結論
日本シイエムケイは、自動車向けのプリント配線板(電子部品をのせる基板)に特化した専業メーカーである。車載向けの先端品、ビルドアップ基板では世界首位級とされる。筆者の結論は、10 年の本質価値は今の値段をやや下回る、というものだ。いちばんの理由は、稼ぐ力が資本コストに届かないことにある。
売上は 1,000 億円を超えたが、営業利益率は 3% 前後にとどまる。タイの新工場は 2025 年 11 月に動き出したものの受注が少なく、27 年 3 月期は償却の負担が重い。前の中期計画も 3 期続けて外れた。
追い風は確かにある。車は電子部品のかたまりになり、ECU(車の頭脳)の統合で基板は大きく複雑になる。会社は車載向けビルドアップ基板の数量が 2030 年まで年 18% 伸びると見る。この波に乗れれば、利益率は 6〜7% まで上がる。
筆者は、その中立の筋書きでも ROE は 7〜8% にとどまると見る。資本コストを下回る会社が持つ自己資本は、帳簿の額面より価値が小さい。今の時価総額が自己資本を下回っていることは、割安の根拠にならない。確率を重ねた本質価値は今を 1 割半ほど下回り、「やや割高」と出た。楽観の筋書き(確率 7%)が実現すれば、時価総額は 3 倍になる。
バリュー投資の観点から
事業の本質は悪くない。車が賢くなるほど、基板は増え、複雑になる。10 年後もこの事業は残り、先端品の比率は上がる。バリュー投資の観点で問われるのは、その成長が株主のものになる利益に変わるかどうかだ。
今のところ、変わっていない。売上は 2015 年 3 月期から 11 年で 4 割弱しか伸びず、営業利益率は 3% 前後。設備に資金が取られ、株主に残るオーナー利益は薄い。ROE が資本コストに届かない会社では、利益を再投資しても価値は増えない。
堀は、車載の認定という切り替えの難しさにある。しかし顧客の 35% がデンソー 1 社で、値決めの主導権は買い手にある。広い堀とは言えない。
経営の資本の使い方には疑問が残る。タイ工場に 483 億円を投じ、受注が追いつかないまま償却が始まった。前の計画は 3 期続けて外れた。DOE 3% への転換と自社株買いの検討は、資本効率を意識した前進だ。ただ、実行を見るまでは割り引く。
安全域は、今の値段には見当たらない。楽観が実現して初めて、今の値段を大きく上回る。確率の高い中立から悲観では、元本を割る側に寄る。筆者は今のところ、この会社を持ち続けたい事業とは考えない。ただ、中国工場の型がタイで再現されれば、見方は変わる。
何で稼ぐ会社か
事業は 1 つ。プリント配線板(基板)をつくって売る。基板は電子部品をのせ、部品どうしを電気でつなぐ土台で、車のエンジン制御、ブレーキ、運転支援のユニットに入る。基板づくりは 60 年を超え、車載は 40 年以上の実績がある。
売上の 86% が車載向けで、残りは通信や産業機器など。最大の顧客はデンソーで、売上の 35% を占める。2026 年 3 月期の売上 1,002 億円のうち、日本が 6 割、中国と東南アジアが各 2 割弱だ。
基板は 3 つに分けるとわかりやすい。ひとつはビルドアップ基板(HDI)。薄い層を積み重ねて細かい配線をつくる先端品で、売上の 3 分の 1 にあたる 330 億円。運転支援や統合 ECU に使われ、いちばん伸びている。もうひとつは多層貫通基板などの量産品で、売上の 6 割弱。車載の主力だが、市場の伸びは年 2〜3% と遅い。最後に、航空宇宙、半導体関連、医療機器、ロボットなど、車以外の「新領域」がある。売上は 107 億円と小さいが、会社は 2031 年 3 月期に 200 億円を目指す。
工場は新潟と相模原(日本)、無錫と東莞(中国)、タイにある。中国の工場は、基板を大きな板で一度に作る大判化と自動化で、地域別の利益率が 16% に達する。日本は 4% 台、東南アジアは赤字だ。この差が、会社の課題をそのまま映している。
優良さと弱いところ
強みは、車載で積んだ実績と認定だ。車載の基板は長い年数の使用に耐える信頼性を求められ、一度採用されると次のモデルでも使われやすい。同社は不良の原因を調べる解析設備が厚く、車載向けビルドアップ基板では世界首位級の位置にいる。
ただし、堀はそれほど広くない。顧客のデンソーが売上の 35% を占め、値下げ要請を受ける立場にある。ビルドアップ基板は市場が速く伸びる分、メイコー(6787)のような国内勢や台湾・中国の大手が入ってくる。利益率の差がそれを示す。メイコーの営業利益率が 1 割前後なのに対し、同社は 3% 前後にとどまる。
資本効率は低い。ROE は過去 10 年の中央値が 4.6%、最高でも 6.9% で、資本コストに一度も届いていない。過去 20 年に赤字の期が 8 回ある。最近の失敗も重い。タイ新工場は、受注が少ないまま償却が始まり、システムの不備で生産が乱れた。前の中期計画は 3 期とも外れた。
財務は壊れていない。自己資本比率は 55%、純有利子負債は 227 億円。ただ、タイの有形固定資産だけで 483 億円あり、時価総額に近い。まだ稼いでいない設備が重い、というのが筆者の見方だ。
救いは中国工場にある。大判化と自動化で、同じ基板を 16% の利益率で作れることを自社で示した。この型をタイに移せるかどうかが、優良さを決める。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
車載基板は、数量が自動車の生産台数より速く増える市場だ。自動車の生産は 2030 年まで年 1.5% の伸びだが、車載基板の数量は 4.9%、先端のビルドアップ基板は 18.4% と会社は見る(富士キメラ調べ)。車 1 台あたりの半導体が増え、ECU を 1 つにまとめる統合 ECU や運転支援が広がるからだ。統合 ECU の基板は、従来の 4〜5 倍の大きさになる。
市場の大きさは、車載向けで約 1.5 兆円。同社の車載売上は 900 億円弱だから、シェアは 6% ほどになる。ビルドアップだけで見れば世界首位級でも、基板全体では小さな存在だ。市場が数量で年 4.9%、単価で物価に届かない伸びなら、2036 年の車載基板は約 2.8 兆円になる。シェアを守れば、売上は 1,500 億円台、営業利益率 7% で 100 億円を超える。これが中立の骨格だ。
値段の見通しは厳しい。ビルドアップ基板は層が増えるほど単価が上がるが、競合が増えれば値下げ圧力が強まる。自動車部品は値下げ要請が付きものとされ、物価の 3% が自動的に転嫁されるとは考えにくい。
競合は、メイコーなど日本勢、台湾のユニマイクロン、中国・韓国の大手などだ。車載顧客は地政学を理由に調達先を分けたがる。これは同社にとって追い風のはずだが、タイ工場の受注が伸びていないことが、その期待が思ったほど実を結んでいないことを示している。
景気の波は、半導体や素材ほど大きくない。ただ、EV の失速と PHV への揺り戻しで、欧州顧客向けは減った。電動化の道筋がぶれると、基板の需要もぶれる。今は需要が伸びる側の入口にいる。数量の伸びが利益に変わるかは、競争と稼働率しだいだ。
資本政策と M&A
資本政策は転換点にある。2026 年 5 月の中期計画で、配当を「自己資本の 3%」(DOE 3%)で決める方式に改めた。これまでの配当性向 30% 方式は、利益がぶれると配当もぶれた。今の自己資本なら、年 25 億円ほどの配当になる。加えて、約 55 億円の戦略投資枠で自社株買いか追加投資を機動的に行う。ROE 9% 超を 2031 年 3 月期に目指す。
資金は、3 年で約 400 億円のキャッシュ・インを見込み、成長投資 約 150 億円と更新投資 約 120 億円に回す。余りで借入を返す。タイ工場の建設で純有利子負債は 227 億円まで増えた。投資有価証券の売却益 18.9 億円を 2026 年 3 月期に計上しており、持ち合い株の整理も進む。大型の買収は計画にない。
ガバナンスは、2026 年 6 月に監査等委員会設置会社へ移り、社外取締役が半数になった。企業価値向上委員会も置いた。タイ工場のシステム不備を重大な事故と認め、再発防止を課題に挙げている。
再編の芽はある。時価総額は 555 億円と小さく、自己資本を下回る。アーカス・インベストメントが 6% 超を持つ(2025 年 12 月の大量保有報告)。TOB の確率は、kabufu の試算で 10 年以内に 2 割ほどだ。ただ、買い手は見えない。筋書きには織り込んでいない。
点検済み:中立の営業利益率6.7%が会社予想(28年3月期5.9%)と過去最高(4.9%)を超え、ビルドアップ基板が今の6.1%から9%へ上がる前提だったため、7.5%・車載4.5%に置き直した(全社5.8%)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
車は走る半導体になり、基板は増えて複雑になる。統合 ECU の基板は従来の 4〜5 倍の大きさで、ビルドアップ基板の数量は 2030 年まで年 18% 伸びる。同社は車載向けビルドアップ基板で世界首位級にいて、統合 ECU と運転支援の売上は 180 億円から 280 億円へ増える見通しだ。ビルドアップの比率は 33% から 29 年 3 月期に 41% へ上がる。
利益の改善も道筋が見えている。中国工場は、大判化と自動化で地域別の利益率が 16% に達した。東南アジア(主にタイ)の売上は 174 億円で、営業赤字は 15 億円。中国と同じ型が移れば、この地域だけで利益が 40 億円以上増える。27 年 3 月期の営業利益の予想は 50 億円で、前期の 2 倍近い。
資本政策も変わった。DOE 3% で配当を安定させ、自社株買いの枠も設けた。社外取締役は半数になる。時価総額が自己資本を下回る今、株主還元の強化は資本効率の改善に直結する。新領域は航空宇宙、ロボット、半導体検査装置で量産案件が動き出し、2031 年 3 月期に 200 億円を狙える。
慎重な見方
会社の計画は 3 期続けて外れた。2023 年 11 月の見直しで掲げた営業利益は 26 年 3 月期に 80 億円、実績は 28 億円だった。ROE は過去 10 年で最高 6.9% と、資本コストに一度も届いていない。
タイ工場は 483 億円の設備が、受注の少ないまま償却に入った。システムの不備で生産が乱れ、歩留まりの課題も残る。東南アジアの赤字が消える保証はない。前の計画が期待した外資顧客の拡大も、コスト競争で外れた。
顧客は偏っている。デンソーが売上の 35% で、比率は上がり続けている。値決めの主導権は買い手にある。ビルドアップ基板の市場が伸びるほど、メイコーや台湾・中国の大手が入り、値下げ圧力が強まる。EV の失速で欧州顧客向けは減った。
26 年 3 月期の純利益 40 億円は、為替差益 15 億円と有価証券の売却益 19 億円に支えられた。営業利益は 28 億円にすぎない。DOE 3% の配当は年 25 億円ほどで、ならした純利益 30 億円のほとんどを占める。成長投資の余力は、借入に頼ることになる。
どちらに重みを置いたか
市場の伸びと中国工場の成功という強気の見方は、事実に支えられている。しかし、計画を 3 期続けて外した実績、タイ工場の失敗、デンソー 1 社への偏りという慎重な見方の指摘のほうが重い。
強気が当たる筋書きは、タイ工場が中国並みに立ち上がることを必要とする。その確率は、実績を見ると 3 割に届かない。そこで、楽観とやや楽観を合わせて 27%、やや悲観と悲観を合わせて 39% と、慎重な側にやや厚く寄せた。中立は 34%。事業の構造が壊れるわけではないので、悲観は 12% にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,066 円760 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 417 円298 億円)。 今の値に割り戻すと 721 円515 億円、今との差 −4.2%、 期待の年率 +7.0%(資本コスト 9.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 2,908 円2,075 億円 | 729 円520 億円 | +383.1% | +17.1% | 255 円182 億円 |
| やや楽観 | 20% | 1,860 円1,327 億円 | 603 円430 億円 | +227.1% | +12.6% | 493 円351 億円 |
| 中立 | 34% | 1,064 円759 億円 | 417 円298 億円 | +96.7% | +7.0% | 504 円359 億円 |
| やや悲観 | 27% | 345 円246 億円 | 322 円230 億円 | −11.4% | −1.2% | 180 円129 億円 |
| 悲観 | 12% | 293 円209 億円 | 140 円100 億円 | −42.5% | −5.4% | 52 円37 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,066 円760 億円 | 417 円298 億円 | +96.9% | +7.0% | 1,483 円1,058 億円 |
今の株価時価総額 753 円537 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 統合 ECU と運転支援に乗り、タイ工場も満床になる 利益 164 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 2,908 円2,075 億円
自動車が「走る半導体」になる流れが想定より速く進み、統合 ECU と運転支援の基板が車ごとに大きく複雑になる。ビルドアップ基板の数量は 10 年で 2.8 倍になり、売上のほぼ半分を占める。タイ工場は 2028 年ごろに満床になり、中国工場と同じ大判化・自動化が根づく。東南アジアの赤字は消え、全社の営業利益率は 9〜10% に届く。
新領域は、航空宇宙、半導体検査装置、ロボット、光トランシーバーで量産案件が積み上がり、売上は 400 億円を超える。外資系の車載顧客も取り込み、デンソーへの依存は 3 割前後に下がる。DOE 3% の配当に自社株買いを重ねて自己資本の膨らみを抑え、ROE は 12〜13% になる。会社が掲げる 9% 超をはるかに上回る、理想的な 10 年だ。
- 車載ビルドアップ基板(HDI):数量 42.0(年間の出荷面積(万㎡、推定))× 価格 29(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 1,201 億円・営業利益 144 億円。統合 ECU・運転支援で数量が大きく伸びる
- 車載の多層貫通基板・両面基板ほか:数量 72.2(年間の出荷面積(万㎡、推定))× 価格 11(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 812 億円・営業利益 57 億円。量産品も高多層化で微増
- 新領域(航空宇宙・半導体関連・医療・ロボットなど):数量 10.7(年間の出荷面積(万㎡、推定))× 価格 41(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 434 億円・営業利益 48 億円。量産案件が積み上がる
倍率:事業の純利益 164 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.8% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.6 倍。全体の PER 12.65 倍、時価総額 2,075 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:統合 ECU と運転支援の需要が計画を超え、タイ工場が早く満床になり、新領域も量産に乗る必要がある。前の中期計画を 3 期続けて外した実績があるので、確率は低く置いた。
やや楽観 20% 会社計画に近い道を歩み、ROE が資本コストを超える 利益 114 億円 · PER 11.6 倍 · 株価時価総額 1,860 円1,327 億円
車載のビルドアップ基板は会社計画に近いペースで伸び、2029 年 3 月期の売上 1,200 億円・営業利益 75 億円をほぼ達成する。その後も数量は年 9% 前後で増え、10 年で 2.4 倍になる。タイ工場は立ち上がりが遅れるが、2030 年前後に中国並みの生産性に近づく。
多層貫通基板は市場の伸びに合わせた微増にとどまる。それでも高多層化と物価の転嫁で単価はもつ。新領域は 2031 年 3 月期の 200 億円目標に届き、その後も伸びる。営業利益率は 8% 台、ROE は 10% 程度になる。資本コストをわずかに上回るだけで、強い会社とまでは言えない。ただ、投資家の期待には応える 10 年になる。
- 車載ビルドアップ基板(HDI):数量 36.0(年間の出荷面積(万㎡、推定))× 価格 28(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 990 億円・営業利益 104 億円。会社計画に近いペースで伸びる
- 車載の多層貫通基板・両面基板ほか:数量 67.2(年間の出荷面積(万㎡、推定))× 価格 11(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 726 億円・営業利益 44 億円。市場並みの微増
- 新領域(航空宇宙・半導体関連・医療・ロボットなど):数量 8.9(年間の出荷面積(万㎡、推定))× 価格 39(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 348 億円・営業利益 35 億円。200 億円目標に届く
倍率:事業の純利益 114 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.6 倍。全体の PER 11.64 倍、時価総額 1,327 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:車載のビルドアップ基板の市場は会社の見通しどおり年 18% 伸びる公算が大きい。その伸びを取り込み、タイ工場を中国並みの生産性に近づけられれば届く水準で、強気の筋書きとしてはいちばん現実的だ。
中立 34% 計画を半分たどり、ROE は資本コストにわずかに届かない 利益 68 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 1,064 円759 億円
会社計画の道筋を、半分たどる。ビルドアップ基板は市場の拡大に沿って数量が 10 年で 2.1 倍になる。ただ、競合の参入で単価の伸びは物価より小さい。売上は 1,800 億円弱、営業利益率は 5〜6% で、会社の 28 年 3 月期予想(5.9%)の水準に届く形だ。
タイ工場は 2030 年ごろに黒字になるが、中国工場の利益率には届かない。新領域は 200 億円の目標に数年遅れて届き、その後はゆるやかに伸びる。デンソーとの取引は続き、依存度は 35% 前後のままだ。DOE 3% の配当は守られるが、自社株買いは小さく、自己資本は 1,000 億円を超える。ROE は 6〜7% と資本コストにわずかに届かない。可もなく不可もない基板メーカーとして評価される 10 年になる。
- 車載ビルドアップ基板(HDI):数量 31.5(年間の出荷面積(万㎡、推定))× 価格 26(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 832 億円・営業利益 62 億円。市場の拡大に沿って伸び、単価は物価より小さく上がる
- 車載の多層貫通基板・両面基板ほか:数量 62.8(年間の出荷面積(万㎡、推定))× 価格 11(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 678 億円・営業利益 31 億円。数量は横ばい、値下げ要請で単価は物価に届かない
- 新領域(航空宇宙・半導体関連・医療・ロボットなど):数量 7.1(年間の出荷面積(万㎡、推定))× 価格 39(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 278 億円・営業利益 25 億円。目標に数年遅れて届く
倍率:事業の純利益 68 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.6% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 759 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:数量は市場の伸びに沿って増えるが、競合の参入と値下げ要請で利益率は計画に届かない。会社の目標の半分をたどる筋書きを中心に置いた。
やや悲観 27% 中国・台湾勢が入り、成長が利益に変わらない 利益 35 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 345 円246 億円
中国・台湾の基板大手が、車載のビルドアップ基板へ本格的に入ってくる。数量は伸びるが、シェアは取れない。単価も物価の半分ほどしか上がらない。デンソーなど日系顧客の値下げ要請は強まる。
タイ工場は受注が積み上がらず、償却の重さに稼働率の低さが重なる。欧州顧客の電動化が遅れ、パワートレイン系の基板も伸びない。新領域は試作止まりが多く、200 億円の目標に届かない。売上は 1,300 億円台、営業利益率は 4% 台にとどまり、2027 年 3 月期の水準からほとんど改善しない。DOE 3% の配当は維持するが、利益が小さく、ROE は 4% 前後に沈む。事業は続けられるが、成長の物語は終わる 10 年だ。
- 車載ビルドアップ基板(HDI):数量 24.0(年間の出荷面積(万㎡、推定))× 価格 24(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 581 億円・営業利益 41 億円。競合の参入でシェアが伸びず単価も重い
- 車載の多層貫通基板・両面基板ほか:数量 56.5(年間の出荷面積(万㎡、推定))× 価格 9.90(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 560 億円・営業利益 20 億円。値下げ要請が強まり数量も減る
- 新領域(航空宇宙・半導体関連・医療・ロボットなど):数量 5.4(年間の出荷面積(万㎡、推定))× 価格 35(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 185 億円・営業利益 12 億円。試作止まりが多い
倍率:ROE 3.8% は資本コスト 9% 以下なので、PER の上限は 1÷k = 10.8 倍(ためた利益は額面を下回る価値)。優良でなくなった後の利益には、その 65% を置いた。自己資本の厚さや帳簿は根拠にしない。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 7.03 倍・時価総額 246 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:価格競争の激化、タイ工場の稼働率の低迷、欧州顧客の電動化の遅れが重なる筋書き。計画未達が 3 期続いた実績と、顧客の 35% がデンソー 1 社に偏る構造から、慎重な側にやや厚く置いた。
悲観 12% 主要顧客の調達先が動き、資産を売って守る会社になる 利益 −36 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 293 円209 億円
車載基板の競争が価格競争に変わり、デンソーなど主要顧客が調達先を中国・台湾勢へ振り向ける。ビルドアップ基板でも先行優位を失い、数量は今より増えない。日本とタイの工場の稼働率が下がり、固定費が重くのしかかる。
タイ工場は一部を減損して縮小し、国内の旧型ラインも閉じる。売上は 800 億円台に縮み、営業赤字が続く。借入は資産の売却で返し、配当は大きく削る。ただ、事業を続ける間も配当を払うため、積み上げた利益と資産の売却でまかなう。自己資本は減損で 470 億円ほどに減る。
欧州と日系の顧客の両方で受注が細り、新領域の量産も立ち上がらない。もう優良な基板メーカーではない。資産を売れるだけ売って価値を守る会社になる。
- 車載ビルドアップ基板(HDI):数量 15.0(年間の出荷面積(万㎡、推定))× 価格 22(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 330 億円・営業利益 0 億円。先行優位を失い数量が増えない
- 車載の多層貫通基板・両面基板ほか:数量 44.0(年間の出荷面積(万㎡、推定))× 価格 9.00(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 396 億円・営業利益 −8 億円。調達先を振り向けられ数量が縮む
- 新領域(航空宇宙・半導体関連・医療・ロボットなど):数量 3.6(年間の出荷面積(万㎡、推定))× 価格 30(1 ㎡あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 107 億円・営業利益 0 億円。量産に至らず頭打ち
倍率:営業赤字(純損失 36 億円)で稼ぐ力に値が付かないので、床は売れる資産で見る。今の自己資本 835 億円の約 25%(209 億円)。タイの設備は減損し、借入 227 億円を返した後に残る分だけを見た。
確率:主要顧客の調達先の見直しとタイ工場の失敗が同時に起きる筋書き。車載基板は一度認定を外れると回復に時間がかかり、赤字の期が過去 20 年に 8 回ある。事業の構造は壊れていないので 1 割強にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
車載ビルドアップ基板(HDI)
薄い層を積み重ねて細かい配線をつくる先端の基板。運転支援(ADAS)や統合 ECU に使われ、会社の成長の中心。
| 数量年間の出荷面積(万㎡、推定) | 価格1 ㎡あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 15.0 | 22 | 330 | 20 |
| 10 年後 中立 | 31.5 | 26 | 832 | 62 |
取り方:会社が示す基板種別売上のうちビルドアップ(HDI)が 330 億円。開示は金額だけなので、車載向け 4 層前後のビルドアップ基板の 1 ㎡あたりの値段を 22 万円前後と見て、出荷面積を約 15 万㎡と推定した。数量は実質の面積で、会社の見通し(富士キメラ)では車載向けビルドアップ基板の数量が 2024〜30 年に年 18.4% 伸びる。物価 3% と多段化による単価の上昇は価格に入れ、競合の参入による値下げ圧力と差し引いた。中立は 10 年で 1.20 倍(物価の 1.34 倍に届かない)。営業利益は地域別の利益と比べ、日本の水準(4% 台)より少し高い 6% と推定した。
車載の多層貫通基板・両面基板ほか
車載の量産基板(エンジン、ブレーキ、ボディ系など)。市場の伸びは遅いが、売上の 6 割弱を占める。
| 数量年間の出荷面積(万㎡、推定) | 価格1 ㎡あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 62.8 | 9.00 | 565 | 20 |
| 10 年後 中立 | 62.8 | 11 | 678 | 31 |
取り方:基板全体 1,002 億円から、ビルドアップ 330 億円と車載以外の新領域 107 億円を引いた 565 億円(多層貫通・両面・その他の車載分)。1 ㎡あたり約 9 万円と見て、出荷面積を約 63 万㎡と推定した。会社の資料では多層基板の市場は 2024〜30 年に年 2.5%、両面基板は 0.7% の伸びで、数量は横ばいから微増が普通。車載は値下げ要請を受けやすく、中国・台湾勢の量産品との競争もあるため、単価は 10 年で 1.20 倍(物価の 1.34 倍に届かない)を中立とした。営業利益率は 3.5% と推定。
新領域(航空宇宙・半導体関連・医療・ロボットなど)
車以外の基板。航空宇宙、半導体検査装置、医療機器、産業ロボット、通信など。会社は 2031 年 3 月期に 200 億円を目指す。
| 数量年間の出荷面積(万㎡、推定) | 価格1 ㎡あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.6 | 30 | 107 | 9 |
| 10 年後 中立 | 7.1 | 39 | 278 | 25 |
取り方:会社の資料で通信とその他の売上が合計 107 億円(26/03 期。新領域の売上目標の基準値と同じ)。少量多品種で高多層・厚銅などの高機能品が多く、1 ㎡あたり約 30 万円と見て、出荷面積を約 3.6 万㎡と推定した。数量は実質の面積で、量産案件の積み上がりで増える。単価は物価 3% と高機能化で上がるが、競争もあるので中立は 10 年で 1.30 倍。営業利益率は 8% と推定した。
リスクと懸念
デンソー 1 社への偏り
売上の 35% がデンソーで、前期の 33% から上がった。受注が順調な間は支えになるが、調達方針や値下げ要請が変われば、売上と利益率の両方に直接響く。顧客の分散は中期計画でも課題に挙がっている。
タイ新工場の立ち上がり
2025 年 11 月に稼働したが、受注が少なく、27 年 3 月期は償却の負担が利益を押し下げる。タイの有形固定資産は 483 億円で時価総額に近い。システム不備と歩留まりの課題も残る。稼働率が上がらなければ、減損もありうる。
車載基板の競争と値下げ
ビルドアップ基板は市場が速く伸びるため、メイコーなど日本勢や台湾・中国の大手が入る。数量が伸びても単価が下がれば、利益は増えない。同社の営業利益率は 3% 前後と薄く、少しの値下げが利益の大きな減少になる。
自動車の電動化のぶれ
欧州の主要顧客は、EV の失速で PHV への揺り戻しが起き、販売が減った。会社の見通しは統合 ECU と運転支援の拡大に頼る。電動化や自動運転の導入が遅れれば、ビルドアップ基板の伸びが計画を下回る。
一過性の利益と為替
26 年 3 月期の純利益は、為替差益 15 億円と有価証券の売却益 19 億円に支えられた。営業利益は 28 億円にとどまる。円高に振れれば、海外の利益の円換算も目減りする。見かけの利益に惑わされる危うさがある。
人手の確保と人件費
国内の労働人口が減る中、会社は採用目標を売上目標と同じ重要な指標に置く。人手不足と人件費の上昇は、工場の稼働と原価に効く。省人化の投資が間に合わなければ、利益率を押し下げる。
計画の未達が続く信頼の問題
2023 年 11 月に見直した計画は、26 年 3 月期の営業利益が 80 億円の目標に対して 28 億円だった。新しい中期計画の 29 年 3 月期 75 億円も、前の計画と同じく外れる可能性がある。環境対策の引当(5 億円)のような予想外の費用も出ている。
今後の分かれ目
- タイ工場の稼働率が上がり、東南アジアの利益が黒字になったら
- 中立の利益率の前提を上げ、やや楽観・楽観の確率を厚くする。中国工場の型が移ったことの証明になる。
- ビルドアップ基板の売上比率が 29 年 3 月期に 4 割を超え、営業利益が 75 億円に届いたら
- 中期計画の道筋が当たったと見て、やや楽観の確率を上げる。届かなければ、やや悲観側へ寄せる。
- デンソーの売上比率が 4 割を超えたら
- 値決めの主導権が一段と買い手に移ったとみて、利益率を下げ、悲観側の確率を上げる。
- 自社株買いが 50 億円規模で実施されたら
- 自己資本の膨らみが抑えられ、ROE が上がりやすくなる。ただ、利益そのものが増えない限り価値は大きく変わらない。
- 新領域の売上が 2031 年 3 月期に 200 億円へ届く道筋が見えたら
- 新領域の数量を上げ、全社の利益率の上振れ余地を見直す。届かなければ、やや悲観の前提に寄せる。
- 中国・台湾の基板大手が車載のビルドアップ基板で日系顧客の認定を取り始めたら
- 単価と数量の前提を下げ、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 大きな株主が経営に関与を強めたり、TOB の動きが出たりしたら
- 時価総額が自己資本を下回る点が焦点になる。ただ、買収価格が本質価値を上回るかは別に点検する。
見ておくもの
- タイ工場の稼働率と東南アジアの地域別利益(赤字の縮小ペース)
- ビルドアップ基板の売上比率(27 年 3 月期 37%、29 年 3 月期 41% の目標)
- 29 年 3 月期の売上 1,200 億円・営業利益 75 億円の進み具合
- デンソーの売上比率と外資系車載顧客の受注
- 新領域の売上(26 年 3 月期 107 億円から 29 年 3 月期 150 億円)
- 自社株買いの実施と DOE 3% の配当の水準
倍率と資本コストの決め方
数量(出荷面積)× 単価で 3 つの基板に分け、今の株価と PER は見ずに 10 年後の営業利益を積んだ。倍率は式 (1 − g÷RONIC)÷(k − g) で出した。k は 7.5% に quality +1.75% を足した 9.25%、g は 4%。中立の ROE は資本コストを下回るので、PER の上限は 1÷k=10.8 倍で、その 8 割を置いた。悲観は稼ぐ力ではなく、売れる資産の税後で置いた。確率は計画未達が続いた実績で慎重な側に寄せている。今の時価総額は最後に比べただけで、倍率には使っていない。新リース会計基準(2028 年 3 月期から)で BS の形が変わるが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れる形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.31→12.65 倍・やや楽観 PER 9.51→11.64 倍・中立 PER 8.7→11.11 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.75%(循環 +0.5・値決め +0.5・借金 +0.25・寿命 +0.5)を足して k 9%。同じ基板のメイコー(9.0%)より少し高いのは、顧客の偏り、まだ動いていないタイ工場、低い利益率を寿命と値決めで見たため。計画未達の積み重ねは k に足さず、確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.25% → 9.00%。