結論
図研は、電子機器の回路と基板を設計するソフトの会社だ。国内首位級で、毎年の保守契約が収益の土台になる。
筆者の結論は、10年後の本質価値が今の時価総額をやや下回るというものだ。堅い商売であることは疑わない。だが今の値段は、その堅さをすでに織り込んでいる。成長が物価に少し上乗せされる程度なら、値段に安全域は残らない。
筋書きを分けるのは AI だ。設計の自動化が進めば、設計者の生産性は上がる。ところが席数で課金する限り、同じ成果に必要な席は減る。図研は2023年から AI の自動配置配線を出し、ヴァレオとも組んだ。課金の形を変えられれば上振れ、変えられなければ成長は止まる。
利益の質には注意が要る。FY3/26の純利益にはフォーティネット株の売却益が入っていた。これを除くと ROE は10.6%だ。中期計画は営業利益率15.1%を目指すが、当初の16%からは下げている。
財務は堅い。純現金は283億円あり、DOE 5%以上と自社株買いで株主に戻す方針だ。悲観の筋書きでも、財務が先に傷む心配は小さい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見ると、この会社には良い点が3つある。保守契約で積み上がる利益、設備の軽いソフトという事業、株主に戻す姿勢だ。電子機器は10年後も設計され続ける。基板設計ソフトの需要が消える理由は見当たらない。
一方で、安全域を取りにくい点が2つある。1つは、課金の形が AI に揺さぶられることだ。需要が残っても、席の数が減れば売上は伸びない。もう1つは、大手との差である。資金力のある海外勢が AI を標準機能に入れれば、価格を決める力は弱まる。
経営者の資本の使い方は悪くない。大型買収を急がず、DOE という基準で還元を約束している。ただ、純利益に一過性の益が混じる年があり、筆者は利益の質を厳しめに見ている。
オーナーとして持ち続けたいかと問われれば、手堅い会社だが値段次第だと答える。堅い会社を、堅いなりの値段で買っても、利益は預金に近い。今の値段は、中立の筋書きでもほとんど余白を残さない。
何で稼ぐ会社か
図研は、電子機器の回路と基板を設計するソフトを売る会社だ。主力は、プリント基板の部品配置と配線を行う CR-8000 と、回路図を描く E3.series である。基板設計は、電子機器の性能と価格を決める工程だ。ソフトは売って終わりではなく、毎年の保守契約が積み上がる。これが収益の土台になっている。
売上の約3分の2は日本で、残りは欧州・米国・アジアだ。ソフトの種類は、基板設計、回路設計、ワイヤハーネス(車内の配線束)設計、システム設計と広がっている。米国では Vitech 社を買収し、上流のシステム設計ソフト GENESYS を取り込んだ。
もう1つの柱が、課題解決型のコンサルティングだ。顧客の設計の進め方そのものを見直し、図研のツールで動かす。中心はモデルベース開発(MBSE)で、システムを図で定義してから設計する手法である。売上は伸びたが、利益への貢献はまだ小さい。
中期計画は2028年3月期に売上490億円、営業利益74億円を目指す。PCB 関連で約20億円、ワイヤハーネスで約20億円弱、モデルベース関連で30億円という積み上げだ。製品別の売上や利益の細かい内訳は、開示が粗い。
優良さと弱いところ
堀の中身は、切り替えの手間にある。基板設計ソフトには、部品の登録情報、設計ルール、過去の設計データ、設計者の習熟がすべて載っている。他社のツールに替えれば、数年分の資産を作り直すことになる。この手間が、保守契約を長く続けさせる。
国内首位級という地位も、顧客の現場での信頼になっている。自動車・電機・産業機器の顧客と長く付き合い、要望を製品に反映してきた。
一方で、堀は強いとは言えない。世界では Cadence・Siemens・Altium などの海外勢が先行し、開発費の規模で図研は及ばない。席数で課金する形も、AI が設計を代行するほど揺らぐ。筆者がいちばん気にしているのは、この課金の形だ。
利益率は、2015年3月期の5%弱から、FY3/26の13.6%まで上がった。中期計画の目標は、当初の16%から15.1%へ下げている。為替を円高寄りに直したためで、会社の見積もりは慎重だ。
資本の使い方は規律がある。上場子会社だった図研エルミックを TOB で完全子会社にし、2024年11月には DOE 5%以上の還元を打ち出した。ただし ROE は、売却益を除くと10.6%にとどまる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
基板設計ソフトの需要は、電子機器の開発費に連動する。電気自動車、産業機器、通信、AI サーバーの開発が増えれば、設計の席が増える。調査会社の市場推計は約40億〜54億ドルと幅が広く、年10%超の成長をうたうものもある。ただ推計のばらつきが大きく、筆者は数字をそのまま信じない。
需要の芯は3つある。1つ目は基板の複雑化だ。高速信号と小型化で、設計の手間が増える。2つ目は車の電装化で、ワイヤハーネスとシステム設計が一体になる。3つ目は3DIC、つまり半導体を積み重ねたパッケージの設計で、基板とチップの設計が近づく。図研は IBM などと組んで参入を準備している。
競争相手は、Cadence の Allegro、Siemens の PADS、Altium Designer といった海外勢だ。図研自身も、欧州では中国メーカーの進出で競争が強まるとみている。
最大の変数は AI である。AI が配置配線を担えば、設計者の生産性は上がる。ソフトの価値も上がるはずだが、席数で課金する限り、同じ成果に必要な席は減る。価格の取り方で、この矛盾を解けるかが分かれ目になる。
国内では、旧製品 Board Designer のサポートが2028年3月で終わる。CR-8000 への移行が進み、数年間は売上を押し上げる。ただ、設計者の人口は減るので、国内の席数は大きくは増えない。
資本政策と M&A
資本政策は、株主に戻す方向へ動いている。2024年11月から、株主資本配当率(DOE)5%以上を還元の方針にした。さらに自社株買いを組み合わせる。FY3/26は自社株買い30億円と、普通配当に記念配当を加えた配当を払い、純利益の大半を戻した。FY3/27は普通配当を増やす予定だ。
ただし、FY3/26の純利益にはフォーティネット株の売却益が入っている。この益は繰り返さない。売却益を除くと、ROE は10.6%だった。
手元の純現金は283億円で、時価総額の約4分の1に当たる。還元と成長投資の両方に使える余力がある。
M&A は、2024年に上場子会社の図研エルミックを完全子会社にし、米国の Vitech も取り込んだ。今後は大型の買収よりも、提携やコンソーシアムでの参入が中心になる。
株主では、金子真人ホールディングスが12.8%、金子真人氏が10.0%を持ち、合計で約23%になる。アーチザン・インベストメンツが2025年に保有割合を引き上げた報告もある。目的は確かめられていない。10年以内の TOB・買収の確率は、kabufu の推定で18%だ。
10年の還元は、自己資本配当率5%以上の方針に自社株買いを足した形で、中立は純利益の合計の約95%に置いた。余った現金200億円は配らない前提で別に足している。
点検済み:中立の営業利益率15.5%は、会社の中期計画(15.1%)と28年3月期予想(15.1%)に近く、売上も同計画の延長で描いており、利益率は8年連続で改善している。数字は据え置く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
基板設計の需要は、10年かけて構造的に伸びる。車の電装化、AI サーバー、産業機器の高機能化で、設計の複雑さは増す一方だ。図研は国内首位級で、積み上がる保守契約を持つ。旧製品のサポートが2028年3月で終わり、CR-8000 への移行が数年間続く。中期計画は PCB 関連で約20億円、ワイヤハーネスで約20億円弱、モデルベースで30億円の増収を見込む。
ヴァレオとの提携は、車載向けの AI 設計基盤を共同で作る話で、欧州の自動車メーカーへの足掛かりになる。AI の自動配置配線は、設計者の生産性を上げる。図研はこれを追加販売の材料にできる。
財務は純現金が283億円ある。DOE 5%以上の還元と自社株買いも続けられる。ソフトは売上が増えるほど利益率が上がる。10年で売上が6割、営業利益が8割以上増える筋書きは、中期計画の延長で描ける。国内の席が大きく増えなくても、単価の上昇と海外の席の伸びだけで、この数字には届く。AI は脅威ではなく、図研が持つ設計データと顧客の信頼を生かす場になる。
慎重な見方
席数で課金するソフトは、AI でいちばん揺らぎやすい形だ。配置配線を AI が担えば、同じ成果を出すのに必要な設計者の席が減る。Cadence と Siemens は、解析や製造まで束ねた製品に AI を入れ、顧客を囲い込む。図研は、その後を追う立場にある。欧州では中国メーカーが進出し、会社自身も競争の激化を認めている。
利益の質にも注意が要る。FY3/26の純利益にはフォーティネット株の売却益が入り、これを除くとROEは10.6%だった。中期計画の営業利益率も、当初の16%から15.1%へ下げた。モデルベース開発は売上への貢献が大きい割に、利益への貢献が限られていた。3DIC は最初の2年が投資期間で、実を結ぶ保証はない。
M&A でも、Vitech の上流設計ソフトは取り込んだが、統合の成果は外から見えにくい。10年後も今の収益力が続くとは限らない。堅い会社でも、堅いだけでは値段の余白は生まれない。ソフトの事業は、一度席数が崩れ始めると、固定の開発費が重くのしかかる。国内の設計者が減る流れも、席数の面では逆風だ。
どちらに重みを置いたか
事業の堅さについては、強気の見方が正しい。保守契約の積み上がりと純現金があり、悲観の筋書きでも財務が先に壊れることは考えにくい。一方、AI による席数の目減りと大手との競争については、慎重な見方の論拠のほうが具体的だった。そこで、悲観側の2つの筋書きに合わせて約3分の1の確率を置き、強気の筋書きは大きく伸ばさなかった。中立の筋書きでも、10年後までの年の収益は資本コストに届かない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 8,819 円1,859 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,713 円572 億円)。 今の値に割り戻すと 6,417 円1,353 億円、今との差 +13.2%、 期待の年率 +7.4%(資本コスト 7.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 15,747 円3,319 億円 | 3,691 円778 億円 | +242.8% | +13.1% | 1,944 円410 億円 |
| やや楽観 | 22% | 12,755 円2,688 億円 | 3,250 円685 億円 | +182.3% | +10.9% | 3,521 円742 億円 |
| 中立 | 33% | 10,821 円2,281 億円 | 2,999 円632 億円 | +143.7% | +9.3% | 4,560 円961 億円 |
| やや悲観 | 23% | 3,053 円643 億円 | 2,159 円455 億円 | −8.1% | −0.8% | 1,199 円253 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,372 円289 億円 | 1,191 円251 億円 | −54.8% | −7.6% | 308 円65 億円 |
| 加重平均 | 100% | 8,819 円1,859 億円 | 2,713 円572 億円 | +103.4% | +7.4% | 11,532 円2,430 億円 |
今の株価時価総額 5,670 円1,195 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 10% AI 設計とモデルベース開発が当たり、世界で存在感を増す 利益 130 億円 · PER 24.5 倍 · 株価時価総額 15,747 円3,319 億円
基板設計の世界で、図研がはっきり存在感を増す10年だ。旧製品から CR-8000 への移行が国内外で一巡し、AI による自動配置配線とシステム設計のモデルベース開発が、顧客の開発費の中で大きな席を占める。ヴァレオとの AI 設計基盤の共同開発は、欧州の自動車メーカーに広がる。3DIC・パッケージ設計も2028年ごろから売上に乗る。席数は国内で25%、海外で9割伸び、価格は AI 機能の上乗せで物価を少し上回る。売上は881億円、営業利益は162億円(利益率18%)になる。ソフトの限界利益は高く、売上が増えるほど利益率が上がる。DOE 5%以上の還元と自社株買いが続き、自己資本は膨らまない。国内は今の1.25倍に席が増え、設計者の人手不足は、AI 設計ツールの追加販売に変わる。欧州では中国勢の進出が競争を強めるが、車載の認証基準に沿った設計基盤で図研は先行する。
- 国内事業:数量 2.4(有償ライセンス席数(万席、推定))× 価格 210(1 席あたり年間売上(万円・名目、保守・コンサルを含む))→ 売上 509 億円・営業利益 102 億円。2.4 万席 × 平均 210 万円(今の 1.40 倍)、営業利益率 20%
- 海外事業(欧州・米国・アジア):数量 1.3(有償ライセンス席数(万席、推定))× 価格 280(1 席あたり年間売上(万円・名目、為替は共通前提))→ 売上 372 億円・営業利益 60 億円。1.3 万席 × 平均 280 万円(今の 1.40 倍)、営業利益率 16%
倍率:事業の純利益 127 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 42.4% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 24.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 24.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 24.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)200 億円。全体の PER 24.52 倍、時価総額 3,319 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI 設計・モデルベース開発・3DIC のうち複数が当たり、海外の大手を相手に図研が伸びる必要があるので、実現すれば大きいが確度は高くない。
やや楽観 22% 中期計画の延長で、移行の上積みが続く 利益 106 億円 · PER 24.1 倍 · 株価時価総額 12,755 円2,688 億円
中期経営計画がほぼそのまま延びる筋書きだ。FY3/28の売上490億円、営業利益74億円(利益率15%)を達成し、その後も年5〜6%で伸びる。CR-8000 への切り替えによる単価の上積みと、ワイヤハーネス設計・電力送配電向けの開拓が、国内の伸びを支える。海外はモデルベース開発と米 Vitech 由来の上流設計ソフトが育つ。10年後の売上は782億円、営業利益は132億円(利益率17%)で、国内の営業利益率は18.5%、海外は14.5%まで上がる。AI による配置配線は設計者の生産性を上げ、図研は席数でなく成果に近い課金へ寄せる。欧州で中国勢の価格攻勢はあるが、主戦場の自動車と産業機器では品質と実績が効く。DOE 5%以上と自社株買いは続き、余った現金は還元に回る。
- 国内事業:数量 2.3(有償ライセンス席数(万席、推定))× 価格 206(1 席あたり年間売上(万円・名目、保守・コンサルを含む))→ 売上 466 億円・営業利益 86 億円。2.3 万席 × 平均 205 万円(今の 1.37 倍)、営業利益率 18.5%
- 海外事業(欧州・米国・アジア):数量 1.2(有償ライセンス席数(万席、推定))× 価格 274(1 席あたり年間売上(万円・名目、為替は共通前提))→ 売上 316 億円・営業利益 46 億円。1.2 万席 × 平均 274 万円(今の 1.37 倍)、営業利益率 14.5%
倍率:事業の純利益 103 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 37.8% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 22.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 24.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 24.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)200 億円。全体の PER 24.11 倍、時価総額 2,688 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期計画はこれまでの計画を概ね達成してきた実績の延長で、CR-8000 への移行という手堅い上積みの裏付けがある。
中立 33% 堅い商売は続くが成長は物価に少し上乗せされる程度 利益 90 億円 · PER 23.9 倍 · 株価時価総額 10,821 円2,281 億円
基板設計ソフトの堅さは続くが、成長は物価に少し上積みされる程度に落ち着く。国内の席数は10年で1割増え、価格は物価並みの1.34倍になる。設計者が増えなくても、基板の複雑化とハーネス・システム設計への拡張で席は積み上がる。海外は席数が1.45倍になり、モデルベース開発と欧州・米国の顧客開拓が牽引する。10年後の売上は701億円、営業利益は109億円(利益率15.6%)で、中期計画の15.1%に近い。ソフトは売上が増えても費用が比例して増えにくく、利益率の改善は緩やかだが着実に進む。Cadence・Siemens・Altium などの海外勢と競りながら、図研は国内首位級の地位を保つ。DOE 5%以上と自社株買いは続き、純利益の約95%が株主に戻る。大型の M&A は計画に入れない。
- 国内事業:数量 2.1(有償ライセンス席数(万席、推定))× 価格 201(1 席あたり年間売上(万円・名目、保守・コンサルを含む))→ 売上 429 億円・営業利益 75 億円。2.1 万席 × 平均 201 万円(今の 1.34 倍)、営業利益率 17.5%
- 海外事業(欧州・米国・アジア):数量 1.0(有償ライセンス席数(万席、推定))× 価格 268(1 席あたり年間売上(万円・名目、為替は共通前提))→ 売上 272 億円・営業利益 34 億円。1.0 万席 × 平均 268 万円(今の 1.34 倍)、営業利益率 12.5%
倍率:事業の純利益 87 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 35.4% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 21.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 23.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 23.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)200 億円。全体の PER 23.86 倍、時価総額 2,281 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内首位級の地位と保守契約の積み上がりが続き、成長は物価と少しの実質の伸びにとどまる中心の筋書き。
やや悲観 23% AI による席数の目減りと価格の圧力で、成長が止まる 利益 48 億円 · PER 10.8 倍 · 株価時価総額 3,053 円643 億円
AI による設計の自動化が、席数の増加を鈍らせる筋書きだ。配置配線の多くを AI が担い、同じ成果を出すのに設計者の席が減る。Cadence・Siemens は自社の AI と解析ツールを束ねて顧客を囲い込み、図研の単価は物価に追いつかない。欧州では中国メーカーが安いツールで入り込み、海外の利益率は8%まで下がる。国内も席数は5%減り、価格は物価より下の1.25倍にとどまる。10年後の売上は542億円、営業利益は58億円(利益率10.7%)と、今の利益水準に戻る。CR-8000 への移行で得た上積みは、価格の圧力で削られる。財務は堅く、DOE の方針は維持するが、買収で上流設計ソフトを買い足す余裕は小さい。成長のない堅実な会社という評価に落ち着く。
- 国内事業:数量 1.8(有償ライセンス席数(万席、推定))× 価格 188(1 席あたり年間売上(万円・名目、保守・コンサルを含む))→ 売上 346 億円・営業利益 42 億円。1.8 万席 × 平均 188 万円(今の 1.25 倍)、営業利益率 12%
- 海外事業(欧州・米国・アジア):数量 0.8(有償ライセンス席数(万席、推定))× 価格 244(1 席あたり年間売上(万円・名目、為替は共通前提))→ 売上 196 億円・営業利益 16 億円。0.8 万席 × 平均 244 万円(今の 1.22 倍)、営業利益率 8%
倍率:ROE 11.1%(事業の純利益÷自己資本)。k 7%。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC=k+残る割合 1/2×(ROE−k)=9.4%、長期の成長率 g 4.0% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=15.4 倍。席数の目減りと価格の圧力が重なる筋書きで、堀が一部崩れて利益率も下がるので、 上限の 7.0 割の 10.75 倍に置いた。事業の純利益に正当化PERを当て、余った現金は 0.75 倍の150億円に戻り方1.0を掛けて足した。
確率:AI による席数の目減りと欧州での中国勢の進出は、すでに進行中で、中心の筋書きに次いで起きやすい。慎重な見方の論拠のほうが具体的なので厚く置いた。
悲観 12% 席数課金が崩れ、稼ぐ力が細る構造的な負け 利益 16 億円 · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 1,372 円289 億円
設計の自動化とツールの統合で、基板設計ソフトの席数課金が崩れる構造的な負けだ。AI の自動配置配線が標準機能になり、海外の大手が設計から解析・製造までを一括で提供する。顧客は少数のツールに絞り、図研は国内でも席を3割失い、価格は1.10倍と物価に大きく届かない。海外は米 Vitech の上流設計ソフトに投じた買収の効果が出ず、減損を伴って利益はほぼ消える。10年後の売上は350億円、営業利益は16億円にとどまる。ソフトの開発費は売上に比例して減らせないため、利益率は5%を割る。純現金は残るが、事業は稼ぐ力を失い、評価は事業の価値より手元の現金に近づく。還元は純利益の範囲に絞られ、DOE の方針は実質的に弱まる。
- 国内事業:数量 1.5(有償ライセンス席数(万席、推定))× 価格 165(1 席あたり年間売上(万円・名目、保守・コンサルを含む))→ 売上 240 億円・営業利益 14 億円。1.5 万席 × 平均 165 万円(今の 1.10 倍)、営業利益率 6%
- 海外事業(欧州・米国・アジア):数量 0.5(有償ライセンス席数(万席、推定))× 価格 210(1 席あたり年間売上(万円・名目、為替は共通前提))→ 売上 110 億円・営業利益 2 億円。0.5 万席 × 平均 210 万円(今の 1.05 倍)、営業利益率 2%
倍率:稼ぐ力は事業の純利益16億円を資本コスト7%で割った約190億円に、残る現金を足した値。純現金283億円と同じ水準なので、今の自己資本413億円の0.70倍に置いた。ROE は資本コストを大きく下回り、ためた利益は額面に満たない価値で、帳簿の自己資本は床にならない。
確率:設計の自動化とツールの統合が同時に進み、席数課金が崩れる構造的な負け。ソフトは一度崩れると戻りにくいので、無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内事業
日本国内の基板設計・回路設計・ワイヤハーネス設計・システム設計ソフトの販売と保守、課題解決型のコンサルティング。
| 数量有償ライセンス席数(万席、推定) | 価格1 席あたり年間売上(万円・名目、保守・コンサルを含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.9 | 150 | 291 | 45 |
| 10 年後 中立 | 2.1 | 201 | 429 | 75 |
取り方:地域別の売上は日本316億円・欧州97億円・米国33億円・アジア22億円で、内部取引を除いた連結売上431億円に合わせて日本分を約291億円とした。席数と単価は開示がなく、1席あたり約150万円(保守とコンサルを含む)と推定して約1.9万席に分けた。席数は実質の数量、物価と製品の高度化は単価に入れる。営業利益も開示がなく、国内を約15.5%、海外を約10%とした推定。
海外事業(欧州・米国・アジア)
欧州・米国・アジア向けの同じ設計ソフトと、米 Vitech 由来の上流のシステム設計ソフト(GENESYS)。
| 数量有償ライセンス席数(万席、推定) | 価格1 席あたり年間売上(万円・名目、為替は共通前提) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.7 | 200 | 140 | 14 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 268 | 272 | 34 |
取り方:欧州・米国・アジアの売上を内部取引を除いて約140億円とし、上流設計ソフトを含む平均単価を約200万円と推定して約0.7万席に分けた。席数は実質、物価と製品の高度化は単価に入れる。営業利益は国内より低い約10%と推定した(開示なし)。
リスクと懸念
AI による席数課金の揺らぎ
AI が配置配線を代行すれば、同じ成果に必要な設計者の席が減る。席数で課金する今の形は、設計の自動化が進むほど売上が伸びにくい。課金を成果や使用量へ変えられるかが、10年の利益を左右する。
海外の大手と中国勢との競争
Cadence・Siemens・Altium などは開発費の規模が大きく、AI を標準機能に入れて囲い込める。欧州では中国メーカーの進出も始まり、会社自身も競争の激化を認めている。価格を決める力が削られる恐れがある。
利益の質と一過性の益
FY3/26の純利益にはフォーティネット株の売却益が入っていた。売却益を除くとROEは10.6%にとどまる。これからの純利益の伸びを、この年の水準から数えると、利益を高く見積もりすぎる。
新領域への投資が実らない
3DIC・パッケージ設計は、最初の2年が投資期間で、貢献は2028年ごろだ。モデルベース開発は売上に寄与しても、利益への貢献は限られていた。投資が先行して、利益率の改善が計画より遅れる可能性がある。
為替と海外売上の目減り
海外の売上は全体の約3分の1を占める。中期計画の利益率目標は、円高寄りの為替に直して16%から15.1%へ下がった。円高が進めば、海外の円換算の売上と利益が減る。
電子機器の開発費の縮小
設計ソフトの席は、顧客の開発投資に連動する。自動車や電機の開発費が景気で絞られると、新規の席と更新が先送りされる。保守契約が土台を支えるものの、国内の席数が増えにくい構造は変わらない。
今後の分かれ目
- AI 機能を、席数でなく使用量や成果に応じた課金で売り始めたら
- 席数課金の揺らぎを自ら解いた形で、楽観寄りの筋書きに重みを移してよい。単価の上がり方が最初の確認点になる。
- Cadence や Siemens の AI 機能が、国内の大口顧客で標準採用され始めたら
- 国内の席数と単価の前提を下げる。やや悲観寄りの筋書きに重みを移す。
- 中国メーカーが欧州の自動車向けで、図研の顧客を取り始めたら
- 海外の利益率の前提を下げ、海外の席数の伸びを小さく見直す。
- 中期計画の最終年度の営業利益74億円を、為替前提のずれを除いても下回りそうになったら
- 中立の利益率15%の前提を疑い、やや悲観側に確率を寄せる。
- DOE 5%以上の方針が緩められたり、自社株買いが止まったら
- 還元の前提と自己資本の流れを見直す。余った現金の戻り方を1.0から下げる。
- 3DIC・システム設計で大手顧客から継続の受注が出たら
- 海外の席数と単価の上振れ要因になる。やや楽観寄りの筋書きに重みを移す。
見ておくもの
- FY3/28の売上490億円・営業利益74億円という中期計画の進み具合と、為替前提のずれ
- CR-8000 への移行の進み具合(旧製品 Board Designer の終了が2028年3月)
- AI 自動配置配線の課金方式と、ヴァレオなど大口顧客での採用
- 海外売上の伸びと欧州での中国メーカーの動き
- DOE 5%以上と自社株買いが維持されるか、フォーティネット株など一過性の益の扱い
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価・過去の PER・同業の PER から置かず、事業の ROE と資本コストから式で出した。k は基本 7.5% に寿命 +0.25% を足した 7.75%、g は 4%。堀は普通とみて残る割合 1/2 にし、中立は式の上限の 8 割に置いた。余った現金 200 億円は事業と分け、戻り方 1.0 で足した。悲観は稼ぐ力と純現金から出し、過去の PBR の底は使っていない。10 年後の数字は、賃借の家賃を営業費用に入れる今の形でそろえた。新リース会計基準で BS の形が変わる点は織り込んでいない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 17.2→24.52 倍・やや楽観 PER 15.95→24.11 倍・中立 PER 15.08→23.86 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。