結論
santec Holdingsは、光通信向けの波長可変レーザーと光測定器、それにトランシーバー用の光部品を作る愛知の会社だ。従業員は400人あまり。2026年3月期は売上が31%、営業利益が39%伸び、営業利益率は33%に達した。筆者の結論は、事業は優良だが今の値段は割高、である。
稼ぎの中心は生成AIだ。データセンターで光トランシーバーの数が増えると、作る側は検査に波長可変レーザーを使い、完成品には光の強さを測る小さな部品が載る。santecはその両方を売っている。会社は2027年3月期も営業利益を16%ほど伸ばす計画だ。
ただ、この利益率は10年続く水準ではないと筆者は見る。顧客の設備投資が一服すれば検査機器は止まり、中国勢が追えば部品の値段は下がる。ROE(自己資本でどれだけ稼ぐか)も27%と、過去の中央値の倍を超えている。
10年の筋書きを重ねると、本質価値は今の時価総額を大きく下回る。いちばん良い筋書きでも、10年の年の収益は資本コストに届かない。AIの波が10年続き、しかもシェアまで伸びても、今の値段では報われにくい。事業の質は疑っていない。疑っているのは払う値段だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「10年後も同じ儲け方ができるか」を問う。santecの波長可変レーザーは、通信が速くなる限り必要だ。この点は予測しやすい。ただ、今の利益率の水準が続くかとなると、確信が持てない。
次に、オーナー利益(再投資を引いた後に株主のものになる利益)を見る。設備が軽いので、利益のほとんどが株主に残る。配当を3割に抑え、現金を厚く残す姿勢も、財務の安全には合う。
一方で、堀は思ったほど厚くない。測定器は設計者が使い続ける利点があるが、部品は買い手の値下げ圧力が強い。AI向けの需要は強いが、その中身は一つの顧客群の投資計画に寄る。
最後に安全域だ。今の時価総額は、営業利益率が3割を超える状態が長く続く前提に近い。10年先の儲けを割り引くと、いちばん良い筋書きでも、年の収益は資本コストに届かない。事業は好ましいが、払う値段に余裕がない。もう少し安い値段か、利益の底が見えてから考えたい会社だ。
何で稼ぐ会社か
事業は3本で、売上の7割が光測定器だ。波長可変レーザー(出す光の色を自由に変えられるレーザー)、光パワーメーター、光スイッチ、干渉計などを、光部品や通信機器を作るメーカーと研究機関に売る。2026年3月期は223億円で全体の71%を占める。顧客の開発や出荷検査に使われるため、納入先は一度決まると長く付き合う。
光部品は売上の2割、63億円だ。光トランシーバーの内部で光の強さを測る小さな部品、可変光減衰器、波長選択スイッチ、空間光変調器などがある。生成AI向けのトランシーバー用モニターが急増の原動力で、中間期には前年の1.8倍近くに伸びた。会社はベトナムとカナダで生産能力を広げている。
残りの1割弱は、眼科用のOCT(光で目の中を断層撮影する技術)と量子向けの機器だ。眼の長さを測る白内障手術用の機器は、2019年に米Alconが独占販売の提携を結び、日本では2020年からMOVUの名で売られている。
会社は1979年に名古屋で貿易商社として生まれ、1993年に光通信部品へ踏み出した。2023年に持株会社へ移り、測定器、部品、医療を子会社ごとに分けている。社長は鄭元鎬氏だ。
優良さと弱いところ
優良さの核は技術の深さだ。波長可変レーザーは、光の色を速く正確に動かす難しい装置で、半導体や通信機器の設計者が測定の基準にする。一度測定器として入ると、設計の手順ごと使い続けるので、切り替えは面倒だ。営業利益率が3割を超える会社は、この領域には多くない。
筆者が評価するのは、儲けの割に資本が要らない点だ。借金はなく、純現金は120億円ある。自己資本比率は7割を超える。ROEが27%に上がったのは、固定の設備が小さく、売上が増えても元手がほとんど増えないからだ。
弱みは3つある。第1に、売上の伸びがAI向けの設備投資という一つの流れに寄っている。第2に、光部品はトランシーバー大手の購買担当が値段を決める世界で、数が出るほど値下げを迫られやすい。第3に、会社の規模が小さく、400人あまりの技術者が支えている。人が抜ければ競争力に響く。
経営は創業以来の技術志向で、配当は利益の3割ほどと控えめだ。現金をためて研究と設備に回す姿勢は一貫している。ただ、堀(他社が真似しにくい強み)は強いと言い切るほどではない。ローム、ルネサスのような大手が同じ試験市場に入り込む余地は残っている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
業界は生成AIの設備投資に引っ張られている。データセンター内の光トランシーバーは、800ギガから1.6テラへと速度が上がり、1台ごとに検査する工程も厳しくなる。作る数が増え、検査の質も上がるので、波長可変レーザーと測定器の需要が両方伸びる。これがsantecの追い風だ。
同じ市場には、米国のKeysight、EXFO、VIAVI、Thorlabsなど大手がいる。測定器全般では彼らが大きいが、波長可変レーザーの高性能品では、santecは世界の上位に入る。ただ、正確なシェアの公開はなく、筆者は1割前後と見積もる。
懸念は、顧客が自社で検査を内製するか、中国の測定器メーカーが性能を追いつかせる場合だ。トランシーバーを作る中国勢の量が大きく、現地の検査機器の国産化は政策も後押しする。部品も同じで、モニター用の小さな受光素子は、参入の壁が低い。
循環の位置は頂に近い。AI向けの投資は2023年から3年続き、会社自身も利益を伸ばし続けている。会社の来期計画は営業利益で16%増だが、こうした需要は投資が一服すると急に止まる。半導体ウエハーの市場回復も、会社は来期の追い風に数えている。
10年で見れば、通信の速度が上がり続ける限り、光の検査と部品の需要は残る。ただ、その伸びが今の高い利益率を保つ形になるかどうかは別の話だ。
資本政策と M&A
配当は利益の3割ほどで、年間の額は増やしてきた。自社株買いは目立たず、現金の大半は純現金として残っている。純現金は時価総額の5%ほどで、事業に要らないほど余っているとは見ない。研究開発と、ベトナム・カナダの増産に使う余地があるからだ。
M&Aは大型のものを繰り返してきた会社ではない。技術を磨いて自前で伸ばす型で、買収の失敗で資本を傷めた過去はない。この点はルネサスやロームと違う長所だ。
株主は、資産管理会社の光和などが上位に並ぶ。株数は1,200万株弱と少なく、市場で動く株は多くない。株が少ないぶん、値動きが荒くなりやすい。
TOBの可能性は、十分に残る。時価総額が2,400億円ほどと手頃で、波長可変レーザーの技術は欧米の測定器大手にとって魅力だ。ただ、筆頭株主が手放す気配は見えず、筆者は本質価値には織り込まない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI向けの光通信は、始まったばかりだ。トランシーバーは800ギガから1.6テラ、さらに3.2テラへと進む。速度が上がるたびに、検査は難しくなり、波長可変レーザーの性能が問われる。santecはこの領域で世界の上位にいて、新しい規格が出るたびに需要を取る立場だ。
光部品の伸びも続く。生成AIのデータセンターでは、トランシーバーの数そのものが年に数割増える。santecのモニターは小型化の技術があり、顧客の設計に入ると外れにくい。ベトナムとカナダの増産で供給も追いつく。
さらに、非通信の芽がある。空間光変調器はレーザー加工で採用が広がり、眼科用のOCTと量子向けの機器は、これから大きくなる新しい市場だ。通信以外で売上の2割を取る日も遠くない。
財務の強さも味方だ。借金がなく、現金が厚いので、需要が一服しても研究と増産を止めずに済む。人が少ない小さな会社だからこそ、判断が速く、顧客の要望に素早く応じられる。10年で市場が1.8倍になり、シェアも上がれば、営業利益は300億円を超える。
慎重な見方
今の利益は、AI向けの設備投資が最高潮の時の姿だ。営業利益率が33%まで上がったのは、売上が急に増えたのに、人も設備もほとんど増えていないからだ。投資が一服すれば、検査機器の注文は先に止まる。測定器は買い替えを先送りできる。
値段の面でも逆風がある。トランシーバーの大手は、部品を安く買おうと必ず圧力をかける。光部品では、中国の部品メーカーが似た性能のものを安く出す。可変光減衰器や受光素子は、参入の壁が高くない。
測定器にも死角がある。Keysightなど大手は営業網が広く、顧客の検査ライン一式を売れる。santecは単体の高性能品が強みだが、大手が同じ性能を出せば差は縮む。顧客が自社で検査を内製する動きもある。
会社が小さいことは弱みにもなる。400人あまりの会社で、特定の技術者と少数の大口顧客に頼る度合いが高い。株数が1,200万株弱と少なく、株価の値動きも荒い。年初の高値から安値まで大きく動いた。10年先まで3割の利益率が続くという前提は、強気すぎる。
どちらに重みを置いたか
事業の質については、強気の見方に分がある。技術は深く、財務は安全で、AIの需要は本物だ。一方で、今の利益率が10年続くという点は、慎重な見方の指摘が重い。測定器は投資が一服すると止まり、部品は値下げの圧力を受ける。確率は中立に3割強を置き、やや悲観に厚みを持たせた。ただ、悲観を深くはしなかった。借金がなく、技術に独自性があるので、事業が崩れる場合は少ない。いちばん良い筋書きでも年の収益が資本コストに届かない点は、確率の置き方では変わらない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 21,632 円2,544 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,853 円336 億円)。 今の値に割り戻すと 12,753 円1,500 億円、今との差 −29.9%、 期待の年率 +3.0%(資本コスト 7.2%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 45,896 円5,398 億円 | 4,498 円529 億円 | +177.0% | +10.7% | 4,032 円474 億円 |
| やや楽観 | 22% | 33,756 円3,970 億円 | 3,724 円438 億円 | +106.1% | +7.5% | 8,246 円970 億円 |
| 中立 | 34% | 26,556 円3,123 億円 | 3,248 円382 億円 | +63.8% | +5.1% | 10,133 円1,192 億円 |
| やや悲観 | 24% | 5,198 円611 億円 | 2,372 円279 億円 | −58.4% | −8.4% | 1,817 円214 億円 |
| 悲観 | 12% | 2,143 円252 億円 | 0 円0 億円 | −88.2% | −19.3% | 257 円30 億円 |
| 加重平均 | 100% | 21,632 円2,544 億円 | 2,853 円336 億円 | +34.6% | +3.0% | 24,485 円2,879 億円 |
今の株価時価総額 18,190 円2,139 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 8% AIの波が10年続き、測定器も部品も伸びる 利益 239 億円 · PER 22.0 倍 · 株価時価総額 45,896 円5,398 億円
AIの設備投資が10年続き、光トランシーバーは3.2テラへ進む。検査の難易度が上がるたびにsantecの波長可変レーザーの需要が増え、測定器は市場を上回って伸びる。光部品は小型化の技術で顧客の設計に入り、トランシーバーの数の増加をそのまま取り込む。ベトナムとカナダの増産が効き、値下げも軽く済む。
非通信の芽も育つ。空間光変調器はレーザー加工に、OCTと量子向けの機器は新しい市場に広がり、売上の1割を超える柱になる。営業利益は300億円を超え、利益率も3割を保つ。ROEは2割近くまで上がり、会社の質が改めて認められる10年になる。
- 光測定器:数量 357(自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア)× 価格 1.34(価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍))→ 売上 718 億円・営業利益 230 億円。市場3,400百万ドル×シェア10.5%、営業利益率32%
- 光部品:数量 114(自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア)× 価格 1.25(価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍))→ 売上 214 億円・営業利益 71 億円。市場1,900百万ドル×シェア6.0%、営業利益率33%
- OCT・医療・量子・その他:数量 60.0(自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア)× 価格 1.34(価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍))→ 売上 121 億円・営業利益 24 億円。市場2,000百万ドル×シェア3.0%、営業利益率20%
倍率:事業の純利益 239 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 25.2% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 16.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.0 倍。全体の PER 21.97 倍、時価総額 5,251 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIの設備投資が10年続き、波長可変レーザーと光部品の両方でシェアを伸ばす必要がある。連続で当たる確度は高くないが、技術の深さを考え1割弱を置く。
やや楽観 22% AI需要が波を打ちながら伸び続ける 利益 177 億円 · PER 21.5 倍 · 株価時価総額 33,756 円3,970 億円
AI向けの需要は何度か山と谷を繰り返すが、10年を通じて伸びが続く。測定器は高性能品の需要を取り、シェアを少し上げる。光部品は値下げの圧力を受けるが、数量の伸びで受け止める。非通信の事業も育ち、売上の1割を超える規模になる。
会社は小さいまま技術を磨き、配当も利益の3割ほどを続ける。営業利益率は3割弱を保ち、ROEは16%ほどで落ち着く。今の水準から見れば利益はおよそ2倍だ。事業の質が評価されるが、好況の頂の水準までは続かない10年になる。
M&Aは起きても小粒にとどまる。大手測定器メーカーによるTOBの話が出る可能性はあるが、この筋書きには織り込まない。
- 光測定器:数量 296(自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア)× 価格 1.34(価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍))→ 売上 595 億円・営業利益 178 億円。市場2,900百万ドル×シェア10.2%、営業利益率30%
- 光部品:数量 92.4(自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア)× 価格 1.20(価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍))→ 売上 166 億円・営業利益 50 億円。市場1,650百万ドル×シェア5.6%、営業利益率30%
- OCT・医療・量子・その他:数量 39.0(自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア)× 価格 1.34(価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍))→ 売上 78 億円・営業利益 13 億円。市場1,500百万ドル×シェア2.6%、営業利益率17%
倍率:事業の純利益 177 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 23.2% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.5 倍。全体の PER 21.54 倍、時価総額 3,813 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI向けの需要が何度か波を打ちながらも伸び続け、利益率が3割近くを保つ筋書き。事業の質を考えると十分ありうるので2割強を置く。
中立 34% 通信の高速化は続くが、利益率は頂から落ち着く 利益 141 億円 · PER 21.0 倍 · 株価時価総額 26,556 円3,123 億円
通信の高速化は続くが、AI向けの投資は波を打つ。測定器は市場並みの伸びで、シェアは1割ほどを保つ。光部品は数量が増えるものの、値段は物価ほど上がらない。非通信は少しずつ育つ。
営業利益率は今の33%から25%台へ落ち着く。2025年3月期の利益率は31%で、これは高すぎる水準だったと筆者は見る。会社は借金なしで現金を残し、配当は3割ほどを続ける。ROEは14%ほどで、質は高いが、頂の利益率は戻らない10年になる。
競合ではKeysightやEXFOが測定器の大半を握り続け、santecは高性能の波長可変レーザーというニッチを守る。顧客の内製化は一部にとどまり、中国勢の追い上げも、部品の値段を物価より低く抑える程度で済む。
- 光測定器:数量 260(自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア)× 価格 1.34(価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍))→ 売上 523 億円・営業利益 146 億円。市場2,600百万ドル×シェア10.0%、営業利益率28%
- 光部品:数量 70.0(自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア)× 価格 1.15(価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍))→ 売上 121 億円・営業利益 33 億円。市場1,400百万ドル×シェア5.0%、営業利益率27%
- OCT・医療・量子・その他:数量 40.8(自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア)× 価格 1.34(価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍))→ 売上 82 億円・営業利益 12 億円。市場1,700百万ドル×シェア2.4%、営業利益率15%
倍率:事業の純利益 141 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 21.2% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.0 倍。全体の PER 21.04 倍、時価総額 2,967 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:通信の高速化が続く一方、利益率は好況の頂から落ち着き、数量は市場並みに伸びる中心の筋書き。確率は中立に最も重みを置く。
やや悲観 24% AI投資の一服と中国勢の追い上げで、利益率が落ちる 利益 64 億円 · PER 7.3 倍 · 株価時価総額 5,198 円611 億円
AI向けの設備投資が一服し、数年の調整が入る。測定器の注文は先送りされ、市場は思うほど伸びない。中国のトランシーバーメーカーが自国の測定器を使い始め、santecのシェアは少し下がる。
光部品は、中国の部品メーカーが似た性能のものを安く出し、値段が上がらなくなる。利益率は測定器で2割ほど、部品で2割弱まで落ちる。非通信は伸びるが、全体を支えるには小さい。会社は黒字を保つが、ROEは9%ほどで、資本コストをわずかに上回る程度にとどまる10年になる。
ベトナムとカナダの増産は稼働率が伸び悩み、利益率を押し下げる。配当は維持するが、大きく増やす余裕はなくなる。
- 光測定器:数量 189(自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア)× 価格 1.20(価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍))→ 売上 340 億円・営業利益 75 億円。市場2,100百万ドル×シェア9.0%、営業利益率22%
- 光部品:数量 40.0(自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア)× 価格 1.00(価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍))→ 売上 60 億円・営業利益 11 億円。市場1,000百万ドル×シェア4.0%、営業利益率18%
- OCT・医療・量子・その他:数量 26.0(自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア)× 価格 1.34(価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍))→ 売上 52 億円・営業利益 4 億円。市場1,300百万ドル×シェア2.0%、営業利益率8%
倍率:ROE 9.2%(事業の純利益÷自己資本)。k 7.25%。残る割合1/2でRONIC=8.8%、長期の成長率g 4.0%から正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=12.2倍。ROEが資本コストをわずかに上回るだけで、中国勢の値下げで利益が頂から崩れた筋書きなので、上限の6割の7.3倍に置いた。
確率:AI投資が一服し、中国勢の追い上げで部品の値段が下がる筋書き。今の利益率が頂に近いので、強気の見方より慎重な見方の指摘に分があるとして厚めに置く。
悲観 12% 内製化と中国勢の置き換えで、測定器も部品も構造的に負ける 利益 8 億円 · PBR 0.9 倍 · 株価時価総額 2,143 円252 億円
AI向けの投資が終わると同時に、顧客のトランシーバー大手が検査を内製し、中国の測定器メーカーが性能を追いつかせる。波長可変レーザーの高性能品の優位が薄れ、測定器の市場は縮み、シェアも下がる。
部品は、中国の部品メーカーに置き換えられ、値段は物価の分も上がらない。利益率は測定器で1割ほど、部品はほぼ無くなり、会社の利益は小さくなる。ベトナムとカナダの増産は、稼働率が上がらず重荷になる。借金が無いので存続は保つが、事業の価値は純現金と設備の売却価値に近づく。
空間光変調器やOCTなどの非通信事業は残るが、会社全体を支えるほどの規模には育たない。技術者の流出が重なれば、再び成長する力も弱まる。優良企業としての評価が外れ、時価総額は純資産を下回る水準で落ち着く。
- 光測定器:数量 105(自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア)× 価格 1.00(価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍))→ 売上 158 億円・営業利益 19 億円。市場1,500百万ドル×シェア7.0%、営業利益率12%
- 光部品:数量 17.5(自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア)× 価格 0.90(価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍))→ 売上 24 億円・営業利益 1 億円。市場700百万ドル×シェア2.5%、営業利益率3%
- OCT・医療・量子・その他:数量 13.5(自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア)× 価格 1.10(価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍))→ 売上 22 億円・営業利益 −1 億円。市場900百万ドル×シェア1.5%、営業利益率-5%
倍率:構造的に負ける10年で、稼ぐ力は営業利益1桁億円まで細り、利益では測れない。床は今の自己資本(278億円)の0.9倍とし、純現金120億円と設備の売却価値の税引き後の合計に近い額に置いた。やや悲観の稼ぐ力から出した額より低い。
確率:顧客の内製化と中国勢の置き換えで、測定器も部品も構造的に負ける筋書き。借金が無く技術に独自性があるので、1割強に抑える。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
光測定器
波長可変レーザー・光パワーメーター・光スイッチ・干渉計。光部品や通信機器のメーカーと研究機関に売る。
| 数量自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア | 価格価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 149 | 1.00 | 224 | 73 |
| 10 年後 中立 | 260 | 1.34 | 523 | 146 |
取り方:光通信向けの光測定器・波長可変光源の市場を約1,500百万ドルと見積もり、売上223.7億円(1ドル150円で約149百万ドル)から逆算したシェアは約10%。rev_factorは1百万ドル=1.5億円。セグメント利益が取れず、利益率は営業利益103億円との整合から33%と推定した。市場規模は競合(Keysight・EXFO・VIAVI・Thorlabs)の規模からの推定。
光部品
トランシーバー向けの光モニター、可変光減衰器、波長選択スイッチ、空間光変調器など。
| 数量自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア | 価格価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 42.4 | 1.00 | 64 | 25 |
| 10 年後 中立 | 70.0 | 1.15 | 121 | 33 |
取り方:トランシーバー用モニターなど光部品の市場を約800百万ドルと見積もり、売上63.6億円(約42百万ドル)から逆算したシェアは5%ほど。利益率は生成AI向けの急増で高い40%と推定した。
OCT・医療・量子・その他
眼科用のSS-OCTバイオメーター(Alcon経由で販売)、OCT向け光源、量子向け機器など。
| 数量自社が取る実質の市場(百万ドル)=市場規模×シェア | 価格価格指数(今を1、物価は10年で1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 18.6 | 1.00 | 28 | 4 |
| 10 年後 中立 | 40.8 | 1.34 | 82 | 12 |
取り方:OCT・医療・量子向けの市場を約1,000百万ドルと見積もり、売上27.8億円(約19百万ドル)からシェアは2%弱。利益率は新規事業の立ち上げ費用を含めて15%と推定した。
リスクと懸念
AI向け設備投資の一服
売上の伸びは生成AI向けのトランシーバー需要に強く寄っている。データセンターの投資が一服すれば、検査機器は先送りされ、光部品の注文も止まる。2026年3月期の増益の主因が一つの流れである点が、最大の弱みだ。
中国勢による置き換え
トランシーバーを作る中国メーカーは量が大きく、検査機器と部品を自国のものに替える動きがある。可変光減衰器や受光素子は参入の壁が低く、値下げで利益率が下がりやすい。測定器でも、性能を追い上げる中国の測定器メーカーが出てくる。
大手測定器メーカーとの競争
Keysight、EXFO、VIAVIなどは営業網が広く、顧客の検査ライン一式を売れる。santecは単体の高性能品が強みだが、大手が同じ性能を出せば、差は縮まる。ローム、ルネサスなど半導体大手が試験市場に近づくことも考えられる。
顧客と人材の集中
400人あまりの小さな会社で、少数の大口顧客と、波長可変レーザーを支える技術者に依存する度合いが高い。主要な技術者が抜ける、あるいは大口顧客が購買先を替えると、売上と競争力が同時に傷む。
増産の稼働率
ベトナムとカナダで生産能力を広げているが、需要が一服すれば稼働率が下がり、固定費が重くなる。営業利益率は売上が止まると急に落ちる構造だ。利益の伸びが大きい今の姿が、そのまま続く前提には置けない。
株数の少なさと値動き
株数が1,200万株弱と少なく、買われる時も売られる時も値動きが荒い。年初から高値と安値の差が大きく、短期の需給で値がぶれやすい。事業の価値とは別の理由で、持ち続けるのに胆力が要る。
今後の分かれ目
- トランシーバーの速度が3.2テラへ進み、santecの波長可変レーザーの採用が確認できたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げ、測定器の数量とシェアの前提を見直す。
- AI向けデータセンター投資の減速で、光部品と測定器の受注が前年を割ったら
- やや悲観・悲観に確率を移し、利益率の前提を下げる。
- 中国の測定器メーカーが高性能の波長可変レーザーで、同じ性能を安く出してきたら
- 測定器のシェアと価格の前提を下げる。構造的な負けの確率を上げる。
- 大手測定器メーカーや半導体大手によるTOBや提携の話が出たら
- 時価総額が一度に動く。ただ、本質価値は今の筋書きのまま変わらない。
- 空間光変調器やOCT、量子向けの機器の売上が、通信以外で全体の2割を超えたら
- 事業が分散して利益のぶれが小さくなるので、循環の見方を見直す。
- ベトナム・カナダの増産で稼働率が想定どおりに上がり、利益率が3割を保ったら
- 中立の利益率の置き方を上げる余地が出る。
見ておくもの
- 光部品の売上の伸びと、トランシーバー向けモニターの受注
- 光測定器の受注残と、波長可変レーザーの新製品
- 営業利益率が3割を保つかどうか
- ベトナム・カナダの増産の稼働率
- 非通信(空間光変調器・OCT・量子)の売上比率
倍率と資本コストの決め方
3つのセグメントを、自社が取る実質の市場(市場規模×シェア)と価格指数に分け、10年で積み上げた。利益率は今の33%を出発点にせず、各筋書きの競争の構造から置いた。資本コストは基本7.5%に循環0.5%と寿命0.5%を足した8.5%。倍率は利益ベースの正当化PERの上限に対して、好況の頂に近い利益の質を見て置き、今の株価や過去のPBR・PERには寄せていない。純現金は時価総額の5%で、前受金などの特殊な負債は無く、事業に要る運転資金と増産の投資に回る額なので余った現金としては分けなかった。リースは小さく、新リース会計の影響は倍率に出ない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.2→21.97 倍・やや楽観 PER 12.8→21.54 倍・中立 PER 11.5→21.04 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。