結論
ホシデンはコネクタやスイッチを作る電子部品メーカーだ。ただ売上の78%は任天堂向けで、実態はゲーム機の部品と組立を請け負う会社に近い。
2026年3月期は新型機の立ち上げで、売上が81%増の4,482億円になった。それでも営業利益は192億円、利益率は4.3%にとどまる。部品の仕入れを通す売上が増え、稼ぎの薄い商いが膨らんだためだ。会社は今期、売上4,360億円・営業利益180億円と、山を越える形で見ている。
筆者が見るのは、特需が去ったあとの姿だ。10年先は、次世代機の3年目あたりを中立とする。売上は3,600億円台、営業利益は170億円ほどで、今期の山には戻らないと見る。任天堂の台数が半分になれば、利益は100億円を割る。
支えは財務だ。純現金は559億円あり、時価総額の半分近い(3か月超の定期預金などを足すと約680億円で、時価総額の6割近い)。ただ事業の利益率が低く、資本の稼ぎ(ROE)は資本コストに届きにくい。高い倍率は付けられない。
計算の結果、確率を掛けた本質価値は今の時価総額より1%低く、総合は「適正」だった。現金の厚みが値段を支える一方、請負業の利益に十分な安全域を見込める水準ではない。
バリュー投資の観点から
この会社を10年持ち続けたいかと問われれば、筆者の答えは「条件つき」だ。
良い点は2つある。純現金が時価総額の半分近くあり、事業がつまずいても損失に限りがあること。そして営業黒字を9期続けてきた堅さだ。
悪い点は、稼ぎの源が1社の、1つの商品周期にあることだ。任天堂が次の機種で調達先を変えれば、売上の8割が動く。オーナー利益、つまり再投資を引いて株主の手元に残る利益は、特需の年に膨らんで見える。筆者は、特需の年の利益を平均として扱わない。
安全域は、純現金の厚みにある。時価総額から純現金を引いた事業の値段は620億円ほど(定期預金などを足すと約500億円)で、今期の営業利益の3倍強だ。ただ10年で見ると、事業の利益が半分になるだけで、この安全域は消える。
筆者は、ホシデンを「現金つきの請負業」と見る。現金は確かな価値だが、請負業の利益には高い値を付けない。
何で稼ぐ会社か
事業は3つの束で見るとわかりやすい。
1つ目は任天堂向けのゲーム機部品と組立だ。2026年3月期の売上は3,495億円で、全体の78%を占めた。ゲーム機に載るコネクタ、ジャック、スイッチを作る。ベトナムの工場は2019年から先代機の組立も受けている。売上を台数で割ると、1台あたり約1万5千円になる。部品に加え、組立と取り次ぎの部品を含むとみられ、売上は大きいが利益率は薄い。
2つ目は車載部品で、スイッチ、音響部品、センサーなどだ。電装化と運転支援の広がりで、1台に載る点数が増える。ただ今期の音響部品は、車載の需要減で減収減益だった。
3つ目はスマートフォン向けのコネクタ、FPC(曲がる基板)モジュール、マイクと、健康機器向けなどだ。スマホは台数が頭打ちで、価格競争も強い。
会社の開示は機構部品、音響部品、複合部品・その他の3区分で、製品の種類で分かれている。顧客への依存度が見えないので、ここでは任天堂向け・車載・その他に組み替えて積んだ。区分ごとの利益は会社が出していないため、筆者の推定である。
優良さと弱いところ
優良さは限られる。堀、つまり他社がまねできない強みは、任天堂との長い取引と、ゲーム機の量産を速くこなす工場の力だ。ただそれは顧客あっての強みで、ホシデンが値段を決められる強さではない。
数字にそれが出ている。営業利益率は過去10年、おおむね4〜6%で動いた。ゲーム機の特需で売上が1.8倍になった今期も、4.3%に下がっている。規模が増えても利益率が上がらないのは、値決めの力が弱い事業の特徴だ。
ROEは過去10年の中央値が9.7%で、資本コストの9%とほぼ同じ。価値を大きく生む会社ではない。
良い点は財務の堅さだ。自己資本比率は69.8%、純現金は559億円ある。2017年3月期からは営業黒字が続いている。
最大の弱点は、任天堂への依存が57%から78%へ1年で上がったことだ。任天堂の機種の入れ替わりと、部品や組立の割り振り方ひとつで、売上の8割が動く。経営はアミューズメント向けを除く売上の拡大を計画の柱にしてきたが、規模ではまだ追いついていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
事業環境は3つの市場で決まる。
最大はゲーム機だ。任天堂の新型機は初年度に1,986万台を売り、今期の会社計画は1,650万台とされる。1Qは382万台で前年を34%下回った。台数は初年度が山で、その後は落ち着くのが常だ。
ホシデンの過去の売上も同じ形を描いた。先代機の初年度にあたる2018年3月期に2,994億円へ跳ね、翌年は2,334億円、その次は2,119億円へ戻った。今回の山はそれより5割高い。反動の深さも前回より大きくなりうる。
2つ目は車載だ。電動化と運転支援で、1台に載る電子部品が増える。世界の自動車生産は横ばいに近いが、中身が増える分は伸びる。ただ相手はヒロセ電機、日本航空電子工業、海外の大手コネクタ会社で、価格を決める力は小さい。
3つ目はスマホだ。台数は伸びず、中国の部品メーカーの値下げ攻勢も強い。
為替と関税も効く。今期は為替差益が42億円出た。会社は今期の前提を1ドル155円とし、円高と部品の値上がりを逆風に挙げる。米国の関税を避けるため、中国の拠点を減らし、ベトナムの工場を約20億円で増強している。
資本政策と M&A
資本の使い方は堅実だが、攻めてはいない。
還元は配当性向30%を公約し、加えて2023年4月からの3年間で100億円以上の自社株買いを掲げた。ためた自己株は発行済み株の15.85%に達する。2023年5月には「PBR1倍に向けた取り組み」も開示した。
大型の買収は目立たない。政策保有株は減る方向で、東京海上の持株は2.95%から2.44%へ下がった。日本生命は4.79%を持つ。創業家の古橋家(社長の古橋健士氏を含む)の持株は小さく、経営は特定の大株主に縛られない。
新しい中期計画はまだ出ていない。現計画は2025年度で終わり、次を作っている最中だ。特定の顧客への依存が高まった今、次の計画で車載などをどう伸ばすのかが、資本配分の評価を左右する。
純現金が時価総額の半分近くあり、自己株も多い。買う側から見れば魅力のある形で、買収・TOBの可能性は無視できない。ただ、これは値段の上乗せとして価値には足していない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
任天堂の新型機は始まったばかりだ。初年度に1,986万台を売り、今期も1,650万台の計画がある。先代機は8年売れた。ホシデンの売上は、今期が山とは限らない。高い水準が数年続く可能性がある。
次の10年も、ホシデンが外されにくい理由がある。ベトナムに工場を持ち、先代機から組立をこなしてきた。関税対策で中国から拠点を移す動きも、すでに始めている。立ち上げ期に量を出せる調達先は、任天堂にとって替えにくい。
利益率にも改善の余地がある。1Qは売上が16%減ったのに、営業利益は85%増えた。生産性の改善で、同じ売上でも稼げる体質に変わりつつある。車載は電動化と運転支援で点数が増え、スマホの落ち込みを補う。
財務も厚い。純現金は559億円で、不況でも配当と投資を続けられる。時価総額が事業の利益の3倍強という値段は、特需の後退を織り込み済みだ。次世代機も成功し、ゲーム機が売上の半分を超え続ければ、営業利益は今期の1.5倍に届く。
慎重な見方
今期の利益は、新型機の立ち上げという一度きりの山だ。売上の78%を1社に頼る会社の利益を、そのまま続くものと見てはいけない。先代機の初年度の翌年、売上は2,994億円から2,334億円へ2割減り、次の年も減った。今回の山は5割高く、反動は深くなりうる。
任天堂の今期計画は1,650万台で、1Qは前年比34%減だ。ホシデンも今期は減収を見込んでいる。
利益率の低さは構造的だ。売上が81%増えても営業利益は42%しか増えず、利益率は4.3%に下がった。仕入れ部品を通す売上が増えたからで、売上が増えても儲けは増えない。
先の10年を考えると、任天堂が次の機種で調達先を分けたり、組立を別の会社に寄せたりすれば、ホシデンは代わりのきく請負先になる。車載はヒロセ電機や日本航空電子工業、海外の大手が相手で、価格を決める力がない。スマホは台数が伸びず、中国勢の値下げもある。
ROEは過去10年の中央値で9.7%、資本コストとほぼ同じだ。純現金は価値だが、事業の稼ぐ力は弱い。次のゲーム機の周期が弱ければ、営業利益は100億円を割る。
どちらに重みを置いたか
強気の見方の核は、新型機の周期が長いことと、事業の値段が利益の3倍強と低いことだ。慎重な見方の核は、1社依存の請負業で、特需の年の利益を平常とは見られないことだ。
筆者は、慎重な見方の言い分が少し強いと判断し、確率を中立の悪い側に厚く置いた(やや悲観27%、悲観10%)。ただ純現金が厚く、悪い筋書きでも価値が大きくは崩れない。
その結果、確率を掛けた本質価値は今の値段より1%低く、総合は「適正」になった。値段は妥当な範囲だが、安全域は薄い。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,193 円2,557 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,462 円720 億円)。 今の値に割り戻すと 3,334 円1,642 億円、今との差 +42.8%、 期待の年率 +11.0%(資本コスト 8.3%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 9,831 円4,840 億円 | 2,183 円1,075 億円 | +414.7% | +17.8% | 961 円473 億円 |
| やや楽観 | 20% | 7,844 円3,862 億円 | 1,854 円913 億円 | +315.5% | +15.3% | 1,940 円955 億円 |
| 中立 | 35% | 5,910 円2,910 億円 | 1,592 円784 億円 | +221.4% | +12.4% | 2,626 円1,293 億円 |
| やや悲観 | 27% | 2,463 円1,213 億円 | 1,080 円532 億円 | +51.8% | +4.3% | 957 円471 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,040 円512 億円 | 676 円333 億円 | −26.4% | −3.0% | 172 円85 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,193 円2,557 億円 | 1,462 円720 億円 | +185.1% | +11.0% | 6,655 円3,277 億円 |
今の株価時価総額 2,334 円1,149 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 次世代機も大成功し、請負先として定着 利益 258 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 9,831 円4,840 億円
任天堂の新型機が世代を通して好調で、10年後は次世代機の3年目を迎える。ゲーム機は年2,000万台が出て、ホシデンは先代機から続く組立と主要部品の受け手として定着する。1台あたりの売上も、高機能化で今の2割増になる。
車載は電動化と運転支援の広がりで、搭載点数が増え続ける。スマホ向けは台数が伸びないが、健康機器など別の用途が補う。
売上は5,200億円、営業利益は300億円に達する。規模が増えた分、組立の効率が上がり、ゲーム機の利益率は5%台半ばに乗る。ROEは10%台に戻るが、堀が弱い事業なので、高い倍率が付く世界ではない。
- 任天堂向けゲーム機部品・組立:数量 2,000(部品を納める任天堂ゲーム機の台数(万台))× 価格 17,728(1 台あたりの当社売上(円・名目))→ 売上 3,546 億円・営業利益 195 億円。年2,000万台、単価は今の1.2倍
- 車載部品:数量 3,200(当社の部品を積む自動車の台数(万台、推定))× 価格 2,900(1 台あたりの当社売上(円・名目))→ 売上 928 億円・営業利益 60 億円。搭載3,200万台、点数増で単価1.45倍
- スマホ・健康機器・その他:数量 8.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 92(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 734 億円・営業利益 44 億円。個数が微増、単価1.34倍
倍率:事業の純利益 253 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.6% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 11.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)380 億円。全体の PER 15.49 倍、時価総額 4,294 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新型機も次世代機も大成功し、ホシデンが組立と主要部品を握り続け、車載も伸びる必要がある。条件が重なるので低く置く。
やや楽観 20% 新型機の周期が長く、車載も着実に伸びる 利益 199 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 7,844 円3,862 億円
新型機の周期が先代機並みに長く続き、10年後も次世代機が好調な時期にあたる。ホシデンは次世代機でも主要な調達先に残り、ゲーム機は年1,750万台の水準を保つ。1台あたりの売上も、高機能化の分で今より1割強高い。
車載は着実に伸び、搭載台数も1台あたり売上も増える。電動化の流れで、スイッチやセンサーの点数が増える効果が、値下げ圧力を上回る。スマホは頭打ちだが、大きくは崩れない。
売上は4,400億円、営業利益は230億円ほど。利益率は5%台に上がる。ただ特需の年ほどの山にはならず、ゲーム機の周期の中で、平均より少し良い年にあたる。資本の稼ぎ(ROE)は資本コストの近くまで戻るが、超えるところまでは届かない。
- 任天堂向けゲーム機部品・組立:数量 1,750(部品を納める任天堂ゲーム機の台数(万台))× 価格 16,546(1 台あたりの当社売上(円・名目))→ 売上 2,896 億円・営業利益 145 億円。年1,750万台、単価は今の1.12倍
- 車載部品:数量 2,900(当社の部品を積む自動車の台数(万台、推定))× 価格 2,800(1 台あたりの当社売上(円・名目))→ 売上 812 億円・営業利益 49 億円。搭載2,900万台
- スマホ・健康機器・その他:数量 7.8(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 88(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 683 億円・営業利益 34 億円。個数は微減、単価1.28倍
倍率:事業の純利益 194 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.3% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)380 億円。全体の PER 14.93 倍、時価総額 3,272 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新型機の周期が先代機並みに長く続き、次世代機でも主要な調達先に残る。車載は着実に伸びる。
中立 35% 次世代機の3年目、普通の請負業に戻る 利益 152 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 5,910 円2,910 億円
10年後は、次世代機の3年目にあたる。ゲーム機は年1,500万台の水準で、先代機の平常期に近い。ホシデンは引き続き主要な調達先だが、特別な優遇はなく、1台あたりの売上は今より少し高い程度にとどまる。
車載は搭載点数の増加で伸びるが、価格競争もあり、物価ほどには単価が上がらない。スマホ向けは台数が減り、単価も物価より弱い。会社が今期に見込む、車載の増加とアミューズメントの微減は、この姿の入り口にあたる。
売上は3,600億円台、営業利益は170億円ほどになる。利益率は4%台後半で、今期の山の姿には戻らない。ROEは7%台で、資本コストに届かず、高い倍率は付かない。ホシデンは、配当を出しながら現金をほぼ維持する、普通の請負業に戻っている。
- 任天堂向けゲーム機部品・組立:数量 1,500(部品を納める任天堂ゲーム機の台数(万台))× 価格 15,512(1 台あたりの当社売上(円・名目))→ 売上 2,327 億円・営業利益 107 億円。年1,500万台、単価は今の1.05倍
- 車載部品:数量 2,600(当社の部品を積む自動車の台数(万台、推定))× 価格 2,680(1 台あたりの当社売上(円・名目))→ 売上 697 億円・営業利益 38 億円。搭載2,600万台、単価は物価並み
- スマホ・健康機器・その他:数量 7.5(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 82(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 616 億円・営業利益 28 億円。個数は減り、単価は物価に届かない
倍率:事業の純利益 147 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.3% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)380 億円。全体の PER 13.72 倍、時価総額 2,392 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:次世代機の3年目あたりで、台数は先代機の平常期に近く、調達先の地位も保つ。議論の落としどころとなる中心の筋書き。
やや悲観 27% 調達先を分けられ、周期も弱い 利益 80 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 2,463 円1,213 億円
任天堂が次世代機で調達先を分け、台数も弱い周期になる。ゲーム機は年1,000万台まで細り、1台あたりの売上も今より下がる。ホシデンは、複数ある請負先のひとつにすぎなくなる。
車載とスマホはほぼ横ばいで、ゲーム機の穴は埋まらない。工場の固定費は売上ほどには減らず、利益率は3%台に下がる。
売上は2,500億円台、営業利益は90億円を下回る。配当は続けるが、自社株買いは細る。ROEは4%を割り、事業の稼ぐ力に見合った低い倍率が付く。純現金の一部は、この間に運転資金や設備の更新、減損で目減りする。それでも財務の安全は保たれ、行き詰まる姿ではない。
- 任天堂向けゲーム機部品・組立:数量 1,000(部品を納める任天堂ゲーム機の台数(万台))× 価格 14,034(1 台あたりの当社売上(円・名目))→ 売上 1,403 億円・営業利益 49 億円。年1,000万台、単価は今の0.95倍
- 車載部品:数量 2,400(当社の部品を積む自動車の台数(万台、推定))× 価格 2,600(1 台あたりの当社売上(円・名目))→ 売上 624 億円・営業利益 28 億円。搭載2,400万台
- スマホ・健康機器・その他:数量 6.8(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 75(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 511 億円・営業利益 15 億円。個数が減り、値下げも続く
倍率:ROE4.3%は資本コスト8.25%を大きく下回る。稼ぐ力が落ち、利益の質も悪い筋書きなので、1÷k(11.1倍)の7割に届かない7.5倍とした。余った現金は、谷で食う前提で今の0.75倍を足した。
確率:任天堂が調達先を分け、台数も弱い周期になる。1社依存の会社として、慎重な見方の言い分が強い分、厚めに置く。
悲観 10% 任天堂の柱が細り、請負の旨みが消える 利益 15 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,040 円512 億円
次世代機が不調に終わるか、任天堂が組立と主要部品を他社に寄せ、ホシデンの柱が細る。ゲーム機は年500万台まで落ち、1台あたりの売上も下がる。工場の稼働が落ちて固定費が重く、ゲーム機の事業はほぼ利益を出せない。
車載とスマホも伸びず、全社の営業利益は10億円を切る水準に沈む。余った工場の整理で、特別な費用も出る。
それでも純現金があるため、財務が行き詰まることはない。配当は現金から続け、遊休資産の売却も使う。ただ事業の稼ぐ力は小さく、価値は純現金と売れる資産が支える形になる。優良な部品メーカーという評価は、10年のうちに外れる。
- 任天堂向けゲーム機部品・組立:数量 500(部品を納める任天堂ゲーム機の台数(万台))× 価格 12,557(1 台あたりの当社売上(円・名目))→ 売上 628 億円・営業利益 9 億円。年500万台、単価は今の0.85倍
- 車載部品:数量 2,100(当社の部品を積む自動車の台数(万台、推定))× 価格 2,400(1 台あたりの当社売上(円・名目))→ 売上 504 億円・営業利益 15 億円。搭載2,100万台
- スマホ・健康機器・その他:数量 6.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 68(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 410 億円・営業利益 0 億円。個数が大きく減る
倍率:悲観の利益15億円はROE0.8%で資本コストを下回る。事業の稼ぐ力と余った現金で約270億円だが、純現金と売れる資産の税後(512億円)の方が大きいので、これを床にした。今の自己資本1,502億円に対するPBR0.34倍は、この床の値にすぎない。
確率:次世代機の不調や調達先の大幅な見直しで、売上の柱が細り、請負の優位が失われる。悲観の確率は k の加点と二重にならないよう、同じ領域の他社並みにとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
任天堂向けゲーム機部品・組立
ゲーム機に載るコネクタ・ジャック・スイッチと、ベトナムなどでの本体の組立。売上の約8割を占める最大の事業。
| 数量部品を納める任天堂ゲーム機の台数(万台) | 価格1 台あたりの当社売上(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,366 | 14,773 | 3,495 | 147 |
| 10 年後 中立 | 1,500 | 15,512 | 2,327 | 107 |
取り方:任天堂向け売上3,495億円を、任天堂のゲーム機出荷(新型機1,986万台と先代機380万台)の計2,366万台で割ると、1台あたり約1万4千8百円になる。部品に加え、組立と取り次ぎの部品が入るとみられる。年によって約1万円から1万5千円の幅があり、今は新型機の立ち上げで高めの年。単価は名目。10年の中立は今の1.05倍と、物価の1.34倍を下回る。ゲーム機の世代交代で、部品の値下げと組立の取り次ぎ分の入れ替わりが物価の上昇を打ち消し、今期の立ち上げの年より低い水準に落ち着くとみる。営業利益率は区分ごとの開示がなく、全社の4.3%と他の事業の推定から約4.2%(147億円)と置いた。
車載部品
車載用のスイッチ・音響部品・センサーなど。自動車の電装化と運転支援の広がりで搭載点数が増える。
| 数量当社の部品を積む自動車の台数(万台、推定) | 価格1 台あたりの当社売上(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,200 | 2,000 | 440 | 22 |
| 10 年後 中立 | 2,600 | 2,680 | 697 | 38 |
取り方:車載の売上は開示がない。任天堂向けを除く987億円のうち、車載を約440億円、スマホ・その他を約547億円と、今期の音響部品・機構部品の動きから推定した。世界の自動車生産の約4分の1にあたる2,200万台に部品が載り、1台あたり約2千円とした。利益率は全社の薄さに近い約5%と置いた。単価は名目で、点数の増加と値下げが釣り合う前提。
スマホ・健康機器・その他
スマートフォン向けのコネクタ・FPC モジュール・マイク、健康機器向けの部品など。成熟した需要が中心。
| 数量年間出荷個数(億個、推定) | 価格1 個あたりの平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8.0 | 68 | 547 | 22 |
| 10 年後 中立 | 7.5 | 82 | 616 | 28 |
取り方:スマホ・健康機器・その他の売上約547億円を、年8億個、1個あたり単価68.4と置いた(推定)。スマホの台数が伸びないため、個数は横ばいから減る。単価は名目で、10年の中立は今の1.2倍と物価の1.34倍に届かない。中国勢の値下げ攻勢で、スマホ向けの単価が物価ほど上がらないため。利益率は約4%と置いた。
リスクと懸念
任天堂への依存
売上の78%が任天堂向けで、1年で20ポイント以上上がった。次世代機の調達先や、部品と組立の割り振りが変われば、売上と利益が一度に動く。依存を下げる計画はあるが、規模ではまだ追いついていない。
特需の反動
今期の会社予想は減収減益で、任天堂の新型機の計画も初年度の約8割に下がる。先代機のときも、初年度の翌年に売上が2割減った。今回の山はさらに高いため、台数が落ち着く過程で大きく減りうる。
薄い利益率
売上が81%増えても営業利益は42%しか増えず、利益率は4.3%に下がった。部品の値上がりと円高は、会社自身も逆風に挙げる。売上が減っても、工場の固定費は同じ割合では減らせない。
関税と生産地
米国の関税を避けるため、中国の拠点を減らしてベトナムを増強している。ただ関税の制度や生産地の規制は変わりやすい。移管の費用が先に出て、顧客の都合で量が動けば、効果が出る前に負担だけが残る。
車載とスマホの競争
車載ではヒロセ電機、日本航空電子工業、海外の大手と戦う。スマホは台数が伸びず、中国メーカーの値下げ攻勢もある。ゲーム機以外の柱がまだ小さく、任天堂の穴を埋めるには時間がかかる。
資本配分の読みにくさ
新しい中期計画は未発表で、特需で積み上がった現金や、発行済み株の15.85%に達する自己株の使い道は決まっていない。使い方を誤れば、現金という数少ない強みが削られる。
今後の分かれ目
- 任天堂がSwitch 2の次の機種で、部品・組立の調達先を分けたら
- ホシデンの売上の柱が細り、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 任天堂向けの比率が7割を下回り、車載などの売上が増えて利益率が上がったら
- 事業の質が上がったとみて、中立の利益率と倍率を引き上げる。
- Switch 2の台数が、会社計画の1,650万台を大きく上回って推移したら
- 売上の高止まりが長引くとみて、やや楽観・楽観の確率を上げる。
- 新しい中期計画で、現金の使い道と車載の成長目標が具体的に示されたら
- 資本配分への不安が和らぐので、余った現金の戻り方と利益の見通しを見直す。
- 営業利益率が3%台に沈んだら
- 部品の仕入れを通すだけの商いが膨らんだ証拠で、中立の利益率を下げる。
- 買収やTOBの提案が出たら
- 提案の価格を本質価値と比べる。今の値段が理由で価値を動かすことはしない。
見ておくもの
- 任天堂のSwitch 2の四半期ごとの出荷台数と、通期計画1,650万台の進み具合
- ホシデンの売上に占める任天堂向けの比率と、営業利益率(4.3%)の動き
- 新しい中期計画の発表と、現金・自己株の使い道
- 車載・スマホ向けの売上の伸び
- 純現金559億円の推移と、配当・自社株買いの方針
倍率と資本コストの決め方
10年後の姿は、任天堂ゲーム機の台数×1台あたり売上、車載の搭載台数×1台あたり売上、スマホなどの個数×単価で積んだ。今の株価は見ていない。資本コストは基本7.5%にquality +1.5%を足した9.0%、堀は弱く残る割合は1/3。ROEが資本コストに届かない筋書きが多く、PERは1÷k(11.1倍)を上限に、中立は9割の10倍とした。余った現金380億円(定期預金などを足した現金約680億円から運転資金約300億円を引いた額)は帳簿の値で足した。悲観は稼ぐ力ではなく、純現金と売れる資産の床で置いた。市場の倍率や過去のPBRは根拠にしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.1→15.49 倍・やや楽観 PER 10.5→14.93 倍・中立 PER 10→13.72 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にquality +1.5%を足した9.0%。値決めの弱さ(+0.5)と、任天堂1社・ゲーム機の世代交代に頼る寿命の短さ(+1.0)が理由。営業利益は10年を通じて安定していたので循環は0、純現金なので借金も0。ゲーム機の周期による売上の振れは、k でなく筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.75%。