結論
ミツバは、ワイパーやサンルーフのモーターを四輪向けに、始動モーターや燃料ポンプを二輪向けに作る部品メーカーだ。売上の 4 割強はホンダ向けである。2026 年 3 月期は売上 3,485 億円、営業利益 239 億円。2018〜2020 年の赤字続きから立ち直った。
筆者の結論は「やや割安」だ。理由は、利益の質が再建前より良くなったのに、値段が傷んだ頃の姿を引きずっているからである。ただし幅は大きくない。ROE が資本コストに届かないので、倍率を高く置けない。
伸ばすのは二輪、とくにインドとインドネシアだ。二輪は燃料ポンプで世界シェア約 35% を持ち、インドの売上は 5 年で倍にする計画である。四輪は数量が増えにくい。ホンダと日産の生産は細り、中国では工場の再編が続く。電動車向けのファンモーターやパワーステアリングが、その穴を埋められるかが分かれ目になる。
中立の筋書きでは、10 年後の営業利益率は 6% 強、ROE は 7% 台にとどまる。それでも利益に妥当な倍率を掛けると、価値は今の時価総額を上回る。ホンダ依存と優先株の償還が重いので、確率は慎重な側に寄せた。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、ミツバは「再建に成功した、普通の部品会社」だ。堀は深くない。しかし、利益に対して払う値段は薄い。
オーナー利益、つまり株主が自由にできる利益は、純利益の半分にも届かない。毎年の設備投資が減価償却を上回り、優先株の償還と配当が続くからだ。ここが、今の値段が安く見える理由であり、安いのに安すぎるとは言えない理由でもある。
経営は、赤字の 3 年で痛い判断を重ねた。工場を閉じ、人を減らし、ファンドの資金を受けた。いまはその資金を返している。この姿勢は信頼できる。一方でホンダに 4 割強を頼る構造は変わらない。ホンダが調達を見直せば、利益は容易に半分になる。
安全域は、悲観の筋書きでも今の時価総額の 6 割以上が配当と利益で戻る点にある。ただし ROE が資本コストに届かないので、10 年先に高い倍率は付けない。10 年を持ち続けて報われるかは、二輪とインドが四輪の細りを上回るかで決まる。
何で稼ぐ会社か
事業は三つある。輸送用機器関連が売上の 9 割強、情報サービスが 1 割弱、残りが小さな周辺事業だ。
輸送用機器の四輪向けは、ワイパー、パワーウインドウ、サンルーフ、電動パワーステアリング、冷却ファンのモーターなど。世界シェアはサンルーフモーターで約 4 割の首位、パワーウインドウモーターで 3 位、フロントワイパーで 4 位とされる。主な客はホンダと日産で、ほかにスズキなどにも納める。売上の 3 分の 1 強を占める二輪向けは、始動モーター、燃料ポンプモジュール、発電機が柱だ。燃料ポンプは世界シェア約 35% の首位で、始動モーターも世界トップクラスにある。客はホンダ、ヒーロー、スズキなど。
情報サービスは両毛システムズが担う。自治体向けの基幹システムと、電力会社向けの検針・エネルギー関連の開発が主力で、利益率は 1 割を超える。ミツバと中部電力は 2026 年にこの会社を共同で株式公開買い付けし、非公開化した。ミツバの議決権は 80%、中部電力が 20% になる。
海外の売上は 66% にのぼる。インド、インドネシア、ブラジル、中国、北米に工場を持つ。2026 年 4 月には、鉄道・バス向けの電気式ドアなど、自動車以外を開く「新規ビジネス室」を作った。
優良さと弱いところ
ミツバの強みは、小さな市場で首位を握る製品を持つことだ。二輪の燃料ポンプやサンルーフモーターは、世界で上位に入る。ホンダとは長い取引で、新型車の設計段階から入る。この関係は簡単には崩れない。
弱みは三つある。一つ目は顧客の偏りだ。ホンダ向けが 43.9% を占め、ホンダの車種や調達の方針が変われば売上が動く。二つ目は価格の決め方だ。部品メーカーは毎年の値下げを求められ、銅や樹脂の上昇を転嫁できるのは時間をおいてからになる。三つ目は利益率の低さだ。営業利益率は 6〜7% で、堀が深い会社の水準ではない。
経営の質は、傷を負って上がった。2018 年に米国の集団訴訟とリコールで赤字に転落し、2020 年には国内 2 工場を閉じ、500 人の希望退職を募り、投資ファンドから資金を入れた。その後の 3 年は ROE が 10% を超えた。中国では 2 社の固定資産を全額減損し、工場の再編を見直している。痛みを先送りしない姿勢は評価できる。
自己資本比率は 34.4% まで戻った。ただし優先株の残りと、有利子負債 1,386 億円が控える。財務の余裕は、まだ厚くない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
四輪の部品は、世界の自動車生産が横ばいの中で、電動化と中国勢の台頭に揺れている。
ミツバの主な客であるホンダと日産は、中国と米国で生産を減らしている。会社はホンダを含む四輪の減産を、世界で約 28 万台と見ていた。中国では日系の販売が細り、ミツバの中国四輪は前年比 2 割減だ。ワイパーやパワーウインドウは電動車にも要るので、モーターの出番は消えない。ただし単価の競争は強く、中国の部品メーカーが同じ製品を安く出してくる。
電動化は逆風だけではない。冷却用のブラシレスファンモーターは電動車向けに 4 社から受注し、北米で量産に入る。電動パワーステアリングは日本で量産が始まる。新しい客からフロントワイパーも受注し、2027 年に量産に入る。
二輪は世界で年 5,700 万台ほど売れる市場で、インドだけで 2025 年度は 2,170 万台だった。ミツバは燃料系のインドシェア 16% を 40% へ、エンジン補機を 40% から 50% へ上げる目標を持つ。電動二輪が広がれば始動モーターや燃料ポンプは要らなくなる。その代わり駆動モーターが売れる。ミツバは駆動モーターの開発を終え、インドで量産に入る準備をしている。ここで負ければ二輪の強みが一気に細る。
資本政策と M&A
資本政策は、傷んだ財務を直す段階から、株主に返す段階へ移りつつある。
いちばん大きな課題は優先株だ。2024 年に D 種を日本政策投資銀行と横浜銀行に発行し、100 億円を調達した。配当率は 7.8% で、毎年の利益から払う。2026 年 7 月に 60 株を約 31 億円で買い戻し、残りは約 70 億円。毎期 25 億円以上を償還する方針だ。転換する場合の価額は時価に連動するとされ、会社は希薄化のリスクを抑えた設計と説明する。
配当は 2027 年 3 月期に前期から増やす予定で、2031 年 3 月期までに配当性向 30% へ上げる。自社株買いの方針はない。還元の水準は低く、手元の利益は設備投資と償還に回る。
買収は、両毛システムズの非公開化に約 89 億円を投じる。ミツバの持ち分は 80%。ソフトウェア開発力を車の SDV 対応に生かす狙いだが、自動車部品の会社が情報サービスを抱える意味は、まだ数字で示されていない。今期の設備投資は 195 億円と過去最高で、インドの工場増強に約 120 億円を置く。
点検済み:中立の営業利益率 6.3% は直近 3 期(6.0〜6.9%)より低いが、赤字を挟んだ過去 12 年の平均 4.9% よりは高い(再建後の水準)。優先株の残り約 70 億円は償還が必要で、純利益÷営業利益 0.46 に利払い・配当を含めた。株数は自己株を除いた値と一致。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
再建は終わった。2024 年から 3 年続けて ROE は 10% を超え、営業利益は 239 億円と過去最高に届いた。ホンダ向けの二輪は前期だけで 49 億円増えた。インドの売上は 5 年で倍になり、次の 5 年でもう一度倍にする受注が積み上がっている。燃料系のシェアは 16% から 40% へ、ここに EV 駆動モーターが加わる。
四輪も守りだけではない。電動車向けのファンモーターを 4 社から受注し、電動パワーステアリングと新しい客のワイパーが 2026〜2027 年に量産へ入る。ワイパーやパワーウインドウは電動車でも必ず要る。情報サービスは利益率 13% で、中部電力と組んだ検針事業が加わる。
財務は直った。自己資本比率は目標の 30% を超え、優先株は毎期 25 億円以上を返している。配当には下限を設け、2031 年 3 月期に配当性向 30% を目指す。時価総額は純利益の 5 倍前後で、10 年の筋書きがやや強気に偏らなくても、元は取れる。
慎重な見方
利益の質が悪い。2027 年 3 月期の営業利益は 190 億円と 2 割減る計画で、銅や樹脂の上昇と米国関税を合わせて年 75 億円の逆風がある。その転嫁は遅れる。ホンダ向けが 43.9% を占める構造は、何も変わっていない。
四輪は縮む市場に立っている。ホンダと日産は生産を減らし、中国の四輪は前年比 2 割減だ。中国の 2 社の固定資産は全額減損した。電動化の新製品は受注の段階で、利益はまだ出ていない。インドの二輪は伸びるが、価格競争は厳しいと会社自身が認めている。電動二輪が普及すれば、始動モーターと燃料ポンプは要らなくなる。
ROE は 10% 前後と言っても、資本コスト 8% との差は小さく、赤字の 3 年が 10 年のうちに挟まっていた事実は消えない。優先株は 7.8% の高い配当を払い続け、毎期 25 億円の償還が自由な利益を食う。両毛システムズの買収で、純有利子負債もまた増える。情報サービスと自動車部品の組み合わせに、相乗効果の根拠は薄い。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方の指摘は重いが、強気の見方の根拠も具体的だ。再建後の利益水準は 3 年続き、二輪とインドには受注の裏付けがある。一方でホンダ依存と四輪の細りは構造だ。そこで確率は中立に最も重みを置き、やや悲観に楽観の 3 倍強を割り振った。結果として、価値は今の時価総額を上回るが、割安の幅は大きくない。ROE が資本コストに届かないので、倍率は 1÷k の範囲に抑えている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,427 円1,578 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 885 円408 億円)。 今の値に割り戻すと 2,190 円1,008 億円、今との差 +70.7%、 期待の年率 +12.9%(資本コスト 8.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 7,033 円3,238 億円 | 1,429 円658 億円 | +559.5% | +20.8% | 592 円273 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,118 円2,356 億円 | 1,169 円538 億円 | +390.0% | +17.2% | 1,257 円579 億円 |
| 中立 | 36% | 3,899 円1,795 億円 | 984 円453 億円 | +280.6% | +14.3% | 1,758 円809 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,810 円833 億円 | 669 円308 億円 | +93.2% | +6.8% | 620 円285 億円 |
| 悲観 | 12% | 456 円210 億円 | 250 円115 億円 | −45.0% | −5.8% | 85 円39 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,427 円1,578 億円 | 885 円408 億円 | +236.1% | +12.9% | 4,312 円1,985 億円 |
今の株価時価総額 1,283 円591 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% インド・電動化が重なり、部品会社として一段上がる 利益 228 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 7,033 円3,238 億円
二輪のインドで燃料系のシェアが 40% に達し、EV 駆動モーターの量産も軌道に乗る。四輪は電動車向けのファンモーターと電動パワーステアリング、新しい客のワイパーが相次いで量産に入り、ホンダ・日産以外の売上が増える。ホンダの生産も踏みとどまり、中国の再編は 3 年で終わる。営業利益率は 8% に乗り、過去の最高を超える。情報サービスは検針事業が加わって伸びる。それでも部品の価格競争は残り、利益率が 10% を超える高採算までは行かない。名目の ROE は 10% 台半ばで、資本コストを少し上回る。
- 四輪(電動化製品を含む):数量 1,060(当社電装品を載せる四輪車の台数(万台・推定))× 価格 30,016(1 台あたりの当社電装品の搭載額(円・名目))→ 売上 3,182 億円・営業利益 175 億円。新製品が一斉に立ち上がる
- 二輪:数量 4,800(当社部品を載せる二輪車の台数(万台・推定))× 価格 4,576(1 台あたりの当社部品の搭載額(円・名目))→ 売上 2,196 億円・営業利益 220 億円。インド 700 億円体制を前倒し
- 情報サービス:数量 2.5(年間の稼働量(万人月・推定))× 価格 175(1 人月あたりの売上(万円・名目))→ 売上 438 億円・営業利益 59 億円。検針事業が加わる
倍率:事業の純利益 228 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.5% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.2 倍。全体の PER 14.2 倍、時価総額 3,238 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:二輪のインドの 700 億円体制の前倒しと、四輪の新製品が一斉に立ち上がる両方が要る。ホンダ依存の構造を考えると、確率は低く置く。
やや楽観 20% 二輪とインドが四輪の細りを上回る 利益 180 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 5,118 円2,356 億円
二輪はインドとインドネシアで着実に伸び、会社の 700 億円体制に近づく。四輪はホンダ・日産の生産が細るが、電動車向けのファンモーターとパワーステアリングが穴を埋める。中国は固定費を減らして黒字を守る。銅や樹脂の上昇は 2 年かけて価格に転嫁される。営業利益率は 7% 台で、再建後の水準が続く。ホンダ以外の客からの受注も少しずつ増える。優先株は 3 年で償還を終え、配当性向 30% が定着する。名目の ROE は 9% 前後で、資本コストとほぼ等しい。それでも二輪の比率が上がり、利益の質は中立より少し良くなる。ホンダ向けの比率は 4 割を切り、顧客の偏りも少し薄まる。
- 四輪(電動化製品を含む):数量 1,020(当社電装品を載せる四輪車の台数(万台・推定))× 価格 29,373(1 台あたりの当社電装品の搭載額(円・名目))→ 売上 2,996 億円・営業利益 147 億円。新製品が穴を埋める
- 二輪:数量 4,440(当社部品を載せる二輪車の台数(万台・推定))× 価格 4,470(1 台あたりの当社部品の搭載額(円・名目))→ 売上 1,985 億円・営業利益 179 億円。インドが計画どおり伸びる
- 情報サービス:数量 2.3(年間の稼働量(万人月・推定))× 価格 172(1 人月あたりの売上(万円・名目))→ 売上 396 億円・営業利益 49 億円。堅調に伸びる
倍率:事業の純利益 180 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍。全体の PER 13.08 倍、時価総額 2,354 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社計画に近い筋書き。二輪には受注の裏付けがあるが、四輪の電動化製品はまだ量産前で、やや楽観は中立より低く置く。
中立 36% 再建後の水準を守る普通の部品メーカー 利益 141 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 3,899 円1,795 億円
二輪は物価と数量で名目 1.7 倍ほどに伸び、利益の主役が二輪に移る。四輪はホンダ・日産の生産が細る中、新しい客と電動車向けの新製品で数量をほぼ守る。値段は物価並みに上がるが、毎年の値下げ要求で利益率は 4% 台にとどまる。情報サービスは緩やかに伸びる。全体の営業利益率は 6% 強で、直近の 6.9% よりやや低い。優先株は償還を終え、配当は 3 割台の性向で出る。名目の ROE は 7% 台で、資本コストを下回る。特別に高い倍率は付かない 10 年になる。中国の再編は終わり、ホンダ向けの比率は 4 割台で変わらない。
- 四輪(電動化製品を含む):数量 970(当社電装品を載せる四輪車の台数(万台・推定))× 価格 28,730(1 台あたりの当社電装品の搭載額(円・名目))→ 売上 2,787 億円・営業利益 117 億円。数量はほぼ守る
- 二輪:数量 4,050(当社部品を載せる二輪車の台数(万台・推定))× 価格 4,400(1 台あたりの当社部品の搭載額(円・名目))→ 売上 1,782 億円・営業利益 143 億円。インドが伸び主役に
- 情報サービス:数量 2.2(年間の稼働量(万人月・推定))× 価格 169(1 人月あたりの売上(万円・名目))→ 売上 364 億円・営業利益 42 億円。緩やかに伸びる
倍率:事業の純利益 141 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 1,762 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:再建後の収益水準が続く、業界と会社計画の中心値に近い筋書き。確率を最も厚くした。
やや悲観 25% ホンダ依存と四輪の細りが重くのしかかる 利益 87 億円 · PER 7.8 倍 · 株価時価総額 1,810 円833 億円
ホンダ・日産の四輪は生産が 1 割ほど減り、中国の再編が追加の減損と固定費を残す。電動車向けのファンモーターは量産に入るが、他社との価格競争で利益が薄い。二輪もインドの価格競争が強まり、伸びが鈍る。銅や樹脂の上昇は転嫁が遅れ、営業利益率は 5% を割る。優先株の償還と配当を済ませると、自由な利益は限られ、還元は最低限になる。名目の ROE は 5% 前後で、資本コストをかなり下回る。業績は赤字に落ちない代わりに、再建前に近い低い採算へ戻る 10 年になる。ホンダは調達を維持するが、増やしてもくれない。会社は投資を絞り、二輪の伸びを四輪の細りが打ち消す。
- 四輪(電動化製品を含む):数量 880(当社電装品を載せる四輪車の台数(万台・推定))× 価格 27,872(1 台あたりの当社電装品の搭載額(円・名目))→ 売上 2,453 億円・営業利益 74 億円。生産減と値下げ
- 二輪:数量 3,450(当社部品を載せる二輪車の台数(万台・推定))× 価格 4,154(1 台あたりの当社部品の搭載額(円・名目))→ 売上 1,433 億円・営業利益 93 億円。価格競争で鈍る
- 情報サービス:数量 2.0(年間の稼働量(万人月・推定))× 価格 163(1 人月あたりの売上(万円・名目))→ 売上 329 億円・営業利益 35 億円。伸びが鈍る
倍率:ROE 4.8% は k 8% を大きく下回り、PER の上限は 1÷k の 11.1 倍。優良さを失った後の利益なので、その 7 割を置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 7.78 倍・時価総額 680 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:ホンダ・日産の減産と中国の再編が続く筋書きで、現実に起きていること。慎重な見方が強いので、楽観側より厚い確率を置く。
悲観 12% ホンダの調達見直しと電動化で、構造的に負ける 利益 24 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 456 円210 億円
ホンダがワイパーやパワーウインドウの調達を絞り、中国の再編が追加の減損を呼ぶ。電動車の普及でモーター単価は下がり、新製品は受注が計画に届かない。電動二輪が広がり、始動モーターと燃料ポンプの数量が減る。四輪は固定費を吸収できず、利益がほぼ消える。減損が約 500 億円出て自己資本が 1,200 億円ほどに細る。配当は最低水準を守るが、投資の余力はない。優良な部品会社ではなくなり、市場から評価される理由が失われる。構造改革をもう一度やり直す必要が出るが、2020 年のような外部の資金に頼る余裕は少ない。
- 四輪(電動化製品を含む):数量 680(当社電装品を載せる四輪車の台数(万台・推定))× 価格 26,157(1 台あたりの当社電装品の搭載額(円・名目))→ 売上 1,779 億円・営業利益 9 億円。調達の見直しで縮む
- 二輪:数量 2,760(当社部品を載せる二輪車の台数(万台・推定))× 価格 3,696(1 台あたりの当社部品の搭載額(円・名目))→ 売上 1,020 億円・営業利益 41 億円。電動化で主力品が縮む
- 情報サービス:数量 1.9(年間の稼働量(万人月・推定))× 価格 145(1 人月あたりの売上(万円・名目))→ 売上 279 億円・営業利益 22 億円。横ばい
倍率:悲観の純利益 24 億円は ROE 2.0% で、ためた利益は額面未満の価値しかない。やや悲観の時価総額÷純利益 7.8 倍より悲観ほど低く置くので、その約 95% の 7.4 倍(時価総額 178.2 億円)とした(稼ぐ力 純利益÷k も超えない)。自己資本の厚さや市場の倍率は根拠にしない。
確率:ホンダの調達見直しや電動化による置き換えが重なる複合の筋書き。赤字が 3 期続いた履歴と、顧客が 1 社に偏る構造から、1 割強の確率を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
四輪(電動化製品を含む)
ワイパー・パワーウインドウ・サンルーフ・電動パワーステアリング・冷却ファンのモーターなど、四輪車向けの電装品。ホンダと日産が主な客。
| 数量当社電装品を載せる四輪車の台数(万台・推定) | 価格1 台あたりの当社電装品の搭載額(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,000 | 21,440 | 2,144 | 105 |
| 10 年後 中立 | 970 | 28,730 | 2,787 | 117 |
取り方:社内管理の事業別売上(四輪 1,834 億・電動化 406 億・二輪 1,104 億)を、連結の輸送用機器 3,200 億円に合わせて二輪 1,056 億、四輪(電動化を含む)2,144 億とした。ホンダ・日産・スズキなどの搭載車で約 1,000 万台と推定し、1 台あたり約 2.1 万円に割り戻した。営業利益は輸送用機器全体の 200 億円から二輪を約 9% として差し引き、四輪を約 4.9% とした推定。単価は名目で、中立は 10 年で物価並みの 1.34 倍とする(電動化による搭載品の増加と、毎年の値下げ要求が釣り合う)。
二輪
始動モーター・燃料ポンプモジュール・発電機など、二輪車向け部品。ホンダ、ヒーロー、スズキなどに納め、インドとインドネシアが伸びる。
| 数量当社部品を載せる二輪車の台数(万台・推定) | 価格1 台あたりの当社部品の搭載額(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,000 | 3,520 | 1,056 | 95 |
| 10 年後 中立 | 4,050 | 4,400 | 1,782 | 143 |
取り方:世界の二輪は年 5,700 万台、インドは 2,170 万台。燃料ポンプの世界シェア約 35% などから、当社部品を載せる二輪車を約 3,000 万台と推定し、1 台あたり約 0.35 万円に割り戻した。利益率は ASEAN とインドの好調を反映して約 9% と推定。単価は名目。インドは低価格帯の車が多く、価格競争も厳しいので、中立の価格は 10 年で 1.25 倍と、物価の 1.34 倍に届かない水準に置いた。
情報サービス
両毛システムズが担う自治体向け基幹システム、電力会社向けの検針・エネルギー関連システムの開発。
| 数量年間の稼働量(万人月・推定) | 価格1 人月あたりの売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.9 | 121 | 232 | 29 |
| 10 年後 中立 | 2.2 | 169 | 364 | 42 |
取り方:売上 232 億円、営業利益 29 億円(利益率 12.9%)が開示値。稼働約 1,600 人(推定)で年約 1.9 万人月、1 人月あたり約 121 万円(ソフト・機器を含む売上)と置いた。人手不足で単価は物価を上回って上がると見て、中立の価格は 10 年で 1.40 倍とした。
リスクと懸念
ホンダ向けの偏り
ホンダ向けの売上は 1,469 億円で、全体の 43.9% を占める。調達の再編や車種の整理が進み、ホンダが選ぶ部品の数が減れば、売上と固定費の吸収が同時に崩れる。二輪でも四輪でも同じ顧客に頼る構造は、10 年先も変わりにくい。
四輪の細りと中国
ホンダと日産の四輪は米国と中国で減産が続く。ミツバの中国四輪は前年比 2 割減で、2 社の固定資産を全額減損した。工場の再編は見直しの途中で、追加の減損や再編費用が出る余地がある。
原材料と関税
銅、樹脂、アルミの高騰で 2027 年 3 月期に約 30 億円、米国の関税で通期約 45 億円の逆風を会社は見込む。部品の価格改定は半年から 1 年遅れる。転嫁が進まなければ、営業利益率は 5% 台に沈む。
電動二輪による置き換え
二輪が電動に替わると、始動モーター、燃料ポンプ、発電機といった主力品が減る。駆動モーターで穴を埋める計画だが、インドでは新興メーカーの価格が厳しく、量産の立ち上がりは来年の予定にとどまる。
優先株と資本の余裕
D 種の残りは約 70 億円で、7.8% の累積配当がつく。毎期 25 億円以上の償還が利益の自由度を削る。転換価額が時価に連動するとされ、株価が下がる局面では株数が増える可能性がある。
両毛システムズ買収の効果
約 89 億円の買収で、ミツバの持ち分は 80% になる。ソフトウェア開発を車の SDV 対応に生かす狙いだが、車載部品との相乗効果はこれから示す段階だ。買収の分だけ純有利子負債が増える。
為替と海外の事業環境
海外売上比率は 66% と高い。円高は円換算の利益を削り、インドやブラジルの通貨安は現地の利益を目減りさせる。インドは売上の伸びが大きい分、為替と現地の競争の影響を強く受ける。
今後の分かれ目
- ホンダが二輪・四輪の調達を見直し、ミツバの採用品目が減ったら
- 悲観・やや悲観の確率を上げ、四輪の数量を下方修正する。
- 電動車向けのファンモーター・パワーステアリング・新しい客のワイパーが計画どおり量産に入り、四輪が利益を出したら
- やや楽観・楽観の確率を上げ、四輪の営業利益率を上方修正する。
- インドの二輪売上が 700 億円体制に届き、EV 駆動モーターの量産が始まったら
- 二輪の数量を上方修正し、やや楽観側へ確率を寄せる。
- 銅・樹脂の上昇を価格に転嫁できず、営業利益率が 5% を下回る状態が続いたら
- 中立の利益率を下げ、やや悲観の確率を上げる。
- 優先株の償還を終え、配当性向 30% を超えて自社株買いなど追加の還元が出たら
- 還元を上方修正し、利益の質の評価を引き上げる。
- 中国で追加の減損や工場の撤退が出たら
- 四輪の利益率前提を下げ、やや悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- ホンダ向け売上の構成比(43.9% からの変化)
- 電動車向けファンモーター・EPS・ワイパーの量産立ち上がり
- インド二輪の売上(700 億円体制)と EV 駆動モーターの量産
- 銅・樹脂の転嫁と営業利益率(会社の計画は 5.5%)
- D 種優先株の償還ペース(毎期 25 億円以上)
- 中国の四輪生産と追加減損の有無
倍率と資本コストの決め方
四輪・二輪・情報サービスを、数量と単価に分けて積み上げた。資本コストは基本 7.5% に quality +1.5%(循環 +0.5・値決め +0.5・借金 0・寿命 +0.5)を足した 9.0%。倍率は利益ベースで、中立の ROE は k に届かないので PER の上限は 1÷k の 11.1 倍とし、その 85% を置いた。今の株価や過去の倍率は使っていない。今の時価総額が純利益の 5 倍前後と低いので、割安に寄りやすい点は意識し、中立の営業利益率を直近より低い 6% 強にとどめた。数字は今と同じ形(リース料を営業費用に含む)でそろえた。新リース会計基準で数字の形が変わるのは 2028 年 3 月期からで、筋書きには入れていない。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)を上限に、倍率をやや悲観の約95%に置いた。過去の倍率や自己資本の厚さは根拠にしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.62→14.2 倍・やや楽観 PER 9.78→13.08 倍・中立 PER 9.44→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.5% を足した 9.0%。同じ低採算の部品でホシデンと同じ。ホンダ依存・中国・電動化の個別の悩みは k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.00%。