開発に年 585 億円を使い、試作や在庫の資金も要るためだ。利益の波が大きく、配当は据え置きでも、利益が追いつかない年がある。
良い点は、財務が堅く、経営が堅実なことだ。実質無借金で、買収で価値を壊した過去も見当たらない。これは悲観の底を支える。
ただ、今の値段は、量産の立ち上がりが順調に進み、利益率も戻ることをかなり織り込んでいる。筆者なら、利益が安定してから買う。それまでは見送るのが、この事業への礼儀だと考える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ方は二段になっている。まず顧客から設計料(NRE)をもらって専用チップを作る。量産に入れば、チップの出荷ごとに売上が立つ。設計料は先に入るが、量産の利益は何年か後の話だ。
顧客は車載、データセンター・ネットワーク、スマートデバイスなどに分かれる。会社は注力領域を、テレビなど民生中心から、この先端分野へ移してきた。用途別の売上は開示がなく、筆者は車載 3 割、データセンター 3 割台半ば、残りを他と推定している。
製造の工場を持たないので、設備投資は軽い。代わりに、最先端プロセスの試作マスク代、TSMC への前払い、在庫に資金が要る。研究開発費は年 585 億円と、売上の 3 割近い。
案件の大きさは商談獲得額で見える。2026 年 3 月期は約 3,100 億円で、前の期の約 3,600 億円を下回った。ただ、データセンター・ネットワークでは大型案件を取っている。量産が立ち上がれば、売上は一段上に動く。
2026 年 4〜6 月は営業赤字だった。車載品の約 100 億円分の出荷が、生産ラインの変更で第 2 四半期へずれたためだ。この会社の四半期は、量産の出荷の時期ひとつで大きく振れる。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、先端プロセスでチップを一から設計し切る力だ。設計の人材と、TSMC など製造側との深い関係がある。2nm 世代のマルチコア CPU チップレットを Arm・TSMC と開発するなど、技術の前線にいる。
ただ、堀、つまり他社がまねできない強みは、深いとは言えない。顧客は設計済みの案件ごとに発注先を選ぶので、次の世代も取れる保証がない。大口の顧客は、自社で設計して内製する道も持つ。
利益率も安定しない。製品売上原価率は 2026 年 3 月期に 68.6% へ約 11 ポイント悪化した。新しい量産品の立ち上がりは、歩留まりと原価が重く、利益が薄い。営業利益率は 2024 年 3 月期の 16% から、2026 年 3 月期の 6% まで落ちた。
資本効率は、利益が出る年には高い。ROE は 2024 年 3 月期に 20% だった。2026 年 3 月期は 6.6% である。自己資本を厚く抱えているため、利益の波がそのまま ROE の波になる。
経営の資本配分は、保守的だ。実質は無借金で、大型買収で価値を壊した話も聞かない。配当は直近 2 期とも同額で据え置き、今期の純利益とほぼ同額を払っている。利益が落ちた年も、配当を減らさなかった点は、株主を向いた姿勢と筆者は見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
カスタム半導体の需要は、AI の計算基盤と自動運転で構造的に伸びる。会社は、車載・データセンター・先端の CPU 向けの市場が、2024〜2028 年に年 12.4% で伸びると見ている。大手クラウド事業者が、汎用品でなく自社専用のチップを求める流れは、まだ途中だ。
競争の構図は、規模の差がはっきりしている。データセンター向けは、米 Broadcom と Marvell が先頭を走り、台湾の Alchip・GUC が続く。ソシオネクストは、この中では小さい挑戦者だ。大口顧客が内製や大手へ寄れば、ここで取れる量は小さくなる。
車載では、ADAS 向けのカスタム SoC が TSMC の 3nm 車載版で進んでいる。ただ、自動車メーカーが設計を選ぶのは数年に一度で、一度決まれば 7〜10 年は同じ設計が使われる。取れれば長い収益になり、外せば当分空白が続く。
スマートデバイスや民生向けは、成熟した領域だ。画像処理や産業機器の一部は堅いが、テレビなど従来の民生は縮む。この領域は、成長の足を引く役にまわる。
半導体は景気で需要が振れる。2026 年は AI 向けが強い一方、車載や産業は調整が長引いた。この会社も、2026 年 3 月期にその波を受けた。
資本政策と M&A
株主構成は、上場の前後で一変した。上場前は富士通、日本政策投資銀行、パナソニックの 3 社でほぼ全株を持っていた。2023 年に 3 社が持ち株の売却を進め、今は信託口を中心とした広い株主になっている。親会社はなく、支配株主も見当たらない。
還元は、配当が中心だ。2025 年 3 月期から同額を続け、2026 年 3 月期は純利益とほぼ同額に達した。自社株買いの強い方針は確認できず、筆者は今後も配当中心とみている。
手元の純現金は 445 億円で、時価総額の 1 割強だ。ただ、2nm など先端の試作には、1 案件で数百億円規模の投資が要る。現金はこの先行投資と、TSMC への前払いの備えに必要だ。
M&A の動きは目立たない。kabufu の推定では、10 年以内に TOB を受ける確率は約 16% である。親会社のいない上場の半導体設計会社は、海外の半導体大手や商社の買収対象になり得る。ただ、価格がつり上がれば、筆者は買う側に回るのは難しいと見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
データセンター向けの量産が、2026 年度の下期に北米で始まる。ここが立ち上がれば、売上は一段上に動く。2025 年度に取った大型の商談は、数年かけて売上に変わる。設計料の売上は、直近の四半期だけで 116 億円ある。
車載も同じ構図だ。ADAS 向けの 3nm 車載版の SoC は、いったん採用されれば 7〜10 年使われる。出荷が第 2 四半期へずれた約 100 億円は、消えたのでなく、後ろにずれただけだ。
利益率は、新しい量産品の立ち上がりが一巡すれば戻る。2024 年 3 月期には営業利益率が 16% に達していた。原価の悪化は、最初の量産に付きものの一時的なものだ。
筆者のもう一つの見方は、市場が自社専用のチップへ向かう流れの強さだ。年 12% で伸びる市場で、先端プロセスを設計し切れる会社は多くない。2nm で Arm・TSMC と組むのは、その証拠だ。借金のない財務は、この先行投資を続ける余力になる。
慎重な見方
利益の質が悪い。2026 年 3 月期は、売上が増えたのに営業利益が半分になった。製品の原価率は約 11 ポイント悪化した。売上を伸ばしても、利益が付いてこない構造が見えた。
データセンター向けは、規模の差がはっきりしている。Broadcom・Marvell・Alchip・GUC と、入札で競り合う。大口の顧客が内製へ向かえば、この会社の売上は大きく削れる。商談の獲得額も、前の期の約 3,600 億円から約 3,100 億円へ減った。
設計料は先に入るが、量産の利益は何年も先で、案件ごとに外れうる。会社の来期予想の営業利益 140 億円は、市場の見通しを 4 割ほど下回る。
今の時価総額 3,300 億円台は、データセンターの量産が順調に立ち上がり、利益率も戻ることを前提にしている。どれか一つ崩れれば、倍率は大きく縮む。10 年後に売上が倍になっても、倍率が付くのは利益が安定した後だ。
筆者がいちばん気にするのは、量産前の費用の重さだ。2nm など先端の案件では、試作の費用が先に出ていく。案件を落とせば、その費用は回収できない。売上の増加を見ても、利益と現金が残るかは別の話である。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、量産が始まれば利益が戻るという一点に懸かっている。慎重な見方は、利益の質と大口顧客の内製が、その前提を崩しうると突く。筆者は、実績の裏付けがある慎重な見方を重く見る。
確率は中立に最も厚く置き、悲観側(やや悲観と悲観)の合計を楽観側より厚くした。ただし財務の堅さと技術の前線にいる点から、悲観を深くしすぎなかった。10 年後の価値は、今の時価総額を大きく下回った。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,254 円3,953 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 588 円1,032 億円)。 今の値に割り戻すと 1,388 円2,435 億円、今との差 −21.2%、 期待の年率 +4.9%(資本コスト 8.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,617 円9,852 億円 | 1,026 円1,800 億円 | +277.2% | +14.2% | 531 円932 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,638 円6,380 億円 | 798 円1,400 億円 | +151.8% | +9.7% | 887 円1,556 億円 |
| 中立 | 34% | 2,661 円4,668 億円 | 684 円1,200 億円 | +89.9% | +6.6% | 1,138 円1,995 億円 |
| やや悲観 | 26% | 556 円976 億円 | 399 円700 億円 | −45.8% | −5.9% | 248 円436 億円 |
| 悲観 | 12% | 228 円399 億円 | 86 円150 億円 | −82.2% | −15.9% | 38 円66 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,254 円3,953 億円 | 588 円1,032 億円 | +61.4% | +4.9% | 2,842 円4,985 億円 |
今の株価時価総額 1,762 円3,089 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 北米 AI 向けが本格化し、利益率が 16% 級へ戻る 利益 634 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 5,617 円9,852 億円
北米データセンター向けの量産が当たり、AI 向けのカスタムチップが売上の柱に育つ。大口顧客は、次の世代の 2nm 案件も続けてこの会社に任せる。一度採用された設計は何世代か続き、設計料と量産の売上が重なる。
車載でも、ADAS 向けの 3nm 車載版の SoC が複数の自動車メーカーに採用される。出荷は 7〜10 年続く長い収益になる。スマートデバイスは横ばいで、足を引っ張らない。
原価も改善する。新しい量産品の歩留まりが上がり、営業利益率は 2024 年 3 月期の 16% に近い水準へ戻る。配当に加えて自社株買いも増やす余裕が出て、資本が厚くなりすぎない。
それでも市場全体の 1.6% ほどにすぎず、ここまで来ても市場の大手には届かない。10 年後の売上は今の 3 倍に近づき、利益は 7 倍ほどになる。
- 車載向けカスタム SoC:数量 8.3(対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル))× 価格 201(円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立))→ 売上 1,672 億円・営業利益 251 億円。車載 市場 320 億ドル(実質)× シェア 2.6%、利益率 15%
- データセンター・ネットワーク向けカスタム SoC:数量 16.6(対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル))× 価格 201(円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立))→ 売上 3,345 億円・営業利益 468 億円。DC 市場 1,040 億ドル × シェア 1.6%、利益率 14%
- スマートデバイス・産業・その他:数量 4.8(対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル))× 価格 201(円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立))→ 売上 965 億円・営業利益 97 億円。市場 160 億ドル × シェア 3.0%、利益率 10%
倍率:事業の純利益 634 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.1% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍。全体の PER 15.54 倍、時価総額 9,852 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:北米データセンター向けの量産が当たり、大口の顧客が次世代の 2nm 案件も続けて任せ、車載の採用も複数決まる、という連続の成功が要る。入札で競る構図が変わらないので、確率は低く置く。
やや楽観 20% 量産が順調に立ち上がり、利益率が 12% 前後で安定する 利益 437 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 3,638 円6,380 億円
北米データセンターと車載の新製品が計画どおりに量産へ入り、売上は着実に増える。設計料から量産への移行が回り、営業利益率は 12% 前後に戻って安定する。
データセンター向けのシェアは 1% 台前半を保つ。大手クラウド事業者の専用チップ需要が伸びる中で、先端プロセスを設計し切れる強みが効く。大口顧客の一部は入れ替わるが、新しい案件が穴を埋める。
車載は ADAS 向けが続き、シェアはじわりと上がる。スマートデバイスは民生の縮小と産業の伸びが相殺して横ばいだ。
配当は利益の増加にあわせて引き上げる。借金のない財務は変わらず、自己資本は積み上がる。10 年後の売上は今の 2.4 倍ほどになる。
- 車載向けカスタム SoC:数量 7.1(対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル))× 価格 201(円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立))→ 売上 1,433 億円・営業利益 194 億円。車載 市場 310 億ドル × シェア 2.3%、利益率 13.5%
- データセンター・ネットワーク向けカスタム SoC:数量 12.0(対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル))× 価格 201(円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立))→ 売上 2,406 億円・営業利益 289 億円。DC 市場 900 億ドル × シェア 1.33%、利益率 12%
- スマートデバイス・産業・その他:数量 4.6(対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル))× 価格 201(円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立))→ 売上 933 億円・営業利益 84 億円。市場 160 億ドル × シェア 2.9%、利益率 9%
倍率:事業の純利益 437 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.8% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍。全体の PER 14.6 倍、時価総額 6,380 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:量産は順調に立ち上がるが、利益率が 2024 年 3 月期の 16% までは戻らない想定。会社の計画(来期営業利益 140 億円、翌期 200 億円)の延長に近く、実績の裏付けがある。
中立 34% 売上は倍になるが、利益率は 9% 台にとどまる 利益 332 億円 · PER 14.1 倍 · 株価時価総額 2,661 円4,668 億円
成長する市場の中で、シェアはほぼ今のまま。データセンターは市場が 2 倍以上に伸びるが、大手との入札で取れる分け前は 1% をやや超える程度にとどまる。車載は ADAS 向けの採用が広がり、シェアが少し上がる。
売上は 10 年で 2 倍に増えるが、利益率は戻り切らない。先端プロセスの原価高と入札の値下げが重く、営業利益率は 9% 台で止まる。2024 年 3 月期の 16% は、設計料が厚かった年の山と見る。
大口顧客の一部は、内製や他社へ移る。ただ、新しい案件が入れ替わりで入るため、売上は崩れない。借金のない財務は保たれ、配当は利益の半分ほどに増える。
スマートデバイス・民生は、縮む用途と伸びる用途が相殺し、横ばいにとどまる。ROE は 13% 台で、今より高いが、過去の山には届かない。
- 車載向けカスタム SoC:数量 6.6(対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル))× 価格 201(円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立))→ 売上 1,327 億円・営業利益 159 億円。車載 市場 300 億ドル × シェア 2.2%、利益率 12%
- データセンター・ネットワーク向けカスタム SoC:数量 9.7(対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル))× 価格 201(円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立))→ 売上 1,946 億円・営業利益 195 億円。DC 市場 880 億ドル × シェア 1.1%、利益率 10%
- スマートデバイス・産業・その他:数量 4.6(対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル))× 価格 201(円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立))→ 売上 929 億円・営業利益 74 億円。市場 165 億ドル × シェア 2.8%、利益率 8%
倍率:事業の純利益 332 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.3% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.1 倍。全体の PER 14.06 倍、時価総額 4,668 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:成長する市場で一定のシェアを保つが、入札で利益率が削られ、大口顧客の入れ替わりも一部ある中心の筋書き。実績の営業利益率の幅(6〜16%)の中ほどに近く、最も厚く置く。
やや悲観 26% 大口顧客の一部が離れ、車載と民生だけが残る 利益 122 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 556 円976 億円
データセンター向けで、大手に押される。大口顧客の一部が内製や Alchip・GUC・Marvell へ発注を移し、この会社の取り分は市場の 1% を割り込む。入札の値下げも続く。
車載は ADAS 向けを数件取るが、競合との差は縮まらず、利益率は 1 桁にとどまる。スマートデバイスと民生は、従来のテレビなどの縮小が進み、利益が薄い。
設計料は入るが、量産への移行が進まず、研究開発費の負担が重い。営業利益率は 5% 台にとどまり、利益は今の水準をわずかに上回る程度だ。
配当は今の水準を維持しようとするが、利益を上回り、純現金を食う。技術の前線にいる点は保つが、成長企業の評価は付かない。
- 車載向けカスタム SoC:数量 4.7(対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル))× 価格 195(円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立))→ 売上 913 億円・営業利益 73 億円。車載 市場 260 億ドル × シェア 1.8%、利益率 8%
- データセンター・ネットワーク向けカスタム SoC:数量 5.6(対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル))× 価格 195(円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立))→ 売上 1,092 億円・営業利益 66 億円。DC 市場 700 億ドル × シェア 0.8%、利益率 6%
- スマートデバイス・産業・その他:数量 3.4(対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル))× 価格 195(円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立))→ 売上 655 億円・営業利益 33 億円。市場 140 億ドル × シェア 2.4%、利益率 5%
倍率:ROE 6.8% が k 8.5% 以下なので、伸びても価値は増えず(ためた利益は額面未満)、正当化 PER の上限は 1÷k=11.4 倍。大手に押されて利益率が 1 桁にとどまり、利益の質も低い筋書きなので、8.0 倍に置いた。
確率:2026 年 3 月期に原価率が約 11 ポイント悪化した実績と、商談獲得額の減少から、慎重な見方を重く見て、悲観側を楽観側より厚く置く。データセンター向けで大手に押される筋書き。
悲観 12% 大口顧客が内製へ移り、設計請負の柱を失う 利益 10 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 228 円399 億円
データセンターの大口顧客が、自社設計へ完全に移る。会社はデータセンター向けの量産の柱を失い、残るのは小さな案件だけになる。先端プロセスの研究開発費は、売上が減っても固定で残る。
車載は ADAS 向けの競争で外れ、取れた案件も値下げ圧力で利益が出ない。スマートデバイスと民生は縮む。設計請負は、案件を失うと売上が消える。
営業利益は、ほぼゼロの水準に落ちる。配当は大きく減らすが、最初の数年は手元の純現金から払い続ける。研究開発の縮小で、技術の前線から後退する。
それでも、純現金と堅い財務が会社の存続を守る。この筋書きの株主価値は、稼ぐ力ではなく、手元の純現金と売れる資産に頼る。
- 車載向けカスタム SoC:数量 2.8(対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル))× 価格 185(円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立))→ 売上 518 億円・営業利益 21 億円。車載 市場 200 億ドル × シェア 1.4%、利益率 4%
- データセンター・ネットワーク向けカスタム SoC:数量 2.4(対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル))× 価格 185(円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立))→ 売上 444 億円・営業利益 0 億円。DC 市場 600 億ドル × シェア 0.4%、利益率 0%
- スマートデバイス・産業・その他:数量 2.6(対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル))× 価格 185(円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立))→ 売上 481 億円・営業利益 10 億円。市場 130 億ドル × シェア 2.0%、利益率 2%
倍率:大口顧客が内製へ移り、営業利益はほぼゼロで稼ぐ力では測れない。床は純現金と売れる資産の税後 400 億円とし、今の自己資本 1,331 億円の 0.3 倍に置いた(やや悲観の稼ぐ力から出した約 980 億円より低い)。
確率:大口顧客の内製化と先端プロセスの原価高が重なる複合の負け。設計請負型で、案件を失うと売上が消えるので、無視できない確率を置く。ただ、財務が堅く技術の前線にいるので、これ以上は厚くしない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
車載向けカスタム SoC
ADAS・先進コックピット向けに、自動車メーカー・Tier1 と共同設計するカスタム SoC と設計受託(NRE)。
| 数量対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル) | 価格円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.0 | 150 | 600 | 48 |
| 10 年後 中立 | 6.6 | 201 | 1,327 | 159 |
取り方:用途別売上は非開示。有報の注力領域の説明と第三者の構成推定から車載を約 3 割の 600 億円と置き、車載向けカスタム SoC の対象市場 200 億ドル(実質)に対するシェア 2.0% と推定した。物価は価格(150 円 × 物価の倍率)に入れた。今の利益率は 2026/03 期の全社の落ち込みに合わせ 8%。
データセンター・ネットワーク向けカスタム SoC
データセンター・ネットワーク機器向けの先端プロセス(5nm 以降)のカスタム SoC と設計受託。北米向けの新規量産が 2026 年度下期に始まる。
| 数量対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル) | 価格円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.7 | 150 | 700 | 63 |
| 10 年後 中立 | 9.7 | 201 | 1,946 | 195 |
取り方:DC・ネットワークを約 35% の 700 億円と推定し、先端ノードのカスタム ASIC・SoC の対象市場 400 億ドル(実質、ハイパースケーラー向けの大手専業を含む広い見方)に対するシェア 1.2% とした。今の利益率は 9%。
スマートデバイス・産業・その他
スマートデバイス、画像処理、産業機器、従来の民生(テレビなど)向けの SoC・設計受託。
| 数量対象市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア = 自社の実質売上(億ドル) | 価格円 / ドル × 物価の倍率(今 150、10 年で 1.34 倍の 201 が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.7 | 150 | 708 | 35 |
| 10 年後 中立 | 4.6 | 201 | 929 | 74 |
取り方:残りの 708 億円をスマートデバイス・産業・民生向けとし、対象市場 150 億ドルに対するシェア 3.1% と推定。利益率は 5%。全社の営業利益 124 億円に合うよう、本社費・共通の研究開発費を調整に −22 億円で置いた。
リスクと懸念
大口顧客の内製化・大手への移行
データセンター向けは、少数の顧客に売上が偏りやすい。顧客が自社で設計して内製したり、Broadcom・Marvell・Alchip・GUC へ発注を移したりすれば、量産の柱が一本消える。設計は案件ごとの入札で、次の世代を取れる保証はない。
新規量産品の利益率
2026 年 3 月期は、製品の売上原価率が約 11 ポイント悪化した。新しい量産品は、歩留まりが上がるまで原価が重い。立ち上がりが長引けば、売上が増えても営業利益は伸びず、会社の来期予想を割ることもありうる。
量産出荷の時期ずれ
2026 年 4〜6 月は、車載品の約 100 億円分の出荷が生産ラインの変更で第 2 四半期へずれ、営業赤字になった。量産の時期のずれは、ひとつで四半期の業績を大きく振る。顧客の都合や製造側の遅れは、会社の手では動かせない。
先端プロセスの開発費と製造の依存
2nm 世代の試作は、1 案件で多額の費用がかかる。研究開発費は年 585 億円と、売上の 3 割近い。製造は TSMC などに頼るので、先端ウェハーの値上げや生産枠の確保が難しくなれば、利益率が削られる。
商談獲得の伸び悩み
商談獲得額は、2025 年 3 月期の約 3,600 億円から、2026 年 3 月期の約 3,100 億円へ減った。獲得は将来の売上の先行指標だ。大型案件が数件取れない年が続けば、数年後の売上の伸びが鈍る。
景気と半導体市況
半導体の需要は、景気と在庫の調整で大きく振れる。車載や産業向けの調整が長引けば、スマートデバイスや民生向けと合わせて、売上と利益が同時に落ちる。設計請負は固定費が重く、売上が落ちると利益が大きく減る。
今後の分かれ目
- 北米データセンター向けの量産が予定どおり 2026 年度下期に始まり、売上と利益率が確認できたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。DC 向けのシェアと利益率の置き方を見直し、価値を上方に修正する。
- 大口のデータセンター顧客が、内製や他社への発注へ移ったと分かったら
- やや悲観・悲観に確率を移す。DC 向けのシェアを下げ、量産の売上の見通しを大きく削る。
- 商談獲得額が 2 年続けて 3,000 億円を割り込んだら
- 数年後の売上の伸びを下げて見る。中立の売上の置き方を下方に修正する。
- 製品の売上原価率が量産の立ち上がりを過ぎても元に戻らなかったら
- 利益率の前提を下げ、営業利益率が 16% に戻る筋書き(楽観)の確率を下げる。
- 車載向けの ADAS 用 SoC で、大手自動車メーカーの採用が複数決まったら
- 車載のシェアを上方に見直す。7〜10 年続く収益の積み上がりを、中立に反映する。
- TOB など、買収の話が出たら
- その価格が、10 年後の価値の中立〜やや楽観の水準と比べて割安か割高かを見る。株主価値の観点で判断する。
見ておくもの
- 北米データセンター向けと車載向けの新製品の量産開始(2026 年度下期)と、出荷の売上への寄与
- 製品の売上原価率と営業利益率の推移(2024 年 3 月期の 16% への戻り方)
- 商談獲得額(前期約 3,100 億円)と大型案件の数、顧客ごとの偏り
- 設計料(NRE)売上の水準と、量産への移行の進み方
- 2nm 世代のチップレット案件の顧客獲得と開発費の増減
倍率と資本コストの決め方
倍率は、利益ベースの正当化 PER の式(k 8.5%、g 4%、RONIC=k+残る割合×(ROE−k))の上限に対して、楽観は 8.8 割、やや楽観は 8.6 割に置き、中立は上限の 7.5 割が 1÷k を割るため 1÷k を少し上回る水準に置いた。やや悲観は ROE が k 以下なので 1÷k の範囲で置いた。今の株価・今の PER・過去の PBR は使っていない。k は基本 7.5% に quality +1.25%(循環+0.5・値決め+0.25・借金 0・寿命+0.5)を足した。市場は、用途別の対象市場 × シェアの数量(実質)に、物価 1.34 倍の価格をかけた。会社は単一セグメントで用途別売上が非開示のため、3 つの用途の売上は筆者の推定だ。純現金 445 億円は、ファブレスの試作・前払い・在庫・研究開発の資金に要るとして分けていない。悲観は、稼ぐ力ではなく、純現金と売れる資産から床を置いた。今の株価が倍でも半分でも、この数字は動かない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。