結論
山一電機は、半導体を検査するソケットと、通信機器・データセンターで使う高速コネクタの会社だ。結論から言うと、事業の勢いは本物だが、今の値段は山の利益を長く続く前提で払っている。筆者は割高寄りと見る。
2026年3月期は売上527億円、営業利益116億円と過去最高だった。営業利益率は22%で、10年前の約9%から倍以上に上がった。けん引したのはコネクタ事業で、AIを含むデータセンター向けが大きく伸びた。
稼ぎの質には強みと弱みが同居する。強みは、検査ソケットが顧客の新型チップごとに設計し直す一品物で、一度採用されると入れ替えにくい点だ。弱みは、売上の約2割が米クアルコム1社に偏ることと、過去20年で赤字が5期あるほど利益の振れが大きいことだ。
10年後の中立は、売上が今の1.8倍、営業利益が1.5倍強にとどまる姿を描いた。利益率は今の22%から19%へ戻る。検査ソケットは韓国・台湾・中国の安い競合が、コネクタは米欧の大手が、それぞれ利幅を削りにくるからだ。
資本コストは7.75%と、同じ領域の村田製作所やヒロセ電機よりやや高い。小さい会社で顧客が偏り、半導体の循環を受けるためだ。この前提で本質価値を出すと、今の時価総額を一段下回る。強気の筋書きが実現して、ようやく今の値段に釣り合う。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、見たいのは10年後も稼ぐ事業かどうかだ。この会社の事業は、10年後も存在する。半導体は検査が要り、データセンターは配線が要る。だが、その事業が今の利益率を保てるかは別の話だ。
堀は顧客ごとの積み上げで、模倣しにくい独占ではない。検査ソケットは競合が多く、世界シェアは1割強にとどまる。顧客のクアルコム1社が売上の2割を占めるのも、持ち続けたいオーナーには気になる点だ。
良い点は、借金がなく現金があることと、経営が還元に前向きなことだ。利益が山を保てば、配当と自社株買いで株主に戻る。
気になるのは、今の利益率が過去最高の水準にある点だ。山の利益を長く続くものとして払うと、谷の年に大きく損をする。バリュー投資家は、谷の年の利益を基準に安全域を取る。
筆者は、事業としては好ましいが、この値段では安全域がないと見る。山の利益が少し長く続く前提で、ようやく今の値段に届く。もう少し冷静な値段になるまで、持つ理由は薄い。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ頭は2本ある。テストソリューション(TS)とコネクタソリューション(CS)だ。2026年3月期の売上は、TSが264億円、CSが247億円。残りは光関連の15億円である。
TSは、完成した半導体チップを出荷前に検査するソケット(差し込み口)を売る。熱をかけて不良を洗い出すバーンイン用と、実機に近い条件で通電するSLT用がある。顧客は半導体メーカーと、検査を請け負う会社だ。スマートフォン用プロセッサーの最大手、米クアルコム向けが売上の2割を占める。フィリピンと国内の工場で作る。
CSは、通信基地局・ルーター・データセンターの機器内で信号を運ぶコネクタを作る。光トランシーバー用の400G・800G対応品が主力で、半導体製造装置や検査装置向けのニッチ品、車載カメラ用も持つ。2026年3月期は売上が3割増え、営業利益は3.6倍になった。
光関連は、スマホカメラ用の赤外線カットフィルタや医療機器向けの部品を扱う小さな事業だ。売上の3%にすぎず、全体の評価を動かさない。
研究開発費は年12億円と、売上の2%強。大きな投資で勝負する会社ではなく、顧客の仕様に合わせて作り込む会社である。
優良さと弱いところ
この会社の堀は、深いが広くない。顧客のチップに合わせて設計する検査ソケットは、採用が決まれば数年は入れ替わらない。ただし競合が多く、堀は顧客ごとの積み上げにとどまる。
TSの営業利益率は26%ほどあり、手間のかかる一品物にしては高い。コネクタは18%で、前の期の6%から跳ねた。AI向けの高速品は単価も高いが、今後は米欧の大手が同じ市場に増産で入ってくる。筆者は、今の利益率の一部は需要が逼迫した時の上積みだと見ている。
財務は堅い。純現金が141億円で、自己資本比率は74%ある。利益に対する利払いの負担はほぼゼロで、借金で傾く心配は小さい。
弱点は顧客の偏りだ。クアルコム向けが売上の2割を占め、同社のスマホ戦略が変われば山一の利益も動く。過去20年で赤字が5期あり、2009年3月期は営業利益率がマイナス13%まで落ちた。今の高収益は、この会社が経験してきた中で最良の水準にある。
資本の使い方は、ここ数年で改まった。前の中計までの控えめな投資から、増産に180億円を投じ、配当と自社株買いも積極的に出す方針に変わった。ただ、新しい計画は山の利益を前提にしている。その点は割り引いて見る必要がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
検査ソケットの市場は、半導体の出荷数と、チップの複雑さで決まる。市場の大きさは、世界でおよそ2,300億円と筆者は推定している(調査会社の数字は定義が狭く、山一の売上より小さいため使えない)。Cohu、エンプラス、韓国のISCやLEENO、米スミス・インターコネクトなどが争い、山一は1割強を握る。
AIチップは大型でピン数が多く、検査の手間も増える。ソケット1個あたりの単価は上がり続ける。一方でスマホ向けは数量が伸びず、価格競争が強い。自動車の検査は、先送りされていた投資が戻るかどうかで動く。
コネクタの市場は、データセンターの通信量が毎年伸びるのに支えられる。通信速度は400Gから800G、1.6Tへ進み、そのたびに部品が入れ替わる。山一は光トランシーバー用で採用されているが、世界の高速コネクタはアンフェノール、モレックス、TE、ヒロセ電機といった大手の寡占が強い。山一はその周辺で伸びている会社だ。
半導体の装置・部品は、数年に一度の投資の山と谷を繰り返す。山一の過去の営業利益率も、10%台の年から2割の年、一桁の年まで動いた。今の22%は山の高さだ。10年の中立は、山と谷をならした姿として考える必要がある。
中国メーカーの成長も見逃せない。ソケットもコネクタも、国産化を進める中国の現地企業が低価格で入りやすい分野だ。
資本政策と M&A
資本の使い方は、ここ3年で大きく変わった。2023年に自社株の取得と消却を行い、その年の総還元性向は6割を超えた。2026年3月期の配当は前期より6割ほど増えた。新しい中計は配当性向30%を基本に、増配か維持しかしない累進配当を掲げ、余った資金は自社株買いか特別配当で返すとした。
一方で設備投資は3年で180億円を見込み、フィリピンと佐倉の工場を増強する。営業キャッシュフロー350億円、還元120億円、戦略投資50億円という配分だ。戦略投資の50億円は、買収や出資に使う余地がある。額は小さく、大型買収を急ぐ姿勢は見えない。
政策保有株は非上場株が2.6億円あるだけで、上場株は持たない。上場株の含み益はなく、現金以外に隠れた価値は見当たらない。
親会社や筆頭株主による支配は確認できなかった。時価総額が1,600億円と小さく、利益が急増して値が上がっているので、買収の標的になりうる。ただ過去の動きは確認できず、確率は書かない。
目標のROE18%は、今の20%近い水準を保つという意味だ。これは利益が山の水準を保つ前提で成り立つ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIの時代は、半導体の検査が増える一方になる。チップは大きく複雑になり、ソケットの単価も数も増える。山一は新型チップごとの設計に食い込んでおり、SLTの用途はスマホからパソコン、車載、ネットワークへ広がる。バーンインもAIサーバー用が立ち上がる。
コネクタは、データセンターの通信速度が400G、800G、1.6Tと進むたびに作り直しの需要が出る。山一はすでに光トランシーバー用で採用され、半導体製造装置向けのニッチ品も持つ。中計が掲げる営業利益150億円は、直近の116億円から見て無理のない水準で、2030年の200億円も届く。
財務は堅く、純現金があり、自社株買いも柔軟に出せる。営業利益率は2割を保ち、ROEは18%を超え続ける。小さくても、検査と配線の分野で強い地位を築いた会社だ。AIの設備投資は数年で終わる話ではなく、10年の長さで続くと見るべきだ。
山一の強みは、顧客の設計に深く入り込む姿勢にある。クアルコムのように世界の最先端のチップを作る顧客が売上の2割を占めるのは、開発の初期から一緒に作り込む力を認められているからだ。この関係は他社が簡単には崩せない。しかもAI向けの大型チップは、検査の時間も手間も増える。ソケットの数量が横ばいでも、単価が上がれば売上は伸びる。コネクタでも、光トランシーバーの高速化が進むほど、部品の要求水準は上がり、技術のある会社に注文が集まる。
慎重な見方
今の利益は、山の利益だ。営業利益率22%は過去20年で最高で、10年前は9%、2024年3月期は8%だった。AI向けの需要が一巡すれば、数字は簡単に戻る。
検査ソケットは競合が多い。韓国のISCやLEENO、米のCohuが激しく争い、中国勢の追い上げも続く。山一のシェアは1割強にすぎず、価格を決める力は弱い。クアルコム向けが売上の2割を占めるため、同社が調達先を変えれば業績は動く。
コネクタは、高速品でアンフェノールやモレックスなど世界の大手が増産に動いている。山一の利益率は18%まで上がったが、前の期は6%だった。金や銅の値上がりも費用を押し上げる。
前の中計は、累計で売上が目標の97%、営業利益が91%と未達だった。最終年だけ数字が伸びたのは、需要の波に乗っただけとも読める。新しい中計は、その山の水準を3年続ける前提で組まれている。
株価は、すでにこの強気の筋書きをかなり織り込んでいる。純利益が2年で4倍以上になり、ROEが20%に達した今の姿が10年続くと考えれば成り立つが、半導体の部品でそうなった例は少ない。過去の山のあとには、必ず在庫の調整と利益の急減があった。2010年3月期と2013年3月期には純損失を出し、2024年3月期も営業利益が3分の1に落ちた。10年という長さで見れば、谷は少なくとも1回は来ると考えるのが自然だ。
どちらに重みを置いたか
強い言い分は、慎重な見方のほうだ。AIの追い風は本物だが、利益率が山の水準にある点と、顧客と競合の両面の弱みは、数字に確かな重みがある。確率は中立に34%と最も大きく置き、やや楽観22%と楽観8%を合わせた強気の確率は3割にとどめた。やや悲観24%と悲観12%を合わせた慎重側が36%で、わずかに上回る。ただし、悲観を深く置くほどの理由はない。純現金と堅い財務があるからだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 11,853 円2,189 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 3,341 円617 億円)。 今の値に割り戻すと 7,919 円1,462 億円、今との差 +4.2%、 期待の年率 +7.2%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 22,512 円4,157 億円 | 4,766 円880 億円 | +258.9% | +13.6% | 2,182 円403 億円 |
| やや楽観 | 22% | 18,178 円3,357 億円 | 4,018 円742 億円 | +192.1% | +11.3% | 4,883 円902 億円 |
| 中立 | 34% | 14,431 円2,665 億円 | 3,428 円633 億円 | +135.0% | +8.9% | 6,072 円1,121 億円 |
| やや悲観 | 24% | 4,130 円763 億円 | 2,654 円490 億円 | −10.7% | −1.1% | 1,628 円301 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,289 円238 億円 | 2,275 円420 億円 | −53.1% | −7.3% | 428 円79 億円 |
| 加重平均 | 100% | 11,853 円2,189 億円 | 3,341 円617 億円 | +99.9% | +7.2% | 15,193 円2,805 億円 |
今の株価時価総額 7,600 円1,403 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 強気:AI向けの検査と配線で中堅から一段上へ 利益 220 億円 · PER 18.8 倍 · 株価時価総額 22,512 円4,157 億円
AIサーバーの出荷が続き、検査ソケットとデータセンター用コネクタがどちらも想定を上回って伸びる10年だ。SLTソケットはスマホとパソコンから車載やネットワーク機器へ広がり、AIチップ向けのバーンインも立ち上がる。TSの売上は今の2.2倍に、営業利益率は27%を保つ。
コネクタは1.6Tへの世代交代で採用が増え、売上は2.5倍近くになる。米欧大手の寡占の隙間で、日本の顧客に強い高速品の地位を築く。
営業利益は中計の目標を大きく上回り、2030年の200億円も超えて伸び、ROEは18%台を保つ。ただ競合の増産や中国勢の参入で、利益率は今の22%を大きく超えては上がらない。10年後の姿としては、世界の検査・配線の部品で存在感のある中堅になっている。
- テストソリューション(TS):数量 99.0(ソケット出荷個数(万個・推定))× 価格 5.94(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 589 億円・営業利益 159 億円。数量は今の1.65倍、値段は1.35倍、営業利益率27%
- コネクタソリューション(CS):数量 9.5(コネクタ出荷個数(億個・推定))× 価格 64(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 611 億円・営業利益 116 億円。数量は今の1.90倍、値段は1.30倍、営業利益率19%
- 光関連(OPT):数量 5.1(光学フィルタなど出荷個数(億個・推定))× 価格 6.63(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 34 億円・営業利益 4 億円。数量は今の1.70倍、値段は1.30倍、営業利益率12%
倍率:事業の純利益 220 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.2% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.8 倍。全体の PER 18.76 倍、時価総額 4,122 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIの追い風が10年続くには、検査ソケットとコネクタの両方で世界の大手に勝ち続ける必要がある。成功の確率は1割に届かない程度とみた。
やや楽観 22% やや強気:会社の計画に沿って伸びる 利益 177 億円 · PER 18.5 倍 · 株価時価総額 18,178 円3,357 億円
AI向けの追い風は続くが、勢いは少し落ち着く。検査ソケットは数量が今の1.45倍、単価は物価並みで、TSの売上は今の1.9倍ほどになる。バーンインのAI向けは立ち上がるが、スマホ向けの数量は横ばいだ。
コネクタはデータセンター向けが伸びる一方、米欧の大手に押されて利益率は17%台にとどまる。クアルコム向けの比率は下がり、顧客の偏りがやわらぐ。
中計の営業利益150億円は2030年度に達し、200億円は届かない。ROEは16%台で、配当と自社株買いも出し続ける。いわば会社の計画どおりの優等生の10年だ。
- テストソリューション(TS):数量 87.0(ソケット出荷個数(万個・推定))× 価格 5.90(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 513 億円・営業利益 128 億円。数量は今の1.45倍、値段は1.34倍、営業利益率25%
- コネクタソリューション(CS):数量 8.5(コネクタ出荷個数(億個・推定))× 価格 63(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 538 億円・営業利益 94 億円。数量は今の1.70倍、値段は1.28倍、営業利益率18%
- 光関連(OPT):数量 4.2(光学フィルタなど出荷個数(億個・推定))× 価格 6.63(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 28 億円・営業利益 3 億円。数量は今の1.40倍、値段は1.30倍、営業利益率11%
倍率:事業の純利益 177 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.2% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.5 倍。全体の PER 18.46 倍、時価総額 3,275 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の営業利益150億円は直近の実績から無理のない水準で、コネクタの需要も続く。計画どおりに進む筋書きの確率を2割強とした。
中立 34% 中立:山と谷をならした成熟した中堅 利益 142 億円 · PER 18.0 倍 · 株価時価総額 14,431 円2,665 億円
山と谷をならした、成熟した姿になる。AI向けの需要は残るが、特別な超過成長は一巡し、競合が価格で追いつく。TSの売上は今の1.7倍ほど、営業利益率は23%に戻る。スマホ向けのSLTは伸びず、車載・ネットワーク向けが補う。
コネクタは数量が今の1.45倍、単価は1.25倍で、売上は今の1.8倍になる。ただ利益率は18%から16%へ下がる。米欧の大手と中国勢の挟み撃ちで、高速品の値下がりが続くからだ。
全社の営業利益率は今の22%から19%に戻り、営業利益は今の1.5倍強になる。ROEは14%前後、配当と自社株買いは純利益の55%ほどを出す。普通に強い優良な中堅部品メーカーとして評価される10年だ。
- テストソリューション(TS):数量 78.0(ソケット出荷個数(万個・推定))× 価格 5.90(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 460 億円・営業利益 106 億円。数量は今の1.30倍、値段は1.34倍、営業利益率23%
- コネクタソリューション(CS):数量 7.3(コネクタ出荷個数(億個・推定))× 価格 62(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 448 億円・営業利益 72 億円。数量は今の1.45倍、値段は1.25倍、営業利益率16%
- 光関連(OPT):数量 3.9(光学フィルタなど出荷個数(億個・推定))× 価格 6.63(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 26 億円・営業利益 3 億円。数量は今の1.30倍、値段は1.30倍、営業利益率10%
倍率:事業の純利益 142 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.0 倍。全体の PER 18 倍、時価総額 2,547 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利益率が山の水準から戻りつつ、事業は続く姿を中心に置いた。強気と慎重の言い分が拮抗し、慎重な側がやや強いため、確率は慎重側へ少し寄せた。
やや悲観 24% やや慎重:シェアと利幅が少しずつ削られる 利益 73 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 4,130 円763 億円
検査ソケットのシェアを少しずつ失い、コネクタの高速品の値下がりが進む10年だ。クアルコムが検査の一部を内製や他社に移し、TSの数量は今と同じ水準にとどまる。単価も競合に押されて今の1.2倍にしか上がらない。
韓国と中国のソケット企業が、スマホ向けと車載向けの低価格品で攻める。山一は高単価のAI向けに絞るが、バーンインの需要は自動車の投資の遅れで伸びにくい。
コネクタは数量こそ1割ほど増えるが、データセンター向けの利幅が薄まり、営業利益率は11%に落ちる。全社の営業利益は今の8割ほどで、ROEは9%と資本コストをかろうじて上回る。会社の目標は大きく未達で、一過性の山だったと評価される。
- テストソリューション(TS):数量 60.0(ソケット出荷個数(万個・推定))× 価格 5.28(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 317 億円・営業利益 57 億円。数量は今の1.00倍、値段は1.20倍、営業利益率18%
- コネクタソリューション(CS):数量 5.8(コネクタ出荷個数(億個・推定))× 価格 57(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 327 億円・営業利益 36 億円。数量は今の1.15倍、値段は1.15倍、営業利益率11%
- 光関連(OPT):数量 2.7(光学フィルタなど出荷個数(億個・推定))× 価格 5.61(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 15 億円・営業利益 1 億円。数量は今の0.90倍、値段は1.10倍、営業利益率4%
倍率:この筋書きの稼ぐ力で置いた。ROE 9% は資本コスト 7.75% をわずかに上回るだけで、新しく投じる資金の稼ぎは資本コスト並みとなり、倍率は正当化 PER 12 倍の7割に抑えた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 8.5 倍・時価総額 622 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:競合の多さと顧客の偏りから、この筋書きは起きやすい。過去に利益が半分以下に落ちた年が複数あり、確率は2割台半ばとした。
悲観 12% 慎重:顧客と競合の両面で構造的に負ける 利益 29 億円 · PER 8.1 倍 · 株価時価総額 1,289 円238 億円
AIの検査・配線需要が一巡し、顧客と競合の両方から打撃を受ける。クアルコムのスマホ向け調達の見直しで、売上の2割が大きく減る。検査ソケットは中国と韓国の競合に価格で負け、数量は今の75%、単価は5%増にとどまる。
コネクタも、世界大手の増産と中国勢の低価格攻勢で数量が減り、利益率は6%まで落ちる。2024年3月期の営業利益率が8%まで下がった実績の延長にある。
増産投資の180億円は回収できず、設備の減損と稼働率の低下が重なる。全社の営業利益率は8%台で、ROEは5%と資本コストを大きく割る。純現金と堅い財務は残るが、稼ぐ力は大きく損なわれた、構造的な負けの姿である。
- テストソリューション(TS):数量 45.0(ソケット出荷個数(万個・推定))× 価格 4.62(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 208 億円・営業利益 25 億円。数量は今の0.75倍、値段は1.05倍、営業利益率12%
- コネクタソリューション(CS):数量 4.3(コネクタ出荷個数(億個・推定))× 価格 52(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 221 億円・営業利益 13 億円。数量は今の0.85倍、値段は1.05倍、営業利益率6%
- 光関連(OPT):数量 2.1(光学フィルタなど出荷個数(億個・推定))× 価格 5.10(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 11 億円・営業利益 0 億円。数量は今の0.70倍、値段は1.00倍、営業利益率0%
倍率:悲観の純利益 29.4 億円は ROE 4.6% で、ためた利益は額面未満の価値しかない。やや悲観の 8.5 倍より悲観ほど低く置くので、その約 95% の 8.1 倍とした(稼ぐ力 純利益÷k の PER 上限も超えない)。自己資本の厚さや市場の倍率は根拠にしない。
確率:顧客の偏り、半導体の循環、中国勢の台頭が重なる筋書き。過去20年で赤字が5期ある実績から、1割強を置いた。quality の寿命の加点とは別に、この確率は上下させていない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
テストソリューション(TS)
半導体チップの出荷前検査に使うソケット。熱をかけて不良を洗い出すバーンイン用と、実機に近い条件で通電するSLT用が柱。
| 数量ソケット出荷個数(万個・推定) | 価格1個あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 4.40 | 264 | 70 |
| 10 年後 中立 | 78.0 | 5.90 | 460 | 106 |
取り方:世界のテスト・バーンイン・SLTソケットの市場を約2,300億円(実質)と推定し、山一のシェアを約11.5%とした。平均単価を1個4.4万円と置くと出荷は約60万個になる(個数・単価は推定で、TS売上264.2億円に合わせた)。数量は市場の個数×シェアで、AIチップの増加とSLTの用途拡大で伸びる。単価は名目で、チップの高機能化(ピン数増加)で上がる一方、競合の価格圧力があるため、中立は10年で物価並みの1.34倍とした。営業利益率は2026年3月期の実績(TS営業利益70.1億円÷売上264.2億円)。
コネクタソリューション(CS)
通信機器・データセンター向けの高速コネクタ。光トランシーバー用400G・800G品が主力。半導体製造装置向け、車載カメラ用も扱う。
| 数量コネクタ出荷個数(億個・推定) | 価格1個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.0 | 49 | 247 | 44 |
| 10 年後 中立 | 7.3 | 62 | 448 | 72 |
取り方:コネクタは種類が多く、安価なFPC用から高速品まで混在する。売上247.4億円を年約5億個・1個あたり数十円と推定して置いた(個数・単価は推定)。数量はデータセンターの通信量増加に沿って伸びるが、世界の大手との競争でシェアは伸び悩む。単価は名目で、高速品への構成変化と物価の上昇を、競合による値下がりと金・銅の転嫁の綱引きで差し引き、中立は10年で1.25倍とした(物価の1.34倍に届かない理由は、値下がり圧力のため)。営業利益率は実績の17.8%(営業利益44.1億円÷売上247.4億円)。
光関連(OPT)
スマホカメラ用の赤外線カットフィルタ、医療機器向けの光学部品、データセンター向けの反射防止コーティングなど。
| 数量光学フィルタなど出荷個数(億個・推定) | 価格1個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.0 | 5.10 | 15 | 2 |
| 10 年後 中立 | 3.9 | 6.63 | 26 | 3 |
取り方:売上15.3億円を年約3億個・1個あたり数円と推定した(個数・単価は推定)。数量はスマホの台数が伸びないため横ばいから微増、単価は物価に沿って上がると置いた。営業利益率は2026年3月期の実績(営業利益2.1億円÷売上15.3億円)。全社の評価を動かさない小さな事業。
リスクと懸念
クアルコム1社への偏り
売上の約2割が米クアルコム向けで、スマホ向けプロセッサーの検査ソケットが中心だ。同社の調達先の見直しや、スマホ需要の減速が、そのまま山一の利益を動かす。顧客数を増やせるかが課題である。
利益率が山の水準にある
営業利益率22%は過去20年で最高水準で、10年前は9%、2024年3月期は8%だった。AI向けの需要が一巡すれば、利益は2〜3年で半分以下に戻りうる。山の利益に高い値段をつけるリスクがある。
ソケットの競合と中国勢
韓国のISCやLEENO、米のCohuなどが検査ソケットで激しく競い、中国勢も追い上げる。山一のシェアは1割強で、価格を決める力は弱い。AIチップ向けの高単価品で守れなければ、利幅が削られる。
コネクタ大手との競争と原材料
高速コネクタは、アンフェノールやモレックスなど世界の大手が増産に動く。山一は金や銅の値上がりを転嫁しきれない場面もあった。2026年3月期のCSの利益率は18%まで上がったが、前の期は6%だった。
半導体の投資循環
検査ソケットの数量は、半導体メーカーの設備投資で動く。2025年の上期にはバーンインソケットが自動車向けの投資先送りで落ち込み、TSの売上は17%減った。AI向け以外が戻らなければ、TSは伸びない。
増産投資の回収
中計では3年で180億円の設備投資を見込み、フィリピンと佐倉の工場を増強する。需要が想定を下回れば、稼働率が下がり、減価償却が利益を圧迫する。前の中計は累計で営業利益が目標の91%にとどまった。
今後の分かれ目
- クアルコム向けの売上が全社の1割を下回るまで分散が進んだら
- 顧客の偏りという最大の弱みがやわらぐ。慎重側の確率を下げ、資本コストの寿命の加点を見直す余地が出る。
- AIチップ向けのバーンインソケットが、想定を超えて立ち上がったら
- 検査ソケットの数量と単価が上がり、強気とやや強気の確率を引き上げる。TSの利益率27%が定着する。
- データセンター向けコネクタの利益率が、2期連続で15%を割ったら
- 高速品の値下がりが想定より早い。中立のコネクタの利益率を下げ、慎重側の確率を上げる。
- 中国・韓国の競合に主要顧客の採用を奪われたら
- 検査ソケットのシェアが落ち始めた合図。やや慎重と慎重の確率を引き上げる。
- 総還元性向が40%を大きく超え、自社株買いが継続的に出たら
- 資本の使い方はさらに株主寄りになる。ただし利益そのものは変わらず、価値への効果は限られる。
- 増産投資の稼働率が低く、減損が出たら
- 計画と需要のずれが表に出た。慎重の筋書きの確率を上げ、中立の利益率の置き方を見直す。
見ておくもの
- クアルコム向けの売上比率(全社の2割から下がるか)
- TSの営業利益率(26%を保てるか)
- CSの営業利益率(18%を保てるか)
- データセンター向けコネクタの売上の伸び
- バーンインソケットの自動車・AI向け受注
- 設備投資の稼働率と減価償却の増え方
倍率と資本コストの決め方
テスト・バーンインソケット(市場規模×シェアを、個数と単価に分けて推定)とコネクタ、光学部品を数量(実質)×単価(名目)で積み、10年後の売上と利益を出した。資本コストは基本7.5%に quality +1.0%(循環+0.5・値決め0・借金0・寿命+0.5)を足した8.5%。倍率は利益ベースの正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g) で、g 4.0%・堀は普通(残る割合1/2)として計算し、中立・やや強気・強気は上限の8.5〜9割に置いた。やや慎重・慎重は稼ぐ力から置いた。今の株価・PER・過去の倍率には寄せていない。純現金141億円は時価総額の1割に届かないため、余った現金は分けていない。借家は米子会社の本社建物など小さく、固定の約束は大きくない。新リース会計基準で数字の形が変わる点は、家賃を費用に入れた今の形でそろえて置いた。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)を上限に、倍率をやや悲観の約95%(8.1 倍)に置いた。過去の倍率や自己資本の厚さは根拠にしていない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +1.0% を足して8.5%。村田・ヒロセより高いのは、顧客の偏りと半導体循環の受けやすさのため。ミネベアミツミ・TDK(0.8%)よりやや高く、日本航空電子やニデック(1.0%)と同じ。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.75%。